抄録
1985年の春~夏に岡山県下で捕獲されたシマヘビ18個体,ヤマカガシ12個体について壺形吸虫のメタセルカリアの検索を行った。メタセルカリアは供試したヘビの全例から検出され,また,これらのヘビはすべて,同時にマンソン裂頭条虫の寄生も受けていた。ヘビ1個体あたりのメタセルカリア数はきわめて多く,全例100隻以上であり,数千隻に及ぶ例もしばしばみられた。このようなヘビにおける多数のメタセルカリアの寄生は,ヘビに捕食されたカエルに寄生していたメタセルカリアがヘビに感染したためで,ある種の生物濃縮であると考えられた。メタセルカリアはヘビの様々な組織や器官から検出されたが,とくに肋間筋や漿膜組織に多数が認められた。なお,これらのメタセルカリアには,結合組織からなるシスト様の膜で包まれているものもあった。組織学的観察の結果,壺形吸虫のメタセルカリアは,ヘビに対しての病害性をほとんど示さないように思われた。しかし,同時に寄生が認められたマンソン裂頭条虫のプレロセルコイドは病害性が強く,ヘビの運動能力を低下させると思われるので,これにより,終宿主である食肉目の動物にヘビが捕食される機会が増大することが推察される。したがって,壺形吸虫のメタセルカリアは,マンソン裂頭条虫のプレロセルコイドとともにヘビに寄生することにより,終宿主への感染の機会を増しているといえる。この現象は,壺形吸虫の適応戦略の1つであると考えられる。