Human Sciences
Online ISSN : 2434-4753
Original Article
The relationship between awareness of being supported and meaning making and posttraumatic growth in past stress experience
Takahiro UrasakiYuko Morikawa
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2019 Volume 1 Pages 27-37

Details
Abstract

本研究では,自身のあり方に大きな影響を与えた過去のストレス体験について,その体験に関するサポート認知と,体験への意味づけや外傷後成長及び体験によるストレス反応との関連を検討することを目的とし,大学生に対する質問紙調査を行った。295名中,上記のようなストレス経験があると回答し,欠損値のない158名を分析の対象とした。

サポート認知がストレス反応に与える影響に関する回帰分析の結果からは,両者の関連がごく部分的に支持されるに留まり,サポート認知の程度からストレス反応を予測することは困難であると考えられた。一方で,サポート認知と体験への意味づけ・外傷後成長との間に有意な正の相関関係がみられ,パス解析の結果からは,サポート認知が意味づけを介して外傷後成長に正の影響を与えることが示唆された。今後の課題として,過去のストレス体験の質を統制するなどの工夫を行う他,サポート認知と意味づけ及び外傷後成長との因果関係をより明確にすることが挙げられる。

1. 緒言

(1) 喪失からの回復プロセス

私たちは人生の中で,時に深刻な心理的苦痛を伴うストレスフルな出来事を経験することがある。中でも,非常に大切なものを失う体験は,精神的健康に特に重大な影響をもたらすものであろう。小此木1)は,愛情や依存の対象をその死あるいは生き別れによって失う体験を「対象喪失(object loss)」と定義した。対象喪失は,大切な人を死や別離によって失うことのみならず,個人が生活していくうえで心の拠り所としている,住み慣れた環境や社会的な地位・役割,自己が抱いている誇りや理想,所有物などを何らかの形で失うことをも含んだ概念である。

そうした出来事に遭遇することで,人は誰しも「悲嘆(grief)」をはじめとした様々な情動反応を経験する2)3)。喪失と悲嘆に関する研究は主に「死別(bereavement)」体験を対象に行われ,人は大切な誰かと死別した際に様々な悲嘆のプロセスを経るという段階モデルが多くの研究者や臨床家によって提唱されてきた。これらの段階モデルには,悲嘆プロセスはいくつかの段階を経ながら最終的に受容・回復・立ち直りへと進んでいくこと,段階ごとに解決しなければならない課題が存在することなどの共通点がある2)。しかし,これらの段階説は,提唱者の臨床経験や直接観察を根拠とすることから,科学的な実証が不十分であり,個人の特性や喪失の対象・状況の違いが悲嘆プロセスに与える影響や,悲嘆プロセスにおけるポジティブな側面に対する検討が不十分であることが指摘されている4)5)

そうした従来の段階説への批判から,Neimeyer3)は喪失体験における「意味の再構築(meaning reconstruction)」を提唱し,理論化した。この理論は構成主義の考え方を反映させたものであり,自身の喪失体験をどのように理解し,どのように意味づけるのか,そして自身の人生をどう構築し直していくのかを考えるプロセスを表している6)。この理論によって,悲嘆のプロセスは常に一定ではなく,体験者の特性や体験の質の違いによって異なる様々な反応やプロセスが生じうることが明らかとなり,体験者がそれぞれ独自のプロセスの中で自身の体験を「意味づける」ことの重要性が認識されるようになった。

(2) 意味づけと外傷後成長

「意味づけ(meaning making)」とは,「個人が主観的に極めてストレスフルであると評価した出来事に対して行われる認知的対処7)」「出来事が起きた意味を探求・理解しようとする認知的コーピング及びその過程8)」などと定義されており,ストレスフルな出来事に対し体験者自身が意味を見出すことで,心身の健康が回復することが報告されている9)。さらに,死別やトラウマなどの困難な状況に直面した際には,もとの状態に戻る(recovery)以外に「外傷後成長(Posttraumatic Growth: PTG)」というポジティブな変化がみられることが指摘されている2)

外傷後成長とは,「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがき・闘いの結果生じる,ポジティブな心理的変容の体験10)」と定義される。外傷後成長は,はたから見た事象の大きさによって定義されるものではなく,本人にとって影響力が大きかった事象からもたらされた変容であり11),災害・犯罪被害,交通事故,病気,親しい者との死別12)13),進学等による環境変化14)など幅広いストレス体験で生じうるものとして想定されている。また先行研究の中で外傷後成長は,ストレッサー特性やパーソナリティ特性,ソーシャル・サポート,対処プロセス,心理的苦痛や身体的健康などが関連していると報告がなされている10)13)

(3) 外傷後成長とソーシャル・サポートの関連

外傷後成長は,ソーシャル・サポートと関連があることが指摘されており,ソーシャル・サポートが高いほど,外傷後成長感が高いことが明らかになっている。しかし,ソーシャル・サポートと外傷後成長の関連を検討した研究の多くは,死別体験に焦点をあてたものである12)13)。一方,池内・藤原15)は,死別による悲嘆は他の体験による悲嘆に比べ社会的・文化的に受容されやすく,周囲からのサポートを誘発しやすいため,他のストレスフルな体験に比べて立ち直りに向かいやすいことを指摘している。たしかに死別体験は人が人生の中で経験しうるものの中では特に重大なストレス体験であるが,外傷後成長においては,出来事の具体的な内容だけでなく,出来事が「どのように体験されたか」という主観的な認知の側面も重要であることが指摘されている16)。このことから,体験の質的な要因による周囲からのサポートの受けやすさの違いは,体験によるストレス反応の大きさだけでなく,ストレス体験による意味づけや外傷後成長にも影響を及ぼすことが考えられる。例えば,ストレス体験による主観的な苦痛が強かったとしても,それが周囲からの理解や共感が得られにくいものであった場合,周囲からのサポートが誘発されにくく,また体験者自身も援助要請を行いにくいことが考えられる。あるいは,本来ならば重要なサポート源になり得る家族や友人との人間関係そのものがストレッサーとなっている場合も,サポートを受けることは困難であることが予想される。ソーシャル・サポートと外傷後成長の関連を扱った先行研究の多くは,親密な他者と死別した者や事故の生存者,がん患者やその遺族など,出来事の重大さや支援の必要性が客観的にも認識されやすい人々を対象としたものである。一方で,そうしたソーシャル・サポートを得ることが困難な状況の中で,個人がどのようなストレスフル体験への適応のプロセスを経て,意味づけや外傷後成長に至るのかについて検討した研究は,あまり十分とは言えない。

(4) 本研究の目的

そこで本研究では,体験の種類を限定せずに,「人生や考え方に影響を与えた個人にとって重大だと感じる過去のストレス体験」を対象に,その体験に関する主観的なサポート認知の程度と,その体験によるストレス反応,および体験への意味づけや体験による外傷後成長感との関連を明らかにするために質問紙調査を実施する。仮説は以下の通りである。

仮説1:

ストレス体験に関するサポート認知の程度が低い人は,ストレス体験によるストレス反応の程度が高い。

仮説2:

ストレス体験に関するサポート認知の程度が高い人は,その体験に対する意味づけや,その体験による外傷後成長の度合いが高い。

2. 方法

(1) 対象者

4年制A大学に所属する学生を対象に,質問紙調査を実施した。質問紙に回答した295名のうち,「自身のあり方に影響を与えるような強いストレス体験」の有無を尋ねる質問に対して「ある」と回答した者が173名(58.6%),「なし」と回答した者が122名であった。「ある」と回答した者のうち,欠損値のなかった158名(男性71名,女性86名,性別年齢不明1名)を分析対象とした。平均年齢は19.68歳(SD=1.47)であった。

(2) 調査時期

2014年7月17日から2014年10月29日にかけて実施した。

(3) 手続き

A大学内で実施されている講義の終了後に実施した。最初に質問紙調査の趣旨について説明を行ったうえで質問紙を配布し,回答を求めた。

本研究は過去の重大なストレス体験について扱っているため,調査対象者への配慮として,趣旨に関する事前の説明と参加協力の任意性・撤回の自由について,口頭および文書での説明を徹底した。また,調査の実施・回収に際しては,協力者のプライバシー保護に配慮した。

(4) 質問紙の構成

性別,年齢を尋ねるフェイス項目の他,以下の質問を記載した。

1) 重大なストレス体験の有無

過去に,「自身のあり方に影響を与えるような,強いストレスを感じた体験」を経験したことがあるかを尋ね,「ある」と「ない」の2択で回答を求めた。

2) ストレス体験の概要

1)の質問で「ある」と回答した協力者には,「その体験があった時期」と「どんな体験であったか」について,「ない」と回答した協力者には,協力者がこれまでに経験した強いストレスを感じた体験を思い浮かべてもらい,「その体験があった時期」と「どんな体験であったか」について尋ね,簡単な自由記述での回答を求めた。

3) サポート認知

2)で回答したストレス体験について,当時周囲からどの程度サポートをしてもらっていたと感じているかについて尋ねる設問。両端にそれぞれ「サポートしてくれなかった」「サポートしてくれた」と書かれた横グラフの任意の場所に矢印を記入するよう求めた。

4) ストレス反応

新名・坂田・矢冨・本間17)が作成した「心理的ストレス反応尺度(Psychological Stress Response Scale: PSRS)」46項目を,重大なストレス体験に直面していた時のストレス反応を測定する尺度として用いた。2)で回答したストレス体験によって辛い思いをしていた当時の状態に各項目内容がどの程度当てはまるかを尋ね,4件法(1.全くちがう~4.その通りだ)で回答を求めた。

5) 意味づけ

18)が作成した「ストレスに対する意味の付与尺度」13項目を,重大なストレス体験に対する意味づけの程度を測定する尺度として用いた。2)で回答した体験を振り返って,各項目内容を現在どの程度感じるかを尋ね,4件法(1.まったくあてはまらない~4.とてもよくあてはまる)で回答を求めた。

6) 外傷後成長

Tedeschi & Calhoun19)の「The Posttraumatic Growth Inventory: PTGI」を元にTakuら16)が作成した「日本語版-外傷後成長尺度(Japanese version of the Posttraumatic Growth Inventory: PTGI-J)」21項目を,重大なストレス体験による外傷後成長の程度を測定する尺度として用いた。2)で回答した体験によって各項目内容をどの程度経験したかを尋ね,6件法(1.まったく経験しなかった~6.かなり強く経験した)で回答を求めた。

3. 結果

(1) 各尺度構成について

1) サポート認知

目盛の左端を起点とした矢印までの長さを測定し(ミリメートル),その値をサポート認知得点とした(Max=120, Min=0, M=58.70, SD=40.03)。

2) 心理的ストレス反応尺度(PSRS。以降,ストレス反応と表記)

ストレス反応の46項目に対して,天井効果がみられる18項目を除外したうえで因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,因子負荷量が.40以下であるか,複数の因子に強い因子負荷量を持つ8項目を除外した20項目から4因子を抽出した(表1)。

表1 ストレス反応 因子分析結果(主因子法 プロマックス回転)
質問項目 因子
I II III IV
第I因子:抑うつ・他者回避(α=.869)
40 生きているのがいやだ .883 −.067 −.141 .038
44 無気力で,やる気が出ない .757 −.042 .036 .047
36 他人に会うのがいやで,わずらわしく感じられる .712 −.076 −.100 .142
32 未来に希望が持てない .687 .070 −.087 −.052
35 生気がなく,心の張りが出ない .673 .125 −.053 .058
31 他人に対して優しい気持ちになれない .604 −.101 .275 −.160
29 仕事や勉強が手につかない .461 .266 .137 −.125
第II因子:パニック(α=.854)
26 話や行動にまとまりがない .009 .718 .083 −.045
 6 気持ちが落ち着かず,じっとしていられない −.224 .682 .156 −.020
20 びくびくしている .037 .643 −.321 .098
18 恐怖感を抱く −.002 .642 −.316 .126
37 行動に落ち着きがない .008 .610 .239 .045
14 気が動転している .058 .543 .130 −.010
42 頭の回転が鈍く,考えがまとまらない .352 .538 .064 −.109
41 すぐ,あることが浮かんできて,注意が乱される .288 .445 .086 −.007
第III因子:怒り(α=.753)
 4 怒りを感じる −.152 .004 .789 .193
 1 不機嫌で,怒りっぽい .062 −.008 .689 −.145
10 憤懣が募る .023 .078 .517 .221
第IV因子:無念(α=.759)
19 残念な気持ちだ −.010 .059 .058 .743
21 悔しい思いがする .089 .005 .097 .707
因子間相関 I II III IV
I .621 .279 .249
II .296 .335
III .285
IV

第1因子は,「32.未来に希望が持てない」「40.生きているのがいやだ」といった無気力感を表す項目と「31.他人に対して優しい気持ちになれない」「36.他人に合うのがいやで,わずらわしく感じられる」といった他者に対するネガティブな感情を表す項目から構成されていたため,「抑うつ・他者回避」因子と命名した。

第2因子は,「6.気持ちが落ち着かず,じっとしていられない」「14.気が動転している」「20.びくびくしている」といった項目から構成されていたため,「パニック」因子と命名した。

第3因子は,「1.不機嫌で,怒りっぽい」「4.怒りを感じる」「10.憤懣が募る」といった項目から構成されていたため,「怒り」因子と命名した。

第4因子は,「19.残念な気持ちだ」「21.悔しい思いがする」といった項目から構成されていたため,「無念」因子と命名した。

さらに,抽出された4因子に対して信頼性の検討を行った結果,「抑うつ・他者回避」因子はα=.87となり十分な信頼性が確認されたため,「抑うつ・他者回避」因子に相当する7項目の平均値を算出し,「抑うつ・他者回避」因子得点(M=2.54, SD=0.81)とした。「パニック」因子は,α=.85となり十分な信頼性が確認されたため,「パニック」因子に相当する8項目の平均値を算出し,「パニック」因子得点(M=2.58, SD=0.78)とした。「怒り」因子は,α=.75となり十分な信頼性が確認されたため,「怒り」因子に相当する3項目の平均値を算出し,「怒り」因子得点(M=2.61, SD=0.89)とした。「無念」因子は,α=.76となり十分な信頼性が確認されたため,「無念」因子に相当する2項目の平均値を算出し,「無念」因子得点(M=2.67, SD=1.03)とした。

3) ストレスに対する意味の付与尺度(以降,意味の付与と表記)

意味の付与の13項目に対して,床効果がみられる3項目を除外したうえで因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,因子負荷量が.40以下である1項目を除外した9項目から1因子を抽出した(表2)。

表2 意味の付与 因子分析結果(主因子法 プロマックス回転)
質問項目 因子
I
第I因子:意昧の付与(α=.943)
 3 この経験は,人生や生き方について考えてみなさいというメッセージだと思う .856
10 この経験は,自分にとって大切な物になっている .848
12 この経験には,何か意味するものがあったのではないかと思う .839
 6 この経験には,何か自分へのメッセージがあると思う .833
13 この経験のおかげ,と思うようなことがある .809
 7 この経験から,何か得るものがあったと思う .805
 4 この経験に,何かいい面があったかもしれないと思う .802
 1 この経験は,それもそれでいい機会だなと思ったと感じる .735
 9 この経験は,自分らしさについて考えてみなさいというメッセージだと思う .709

除外された項目はいずれも,先行研究における「出来事を経験した自己に対する評価」因子を構成する項目であったが,体験そのものに対する意味づけについて言及している「ポジティブな側面への焦点づけ」因子および「出来事の持つメッセージ性のキャッチ」因子を構成する項目はすべて抽出されたため,尺度の名称に倣い「意味の付与」因子と命名した。

さらに,抽出された「意味の付与」因子に対して信頼性の検討を行った結果,α=.93となり十分な信頼性が確認されたため,相当する9項目の平均値を算出し,「意味の付与」因子得点(M=2.41, SD=0.96)とした。

4) 日本語版-外傷後成長尺度(J-PTGI。以降,外傷後成長と表記)

外傷後成長の21項目に対して,床効果がみられる5項目を除外したうえで因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,複数の因子に強い因子負荷量を持つ2項目を除外した14項目から2因子を抽出した(表3)。

表3 外傷後成長 因子分析結果(主因子法 プロマックス回転)
質問項目 因子
I II
第I因子:人間関係観の広がり(α=.884)
 6 トラブルの際,人を頼りに出来ることが,よりはっきりと分かった .825 −.121
 8 他の人達との間で,より親密感を強く持つようになった .794 .021
21 他人を必要とすることを,より受け入れるようになった .779 −.058
 9 自分の感情を,表に出しても良いと思えるようになった .668 .150
16 人との関係に,さらなる努力をするようになった .653 .011
15 他者に対して,より思いやりの心が強くなった .630 −.028
13 一日一日を,より大切にできるようになった .539 .273
第II因子:人生観の深まり(α=.898)
 1 人生において,何が重要かについての優先順位を変えた −.240 .900
 3 新たな関心事を持つようになった −.087 .824
 7 自分の人生に,新たな道筋を築いた .181 .656
 4 自らを信頼する気持ちが強まった .161 .655
11 自分の人生で,より良い事ができるようになった .264 .583
 5 精神性(魂)や,神秘的な事柄についての理解が深まった .098 .579
12 物事の結末を,よりうまく受け入れられるようになった .341 .465
因子間相関 I II
I .738
II

第1因子は,「6.トラブルの際,人を頼りにできることが,よりはっきりと分かった」「40.他の人達との間で,より親密感を強く持つようになった」といった項目から構成されていたため,「人間関係観の広がり」因子と命名した。

第2因子は,「1.人生において,何が重要かについての優先順位を変えた」「7.自分の人生に,新たな道筋を見つけた」といった項目から構成されていたため,「人生観の深まり」因子と命名した。

さらに,抽出された2因子に対して信頼性の検討を行った結果,「人間関係観の広がり」因子はα=.88となり十分な信頼性が確認されたため,「人間関係観の広がり」因子に相当する7項目の平均値を算出し,「人間関係観の広がり」因子得点(M=3.25, SD=1.32)とした。「人生観の深まり」因子は,α=.90となり十分な信頼性が確認されたため,「人生観の深まり」因子に相当する7項目の平均値を算出し,「人生観の深まり」因子得点(M=3.05, SD=1.36)とした。

(2) 基本統計量

各変数の基本統計量を表4に示す。

表4 各変数の墓本統計量
N M SD Max Min
サポート認知 158 58.70 40.03 120.00 0.00
抑うつ・他者回避 158 2.54 0.81 4.00 1.00
パニック 158 2.58 0.78 4.00 1.00
怒り 158 2.61 0.89 4.00 1.00
無念 158 2.67 1.03 4.00 1.00
意味の付与 158 2.41 0.96 4.00 1.00
人間関係観の広がり 158 3.25 1.32 6.00 1.00
人生観の深まり 158 3.05 1.36 6.00 1.00

(3) 変数間の相関

1) サポート認知とストレス反応,意味の付与,外傷後成長の関連

サポート認知得点とストレス反応,意味の付与,外傷後成長の各因子得点とのピアソンの相関係数を算出した(表5)。その結果,ストレス反応については,サポート認知と「抑うつ・他者回避」(r=−.19, p<.05)の間に有意な弱い負の相関がみられた。意味の付与については,サポート認知と「意味の付与」(r=.39, p<.001)の間に有意な正の相関がみられた。外傷後成長については,サポート認知と「人間関係観の広がり」(r=.36, p<.001),「人生観の深まり」(r=.23, p<.01)との間にそれぞれ有意な正の相関がみられた。

表5 サポート認知とストレス反応,意味の付与,外傷後成長の相関
抑うつ・他者回避 パニック 怒り 無念 意味の付与 人間関係観の広がり 人生観の深まり
サポート認知 −.19* −.09 −.15 .03 .39*** .36*** .23**

***p<.001,**p<.01,*p<.05

2) ストレス反応と意味の付与,外傷後成長の関連

ストレス反応の各因子得点と意味の付与,外傷後成長の各因子得点とのピアソンの相関係数を算出した(表6)。その結果,意味の付与については,いずれも相関はみられなかった。外傷後成長については,「抑うつ・他者回避」と「人間関係観の広がり」(r=−.27, p<.01)の間に有意な負の相関がみられた。

表6 ストレス反応と意味の付与,外傷後成長の相関
意味の付与 人間関係観の広がり 人生観の深まり
抑うつ・他者回避 −.13 −.27** −.03
パニック −.06 −.11 .06
怒り −.01 −.10 .06
無念 −.01 .15 .12

***p<.001,**p<.01,*p<.05

3) 意味の付与と外傷後成長の関連

意味の付与の因子得点と外傷後成長の各因子得点とのピアソンの相関係数を算出した(表7)。その結果,「意味の付与」と「人間関係観の広がり」(r=.61, p<.001),「人生観の深まり」(r=.73, p<.001)の間に有意な正の相関がみられた。

表7 意味の付与と外傷後成長の相関
人間関係観の広がり 人生観の深まり
意味の付与 .61*** .73***

***p<.001,**p<.01,*p<.05

(4) サポート認知の群間差

サポート認知の高い人と低い人とで,ストレス反応,意味の付与,外傷後成長に違いがあるのかを検討するため,サポート認知得点が平均点より1標準偏差以上の群を「サポート認知高群(以降,高群と表記)」,1標準偏差以下の群を「サポート認知低群(以降,低群と表記)」,それ以外の群を「サポート認知中群(以降,中群と表記)」にそれぞれ分類した。その後,各変数におけるサポート認知の群間差の検討を行うために,サポート認知を独立変数とし,ストレス反応,意味の付与,外傷後成長をそれぞれ従属変数とする一元配置分散分析を行った(表8)。

表8 サポート認知3群とストレス反応,意味の付与,外傷後成長の関連 分散分析結果
サポート認知高群(N=34) サポート認知中群(N=89) サポート認知低群(N=35) F 多重比較
M SD M SD M SD
抑うつ・他者回避 2.32 0.81 2.54 0.80 2.75 0.80 2.48
パニック 2.60 0.73 2.46 0.76 2.84 0.94 3.02† 中群<低群*
怒り 2.52 0.99 2.56 0.81 2.85 0.95 1.59
無念 2.81 1.05 2.59 1.00 2.76 1.09 0.70
意味の付与 2.92 0.88 2.44 0.87 1.84 0.96 12.63*** 高群>中群*,高群>低群***,中群>低群**
人間関係観の広がり 4.03 1.03 3.17 1.29 2.70 1.32 10.27*** 高群>中群**,高群>低群***
人生観の深まり 3.52 1.38 3.05 1.23 2.57 1.55 4.40* 高群>低群*

***p<.001,**p<.01,*p<.05,p<.10

1) サポート認知3群とストレス反応の関連

「パニック」において,サポート認知3群間に有意傾向がみられた(F(2,155)=3.02, p<.10)。多重比較(Tukey法)の結果,「低群」は「中群」に比べて「パニック」因子得点が有意に高いことが示された(p<.05)。

2) サポート認知3群と意味の付与の関連

サポート認知3群間に有意な差がみられた(F(2,155)=12.63, p<.001)。多重比較(Tukey法)の結果,「高群」は「低群」に比べて「意味の付与」因子得点が有意に高く(p<.001),「中群」と比べても有意に高い(p<.05)ことが示された。また,「中群」は「低群」に比べて「意味の付与」因子得点が有意に高いことが示された(p<.01)。

3) サポート認知3群と外傷後成長の関連

「人間関係観の広がり」において,サポート認知3群間に有意な差がみられた(F(2,155)=10.27, p<.001)。多重比較(Tukey法)の結果,「高群」は「中群」に比べて「人間関係観の広がり」因子得点が有意に高く(p<.01),また「低群」に比べても「人間関係観の広がり」因子得点が有意に高い(p<.001)ことが示された。

また,「人生観の深まり」において,サポート認知3群間に有意な差がみられた(F(2,155)=4.40, p<.05)。多重比較(Tukey法)の結果,「高群」は「低群」に比べて「人生観の深まり」因子得点が有意に高いことが示された(p<.05)。

(5) サポート認知が各変数に与える影響

1) サポート認知がストレス反応に与える影響

サポート認知がストレス反応に与える影響について検討するため,サポート認知を独立変数,ストレス反応の各因子を従属変数とする回帰分析を行った(図1)。その結果,「抑うつ・他者回避」に有意な負の影響(β=−.19, p<.05)がみられた(R2=.03, p<.05)。

図1

サポート認知がストレス反応に及ぼす影響

(決定係数R2はすべてp<.05)

2) サポート認知が意味の付与・外傷後成長に与える影響

サポート認知が意味の付与および外傷後成長に与える影響について検討するため,パス解析(最尤法)を行った。分析の結果,適合度指標はχ2(1)=1.28 (n.s.), GFI=.99, AGFI=.96, CFI=.99, RMSEA=.04であり,十分な値が示された(図2)。まず,「サポート認知」から「意味の付与」,「人間関係観の広がり」にそれぞれ正のパスが見られた。さらに,「意味の付与」から「人間関係観の広がり」,「人生観の深まり」にそれぞれ正のパスが見られた。

図2

意味の付与および外傷後成長の影響要因

4. 考察

(1) 各尺度構成について

1) 「心理的ストレス反応尺度(PSRS)」

表記の46項目について,因子分析を行った結果,「抑うつ・他者回避」「パニック」「怒り」「無念」の4因子が抽出された。

新名ら(1990)17)においてこの尺度は,「情動的ストレス反応」と「認知行動的ストレス反応」の2側面からストレスを評価することを目的としており,「情動的ストレス反応」は「抑うつ」「不安」「不機嫌」「怒り」という4下位因子から,「認知行動的ストレス反応」は「自信喪失」「不信」「絶望」「心配」「思考力低下」「非現実的願望」「無気力」「引きこもり」「焦燥」という9下位因子から構成されていた。しかし本研究においては,46項目中18項目で天井効果が確認されたこともあって,「情動的ストレス反応」と「認知的ストレス反応」が合わさって4因子を構成する結果となった。その理由としては,分析対象者の特性による影響が考えられる。本研究は『「自身のあり方に影響を与えるような強いストレス体験」の有無を尋ねた質問で「ある」と回答した協力者』に当時を振り返って回答させたものであるため,そのストレス体験は情動的な反応が避けられないものであり,また彼らの主観的ストレス反応は比較的大きいものであったため,先行研究とは異なった因子構成になったと考えられる。

2) 「ストレスに対する意味の付与尺度」

表記の13項目について,因子分析を行った結果,「意味の付与」の1因子が抽出された。

宅(2005)18)においてこの尺度は,「ポジティブな側面への焦点づけ」「出来事を経験した自己に対する評価」「出来事の持つメッセージ性のキャッチ」の3下位因子から構成されていたが,本研究では「ポジティブな側面への焦点づけ」「出来事の持つメッセージ性のキャッチ」を構成していた項目が集まった1因子解となった。先行研究において「出来事を経験した自己に対する評価」を構成する4項目はすべて除外され,うち3項目は床効果による除外であり,これらは『こういう経験をした自分のことを,自分でもすごいと思っている』『こういう経験をした自分をほめてあげたいと思う』といった項目であった。今回,「出来事を経験した自己に対する評価」因子が抽出されなかった理由は,本研究で扱ったストレス体験が,協力者にとっての重大性は大きいものの,それが周囲からの理解や共感が得られにくい体験であるため,直接的な自己肯定感に結びつきにくかったからではないかと考えられる。

3) 「日本語版-外傷後成長尺度(PTGI-J)」

表記尺度の21項目について因子分析を行った結果,「人間関係観の広がり」「人生観の深まり」の2因子が抽出された。Takuら16)においては,「他者との関係」「新たな可能性」「人間としての強さ」「精神性的(スピリチュアルな)変容および人生に対する感謝」の4下位因子から構成されており,本研究では因子構成に一部変化がみられたことになる。

「人間関係観の広がり」は,『トラブルの際,人を頼りに出来ることが,よりはっきりと分かった』『他の人達との間で,より親密感を強く持つようになった』といった項目から成り,先行研究において「他者との関係」因子に含まれていた項目を中心とした構成になった。先行研究の因子名では,他者との関係が具体的にどうなるかが表現されていないが,項目を見ると,『トラブルの際,人を頼りに出来ることが,よりはっきりと分かった』といった,他者という存在の捉え方が肯定的に変化していることを表す項目と,『人との関係に,さらなる努力をするようになった』といった,実際に他者とのつながりを育もうとする姿勢が積極的に変化していることを表す項目が含まれている。そのため,価値観と行動の両側面で他者との関係性により開放的になることを表す概念として,本研究ではこの因子を「人間関係観の広がり」と命名した。

「人生観の深まり」は,『新たな関心事を持つようになった』『自分の人生に,新たな道筋を築いた』といった,先行研究における「新たな可能性」因子に相当する項目と,『自らを信頼する気持ちが高まった』『物事の結末を,よりうまく受け入れられるようになった』のように「人間としての強さ」因子に相当する項目を中心とした構成となっている。これらの項目は,自分の体験を元にして,今後何を大切にするかという価値観の明確化が生じて自分の生き方に芯が通った感があり,信念を持って自ら積極的に選択し行動し,自分の選択の結果を引き受けるという強さも増したことをうかがわせるものである。そのため項目全体として,自分が見出した新しい価値観に深く根ざしていこうという態度を表していると考えられたため,「人生観の深まり」と命名した。

原尺度に含まれていた「精神性的(スピリチュアルな)変容および人生に対する感謝」という因子が,本研究では抽出されなかったのは,『自分の命の大切さを痛感した。』『一日一日を,より大切にできるようになった。』といった項目が床効果で削除されたことによる。これらの変容は,生死について考えさせられる体験によって生じやすい内容と思われるが,本研究が対象とした大学生にはそうした体験をした人が少なかったものと考えられる。

(2) サポート認知とストレス反応の関連

サポート認知とストレス反応との関連を相関分析で検討した結果,「サポート認知」と「抑うつ・他者回避」の間に有意な弱い負の相関がみられ,『仮説1:ストレス体験に関するサポート認知得点が低い人は,ストレス体験によるストレス反応の各下位因子得点が高い』は,部分的に支持された。この結果は,サポートが少ないほどストレス体験による抑うつ状態が強まるという福岡・橋本20)の知見と合致する。しかし,サポート認知の影響がみられたのが「抑うつ・他者回避」であったことから考えると,この結果は,ソーシャル・サポートの供与によるストレス緩衝効果が得られなかったというだけでなく,周囲の人々がサポートをしてくれなかったと感じることで他者に対する信頼感が低下し,それによって他者回避的な思考や行動が誘発されたことによるものである可能性も考えられる。

そこで,サポート認知が低い群に特にストレス反応が生じ易く,高い群には生じにくいのかどうかを検討するために,サポート認知により高中低群の3群に分類し,群ごとのストレス反応得点を一元配置分散分析で検討した。その結果,「抑うつ・他者回避」因子において有意な群間差はみられず,その他の因子についても「パニック」因子で有意傾向が示されたのみであり,低群が中群よりも得点が有意に高いこと以外の群間差もみられなかった。

また,サポート認知がストレス反応に与える影響を回帰分析で検討したところ,「抑うつ・他者回避」にのみ有意な負の影響がみられたが,決定係数R2は3%と低く,ストレス反応には,サポート認知以外の要因の影響が大きい可能性が示唆された。

以上のことを総合すると,周囲の人々が思うようにサポートをしてくれなかったという経験が,抑うつや他者回避を誘発する可能性はあるものの,被サポート感が低い場合にそうしたストレス反応が出やすく,高い場合には出にくいといった傾向があるといったことは,本研究からは立証できなかった。周囲からのサポートを高く見積もった群には,主観的にも客観的にも大きな急性ストレス体験であったがゆえに,サポートが手厚くなされ,それでもすぐにはショックが回復しなかったような人が含まれているであろう。一方でまたストレス反応は激しくないが持続的かつ潜在化しやすいような心理的危機の場合,周囲からのサポートが得難いことへのしんどさや恨みを抱いた人もいれば,そういうものだと受け止めていた人もいるであろう。今回の結果を踏まえ,今後はストレス体験の質や,他者回避の内実を分析することによって,サポート認知とストレス反応との関係をより詳細に捉えられるものと考えられる。

(3) サポート認知と意味の付与,外傷後成長の関連

サポート認知と意味の付与,外傷後成長の関連を相関分析で検討した結果,いずれの変数との間にも有意な正の相関がみられ,『仮説2:ストレス体験に関するサポート認知の程度が高い人は,その体験に対する意味づけや,その体験による外傷後成長の度合いが高い』は支持された。当事者が周囲からどの程度助けられたと感じているかと,重大なストレス体験に対する意味づけ,及びその体験による外傷後成長との間に何らかの関係があることが示唆された。さらに,サポート認知が意味の付与と外傷後成長に及ぼす影響をパス解析で検討したところ,サポート認知から「意味の付与」「人間関係観」への正のパスに加え,「意味の付与」から「人間関係観の広がり」「人生観の深まり」への正のパスが示された。特に,サポート認知から「意味の付与」,および「意味の付与」から「人間関係間の広がり」「人生観の深まり」へ強い正の影響があることが示唆された。

このことから,以下のような因果モデルが想定できる。すなわち,重大なストレス体験に遭遇したとしても,その体験について周囲からのサポートが得られたと感じることできれば,体験への肯定的な意味づけが促され,最終的にその体験をきっかけとした成長感を得るという,サポート認知が意味の付与を媒介として外傷後成長に至るプロセスである。そして,サポートにより体験への意味づけが促進されるという因果関係については,おそらく様々なプロセスが考えられる。具体的には,周囲からのサポートを十分受けると,その出来事について眺めて考察する心の余裕が生じるため,体験への意味づけがスムーズになされ,体験から得た学びを元に,新しい価値観が構築されていくというプロセスが考えられる。あるいは,苦しい時にもらう親身なサポートそのものが,この出来事があったから体験できたこととして意味あるものに感じられることにより,その後の人間関係観が変容し,自分もそのように他者の力になりたいといった,新たな価値観に結実していくこともあるであろう。今回の調査は回顧法に基づく量的調査であり,上記のような因果関係の考察は推測の域を出ないが,これらの仮説を実証するために,今後はインタビューなどの質的な調査を用いて,ストレス体験の発生から現在に至るまでに行ってきた意味づけをはじめとした認知的対処や,それに影響を与えたソーシャル・サポートなどの要因についてより詳細に分析を行う必要があるだろう。

(4) まとめと今後の課題

本研究の結果,『仮説2:ストレス体験に関するサポート認知の程度が高い人は,その体験に対する意味づけや,その体験による外傷後成長の度合いが高い。』については,仮説はおおむね支持される結果となった。この結果から,体験の意味づけや外傷後成長に関連する変数として,ストレス体験に関するサポート認知が示され,意味づけや外傷後成長の過程に関わる状況要因の存在について新たな知見を得ることができた。しかし,本研究ではサポート認知と意味の付与・外傷後成長との相関関係や,サポート認知―意味の付与および意味の付与―外傷後成長間の正の影響関係が示されたに過ぎず,実際にサポート認知と意味づけや外傷後成長との間にどのような因果関係が存在し,外傷後成長のプロセスの中で具体的にどのような役割を果たしているのかについては明らかとなっていない。この課題については縦断的調査のようにプロセスの時系列的な変化を辿ることができるような調査方法を取り,より詳細に因果関係についての量的分析を行う他,インタビューなどを用いた質的調査の中で,協力者の語りの中から,重大なストレス体験にどのように認知的な対処をしたのか(あるいは現在もしているのか),そしてそれが体験者自身の考え方や態度にどのような影響を及ぼしたのかについて詳細に分析を行う必要があるだろう。

一方で,『仮説1:ストレス体験に関するサポート認知得点が低い人は,ストレス体験によるストレス反応の各下位因子得点が高い』については,ごく部分的に支持されるに留まり,サポート認知の程度によってストレス反応を予測することは困難であることが示唆された。その理由としては,今回,自身に強い影響を与えた出来事についての調査であるため,ストレスの質が多様であり,ストレス反応に影響する要因が様々であったことが関係していると思われる。そのため今後の研究では,ストレス体験の質や,他者回避の内実を分析することによって,サポート認知とストレス反応との関係を明らかにする必要があるだろう。

文献
 
© 2019 Kyushu Sangyo University
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