2019 Volume 1 Pages 8-14
本研究では,対人関係ゲーム・プログラムを小学3年生に実施し,対人関係ゲーム・プログラムの実施が学級集団全体にどのような心理的意味をもたらすのかを質的検討を通して明らかにすることを目的とする。対象者は公立小学校3年生31名(男子15名,女子16名)であり,X年9~10月に計6回からなる対人関係ゲーム・プログラムを実施した。結果として,対人関係ゲーム・プログラムの実施を通して,クラスメート同士及び学級全体での関わりの増加が見られた。また,対人関係ゲーム・プログラムの実施は,学級の雰囲気の良さを促進し,学級のまとまりにも効果的だった。今後は,学級集団だけなく個別の児童(引っ込み思案・攻撃性の高い児童等)の体験から見た対人関係ゲーム・プログラムの効果に関する質的な検証も課題として挙げられる。
教育現場では不登校やいじめ等の学校不適応が社会問題となっている。それを受け,学校臨床において,児童生徒への予防啓発的アプローチとしての心理教育の重要性は近年ますます高まってきている。心理教育とは,市橋1)の定義によると,「個人の精神・心理状態についての心理学的知識の獲得,精神,心理的または対人関係上の問題解決スキルの獲得を通して,現在および将来における問題の解決に役立つことを『目的』として,学級内すべての児童生徒,および彼らを取り巻く重要な他者を『対象』とする,実証的心理学を『原理』においた,個別ではなく集団,または環境調整的な『アプローチ』を中心とした,主として教育実践者を施行者とする教育活動」である。
教育領域で実践されている心理教育的アプローチは数多く存在するが,比較的新しく児童生徒の対人関係の問題に効果的に作用することが期待できるアプローチの一つに対人関係ゲーム・プログラム(Social Interaction Games;以下SIGsと略す)がある。SIGsは,田上2)によって提唱されたもので,構成的グループ・エンカウンターを基礎とし,学級になじめない子に焦点を当てたプログラムであり,不適応を起こしている子どもが,対人行動を含んだ「遊び」によって,学級になじんでいくための援助技法として開発された3)。SIGsは集団になじみにくい子どもと同時に,受け入れる学級集団の成長も援助することができる4)。同じ学級の人であってもあまり話をすることがなく,心理的接触が希薄なこともあると思われる。そこでSIGsは,人と交流し楽しむ経験を繰り返すことで,自分は人に受け入れられるし人を上手に受け入れることができるという自信を高める目的で使われる5)。また田上2)は,SIGsにおいて学級づくりの目標となる集団を「群れ」とし,群れの特徴として,①リーダーの下で目標を達成する,②リーダーが次々に出てくる,③リーダーを支えるメンバーがいる,④全てのメンバーが必要とされる,⑤達成をともに経験している,⑥集団との一体感(居場所を実感する)がある,⑦仲間であることをともに喜んでいる,以上の7点を挙げている。松崎6)は,学級集団での所属感のある関係性が創出される経験の中で,集団凝集性が高められるとしている。群れの形成が,学級集団の成長に大きく作用するものと考えられる。
SIGsの効果は,先行研究において徐々に確認されてきているが,まだまだ少ない。山下・窪田7)は,SIGsの量的分析を行い,一定の効果を実証したものの,課題として,SIGsの質的な効果の検証を挙げていた。そこで本研究では,SIGsの実施が学級集団全体にどのような心理的意味をもたらすのかを質的検討を通して明らかにすることを目的とする。
公立A小学校の3年生31名(男子15名,女子16名)
(2) 介入群の選定校内巡回や授業観察を通して学級の状況や子どものアセスメントを実施した。その上で,学校側の要請や担任教諭のニーズ等も併せて汲み取り,対象クラスを抽出した。対象学級は,落ち着きがない児童が多く,学級集団としてのまとまりがなかった。またソーシャルスキルが未熟な児童が多く,そのことから対人関係のトラブルが頻繁に生じていた。このようなことから,対象学級においてSIGsの実施が効果的に作用するものと考えられた。
(3) 実施時期・回数X年9~10月に計6回実施した。
(4) 実施方法ゲームの指導は筆者が行った。担任教諭は毎回筆者と次回の打ち合わせを実施し,ゲームの構成を考えた他,ゲーム内では児童と同様に一メンバーとしてゲームに参加し,トラブルがあった場合はその対応を行った。1単位時間は45分で,学級活動の時間をあて,導入(5分)→ゲーム(30分)→振り返り(10分)とした。
また,担任教諭との事前協議を通して,プログラムの中での約束事として,「授業中なので静かにしよう」,「人の傷付くことは言わない」,「人の話は最後まで聴こう」,「挨拶をしよう」の4点を挙げ,毎回の導入部分において提示し,丁寧に確認した。
ゲームのルールの説明では,モデル演技を実施し,その際支援の必要な子をモデルにすること,ルールを視覚的に提示する等の工夫をした。
ゲームは,本研究において規定するSIGsの特徴を満たしたものを田上・今田・岸田8)の中から抽出した。実際に実施されたゲームの概要を表1に示す。なお,第6回に実施した「ルパンと仲間たち」は筆者考案のゲームである。ルールは,「全体を2チームに分け,さらに各チームのメンバーを『ルパン』の役割と『仲間たち』の役割の2つに分ける。『ルパン』は宝を盗みにいく役割,『仲間たち』は宝が奪われないように相手チームをつかまえる役割がある。各チームには陣地がある。制限時間内に相手チームの全員を捕まえるか,ルパンが陣地に置いてある宝を奪って自チームの陣地にタッチすることで勝敗が決まる。仲間たちが相手チームの児童をタッチしたら,タッチされた時のポーズで凍りついて動けなくなる。ルパンや仲間たちといった役割に関係なく,全員が自チームの凍らされている仲間をお助けカードで助けることができる(凍り鬼と同様のルール)。開始前に作戦タイムを設ける。ゲームが終わったら,助けてくれた人に,感謝の気持ちを伝え,お助けカードを返す。」というものである。
# | ゲーム名 | ねらい |
---|---|---|
1 | ○全身ジャンケン ○後出しジャンケン ◎ひたすらジャンケン |
関係をつけるゲーム。(1)SIGsに慣れること,(2)ジャンケンを通して不安・緊張を軽減し,多くの者と段階的に関わりを深め,仲間作りの契機とすることを狙いとした。 |
2 | ○ジャンケン列車 ◎進化ゲーム |
関係をつけるゲーム。(1)運動量の多いゲームによって心理的緊張をほぐすこと,(2)楽しさを共有する体験を重ね,その中で自分は人に受け入れられるし,人を上手に受け入れることができるという自信を高めることを狙いとした。 |
3 | ○サケとサメ ◎凍り鬼 |
集団活動の楽しさを実感するゲーム。(1)集団としての一体感を体験すること,(2)助け,助けられるという協力関係によって,自分が人の役に立ったり,優しくしてもらったりする体験をすることを狙いとした。 |
4 | ○ひたすらジャンケン ◎勇者と仲間たち |
集団活動の楽しさを実感するゲーム。(1)集団としての一体感を体験すること,(2)勝つことよりも人と楽しむおもしろさを経験することを狙いとした。 |
5 | ◎とっつぁんとルパン | 集団の構造・役割分担を実施するゲーム。(1)集団の構造・役割分担を体験し,群れを体験すること,(2)目的を共有し,目的の達成のために,仲間と力を合わせること,(3)仲間と同じ目的に向かって一丸となって挑むことで,協力する楽しさ,一緒に走り回る楽しさを体験することを狙いとした。 |
6 | ○凍り鬼 ◎ルパンと仲間たち (筆者考案) |
集団の構造・役割分担を実施するゲーム。(1)集団の構造・役割分担を体験し,群れを体験すること,(2)チーム全体のことを考えながら,自分の役割を果たすようになること,(3)助け助けられ合いながら,協力して目標を達成する体験をすることを狙いとした。 |
ゲームごとに振り返り用紙(自由記述)による自己評価を実施した。
2) 担任教諭への半構造化面接SIGs終了1ヶ月後に担任教諭への半構造化面接を行った。質問項目は,「SIGsを実施しての児童全体の反応」,「SIGs実施前後のクラスのまとまり」,「SIGs実施前後の授業中の様子」,「担任教諭との関わりの変化」,「その他感想」により構成されていた。
各ゲームについての児童の感想を把握するために,振り返り用紙において「このあそびをとおして,きづいたこと,かんじたことをかきましょう」と教示し,自由記述形式で回答を求めた。これらの回答は,KJ法9)を援用して,臨床心理士の資格を持つ教員1名,筆者を含めた臨床心理学を専攻する大学院生6名の協力のもと分類を行った。分類対象者は,SIGsの各回の参加者とした。
1) 各回の振り返りの自由記述のカテゴリー分類第1回は,分類対象者31名から44件の回答が得られた。それらの回答を20個の小カテゴリー,さらに「ゲームに対する感想・気づき」,「関わりの少ない人との関わり」,「仲が良くない人との関わり」,「仲が良い人との関わり」,「クラス全体での関わり」,「実施者との関わり」,「今後の展望」の7個の中カテゴリーが抽出された。
第2回は,無記入及び欠席者の2名を除いた分類対象者29名から43件の回答が得られた。それらの回答を18個の小カテゴリー,さらに「ゲームに対する感想・気づき」,「関わりの少ない人との関わり」,「仲が良い人との関わり」,「クラス全体での関わり」,「実施者との関わり」,「今後の展望」の6個の中カテゴリーが抽出された。
第3回は,無記入及び欠席者の2名を除いた分類対象者29名から42件の回答が得られた。それらの回答を25個の小カテゴリー,さらに「ゲームに対する感想・気づき」,「仲が良い人との関わり」,「クラス全体での関わり」,「担任教諭との関わり」,「実施者との関わり」,「今後の展望」の6個の中カテゴリーが抽出された。
第4回は,欠席者の1名を除いた分類対象者30名から46件の回答が得られた。それらの回答を24個の小カテゴリー,さらに「ゲームに対する感想・気づき」,「仲が良い人との関わり」,「クラス全体での関わり」,「担任教諭との関わり」,「実施者との関わり」,「今後の展望」の6個の中カテゴリーが抽出された。
第5回は,欠席者1名を除いた分類対象者30名から60件の回答が得られた。それらの回答を23個の小カテゴリー,さらに「ゲームに対する感想・気づき」,「仲が良くない人との関わり」,「仲が良い人との関わり」,「クラス全体での関わり」,「担任教諭との関わり」,「実施者との関わり」,「今後の展望」の7個の中カテゴリーが抽出された。
第6回は,分類対象者31名から68件の回答が得られた。それらの回答を26個の小カテゴリー,さらに「ゲームに対する感想・気づき」,「仲が良くない人との関わり」,「仲が良い人との関わり」,「クラス全体での関わり」,「担任教諭との関わり」,「実施者との関わり」,「今後の展望」,「振り返り」の8個の中カテゴリーが抽出された。
また,振り返りの自由記述からみる各回の感想内容の推移は,表2の通りであった。
#1 | #2 | #3 | #4 | #5 | #6 | |
---|---|---|---|---|---|---|
ゲームに対する感想・気づき | 14 | 17 | 15 | 23 | 26 | 19 |
関わりの少ない人との関わり | 5 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
仲が良くない人との関わり | 3 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 |
仲が良い人との関わり | 2 | 6 | 7 | 2 | 5 | 5 |
クラス全体での関わり | 13 | 10 | 14 | 10 | 11 | 13 |
担任教諭との関わり | 0 | 0 | 1 | 1 | 3 | 3 |
実施者との関わり | 4 | 3 | 1 | 4 | 4 | 12 |
今後の展望 | 3 | 5 | 4 | 6 | 7 | 8 |
振り返り | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 |
全ての発言内容から学級全体に関わるものを抽出し,「SIGs実施前の学級集団の状態」,「SIGs実施後の学級集団の変化」,「学級集団に影響を及ぼしたSIGsの要因」に分類した後,それぞれをKJ法に準じて分析した。
その結果,SIGs実施前の学級集団の状態では7個のカテゴリー,SIGs実施後の学級集団の変化では12個のカテゴリー,学級集団に影響を及ぼしたSIGsの要因では5個のカテゴリーがそれぞれ抽出された(表3)。
○SIGs実施前の学級集団の状態 |
学級のまとまりのなさ(3) |
(例) ・子ども同士のまとまりがなくて, |
・クラス全体がまとまってるわけじゃなくて |
教師の押さえつけでのまとまり(2) |
(例) ・恐怖であいつらをまとめる |
小グループの存在(1) |
(例) ・仲良いグループっていうのはある |
自分本位(1) |
(例) ・それぞれ好き勝手 |
授業中に見られるスキルの未発達(2) |
(例) ・授業中「うるさい」とか言う時に,前は何人かが「静かにして」って単発で終わる |
集中力のなさ(3) |
(例) ・手のかかる子っていうのは,ぼーっとしとったり |
担任教諭の授業における対人関係育成の軽視(1) |
(例) ・今までそうやって友達を意識して遊ぶということを自分がさせてなかった |
○SIGs実施後の学級集団の変化 |
友人同士の繋がり(2) |
(例) ・友達同士の繋がりっていうのをこの子たちは感じ取れてるな |
・そういう繋がりっていうか連携っていうか,そういうのが見える |
仲が良くない人との繋がり(2) |
(例) ・普段遊んでない子とかの,なんか,繋がりができとるな |
・今まで遊んだことない友達とも遊べるようになった |
友人との触れ合いの促進(1) |
(例) ・自然と友だち同士と触れ合うっていうのに抵抗がなく,スムーズにやれた |
友人との触れ合いの楽しさへの気づき(1) |
(例) ・「友達と触れ合って楽しかった」みたいな感想が多くて,そういうのも感じ取るんやな |
クラス全体での関わりの増加(4) |
(例) ・遊び係が中心になって,遊ぶ回数も増えた |
・クラス全体で遊ぶことが増えました |
学級の雰囲気の良さの促進(1) |
(例) ・クラスの雰囲気も良くなった |
学級のまとまり(3) |
(例) ・子どもたちの中で自分たちの中のコミュニティっていうか,まとまりが出来始めた |
対人関係スキルの成長(2) |
(例) ・子どもたちの中で一つ人間関係のスキル,自分の中での力が育った |
・(クラスメートに)声掛けれるようになった |
偏見の消失(2) |
(例) ・偏見が自分の中でとけていくっていうか,なくなっていくのかなって思います。 |
授業中に見られるスキルの獲得(2) |
(例) ・大きい声を出さなくても誰かが「あ,やばい」って空気を出したら,周りがそれに気づいて静かになるみたいな |
授業での様子の変わらなさ(1) |
(例) ・(授業中の様子は)あんまりこれといった変化があったとは,ですね。 |
担任教諭との関わりの変わらなさ(1) |
(例) ・甘えてくる子はずっと甘えてくる,見向きもせん奴はすーっと遊びに行く |
○学級集団に影響を及ぼしたSIGsの要因 |
SIGsの導入(2) |
(例) ・あれをやって |
ゲームの導入(2) |
(例) ・授業自体がまずゲームを取り入れた |
情動反応(1) |
(例) ・ものすごい子どもたちが楽しくやれて, |
動機付けの高まり(1) |
(例) ・「次の時間も楽しくやりたい」,「楽しみ」っていうのがまず一番にあった |
日常生活での実施(1) |
(例) ・先生(筆者)の授業でした遊びをアレンジしながら遊んだり |
これをもとに本研究におけるSIGsが学級集団に及ぼす効果の仮説モデルを作成したものが図1である。
本研究におけるSIGsが学級集団に及ぼす効果の仮説モデル
SIGsが進行するにつれて,各ゲームの狙いである要素が出現していた。例えば,第3回では,「助けたり助けられたりすることの心地よさを感じる。」ことを狙いの一つにしているが,この回から助ける体験,助けられる体験に関する記述が出現している。また,第5回や第6回では「目的を共有し,目的の達成のために,仲間と力を合わせることができる。」を狙いの一つにしているが,他者と協力する体験に関する記述が出現している。したがって,本プログラムの狙いが達成されていたと推測される。
また全体に目を移すと,振り返り記述の対象となっている相手は,初めのうちは「普段関わりの少ない人との関わりの楽しさ/きつさ」,「仲が良くない人との関わりの楽しさ」も見られたが,SIGsの進行とともに,それらが少なくなった。加えて,友人などの「仲が良い人」や「クラス全体」に対象が移っている児童もいた。山下・窪田7)は,SIGsにより引っ込み思案行動が低減したことを明らかにしている。SIGsを通して,不安や緊張の少ない中で学級の多くの人と関わり,彼らと関わることの楽しさを共有する体験を重ね,その中で自分は人に受け入れられるし,人を上手に受け入れることができるという自信を高められたと考えられる。
加えて,実施者の影響について見てみると,実施者である「筆者との関わりの楽しさ/感謝」等は多く,担任教諭への記述は少ない。今回は学校側の都合上,筆者がメインの実施者を担っていたが,実施者を担任教諭とするなどについて検討する必要性があると考えられる。
(2) 担任教諭の半構造化面接からみるSIGsの特徴及び効果担任教諭の半構造化面接では,SIGs実施前は学級のまとまりのなさが挙げられていたが,SIGs実施後の学級集団の変化として,「友人同士の繋がり」や「仲が良くない人との繋がり」,「クラス全体での関わりの増加」,「学級のまとまり」が挙げられていた。これは,振り返り用紙の分析を補完する結果となっている。加えて,担任教諭への半構造化面接において,SIGs実施後の変化として,「学級の雰囲気の良さの促進」や「対人関係スキルの成長」が挙げられていた。SIGsを通して,不安や緊張の少ない安心した中で,他者と関わることの楽しさを共有し,クラス全体での関わりも増え,そのことによって様々な人間関係が形成され,学級全体がまとまり,自分の学級の雰囲気や学級の友達の様子を肯定的に捉えることに繋がった可能性が考えられる。小松・飛田10)は,学級が助け合ったり,励まし合ったりするような雰囲気だと,より強く感じるようになれば,集団参加に関わる基本的なスキルが発現されやすくなるほか,友だちと積極的に関わっていこうとするスキルが発現されやすくなると述べている。SIGsの中でも,特に「集団の構造・役割分担を体験するゲーム」は,目的を共有し,目的の達成のために,仲間と力を合わせることができるようになることを狙いの一つとしている。このような体験を行うことによって,児童が学級内の援助的雰囲気を認識し,そのことにより,対人関係スキルが発現されやすくなった可能性が考えられる。
瀧・柴山11)は,心理教育を効果的に実施するには,児童の動機づけを高めることが前提になると述べている。本研究でも,担任教諭の半構造化面接の中で,SIGsの遊びの魅力から児童が何より楽しくやれたこと,それによる本プログラムへの児童の動機付けの高まり,さらにはクラス全体での関わりの増加が明らかになった。SIGsは子どもの生活の中心と言ってもいい「遊び」で構成され,遊びには様々なソーシャルスキルが含まれているものであり,遊びは楽しいという情動反応と共に,本プログラムを通して様々な人と関わることの楽しさが体験された。したがって,SIGsの遊びの魅力が児童のプログラムへの参加の動機づけを高めるだけでなく,SIGsで得たものは,子どもの生活の中心である遊びを通して繰り返し反復され,般化に繋がる可能性も考えられる。
さらに,松崎6)は,学級集団での所属感のある関係性が創出される経験の中で,集団凝集性が高められるとしている。本研究において,対象学級が,SIGsにおける学級づくりの目標となる集団である「群れ」として機能していた可能性も考えられる。しかし,本研究においては,SIGsの実施により学級集団が田上2)が挙げていた群れの特徴(①リーダーの下で目標を達成する,②リーダーが次々に出てくる,③リーダーを支えるメンバーがいる,④全てのメンバーが必要とされる,⑤達成をともに経験している,⑥集団との一体感(居場所を実感する)がある,⑦仲間であることをともに喜んでいる)を満たしているかについては分析できていない。そのため,SIGsにより群れが形成されているのかについては,今後明らかにしていく必要性があると考える。
また,担任教諭の半構造化面接において,「担任教諭への関わりの変わらなさ」が挙げられており,児童と担任教諭との関係への影響は少なかったと考えられる。今後実施者を誰にするのかなどについて検討する必要性があると考えられる。
(3) まとめと今後の課題SIGsの実施を通して,クラスメート同士及び学級全体での関わりの増加が見られ,それにより学級の雰囲気のよさの促進や学級のまとまりに繋がっていると考えられる。しかし,児童と担任教諭との関係への影響は少なかったと考えられる。そのため,プログラム実施者の影響について検討し,誰がプログラムを実施することがより効果的なプログラムとなる可能性があるのかについて明らかにしていくことが求められる。
しかし,本研究で作成した仮説モデルはあくまで一事例のみのものであり,今後さらなる検証が求められる。加えて,学級集団だけなく個別の児童(引っ込み思案・攻撃性の高い児童等)の体験から見たSIGsの効果に関する質的な検証も求められる。