2021 Volume 3 Pages 1-11
メンタルヘルス面で不安を抱えながらハローワークを訪れる人の中には,福祉的就労サービスの利用になじまない求職者が存在する。キャリアカウンセラーはこうした求職者の心情に配意しながら,求職者が納得のいく就職活動を行えるようにし,実際に何らかの就労につながるような支援をしていく必要がある。就労をリカバリーの機会と捉えるIndividual Placement and Support(IPS)の基本的な考え方に基づき,求職者本人の体験過程を尊重するキャリアカウンセリングを行うことは,こうした人たちの就職支援に有用であると考えられる。本稿では,上記アプローチを土台にする支援の方法について,求職者がハローワークの一般就労窓口に来談してから応募に至るまでの時期の支援を中心に,仮想事例エピソードを交えながら提案する。
Job-seekers who visit public employment security offices, while harbouring anxieties about their mental health problems, are often reluctant to use welfare-type employment services. While considering the feelings of these individuals, career counsellors must provide support that enables them to look for work in ways that are suitable, and which successfully leads to some form of employment. The underlying concepts of Individual Placement and Support (IPS), which is an employment program that see employment as an opportunity for recovery, and the use of a Focusing-oriented therapy approach to connect to employment, appears to be useful in supporting the employment of these individuals. This paper examines and proposes methods of support based on this approach, while also presenting hypothetical case examples, which focus on assistance provided from the time job-seekers visit the public employment security office’s general employment desk, to the time they submit job applications.
厚生労働省の患者調査によると,精神疾患により医療機関にかかっている患者数は,平成26年が392万人,平成29年では400万人を超え人口の3.3%を占めると推定されるなど,近年大幅に増加している。疾患別にみると平成29年度では,うつ病など(前回調査より16.0万人増),不安障害など(前回調査より0.9万人増),統合失調症など(前回調査より1.9万人増)の順に多い1)。
これら精神疾患を抱える人には,比較的長期にわたるケアを受けながら日常生活を送る人が多いと考えられる。統合失調症については,その過半数が寛解もしくは回復の方向に向かうことが示され2),薬物治療や地域ケアが進んだ現代においては,統合失調症患者の再発・破綻が減少し,地域の中で比較的安定して過ごす人たちが増えてきている3)。うつ病についても軽症化が見られる一方で4)5),慢性化するケースが少なくなく6),3分の1は難治性であると考えられ7),長期予後では20%が就労困難(なかなか社会復帰ができていない)とされる8)。さらに,不安障害は慢性的な経過をたどりやすいことが知られている9)。これらの疾患群に,近年増加が示唆されている発達障害を含めると,メンタル面の不安のために,就職をと考えた際に何らかのサポートが必要となる人は,増えてきているものと考えられる。
一方,メンタル不調者の中で働く意欲のある人は多いことも知られている。精神科医療機関や精神障害者社会復帰施設に通う統合失調症者からのアンケート調査10)では,働きたいもしくは働き続けたいと「強く思う」との回答が41%,「ややそう思う」人も含めると72%の人に就労意欲が確認されている。統合失調症・感情障害・発達障害者などが通う精神科デイケアの利用者に対する調査でも,最もニーズが高い支援は就労支援であることが示されている11)。
メンタル不調者の増加及び,その就労意欲に応えるものとして,厚生労働省管轄の福祉サービス関連事業がある。例えば障害者総合支援法に基づく就労系障害福祉サービスとして,就労移行支援事業,就労継続支援事業(就労継続支援A型・B型)がある。また,障害者雇用促進法に基づき,一般就労へのステップとして障害者短時間トライアル雇用などの各種制度が設けられており,その対象者枠は順次拡大されつつある。さらに,2018年の障害者雇用促進法の改正により,精神障害者が企業の雇用義務の対象者とされ,いわゆる障害者枠での雇用に弾みがつくこととなった。これに伴い,厚生労働省は2016年より「医療機関とハローワークの連携による精神障害者の就労支援」も開始,精神障害者の雇用の推進をはかっている。
その結果,ハローワークに対する精神障害者の新規求職申込件数は年々増加傾向にあり,令和元年度は10万7495件(前年比6.1%増)であった。障害別にみると,令和元年度の精神障害者の新規求職申込件数は2位の身体障害者の6万2024件を大きく引き離し,障害全体の48.2%を占めている12)。
しかしそれらは,自らを障害者として位置づけて就職活動をする人のことであり,そういった人が使える福祉サービスのことである。精神障害や発達障害の診断を有し治療も受けているが障害を自認することに抵抗感がある人,障害がありながら医療機関を利用していない人,ひきこもりが長かった人,不安障害・適応障害・発達障害などの人やそれらのグレーゾーンの人などが,様々な不安を抱きながら,ハローワークの一般就労窓口を訪れている。ところが一般就労窓口を担当するキャリアカウンセラー(以下CCと略す)は,メンタル不調の専門家ではない上,公的機関ゆえの時間的な制約もあり,そうした求職者が採用にこぎつけるまでにかなりの支援が必要だと見て取ると,各ハローワークに設定されている「専門援助部門」「発達支援ナビ」といった障害のある人に向けたサービスを行う窓口や,軽度のメンタル不調者等のカウンセリングを行う「心の相談窓口」,長期的な研修を行うことができる地域若者サポートステーション等を紹介しようとすることが一般的である。もちろんそれが功をそうすることもあるが,早く就職したい・人並みの就職をしなければと焦る気持ちを抱える求職者の自尊心を傷つけ,あるいは怒らせてしまい,相談者(以下CLと略す)が相談に来なくなってしまうということが多々生じている。進路希望と心身の調子との照らし合わせは必要であるものの,本人が意味と納得感を感じることができるような進路選択をサポートし,できるだけ実現させるための有効な就職支援の方法論が必要である。
こうした趣旨に関連する就労支援方法としてIPS(Individual Placement and Support)が挙げられる。IPSは,Drakeらによって1990年代初めに米国で開始された精神障害者への個別就労支援法であり13),エビデンスが確認され,現在20の先進国で実施されている14)。従来の精神障害者に対する就労支援方法が,保護的な場所で訓練を積んでから就職に向かうというTrain-then-Placeモデルであるのに対し,IPSモデルは就労それ自体に治療的効果があると考え,Place-then-Trainつまり,まず就労し,就労先で学ぶことを特徴とする15)。IPSの8原則は「1.働くことを希望するすべての精神疾患者が対象である」「2.一般就労をゴールとする」「3.メンタルヘルスと就職支援の両方を含むチーム支援である」「4.就労によって生じる利益や権利の変化に関して理解できるように支援する」「5.本人の希望が第一優先である」「6.迅速に求職活動を開始する」「7.本人が希望する雇用を開拓する活動が提供される」「8.必要とされる限り,期限無制限でフォローアップ支援を行う」であり,精神疾患の重症度にかかわらず,訓練を経ずに迅速に一般雇用に向けての就労支援を開始することなどが含まれる11)13)。
IPSは日本でも精神科病院や就労移行支援事業所などを中心に導入が進んできている16)11)。日本での実証研究としては,精神疾患を有し認知機能の低下がみられる外来患者に対して,認知機能リハビリテーションを併用したIPSを実施した結果,従来型就職支援に比べて3倍以上の就労率となり,費用対効果も従来型に比べて70%も高かったことが示されている17)。ハローワークにおいてもIPSの導入は始まっており,先述の「医療機関とハローワークの連携による精神障害者の就労支援」はIPSを土台としたものであると言える。現在モデル事業段階にあるこの施策では,一定の就労支援プログラムを実施している病院やクリニックを提携医療機関に指定,当該医療機関から支援対象者の紹介を受けたハローワークが,職業相談・紹介,実習機会の積極的な提供,就職後の職場定着支援などのチーム支援を行っている。
一方,ハローワークの一般就労窓口でIPSについて耳にすることはまだ無い。元々IPSは中程度から重度の精神疾患を持ち医療機関を利用している成人を支援するために開発されたモデルであり18),軽症の人たちへの適用例は多くないが,オーストラリアにおける軽~中等度の精神保健的問題を抱える若者に対するIPSプロジェクト18)や,ノルウェーにおいて軽度の精神保健上の問題や発達障害・非行・ひきこもり・インターネットやゲーム依存等といった問題を抱え脆弱性のある若者へ適用した研究がある19)。いずれの研究も,就業経験のない若者については迅速な求職活動にこだわらない方が良いなど,IPSの8原則を適宜修正する必要があるとしながらも,その有用性を示唆している。
ハローワークの一般就労窓口の業務やそこに訪れる相談者の特徴を鑑みると,IPSの8原則が示す「本人の希望の最優先」「一般雇用を目指す」「希望する人全員が対象者」「利益や権利の変化に関する情報提供」「迅速な求職活動の開始」といった理念は,公共サービスであるハローワークに馴染みやすい。しかし,残る3原則をハローワークの一般就労窓口に直接的に当てはめることは難しい。例えば医療機関との緊密な連携は本人たちの意向の性質上,行うことが困難である。またIPSの雇用開拓活動やフォローアップには本来,事業者のニーズを聴き取ったり,雇用主にアドバイスを行うなどの地域活動が多く含まれるものであり11),ハローワークの専門支援部門ではそれが可能だが,一般就労窓口では不可能である。そうした中で,メンタル面の不安を隠しながら就労していく求職者たちの今後を考えると,「会社に本人を合わせさせるのではなく,今の本人に合った職場を探す」11)というIPSの理想を貫くチーム支援はできず,CCが就職支援を行っている期間中に窓口内で,CLの就労後に生きる教育的支援を行っていく必要が出てくる。このように,ハローワークの一般就労窓口において活かせる範囲でということになるが,IPSの理念を土台にしながら,CCが容易に実践できる有効な方法論があれば望ましいことである。
第一筆者は今までに,Gendlin(1981/1982)が提唱するフォーカシング20)を参考にしながら,メンタルヘルス面の不安を抱える相談者に対する支援を工夫し,短期間で試行的な就職につなげる方法を取ってきている。フォーカシングは,からだで感じられる微妙な感覚に注意を向け,感覚を手掛かりにして心の過程を推進していく心理療法であるが,筆者はこれを取り入れ,一つ一つの選択の際に,体験過程20)すなわち主観的な実感の変化を手掛かりにするような体験様式を,CLに基礎から教えている。ただしカウンセリングのプロセスの中でフォーカシングを極めて断片的な形で使っており,また体験的実感に問い合わせながらフォーカシング以外の技法も用いているため,筆者らの方法を,CLの主観的な体験の流れである体験過程20)を大切にする方法という意味で,体験過程尊重的アプローチと称しておきたい。
フォーカシングを就職支援に用いた研究はまだ少ないが21),体験過程尊重的なキャリアカウンセリングはIPSの理念に合致しやすく,ハローワークの一般就労窓口でIPSに則った支援を行おうとする際の限界をある程度補うことができる方法であると考えられる。この内容について試行的にハローワーク職員に対する研修を行ったところ,早速業務に取り入れたいとの感想が多く寄せられるなどしたため,現場のCCにとって使いやすいものであるという感触を筆者らは得ている。
そこで本稿は,求職者が求職者支援機関を訪れてから応募に至るまでの時期に行う,体験過程尊重アプローチによる短期的な就職支援方法について,仮想事例を挿入しながら例示し,ハローワークでこうした支援方法を利用する意義を論じることを目的とする。
以下に,体験過程尊重的アプローチによる短期的な就職支援方法を6段階に分けて提示する。説明のために挿入する事例を創作事例とする理由は秘密保持の観点によるものであり,CLがたとえ公表を承諾したとしても将来にわたってCLの承諾意志が続くか不明であることと,公的機関であるハローワークでは職員が職務上知りえた情報を公表することは許されないことによる。第一筆者はキャリアコンサルティング技能士2級の資格を有し,複数のハローワークの一般就労窓口や地域若者サポートステーションで勤務,仮想事例エピソードの元となる経験をしている。事例の創作は,まず第一筆者が第二筆者に多くの支援事例を語り,第二筆者が相談者のバリエーションを理解したのち仮想の相談者像を創作,第一筆者がその相談者に対する支援方法やよくみられる相談者の反応を語る,という手順で作成された。
以下に,順を追って支援の手順例を記載する。
(1) 本人が就職に対してこだわっている点をCCが認めることに徹するメンタルヘルス面で不安がある求職者は,以下の2つに大別される。①就労に不安がある。②就職できないのではという不安がある。①のCLは,自分が就職活動をこなせるか・就職後に職場についていけるのかという不安を抱える人たちである。一方②のCLは,理想とする就職をしなければならないという焦りがある人達である。
いずれのCLも,本人がまずは自分の現状に見合ったごく短期のアルバイトや就労系福祉サービスの利用をと考えているならば,不安に押しつぶされるようなことが無くて済むかもしれない。しかし,メンタルヘルス面の不安を抱えながらハローワーク等に来所するCLの本人や家族は,特に福祉サービスの利用に関して抵抗感を持っていることが多い印象である。中には,以前福祉的就労を検討した時期があるが,サービスを受けるためには「障害を持っている」「ひきこもりである」等の明確な自認を求められ,就労移行支援で働いても無給であるといった現状を知るうちに,拒否感を持つようになったという人たちもいる。各種福祉系就労サービスは,一般向け就労相談窓口を訪れる人の好みに合いにくい部分があると言わざるをえない。
よって,CCが情報収集のつもりであっても「今までに~を考えたことは?」と,定職以外の道を口にすると,“あなたのレベルはその程度ではないか”という含みとして誤解され,CLの怒りを誘発してしまう可能性があるため,慎重にしたいところである。
そこでまずは本人がどのような就職をしたいのか,今までがどうだったと感じているのかについて,CCが理解を示し,思いは思い,希望は希望として認めることに徹することが望ましい。十分に聴き取り受け容れた上で,CLの就労に関する不安を聴くと,CLの希望や家族の要望などの事情が実は複雑であることが,話に上がってくることが少なくない。
(2) カウンセラーと本人とで症状等をアセスメントする本人の履歴書等を見ながら,CLの今までの歩みを聴取していく際,メンタルヘルスの不調がどの程度のものなのかについてもCLに尋ねていくことになるが,CCが単に「どのような症状がありますか」といった尋ね方で聴取しようとすると,CLの目にはCCが就労準備状態を判断する専門家のように映り,「自分がこれから話す内容によってCCに値踏みされ,良い仕事を紹介してもらえないかもしれない」「実際多くの症状がある自分が仕事をすることは無理と思われそうだ」という不安や防衛的な態度が生じやすい。これを避けるために,CCがCLのメンタルの状態を尋ねる際には,〈仕事をするにあたって何が支障になりますか〉と,あくまで仕事に関連付けて尋ねる。その際CCは,この質問が症状そのものではなくCLの判断を尋ねる質問であることを意識し,CC がCLの判断力を信頼する態度で尋ねるようにする。その上でCCが“病気があっても仕事に影響しなければ問題ない。仕事に影響しそうなことについては対策を考えよう” という姿勢を取ると本人の抵抗感が少ない上,合理的に考えていく心構えになりやすいようである。
(3) 就職活動の基本プランを提示してCLに選択してもらい,CLとCCの共同指針とするある程度CLについて把握した上で筆者は,就職活動には以下の3種類の基本プランがあるとして提示し,本人に選んでもらうことにしている。これはメンタルヘルスの不調を抱える人に限らず,就職活動を主体的に行ってもらうため,どの人にも有効だという印象があるものである。
①世間一般プラン:一般的だとされる方法や,周囲の勧める道筋に従って行くプラン。
②快楽プラン:自分が楽なように進むプラン。マイペースに,嫌だと思うことはせずに,楽な仕事を探す。
③納得感プラン:就職に必要な準備を一歩一歩進めるプラン。心身の不調があるならば,不調との折り合いの付け方を考えながら,自分が納得できるようなやり方で応募していく。
①は,CLの現状に合わせ,CLのような状況の場合に一般的に助言されそうなことや,実際にCLが周囲から助言されていることを例にしながら伝える。例えば,もっと易しい就職先や福祉サービス等を選んで早くどこかに通うべきであるといった意見に従う,逆に世間的に評価されやすいという理由で職業や就業形態を選ぶ,等のバージョンを提示する。
③は,一つ一つの選択を,自分の “実感”に従って,納得感を確かめながら進んでいくというニュアンスを含めて伝えるものである。
これらを,そのケースに合わせた言葉で「行動を進めるための3つのプラン」として提示する。
例えば,パニック障害と軽度の発達障害があり,周囲の人が職業訓練校を勧めているが気が進まなかったようだというケースには,このような語り掛けをする。
CC:あなたはどのような就職活動がしっくりきますか。
1番目は,周囲の人が勧めるような就職活動,つまりハローワークに登録の上,職業訓練校の受験を目指し,何か技術を身に着けるように頑張っていくプラン。
2番目は,現状すぐにお金が必要ということはないならば,無理にせず,ストレスがかからないよう,体調の良いときだけハローワークに来て,マイペースで職探しを行うプラン。
3番目は,通常就職に至るように,必要な準備を進めていく。メンタルヘルス面の不安とどう折り合いをつけていくか,好不調をどうコントロールしていくか等,考えながら,自分が納得できる応募書類や面接内容で応募していくプラン。
あなたの感じでは,どうですか。
このようにCCから提示されると,殆どの人は3を選ぶ。3には,自分の不調に向き合うことを要求する作業が入っているのだが,それでも殆どの人が即答で3を選ぶ。たとえ就職に対する理想を前面に出す人でも,就職によって調子が悪くなることを避けたい気持ちがあり,従って自身の状態を見つめていく③のプランが,確かに良さそうだと感じられるのかもしれない。このように就職活動の方針をCLに選んでもらうことで,就職活動における主体的な構えを醸成するようにする。
(4) 自己アピールの素材は,簡単に取り組めるテーマで,良質の情報を少量出してもらうことによって集めるCCは〈短時間,短期間でも構わないので〉と前置きし,CLにアルバイトを含めて働いた経験を尋ねる。どんなに短期間でも働いたことがあれば,その就労に関する語りの中に必ず,自己アピールに必要な情報は入っている。
一方,全く働いた経験がないCLの場合は,CLの強みを手掛かりにし,人としてどういう行動を取っていくことにCLが納得感を持つのかを,明らかにしていく。
図1「強み・弱み対照表」シートを使ったリフレーミング22)のワークは,自分に自信の無いCLでも取り組みやすいものである。表には,弱みと,その弱みを強みに言い換えたものが掲載されている。表に記載する強み・弱みの言葉や,その数は,CCが,CLとそれまで面談した印象をもとに,必要に応じて調整する。
「強み・弱み対照表」シート
「強み・弱み対照表」の使い方は以下の通りである。
①CCは紙を点線部で半分に折り,弱みの面だけにして,CLに見せる。弱み表の中からCLが当てはまると感じる番号に○をつけてもらう。複数選んでOKであるが,4つ以上選んだ場合は3つ程度に絞り込んでもらう。
②3つ程度に絞り込んだ中でCLが「特に強く思うもの」に◎をつけてもらう。
③CLに「私は」という言葉に続けてその弱みを口に出してもらう。
(例)「私は消極的で,はきはきしないと言われます」
④CCは手持ちの強み表を参考にするなどして,CLが話した弱みを強みに変え,言葉にする。
(例)「そうですか,調子に乗らず冷静な要素があるということですね」
⑤CLが弱みを複数選んでいる場合,CCはそれぞれ,④と同じように強みに変えた言葉で返す。
⑥その「強みに変えた言葉」を,CCが改めて「持ち味」の文にして伝える。CLが複数選んでいるならば,必ず組み合わせて伝える。
(例)「あなたの持ち味は調子に乗らず冷静なところですね」
「あなたの持ち味はコツコツやる,真面目なところですね」
組み合わせ「あなたの持ち味は調子に乗らず,真面目なところですね」
CCは少し言い方を変えたバージョンも併せて伝え,CLに,「どれが一番心地よいでしょうか。どれが一番,体が喜んでいる感じがしますか」などと語り掛け,CLに感じてもらう。
⑦CCはCLに〈働く場所で評価されるとしたら,どれが一番しっくりきますか〉と問い,一番しっくりくる言葉を選んでもらう。
このようにして強みを言い表す言葉が見つかったら,CCは,〈今言葉にしたこのことは,○○さんの働く姿勢につながるのではないでしょうか。“こういう思いを持って働こうと考えております”と言えるのではないでしょうか〉と,就職と関連付けた意味付けをする。
(5) 書類作成までの段階は,CCが積極的に例示をし,CLは自分の納得感を確認する作業を中心に行う。筆者は,書類作成のある程度までのところは,こちらがCLの思いを言葉にして表現を手伝い,CLには「実感,納得感」を感じることに取り組んでもらうようにしている。CCが出した言葉の例をCLが自分の実感と照らし合わせて,そのままの言葉でぴったりくるか,あるいは修正した方が良いのかをCLが判断していく作業である23)。特にメンタルヘルス面の不安や不調を抱える求職者に対してこうした方法を用いるのは,自分というものがしっかりしていない人に,自己アピール文等を一から作ってもらおうとすると,手が付けられないか,通り一遍の,世間で気に入られそうな言葉しか出て来ず,本人の体験から離れたものになりがちだからである。そこで「強み・弱み対照表」などにCLが書いた素材からCCが文章を作り,いくつか表現を変えたものを対提示して〈どれがフィットしますか〉と問いかけて選んでもらう。その言葉を使ってCCが自己アピール文を組み立て,〈あなたが言いたいことはこういうことですかね〉と見せると,CLが選んだ言葉を使っているので,たいていはCLから間髪入れずに「そうです」という返事が返ってきて,CLが「こういう方法があるのですね」と驚いたり,「こんなふうにしていって,いいのですね」とほっとした様子を見せる。こうしてテンプレートが出来上がると,〈じゃあこれを,面接(や書類)で伝えるとすると,どういう伝え方がいいですかね〉と,CLにその先をお任せしても大丈夫である。
図2「自分の働く姿を考えよう 自分のキャッチフレーズ」は,「強み・弱み対照表」で出てきた言葉を使って,自己アピールの作成へと導くシートである。面接の質問に対する活用例が載せてあるため,CLが一から文章を作る必要がなく,ポイントとなる言葉の吟味に専心できる。
「自分の働く姿を考えよう 自分のキャッチフレーズ」シート
例)統合失調症の緩解期にある男性Aさんは,「プラスに見てもらえると」欄に,「念入りにやる,緻密にやる」「慎重,用心深い」という強みを記載し,「マイナスに見られると」の欄に「なにかをやるのに手間取る」「気が弱い とりこし苦労」を記載した。そして「「職場」での自分の評価はどうありたいか?」欄にAさんは,「私の持ち味は,用心深く念入りにやるところです」と記載した。
このキャッチフレーズを「面接の質問に対する活用例」に用いるにあたり,CCが,〈細かいことですが〉と前置きし,二つの文章を書いて見せた。
・私の持ち味は「用心深く念入りに」やるところです。
・私の持ち味は“用心深く念入りに”やるところです。
Aさんは後者を選択した。CCが,「面接の質問に対する活用例」のテンプレートに,「私の特徴・強みは,“用心深く念入りに”やるところです。しかし見方によっては,何かをやるのに手間取る人だと思われてしまうこともありました。」と書き入れて見せると,Aさんは確かにそうだと言うように頷いた。
アルバイトであっても書類だけで選考されることはまず無く,採用・不採用の鍵は面接である。CCが言葉を例示して作った書類であっても,それがCL本人の納得のいくものであれば,借り物ではなく自分の言葉として,面接で語ることができる。また,CCから例示され言葉を選び続ける過程で,言葉を吟味する方法が身に付いてきていると,面接の場で思いついて自分の言葉を生み出すことも可能になっていく。
(6) この就労を試行ととらえ,しがみつかずに利用するように勧める求職者には「受けなくていいから,面白そうだなと思うものとか,気になる求人を選んできて。」と伝え,いくつもの求人を選んでもらう。受けなくていいからと言われるとCLは比較的自由に選び,選びながら実感・納得感に触れていく。CLが選んでくる求人について話し合うことで,CCにもCL自身のことがいろいろと分かってくる。
そうした中で,CLの丁度チャレンジできる範囲にありそうな求人があればCCが〈ここを受けてみませんか〉とCLに言ってみることもある。正社員を志しているCLに対し,その状態に鑑みてCCが非正規雇用の求人を提示することもある。しかしこの段階ではCCにも,CLの働き方の好みや,将来したいことが分かっているため,それらにつながるものとして伝えると,CLは前向きな気持ちで検討できる。
例)Bさん(女性)は,もともと抑うつ的であったが,ここ3年ほどうつ症状が強めに出る時期があり,2年前に前職を退職している。Bさんは今フルタイムの仕事を行うことは難しいと思いながらも,30代を間近に控え,一生正職員として雇ってもらえないのではという不安を感じると語った。
折しも3カ月間パソコン入力を主とするパートタイムの仕事があったため,CCが,〈受けてみない。Bさんなら大丈夫と思いますよ。どうせ3カ月だから期間がくれば終わるのだし,きつかったら辞めればいいですし。調子が悪くなってくる時は,Bさんはその前兆が分かるのでしたよね。昔とは違う職場に勤めてみて,自分がどんなふうに感じるかを見てみるのにはちょうど良いのではないですか。〉と伝えてみた。Bさんは応募し,早速採用になった。
以上,本稿では,メンタルヘルス面での不安を抱える相談者に対する就職活動初期から中期にかけての支援方法について,体験過程尊重的アプローチによる一連の支援方法例を提示した。この支援方法のねらいは本人の希望に応じ,迅速に就職活動を開始し,就労を早期に実現することにある。以下にその特徴や意義,留意点について考察する。
(1) 就職活動をなるべく迅速化することの意味 ―ハローワークにおけるIPSの修正的適用―メンタル面に不調や不安を抱えている人の就職活動は,病気による影響で何事も時間がかかる。就職活動を通してゆっくり自分を育てていくつもりならば良いが,そうでない場合,ハローワークに通う期間が長くなると,「なかなか就職できない自分」という自己否定感が加わり,一層自信を失ってしまうことになりかねない。IPSの「迅速に求職活動を開始する」「働くことを希望するすべての人を対象とする」「一般就労をゴールとする」「本人の希望が第一優先」といった原則は,CLのニーズに合致しており,本報告のような支援法により,ハローワークの一般就労窓口でも支援可能と考えられる。軽~中度のメンタルヘルス不調を有する若者に修正的IPSを導入した先行研究では,インターンシップや見習い等の就労体験も視野に入れる方が良いとされているが19),特にメンタル面の障害を自認したくない成人CLのニーズや自尊心に鑑みると,就労は最初から最低賃金額以上の有給であることが望ましい。状態が良くないCLでも,短期雇用であれば見通しが得やすく,辞めることもトレーニングと位置づけてCLとの合意が取れるようであれば,当面の目標としてふさわしいように見受けられる。働くことはメンタルヘルスを良好に保つ潜在力を有し24),障害や不調を抱える時にも働くことこそがリカバリーの手段であるとIPSでは考える。CLが求めるならばなるべく早く働き始めることで,学びの素材の獲得と自信につながることが期待される。
また今回例示した支援法は,CCの負担を減らし,CCが支援に集中できるようにするためにも有益と思われる。公的窓口のCCらはCLの思いを認める必要性は重々感じているものの,CCはCLの状態に応じた公的制度等の情報を教示する立場にあり,また公的サービスであるゆえ相談者を早く就職に結びつけるような支援を職場から課せられている。そのため一般就労を希望しながら不調が深刻そうなCLを前にするとき,CCはかなりの役割葛藤を感じるものである。CLの気持ちに沿った支援ができ,かつ短期で支援が終了するとなれば,CCは落ち着いてCLに寄り添うことができる。福祉的就労サービス制度を一応教示する必要がありそうな人には,教示すること自体で落ち込ませてしまわないための配意として,3.就職支援方法の提示(3)で,本人が選ばなくてよい選択肢の中に織り交ぜて示唆することができる。
(2) 就職活動に選択方式を多く取り入れること本報告では,就職活動の基本指針,強みの検討,自己アピール文の作成などの例で示したように,就職活動の多くを選択式にし,それによって就職支援の短期化をはかっている。
例えば強みの検討に関していえば,就職活動の書類には強みをエピソードと共に記載することが通例であるため,一般的には趣味・余暇活動・学生時代のクラブ活動・友人・仕事経験などを振り返ってみる方法25)がよく勧められる。「自己理解」は大学生が就職活動を通じて学んだことの最上位に位置付けられているように26),成長上重要な体験となり得るため,CLに自己を肯定的に振り返る作業を勧めたいと考えるCCは少なくないであろう。しかしメンタル不調を抱える人は,過去や現在の自分を見つめようとする時点で,”自分には他の人がしているような良い体験が少ない・出来ていない”ということの方に気持ちの焦点が当たってしまい,気が滅入ってしまうことがあるように見受けられる。強みに対する厳しい捉え方を緩めるには,他者からのポジティブなフィードバックが契機となりやすいことが示されているように27),自信のないCLに対しては,最初は自分で考えさせるよりもCCから強みを伝える方がスムーズであり,実際そうするCCは多い。それでも,うつを抱える人の中にはセラピストからポジティブフィードバックをされても実感が湧かないCLも多いとされているように28),自己に対する悲観的な認知が強いケースには一工夫必要である。
また弱みの把握に関しても,一般的には強みとは別に弱みを書き出し,それを克服するための努力も書き出すと自己アピール文が作成しやすいため,CLにそれを促すのが一般的な就職支援の手法である。しかしメンタル面で不調や不安をかかえる人にそれを行うと,自分は弱みを克服する努力があまりできていないという自己卑下に陥る人がいる。以上のことからリフレーミング22)を用いるなどして,強みも弱みも含めた自分を受け容れ易くしていくようサポートすることが望ましい。
そのため上記の先行研究28)では,うつ病者のリワークにおいて,弱みを強みに替えるリフレーミングのワークが作成されている。ワークシートにCLが数個の弱みを書き,48の強みが記載されたカードを参考にしてCL自身が弱みを強みにリフレーム,その後,他のメンバーからもリフレーミングしてもらうというものである。本報告と同じように,まず弱みの列挙から始める形であり,強みに関してCL自身が言葉を生み出さなくても良いよう選択方式が取り入れられているなど,趣旨・方法ともに共通点が多いが,本報告が提示した方法は,さらに選択式の部分が多く,例えば弱みを選択式で選ばせ,強みを表す言葉もCCが複数個伝え,「どれが一番しっくりきますか」とCLに選ばせる形である。また本方法では強みという言葉に抵抗感を感じるCLでも取り組みやすいように,「強み」を「持ち味」というニュートラルな言葉に替え,「弱み」も持ち味であってすべての持ち味は生かされ得るという含みを持たせている。
自分の「持ち味」をとらえたあとは,CLが選んだ言葉をひな型に入れて,CCが自己アピール文を複数個作ってみせる。その際,弱みを表す言葉は過去,持ち味を表す言葉は未来の文脈に使用し,今や過去に対する劣等感が強いCLでも抵抗感が生じにくいようにする。そしてここでも,どれがCLの実感に合うか,細かい違いを吟味してもらう。
こうしたプロセスを踏んでCLにとって就職活動が取り組みやすいものになれば,就職活動への就職活動中のメンタルヘルスや,モチベーションの維持につながりやすいと考えられる。
留意点として,常にCCの誘導性を排するように気を配る必要がある。選択式の質問は,はい・いいえ質問ほど誘導的ではないとはいえ,オープン質問よりも誘導性があり29),語調次第で暗示的になる可能性がある。言い方に気を付けること,CLによく確認することや,CCがCLの非言語的情報を通してCLの納得度をしっかり観察することは,暗にCLを誘導してしまわないために必須である。
(3) 実感を確認する作業をたくさん体験してもらうこと一方,選択方式を多く採ることには,言葉を生み出す作業をCCが肩代わりし,CLには自分の実感を確かめる作業に徹してもらうためという理由もある。初心者にフォーカシングを教える際には,2つの異なる事象をイメージしてもらいフェルトセンスの違いに気づいてもらう手法がよく用いられ,フォーカシング経験がない人でも実感に触れやすい30)。本法もそれと同様,括弧の形の違いなどまずは非常に小さいことからCCが選択肢を並べて「しっくりきますか」「フィットしますか」「からだが喜びますか」などCLの体感を呼び起こす言葉を使い,体感に触れるよう促すと,CLは間を置き,確認してから答えることができる。
もちろん相談者の自己決定権の尊重は,キャリアコンサルタント倫理綱領の第9条にも規定されている重要な方針であり31),相談活動の前提である。キャリア支援の熟練者に行われた面接調査でも,一人前のCCとしての目標水準に,クライアント中心のスタンス,積極的傾聴と建設的フィードバックの基本スキルが挙げられ32),また同様の研究で,優れたCCは傾聴・観察,助言・指導,内面へのアプローチなどを用い,それらはマイクロカウンセリングでいう「基本的傾聴の連鎖」「積極技法」「焦点の当て方」に該当したとも報告されている33)。しかし,これらの研究はCCが相当量の介入を行うことを示唆するものでもある。CCが役割上,CLをある程度リードする部分がある中で,CCがどのようにしてクライアント中心のスタンスを維持し,CLの自己選択・自己決定を純化させ得るのかという議論や方法論は十分ではない。selfの多次元性に注目するMearnsのパーソンセンタード理論によると,selfはたくさんのconfiguration つまり,感情・思考・行動上の特徴を持った「部分」の集合体である34)。当然,やや世間に合わせた対応をする「部分」が存在し35),就職活動上はそれもCLの気持ちとして大切にされるべきものではあるため,CCは,そして時にはCLさえも,今この場で気持ちに従った就職活動を行っていると認識してしまい易い。「あなたの気持ちに合っていますか」と確認するCCは多いが,もう一歩踏み込んで「からだに尋ねてみてください」と促すと,先程とはCLの答えが変わるということは,筆者がCLとの就職支援の中でよく経験することである。
キャリアコンサルティングの領域ではスーパーヴィジョンや継続研修制度が未整備であり 36),現場の相談員たちは手探りで相談活動を進めている。CLの体の実感に触れるように示唆し,CLが納得感を確かめては修正するという作業をしてもらう作業は,CCにとってさほど難しくない技法である上,就職活動全体をCLの納得感のもとに進めることに有益であると考えられる。CLが確かに自分を表していると言うフィット感と,それでいて評価されそうだという納得感を得て,就職活動に対して肯定的な感情を持ちやすくなることが期待される。
そしてもし,採用面接の場でCLが多少なりとも自分にフィットする言葉を話そうとする構えになると,面接がある程度生き生きして,採用されやすくもなってくる。また実感にふれて納得感を確かめる体験様式は,就労後のCLの職場適応にとって助けになる技能・態度でもあると考えられる。精神障害者は病状の悪化を防ぐ手段としてルーティーンを好み,定型外業務を排除しようとする構えがあることが指摘されているが37),職場ではしばしばイレギュラーなことが起こり,周囲からの要請に応じなければならない。困った時・迷う時には自分に問いかけ,自分の納得感を確かめて微調整するという内的作業を習慣化させられれば,職場における対応力が多少なりとも上がることが期待される。さらに,CLにとって勤務先が「合わない」「心身の調子が悪化している」と感じられる時にも,周囲の期待や自分の理想に引きずられすぎずに一旦自身の内面に目を向けることができれば,理想的であろう。
IPSに基いてしっかりと就職後のフォローアップ,環境調整ができる現場と異なり,ハローワークの一般就労窓口ではCLが面談に訪れている時に行えることが支援の全てであるので,このように実感を頼りにする体験様式を覚えてもらうなどして,少しでもCLの就職後に役立つ手段を提供できるように,支援していくことが望ましいと考えられる。
本稿ではメンタルヘルスの課題を抱えながらハローワークの一般就労窓口を訪れる人に対して,IPSや体験過程尊重的アプローチに基くキャリアカウンセリングを,仮想事例を用いながら提案したが,このアプローチの有効性については,今後の研究で検証されることが必要である。また実際には,今回示した支援方法だけでなく,就職が決定する前後に改めて病気との折り合い方の工夫を一緒に考える作業や,就職を機に受診や服薬を一切やめるといった行動に出がちな人への事前対応など,就職活動後期の工夫も必要であるが,それに関する検討は今後の課題としたい。
本研究は,科学研究費の助成を受けて行われた(研究課題名:求職者の柔軟性を高めるプロセス重視型キャリア支援プログラムの構築,課題番号:19K03361)。