Human Sciences
Online ISSN : 2434-4753
Original Article
An exploratory study of the job hunting support process by career counselors at public employment security offices
Yuko MorikawaKoji NaganoTatsuya HiraiHideaki FukumoriNaonori Fukuda
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2024 Volume 6 Pages 22-37

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抄録

本研究では公共職業安定所の熟練キャリアカウンセラー(以下,CC)が,就職上の課題があると見受けられる求職者(以下,CL)に対してどのようなプロセスで支援をしているのか,仮説生成することを目的とした。公共職業安定所内で評判が良い支援歴6年以上のCC8名に半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTA)により分析した。その結果42個の概念,9個のカテゴリが生成された。公共職業安定所の熟練CCは,CLの職務経験に応じて【義務感や怖れを意欲に変える就活準備】や,【徐々に本音に向き合い本音から糧を得る就活準備】を行い,人間関係向上のヒントの提供,主体性や本来感の醸成等,社会人力を育てるような育成的アプローチをとっていくことが示唆された。また,熟練CCの特徴として,徹底したCL受容や,先々に生きるような学びの重視,具体的方策への落とし込みが示唆された。

Abstract

The purpose of this study was to generate hypotheses about the process by which skilled career counselors at public employment security offices provide support to job seekers who appear to be experiencing employment challenges. Semi-structured interviews were conducted with eight career counselors with good reputations and more than six years of experience at public employment security offices, and analyzed using a modified grounded theory approach (hereinafter referred to as M-GTA). As a result, 42 concepts and 9 categories were generated. Depending on the past work experiences of the job seekers, experienced career counselors in the public employment security offices seemed to provide job hunting support that “transforms the sense of obligation and fear into motivation”, or “gradually help them to face their honest feelings and to get inspired from them”. The experienced career counselors also seemed to approach for their clients to be independent working adults by offering hints to improve human relations and facilitating their growth based on their initiatives and conviction. These results suggested that the experienced career counselors are taking a “nurturing” approach to foster fundamental skills as working adults for their clients. The quality of the experienced career counselors was also characterized by thorough acceptance of the clients, emphasis on prospective learning, and implementation of concrete measures.

1. 問題と目的

総務省労働力調査によると,日本における2023年10月段階の完全失業率は2.5%であり,コロナ前の2019年に比べて上昇している。同じく労働力調査によると転職希望者は2018年以降増加傾向にある1)。リクルートワークス(2022)の調査では,実際に転職をしたことがある人が社会人経験者の75%にのぼっている2)。また内閣府によると2022年3月において学校卒業後に進学や就職をしない人は,高等学校卒者で4.5%,大卒者で9.6%と前年度より上昇している3)。今後はさらなる高齢化社会に突入し,職業生活の長期化が見込まれることも加わり,日本において新卒一括採用,終身雇用の枠組みから外れる就職活動をする人は,一層多くなることが予想される。

就職に関する代表的な相談先として,公共職業安定所がある。公共職業安定所はハローワークとも呼ばれ,憲法第二十七条に定められた勤労権の保障のため,民間の職業紹介事業等では就職へ結びつけることが難しい就職困難者や人手不足の中小零細企業を中心に,国が無償で支援を行う雇用のセーフティネットの中心的役割を担う機関である4)。公共職業安定所では,施設にもよるが,求人情報閲覧,窓口での質問や継続的な相談,履歴書作成・面接指導といったサービスが提供されており,予約制のキャリア面談を繰り返し受けることもできる。予約制のキャリア面談を利用する人はハローワーク利用者の12%程度であるとされる5)。公共職業安定所の一般就労窓口における相談を,職員側の視点で分類すると,求職者に特段の相談ニーズや課題がないと判断し得るケースに行う対応は「あっせんサービス」,就職するうえで求職者に課題があると考えられるケースへの支援は「課題解決支援サービス」と名づけられている。いずれのサービスにおいても,アセスメントやカウンセリングの技能,キャリアに関する専門的知識が必要とされるため,公共職業安定所の窓口相談員としてキャリアコンサルティング技能士やキャリアコンサルタント等,キャリア関係の資格を持つ専門職が配置されることが一般的となっている。ここではキャリアの専門的知識・技能をもとに相談業務を行う相談員をキャリアカウンセラーと総称することとする。

ハローワークの利用深度と転職後の適応との関連を調査した中村(2011)の研究5)では,相談者がハローワークによって入社に向けた準備や心構えが分かるなど転職後に適応し易くなるような支援を得たと感じている場合や,相談者がハローワークで自己理解を深めることができたと感じる場合に,転職後の相談者の仕事へのモチベーションと転職満足度が高いことが示唆されている。中村の研究結果からは,相談者がハローワークで単に就職のためのスキルや情報を得るだけでなく,CCとの間で自分を見つめ,新しい職場への適応が増すような準備をするなど,CCが相談者に対して一歩踏み込んだキャリアカウンセリングを提供することが,相談者のその後の職業生活の充実につながることが窺える。

窓口利用の求職者が継続的なキャリア相談につながっていく相談者となり,彼らが自己理解や仕事理解を深め,納得の行く選択をできるようにCCが支援していくことは,CCにとっての本来業務である。ただしCLの就職に時間がかかりすぎるとなると話は別である。公的就職支援機関では自律的キャリア形成から外れたクライアントを対象とする場合も多いとされ6),状況別に用意された窓口に求職者が行きたがらないなどするため7),心理学・精神医学上の専門的なケアが必要であると考えられるCLも一般職業窓口を一定数利用しており,そうしたCLへの対応が職員のストレスになりがちであることが示唆されている8)。公的就職支援機関の相談員の非正規雇用率は,民間調査で8割強とされており9),短期間で求職者を内定につなげることがCCの継続雇用に直結するという切迫した雇用環境にある中,公共職業安定所のCCは,就職するうえで課題が多そうなCLからの相談に対していかに的確な支援を行っていくかを課題としている。

厚生労働省の「労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業」はこの課題に資するものであり,「安易な離職願望などを有している若者」「キャリア形成上の課題に直面する中高年」といった対象者像ごとにワークシートが作成され,その試行事例からは,相談者の気づきを促し易いことなどの利点が示唆されている10)。この支援は,「相談者の知識・対処スキルの不足に対して」「自ら改善・解決に近づく気づきを促すことを前提としつつ,助言等が必要な部分については建設的かつ具体的対処方法等を提供する意識」を以って行われるものとされている。実際,ハローワークで職業相談をするケースは,失業,現職での挫折,ひきこもりなどを経験し,自尊心の傷つきを抱える人が少なくないため,助言の際には十分な準備段階や配慮が必要であろう。相談の開始直後からCCがどのようにCLをサポートし,どのような方法やタイミングで介入していけばよいのかについて,一層解明が進むことが望ましい。

公共職業安定所のCCに特化したものではないが,キャリア支援者の実際に迫ろうとする研究は行われてきている。“比較的多くの者が到達できる一人前としての目標水準”に達しているとして選出された熟練CCに対するインタビュー調査(中央職業能力開発協会,2005)では,彼らの態度・技術に,①クライアント中心のスタンス,②積極的傾聴と建設的フィードバックの基本スキル,③キャリア・コンサルティングに関する準拠理論の理解,得意領域の構築,④内省的実践と自己練磨(絶えざる学習)といった特長が見出されている6)。しかしこの研究ではCCらの基本的なかかわりと研鑽の姿勢に重きがあり,熟練CCらの卓越性を特徴付けるものが十分に解明されているとはいえない。また同じく前田ら(2016)も優れたCCへのインタビューを通して,彼らが「傾聴・観察」,「助言・指導」,「内面へのアプローチ」,「距離感の意識」を行っていることを見出している11)が,優れたCCたちがそれらの態度や技能をどのように体現しているか,助言・指導,内面へのアプローチといった介入をどのようなタイミングで行うのかといったことは分析されていない。

他方,馬場ら(2020)が再就職支援会社のCCに焦点を当てた研究12)では,再就職活動の各段階においてCCの主な役割が変化し,初期段階ではCLの負の感情に寄り添い傾聴する役割を中心とし,活動中期ではCLが再就職の厳しさを乗り越えるためのメンタル面の支援と,書類や面接のスキルを含むキャリア面の支援とを循環的に行い,やがて就職活動の期限が迫る終盤には再就職の意思決定にCCが積極的に関わり,指示的でコーチング的な要素を含んだ支援へとシフトするとされている。このモデルは公共職業安定所における職業相談にも通ずるものと考えられる。しかし職業未経験者も対象とする公共職業安定所では,そもそも働く意欲や社会人力の醸成といったテーマでの職業指導が必要なケースもあると考えられるため,別途モデルを検討することが望ましい。

筆者らが知る公共職業安定所の熟練CC達は,就職するうえでの課題が窺え,就職に時間がかかりそうなCLでも積極的に引き受け,CLからの篤い信頼を得ながら内定につなげ,高い就職決定率を維持している。公共職業安定所の熟練CCらが,就職するうえで課題があると見受けられるCLに対して行っている支援プロセスを,具体的な対応法・工夫が見える形で概念化できれば,公共職業安定所における就職支援の参考になると考えられる。

そこで本研究は,公共職業安定所の熟練CCにインタビュー調査を行い,就職するうえで課題がある求職者に対して彼らが行っている支援のプロセスとその具体的対応の特徴について,仮説を生成することを目的とする。

2. 方法

(1) 調査対象者

熟練CCの選出にあたっては,熟練CCを「『厚みと広がり』のあるキャリア・コンサルティング実施能力をもち,CCのインフォーマル・コミュニティで認められた人物」と想定した先行研究6)に準じ,公共職業安定所のCCのうち同業者の評判が良い人を選出することにした。

ここでいう「評判が良い人」を当研究では,公共職業安定所の同業者により優れたCCとして推薦を受けた者と考えた。その理由は,以下のような状況からCCの実力を最も良く知るのは同業者であると考えたからである。

・公共職業安定所内ではCC達が間仕切りを挟んで隣り合うブースで相談を受けている故,各CCがどのようなCLを抱えているかや,CCの相談対応の特徴とCLからの反応,どの程度継続相談・指名相談があるかを互いに把握出来る状況があること

・新卒部門を含む一般相談窓口を有する部署においては,各部署で月次や各期,年間の就職者数,就職決定率等の資料の回覧があり,成績上位者のCCは部署内で把握可能であること

推薦の手続きは表1の通りであり,結果的に2府県3自治体から8名が選出された。調査協力者らの年代と経験年数,相談対象者の組み合わせで個人が特定されやすいことに配意して個別の年齢記載は控えたが,全員女性,40~60代,公的機関のCCとしての就職支援経験年数は6~16年,全員公共職業安定所内で一般相談窓口を含む複数部署を歴任,現在の勤務先はハローワーク・マザーズハローワーク・若者就職支援センター・新卒応援ハローワークであり,全員が現在進行形で就職にまつわる職業相談を受けていた。彼らの中には,公共職業安定所のCCとしての経験年数が10年以下のCCもいたが,彼らはハローワークで勤務する以前に民間組織のキャリア相談業務や,企業の人材育成部門を経験しており,事実上のCCとしての経験年数は彼らが報告する以上の年数であること,前田ら(2016)11)の研究において,職場・団体の責任者から推薦された「優れたCC」の推薦理由には,専ら姿勢や資質の高さ,能力やスキルの安定感が挙げられ,経験年数や資格の有無に関する推薦理由はみられなかったとされていること,中央職業能力開発協会(2005)6)の調査でも現職経験5年未満の調査対象者が8人中4人を占めていることから,当研究でもハローワークの勤務経験が10年未満のCCも,分析焦点者候補とみなすこととした。彼らがインタビューで語った内容から,就職するうえで課題が見受けられるCLからの相談に対して柔軟かつ多彩な支援を行って内定につなげているようであったため,8名全員を熟練CCとみなして分析焦点者とした。

表1

分析焦点者の属性

現在の主な支援対象者 選出の経緯
A氏 若者 地方都市X市の勉強会に集まった10名の相談員に対し,筆者らのうち公共職業安定所勤務者(W)が口頭で,評判が良い相談員だと感じられる相談員の推薦を依頼
B氏 高校卒業~45歳未満
C氏 一人親家庭,女性
D氏 若者
E氏 若者,求職者全般 B氏からの推薦
F氏 一人親家庭,生活保護,求職者全般 地方都市Y・Z市の勉強会に集まった計16名の相談員に対し,筆者Wが口頭で調査の趣旨を説明。職場に持ち帰り他の相談員と合議した上で,評判がよく良い相談員だと感じられる相談員がいれば推薦してくれるよう依頼
G氏 生活困窮者,母子家庭
H氏 求職者全般 X市で研究について聞き知った公共職業安定所管理職者からの推薦

(2) 調査内容

主に以下の質問項目で半構造化面接を行った。

①日ごろの支援の行い方…初回面談で行うこと,その後の面談で行っていること,支援で気を付けていること,それらをどのような意味で行っているのかを尋ねた。

②より難しいタイプの相談者への支援…面談の行い方,それに対するCLの反応。①で語られた支援の例よりもさらに就活・就職準備支援が必要と思われるCLの例をインタビュアーが複数挙げ,それに対してCCがどう最初から最後まで支援するかを尋ねた。インタビュアーが挙げた就活困難例は,「非常に内気で自信がなく,先々就職面接を受ける際に困難が予想されるCL」「年単位でひきこもっていて就職経験がなく,ハローワークへの来所に消極的な態度を見せるCL」「就職先に対する要望が多く,希望にマッチする就職先が見つかりにくそうなCL」「周囲の価値観を取り入れすぎているCL」等であった。

その他に日本のキャリア教育について思うことも尋ねたが,今回の分析には用いていない。

(3) 調査状況

2019年6月から2021年4月にかけて調査を行った。主インタビュアーは筆者らのうち大学教員,副インタビュアーは筆者らのうち公共職業安定所職業相談員であり,この2名がすべてのインタビューを担当した。インタビュー内容は調査協力者の承諾を得て録音された。インタビュー場所は主インタビュアーのカウンセリングルームであり,調査協力者には調査場所までの交通費実費と薄謝を支給した。面接時間は,1人あたり80分~115分(平均93分)であった。

(4) 倫理的配慮

研究の目的・方法・期待される結果を提示した上で,調査への参加は個人の意思に基づくものとし,参加を拒否あるいは中途で撤回しても一切不利益が生じないこと,不必要な個人情報は取得しないこと,調査で得られた情報の管理を徹底し,研究を公表する際には個人が特定できないようにすることなどを明示し,同意書を得た。なお本研究は,第一筆者が所属する大学において「ヒトを対象とした研究に関する倫理委員会」の審査を受け,承認を得ている。

(5) データ分析方法

インタビューデータの質的分析の方法にはKJ法,グラウンデッド・セオリー・アプローチや内容分析,SCATなどの方法がある13)。本研究では,質的なデータを帰納的に理論化することを目指していることなどから,グラウンデッド・セオリー・アプローチ,その中でも修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA: Modified Grounded Theory Approach)(以下,M-GTA;木下(2007)14))を採用した。M-GTAはデータに密着した分析法で,解明したい現象のプロセスを浮かび上がらせるものである。各種GTAの中でもM-GTAは,ローデータを切片化せずに文脈を考慮した分析を行うという特徴があり,一連の分析手続きを明確化していることも特徴である。その手順には,ローデータや概念同士を類似性・対極性の二方向から入念に吟味すること,データを増やしながら概念やモデルを柔軟に修正していくことなど,徹底した継続的比較分析が含まれている。

本研究の分析における理想は,就職する上で課題がある求職者に対する熟練CCの対応について,その具体的な関わり方がイメージし易いようにキーワード化しながら,支援プロセスの流れを追えるようにすることであり,必然的に新しい概念を提示することが想定されていることから,詳細な分析を行って概念を生成していくM-GTAが,分析に適していと考えられた。また熟練CCらから得られた語りからは,彼らがしばしば一つの言動の中に多層的な支援目的を織り交ぜているという特徴が窺え,従ってデータの一切片を一つのカテゴリに属させるような分析方法を採用することは不適切と考えられたため,文脈を生かした分析が可能である点でも,M-GTAが適していると考えられた。

具体的な分析は,M-GTAの手法に沿って,以下の手順により進めた。

・分析テーマと分析焦点者の決定:本研究では分析テー‍マを「就職するうえで課題がある求職者からの職業相談で熟練CCらが行っている支援のプロセス」とし,分析焦点者を「公共職業安定所で職業相談を受けている熟練CC」とした。

・分析ワークシートによる分析:概念名,概念の定義,‍具体例,理論的メモ,対極例の欄を設け,語りの中から注目すべき具体例を取り出して具体例欄に記載,概念形成を行った。インタビュー実施順にAの逐語録から分析を開始,順次B~Hの逐語録から,それまでに出た概念の類似例があれば具体例欄に入れ込み,初出と考えられる語りがあれば分析ワークシートを増やして概念生成を行った。

・理論的飽和の判断:最後の2名であるG及びHで新しい概念が生成されていないことを確認した。

・カテゴリ化:共通する内容を有する概念をまとめてカテゴリ化した。

・ストーリーラインと結果図の作成:概念及びカテゴリ同士の関係性を結果図として視覚化した。

分析は主に第一筆者が行い,残る4名の筆者を共同分析者として定期的に討議し,精緻化を繰り返した。

3. 結果

(1) 生成された概念,カテゴリ,および結果図

M-GTAによる分析から,42個の概念と9個のカテゴリが生成され,その結果,【安心かつ気分が上がる出会い】に始まり,【幸せな職業人になるための送り出し】に至る,一連の支援プロセスの仮説が生成された。以下,カテゴリを【 】,概念を[ ]で示し,カテゴリ及び概念の一覧を表2に示す。なお,ニートやひきこもり,生活保護受給者等,スタートラインで就職そのものへの意欲が低めである群と,仕事に対する挫折や不満を抱えた転職者等,就職経験がある人に対する支援とでは異なる就活準備がなされていたため,主に前者に対して行われる【義務感や怖れを意欲に変える就活準備】,主に後者に対して行われる【徐々に本音に向き合い,本音から糧を得る就活準備】というカテゴリが設けられた。結果図を図1に示す。

表2

概念一覧

カテゴリ 概念名 定義 発言例
安心かつ気分が上がる出会い リスペクトし,チュ
ーニングを合わせる
言葉の使い方から距離感に至るまで,相手を尊重しながら相手に合わせたコミュニケーションで関係性を築くこと。 その方その方で,私は話し方が全部違う。方言を使う時もあれば,とても冷静に話をするときもあれば,我が子とおんなじぐらいだったら,その距離感をもっとこう近くだったり。距離感は,思い込みが一番怖いと思うので,思いこまずに,ただ少しずつ少しずつこう,この子にはこういうアプローチがやっぱりこう,刺さるのかなと思ったりとかいうことは常に考えてます。(B)
姿勢とか,身だしなみとか,服装とかですね。常に敬意を払うってことはもう常に意識しています。どんな年代の方にも。だから高校生に対しても,絶対上から目線では接しないですね。言葉遣いはすごい親しげに言ったりしますけど。気持ちは一対一の人間同士っていう,そんな感じですね。(E)
何かお持ちだなって思う方は表情も暗いですし。何か,あります?って言ったら,本題に入る前に,30分近く掛かって。/1時間近くかかることもあります。他愛のない話からちょっとこう心をほぐして,っていうところから入るので。(G)
状況把握で落ち込ま
せない
状況確認にあたり,CLの自尊心に配意しながら質問内容やCCの態度を微調整し,フラットに,あるいはサポーティブに聴く態度。 退職された経緯であるとか。いけそうなときにはこれまでのキャリアを棚卸をしながら,フラットな気持ちで聞かせてもらうように,してることは大事にしてることです。(H)
具体的に聞いていきます。何社くらい受けてるんですか?とか,(内定ゼロでも),なんでだめだった?っていうのは,あんまり聞かない,そんな感じなんだねぇとか,今日のご相談は何ですか?とか,具体的に聞いていきますね。(D)
職歴なかったら,卒業なにしてた?,そうかそうか,家にいたんだ,大変だったんだねぇみたいな,(E)
義務感や怖れを意欲に変える就活準備 日常や好きなことの
話でほぐす
就職活動にまだ積極的ではないCLに,人と良い感じで話す体験を持ってもらうこと。 義務的に来た,っていうところを私は避けたいなと思うので,本当に他愛のない話から…何時に起きましたー?とか,昨日の夜どんな,テレビの話題だったりとか,どんなものに興味がありますかーとか,段々明るい服装になってこられたら,明るい色,似合いますねーとか。(F)
最近どんなゲームが流行ってると?,教えてーみたいな。多分,ダメダメって言われてる方が多いと思うので。(E)
前進したい気持ちと
手を結ぶ
自発来談でない場合でも,変化したい気持ちが本人にあるという事実を指摘し,意欲を意識化してもらうこと。 親に行ってみろと言われたみたいなときに,あの,ちゃんと来たんだって言いますね。全然来る気がなければ,来ないわけですよね,だから何か求めるところがあると思うので,何か聞きたいこととかあって今日来たの。っていう風なことをききますね。前向きだよねっていうところを。少しやってみようかなと思ってるから来たんだよね。やれるよね。っていうような。(B)
よくここまで決心してきたねとか,なんかきっかけあったの?とか,誰かに言われてきたの?とか。まあきっかけはそれであっても,自分から進んで来たっていうんであれば,まあ就職したいんだな,辛いんだろうなとか,そういう感じ取り方をします。(E)
良いところを自覚し
てもらう
CLの良いところを,社会で生きるものとして積極的に伝えること。 (初回で)自分が気づいていない良いところを言ってあげることですね。一番いいなぁと思うところをポンっと。聞く姿勢がすごく良いよね,それって社会に出たらすごく大切だよねぇって。ほんとに自分がダメって思ってる方には「私から見たら,いーっぱい良いところがあるよ。今10分しか話してないけど,私は,これとこれと~を感じたけど,違う?」「今,すっごく私の気持ちを敏感に感じ取ってくれてるよねぇ。ありがとねぇ」とか,そんなことを言います。(E)
職業観が広がるよう
な話をする
個々の仕事の意義や現実を想像させて職業観を広げてもらうこと。 あーそうなんだー,で,あなたはどう思う?もしかしたらね,それはご両親の考えかもしれないし。どんな仕事でもやっぱり役割がそれぞれあって,とても大事な仕事だから,こういうオフィスだってさ,お掃除の方がいなかったら,もうあちこち汚いでしょう(略)誰かがそこをやってくれてるっていうことにやっぱり一回知っていくと。(A)
好みや価値観が見え
てくるような小さな
課題や問いかけ
自分の気持ちが埋もれているときに,好みや価値化が見えてくるような手掛かりを与えること。 いや,もう,ほんとにそういう子は,全くわからないっていう感じなので,あの,私はもう,そしたら職種を置いといて,じゃあ家はここだから,どのくらいの距離なら通勤は大丈夫?とか(D)
なんかやりたいことが見つからないとか言われたら,じゃあ自分が,やってみて楽しそうなこととか,昔こういうことをやってみたかったけどあきらめたこととかある?って。そういうことがあれば,今度教えてください,って。(G)
働くことの意味付け
の転換
CLにフィットする要素で働くメリットを示唆し,働くことを義務から欲に替えるきっかけを与えること。 乗りたい車買えるかもしれんし,奥さんと子どもも持てるよね。奨学金も携帯代も払わないかんって思うとそうなんだけど,払えるよねっていう風に思ったらね,仕事って大事だよね,幸せなことだよね,とかって言います。楽しくなる。やっぱり捉え方をちょっと変えるだけで。(D)
バイト週1日でもいいからちょっとやってごらん。そうすると家におっても気持ち良くゲームできるよとか。(E)
必ず働けると確信を
もって伝える
絶対に働けるということを,事実として伝え,安心してもらうこと。 自立はしていかないけんからですね。絶対,ずーっとなにもせずに生きていけるってことはないからですね。で,絶対自立はできるからねっていうことは言います。(D)
徐々に本音に向き合い,本音から糧を得る就活準備 吐き出される思いを
しっかり聴く
仕事や家庭の事情などに関する不安や不満,憤り等を聴き,しっかり受けとめること。 やっぱり不安に思っていることを吐き出したいと思っているところがあるから,もう座った途端にワッと話されたりとかはするので,まずはそこを受け止める感じで。型どおりだと,やっぱり本人,喋りたい気持ちってタイミングを逃すと,なんか削がれてしまったりとかしますので。(C)
まだ家族がいる方は結構発散できてるんですけど一人暮らしだと,/まずは一通り,ある程度出して,落ち着かれないと次のステップには行けないなーって,/どういうことがあったのかっていうのをとことん聞かせていただくっていうスタンス(H)
振り返りのために段
階を踏む
重要な事を話したくないCLのそぶりに気づき,ペースを尊重すること。 まだしゃべりたくない時は話を全然違う方向に変えられます。ああこれは関わっているんだけど,まだ言いたくない部分なんだろうなあとか。それをなんとなく感じ取れるようなところは,私はあるかなと。/上司に,Fさんは相手の的を突くのが早いよね,と言われたことがあります。/やらなきゃいけない人と,やっちゃいけない,この人は違うよねと,その見極め。(F)
転職動機の元に関する話が出てきやすいように自然な質問で段階を踏むこと。 転職がどういう形で実現出来たら今回の転職よかったなーと思いますか?みたいなお話をして。そうすると大体人間関係が良いところーとか。あー人間関係前職はどんな感じでしたー?とかいうお話をすると,2回3回と,ちょっと近づけてこれたかなーって思った時に,こういうことがあってってお話をしてくださる。(H)
新しいことに挑戦してみたいって,本人は言われているけど,こっちから見ると引っ掛かり,違和感がある。そこを突っ込んで,「えっっ,上司って分かってくれなかったんですか?」って。/隠している部分を暴きだす訳ではないんですけど,そこが解決されないと結局,真の問題に気付かないまま表面的に,会社が自分のことを分かってくれないから…って。そういうのだけじゃなくて,本当に何がしたくてそう思ったのかとか分かれば,また解決方法とか,提案とか出来るのかなとか。本人がどう,深層で思っているのかが分かるように,投げかける感じですかね。(G)
自分の取り戻しにつ
ながる宝探し
傷つきや挫折があったとしても,誰にも奪うことのできないCLの志向性や強み,働くことで体験したいことを,CCとの話の中で改めて意識してもらうこと。 そこで学べたことってなんですか?この日はすごく楽しくて自分にご褒美上げたくなるような日ってどんなことがありましたか?って,聞くともう,お客様に喜んでもらったとかいっぱい出てくるんですよ。結構丁寧に丁寧に。職場についても,一番,キラキラ輝いてて今戻ってもいいかなー,会いたい戻りたい職場ってあります?って。/いいとこ探しをする課題,はたから見たらほんとに素敵だなって思ったことを言葉にする。/こういうことに自分としては働く喜びを感じるタイプなんですとか,意識してくると,見えなかったものが見える化されて自分の中でも落ち着いてこられるし,自信もまた戻ってきて徐々に。(H)
納得できる応募先の選定 譲れない大切なもの
を明確化し守ってい
く姿勢
CLにとって大切なことを,CLの話を聴きながら明確化し,譲れない条件を守るスタンスを取ること。 声の大きい人がいると,もうダメっていう人もいますし。趣味の大会が日曜日にある。あ,そうなんだ,じゃあ日曜日休みじゃないといけないね,サービス業はちょっと無理かなぁとか。大切にしてるものを守ってあげるための条件を探していきます。(E)
一人親のお母さんとかだと残業もできないし,土日祝は絶対休みだけど,絶対この金額は欲しいんです,子どもの進学のために,って言われると,本人さんが絶対大事にしたいっていうところなので,そこはもう否定はせずに,ただ,時間はかかりますよ,その覚悟はありますか。あなたに覚悟があるのであれば,一緒に頑張りましょうと。(C)
強みの活かし方に関
する視野を広げる
CLの強みが活かせる領域について,広がりを感じてもらうこと。 職種の部分で本人はこれだと思ってても,いろいろ話を聴いて求人検索をあえて違うところでやって,こういうのってどう,今までやってきたことって実はこういう事に生かせるんだよみたいに言ったら,はっみたいになって,その腑に落ちたりとか(B)
社会と自分を照らし
合わせる材料の提示
CLの考えが現実から離れている時,データや事例等の材料を提示してCLの判断材料としてもらうこと。 あなたが行こうとされてるのはこういった感じですかね?って,労働市場を理解してもらう為に求人票とか見せると,「えっ自分はいいほうなんですか?」って。/そこで良く考えてもらって(G)
情報を深堀する体験
をしてもらう
応募先を探すにあたり,分からないことは調べるという姿勢や,情報を深読みする観点を教えること。 この中いっぱい情報あるんだよっていつも言ってます。読む力,一回しっかりやると自分でも読めていくんですよね。会社の代表者の挨拶って必ずHPにあるよねって。その代表者どう言ってる?って,今後どういう方向に行こうとしてる?。自分がやりたいことができそうな方向にいってる会社なのか,それとももう,今持ってるものを維持していくためだけの考え方なのか,そのあたりもちゃんと読み取ってって言いますね。(E)
将来の在りたい自分
を意識してもらう
現在の判断の参考となるように,先の自分がどうありたいかを意識してもらうこと。 今は,お母さんが望む仕事でもいい,子どもさんをお迎えに行ける仕事でもいいですけど。お母さんとの,子どもとのかかわりって,あなたが80まで続きますか?。お母さんはいつか亡くなります,必ず独りになる時が来ますけど,お母さんが希望してた仕事で,自分が十分に満足できるって思います?って。その先があるっていう事を少し,視野に入れていきたい。(F)
社会の不確実性を意
識してもらう
変化の早い社会において先々に確かなものは何もなく,それでも大丈夫な自分を作っていくという観点で,今を考えてもらうこと。 終身雇用でもないので,一人ひとりが,しっかりこう,技術をもっていないと,どうなるかわからない。会社が守ってくれるわけではないから,ね。世の中どう変わっていくかはわからない。(C)
あまりに世の中の変化が早いので,それについていってない人も多いんですね。だから,会社も今いいけど,じゃあ10年後この会社あるかな?とか,この会社今のままだと,だって全部ロボットが変わっちゃうかもしれないよ?この会社はどうするつもりだろう?社長はどう思ってるかね?って言って,HPを見てもらって。(E)
どんな経験も生きる
という柔軟な考え方
を示唆
自分の人生や社会の将来を長期的視点をもって眺めることにより,一つ一つの経験に意義があると思ってもらうこと どんなに辛い時期,やりたくない仕事であっても,やっぱりそこの経験が,あなたの人格を培っていくのよと,いうところですね。/適性がないとか,無理とかっていう結論を早く出しすぎなので。(C)
しっかりと自分の目の前の仕事をやっていったら,なんとなく天職になってたなーってなるのが一般的なキャリアだと思うよーって。自分探しって,けっこうそれが悪循環になっていることが多くてーって。(H)
納得できる応募先の選定 気持ちのフォーカス
が定まるように手助
吟味して特に大切なものを選択し,気持を集中できるようにしてもらうこと。 この業界興味があるんだったら,まずはリサーチして,自分がほんとに興味があるのかどうか,できるか,できそうかな。(A)
営業マンになってこの商品の魅力を伝えて。そうじゃないと嘘をつきながら営業何年も仕事をしないといけなくなるので。商品力を見て,これなら世の中に役立てるとか,自信もって売れると言う会社を選んできてください。(H)
寄り添いながら,動
き出しの自己決定を
支援
CLの複雑な思いを聴き,時には見守り時には背中を押しながら,応募への一歩を踏み出すことに向けた自己決定のプロセスを支援すること。 なんかまだ,応募する感じではない,まだなんか気に掛けることはありますー?とか,聞いてみて。(G)
保育士の仕事大好きなのに,もったいないって思ったら,そこの職場大変だったけど,そうじゃない人間関係が出来上がってるとこも,あるかもよーっていうお話で,あのやっぱりしたいーっていう気持ちにな,なるまでは待つようには…しますね。(H)
あなたがすごく慎重になるのはわかる。けどもう○ヶ月検討してきたよね,何か得られたものがありますか?って話して,「いや,なんか焦りが強くなってきたんです」っていうお話だったから,バンバンやれとは言わないけど,8月はどうしても会社もお休みだったりするから,/あなたの中で,これが良いなと思ってるのね。も一回それ,本当かどうかちょっと気持ち,よく自分自身確認して。で,ここで働いてみたいと思うんやったら,エントリーしないと前に進まないよっていうような話をして。(D)
一致感のある書類作成 本当の思いを入れる
ための問いかけ
CLという人物が伝わるように,CLが働く上で大切にしたい思いや価値観を一緒に拾い上げていくこと。 エントリーシートの添削で来ても,結構掘るというか。こう書いてるけど,あなたはどんな思いでっていうその,自分の考えを言ってもらう。私の中ではやっぱり何かやったことが書いてあったときに,やっぱりそこに必ず自分の考えとかがある。思いっていうか考えとか,価値観とか,あると思うので,聞いてるんだけど。/この人に会いたいって思ってもらうエントリーシートを仕上げないとね,だから,自分の思い,そこに思いが入らないと通らないよーとか。(A)
フィット感を逐次確
認する言葉選び
一つ一つの言葉がしっくりくるか,CLに逐次確認を促すこと。 自分の気持ちってどうなんだろうかって,もう一回こう,戻していって。で,あの,いろんな言葉がある中で,あの言葉を選ぶことによって,自分の,こう,どう言ったら自分の気持ちが伝わりそうっていうような。(A)
少しのことで印象が
変わる体験をしても
らう
字の書き方や体裁など,ほんの少しの意識や工夫で印象が変わることを体感してもらうこと。 字を捨てるように書く子とかわりと多かったりしますよね。じゃあ1文字ずつ,丸を書いて,ここに字を当てはめて書いたら,バランスどんな感じとか言って。自分の字が,そんなに変わるんだってことも実感で,ほら,もうできるよ,ほらっていう感じですよね。書類も,線一本で変わりますもんね。職務経歴書なんてね。で,その細かい,小さなことでも,ただ単にそこが目立つようになったっていうことではなくって,そう,就活もそういうことだよねっていうようなことに,繋がったりとかも。(B)
厳しいがCLを尊重した面接対策 より正直に語れるよ
うな面接内容にして
いく
面接練習を機に改めてCLに問いかけながら,より素直に自分を表現できるようにアシストすること。 その子に応じてですけど,面接の練習とかに進んだ時には言うかもしれません。退職理由こんな風に言ってるけど,本当の理由はなんだったの?みたいな感じで。実はこうです,でも面接ではこれは印象が良くないので,これでって。悪いことではないから志望動機も言ってもらっていいと思うよ,とか,そういうのは言いますね。あんまり隠さないほうが良かったりとか,そういうのはあると思う。そんなに志望度が高くないところは,それでいってみてって。どんな反応が出るか聞かせて,とかって言って。(D)
実践的な面接練習 厳しめの面接練習で,CLの面接への心構えや集中力を引き出すようにすること。 常にトップできちゃった人は,注意されたりすると非常に傷つくんですね。だから面接練習する時に,挫折経験ありますか?とかいう質問を無理にします。終わった後に,なぜ会社がこんな質問すると思う?,実は社会に出ると理不尽なこととかいっぱいあるんだよね,/耐える力があるっていうことを別のところで伝えてもいいよね,何か一個エピソード用意しとこうか。トップ続けるの大変だったでしょ?どんな努力した?非常に期待をされていたそのプレッシャーにあなたは耐えてきたんだよねーって。(E)
まず自分で振り返り,
自己評価してもらう
面接練習の評価をまず自分でさせることにより,傷つきや反発を避けつつ,能動的に練習に取り組んでもらうこと。 最後に本人と,今日の面接対策の振り返りというのを行うんですね。まず,今日できたことを本人に,何でもいいのでできたことから,ていう形で,振り返りをします。笑顔でもいいですし,前言えなかった何が言えたでもいいですし,どんなことでもいいんですけど,まずそこから入って,今日ご本人にご自分的にはどれくらいできられたか,ていう評価を自分でしていただく。やっぱり自分で考える。自分の行動を自分で振り返る。一緒に話をする中で,それとまた違うところに私が感じたものがあれば,それを合わせていく形で。一方的にこちらから言ってしまうと,本人的にはダメ出しをされてる感,って私は否めないと思っているので。(B)
改善のポイントは良
い点とセットで伝え
CCからみて改善が望ましい点は,CLが受け取り易いように,良いこととセットにして伝えること。 爽やかでなんかいい感じだよなっていうのはあるんだけど,ぼそぼそ話してるので,自信がなさげなのは勿体無いよねって,褒めつつ,ちょろっと言うっていう。勿体無いよねとはよく言ってますね。(D)
本当にあなた美人だから,笑わないとお客様怖いよ,お願いだから美人の顔なんで,ちょっと笑ってよっていう言い方をして。ダメなところをバンっていうとやっぱ傷つくんで,勿体ないよーっていう言葉をよく使います。こーんな良いとこあるのにここが出来てないだけで,こんな誤解されちゃうよっていう。(E)
地道で効果的な努力
の方法を教える
CLが設定する目標に向けて,CLにできる努力の方法を具体的に教えること。 行きたい会社に採用されたいと思うんであれば,選んでもらうんじゃなくて,やっぱり自分も努力をしないと。鏡をたくさん部屋に置きましょうとか。だってすぐ出来ること言わないと,雲をつかむような話じゃないですか。口角を上げるにはじゃあ三日間頑張ろうか,お箸くわえて。目線上げるにはどうしたらいいのか。そこを言わないと自分は頑張っているつもりでも,違うんだなみたいなところになることがあるので,そこはわりと,細かく言いますね。(B)
教えるが選択は自由
意志
マナーの基本を伝えるが,状況次第であるし選ぶのは本人であるという意識を持ちながら教えること。 一応マナーは,伝えますけどね,敬語ができてその言葉ならいいけど,それができなくてその言葉はNGよ?。きちっと基本を知ったうえで崩してくださいって。職種によりますけどね。そのあとも必要もないかもしれないのでー。それ,そういう元気な感じがいいっていうところと,ご縁があれば,いいなーって,思う。(H)
人間関係向上のヒント オープンネスを伸ば
CLが人に親しみ,親しまれやすくなるようにアシストすること。 可愛がられて,長く働いてねっていう。素直さだったり,礼儀とかきちんとしてるっていう,そういう印象もすごく大事だし,茶目っ気があったりとか。あと感謝が多かったり。あなたのそういうところが可愛いよね,とか,そういうのは言ってますね。(D)
相談するっていうのは力だから,取り組んでいって育んでいってくださいと。辞めた方たちなので。だいたい上手に相談ができなくて抱え込んでとか。(H)
他者の視点に立つ体
験をしてもらう
人間関係に課題がありそうであれば,相手方の心情や立場が分かるように順を追って話し,時には折り合う必要があることを理解してもらうこと。 最近,相手の気持ちだったり,想像できる力が弱くなってきているのかな,って時々感じるときがありますね。ものの喩えで一個一個言っていかないと,本人がそこまで考えがおよばないので,だから私達もたとえ話が多くなって。どうですか?あ,むかつきますよね。って。そうなるとやっと,相手の立場が出てきて。(G)
でもそこを曲げないと採用はされないよって。年齢が行けば行くほど,職場に入って謙虚に学ぶ姿勢っていうのはいくつになっても大事だしっていう,目の前のことや目の前の人とか,その組織自体を大事にしてバカにせず。(A)
アサーティブな相談・
交渉の仕方を知って
もらう
主張しすぎる場合,意向自体は否定せずに,反感を持たれにくい話し方を教えること。 ストレートに「休んでいいですか」と言われたら。私聞くんですよ,子ども,ずーっと病気していますか。いや,インフルエンザもかかりません。だったら,うちの子はインフルエンザもかからないほど元気なんですけれど,子どもなのでいつどうなるか分からないので,そういう時って,お休みって相談できますかって,伝えて,相談してみたらどう?と。(F)
面接へのトライを成長の実感で支える 不採用に備えるワク
チン
不採用への心の準備のために,実情を知っておいてもらうこと。 事務職の人には30社の中で1社ぐらい面接でいけたら,素晴らしい(拍手)と最初に言っておきます。マッチングの話もして,上司が主任クラス30代40代で,欲しいのが20代だったら,悲しいかなその方々が決まっちゃうので。受け皿に綺麗にはまる人が決まっていくので。あなたみたいなベテランの方だったら引っ張っていってほしいポジションのところにしっかり嵌って行かれます。(H)
不採用への意味付け
の転換
不採用になったことにも意味があるという捉え方の示唆。 じゃあそんな会社入んなくて良かったじゃんって言うと,「えっ」みたいなときもあります。もし入ってたら,そういう上司とやりあって,長く続かなかったかもしんないよね。じゃ,あなたが考える,職場とか会社とかって何なんだろうねって。こういう会社が良いって言ったときに,じゃあ,そういう会社ってどういう会社なんだろうって言いながら,探していったりとかして,(A)
面接を自己成長の場
と捉えるように導く
結果にかかわらず自己評価をし,出来る努力をするなど,振り返りと努力を通して成長を実感してもらうこと。 着席の時に足が開かなかったでも,何でもいいんです。とにかく前より変わってる自分を認める。変わってく自分が自分で自覚できる。ていうことは,もっと自分が伸びしろがあるということもわかっていくということに繋がるかなとって思ってはいるんです。/本当に自分が行きたい会社に採用されたいと思うんであれば,あたしはこうですっていう選んでもらうんじゃなくて,やっぱり自分も努力をしないと。だから表情の作り方を三日間頑張りましょう,鏡をたくさん部屋に置きましょう。口角を上げるにはお箸くわえて朝晩鏡見てとか。どうしたらいいのかを言わないと自分は頑張っているつもりでも,違うんだなみたいなことがあるので。(B)
情報を取り,判断す
る主体となることを
意識してもらう
CLは面接において相手方を観察し判断する立場にあることを意識してもらうこと。 あなたの嫌だった上司に似た人,似た言葉づかいだとか,あるかどうかを,しっかりあなたは見ないといけないですよ。ていうようなことは伝えますね。/違和感を感じるのだったら結果が出る前に,辞退してもらってもいいんですよと,(G)
だから会社に行って,見てくる,聞いてくるのは,どこが辛いかどこが大変か聞いてきて,だからこそやりたいって言っておいでって言います。そんな楽しいキラキラした仕事ばかりではないので,その裏側を聞くといいよって話をします。(E)
時には休んでもらう 結果がなかなか出ないことに焦り,悪循環に嵌っている人には,就職活動から距離を取ってもらうこと。 焦っていかれようとするけん,そういう時,休みましょうと。1回ゆっくり,立ち止まって,気持ちも身体も休めて。(F)
求職者の方も言われるんですけど,自分のテンションが下がっていると,持ってくる求人が,変なのが多いんですよ。引き寄せてるっていうか。目が曇ってましたっていうんですけど。「一回リセットしよう」,っていうのは,そういうことがあって。(G)
未熟でも不安でもやっ
てみるという意識の
醸成
自信がなく不採用になりがちなCLに,自信が無くても良いと伝えて背中を押してみること。 事業所さんも,積極性を見せてほしいと思っている。最初は未経験だから出来ないのは分かっている。だけどもそこに対するあなたの心構えを聞かせてほしいっていうのもあるんですよねって。そこであなたが,圧迫だ,駄目だ,できない,不安だ,って諦めるのか,不安はある,出来ないのは当たり前,でも,頑張るっていう意欲を,見せるか見せないかで,採用されるか採用されないかは,変わってくると思うけど。っていうのは言うんですけどね。成功事例も言って。ただ,そこまで言っても積極性の言葉が返ってこなかったら,気分が落ちて,不安が先に来て,やる気がそがれているのか,っていうところはあるので。(G)
幸せな職業人になるための送り出し 否定的要素への心構
えと主体性の喚起
就職先で不満を感じても被害感に陥らず,主体的に状況改善を目指していけるという話をすること。 入るとたぶん,ちょっとギャップがあるよ。特に女性にはそれは言いますね。こういう教育受けてきたでしょ,違うんだよね現実は。やっぱり厳しいから大変だよって。でも私たち働く人たち,女性が頑張らないと良くならないんだよね。今,楽になってるのは,先輩たちが頑張ってるからなんだよって,そんな話をして,まぁ頑張りすぎないことだねって。/自分の能力をしっかり出し切れる環境にいてほしいと思うですね。だからそういう環境は,与えられるんじゃなくて自分で作るんだよ。そういう環境は自分で勝ち取るんだよ。お給料も勝ち取るんだよって,言ってます。勝ち取るんだよは不満を持ってる人に言います。(E)
取り組めば何でも
先々に生きるという
意味付け
意識して取り組むことで何でも自分の実に出来るという話をすること。 今回応募書類をつくる中で,あなたの強みとかいろいろ考えたよね,これから仕事する中にも,この会社ずっと勤められれば良いけど,どうなるかわかんないよ,5年後,10年後,わからなくなったときに,じゃあ私の強みって?っていうことを意識しながら仕事をしていてね,と。そしたら,自分はどういったところを伸ばしていったら良いのか,わかってくるよね,と。/どういうことをやりたいっていう意思。で,この仕事をすることによって,何を自分身につけていくのかって,ちょっとでも考えながらやっていくと,その仕事に対するやり方も変わってくるし,やりがいももてるようになると思うよっていう話をします。(C)
図1結果図

(2) ストーリーライン

公共職業安定所における熟練CCは,就職するうえで課題があると見受けられるCLに対して,冒頭から相手にチューニングを合わせつつ距離感を微調節して【安心かつ気分が上がる出会い】をもたらし,対象者の状況に応じて【義務感や怖れを意欲に変える就活準備】や【徐々に本音に向き合い,本音から糧を得る就活準備】を行う。CLが就活に向き合う準備が出来たら順次,【納得できる応募先の選定】や【一致感のある書類作成】,【厳しいがCLを尊重した面接対策】,【面接へのトライを成長の実感で支える】支援を行い,その過程でもしCLに人間関係上の課題が懸念されるようであれば【人間関係向上のヒント】を提供する。やがてCLが就職活動を終了したら【幸せな職業人になるための送り出し】を行う。

(3) 支援プロセスに関するカテゴリごとの説明

以下に,分析焦点者らが行っている支援の流れを,カテゴリで区切りながら説明する。なお,各カテゴリにおける分析焦点者の代表的な発言を適宜「」で引用しながら記述する。

1) カテゴリ【安心かつ気分が上がる出会い】

公共職業安定所での初回面談の殆どが予約無しの窓口対応である。CCは,冒頭から徹底して[リスペクトし,チューニングを合わせる]ことを心がけ,「相手によって話し方が全然違う」(B)合わせ方で臨む。CLの状況と課題,真のニーズを知るために質問していく際には,[状況把握で落ち込ませない]ように,質問内容や非言語コミュニケーションを微調整してCLの自尊心に配意し,CLの話をフラットに,あるいは労いを添えながらサポーティブに聴き取る。

2) カテゴリ【義務感や怖れを意欲に変える就活準備】

就労意欲が低く義務として面接を受けるCLとの面談で,CCは,[日常や好きなことの話でほぐす]ようにし,面談に対する否定的な気持ちを和らげていく。一方,来所に対して消極的な態度を見せるCLに,「来たんだね。少しやってみようかなと思ってるから来たんだよね。」(B)といった会話によって,行動の奥にあるCLの変わりたい気持ちをCCが取り上げ,[前進したい気持ちと手を結]んだりもする。

次いでCCは,CLに対して[好みや価値観が見えてくるような小さな問いかけ]をし,見えて来たCLの欲求に関連付けて,[働くことの意味付けの転換]にかかわるヒントを提供していく。

CLが職業に関するイラショナルビリーフを周囲から取り込んでいる場合には,CCは例を挙げながら[職業観が広がるような話を]し,あらゆるひたむきな仕事が人から喜ばれることをCLに伝える。CCは自信が乏しいCLに対して[良いところを自覚してもらう]ようにしたり,[必ず働けると確信をもって伝え]て保証したりもするが,これは実際にすべてのCLが「いーっぱい良いところ」(E)を持っていて,「働く覚悟」(A)が出来れば誰しも就職していく,という経験に基づいている。

3) カテゴリ【徐々に本音に向き合い,本音から糧を得る就活準備】

転職や再就職をめざすCLの場合,特に今まで相談相手がいなかったケースほど,「ある程度出して,落ち着かれないと次のステップには行けない」(H)ことから,CCはCLから[吐き出される思いをしっかり聴]いていく。一方でCLが求職について抽象的な希望を述べるに留まり,「こっちから見ると引っ掛かり,違和感が」(G)感じられるなど,まだ十分に語られていない,あるいはCLの中で何かが明確になっていないと感じられる場合,CCは,[振り返りのために段階を踏]んでいく。CLの話の「的を突く」ことを「やらなきゃいけない人と,やっちゃいけない,その見極め」(F)の塩梅があり,CCが思いを語り易いように「上司って分かってくれなかったんですか」(G)等と,CLの話を促し未整理な問題に気づくための支援を行うこともある。場合によっては,何度か面接を重ねて周辺的な話をしながら,自然とCLから話が出るのを待つことこともある。

CLが前職等での挫折や不満,傷つき,あるいは後悔の念を抱いているならば,さらに奥に「本当に何がしたくてそう思ったのか」(G)という本音の核心があるはずだとCCは考える。ここでいう本音とは,CLが働く場でこうありたいとイメージする自分やもっと体験したいこと,理想的な人間関係などである。CCは本音が出て来易いように,今までの仕事で学べたことや嬉しかったこと,就業経験が無い人なら今まで行ってきたことなど(H),いろいろな切り口でCLに問いかける。このようにしてCCは,挫折や足踏みの最中にあっても奪われることがない志向性,思い浮かべるだけで本来感やエネルギーが出てくるような労働イメージが確かにあることを,CLに改めて意識してもらう。これが[自分の取り戻しにつながる宝探し]である。

4) カテゴリ【納得できる応募先の選定】

やがて次の仕事を選択する上でCLが何を大切にするかを問い直し明確化していく作業に入る。CC から見てCLの理想が高いと感じられる場合でも,CCは[譲れない大切なものを明確化し守っていく姿勢]を示す。現実の難しさを知っておいてもらう際には,データや事例など[社会と自分を照らし合わせる材料の提示]を行い,CLが判断材料にできるようにする。同時に,CCはCL自身が考えてもいなかった職域を提示して[強みの活かし方に関する視野を広げ]てもらう試みも行う。このことは,その職業をCLが選択するかどうかにかかわらず,CLの視野が広がることにつながる。

続いて応募先を探し始める段階で,CCは現代の[社会の不確実性を意識してもらう]ような話をしたり,CLに[将来の在りたい自分を意識してもら]い,[どんな経験も生きるという柔軟な考え方を示唆]したりする。するとCLは,それまでよりも広い職域や多くの職場について,働く意味を感じるようになる。またCCが,会社が公開している僅かな情報から推理力を働かせることを教え,CLに[情報を深堀する体験をしてもらう]と,CLは「一回しっかりやると自分でも読めるようになる」(E)。

このようにしてCL自身のキャリアイメージや職業観・職場観に膨らみと深まりが出て,芯も出来てきたところで,具体的に応募先を選択する段階に入る。CCは改めて,CLが選んだ会社で実際に働くことをイメージした上での研究を促すなど,[気持ちのフォーカスが定まるように手助け]をして,本当に応募して良いと思えるのかの自己吟味をしてもらう。

一方で,なかなか応募に向けた具体的な一歩を踏み出さないCLもいる。そのようなCLに対してCCは,今この時点で就職すること自体に対して何が引っ掛かっているか,心情を聞き,時には背中を押し,時には本当に動き出す気持ちになるまで待つというように,[寄り添いながら,動き出しの自己決定を支援]する。

5) カテゴリ【一致感のある書類作成】

応募書類の作成にあたっては,「皆さん嘘は言いたくない」(H)し,「そこに思いが入らないと通らない」(A)ので,[本当の思いを入れるための問いかけ]をして,CLが働く上で大切にしたい思いや価値観の明確化を手助けする。その上で,「自分の気持ちってどうなんだろうかって,もう一回こう,戻していって。いろんな言葉がある中で,どう言ったら自分の気持ちが伝わりそう,っていうような。」(A)と,[フィット感を逐次確認する言葉選び]が繰り返されていく。書類の体裁などアドバイスするが,それによって[少しのことで印象が変わる体験をしてもらう]とCLは驚きを感じる。CCはそれが「就活もそういうことだよねっていうようなことに,繋がっ」(B)て,変化の喜びを感じるようになればと思っている。

6) カテゴリ【厳しいがCLを尊重した面接対策】

面接対策はCLが突っ込まれそうなことを盛り込んだ[実践的な面接練習]にしてCCが厳しめの面接官を演じたり,日々取り組めるトレーニング法など[地道で効果的な努力の方法を教え],CLの集中力を引き出す。また面接練習の振り返りでは,CLが自分で課題と成長を意識できるように,CCが指摘するよりも先に[まず自分で振り返り,自己評価してもらう]ようにする。[改善のポイントは良い点とセットで伝える]よう配意し,CLが自身の課題を受け止め易くなるようにする。CCから見て深みが足りないと感じられる箇所があれば,CCはどこかCLの本音に根差していない部分があると捉え,改めてCLに問いかけて[より正直に語れるような面接内容にしていく]。マナーについては[教えるが選択は自由意志]という態度で,「基本が分かっていないと崩せない」(B,H)といった教え方をして,本人の主体性が保たれるようにする。

この時期のCCは,ともすればどうすれば採用してもらえるかと,他者の求めに合わせる構えに流れかねない面接対策を,主体的な発見と取り組みの場としてCLが感じられるように話をし,CLの自己選択や努力をサポートし,成長の実感が得られるようにする。

7) カテゴリ【人間関係向上のヒント】

「皆さん8割方,人間関係が気になられる」(F)こともあって,CCらはCLが他者に親しみ,他者から親しまれやすくなるように,他者に対する[オープンネスを伸ばす]ようアシストする。それは例えば,CLの素直さが出ている時に「あなたのそういうところが可愛いよね」(D)とフィードバックをするといったように,機を捉えて行われる。

人間関係に課題が生じかねないCLに対しては,立場の異なる他者の心情が分かるように,CCが例を用い,順を追って考えてもらうようにするなど,[他者の視点に立つ体験をしてもらう]ようにする。さらに,相手に配意しながら自分の気持ちを伝える[アサーティブな相談・交渉のモデルを示す]こともCCは行う。これらの支援は内定を得るためだけではなく,「他責にしない」「人のせいにするとそれはもうほんとに離職率高くなると思ってるので。」(B)というように,就職後の適応力を上げるための支援でもあるとCC自身が捉えている。

8) カテゴリ【面接へのトライを成長の実感で支える】

CLの希望職種によっては不採用が続くため,事前に実情をよく伝え[不採用に備えるワクチン]とする。選考結果はあくまで先方とのマッチング次第である等と伝え[不採用への意味付けの転換]を行うとともに,採用面接はCLが選ばれるだけでなく,CLが自分の譲れない点について確認し,選ぶ場でもあるとして,[情報を取り,判断する主体となることを意識してもらう]ようにする。面接の後には,今回の面接で出来たことを自己評価し次なる目標を立てるようにいざない,[面接を自己成長の場と捉えるように導く]。ただし不採用が重なり負のスパイラルに入った人は,エネルギーや判断力が弱ってくるため,[時には休んでもらう]ことを勧めて立て直しを図る場合もある。面接で働く覚悟を示すことができない人には,[未熟でも不安でもやってみるという意識の醸成]をして励ましていく。

この段階でのCCは,なかなか結果に繋がらない時でもCLが自己肯定感や前向きな取り組み姿勢を維持してレジリエンスを発揮できるよう支援する。不採用が重なっても,CLが自己評価をして次なる課題を設定することができれば,「自分に伸びしろがあると感じ」(B),仕事でもこのようにやっていけるというイメージが出来,面接での言葉も力強くなっていく。そこまで来るとCLは「働くことが分かるとか,こんな風に生きていけばいいんやねっていうのが」(D)分かるようになり,内面から輝き,「ほんとに誰が見てもわかるオーラみたいなのが出て」「憑き物が取れたみたいな感じに」「顔がキラキラ」(C)して,人目を惹くようになってくる。

9) カテゴリ【幸せな職業人になるための送り出し】

就職先を決めたCLには,就職後に起こってくるであろう苦労に向き合えるように,「自分の能力をしっかり出し切れる環境は,与えられるんじゃなくて自分で作るんだよ。」(E)と話すなど,[否定的要素への心構えと主体性の喚起]を行う。また就職後も先々の自身のキャリアを意識できるように[取り組めば何でも先々に生きるという意味付け]を示唆したりする。それは就職してからもCLが主体的な取り組み姿勢であるならば何事も乗り越えやすく,CLの今後に生きてくるとCCが考えているからである。CCは,やりがいを持って長く働いていくことを願いながら,CLを送り出す。

4. 考察

本研究の目的は,公共職業安定所の熟練CCらが,就職するうえで課題があると見受けられるCLに対して行う支援プロセスの特徴を解明することであった。以下に,再就職支援会社のCCの支援プロセスを解明した馬場らの研究12)とも比較しながらプロセスの特徴を見ていく。

(1) 支援プロセスの構造と支援のスタンス

CLの気持ちを明確化しながら応募先を絞っていき,書類作成や面接練習をサポートするといった,本研究のCCにみられる就活支援の主な流れ自体は,一般的なものであるように見受けられる。ただし本研究のCCは,就職するにあたって課題があると見受けられるCLへの支援初期において,転職や再就職を目指すCLと,就労経験が殆どない・就労意欲が低いCLとで,異なる支援を行っていることが示唆された。

転職・再就職希望のCLに対して当研究のCCらは,[吐き出される思いをしっかり聴く][振り返りのために段階を踏む]という支援プロセスを取り,CCがまずCLのペースで本音を出してもらい,しっかりと受け止めるプロセスを大切にしていることが窺える。これらは馬場ら12)の「会社への負の感情を受けとめる」「失業の経緯を大事に扱う」という概念と共通するものである。[自分の取り戻しにつながる宝探し]は,馬場ら12)でいう「往時の自信の回復」「どこでも活かせる強み探し」に当たる。このように本研究のCCらは再就職・転職希望のCLに対して,まず支持的アプローチ色が強い支援を行う特色が見られる点で,馬場ら12)の研究結果と合致している。

一方で,就労経験のない人・就職に対する意欲が低い人への初期支援においては様相が異なる。例えば本研究のCCからは[前進したい気持ちと手を結ぶ]といった概念が抽出されている。消極的なそぶりを見せるCLに対してCCが対話の中で,変化したい気持ちに気づかせる関わりであり,CLの主体性を喚起させる介入と言える。やりたいことが分からないというCLに対しては,CCが[好みや価値観が見えてくるような小さな問いかけ]を行い,見えて来たCLの欲求に関連付けながらCL本人の[働くことの意味付けの転換]にかかわるヒントを提供していく。どのような職業も社会の役に立っているという[職業観が広がるような話をする]ことも,就労経験がないCLに対する特徴的な支援であろう。

このように,本研究のCCらが行う支援には,馬場ら12)の失業者支援では抽出されていない概念が多く見られた。就職経験が殆どない・就職への意欲が低いCLであるということは,労働に関する自己効力感の低さ,対人関係への自信の無さ,社会に対する不信感など,CLが社会に対して何らかの負の感情を抱いていることが想定される。CLの不安や猜疑心にCCが寄り添うだけでは,「就職しなくて済むならしないでおきたい」といった消極的な気持ちに引っ張られかねないため,支援初期からCCが機を見ながらCLの小さなチャレンジを仕掛け,CLの意欲等を育てようとしていく部分があるものと推察される。

支援中期にも馬場ら12)にはないカテゴリとして,【人間関係向上のヒント】なるカテゴリが抽出されている。これはCLが面接の場や職場で他者との信頼関係を構築しやすくなるようなアシストである。それは,公共職業安定所の支援対象者に,就労経験が無かったり,度々離職していたり,「相手の気持ちだったり,想像できる力」(F)が弱いように見受けられるCLが含まれているという特徴に応じたものであると考えられる。

また他にも支援中期以降,応募先の選定,書類作成,面接対策と,支援が進んでいく中で,就職後も生きて来るようなものをCLに伝授し,CLを育てようとするニュアンスのカテゴリや概念が抽出されている。この特徴も馬場ら12)と比較すると明らかになり易いであろう。馬場ら12)には,[対等な関係性の醸成][同じ目線で二人三脚][求職市場の厳しさを同時に体感する][再就職の踏ん張りどころを同時に感じる]などの概念がみられ,就職活動の[活動の振り返りによる問題の明確化]をしていくプロセスでも,「二人で一緒に考えるって感じ」という代表例が示されるなど,CCがCLとの対等性を特に意識していることが表現されている。就職活動の後半になるにつれて選択肢を示す・背中を押す・促すといった概念名が増えていき,コーチング的な役割が現れてくる。総じてこのCCらは失業を経験したCLの心情に配意し,CLが持っている能力を認め,CLの力が就職活動の場で発揮できるようにし,再就職市場の厳しさに直面した際には現実的な再考を促すという支援のスタンスであるように見受けられる。

一方本研究では,応募先の選定から面接期間に至るまで,[強みの活かし方に関する視野を広げる][情報を深堀りする体験をしてもらう][どんな経験も生きるという柔軟な考え方を示唆][少しのことでも印象が変わる体験をしてもらう][まず自分で振り返り,自己評価してもらう][面接を自己成長の場と捉えるように導く]といった概念,【人間関係のヒント】といったカテゴリが並んでいる。これらは,就職活動自体をCLにとっての学びの場とし,CLが主体的に取り組んで成長できるようにアシストすることが現れている概念である。支援終了時にもCCらは[取り組めば何でも先々に生きるという意味付け]をするなど,別れ際までCLに今後につながる学びを示唆しているさまが見受けられる。

このように,公的職業安定所の熟練CCらが就職するうえで課題があると見受けられるCLに対して行う支援のプロセスでは,一般的な就活支援の流れを取りながら,初期から終期に至るまでCLの社会人力を醸成するような育成的アプローチが取られていると言えるであろう。

(2) 育成的アプローチが奏功する要因

就職に向けて課題があると考えられるCL自身がその課題を自覚しているとは限らない。育成的アプローチは慎重に行わないと面談の継続が危ぶまれるであろう。CCらの育成的アプローチを成り立たせているのは何なのかという観点で,本研究のCCらの支援を今一度振り返ることとする。

1) 徹底した受容

概念[良いところを自覚してもらう]の具体例(E)に見受けられるように,CCらはCLの強みや人間的魅力を把握するスピードが非常に速いようである。また支援初期に[好みや価値観が見えてくるような小さな問いかけ]をCCらが行うプロセスでは,やりたいことが見つからないCLに対して,「昔やってみたかったけどあきらめたこと」(G)など,今のCLでも答えられそうな問いが選ばれていく。CCのこの関わりには,就活の入口において無理をして背伸びをしなくても良いと,CLの本来感を大切にするメッセージが滲み出ている。[働くことの意味付けの転換]をする際のCCらは,CLの生活や好みがどのようなものであってもそれを否定せずに乗っていき,より楽しくなる方向に労働があるのだとCLが感じられるような示唆を行っている。一方,CLの望みが叶いにくい場合「本人さんが絶対大事にしたいっていうところなので,そこはもう否定はせずに,ただ,時間はかかりますよ,その覚悟はありますか。あなたに覚悟があるのであれば,一緒に頑張りましょう。」(C)等と,その難しさを伝えながらもCLの望み自体は否定せず,[譲れない大切なものを明確化し守っていく姿勢]を取る。人間関係の課題が見て取れるCLに対してCCが【人間関係向上のヒント】を示唆する際には,CLの意向そのものを否定せずに,[他者の視点に立つ体験をしてもらう]ようにし,反感を持たれにくいような[アサーティブネス]を教える関わりがなされている。

こうしたCCらの関わりには一貫して,CLの意向や本音に沿っていき,CLの現状を否定せず,CLが大事にしているものをCCも大事にする態度が見て取れる。そしてCCらがCLに新しい視点やスキルを提供する際には,専らCLの意向や大事なものを守る文脈と関連づけながら行われている。Rogers15)は「その人間を,自己理解,自己評価,自己決定の権利と能性(Capacity for growth)をもったひとりの人間として尊重するというフィロソフィーの,徹底的にして詳細な実現化」により,「彼が他人のなかに知覚する態度に照らし合わせて,責任のある,社会化された行動方向を選択する能性-がいちじるしく解放される」と述べている。働くことが好きで社会のことを良く知っている熟練CCらが一貫してCLを受容していることで,CLは強いサポートを感じ,それまで遠慮していた自分の願いをもう少し追求し,社会の中でやってみたいという素直な気持ちが生まれることが,CLらがCCの育成的アプローチを受け容れる土台となっているのではないかと考えられる。

2) 先々に生きる学び

ではCCはCLの中の何を育てるかといえば,今回抽出された多くの概念に含まれる成分に,主体性の喚起がある。支援の開始時点で[前進したい気持ちと手を結]ぶ。面接対策ではCCが先に課題点を指摘するのではなく,[まず自分で振り返り,自己評価してもらう]ようにし,自分で判断する姿勢を習慣づける。マナー等を教える際にも[教えるが選択は自由意志]というスタンスである。面接を受ける時期には,CLが会社を見極めるように[判断する主体となることを意識してもら]い,[面接を自己成長の場と捉えるように導]いて,合否よりも成長の方にCLの意識を向かわせる。内定が出たCLにもCCは[否定的要素への心構えと主体性の喚起]を行う。

CCらが主体性を重視するのは,「人のせいにするとそれはもうほんとに離職率高くなると思ってるので。」(B)という語りに代表されるように,主体性が就職後の適応に直結すると現実をCCが多く見て来ていることや,変化の激しい現代において求められているのが自律型人材であること16),変化に柔軟に対応できる能力であるキャリア・アダプタビリティ17)を備えることが,CLが社会で長く働いていくために必要であるとCCが考えているからかもしれない。

同時に,[本当の思いを入れるための問いかけ][フィット感を逐次確認する言葉選び]等,自分の納得感を逐次確認して自分に根差していく体験様式も,今回抽出された複数の概念に関係する成分であると考えられる。自分らしくある感覚を意味する本来感は,自分の責任により選択し,新しい可能性へと踏み出し自分を改善させていこうとする意識にとって重要な内的資源であるとされている18)。本研究のCCが,徹底してCLの納得感を確認するように働きかけているのは,それがCLの本来感を確かなものにし,主体性の土台となるからかもしれない。

CCらがCLの中に主に育てようとしている成分が,本来感や主体性といったものであることは,CLにとって就職活動に留まらず先々の自分にとっても大事なものとして響き,納得できる方向性であるため,CCらのアプローチを受け容れ易いのではないかと考えられる。

3) 具体的方策への落とし込み

熟練CCは,CLの課題についての助言をしばしば行っている。それらの助言は,非常に具体的で実際的であり,しかも多様である。「すぐ出来ること言わないと,雲をつかむような話」(B)になってしまうため,CCらはその場その場で,CLが取り組めるような方法に落とし込む。その際,CCが使うのは「ものの喩え」(G)や,CLがその場やホームワークでできそうな具体的方策であり,CLの目標やニーズに絡めて[アサーティブな相談・交渉の仕方を知ってもら]ったり,[地道で効果的な努力の方法を教え]たりする。

例を挙げる。書類作成において[少しのことで印象が変わる体験をしてもらう]例として 「字を捨てるように書く子」に,丸の中に字を書いてもらう(B)という語りがある。方法は具体的であり,「自分の字がそんなに変わるんだってことも実感で,ほら,もうできるよ,ほらっていう感じ」(B)をCLは,その場で体験できる。

更に,この例の背景には,CCの見立てがある。「捨てるように」書かれた字は,おそらく自分自身や他者に対する態度を反映しており,その特徴が彼の人生の様々な局面を左右することも推測されている。そして,CCはそのことを単に言葉で指摘するのではなく,今のCLにすぐ出来る実技を与える。やってみたCLが自身の変化を捉える時,自ずとCLは,思った以上に丁寧になった自分が書いた字(それはCL自身の一部であろう)を見ると同時に,その字が相手にどう映るか(自分がどう見えて扱われる可能性があるのか)という他者の視点に立つことにもなる。「その細かい,小さなことでも」「就活もそういうことだよねっていうようなことに,繋がったりとかも。」(B)というCCの語りからは,具体的な一つの洞察体験が様々なことを象徴する共通のものであるとCCが想定しており,気づきのきっかけとして,CLの中で活用されればさらに良いと願っていることが窺える。

こういった関わりは,単に「綺麗な字を書きなさい。採用されやすくなるために」というような単純なアドバイスとは本質的に異なる。本研究の熟練CCは,先の 2)で述べたように,目先の採用だけではなく,CLの主体性の獲得や自己成長につながるような育成的な支援を重視している。CLが取り組めるような具体的方策で地道に努力し,成長を実感する体験を重ねていくほどに,CLは,就職支援の場をまさに成長の連続の場として感じるであろう。そのこと自体で,CL自身が自分を伸びしろのある存在だと感じて生き生きし,このようにして働いて生きて行けばよいのだという体験的理解と希望が生まれてくるのであろう。

5. 本研究の限界と今後の課題

本研究は公共職業安定所の熟練CCの支援プロセスに関する仮説生成を試みた。熟練CCらが,CLに対する徹底した受容や,CLの先々に生きる支援を提供しようとする姿勢をベースに,支援過程の初期から終期に至るまでCLの社会人力を育てるような育成的アプローチを織り込んでいるという特徴が見える結果となった。熟練CCらによる具体的な関わり方に関する諸概念とプロセスの記述は,非熟練CCにとっては,難しい相談者にかかわる際の知恵やヒントとなり得るであろう。

ただし今回の選考方法は厳密とは言い難く,調査協力者は特定の地域で集められており,全員女性であった。今後分析対象者を増やして,公的就職支援機関の優秀なCCの特徴のバリエーションについて,さらに検討していく必要がある。また今回はCC側へのインタビューに留まっており,CCから支援を受けたCLがその支援をどのように捉えているかについては検討できていないため,求職者側にも調査も行い,研究結果を裏づけることが望ましい。

そして今後は,調査で得られたことを現場に還元できるように研究を進めることが求められる。そのためには今回明らかになったような支援態度や多彩な育成的アプローチを,熟練CCがどのようにして身につけるに至ったのかを解明することも必要になってくる。その上で,熟練CCの優れたアプローチを,多くのキャリア支援者が参考にして修得できるような研修プログラムを創出し,成果を検証していくことが望まれる。

謝辞

調査にご協力くださったCCの皆様,CCの推薦にご協力くださった皆様に心より感謝いたします。

付記

本研究は科研費(19K03361)の助成を受けたものである。

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