Human Sciences
Online ISSN : 2434-4753
Original Article
Annual changes of health status and lifestyles in university students examined in regular health checkup and lifestyle survey
First report: Self evaluations of physical and mental health
Hiromi MurataniYaemi HamadaYoshiko EdaAkane KusubayashiRie Tsuji
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2025 Volume 7 Pages 22-32

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抄録

九州産業大学の1年生,4年生について,身体的ならびに精神的健康度の自己評価は,全体としてみると2003年から2024年まで改善していた。生活習慣に関する調査票が現在の表現に統一された2018年以降のデータを用いて,多重ロジスティック回帰分析を行っても経年的な改善は有意であった。性,学年によらず,一回30分以上の運動習慣や,週4日以上の朝食摂取の習慣を持っていれば,身体的,精神的な健康度を非常に~そこそこ良いとする自己評価が有意に増え,意識障害の経験があると非常に~そこそこ良いという自己評価が有意に少なかった。4年生の女性を除き,BMIが18.5未満か30以上であっても,身体的,精神的な健康度が非常に~そこそこ良いという回答が有意に少なかった。一度に飲酒する量が3合以上であれば,身体的健康度については非常に~そこそこ良いという回答が有意に少なかったが,精神的健康度については有意ではなかった。

Abstract

Freshmen and seniors in Kyushu Sangyo University showed improvement in self-estimates of physical and mental health status between 2003 and 2024. We performed multiple logistic regression analysis using the data obtained on 2018 and later when we unified the expression of the questionnaire to the current one. This certified statistically significant improvement in the self-estimates of health status. Regardless of the gender and the grade, students having exercise habits 30 minutes or more at a time and those having breakfast 4 or more days a week answered significantly more frequently “very or fairly good” physical or mental health status. On the contrary, those having experience of consciousness disorder answered significantly less frequently “very or fairly good” physical or mental health status. Except for the senior women, BMI less than 18.5 or BMI more or equal to 30 were associated with significantly less frequent “very or fairly good” physical or mental health status.

Alcohol consumption 80 g or more at a time is associated with significantly less frequent “very or fairly good” physical health status, but not with the mental health status.

1. 緒言

若年時に自己評価した健康度が低ければ,その人の将来の社会・経済的な立ち位置が低下しやすいことが報告されており1),大学では学生の健康度をより良く維持したい。多くの学生は慢性的な疾病を有しておらず,そのような学生に働きかけるには,まず適切な生活習慣の維持から始めたい。これまで,九州産業大学の学部生(九産大生)には2003年の時点で高頻度に喫煙習慣が見られること2)を報告し,その後の検討でも,飲酒習慣を持つものが多いこと3)や身体的あるいは精神的な健康度の自己評価が低い学生に運動習慣がない者が多いこと4)を述べ,運動習慣と朝食摂取が良好な健康状態に関連する可能性4)5)を指摘して来た。自己評価した健康度が低いと,除籍・退学や進路未定のままでの卒業が増える可能性も指摘した6)。除籍・退学や進路未定のままでの卒業に結びついている生活習慣は,運動習慣を持たないこと,朝食摂取の習慣がないこと,喫煙者であることであった6)

これらに基づいて,健康教育や支援の在り方を考えてきたが,この22年の間に学生の生活習慣や健康度の自己評価がどのように変わったのかについては,十分な検討がなされていなかった。たとえば,先の報告2)では,健康学や健康管理学を受講した学生に限定しているが,2003年の時点で男性の51.2%,女性の14.9%が喫煙者であった。しかし,喫煙者の頻度は年々低下しており,それは特に20歳代~60歳代の男性で明らかである7)。九産大生で2016年の時点で喫煙率は低下していた8)。とすれば,最近の喫煙率を知るためには近年のデータを見る必要がある。健康度の自己評価や他の生活習慣についても同じことがいえよう。

本研究では,2003年から2024年までの九産大生について,定期健康診断の成績や同時に実施している生活習慣調査の成績を分析し,生活習慣や健康度の自己評価の経年的な変動を明らかにする。特に,本報告では身体的ならびに精神的な健康度に関する自己評価の経年変動に焦点を当てるとともに,近年の健康度の自己評価に影響する要因を多重ロジスティック回帰分析により明らかにすることを試みた。

2. 方法

(1) 対象

2003年から2024年の間に九州産業大学に入学し,年度初めに定期健康診断を受け,同時に生活習慣調査に回答した学部生で,データの揃っている1年生と4年生を対象にした。男83,422人,女26,971人,1年生57,183人,4年生53,210人,計110,393人である(表1)。2003年と2004年の対象者数が少ないのは,定期健康診断の案内時に生活習慣調査の調査票を同封して,健診会場に持参するよう求めていたが,忘れる学生が多かったからである。2005年から健診会場で生活習慣調査の調査票を手渡すようにしたところ,健診受診者と生活習慣調査の回答者がほぼ同数になった。

表1

対象者の性と学年

調査年 1年生 4年生
2003​ 3,436​ 1,147​ 4,583​ 2,852​ 1,731​ 4,583​
2004​ 2,181​ 766​ 2,947​ 1,932​ 1,015​ 2,947​
2005​ 4,786​ 1,307​ 6,093​ 2,822​ 3,271​ 6,093​
2006​ 4,432​ 1,222​ 5,654​ 2,589​ 3,065​ 5,654​
2007​ 4,419​ 1,210​ 5,629​ 2,846​ 2,783​ 5,629​
2008​ 4,422​ 1,159​ 5,581​ 2,734​ 2,847​ 5,581​
2009​ 4,094​ 1,117​ 5,211​ 2,698​ 2,513​ 5,211​
2010​ 4,325​ 1,203​ 5,528​ 2,786​ 2,742​ 5,528​
2011​ 4,159​ 1,113​ 5,272​ 2,709​ 2,563​ 5,272​
2012​ 3,954​ 1,167​ 5,121​ 2,554​ 2,567​ 5,121​
2013​ 4,118​ 1,184​ 5,302​ 2,667​ 2,635​ 5,302​
2014​ 3,892​ 1,130​ 5,022​ 2,584​ 2,438​ 5,022​
2015​ 3,721​ 1,129​ 4,850​ 2,555​ 2,295​ 4,850​
2016​ 3,962​ 1,168​ 5,130​ 2,738​ 2,392​ 5,130​
2017​ 3,903​ 1,144​ 5,047​ 2,702​ 2,345​ 5,047​
2018​ 3,608​ 1,176​ 4,784​ 2,472​ 2,312​ 4,784​
2019​ 3,721​ 1,265​ 4,986​ 2,522​ 2,464​ 4,986​
2020​ 3,540​ 1,322​ 4,862​ 2,517​ 2,345​ 4,862​
2021​ 3,279​ 1,335​ 4,614​ 2,355​ 2,259​ 4,614​
2022​ 3,227​ 1,476​ 4,703​ 2,485​ 2,218​ 4,703​
2023​ 3,234​ 1,611​ 4,845​ 2,519​ 2,326​ 4,845​
2024​ 3,009​ 1,620​ 4,629​ 2,545​ 2,084​ 4,629​
計​ 83,422​ 26,971​ 110,393​ 57,183​ 53,210​ 110,393​

「回答を集計して統計的な解析を行い,得られた結果を学会や学術雑誌に発表することがありますが,個人の名前やその回答の内容が外部に漏れることは,決してありません」という文言は2003年から調査票に表示し,実際に漏れたことはない。2018年以降は「それでもなお,この調査書に記載されたあなたの情報を,研究の目的に使用することに関して同意できない場合,学医あるいは他の保健室のスタッフにお知らせください。申し出るのに期限は設けておりません」という文言も付け加えた。これまでに研究目的での使用に関して断ってきた学生はいない。

(2) 経年変化

各調査年毎に性,学年別に身体的,精神的な健康度の自己評価についてクロス集計表を作成した。さらに,毎年の対象者数が異なるので,パーセント表示に変換して経年変化を調べた。身体的,精神的な健康度の自己評価は,ともに,非常に良い,そこそこ良い,良いとも悪いとも言えない,やや悪い,非常に悪いの5段階で自己評価させ,経年変化は非常に~そこそこ良いと,良いとも悪いとも言えない~非常に悪いの二つのカテゴリーに分けて,それぞれの割合の変化で示した。

(3) 多重ロジスティック回帰分析

生活習慣調査で用いる調査票は,その時の調査者の問題意識によって,具体的な質問を変えた部分がある。詳細は,それぞれの生活習慣に関する報告で述べる。身体的,精神的な健康度の自己評価の質問は一貫していたが,これらに関連する可能性のある生活習慣についての質問の仕方が変わることが身体的,精神的な健康度の自己評価に影響した可能性は否定できない。そこで,多重ロジスティック回帰分析は現在の表現に統一された2018年以降のデータのみを用いて実施し,身体的,精神的な健康度の自己評価に対する各要因の関与を調べた。

身体的健康度の自己評価あるいは精神的健康度の自己評価で,それぞれ,非常に良い~そこそこ良いを0,良いとも悪いとも言えない~非常に悪いを1として,多重ロジスティック回帰分析を行った。ここで,健康度を良いとも悪いとも言えないと自己評価した場合,やや悪い~非常に悪いと同一のカテゴリーにしたのは,良いとは言えないことを重視したからである。

説明変数には,まず,これまでの分析1)~5)に基づいて,30分以上の運動,週4日以上の朝食摂取習慣,喫煙本数や頻度は問わずに現在の本人の喫煙習慣を採用した。さらに一度に飲む量が日本酒換算で3合以上か否かを説明変数とした。これは,大量飲酒の危険が報告されており9),特に一度に大量に飲む―binge drinking―ことが危険だという認識が広まっている10)からである。また,肥満が心血管病リスクになることが報告されているとともに11),思春期のやせも将来の糖尿病発症リスクを増すと報告されているので12),BMIが30以上であるか18.5未満であるかを説明変数に加えた。意識障害の経験(てんかんとそれ以外を区別せず)や居住形態,調査年との関連も調べた。

(4) データの入手と倫理的配慮

データは,全て,エクセルファイルとして,健診機関から本研究の共同研究者である学医が提供を受けた。今回の研究では,定期健康診断と生活習慣調査のデータを両者に共通する学籍番号を手掛かりに結合したので,匿名化は行えなかった。実際の統計解析には市販の統計ソフト「エクセル統計 BellCurve® for Excel」を用いた。統計学的な有意水準はp値0.05未満とした。本研究の実施については「大学生の定期健康診断と日常生活習慣調査の分析」として九州産業大学の倫理委員会の審査を受け,承認された(2024-0006号)。

3. 結果

(1) 健康度の自己評価の経年変化

2003年から2024年までの変化を通して見ると,身体的,精神的両面において,男女ともに,1年生,4年生の両者で非常に~そこそこ良いの割合が有意に増えていた(図1)。それぞれの経年変化を目視すると,男性の方が女性より,また1年生の方が4年生よりも非常に~そこそこ良いの割合が高かったので,多重ロジスティック回帰分析に供する7回分のデータについて,クロス集計表を作成し,χ2検定により男性と女性の比較や1年生と4年生の比較を行った(表2)。身体的,精神的健康度の自己評価は,2018年から2024年の間も,男性の方が女性よりも,1年生の方が4年生よりも非常に~そこそこ良いの割合が有意に(p<0.001)高かった。

図1

上:1年生の身体的健康度と精神的健康度の経年変化.下:4年生の身体的健康度と精神的健康度の経年変化.

表2

自己評価した身体的健康度と精神的健康度の男女間,1・4年生間の比較

身体的健康度
非常に~そこそこ良い 良いとも悪いともいえない~非常に悪い 合 計
男性​ 1年生​ 10,179(84.5)​ 1,866(15.5)​ 12,045(100)​
4年生​ 9,482(82.3)​ 2,046(17.7)​ 11,528(100)​
合 計​ 19,661(83.4)​ 3,912(16.6)​ 23,573(100)​
女性​ 1年生​ 4,404(82.5)​ 936(17.5)​ 5,340(100)​
4年生​ 3,538(79.7)​ 899(20.3)​ 4,437(100)​
合 計​ 7,942(81.2)​ 1,835(18.8)​ 9,777(100)​
1年生​ 男​ 10,179(84.5)​ 1,866(15.5)​ 12,045(100)​
女​ 4,404(82.5)​ 936(17.5)​ 5,340(100)​
合 計​ 14,583(83.9)​ 2,802(16.1)​ 17,385(100)​
4年生​ 男​ 9,482(82.3)​ 2,046(17.7)​ 11,528(100)​
女​ 3,538(79.7)​ 899(20.3)​ 4,437(100)​
合 計​ 13,020(81.0)​ 2,945(19.0)​ 15,965(100)​
精神的健康度
非常に~そこそこ良い 良いとも悪いともいえない~非常に悪い 合 計
男性​ 1年生​ 9,757(81.1)​ 2,278(18.9)​ 12,035(100)​
4年生​ 8,801(76.4)​ 2,715(23.6)​ 11,516(100)​
合 計​ 18,558(78.8)​ 4,993(21.2)​ 23,551(100)​
女性​ 1年生​ 3,993(74.8)​ 1,348(25.2)​ 5,341(100)​
4年生​ 3,007(67.8)​ 1,427(32.2)​ 4,434(100)​
合 計​ 7,000(71.6)​ 2,775(28.4)​ 9,775(100)​
1年生​ 男​ 9,757(81.1)​ 2,278(18.9)​ 12,035(100)​
女​ 3,993(74.8)​ 1,348(25.2)​ 5,341(100)​
合 計​ 13,750(79.1)​ 3,626(20.9)​ 17,376(100)​
4年生​ 男​ 8,801(76.4)​ 2,715(23.6)​ 11,516(100)​
女​ 3,007(67.8)​ 1,427(32.2)​ 4,434(100)​
合 計​ 11,808(74.0)​ 4,142(26.0)​ 15,950(100)​

( )内の値は%で示した割合.男女間の差と1年生と4年生の差は,何れも有意(p<0.001)

(2) 健康度の自己評価に関連する要因

2018年から2024年にいたるまでは,各生活習慣に関する質問は同じ表現である。この7回分のデータを多重ロジスティック回帰分析に供した。先に述べたように,男女間や1年生と4年生の間に健康度の自己評価に有意の差があったので,多重ロジスティック回帰分析は性・学年別に実施した。

表3に多重ロジスティック回帰分析の結果を示す。身体的健康度については,性と学年で分けた4つの群に共通したのは,30分以上の運動を続けていることと朝食を週4日以上摂ることが,非常に~そこそこ良いという自己評価と有意の関連を示し,意識障害の経験があったり,やせていたり(BMI<18.5),逆に中等度以上に肥満していたりすると(BMI>30),非常に~そこそこ良いという自己評価が有意に少なかった。なお,意識障害にはてんかんと非てんかんが含まれ,生活習慣調査では両者を区別して質問したが,本分析では両者を合わせて一つの区分とした。居住形態については,4年生の女性を除いて,いずれもアパートや寮に住んでいると非常に~そこそこ良いという自己評価が増えていた。これに対して,本人の喫煙は一貫して身体的健康度の自己評価には関連しなかった。飲酒量については一度に3合以上飲む学生では,そのような学生が殆どいない1年生の女性を除いて,非常に~そこそこ良いという自己評価が有意に少なかった。いずれの群も調査年が進むにつれて非常に~そこそこ良いという自己評価が増していた。

表3

身体的,精神的健康度の自己評価を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析

目的変数:身体的健康度の自己評価
0 非常に~そこそこ良い
1 良いとも悪いとも言えない~非常に悪い
1年生,男性 
11,613人
1年生,女性 
5,168人
説明変数 オッズ比 95%信頼限界 p値 オッズ比 95%信頼限界 p値
30分以上の運動
1 週1~2回 or 3回以上,期間を問わず
2 以前有,この1ヵ月無~嫌い~無縁​
1.483​ 1.327–1.658​ p<0.001​ 1.673​ 1.386–2.019​ p<0.001​
意識障害の経験
1 経験あり(てんかん/それ以外を区別せず)
2 経験なし​
0.523​ 0.420–0.652​ p<0.001​ 0.424​ 0.324–0.554​ p<0.001​
朝食摂取
1 ほぼ毎日~1 週に4~5日
2 週に2~3日~殆ど欠食​
1.798​ 1.601–2.021​ p<0.001​ 1.914​ 1.604–2.283​ p<0.001​
BMI区分
1 18.5未満 or 30以上
2 その間​
0.577​ 0.510–0.652​ p<0.001​ 0.716​ 0.599–0.855​ p<0.001​
居住形態
1 自宅
2 アパート・寮​
0.823​ 0.737–0.918​ p<0.001​ 0.850​ 0.725–0.996​ p<0.05(=0.044)​
本人喫煙
1 一切吸わず or 今は禁煙
2 時々~習慣的に吸う​
0.915​ 0.612–1.369​ 0.666​ 1.396​ 0.580–3.360​ 0.456​
一度の飲酒量
1 <1合~1~2合
2 3合以上​
1.849​ 1.101–3.106​ p<0.05(=0.020)​ 1.613​ 0.457–5.692​ 0.458​
調査年
2003年から1年増す毎に​
0.944​ 0.920–0.969​ p<0.001​ 0.908​ 0.876–0.942​ p<0.001​
目的変数:身体的健康度の自己評価
0 非常に~そこそこ良い
1 良いとも悪いとも言えない~非常に悪い
4年生,男性 
10,824人
4年生,女性 
4,182人
説明変数 オッズ比 95%信頼限界 p値 オッズ比 95%信頼限界 p値
30分以上の運動
1 週1~2回 or 3回以上,期間を問わず
2 以前有,この1ヵ月無~嫌い~無縁​
1.971​ 1.770–2.195​ p<0.001​ 1.478​ 1.244–1.754​ p<0.001​
意識障害の経験
1 経験あり(てんかん/それ以外を区別せず)
2 経験なし​
0.498​ 0.391–0.633​ p<0.001​ 0.444​ 0.329–0.601​ p<0.001​
朝食摂取
1 ほぼ毎日~1 週に4~5日
2 週に2~3日~殆ど欠食​
1.629​ 1.465–1.812​ p<0.001​ 1.383​ 1.181–1.619​ p<0.001​
BMI区分
1 18.5未満 or 30以上
2 その間​
0.667​ 0.590–0.755​ p<0.001​ 0.770​ 0.645–0.919​ p<0.01(=0.004)​
居住形態
1 自宅
2 アパート・寮​
0.858​ 0.771–0.955​ p<0.01(=0.005)​ 0.991​ 0.844–1.164​ 0.914​
本人喫煙
1 一切吸わず or 今は禁煙
2 時々~習慣的に吸う​
1.057​ 0.942–1.185​ 0.348​ 1.088​ 0.858–1.379​ 0.488​
一度の飲酒量
1 <1合~1~2合
2 3合以上​
1.259​ 1.098–1.443​ p<0.01(=0.001)​ 1.437​ 1.112–1.857​ p<0.01(=0.006)​
調査年
2003年から1年増す毎に​
0.910​ 0.887–0.934​ p<0.001​ 0.951​ 0.915–0.988​ p<0.05(=0.011)​
表3

続き

目的変数:精神的健康度の自己評価
0 非常に~そこそこ良い
1 良いとも悪いとも言えない~非常に悪い
1年生,男性 
11,604人
1年生,女性 
5,169人
説明変数 オッズ比 95%信頼限界 p値 オッズ比 95%信頼限界 p値
30分以上の運動
1 週1~2回 or 3回以上,期間を問わず
2 以前有,この1ヵ月無~嫌い~無縁​
1.772​ 1.597–1.966​ p<0.001​ 1.731​ 1.474–2.032​ p<0.001​
意識消失の経験
1 経験あり(てんかん/それ以外を区別せず)
2 経験なし​
0.585​ 0.473–0.723​ p<0.001​ 0.538​ 0.417–0.695​ p<0.001​
朝食摂取
1 ほぼ毎日~1 週に4~5日
2 週に2~3日~殆ど欠食​
1.293​ 1.155–1.449​ p<0.001​ 1.382​ 1.174–1.628​ p<0.001​
BMI区分
1 18.5未満 or 30以上
2 その間​
0.706​ 0.627–0.793​ p<0.001​ 0.745​ 0.637–0.872​ p<0.001​
居住形態
1 自宅
2 アパート・寮​
1.027​ 0.930–1.133​ 0.602​ 1.050​ 0.918–1.201​ 0.480​
本人喫煙
1 一切吸わず or 今は禁煙
2 時々~習慣的に吸う​
1.019​ 0.694–1.494​ 0.925​ 0.554​ 0.203–1.512​ 0.249​
一度の飲酒量
1 <1合~1~2合
2 3合以上​
0.574​ 0.296–1.110​ 0.099​ 1.057​ 0.296–3.767​ 0.932​
調査年
2003年から1年増す毎に​
0.960​ 0.938–0.983​ p<0.001​ 0.978​ 0.948–1.010​ 0.176​
目的変数:精神的健康度の自己評価
0 非常に~そこそこ良い
1 良いとも悪いとも言えない~非常に悪い
4年生,男性 
10,814人
4年生,女性 
4,179人
説明変数 オッズ比 95%信頼限界 p値 オッズ比 95%信頼限界 p値
30分以上の運動
1 週1~2回 or 3回以上,期間を問わず
2 以前有,この1ヵ月無~嫌い~無縁​
1.828​ 1.663–2.008​ p<0.001​ 1.504​ 1.301–1.739​ p<0.001​
意識消失の経験
1 経験あり(てんかん/それ以外を区別せず)
2 経験なし​
0.568​ 0.452–0.714​ p<0.001​ 0.567​ 0.425–0.757​ p<0.001​
朝食摂取
1 ほぼ毎日~1 週に4~5日
2 週に2~3日~殆ど欠食​
1.353​ 1.231–1.487​ p<0.001​ 1.392​ 1.214–1.594​ p<0.001​
BMI区分
1 18.5未満 or 30以上
2 その間​
0.761​ 0.679–0.852​ p<0.001​ 0.856​ 0.733–1.000​ 0.051​
居住形態
1 自宅
2 アパート・寮​
0.844​ 0.767–0.929​ p<0.001​ 0.821​ 0.714–0.945​ p<0.01(=0.006)​
本人喫煙
1 一切吸わず or 今は禁煙
2 時々~習慣的に吸う​
0.724​ 0.649–0.807​ p<0.001​ 0.809​ 0.651–1.006​ 0.056​
一度の飲酒量
1 <1合~1~2合
2 3合以上​
1.003​ 0.882–1.142​ 0.958​ 1.073​ 0.845–1.361​ 0.565​
調査年
2003年から1年増す毎に​
0.970​ 0.948–0.993​ p<0.05(=0.010)​ 1.011​ 0.978–1.045​ 0.524​

精神的健康度についても,30分以上の運動を続けていることと朝食を週4日以上摂ることが,非常に~そこそこ良いという自己評価と有意に関連し,意識障害の経験があると非常に~そこそこ良いという自己評価が有意に少ないのは,身体的健康度と同様であった。しかし,やせていたり,逆に中等度以上に肥満していたりすることと精神的健康度の自己評価とは,4年生の女性では有意水準に達しなかった(p=0.051)。居住形態と精神的健康度の自己評価に関しては,1年生では男性も女性も有意の関連を示さなかったが,4年生では男女ともアパートや寮に住んでいる学生の方が,非常に~そこそこ良いと回答する割合が高かった。4年生男性では,本人が喫煙していると,精神的健康度を非常に~そこそこ良いと自己評価する割合が高かった。身体的健康度とは異なり,1年生も4年生も,男女ともに一度に3合以上飲むという回答と精神的健康度の自己評価との間には一定の関連が見られなかった。調査年が進むにつれて非常に~そこそこ良いという自己評価が増すのは,4年生の女性を除いて認められた。

4. 考察

(1) 健康度の自己評価の経年変化

身体的,精神的両面について,男性も女性も,1年生,4年生とも非常に~そこそこ良いの割合が有意に増えていた(図1)。特に女性では,2020年に非常に~そこそこ良いの割合が増えていた。1年生はコロナ禍で生活に気を配りながら入学してきたためとも思われた13)。しかし,性別や学年によらずに認められた経年的な健康度の改善については,コロナ禍の影響ではない。また,健康支援活動の充実と結びつけるのも困難である。すなわち,毎年度初めの調査であるから1年生は入学して間もない時点の成績である。入学前からの活動としては,健康支援の在り方を周知するとともに,必要な学生には修学支援を提供できることを入学前から知らせ,支援を申請してきた学生に面談するだけである。これが全1年生の身体的,精神的な健康度の改善に結びついたとは考え難い。

オープンキャンパスや入学前教育が年々充実し,大学の良いイメージを植え付けたり意欲を掻き立てたりすることが,1年生に見られる健康度の自己評価の改善に結び付いているのかも知れない。高揚した気分で入学し,すぐに健康度についての自己評価を求められるのである。

なお,4年生では身体的,精神的健康度の経年的な改善が引き続いてみられるが,1年生よりも健康度の自己評価が低くなっている。これを説明するデータはないが,入学時に抱いた希望や意欲を維持するには自分自身の努力が求められることに気付き,その努力を継続するのに疲れたり,これくらいでいいかという気分になったりした学生が少なくないと思われた。また,精神的健康度については,就職や進学といった大きな壁が4年生の前に現れ,これが不安をもたらすことも考えられる。

身体的,精神的両面について,男性の方が女性より非常に~そこそこ良いの割合が高かったことの理由も明らかでない。この差は恒在しており,1年生から認められる。男性と女性でものの考え方が異なっているのかも知れない。

強調しておきたいのは,身体的,精神的健康度の自己評価が僅かずつ良くなっているにも関わらず,合理的配慮を申請した障がい学生の数は増加している14)ことである。この中には,身体障害・視覚障害・聴覚障害・精神障害・発達障害などが含まれている14)。すなわち,学生全体としての健康度の自己評価のみを見ていたのでは,履修に困難を感じる障がい学生が増えていることを見落とす可能性があり,逆に障がい学生の支援だけを考えていたのでは,学生全体の傾向を見誤る危険がある。両者の視点を忘れないことが大切である。

(2) 健康度の自己評価に関連する要因

ここで用いた多重ロジスティック回帰分析は,もともと医学や疫学において病因究明の方法論として開発され,リスク要因の解析に用いられることが多い15)。身体的,精神的健康度の両方で,1回につき30分以上の運動をしていることと,週4日以上の朝食摂取の習慣があることが健康度の自己評価がそこそこ良い以上であることと関連していた。運動習慣と朝食摂取が良好な健康状態と関連することは,以前にも報告した3)4)。今回の検討でも,これらの関連は性や学年によらず認められ,生活習慣が学生の身体的,精神的な健康度に深く関連することを示している。今後もポピュレーションアプローチとして,運動習慣を持つことや朝食を摂取することの重要性を,色々な機会にアナウンスするのが良いであろう。海外でも,大学生を対象にした研究で,運動習慣と身体的な健康との関連16)や精神的な健康との関連17)が報告されており,我々は大学の一般教養科目としての体育実技の履修が運動習慣の維持に役立つ可能性を報告している18)

なお,厚生労働省は,国民健康・栄養調査で運動習慣のある者として1回30分以上の運動を週2回以上実施し,1年以上継続している者と規定しているが19),今回の多重ロジスティック回帰分析では,1回の継続時間のみ厚生労働省に従い,頻度や継続期間は問わなかった。それでも,運動習慣は身体的,精神的な健康度がより良好なことと関連していた。九産大には,各種スポーツの同好会や愛好会が数多くあるが,週1回の活動をするところが多いようである。週2回以上を強調するのは実際的ではないかも知れないし,今回の成績と合わせると,週1回の運動でも,一定の効果が見込めると期待される。

朝食摂取の重要性についても既に強調されていることであり20),日本の大学生についての研究も沢山報告されているが21),朝食欠食に焦点を当てたものが多い22)23)。本研究は,週4日以上朝食を摂る学生で身体的,精神的健康度の自己評価が高いことを明らかにした大規模調査である。

一方,意識障害の経験がある学生では,身体的,精神的な健康度の自己評価が低くなっていた。意識障害を経験した学生では,適切な対処法を知って,実践できるようにすることが大切である。そこで,定期健康診断時に意識障害の経験を記載していれば,保健室スタッフが直接コンタクトをとって指導している。指導の詳細については,本シリーズの第四報に述べた24)

BMIが18.5未満であるか30以上であるかの学生では,おおむね身体的,精神的な健康度の自己評価が有意に低くなっていたが。4年生の女性の精神的健康度については有意水準に達していなかった。BMI<18.5のやせについては,いわゆるやせ願望がある学生に指導が届くかという懸念があった25)。今回のデータは普通体重~BMI<30の軽度の肥満(WHO基準では,肥満ではなく過体重と云っている)の範囲にあれば身体的,精神的な健康度をよりよく保たれていることを示しており,自分たちのデータの提示により指導の説得力が増すと思われる。肥満者に対する食事と運動を組み合わせた体重減量指導は確立されている26)

BMIについては,4年生の女性で,BMIと精神的健康度との関連がオッズ比0.821で,統計学的な有意レベルとしたp<0.05には達していなかったが,具体的な値を見るとp=0.051である。すでに述べたように,今回の多重ロジスティック回帰分析を実施した期間のうち,2020年はコロナ禍に見舞われており,これが4年生の女性でBMIと精神的健康度との関連が統計学的な有意水準に達しなかったことに寄与するのかと考えたが,それを裏付けるデータはない。

喫煙状況は身体的,精神的健康度が良くないこととは関連せず,4年生男性では,本人が喫煙していると,精神的健康度を非常に~そこそこ良いと自己評価する割合が高かった。10年前には,除籍・退学や進路未定のままでの卒業に喫煙者であることが関連していたこと6)を考えると,今回は逆の結果だと受け取られるかも知れない。ただし,本研究では除籍・退学や進路未定のままでの卒業を調べていないし,これらが必ずしも当人の精神的健康度を阻害しない可能性も検討できない。

飲酒量については,身体的健康度と精神的健康度の自己評価に対する関与の仕方が異なった。一度に3合以上飲む学生で,身体的健康度が非常に~そこそこ良いと自己評価する者が有意に少なかったのは,多量飲酒者では若年時からアルコールの身体的な害が表面化しやすいと理解される。これに対して,精神的健康度の自己評価に関しては,性,学年によらず有意の関連が見られなかった。保健室にはアルコール依存に陥っていると思われる学生も来室しているが,確かに稀である。3合以上の多量飲酒が精神的健康度の自己評価を下げている学生は少ないのであろう。しかし,卒業後も飲み続けた場合のことについては何とも言えない。

身体的健康度については,4年生の女性以外では,アパートや寮に住んでいると非常に~そこそこ良いという自己評価が増えていた。精神的健康度については,4年生の男女でアパートや寮に住んでいると非常に~そこそこ良いという自己評価が増えていた。しかし,これらの居住形態と健康度の自己評価については,データの解釈に注意を要する。すでに健康状態が悪い学生は,自宅に置いて親が送迎するなどしている例を散見する。今回の成績は,そのような例も含んでいる。

(3) 新たに生じた疑問と今後の展望

身体的・精神的健康度の自己評価が経年的な改善を示した。若年時に自己評価した健康度が低ければ,その人の将来の社会・経済的な立ち位置が低下しやすいこと1)を考えると,これは大いに歓迎すべきである。その改善の理由については,考察の最初に述べたような推測ができる。これを明確な証拠として手にするには,オープンキャンパスの参加者や入学前教育の主催者の許可を得ることが前提だが,簡単に回答でき,時間も取らない質問で学生の意識を掴むことが考えられる。

今回の成績から健康度の自己評価を維持するのに有効だと期待されるのは,朝食摂取や運動の習慣の維持である。すでに同窓会や学生部の協力を得て,朝食に対する補助がなされている。これを拡充することが望ましい。運動習慣については,体育実技―すなわちスポーツ科学演習が,運動を続けさせるのに一定の効果をもつが,運動が嫌いだと述べた学生には,その効果が明らかでない17)。そのような学生には,競技スポーツの壁は高すぎるであろう。サークル活動の奨励とは別に身体活動を増加させる方法を考え,これを後押しすることが必要である。運動は好きだが,サークルで競技として続けることに躊躇いを感じている学生がアリーナなどの学内の体育設備を気軽に利用できる方策を考えたり,全学生に対してスポーツ科学演習(体育実技)の授業を提供する健康・スポーツ科学センターの教員や事務職員に働きかけたりする必要もあろう。

意識障害の経験を記載した学生に対する指導は必要であるし,すでに保健室のスタッフにより実施されているが,現時点ではその効果がどの程度かを計測する手立てがない。これについて考える必要がある。指導を受けた学生が,朝,起きられるようになったとか,起立時の立ちくらみが減ったとか,てんかん発作に対する予防の意識が改善されたなどをデータとして示すことから始めたいが,このような予後調査を可能にする人員と予算の確保が問題である。

BMI 18.5未満のやせやBMI 30以上の肥満者に対する指導や,一度に飲酒する量を抑えるようにする指導も必要だと思うが,そこまで行うとなると,ここでもマンパワーの拡充が必要である。

5. 結語

九州産業大学の1年生,4年生について,2003年から2024年までの身体的ならびに精神的健康度の自己評価は,いずれも改善していた。生活習慣に関する調査票が現在の表現に統一された2018年以降のデータを用いて,多重ロジスティック回帰分析を行った。やはり,経年的な改善は有意であった。また,性,学年を問わずに,一回30分以上の運動習慣や,週4日以上の朝食摂取の習慣を持っていれば,身体的,精神的な健康度を非常に~そこそこ良いとする自己評価が有意に増え,意識障害の経験があると非常に~そこそこ良いという自己評価が有意に少なかった。4年生の女性を除き,BMIが18.5未満のやせか30以上の肥満を示すと,身体的,精神的な健康度が非常に~そこそこ良いという回答が有意に少なかった。一度に飲酒する量が3合以上であれば,身体的健康度については非常に~そこそこ良いという回答が有意に少なかったが,精神的健康度については有意ではなかった。

謝辞

毎年の学生の定期健康診断と諸調査が円滑に実施できるよう,努力を惜しまなかった事務職員の皆様に深謝いたします。本論文に関して,開示すべきCOI状態はありません。

文献
 
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