Human Sciences
Online ISSN : 2434-4753
Original Article
Annual changes of health status and lifestyles in university students examined in regular health checkup and lifestyle survey
Fourth report: Body mass index (BMI) and experience of loss of consciousness
Akane KusubayashiYaemi HamadaYoshiko EdaRie TsujiHiromi Muratani
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2025 Volume 7 Pages 54-64

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抄録

九州産業大学の1年生,4年生について,2003年から2024年までの体格指数(Body Mass Index:BMI)と意識障害の経験を分析した。BMI<22を示すのは男性より女性が多く,22≦BMIでは男性の方が多かった。しかし,経年変化を見るとBMI<18.5の男性が有意に増加していた。意識障害を経験した学生は,2003年から減少していたが,2014年からてんかんと非てんかんに分けて尋ねており,てんかんという具体的な病名を挙げたことが回答に影響した可能性を否定できない。非てんかんでは男女差があり,女性の方に多かった。非てんかん性の意識障害を経験した学生には18.5未満のBMIを示す人が多く,この両者とも朝食をほぼ毎日食べる割合が低かった。

Abstract

In freshmen and seniors in Kyushu Sangyo University, we analyzed body mass index (BMI) and experience of disturbance of consciousness. Those who showed BMI less than 22 were more prevalent in women than in men, and those who showed BMI equal to or more than 22 were more prevalent in men than in women. Annual change in the prevalence of lean persons, BMI less than 18.5, however, was statistically significantly increasing in men. Those who experienced disturbance of consciousness were decreasing from 2003. From 2014, we asked the students the causes of disturbance of consciousness, that is, epilepsy and non-epileptic nature. This may influence the answer. As for the non-epileptic nature, it was more prevalent in women than in men. In those who experienced non-epileptic disturbance of consciousness, BMI was more frequently less than 18.5. Furthermore, those who eat breakfast almost everyday was less prevalent in students with BMI less than 18.5 and students with non-epileptic disturbance of consciousness.

1. 緒言

我々は昨年,九州産業大学の新入生女性の16.2%,男性の12.8%が体格指数(BMI)18.5未満のやせの範疇に入っていることを報告した1)。しかも,実際のBMIが18.5未満であるにも拘らず実際より低いBMIを丁度よいと云う女性が190人,男性が83人いた1)。これらは,やせているのに,それを認識せず強いやせ願望を持つ学生がいる可能性を示唆する。しかし,成人においては肥満と健康リスクの関連に焦点が当てられて来た2)。本学でも,身体的健康度については,男女とも学年に関わらずBMI<18.5か≧30が阻害因子として検出され,精神的健康度については,4年生の女性を除いて,BMI<18.5か≧30がやはり阻害因子であった3)。したがって,やせと肥満の両方に注意を向ける必要があろう。

また,若年者において意識障害の経験と健康度の自己評価の関連を検討した報告は見当たらなかったが,我々の分析では意識障害の経験があると身体的および精神的健康度の自己評価が低下していた3)。すなわち,やせや肥満があることと意識障害を経験していることは健康度の自己評価を低下させたという点で同じように作用しており3),両者の関連を明らかにすることは,健康支援の方向性を考えるうえで重要であろう。

学生の生活習慣や健診成績の経年変化については十分な検討がなされていなかった。本研究では,2003年から2024年までの九産大生についてBMIと意識障害の経験の経年変化を分析した。意識障害の経験に関しては,2014年から,てんかんと非てんかん(いわゆる起立性低血圧や頭部打撲に伴う脳震盪などが含まれる)に分けたので,それぞれの割合を調べた。さらにBMI区分や意識障害の経験の有無と朝食摂取の習慣との関連を明らかにすることを試みた。なお,BMIの算出法や朝食摂取の習慣についての質問は22年間を通じて変わっていない。

2. 方法

(1) 対象

2003年から2024年の間に九州産業大学に入学し,年度初めに定期健康診断を受け,同時に生活習慣調査に回答した学部生で,データの揃っている1年生と4年生を対象にした。男83,422人,女26,971人,1年生57,183人,4年生53,210人,計110,393人である。その詳細については本シリーズの第一報に述べた3)

「回答を集計して統計的な解析を行い,得られた結果を学会や学術雑誌に発表することがありますが,個人の名前やその回答の内容が外部に漏れることは,決してありません」という文言は2003年から調査票に表示している。2018年以降は「それでもなお,この調査書に記載されたあなたの情報を,研究の目的に使用することに関して同意できない場合,学医あるいは他の保健室のスタッフにお知らせください。申し出るのに期限は設けておりません」という文言も付け加えた。これまでに研究目的での使用を断った学生はいない。

(2) 経年変化

BMIは定期健康診断で身長と体重を計測し,その両者からBMI=体重(kg)/{身長(m)}2の式で算出した。各調査年毎に性,学年別にBMIや意識障害の経験についてのクロス集計表を作成した。さらに,毎年の対象者数が異なるので,パーセント表示に変換して経年変化を調べた。なお,肥満の判定はWHO基準(BMI 30以上)に則った。

2014年からは意識障害について,てんかんと非てんかん(原因不明といわれた例を含む)に分けている。この両者を分けたグラフも作成した。

(3) BMIと意識障害の関連

意識障害をてんかんと非てんかんに分けた2014年以降のデータについて,クロス集計表を作成して検討した。てんかんと非てんかんの区別は本人の選択によるが,健診時に自覚症状を記載した学生には,保健室のスタッフが個別に電話等で診断を確認した。学生が授業時の配慮を希望したり,対応についての相談があったりした時には学医が面談し,各学生の症状や主治医の診断(診断名が分からない時は問い合わせの手紙を持たせる),抗てんかん薬の服用などで確認した。生活習慣調査の回答を変更した学生はいなかった。BMIと意識障害の関連には,少なくとも食生活が関与すると思われたので,成績の得られた朝食摂取の習慣とそれぞれの関連も調べた。

(4) データの入手と倫理的配慮

定期健康診断や生活習慣調査で得られたデータは,全て,エクセルファイルとして,健診機関から本研究の共同研究者である学医が提供を受けた。実際の統計解析には市販の統計ソフト「エクセル統計BellCurve® for Excel」を用いた。コロモゴロフ-スミルノフ検定により正規性を否定したうえでクロス集計表分析を行い,必要に応じて残差分析を行った。p<0.05を統計学的な有意水準とした。

本研究の実施については「大学生の定期健康診断と日常生活習慣調査の分析」として九州産業大学の倫理委員会の審査を受け,承認された(2024-0006号)。

3. 結果

(1) BMIの経年変化

2003年から2024年まで各BMI区分の割合を見ると,男性も女性も,1年生も4年生も普通体重の学生が多く,その中ではBMI 18.5以上22未満の学生が最多であった(図1)。BMIが22未満の2つの区分に関しては男性よりも女性の方が多く,22以上の4つの区分では女性よりも男性の方が多い(表1,p<0.001)。そして,男性では1年生も4年生もBMIが18.5未満の学生が増えていたが(図1),それでも女性には及ばない。他のBMI区分では一定の経年変化は検出されなかった。

図1

九産大生におけるBMI分布

表1

2003年から2024年までのBMI区分の分布:男女の比較

BMI区分
18.5未満 18.5~22未満 22~25未満 25~30未満 30~35未満 35~ 合 計
1年生 4,611(11.0) 19,239(45.7) 11,577(27.5) 5,180(12.3) 1,177(2.8) 306(0.7) 42,090(100.0)
2,191(15.6) 7,141(50.9) 3,287(23.4) 1,142(8.1) 205(1.5) 61(0.4) 14,027(100.0)
合 計 6,802(12.1) 26,380(47.0) 14,864(26.5) 6,322(11.3) 1,382(2.5) 367(0.7) 56,117(100.0)

p<0.001

BMI区分
18.5未満 18.5~22未満 22~25未満 25~30未満 30~35未満 35~ 合 計
4年生 4,291(10.8) 17,333(43.6) 10,626(26.7) 5,721(14.4) 1,374(3.5) 397(1.0) 39,742(100.0)
2,275(18.3) 6,327(50.8) 2,553(20.5) 984(7.9) 223(1.8) 82(0.7) 12,444(100.0)
合 計 6,566(12.6) 23,660(45.3) 13,179(25.3) 6,705(12.8) 1,597(3.1) 479(0.9) 52,186(100.0)

p<0.001

(2) 意識障害の経年変化

2003年から通してみると,男性も女性も,1年生も4年生も意識障害の経験がある学生が減っている(図2)。そこで,てんかんと非てんかんに分けて尋ねることとした2014年以降とそれ以前のデータを分けて検討した。2013年までは,男性も女性も,1年生も4年生も意識障害の経験がある学生が確かに減っていた(p<0.01)。原因別に意識障害を分けた2014年以降の経験率を見ると(図3),1年生は男女ともてんかんも非てんかんも,それぞれの頻度は一定の経年変化を示していなかったが,4年生については男性も女性もてんかんを経験したという回答が有意に減っていた(男女ともp<0.05)。2014年以降のデータを合算して男女別に比べると,てんかんの頻度には1年生も4年生も男女差がなかったが,非てんかんの頻度には男女差があり,女性の方が男性よりも有意に多かった(表2,p<0.001)。

図2

意識障害を経験した九産大生の割合

図3

原因別に意識障害を分けた時の経験率

表2

意識障害の経験a)およびその原因b)の分布:男女の比較

a)
意識障害
経験あり 経験なし 合 計
1年生 男性 3,101(7.3) 39,643(92.7) 42,744(100.0)
女性 1,696(11.9) 12,595(88.1) 14,291(100.0)
合 計 4,797(8.4) 52,238(91.6) 57,035(100.0)

p<0.001

意識障害
経験あり 経験なし 合 計
4年生 男性 2,766(6.8) 37,736(93.2) 40,502(100.0)
女性 1,595(12.6) 11,028(87.4) 12,623(100.0)
合 計 4,361(8.2) 48,764(91.8) 53,125(100.0)

p<0.001

b)
意識障害
てんかん 非てんかん 経験なし 合 計
1年生 男性 254(1.3) 612(3.0) 19,266(95.7) 20,132(100.0)
女性 108(1.4) 370(4.8) 7,214(93.8) 7,692(100.0)
合 計 362(1.3) 982(3.5) 26,480(95.2) 27,824(100.0)

p<0.001

意識障害
てんかん 非てんかん 経験なし 合 計
4年生 男性 283(1.5) 465(2.5) 17,952(96.0) 18,700(100.0)
女性 109(1.7) 265(4.0) 6,193(94.3) 6,567(100.0)
合 計 392(1.6) 730(2.9) 24,145(95.6) 25,267(100.0)

p<0.001

意識障害の経験の有無は2003年から2024年までの成績だが,意識障害をてんかんと非てんかんに分けたのは2014年以降である。

(3) 意識障害とBMIの関連

1年生の男性を除き,他の3群では非てんかんでBMI 18.5未満の学生の頻度が17.5~22.1%と有意に高かった(p<0.01)。非てんかんではBMI 30以上を示す頻度が低かったが,統計学的な有意水準には達しなかった(表3)。

表3

意識障害の原因(2014年以降は意識障害をてんかんと非てんかんとに分けた)によるBMI区分の分布の差.a)は男女別,b)は学年別に検討した成績.( )内の数値は%で表した割合.

a)
BMI区分
18.5未満 18.5~22未満 22~25未満 25~30未満 30~35未満 35以上 合 計
男性 意識障害 てんかん 66(12.7) 216(41.6) 139(26.8) 75(14.5) 17(3.3) 6(1.2) 519(100.0)
非てんかん 157(14.9) 471(44.8) 272(25.9) 122(11.6) 26(2.5) 4(0.4) 1,052(100.0)
経験 無 4,524(12.4) 15,870(43.3) 9,887(27.0) 4,841(13.2) 1,145(3.1) 349(1.0) 36,616(100.0)
合 計 4,747(12.4) 16,557(43.4) 10,298(27.0) 5,038(13.2) 1,188(3.1) 359(0.9) 38,187(100.0)

p=0.1402

BMI区分
18.5未満 18.5~22未満 22~25未満 25~30未満 30~35未満 35以上 合 計
女性 意識障害 てんかん 34(16.1) 103(48.8) 51(24.2) 16(7.6) 7(3.3) 0(0.0) 211(100.0)
非てんかん 138(22.1) 315(50.4) 123(19.7) 41(6.6) 7(1.1) 1(0.2) 625(100.0)
経験 無 2,225(16.8) 6,567(49.7) 3,029(22.9) 1,059(8.0) 241(1.8) 90(0.7) 13,211(100.0)
合 計 2,397(17.1) 6,985(49.7) 3,203(22.8) 1,116(7.9) 255(1.8) 91(0.6) 14,047(100.0)

p=0.0124

b)
BMI区分
18.5未満 18.5~22未満 22~25未満 25~30未満 30~35未満 35以上 合 計
1年生 意識障害 てんかん 48(13.7) 169(48.1) 83(23.6) 38(10.8) 11(3.1) 2(0.6) 351(100.0)
非てんかん 170(17.5) 458(47.3) 230(23.7) 92(9.5) 17(1.8) 2(0.2) 969(100.0)
経験 無 3,471(13.3) 12,044(46.2) 6,966(26.7) 2,802(10.7) 608(2.3) 184(0.7) 26,075(100.0)
合 計 3,689(13.5) 12,671(46.3) 7,279(26.6) 2,932(10.7) 636(2.3) 188(0.7) 27,395(100.0)

p=0.0066

BMI区分
18.5未満 18.5~22未満 22~25未満 25~30未満 30~35未満 35以上 合 計
4年生 意識障害 てんかん 52(13.7) 150(39.6) 107(28.2) 53(14.0) 13(3.4) 4(1.1) 379(100.0)
非てんかん 125(17.7) 328(46.3) 165(23.3) 71(10.0) 16(2.3) 3(0.4) 708(100.0)
経験 無 3,278(13.8) 10,393(43.8) 5,950(25.1) 3,098(13.0) 778(3.3) 255(1.1) 23,752(100.0)
合 計 3,455(13.9) 10,871(43.8) 6,222(25.0) 3,222(13.0) 807(3.2) 262(1.1) 24,839(100.0)

p=0.0131

(4) BMIや意識障害と朝食摂取の関連

BMIと朝食摂取の関連は表4に,意識障害と朝食摂取の関連は表5に示した。BMIと朝食摂取に関しては調べた4群に共通するのはBMIが18.5未満の学生では,朝食をほぼ毎日食べる頻度が有意に低く,殆ど欠食する頻度が有意に高いこと(いずれもp<0.001)や,BMIが22以上25未満の学生では,逆に朝食をほぼ毎日食べる頻度が有意に高いこと(p<0.01)が明らかであった。意識障害と朝食摂取の関連については,非てんかんによる意識障害を経験した学生では,男性も女性も,1年生も4年生も朝食をほぼ毎日食べる頻度が有意に低かった(p<0.001)。

表4

各BMI区分ごとに見た朝食摂取の習慣の分布.a)は男女別,b)は学年別に検討した成績.( )内の数値は%で表した割合.

a)
朝食摂取
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
男性 BMI区分 18.5未満 2,265(47.5) 720(15.1) 712(14.9) 1,075(22.5) 4,772(100.0)
18.5~22未満 8,535(51.4) 2,393(14.4) 2,308(13.9) 3,379(20.3) 16,615(100.0)
22~25未満 5,763(55.8) 1,395(13.5) 1,249(12.1) 1,924(18.6) 10,331(100.0)
25~30未満 2,804(55.3) 694(13.7) 667(13.2) 904(17.8) 5,069(100.0)
30~35未満 628(52.5) 178(14.9) 169(14.1) 222(18.5) 1,197(100.0)
35以上 201(55.7) 60(16.6) 46(12.7) 54(15.0) 361(100.0)
合 計 20,196(52.7) 5,440(14.2) 5,151(13.4) 7,558(19.7) 38,345(100.0)

p<0.001

朝食摂取
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
女性 BMI区分 18.5未満 1,271(52.6) 375(15.5) 354(14.6) 417(17.3) 2,417(100.6)
18.5~22未満 3,995(56.9) 1,028(14.6) 962(13.7) 1,041(14.8) 7,026(100.0)
22~25未満 1,895(58.9) 487(15.1) 383(11.9) 450(14.0) 3,215(100.0)
25~30未満 634(56.4) 163(14.5) 154(13.7) 174(15.5) 1,125(100.0)
30~35未満 131(51.6) 42(16.5) 33(13.0) 48(18.9) 254(100.0)
35以上 49(53.8) 18(19.8) 10(11.0) 14(15.4) 91(100.0)
合 計 7,975(56.4) 2,113(15.0) 1,896(13.4) 2,144(15.2) 14,128(100.0)

p=0.0016

b)
朝食摂取
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
1年生 BMI区分 18.5未満 2,343(53.1) 545(14.7) 380(10.2) 447(12.0) 3,715(100.0)
18.5~22未満 8,574(67.5) 1,698(13.4) 1,153(9.1) 1,277(10.1) 12,702(100.0)
22~25未満 5,151(70.6) 909(12.5) 589(8.1) 652(8.9) 7,301(100.0)
25~30未満 2,028(68.8) 367(12.5) 266(9.0) 285(9.7) 2,946(100.0)
30~35未満 431(67.7) 74(11.6) 66(10.4) 66(10.4) 637(100.0)
35以上 124(66.0) 32(17.0) 16(8.5) 16(8.5) 188(100.0)
合 計 18,651(67.8) 3,625(13.2) 2,470(9.0) 2,743(10.0) 27,489(100.0)

p<0.001

朝食摂取
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
4年生 BMI区分 18.5未満 1,193(34.3) 550(15.8) 686(19.7) 1,045(30.1) 3,474(100.0)
18.5~22未満 3,956(36.2) 1,723(15.8) 2,117(19.4) 3,143(28.7) 10,939(100.0)
22~25未満 2,507(40.1) 973(15.6) 1,043(16.7) 1,722(27.6) 6,245(100.0)
25~30未満 1,410(43.4) 490(15.1) 555(17.1) 793(24.4) 3,248(100.0)
30~35未満 328(40.3) 146(17.9) 136(16.7) 204(25.1) 814(100.0)
35以上 126(47.7) 46(17.4) 40(15.2) 52(19.7) 264(100.0)
合 計 9,520(38.1) 3,928(15.7) 4,577(18.3) 6,959(27.9) 24,984(100.0)

p<0.001

表5

意識障害の経験別に見た朝食摂取の習慣の分布.a)は男女別,b)は学年別に検討した成績.( )内の数値は%で表した割合.

a)
朝食摂取
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
男性 意識障害 てんかん 312(58.2) 72(13.4) 58(10.8) 94(17.5) 536(100.0)
非てんかん 494(45.9) 192(17.8) 156(14.5) 234(21.7) 1,076(100.0)
経験 無 19,602(52.8) 5,228(14.1) 4,987(13.4) 7,324(19.7) 37,141(100.0)
合 計 20,408(52.7) 5,492(14.2) 5,201(13.4) 7,652(19.7) 38,753(100.0)

p<0.001

朝食摂取
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
女性 意識障害 てんかん 112(51.9) 29(13.4) 31(14.4) 44(20.4) 216(100.0)
非てんかん 315(49.7) 99(15.6) 99(15.6) 121(19.1) 634(100.0)
経験 無 7,616(56.9) 1,989(14.9) 1,778(13.3) 1,996(14.9) 13,379(100.0)
合 計 8,043(56.5) 2,117(14.9) 1,908(13.4) 2,161(15.2) 14,229(100.0)

p=0.0024

b)
朝食摂取
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
1年生 意識障害 てんかん 234(65.0) 48(13.3) 37(10.3) 41(11.4) 360(100.0)
非てんかん 579(59.0) 153(15.6) 107(10.9) 142(14.5) 981(100.0)
経験 無 18,021(68.2) 3,449(13.1) 2,352(8.9) 2,594(9.8) 26,416(100.0)
合 計 18,834(67.9) 3,650(13.1) 2,496(9.0) 2,777(10.0) 27,757(100.0)

p<0.001

朝食摂取
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
4年生 意識障害 てんかん 190(48.5) 53(13.5) 52(13.3) 97(24.7) 392(100.0)
非てんかん 230(31.6) 138(18.9) 148(20.3) 213(29.2) 729(100.0)
経験 無 9,196(38.2) 3,767(15.6) 4,412(18.3) 6,726(27.9) 24,101(100.0)
合 計 9,616(38.1) 3,958(15.7) 4,612(18.3) 7,036(27.9) 25,222(100.0)

p<0.001

4. 考察

(1) BMIの経年変化

男性では1年生も4年生もBMIが18.5未満の学生が増えていたが,それでも男性よりも女性の方が有意に(p<0.001)多く,これはBMIが18.5未満の学生でも,18.5以上22未満の学生でも同様であり,この男女差は調査をした22年間を通じて変わらなかった。国民健康栄養調査でも毎年,18.5未満のBMI値を示すのは男性よりも女性の方が多い4)。BMIに関する男女差は強固なものであろうが,今後,長期にわたって観察を続けると,少なくとも九産大ではBMI 18.5未満のやせた学生の割合については男女の差が小さくなる方向に進むだろう。男性でやせた学生が増えた原因については,現時点では分からない。

実際の割合を見ると九産大4年生男性の2009年から2019年までの平均が10.3±1.3%,女性が17.7±1.7%で,国民健康栄養調査4)から算出した20歳代の同時期の平均値(男性4.3±0.4%,女性11.1±0.6%)に比べ,九産大生は男性も女性もやせた学生が多いことが分かる。

2010年からはBMI 30以上の男女それぞれの割合が公表されており5),2019年までの平均値を見ると男性5.7±1.6%,女性2.3±0.9%であった。これに対応する九産大4年生の値は,男性4.9±0.4%,女性2.8±0.9%で,有意差は検出されなかった。すなわち,肥満に関しては,九産大生は国民健康栄養調査の参加者と同等の割合を示した。

なお,我が国のBMI区分では25以上を肥満としている6)。しかし,保健室で学生に接していると,サークルに属して運動している学生では,競技のために体重を維持し,25以上のBMIを保っている者が少なくない。そこで,今回はWHO基準に則り7),BMI 30以上を肥満とした。この基準で見ると肥満者の割合は男性で4.5%,女性で2.5%となり,やせた者に比べ肥満者は少ない(表1)。本論文の最初に,やせと肥満の両方に注意を向ける必要がある旨を述べたが,現在の健康リスクを考えると,大学在学中はやせに重点をおき,肥満については,中高年者の肥満―特にBMI 30以上が大きな健康リスクであること2)を踏まえ,現在のみならず,卒業後の体重増加を防ぐ指導が必要ではないかと考える。

(2) 意識障害を経験した学生の割合の経年変化

2013年まで意識障害を経験した学生は2013年まで減ってきたが,2014年からステップダウンしたように見える。この年からてんかんと非てんかんに分けて尋ねており,てんかんという具体的な病名を挙げたことが回答に影響した可能性を否定できない。そこで,2013年までと2014年以降に分けて検討した。

2014年以降,てんかん以外の原因で意識障害を経験したのは女性の方が有意に多かった(p<0.001)。健康診断時に意識障害を経験した学生では心電図を記録しており,その記載を見ると,非てんかん性の意識障害で最も多いのは血管迷走神経性の失神だと思われる。これは若い女性に多く8),今回の成績と合致する。そして,血管迷走神経性失神は対処法があり,保健室スタッフが指導している。すなわち,予防法としては,じっと立っているよりもその辺りを歩き回ったり,足踏みをしたり,座る時には足を組むなどである。そして,冷汗が流れたり気分が悪くなったりした時点で,その場にしゃがみ込み,立ち上がらないようにすることである。頭部打撲や外傷による失神では,受傷した時に競技を続けないことが大切であり,さらに次の事故を避ける注意が必要である。てんかんでは,抗てんかん薬をきちんと服用し,規則正しい生活を送り,睡眠を十分にとることが予防に結びつく。このような知識を持たない学生も散見されるので,指導の意義はあると考えている。

その頻度については,特に非てんかん性の意識障害については,男性も女性もかなり凹凸がある(図3)。これは,起立性調節障害をどう捉えるかによっても変わると思われる。先行研究の一つは9),細かく症状を聞いたうえで,起立性調節障害が疑われる学生が入学の時点で31.8%に上り,半年後には食生活や生活時間の変化を反映して,41.5%にもなっていたという。我々の成績とは開きがあるが,非てんかん性の意識障害を避けるためには,生活習慣の適正化が有効であることを示している。

また,2020年には4年生の男女で意識障害を来した頻度が減っており,COVID-19の影響かも知れない。2020年も含め,意識障害を経験した頻度には1年生と4年生で差がなかった(コロモゴロフ-スミルノフ検定)。同じ集団での比較ではないので断定的なことは言えないが,九産大では大学在学中に新たに意識障害を発症する学生は少ないと思われる。

(3) 意識障害とBMIの関連

1年生の男性を除き,他の3群では非てんかんでBMI 18.5未満の学生が有意に多かった(p<0.01)が,てんかんではその所見は認められなかった。同じ意識障害といっても,てんかんと非てんかんではBMI―特に18.5未満のやせの関与が異なると思われた。

なお,やせていると低血圧や起立性調節障害を伴いやすいことはすでに知られている10)。起立性調節障害と先に述べた血管迷走神経性失神とは重なる部分がある。したがって,非てんかんでやせた学生が有意に多かったという結果は,従来の知見を確認したに過ぎないが,本研究では後述するように,やせと意識障害に共通する要因を探っている。

(4) BMIや意識障害と朝食摂取の関連

BMIや意識障害のそれぞれと朝食摂取の関連を調べたのが表4表5であった。BMIが18.5未満の学生も非てんかんで意識障害を経験した学生も,朝食をほぼ毎日食べることが有意に少ない(p<0.001)。さらにBMIが18.5未満の学生では,殆ど欠食する学生が有意に多い(p<0.01)ので,意識障害とBMIとは朝食摂取の習慣が出来ていないという共通の要因を介して結びついている可能性が示唆された。

しかし,今回の分析では因果関係を断定出来ない。すなわち,朝食をほぼ毎日食べる学生が少ないからやせている学生が多かったり,非てんかん性の意識障害を起こしやすかったりするのか,やせていたり非てんかん性の意識障害を起こしやすかったりして健康度が障害されているので,朝食をきちんと食べられないのかは,今回の結果からは分からない。ただ,現実的な方策としては,朝食をほぼ毎日食べるように働きかけるのが良いと考えている。

なお,朝食を食べないでいると,体重が増えることはあっても減ることはない,というのが一般的な認識になってきた11)。ところが今回の成績は,BMIが18.5未満の学生では朝食をほぼ毎日食べる頻度が有意に低く,ほとんど欠食する頻度が有意に高いことを示しており,このシステマティックレビューの結果とは相反する結果である。今回の対象者では,朝食を食べない学生は昼食と夕食を併せてもエネルギー摂取量が少ないのだと考えると説明可能であろう。ただ,それを調査していない。

(5) 本研究で検討し切れなかった点と今後の課題

本研究に参加した学生のデータは,学籍番号や性別,BMI値以外は,自己申告による。したがって,意識せずに社会的に望ましいとされる行動に偏って回答するなどのバイアスを否定できず,それが結果の解釈に影響した可能性もある。これは質問紙法に共通する問題であり,本研究でも解決できていない。

本研究では,朝食摂取や意識障害とBMIの関連について記述したが,生活習慣には運動習慣や喫煙習慣,飲酒習慣,睡眠習慣などもあり,それぞれが健康な毎日に影響する。これらについては他の論文に譲りたい。睡眠習慣については調査自体を行ってなく,今後の課題である。

18.5未満のBMIを示す学生の割合が男性で増えていた。これは,今回の検討で初めて分かったことで,男性のやせについてのデータが不足している。ただ,BMI区分の分布については,毎年,福岡市から提出を求められており,これからも同様の調査を続けるのは既定の方針である。

学生にとっては卒業後の人生が長く,本番はこれから迎えるといってよい。この考察でもすでに述べたが,普通体重の学生にとっては,体重を増やさないという意識を持ち続けると同時に,実際に体重を維持するための方法論が必要である。その開発は,これからの課題である。

意識障害と18.5未満のBMI低値が結びつき,そこに朝食摂取の習慣が出来ていない―ほぼ毎日食べる学生が両群とも有意に少なかった―ことが介在する可能性がある。朝食摂取の習慣を確立したい。海外では朝食の供給まで行っている12)が,そのようなやり方を継続して実施できるのか,それで朝食を毎日摂るようになるのかという問題もあり,我々の大学にもっと適した方法がないのかを探ることが必要である。

5. 結語

九州産業大学の1年生,4年生について,2003年から2024年までのBMIと意識障害の経験を分析した。BMI<22の学生は男性より女性が多く,22≦BMIでは男性の方が多かった。しかし,経年変化を見るとBMI<18.5の男性が有意に増加していた。意識障害については2003年以降,経験した学生が減っていたが,2014年からてんかんと非てんかんに分けて尋ねており,それ以降は,てんかんという具体的な病名を挙げたことが回答に影響した可能性を否定できない。非てんかんでは男女差があり,女性の方に多かった。非てんかん性の意識障害を経験した学生には18.5未満のBMIを示す人が多く,この両者とも朝食をほぼ毎日食べる割合が低かった。

謝辞

毎年の学生の定期健康診断と諸調査が円滑に実施できるよう,努力を惜しまなかった事務職員の皆様に深謝いたします。本論文に関して,開示すべきCOI状態はありません。

文献
 
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