2025 Volume 7 Pages 9-21
神経系の発達が著しい幼児期には,姿勢のコントロールシステムも同時に発達するが,保育者が保育の中で姿勢の保持に課題がある子どもへの支援に苦慮する場面も多い。本研究では4・5歳児クラスの「姿勢の保持」に焦点を当て,保育者が主観的に「姿勢の保持に課題がある」と感じる幼児の課題をカテゴリー別に検討することで,1・2歳児クラスの保育環境改善に資する評価を検討し,幼児期前期から姿勢保持のために取り組める支援につなげることを研究の目的とした。本研究は,4・5歳児の姿勢保持を担う重心動揺・足部および足趾形態・運動能力・1・2歳児の生育環境について,保育者が主観的に感じる姿勢保持に「課題あり群」「課題なし群」と2群に分け評価を行い,群間の明確な差異や課題あり群の共通点はみられなかったことを確認した。これらの結果を基に,1・2歳児クラスで用いる保育環境改善に向けた評価票(読み取りシート)を作成し,その効果について介入研究を行った。
In early childhood, when the development of the nervous system is remarkable, the posture control system also develops simultaneously. However, caregivers often face challenges in supporting children who have difficulties with maintaining posture during childcare activities. This study focuses on “postural maintenance” in classes for 4- and 5-year-olds. By categorizing the issues of children whom caregivers subjectively perceive as having challenges in postural maintenance, the study aims to evaluate improvements in the childcare environment for classes for 1- and 2-year-olds and to develop support strategies that can be implemented from early childhood to assist with posture maintenance.
This research evaluates postural stability, foot morphology, toe morphology, motor skills, and the caregiving environment of 1- and 2-year-old classes. The study divides 4- and 5-year-olds into two groups: those perceived by caregivers as having “postural maintenance issues” and those without such issues. The evaluation showed no significant differences between the groups, nor were there common characteristics found in the “issues” group. Based on these results, an evaluation form aimed at improving the childcare environment in 1- and 2-year-old classes was developed, and an intervention study was conducted to assess its effectiveness.
「姿勢」という言葉は身体の体位や構えを表す言葉であると共に,物事に対する心構えを表す言葉でもある。「子どもの身体のおかしさ」問題が指摘されはじめてから50年以上経つが,問題は解消されるばかりか年々深刻化しており,子どもの姿勢に関する課題を指摘する研究は多い1)~4)。その要因として,遊び環境の変化や電子機器の普及等によって,運動能力や身体活動量との関連が指摘されるが5)~7),姿勢とは,多くの感覚入力と様々なコントロール機構の結果であり,筋-骨格系の構造的な安定性のみで説明するのは不十分である8)。運動スキルの発達過程において,姿勢のコントロールシステムは乳幼児期に発達する8)。近年,幼児の体力や身体活動を高めることを目的とした研究が多く行われているが9)10),「椅子に座っている時,背もたれに寄りかかったり,ほおづえをついたりして,ぐにゃぐにゃになる子」が最近増えていると回答した保育所・幼稚園の保育者が約6割に達する11)など,保育現場では幼児の姿勢保持に課題を感じる場面が多いと言える。その保育者が感じる「おかしさ」が顕在化してくるのは,保育の中に集団での活動が含まれてくる3・4・5歳児の幼児期後期であることが多いと考えられる。しかし,姿勢のコントロールシステムが生まれてすぐから発達しはじめることを考えると,課題が顕在化する以前,つまり0・1・2歳児の運動経験や生活の仕方に要因があるのではないか。さらにこの時期の発達特性を踏まえれば,幼児期における姿勢の保持は,筋-骨格系や姿勢のコントロールシステムに加えて,コミュニケーション力,集中力,主体性,健康状態などと関連し,遊びや学びに大きく影響すると考えられる。
そこで本研究では,調査内容の課題理解,土踏まずの形成時期を勘案し,4・5歳児クラスの幼児を対象として「姿勢の保持」に焦点を当てる。さらに,保育者が主観的に「姿勢の保持に課題がある」と感じる幼児の発達の背景を振り返り,評価のためのツールを作成することで,幼児期前期から姿勢保持のために取り組める支援方法を検討することを研究の目的とする。
(2) 姿勢保持を担う身体能力について全身の姿勢を保ちながら,多彩な動きを実現するためにはスタビリティ(安定性)とモビリティ(可動性)を両立させる必要がある12)。まずスタビリティについて考える場合,ヒトは立位姿勢の保持にも微妙な身体動揺を行っている。ヒトは誕生してから長い時間をかけて立位姿勢が保持できるようになり加齢とともに二足歩行,走行,跳躍といった様々な運動の基本動作を習得する。その基本動作の最初の原点とも言える立位姿勢は,前庭系,視覚系,体性感覚系などの中枢神経から適切な運動指令が生成され,骨格,筋肉などの骨格筋が機能することによって姿勢制御が行われる13)。加えて,立位姿勢を支えるには足裏が果たす機能も大きい。足裏は,足にかかる衝撃を受け止め,緩衝する部位である。その中でも,土踏まずは,立った姿勢のバランスを保ち,体重を支え,跳ぶ,飛び降りる時などのクッションになるなど,運動との関連が大きいとされる14)。また,立っている時に足指が床に接地しない浮き趾がある場合は,足裏全体で身体を支えることができず,移動の際の踏ん張りや姿勢制御に影響すると言われる15)。
次にモビリティについて考えると,Scammonの発育発達曲線にあるように乳幼児期は最も神経系の発達が著しい時期16)であるため,身体を思い通りに動かす可動性を獲得する時期であると言える。運動能力は身体の諸機能を複合的に用いて身体活動を遂行する能力17)である。
そこで本研究ではスタビリティを評価するために重心動揺及び足裏測定を,モビリティを評価するために運動能力測定を行い,保育者が「姿勢の保持に課題がある」と感じる幼児とそうではない幼児との間に差がみられるかについて検討を行った。
保育所および認定こども園5園の4・5歳児クラス204名(4歳児113名,5歳児91名)から,保育者が姿勢の保持に課題があると評価した幼児を19名抽出し,姿勢の保持に課題がある幼児(課題あり群)と,それ以外の幼児(課題なし群)を比較検討しながら姿勢の保持に関する課題の関係性を探っていくこととした。調査期間は2022年7月~2022年8月であった。尚,研究していく上で課題あり群は1・2歳児の時点で保育園に在籍していたことを条件とした。統計学的分析はSPSS 23.0(IBM)を使用した。
図1に示すように,研究1では4・5歳児の身体の使い方と姿勢保持との関係を検討した。また研究2・3においては,3年前にさかのぼり,1・2歳児のころの生活や子どもの姿と現在の姿勢保持との関係に着目した。また,研究1・2から得られた結果をもとに,4・5歳児で姿勢の保持に課題が見られる子どもの1・2歳時の生活に共通点を探り,姿勢保持に課題が顕在化する以前(1・2歳児頃)から課題をスクリーニングして保育の中の支援に活用できる評価票の作成を目指し(研究3),評価票を用いた介入研究を行った(研究4)。
研究の流れ
立位姿勢の安定性は,Rombergが立位姿勢を保持している際に身体が動揺していることを報告して以来,重心動揺の調査が用いられてきた18)。重心動揺測定は,直立姿勢に現れる身体の揺れを記録・分析して,身体の平衡(バランス)機能を検査するものである19)。重心動揺の測定検査には重心動揺計GP-6000(Anima社)を使用し,以下の項目を測定した。課題あり群19名(4歳児11名,5歳児8名),課題なし群158名(4歳児83名,5歳児75名)の測定を行った(図2)。
重心動揺測定の様子
①静的バランス:静止立位時の身体動揺は,固い床での開眼,閉眼を測定した。静止立位の指標は,総移動距離(総軌跡長)を用いた。この指標は,数値が大きいほど揺れが大きいことを示す。
直立姿勢で検査台プレートに乗り,開眼の場合は2メートル前方の目線の高さに合わせたマーク(イラスト)を見る。閉眼の場合は検査台プレートに乗り目を閉じて身体を静止した状態で測定を行う。計測時間はそれぞれ30秒とする。直立姿勢時の身体の平衡は,視覚・前庭・体性感覚からの入力が中枢神経系で処理され,骨格筋に出力されることで維持されるが,閉眼は視覚情報がない状態での重心検査となる。
②動的バランス:モニター操作で左右へ動く視標に合わせて重心を追従させるBody tracking test(BTT)を実施した。BTTの結果は10段階で提示され,数値(BTTスコア)が高いほど動的バランスが高いことを示す。
b.足部・足趾形態の測定静止立位中に床面に接地している足底と足趾の状態について,フットルック社の足裏バランス測定装置FOOTLOOKを使用した。課題あり群19名(4歳児11名,5歳児8名),課題なし群158名(4歳児83名,5歳児75名)から有効な結果が得られた(図3,図4)。
足部・足趾形態の測定の様子
足部・足趾形態の測定結果
〈土踏まずの発達度〉土踏まずの形成においては,中指からかかとの中心に線を引き,土踏まず形成部分が第何指まで達しているかを評価した。土踏まずの発達度は0~6の7段階評価で,点数が高いほど土踏まずが形成されていることを示す。
〈足趾〉全く床面に接していない指の本数を評価した。
c.運動能力検査運動能力検査は,幼児を対象とした全国標準を持つ運動能力検査であるMKS幼児運動能査20)の項目のうち,操作系の「ボール投げ」「捕球」を除く「25 m走」,「立ち幅跳び」,「両足連続跳び越し」,「体支持持続時間」の4項目を実施した。課題あり群19名(4歳児11名,5歳児8名),課題なし群202名(4歳児101名,5歳児75名)から有効な結果が得られた。
2) 家庭環境アンケート(研究2)4・5歳児以前の生育環境と姿勢の保持との関連を探るために,現在の4・5歳児の保護者に対して3年前の生活習慣(睡眠時間・喫食状況・遊びなど)や子育て(子どもに対する声かけ,姿勢に関しての注意など),子どもの周りにある環境等6項目25問のアンケートを実施した。課題あり群19名(4歳児11名,5歳児8名),課題なし群128名(4歳児69名,5歳児59名)から有効な結果が得られた。
3) 課題あり群の後ろ向きコホート研究(研究3)課題あり群が1・2歳時点の保育園での過ごし方や様子等と,4・5歳時で見られる姿勢との関連を検討するために,後ろ向きコホート研究を行った。課題あり群が1・2歳時の担任に「社会面・精神面・家庭環境・運動」の4項目について当時の日誌や個別の指導計画を参考にコホート記録用紙に記載してもらった。またその記録から,本研究の研究対象になった乳幼児が通園する5園の保育者9名で「対象児の姿勢に課題が見られる要因」についてどんな姿があるのか話し合いKJ法を用いて項目を検討した。その後,検討結果を基に,「保育の環境とかかわりを考える読み取りシート(以下,読み取りシート)」という評価票を作成し,試用後に改善点の聞き取り・改良を加えて完成させた。尚,KJ法を行った保育者は,主任もしくは主任クラスの保育経験が15年以上である保育者であった(図5)。
保育者による項目作成の様子
5園の1・2歳児クラス179名に対して読み取りシートを用いて評価を行った。5園の現在1・2歳児クラスに在籍する179名に対して読み取りシートを用いて評価し,そのうち点数が低い子どもを各園1・2歳児1名ずつ計10名抽出した。その後,10名に対して7カテゴリーのうち,最も点数が低いカテゴリーに焦点を当て,保育の中でのかかわり方や環境構成について検討した。また検討内容に応じて,10名の担任が1週間から1か月ほど検討した保育を実践し,読み取りシートの効果検証を試みた。
(2) 倫理的配慮本研究は,九州産業大学倫理審査による承認を得て実施した。研究の目的,期待される結果と共に,協力は自由意志によるもので,協力しない場合の不利益はないこと,知りえた情報は数量データ化し,統計的な分析にしか使用しないこと,データは厳密に管理すること,研究終了後も守秘義務については同様とすること,また,同意しても中断,辞退可能であること,結果は研究以外の用途には使用しないことを文書または口頭で説明して,同意書への署名を得た。尚,本研究に関連して開示すべき利益相反関係にある企業・団体等はなかった。
重心動揺測定,足部・足趾形態の測定,運動能力検査の結果を表1に示す。
重心動揺測定,足部・足趾形態の測定,運動能力検査の結果
Mean (SD) | |
---|---|
静的バランス | |
単位軌跡長(cm/sec) | |
固い床 開眼/閉眼 | 2.1(0.8)/2.9(1.1) |
外周面積(cm2) | |
固い床 開眼/閉眼 | 1.4(0.6)/1.9(0.7) |
単位面積軌跡長(1/cm) | |
固い床 開眼/閉眼 | 14.5(5.0)/14.6(4.2) |
動的バランス | |
BTTスコア(点) | 3.0(2.6) |
足部,足趾の形態 | |
土踏まずの発達度(点) | 5.0(1.6) |
浮き趾(本) | 4.6(2.8) |
MKS運動機能検査評価点(点) | |
25 m走 | 3.2(1.1) |
立ち幅跳び | 3.4(0.9) |
両足連続飛び越し | 3.0(1.1) |
体支持持続時間 | 3.1(1.0) |
開眼・閉眼の静止立位姿勢における総軌跡長,BTT,の結果において,課題あり群・課題なし群の間に有意差はみられなかった(図6,図7)。
重心動揺測定の結果1(総軌跡長)
重心動揺測定の結果2(BTT 10段階評価)
土踏まずの発達度について,課題あり群・課題なし群に有意差はみられなかった。また,浮き趾においても課題あり群・課題なし群の間に有意差はみられなかった。両足のうちどちらかに浮き趾のある子は全体の94%にものぼり,10本とも床面に接地している子どもは177名中わずか10名であった。
c.運動能力検査課題あり群・課題なし群の間において,各項目および合計値において有意差はなく,対象児間の特筆すべき共通点もみられなかった(図8,図9)。
運動能力検査の結果1(各項目)
運動能力検査の結果2(合計)
課題あり群・課題なし群の間で重心動揺,足部・足趾形態,運動能力と姿勢保持について,有意差は得られないという結果であった。このことから,スタビリティとモビリティいずれにおいても,幼児の姿勢保持との関連は低いと考えられる。先行研究においても,3歳から5歳の重心動揺の値に性差が認められないことや21),重心動揺は5歳以降から減少し6歳ごろには立位の制御が完成することを示す研究もある22)23)。幼児期は身体機能が発展途上であり,立位の安定性よりも,集中力を反映している場合が多いと報告する研究もあり24),本調査では明確な関連が確認できなかった可能性も残されている。いずれにせよ,幼児の姿勢についてよく言われる,「体幹」や「足裏形状」,「運動能力」との関連は確認できなかった。
(2) 家庭環境アンケート(研究2)子どもの発育や生活習慣について調査した家庭環境アンケートについて,いずれの調査項目でも課題あり群・課題なし群の間に有意差は得られなかったが,ここでは4・5歳時の姿勢にも関連しそうな「食事の姿勢」「子どもの姿勢への対応」「姿勢が悪い際の子どもへの声掛けについて」の3項目を取り上げる。図10に示す結果から,家庭における食事場面でよく見られた姿勢の乱れは,課題あり・課題なし群共に「ながら食べ」が多かった。特に課題あり群については,8割以上が「よくしていた」と回答しており,「ときどきしていた」まで含めると約95%が「ながら食べ」であったことが分かる。また,「椅子に正座する」と「抱っこして食べさせる」を除くいずれの項目についても課題あり群の幼児の方が,「よくしていた」「時々していた」を合わせた割合が高く,1・2歳児から姿勢の乱れが継続している可能性が考えられる。とりわけ,「膝を椅子や床に立てる」や「テーブルに肘をつく」「背中がぐにゃぐにゃ」「お尻が前にずれる」といった直接的に姿勢に関する項目は,全て課題あり群の幼児の方が上回っており,有意差こそ得られなかったが,1・2歳児からの姿勢の乱れは,4・5歳児の姿勢保持と関連していることが推察される結果であった。
食事をする時の姿勢
図11に示すように「子どもの姿勢への対応」では,「姿勢が悪かったら声かけしていた」割合は,課題なし群の方が高いものの,「意識して正しい姿勢になるように声かけをしていた」比率が,課題あり群の方が高くなっている。これは,1・2歳児の頃から家庭の中で保護者から見て気になる姿勢が多く見られたが故に「意識的に」正しい姿勢になるように声掛けしていたことに起因すると考えられる。いずれにおいても,4・5歳児の姿勢保持の前段階である,1・2歳児から姿勢の乱れがあったことを思い起こさせる結果であった。
子どもの姿勢への対応
最後に「姿勢が悪い際の子どもへの声掛けについて」の結果を図12に示す。有意差は確認できなかったが,「できないことにも励ましの言葉をかけていた」や「できない理由を説明していた」において,課題なし群の方が「よくしていた」割合が高くなっている。逆に「大人の言うことを聞くように声をかけていた」については課題あり群の方が「よくしていた」割合が高くなっている。乳幼児期に非認知的能力を高めるためには,肯定的なかかわりや応答的なかかわり,自己肯定感の充足等が必要であるとされるが,課題なし群の方がそれに近いかかわりを経験してきたことが推察される結果であった。
姿勢が悪い際の子どもへの声掛けについて
いずれの項目においても,群間に有意な差は見られなかったが,今回の家庭環境アンケートは群間の対象児数に大きな開きがあり,統計的な検討を行うには限界がみられる。しかし,この後の研究を進めるにおいて,4・5歳児クラスの課題あり群・課題なし群が1・2歳時にどのような環境で過ごしていたのかを理解するためには,かかわり方の傾向に違いがあることが見られたこと等,今後,調査対象を拡大したり,新たな視点で「課題」を設定するに当たり,示唆的な結果であったと考えられる。
(3) 課題あり群の後ろ向きコホート研究(研究3)課題あり群の1・2歳児の担任にコホート記録用紙に自由記述をしてもらった結果を保育者9名で読み込んだ後,「対象児の姿勢に課題が見られる要因」についてどんな姿があるのか話し合いKJ法を用いて項目を検討した。その結果,「保護者の気持ちの安定」「家庭のしつけ」「運動・身体的特性」「生活習慣」「気持ちのコントロール」「主体性」「本人の特性」の7つのカテゴリー35項目が生成され,読み取りシートを完成させた(表2)。またその結果をチャート化することで子どもの課題を見える化することを図った(図13)。さらに課題あり群の4・5歳児19名が1・2歳の時の担任保育者が読み取りシートを用いて5段階評価を行い,課題あり群に共通点があるか,現状と比して子どもの課題を読み取ることができる評価票となっているかについて検討を行った。
保育の環境とかかわりを考える読み取りシートの結果
4・5歳児 園児名 | 園名 | |||||
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タイトル | 当てはまる | やや 当てはまる |
やや 当てはまらない |
当てはまらない | ||
保護者の 気持ちの安定 |
1 | 家庭環境が安定していない | 1 | 2 | 3 | 4 |
2 | 主たる養育者が周囲の協力を得られにくい | 1 | 2 | 3 | 4 | |
3 | 保護者が子どもに振り回されている | 1 | 2 | 3 | 4 | |
4 | 母親の育児参加度が低い | 1 | 2 | 3 | 4 | |
5 | 保護者の生活リズムが安定していない | 1 | 2 | 3 | 4 | |
小計 | ||||||
家庭のしつけ | 1 | 保護者主体の生活になっている | 1 | 2 | 3 | 4 |
2 | メディアとの接触時間が長い | 1 | 2 | 3 | 4 | |
3 | 放任されている | 1 | 2 | 3 | 4 | |
4 | 何でも手を借り,してもらっている | 1 | 2 | 3 | 4 | |
5 | 叱られていることが多く自己肯定感が低い | 1 | 2 | 3 | 4 | |
小計 | ||||||
運動・身体的特性 | 1 | 頭が大きい・バランスが悪い | 1 | 2 | 3 | 4 |
2 | 歩行姿勢が安定しない | 1 | 2 | 3 | 4 | |
3 | まっすぐ立てない(ぐにゃぐにゃしている) | 1 | 2 | 3 | 4 | |
4 | 平衡感覚(バランス)がとりにくい | 1 | 2 | 3 | 4 | |
5 | 壁や物によくぶつかる | 1 | 2 | 3 | 4 | |
小計 | ||||||
生活習慣 | 1 | 登園時間が決まっている | 4 | 3 | 2 | 1 |
2 | 機嫌よく登園する | 4 | 3 | 2 | 1 | |
3 | 偏食が少ない | 4 | 3 | 2 | 1 | |
4 | 毎日,朝食を摂っている | 4 | 3 | 2 | 1 | |
5 | 十分な睡眠がとれている | 4 | 3 | 2 | 1 | |
小計 | ||||||
気持ちのコントロール | 1 | 泣き止むまでに時間がかかる | 1 | 2 | 3 | 4 |
2 | 友達とのトラブルが多く,手が出やすい | 1 | 2 | 3 | 4 | |
3 | 気持ちの切り替えができる | 1 | 2 | 3 | 4 | |
4 | 遊びに積極的でなく,ウロウロする | 1 | 2 | 3 | 4 | |
5 | 情緒が安定しない | 1 | 2 | 3 | 4 | |
小計 | ||||||
主体性 | 1 | 園生活の流れなどの見通しが持てる | 4 | 3 | 2 | 1 |
2 | 様々な事柄に興味や関心が高い | 4 | 3 | 2 | 1 | |
3 | じっくり遊びこめる | 4 | 3 | 2 | 1 | |
4 | 身の回りのことを自分でしようとする | 4 | 3 | 2 | 1 | |
5 | 好きな遊びがある | 4 | 3 | 2 | 1 | |
小計 | ||||||
本人の特性 | 1 | 予告なく環境か変わるとパニックになったり,フリーズしたりする | 1 | 2 | 3 | 4 |
2 | 落ち着きがなく,じっとしていられない | 1 | 2 | 3 | 4 | |
3 | 目が合いにくい | 1 | 2 | 3 | 4 | |
4 | 聴覚や視覚,触覚に過敏さがある | 1 | 2 | 3 | 4 | |
5 | 不器用で,細かい作業が苦手 | 1 | 2 | 3 | 4 | |
小計 |
読み取りシートの結果(レーダーチャート)
個別の特性について検討した課題あり群19名のデータを重ね検定を行ったが,有意な結果は得られなかった。そのため,課題あり群が共通して抱えている姿勢の保持に影響を及ぼす要因は確認されなかった。しかし,1・2歳の時の担任保育者が評価した読み取りシートの結果が,4・5歳クラスの現状を表しているかについて19名のクラス担任に調査を行ったところ,9割を超える保育者が1・2歳児の姿を評価した読み取りシートが課題あり群が抱える課題を見える化していると答えた。
研究1でも同様に,定量的な指標では関連が確認されなかったが,読み取りシートを用いて保育者が定性的な評価を行うと,子どもが抱える課題やカテゴリーが浮上することが示唆された。このことから,定量的な評価において評価しきれていない複合的な観点が存在する可能性が考えられる。今回の研究の端緒となった「子どもの姿勢のおかしさ」についても,「保育者の気づき」が発端となっている。多くの分野において,発揮されるであろうこの「気づき」については,専門職としての保育者の子ども観や保育観の精度の高さとも考えられ,今後,保育者の暗黙知を認識知に変換するための取り組みが必要であると考える。
(4) 個に応じた保育環境やかかわりに向けた介入研究(研究4)5園10名の1・2歳児を対象に取り組んだ実践の中から,ここに2事例紹介する。
【実践1】 個の遊びを保障したA児の例
読み取りシートの結果からA児は気持ちのコントロールが難しく,家庭は保護者主体の生活であることが分かった(図14)。A児の日頃の様子として以下の姿が見られた。
A児のレーダーチャート
A児の姿1
・登園してきた時点で不機嫌なことが多くよく泣く。
・遊びが長続きせず,自分の思い通りにならないとすぐに泣く。
・一度泣き出すと長泣きし気持ちに折り合いをつけることが難しい。
〈保育者の記録から〉保育者間で検討する中で,A児には好きな遊びがあること,身体を動かすことが好きであることに着目した。そこで,遊びを通して満足感を味わえるようにしたいと考え,A児の好きな遊びであるボールを使った遊びを活動の中にふんだんに取り入れて遊びに没頭できる環境を作った。戸外では,サッカーボールを出して遊んだり,室内では大きな部屋を使って風船遊びをしたり,小さなボールを投げたり集めたりする遊びを取り入れた。
家庭では,保護者主体の生活であったため,遊ぶ時には保育者がA児の相手役になることを心がけ1対1でかかわるようにした。また,一人遊びに没頭出来ている時には,必要以上に言葉をかけずに見守ることも保育者間で共有し,一貫したかかわりが出来るようにした。泣いて切り替えが出来ないA児に対し,抱っこなどで安心出来るようにした後,ボール遊びに誘ってみると,泣き止んで膝に抱かれて落ち着くことが出来ていた。少しずつ環境を変えて間もなくA児に変化が見られはじめた。
A児の姿2(A児の変化)
・好きな遊びが出来る環境が整うことで,じっくりと遊ぶことが出来るようになり,自ら保育者に遊びを求めてくるようになった。さらに,保育者が意識して遊びに加わることで満足感を味わえるようになり,A児の笑顔が増えてきた。
・気持ちの切り替えが早くなり,以前のように長泣きをしなくなった。
・個の遊びを充実させることで語彙も増え,友達と関わって遊ぶ姿が見られるようになってきた。
このように,環境やかかわりを変えていくことでA児の変化に手ごたえを感じていたが,新年度になり担任や保育室が変わることによって,また泣いて登園する日が多くなってきた。
【実践2】保護者へのアプローチを中心に取り組んだB児の例
読み取りシートの結果から,3歳1か月のB児は生活習慣の点数が低く,生活リズムが整っていないことがわかった(図15)。保育園には,ほとんど毎日10時近くに登園しているといった状態である。
B児のレーダーチャート
B児の姿1
・朝は全く活動に参加できずにぼんやりとしている。
・朝食も欠食が見られる。
・保護者主体の生活で,就寝時間もかなり遅いため朝は起きることが出来ない。
・保護者の出勤時間も遅いため,登園時間も遅くなる。
・小学生の姉と一緒にゲームをしたり,テレビやYouTubeを見たりとメディアとの接触時間も長い。
〈保育者の記録から〉B児がどうすれば元気に登園し,朝から活動に入れるのか保育者間で相談した結果,保護者にまず1週間という期限で生活の改善を促し保育園と家庭とで協力体制を作ってみることにした。
保護者に家庭で頑張ってほしいことを2点提案した。
B児の姿2(保護者へのお願い)
① 1週間朝食を摂った上で,9時までに登園すること。
② メディアとの接触時間を少し減らし,親子の関わりを増やすこと。
園では,保育者とのかかわりの工夫として次の3点を共有した。
B児の姿3(保育者のかかわり)
① 1対1でコミュニケーションを取り,心の安定を図る。
② 出来たことに注目し,褒めて自信を持てるようにする。
③ 朝の運動遊びの時間に丁寧に関わり,出来る喜びや楽しさを味わえるようにする。
以上のように保護者と園とで協力し,1週間様子を見ていくと生活リズムが変わったことによりすぐに変化が見られた。
B児の姿4(B児の変化)
・以前は午睡しなかったが,登園時間が早くなったことにより,午睡時もしっかりと眠れるようになった。
・保育者とたくさん関わることにより,自分の事をよりアピール出来るようになり,表情も明るくなった。
・登園時間が変わって,朝の運動遊びに参加出来るようになり,朝から体をしっかりと動かすことで集中する時間が以前より長くなった。
1週間という期限があることで保護者も協力しやすく,このような結果が出たと考えられる。園でのB児の変化をしっかりと保護者に伝えることで,生活リズムを整えることが子どもの変化につながると理解いただけたようで,その後も9時までに登園することを心がけてくれている。
今回読み取りシートを使い,保育者が一人ひとりの子どもの姿を丁寧に読み取り,それぞれに合った環境構成やかかわりを考え,保育者間で共有することでクラスで一貫したかかわりが出来るようになった。
このように10事例を検討する中で,保育を実践した担当保育者からは子どもだけではなく保育者にも変化が見られたという。以下は保育者の気づきの中から頻度の高いものを抜粋する。
保育者の意見
・個々の課題を改めて知ることができ,子どもへのかかわり方や保育環境を見直すことで子どもに与える良い影響が多くあるとわかった。
・子どもの見方やかかわり方,言葉かけを工夫し,保育者間で話し合う場が増えたことで,クラスで一貫したかかわりが出来るようになった。
・同じような課題を持つ他児に応用したかかわりをすることで,クラス内が良い方向に向かっている。
・一つ一つの行動を意識して最後まで見守るようにしたことで子どものつまづきや難しい点がわかり,的確な援助ができた。
・保育者間で共通理解をもって取り組むことができた。
・子ども一人ひとりの個性をしっかり見ることが出来るようになった。
以上の2事例のように,読み取りシートを用い,現在の1・2歳児に実践を行っていくことで,個別の課題が明確となり,クラスで保育のあり方を検討する材料やきっかけとなったことは,子どもへの支援を質の高いものにしただだけではなく,保育者自身の専門性の向上につながった。また,保育者には見えにくい家庭での過ごし方についても,子どもの利益として具体的な取り組みを保護者に伝えることができた点で効果を実感した保育者も多かった。今回の研究では,読み取りシートの試用にとどまり,効果を量的に測定するには至らなかったことは今後の課題となる。
実践1では,年度が変わり担任が変わることで改善されつつあった子どもの園での姿が元に戻ったことも報告されている。一過性の取り組みではなく職員の共通理解を継続して進めることに気づく事例であった。
研究当初,研究協力チームの保育者の予測では,課題あり群の姿勢の保持には,体幹の育ち等の筋-骨格系を中心に未成熟がみられるのではないかと予測する声が大きかった。しかし,研究を進めるにつれて,「体幹が弱いとはどのような子どもを指すのか」,「本当に体幹が弱いことが姿勢の保持ができない要因になっているのか」と,様々な疑問が生じた。子どもの姿勢の悪さを目の当たりにしたときに,筋力や運動経験の未熟さが原因ではないかと思いこみ,運動遊びの量や種類を増やすことで子どもの課題の改善を期待する傾向にないだろうか。保育者は目の前の子どもを瞬時に見取り,保育者のかかわりとしてフィードバックを行う。その評価精度は日々の省察や研修によって磨かれて行くものの,日々の多忙さからクラス内の多角的な保育の共有には至りにくい場合もある。
本研究では,定量的評価や定性的評価などを用い,様々な角度から姿勢が崩れる要因を探っていった。その結果,保育者が主観的に課題がある幼児と抽出した幼児に共通の要因はみられなかった。このことは,子ども一人ひとりに異なる課題があり,その課題に応じた保育の環境構成や支援を行うことが,保育者の「姿勢の保持が難しい」と感じる要因を取り除いていくことにつながることが示唆された。「姿勢」という言葉は何を指すのか,これまでの研究の中でも多くの研究で議論されてきた言葉である。特に心身不可分な幼児の場合,体位や構えなどの身体の側面と同様に,生活習慣による身体の心地よさ(悪さ)や人・もの・ことに向かう関心の具合によって大きく左右される。その点で,短期間ではあったが,今回作成に至った「保育の環境とかかわりを考える読み取りシート」を現1・2歳児に対して試行的に活用した実践において,担当保育者が園児一人ひとりに目を向けて観察し,環境やかかわりを見直すことで園児に変容が見られ,保育者の成長にもつながったことは,読み取りシートの有効性が確認できた事例であった。今回作成に至った「保育の環境とかかわりを考える読み取りシート」が子どもの課題の改善や保育者の成長に資する資料となるよう,今後検証を続けていきたい。
本研究にご協力,ご尽力いただいたI市の保育協会保育士会研究部会と全ての子ども・保育者の皆様に感謝申し上げます。この研究は科研費(課題番号:16K17404)の助成を受けて行われました。