目的:出産に関する文化的な伝統的プラクティスは、妊産婦の健康にとって重要な役割を果たすと報告されている。本研究の目的は日本の産科医療施設におけるラオスの産後の4つの伝統的プラクティス(火の傍で過ごすユーファイ、薬湯の摂取であるキン・ナム・ホーン、食禁忌であるカラム・キン、ハーブによる蒸気浴であるホーム・ヤー)に関して、埼玉県内の産科医療施設の産科病棟看護管理者を対象に、認知度、実践への支援の意向、自施設での実践の可能性について明らかにすることである。
方法:埼玉県内の分娩を扱う全121施設(病院38、診療所59、助産所24)の産科病棟看護管理者を対象に、自記式調査票の郵送調査を実施した。調査内容は年齢、施設概要、伝統的プラクティスの認知度、実践支援の意向、自施設での実践の可能性等とした。施設種別と各項目の関連について検討し、有意水準は5%(両側)とした。
結果:81人(病院30、診療所37、助産所14)の回答を分析した。プラクティスについて、知っている者はユーファイ3.7%、カラム・キン、ホーム・ヤーは1.2%でキン・ナム・ホーンはいなかった。実践支援の意向はキン・ナム・ホーン、カラム・キンは肯定的回答の割合が高かった。施設の種別では、ユーファイは助産所の否定的回答の割合が低く、有意な差を認めた。実践の可能性は、ユーファイ、キン・ナム・ホーン、カラム・キンで肯定的回答の割合が高かった。助産所はユーファイ、キン・ナム・ホーン、ホーム・ヤーで肯定的回答の割合が著しく高く、施設の種別では有意な差を認めた。
考察:ラオスの産後の伝統的プラクティスについての認知度は低く、その理由は在日ラオス人が少ないためと考える。通訳等を活用して妊娠期から意思疎通を図り、看護者が少数派の在日外国人の文化的慣習を知ることが重要である。キン・ナム・ホーン、カラム・キンのような飲食に関する伝統的プラクティスへの対応は比較的可能な施設が多く、助産所は小規模施設であるため、特別なニーズを持つ女性への対応ができる可能性が他施設より高いと考えられた。この様な伝統的プラクティスの対応に関する情報をラオス人女性に提供することが必要であり、医療施設において在日外国人女性の母国の伝統的プラクティスの実践を支援するための情報提供システムの構築と教育・研修の充実が急務である。