抄録
野蚕は様々な繭とシルクを作っている。シルクの進化および優れた生物材料としての興味から,我々はシルク遺伝子の解析を行ってきた。これまでに,ヤママユガ科昆虫のサクサン,ヤママユガ,エリサン,シンジュサン,クスサン,ウスタビガおよびクリキュラにおいて,シルクの主成分であるフィブロインの遺伝子の解析を行った。具体的には,ゲノムDNA ライブラリまたは絹糸腺cDNA ライブラリから,フィブロイン配列を含むクローンを選び,塩基配列を決定した。さらに,オニグモやキイロスズメバチにおいても同様の解析を行った。ヤママユガ科昆虫においては,いずれもフィブロインのアミノ酸配列はポリアラニンブロックと非ポリアラニンブロックからなる数種の反復モチーフが繰り返していた。ポリアラニンブロックはカイコのフィブロインには存在しないが,オニグモのフィブロイン遺伝子数種類にも見られた。キイロスズメバチのホーネットシルクは4 種のフィブロインからなり,いずれも両末端がセリンリッチな配列で,内部はアラニンリッチな配列であった。生物種によって様々なシルクの遺伝子と機能を解明することによって,シルクの急速な進化の理解と遺伝子組換えによる高機能シルクの開発が可能となることが期待される。