九州がんセンターで手術された胃癌患者のうち, 70才以上の高令者96例を, 69才以下の360例と, 胃癌手術に関して比較検討した.
70才以上の高令者は, 69才以下の患者に比べ, 術後に肺, 循環器の合併症を高率に惹起する傾向にあり, 特に胃全摘, 噴切では肺合併症を高率に生じていた. 高令者の手術直接死亡率は5%で, 69才以下の0.7%よりも高く, 胃全摘では15.4%と高かつた.
血清蛋白量, 血清コレステロール, 体重などからみた術後遠隔時の消化吸収は, 高令者でも胃切除例では良好であつたが, 胃全摘ではやや低下していた.しかし, 治癒手術例の5年生存率は高令者でも69才以下のものに比べて劣つておらず, 非治癒切除例ではむしろ高令者の方が良い成績を示していた. 従つて, 高令者の胃全摘は必要かつ最小限度に止めるべきであるが, 癌に対しては患者のriskに無理がなければ, 積極的に手術を行うべきで, それによつて老人の余命を延長させ得るであろう.