抄録
従来よりAdenoid cystic carcinomaは一般に発育が遅いといわれている. 今回, 我々は顎下腺より発生したAdenoid cystic carcinomaで発症後約3年で多発性肺転移, その後2年以上経過するも全身状態良好の症例を経験したので報告する. 症例は61才の女性で昭和49年に左顎下腺adenoid cystic carcinoma摘出. 昭和50年6月に局所再発し摘出. 昭和52年7月定検の胸部X線写真にて多発性肺転移像あり, 免疫化学療法施行するも腫瘍は縮小せず. 昭和54年2月局所再発, 胸部X線写真にて肺転移巣は増加, 小指頭大より拇指頭大の円形陰影が数10個見られた. しかし, 呼吸困難などの自覚症状はなく, 昭和55年1月においても表面上多発転移のある癌患者には見えなかつた. 我々は, 本症例では腫瘍宿主間の力関係の均衡が保たれているのではと考え, 強力な化学療法は施行しなかつた. 今後, 本症の担癌体としての免疫機構の解明に興味が持たれる.