1988 年 42 巻 10 号 p. 969-972
ステロイド抵抗性多発性筋炎の51才の女性に常用量のメトトレキセート(MTX)治療を施行し, 4ヵ月後に周期的な傾眠状態とその間の記銘力障害が出現した症例を報告した. 脳波上覚醒時はθ波が混入し, 傾眠時は14Hz紡錘波様波を認め, 終夜脳波でstage 1の著増, 他の睡眠特に徐波睡眠の減少があつたが諸検査では問題がなかつた. 一時MTX治療を中止するも筋炎が進行しMTX治療を再開, 傾眠時間の延長, 記銘力障害の増悪, 人格変化が出現, 全身状態が悪化し死亡した. 剖検所見は骨格筋萎縮, 化膿性心筋炎, 化膿性心外膜炎, 化膿性縦隔洞炎, 多発性脳膿瘍がみられた. 脳膿瘍の分布は脳全体に認めたが, それは傾眠の出現より遅く生じたと推測された. 傾眠の原因は不明だが, 大脳半球の軽度障害と脳幹覚醒系の機能水準低下が推測されたが, 直接関連する器質的所見は得られず, MTXの個体感受性の問題や長期投与がなされていたら形態学的変化を形成する可能性も考えられた.