抄録
1998年度の各種医療統計によると, 脳卒中死亡は国民死因の14.7%を占め, 悪性新生物, 心疾患についで第3位である. 本疾患に係る医療費は1.9兆円(疾患別では第2位)で, 寝たきり老人の29.3%, 訪問看護利用者の36.8%は本疾患が原因である(いずれも首位). 今後の人口高齢化の進行により, 事態は急激に深刻化すると予想されている.
近年, 脳卒中の診断・治療技術の進歩はめざましく, 発症数時間以内の超急性期治療(血栓溶解療法など)の有効性や血栓内膜剥離術の優れた再発予防効果などが明らかにされている. さらに, 急性期から慢性期リハビリまでの一貫した治療体制の有効性も証明され, 世界的には脳卒中救急医療体制の見直し, 脳卒中専門病棟の整備の必要性などが強調されている. 我が国でも, 21世紀に向けた脳卒中診療体制再構築の動きが急である.
1999年11月大阪で開催された第54回国立病院療養所総合医学会の教育シンポジウムの一つとして今回のテーマが取り上げられたのも, 時代の要請によるものであろう. 「国立病院療養所が組織を挙げて今後の脳卒中医療に取り組んでいただきたい. そのためのささやかなきっかけになれば」というのが, 立案, 企画を行った司会者2人のそもそもの願いであった. 実際には, 具体的かつ前向きの取り組みの紹介, あるいは示唆に富む提案など, 予想以上に有意義な発表ばかりであった. 診療現場における問題意識は高く, 取り組みもまた真剣である. こうした熱意をいかに有機的に結び付け,育てていくかが今後の課題である. その意味で, わが国最大規模の医療機関ネットワークといえる国立病院療養所の可能性は高く, また責任は重大であろう.
シンポジウムで発表された講演6題と指定発言1題をまとめた本論文集では, 病診連携, 急性期看護およびリハビリ, シームレスケア, 在宅介護など広汎な問題が扱われ, 脳卒中医療に関する行政の取り組みや世界の趨勢なども紹介されている. 本論文集が, 脳卒中医療の問題解決に少しでも役立つことを願ってやまない.