抄録
近年精神疾患患者, とくに統合失調症を中心とする精神障害者の高齢化にともない癌の合併は多くなっており, 身体合併症診療の中でも重要な位置を占める. 最近の5年問当院精神科病棟に癌治療のため入院した患者の割合は, 年間入院患者総数のうち5-12%に該当し増加傾向にある. 円滑な診療を行うために重要な点は, (1) 他医療機関との連携(2) 精神疾患と癌の両者の特徴を踏まえた上での診療上の工夫である.
(1) 他医療機関との連携……癌治療の入院患者は90%が院外の医療機関からの紹介患者であり, さらにその約半数は二次医療圏外の医療機関からの紹介であった. 精神病床のある総合病院で一定の症例数の癌診療を実施している医療機関は充足しているとはいえない状況下では, 地域のみならず広域の医療機関との連携が重要と考えられる. また受け入れる側の課題として, 積極的な病床管理, 緊急入院や治療終了後の円滑な逆紹介など, 各医療機関との細かな連携が重要なポイントと考えられた.
(2) 診療上の工夫……癌診療は, 診断, 各種治療(手術, 化学療法, 放射線療法等), 疼痛緩和, 終末期の対応等, 病期や治療標的により診療が多岐に渡るという特有の性格から, 合併症患者を受け入れる精神科病棟では患者への柔軟かつ多様な対応が要求される. 円滑に診療を行うためには, 治療を受ける患者の利益やQOLを尊重し, また精神疾患の特徴を十分踏まえた上での工夫や努力が必要である.