抄録
2019年末に世界に広がった新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)は世界を大きく変えた。本論文では,ベックらのリスク概念を検討した上で,南米パラグアイ共和国のスラム:バニャード・スール(Bañado Sur)内にあるカテウラ(Cateura)地域で生きる人々の日常実践をリスク概念を用い分析することから,スラムの人々がリスクをどのように捉えているのか,ジェンダー視点を踏まえ考察することを目的とする。
カテウラの人々が組織したNGO_Aは,国内外から多くの支援を受け取り,COVID-19禍では支援が増加した。このNGO_Aにとり,COVID-19禍は客観的リスクであり,主観的リスクではない点が明らかになった。NGO_Aは,コミュニティのネットワークを活用し,地域改善活動を継続・強化してきた。パラグアイに特有の家族主義が地域の紐帯を強化させたと推察できる。
近年,個人がグローバルな変動に直接さらされ,リスクの個人化が強まると指摘されている。しかし,本論文より,より脆弱な状況に生きる人々は,日常実践の中でリスクを複合的に捉えていること,外部者との交渉の中でリスクを緩和していることが示された。同時に,リスク緩和のプロセスはジェンダーにより差異があることが示された。
リスクを複数の概念に分けて捉えること,リスクとジェンダーを交差させ,分析することが今後の研究に有効であることが本研究で示された。