JACET関東支部紀要
Online ISSN : 2436-1993
研究ノート
日本人英語学習者の because 節の断片文使用―第二言語学習者の産出,理解及びインタビューデータ分析―
甲斐 順
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2023 年 10 巻 p. 27-47

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Abstract

A growing number of studies have addressed the issue concerning the use of ‘because-clauses’ as sentence fragments by Japanese learners of English. The purpose of the present study is to investigate and analyze the misuse of ‘because-clauses’ by Japanese English learners and to explore pedagogical implications. Sixty-one Japanese senior high school students participated in the study. The research examined L2 learners’ production and comprehension of because-clauses and interview responses. The results revealed that more than half of the L2 learners employ ‘because-clauses’ as sentence fragments in their writing and that over 90% of them accept the usage as correct in their grammatical judgment test. The results from interviews with the L2 learners also indicated that there is a possibility that their first language has an influence on the misuse of ‘because-clauses’. The study concludes with pedagogical implications and recommendations for future research.

1. はじめに

平成31年4月,全国学力・学習状況調査(以下,全国学力調査)が実施され,中学校3年生には初めて英語も課された。令和元年7月に公表された結果は,中学生に英語の発信力も基礎力も不足していることを示した(『朝日新聞』,2019年8月1日朝刊)。「書くこと」に係る与えられた選択肢の中から適切な接続詞を選ぶ2つの問題では,それぞれ80.2%,59.2%と高かった (『朝日新聞』,2019年8月1日朝刊) が,接続詞butと答えるべき問題 (正答率59.2%) でbecauseと答えた生徒が35.1%もおり,論旨の把握が不十分であることを示している (渡部,2019)。全国学力調査では,中学校学習指導要領の「書くこと」の領域に係る「まとまりのある文章を書く」設問1でbecauseの習得に課題があることが指摘されている (甲斐,2021)。この課題として甲斐 (2021) は,because節の断片文使用を指摘する。断片文とは,becauseが文頭で用いられ,主節を持たない文のこと (小林,2009) で,具体的には “I couldn’t attend the meeting yesterday. *Because I had a fever.”の“Because I had a fever.”を指す。これは日本人英語学習者の特徴であると言われ,誤った書き方である (Barker, 2010; Larsen-Freeman & Celce-Murcia, 2015; 南出, 2014)。becauseは接続詞であるから,副詞のように用いずに “I couldn’t attend the meeting yesterday(,) because I had a fever.” と書き表す必要がある。

論理的な文章を書く際,主従の接続詞を適切に使える必要があり,特に理由を表すbecause節は英語学習の早期の段階から導入され,学習教材にも頻繁に用いられ,学習者が多用する接続詞である (井上, 2022)。「書くこと」の学習支援の第一歩として,学習者の誤りの実態を把握することは有意義なことである (井上, 2022)。本研究は,日本人英語学習者のbecause節の断片文使用に焦点を当て,誤りの実態や原因を調査・分析し,because節の指導に資することを目的として行う。

2. 先行研究

本節では,日本人英語学習者のbecause節の断片文使用に関する先行研究を概観した上で,研究課題を設定する。

先行研究では,学習者の産出と理解,その両方に焦点を当てた研究に大別することができる。産出に焦点を置いた研究では学習者コーパスを用いて,母語話者のコーパスと比較しながら,日本人学習者の特徴を示した研究が複数見られるとともに,断片文使用に関する質問紙法を用いた研究も見られる。

小林 (2009) は,日本人中高生の英作文を集めたJEFLL Corpus及び日本人大学生の英作文を集めたICLE-JPから,学年進行に伴うbecauseの使用状況を分析した。その結果,①学年が低いほど,becauseを過剰に使用し,高い割合で文頭に出現すること,②学年が低いほど断片文を多く産出し,文頭でbecauseが用いられる場合の8~9割が断片文で,その割合は大学生になってもほとんど減らないこと,③日本人英語学者が断片文を引き起こす原因として,母語の影響,「書き言葉」と「話し言葉」という文体の混在,会話重視の中学校英語教科書の影響,の3点を報告している。

立川 (2020) は,小林 (2009) で用いたJEFLL Corpusに加えて,英語母語話者のBROWNコーパス及びLOBコーパスを活用し日本人英語学習者がbecauseを文頭で使用する傾向の原因及び,母語干渉による特徴が見られるかを分析した。特に目立つ特徴として,①日本人中学生は7割以上,高校生は6割以上が文頭でbecauseを使用するのに対し,英語母語話者の文頭使用例は1割に満たないこと,②because節の文頭使用については,断片文の使用が中学生で7割近く,高校生でも半数近くあること,③becauseの直後に不必要なコンマを打った文が非常に多いことが判明した。立川は,上記の傾向や原因として教科書インプットの影響及び日本語からの母語干渉を指摘する。

佐々木 (2021) は,小林 (2009)立川 (2020) とは異なり,JEFLL Corpusの高校生サブコーパスデータだけに特化し,比較対象としてICNALE Written Essaysの母語話者データを活用し,日本人高校生のbecause使用問題に関し,学年進行による変化,高校3年生段階での母語話者との乖離度を計量的に解明する目的で分析を行った。その結果,①日本人高校生は母語話者に比べ1つの作文中でbecauseを過剰に使用していること,②日本人学習者は学年が進むにつれて文頭におけるbecauseの使用は減少するが,文頭使用のほとんどが断片文であり,母語話者と比較すると接続表現で文頭位置を強く好む傾向があること,③学年進行につれて断片文が減り,正しい使用法と文型の多様性が見られること,④高校1年生を特徴づける文型がbecause節の断片文の使用であること,そして論理的な理由付けというより感覚的に理由を述べていること,⑤高校2,3年生では日本語の論理構造をそのまま適用してbecause節を前置してBecause SV, SVの文型で特徴づけられることがわかった。

Murakoshi (2012) は,小林 (2009)立川 (2020) で活用したJEFLL Corpusを参照しながら,1年生から3年生までの中級程度の英語力を有する高校生が書いた縦断的な英作文データを分析した。Murakoshiによると,①because節の使用率は,1年次が73.52%,2年次が60.73%,3年次が72.60%と高い比率であること,②because節の断片文の使用率が高いこと (1年次96.89%,2年次61.16%,3年次66.04%),③because節を正しく使用できる率は,学年進行とともに上昇 (1年次が3.11%,2年次が26.32%,3年次が32.70%),④because節の正用法におけるスピーチ単位の分析の平均は学年進行とともに上昇 (1年次2.20,2年次2.54,3年次2.75),⑤当該校の高校生とJEFLL Corpusの上級者の高校生のデータを比較した場合,上級者はすべての学年でbecause節の正しい用法を習得していたが,特に高校1年次では中級程度の学習者である当該校の生徒と上級者との間にかなりの差があること,が示された。

ここまで述べてきた先行研究は何らかの形で学習者や母語話者のコーパスデータを参照しているが,次に学習者から直接産出データを得た先行研究について見る。

甲斐 (2018) は,コーパスデータは用いず,甲斐が指導する高校2年生が定期試験で書いた英作文及び英作文で断片文を使用していた学習者のアンケートを分析した。結果として,①because節を使用していた学習者25人中の14人が断片文を使用し,②アンケートの結果から断片文使用に関して,母語の影響や教科書の影響の可能性が示唆された。甲斐は研究の限界点として①調査対象者のサンプル数の少なさ,②because節が産出されやすい条件下でデータを収集できていない点,③because節を正しく使用できた調査対象者に関しての質問紙の回答を得ていない点,④質問紙による回答を引き出す時期のタイムラグの問題を挙げている。

甲斐 (2019) は,甲斐 (2018) の限界点①~③の克服を図りながら,高校1年生を対象に,包括的な訂正フィードバックを通じてbecause節の使用に関し,ディベートと定期試験で書いた英作文及びアンケートを利用・分析した。その結果,①ディベート及び定期試験の英作文での断片文の使用率は,それぞれ42.2%,64.1%,②アンケートの結果から断片文を使用する理由として,母語,中学校英語教科書,中学校教員の指導の順に影響が見られること,③1度きりの包括的な訂正フィードバックは効果がないことが示された。ただし,because節を正しく使用できていた調査対象者に対しては,正用法を知った時期までしかたずねていないという点で質的調査の内容に深まりが見られない。

井上 (2022) は,大学生を対象にしたbecause節の単体文に注目した研究が少ないことを指摘した上で,甲斐 (2018, 2019) 同様コーパスを用いずに,日本人大学1年生 (初級・中級レベル) の英語エッセイを分析した。井上は,①because節単体文は統語構造上の誤りで意味的には直前の文を主節命題として解釈できる用法と表層構造に現れない遂行動詞を修飾する用法の2種類に分類されること,②単体文を引き起こす要因として,「から」や「ので」といった接続助詞で終結する文からなる日本語の母語干渉,の2点を指摘している。

ここまではbecause節の産出に関する先行研究を見てきたが,その理解に関する先行研究はほとんど行われていない。白畑 (2015) が,becauseを含めた複数の接続詞 (if,whileなど),接続詞句 (as long asなど),前置詞 (during) について調査を行っている。高校2年生に対して,これらの語句の明示的な指導を行い,その効果を「文法性判断+誤り訂正」の事前・事後・遅延テスト法で検証した。事前テストでは平均して44.8%の正答率が,接続詞等の指導を受けた直後テストでは80.7%に達し,12週間後の遅延テストでもその正答率は80.6%でまったく下がることがなかった。特にbecauseを含む接続詞と従属節との関係を扱った項目では,事前テストの正答率が65.5%,直後テストでは90.0%,遅延テストでは90.5%で指導の効果が持続されていることを示していた。白畑はbecauseを含む接続詞と従属節の関係を誤る原因として日本語の影響とWhy ~?の問いにBecause ~.で答えるやり取りが盛り込まれた中学校英語教科書の影響を挙げている。

because節の産出と理解の両方に焦点を当てた研究に甲斐 (2022) がある。産出に関しては,日本語の問いに英語で理由を述べて解答する形式1問,外国人旅行客に分かりやすい駐車場を表す2つのピクトグラムについて,理由とともに意見を英語で書き表す形式1問の合計2問を出題した。理解に関しては,「文法性判断+誤り訂正」形式で,because節の断片文に関する設問2問を含む接続詞,前置詞に関する設問の合計10問を出題した。甲斐は高校2年生を対象に,産出及び理解のテストに加えてアンケートを実施し,それぞれを分析した。結果としては,①because節を断片文として産出し,理解の上でも断片文を容認可能とする学習者は,調査対象者38人のうち13人であること,②習熟度が低い学習者ほどbecause節を断片文として産出する傾向は見られるが,すべての習熟度の学習者で断片文使用が見られること,③習熟度の低い学習者に,becauseの直後に不必要なコンマを打つこと,④because節の習得に関して,母語,中学校英語教科書,中学校の先生,中学校の塾の先生の順に影響があることが判明した。ただし甲斐自身が認めているように,サンプルサイズの少なさがこの研究の限界点である。

先行研究からbecause節の断片文に関する研究は,産出を中心に研究が行われており,理解に関する研究は少ない。そしてbecause節を書く際,断片文使用として表現する誤りは,日本人中学生から大学生まで幅広く見られる現象であること,また習熟度の上昇とともにその誤りは減る傾向にあることがわかる。because節を断片文として使用する原因として指摘されているのが,①母語である日本語の影響 (甲斐, 2018, 2019, 2022; 小林,2009; 白畑,2015),②中学校英語教科書の影響 (甲斐, 2018, 2019, 2022; 小林, 2009; 白畑, 2015; 立川, 2020),③教員の指導による影響 (甲斐,2019, 2022; 立川, 2020),④「書き言葉」と「話し言葉」という文体の混在 (小林, 2009) がある。この原因を解明しようとした研究 (甲斐, 2018, 2019, 2022) で用いられているのはアンケートで,これまでのところインタビューを通じて明らかにしようとした研究は行われていない。竹内・水本 (2014) は,インタビューの利点として,①インタビューの相手の反応に応じて質問を深めたり補足したりできるため,データに深みや厚みを与えることが可能であること,②相手に確認しながら問答を進めることが可能なため,曖昧さや誤解を減らすことが可能であること,③相手の非言語的側面や声の抑揚や沈黙なども考慮に入れた解釈が可能であること,④インタビューの過程で相手の思考を深めていき,新たな発見や省察に導いていける可能性があること,⑤ユニークな回答が得られる可能性があること,⑥質問紙では拾えないような微妙なニュアンスの回答を拾える可能性があることを挙げている。特に断片文使用に関してだけでなく,正用法を使用したり,becauseを用いずに産出を行ったりした学習者にインタビューを行うことで新たな発見が期待される。甲斐 (2018, 2019, 2022) の調査対象者は高校1年生,2年生で,高校3年生を調査対象者に含めた研究は,コーパス研究を除くと,Murakoshi (2012) でしか見られない。甲斐 (2022) は,産出と理解の両方に焦点を当てているが,サンプル数が少ない。because節単体文に着目した井上 (2022)の「従属節+接続助詞」の終結文という考え方は,母語である日本語の影響を検証する1つの項目として扱ってみたいところである。becauseによる因果表出傾向を明らかにしようとした佐々木 (2022) では,習熟度が上昇するに伴いfirst, secondなど情報の序列を表す語を使い,構造的な理由表出法へ移行する傾向が見られることを報告しているが,日本人大学生及び英語母語話者コーパスデータを用いており,日本人高校生では検証していない。

そこで本研究では,高校3年生に産出及び理解の筆記テストを課し,テスト後のインタビューを通じて,because節の誤りの実態や原因を把握し,指導に資するため,次の7つを研究課題に設定する。

  • (1) because 節を断片文として産出する学習者は,理解の上でも断片文を容認可能とするか。
  • (2) 習熟度が低い学習者ほど because 節を断片文として産出するか。
  • (3) 習熟度の低い学習者は,because の直後に不必要なコンマを打つか。
  • (4) 習熟度の高い学習者は,first, secondなど情報の序列を表す表現を用いて理由を産出するか。
  • (5) because節の断片文を用いなかった学習者は,because節の断片文を使用することはないか。また,because節の正しい使い方を知っているか。
  • (6) because 節の断片文使用に関して,何が影響しているか。
  • (7) because節に日本語の影響が見られる場合,「従属節+接続助詞」で終結した文はあるか。

3. 調査方法

3.1 参加者

神奈川県内の公立高校3年生で,筆者が指導する英語表現Ⅱの2クラス79人が参加した。参加者の母語は日本語で英語を第二言語として学習している。この79人のうち,because節の産出を見るために実施した「英語表現力調査」 (以下,「表現力調査」),接続詞の理解を見るために実施した「英語理解度調査」 (以下,「理解度調査」) の両方の調査を受験し,インタビューに回答した最終的な参加者数は,61人であった。英検の取得状況は2級が6人,準2級が19人,3級が18人,4級が1人,未取得者が17人であった。

3.2 方法

調査は,筆者が指導する英語表現Ⅱの授業を用いて行った。令和4年4月中旬に参加者のbecause節の産出を見るために表現力調査用紙を配付し,実施後すぐに回収した。次の授業時に参加者の接続詞の理解を見るために理解度調査用紙を配付し,実施後すぐに回収した。それぞれの回答を分析後,5月に入ってから,生徒一人ひとりと面接する方式でインタビューを行い,すべてのインタビューが終わった後で分析を行った。

3.3 手順

表現力調査は,甲斐 (2022) が学習者の産出を測定するために用いた調査方法を用いた。なお配付する調査用紙には,調査の目的とともに調査を受けるのは任意であり,結果は成績に入らないことを明記し,回答に協力するよう依頼した。表現力調査は2つの設問からなっている。設問1は「英語以外の言語を学ぶとしたら,どの言語を学びたいと思いますか。またそれはなぜですか。」という日本語の問いに英語で解答する形式で,設問2は,「日本を訪れる外国人旅行客に分かりやすい駐車場 (parking lot) を表すピクトグラム (案内用記号) として,どちらが良いと思いますか。2つのピクトグラム (AとB) について触れながら,あなたの考えを理由とともに20語以上の英語で書いてください。」とした。全員が答えを書き終えていることを確認した後に用紙を回収した。その後,because節を①断片文として用いているか,②正しく用いているか,③使用せずに書いているかの3つの視点で分類し,分析を行った。それぞれの設問で語数が短い英文でも①~③に当てはめた。

理解度調査についても甲斐 (2022) が学習者の理解を測定するために用いた調査方法を用いた。配付する調査用紙には,調査の目的とともに調査を受けるのは任意であり,結果は成績に入らないことを明記し,回答に協力するよう依頼した。テストは,「文法性判断+誤り訂正」形式とした。because節の断片文に関する設問が2問 (例. Taro didn’t buy anything in Kyoto. Because he had no money.),他の接続詞,前置詞に関する設問が8問 (例. I visited Oxford while my stay in the UK.) の合計10問であった2。全員が答えを書き終えていることを確認した後に用紙を回収した。その後,because節に関しては,①断片文のままの場合,②becauseと直し,前文とつなげて書き直している場合,③断片文を誤りと指摘したものの直し切れていない場合,④解答していない場合の4つに分類し,分析を行った。

テスト実施から約3週間後に,両方の調査用紙に解答した参加者に面接を行った。面接は 5 分~10 分で,一人ずつ行った。録音については,参加者の心理的負担を考慮し,実施しなかった。面接の際は,参加者の正直な気持ちを引き出すために,リラックスさせるような口調や言葉遣いなどに留意した。参加者には参加者自身が解答した表現力調査と理解度調査を見せながら,筆者が手元に質問用紙を用意し,聞き取った内容の該当する項目にチェックを付けたり,余白部分に書き込む形で実施した。

質問は産出に係る表現力調査の設問1から実施した。参加者がbecauseを①断片文として使用した場合,②正用法で書いた場合,③使用せずに書いた場合に応じて次のように設定した質問をした。ただし話の流れに応じて臨機応変に補足質問を行った。

  • ① becauseを断片文として使用した場合
  • Q1. ここで使ったBecauseはどのように使っていますか?
  • Q2. Becauseはいつもこのように書いていますか?
  • Q3. becauseの正しい使い方を知っていますか?
  • Q4. (Becauseの後にコンマをつけている参加者のみ)なぜここでBecauseの後にコンマをつけましたか?

Q1はbecauseを断片文として使用した原因を,Q2は断片文の使用が常習化しているかどうか,Q3はbecauseの正用法を知っているかどうか,Q4はコンマを使う原因を,それぞれ把握するために質問した。

  • ② becauseを正用法で書いた場合
  • Q5. becauseはいつもここに書くように用いていますか?
  • Q6. becauseを大文字から書き始めてBecause SV.のように書くことはありませんか?
  • Q7. becauseの正しい使い方を知っていますか?

Q5はbecauseを常に正しい用法で用いているかどうか,Q6は正しく用いたが,断片文としてbecause節を用いることがないかどうか,Q7はbecauseの正用法を知っているかどうか,それぞれ把握するために質問した。

  • ③ becauseを用いずに書いた場合
  • Q8. becauseを使うときにはどのように使っていますか?
  • Q9. becauseを大文字から書き始めてBecause SV.のように書くことはありませんか?
  • Q10. becauseの正しい使い方を知っていますか?

Q8はbecauseを使って書く場合はどうのように使うか,Q9は断片文としてbecause節を用いることがないかどうか,Q10はbecauseの正用法を知っているかどうかを,それぞれ把握するために質問した。

表現力調査の設問2も設問1と同じ要領で実施した。

理解度調査については,すべての参加者に同じ質問をした。ただし話の流れに応じて臨機応変に補足質問を行った。

  • Q11. becauseの品詞は何だか知っていますか?
  • Q12. (接続詞と答えた場合) その役割は何ですか?

Q11は,becauseが接続詞であるかどうかを,またQ12は接続詞がどんな役割を果たすかを,それぞれ把握するために質問した。

産出及び理解の聞き取りが終わった段階で,英語で書く場合はbecause節の断片文が誤りであること,正式に書く場合becauseは接続詞なので2つの文を結び付けて1文で書き表すことを指導し,インタビューは終了した。その後,聞き取った内容を分析した。

4. 結果

表現力調査及び理解度調査の両方を受験し,アンケートに回答した最終的な参加者は61人であった。以下では,産出,理解,産出と理解の統合,インタビューの結果の順に報告する。付録に表現力調査で断片文を使用し,理解度調査で断片文を容認していた英検2級取得者の表現力調査の解答及びインタビューの質問と回答を1例として載せている。

4.1 産出

表現力調査の設問1,設問2で,because節を断片文として使用していたのは,それぞれ44人,34人,because節を正しく使用できたのは,それぞれ8人,8人, because節を用いずに解答していたのは,それぞれ9人,19人であった。表1は,表現力調査におけるbecause節の使用人数及び比率を,図1はbecause節の使用比率をそれぞれ表したものである。

表1 表現力調査におけるbecause節の使用人数及び比率
設問1 設問2
人数 比率 人数 比率
断片文 44 72% 34 56%
正用法 8 13% 8 13%
未使用 9 15% 19 31%
合計 61 100% 61 100%

図1 表現力調査におけるbecause節の使用比率

甲斐 (2022) では断片文の使用率は,設問1が39%,設問2が29%だったので,本研究の結果は設問1が72%,設問2が56%で,いずれの設問ともかなり高い使用率である。甲斐 (2022) ではbecause節の正用法が,設問1で29%,設問2で16%,because節の未使用が,設問1で32%,設問2で55%であった。本研究では未使用率が設問1で15%,設問2で31%,甲斐 (2022) よりも大幅に低いことから,because節を用いる率が増加し,断片文の使用率が増えたと考えられる。

次に習熟度別に断片文の使用状況を見ると設問1では,英検2級取得者が4人,準2級が15人,3級が10人,4級が1人,英検未取得者が14人であった。設問2では英検2級が4人,準2級が11人,3級が11人,4級が1人,英検未取得者が7人で,習熟度の相違に関わらず満遍なく断片文を産出していることがわかる。

becauseの直後にコンマを置いている場合はすべてbecauseを大文字で始める断片文であった。設問1で10人,設問2で4人であった。習熟度別に見ると設問1では英検2級取得者が1人,準2級が5人,3級が1人,英検未取得者が3人,設問2では2級,準2級,3級,英検未取得者それぞれが1人であった。なお,2級でコンマをつけていた参加者は同一人物で,確認したところ,「Butを使うとき,日本語の『しかし,』だからつける感じで,Becauseも『なぜなら,』のようにつける」とのことであった。

表2は,英検取得ごとの産出及びbecauseの直後にコンマを用いていた設問ごとの人数を示す。

表2 英検取得ごとの産出及びコンマ使用
産出 コンマ
英検 設問1 設問2 設問1 設問2
2級 4 4 1 1
準2級 15 11 5 1
3級 10 11 1 1
4級 1 1 0 0
未取得 14 7 3 1
合計 44 34 10 4

次にbecauseを用いずに解答した人数について見ると,設問1で9人 (15%),設問2で19人 (31%)であった。この結果は甲斐 (2022) では設問1が32%,設問2が55%であったことから,本研究ではbecauseの使用率がいずれの設問でも高く,使用しない率は低かった。because節を使用しなかった参加者の中で First, ~. Second, ~. と順序立てて説明している人数は,設問1で2人,設問2で5人であった。英検の取得状況ごとに見ると設問1は準2級,3級が1人ずつ,設問2では準2級が3人,3級が1人,英検未取得者が1人であった。英検2級取得者には見られなかった。表3は英検取得ごとにbecause節を用いずに順序立てる用語(First ~. Second ~.)を用いて解答した人数を示す。

表3 英検取得ごとの順序立て用語使用
産出
英検 設問1 設問2
2級 0 0
準2級 1 3
3級 1 1
未取得 0 1
合計 2 5

4.2 理解

理解度調査の設問1,設問2について,because節を断片文のままで正しい英文と判断し訂正できなかったのは,それぞれ56人,57人,because節の誤りを指摘し,訂正できたのは,それぞれ2人,1人,断片文を誤りと指摘したものの直し切れていなかったのが1人,解答しなかったのがそれぞれ2人,3人であった。表4は,理解度調査におけるbecause節の文法性判断の人数及び比率を表したものである。

表4 理解度調査におけるbecause節の文法性判断の人数及び比率
設問1 設問2
回答 人数 比率(%) 人数 比率(%)
断片文のまま 56 92 57 93
正用法に訂正 2 3 1 2
直しきれない 1 2 0 0
無回答 2 3 3 5
合計 61 100 61 100

甲斐 (2022) では,because節の断片文の容認率が設問1で66%,設問2で63%であったが,本研究では設問1が92%,設問2が93%なのでかなり高い比率となっている。甲斐 (2022) の調査では,理解度の調査テストを配付してから約10分後に回収していたが,本調査では全員が答えを書き終えたのを確認したのが約7分後で,その時点で回収していた。本研究の参加者が高校3年生であること,理解度調査への取り組み状況から解答時間を短くしたが,そのことが結果に反映されているかもしれない。なお設問1で「直しきれない」参加者が1人いるが,インタビューの中で確認したところ,「Becauseの後にコンマがいると思って×をつけた」と回答し,答案にも×だけつけていて訂正していなかった。無回答は設問1で2人,設問2で3人であった。

4.3 産出と理解の統合

参加者一人ひとりの表現力調査及び理解度調査の結果から,because節に係る産出と理解の調査結果を統合し,表5のように解答類型及び人数ごと分類した。参加者61人の解答類型は15通りに分類された。

表5 表現力調査及び理解度調査の解答類型及び人数 (比率)
解  答  類  型
調査 A B C D E F G H I J K L M N O
表現 1
2
理解 1 ナシ ナシ
2 ナシ ナシ ナシ
人数 1 4 2 1 2 1 27 1 11 1 1 1 3 4 1 61
比率(%) 2 7 3 2 3 2 44 2 18 2 2 2 5 7 2 100

注.「〇」はbecause節の正用法,「断」はbecause節の断片文,「未」はbecause節を用いずに解答,「他」はbecause節を誤りと指摘したが直し切れていない,「ナシ」は無解答

表5から分かるように,表現力調査の2問ともbecause節を正しく使用し,理解度調査の2問でbecause節の断片文を誤りであると指摘できた参加者は1人もいなかった。最も人数が多かったのは解答類型Gの27人 (44%) であった。この解答類型Gは,表現力調査の両問でbecause節を断片文として使用し,理解度調査の2つの設問で断片文を容認したことを示し,半数近くを占めている。表現力調査の設問の1つまたは両方でbecause節を断片文として使用し,理解度調査でbecause節の断片文を容認していたのは,解答類型のC,E,G,I,Mで,合計45人 (74%) であった。なお,甲斐 (2022) とは解答類型が異なるところもあるので単純な比較はできない。

次に英検取得ごとの解答類型及び人数を表6にまとめた。

表6 英検取得ごとの解答類型及び人数
解  答  類  型
英検 A B C D E F G H I J K L M N O
2級 0 0 0 0 0 0 3 0 1 0 0 0 1 1 0 6
準2級 1 1 1 0 1 0 9 0 3 1 1 0 1 0 0 19
3級 0 3 1 0 0 1 7 1 1 0 0 0 1 2 1 18
4級 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1
未取得 0 0 0 1 1 0 7 0 6 0 0 1 0 1 0 17
1 4 2 1 2 1 27 1 11 1 1 1 3 4 1 61

最も人数が多かった解答類型Gに注目すると英検2級取得者が3人,準2級が9人,3級が7人,4級が1人,未取得者が7人で,習熟度に関わらず,断片文を産出し,断片文を正しい文であると理解していることがわかる。

 

4.4 インタビュー

インタビューにおける参加者の回答を,質問ごとにまとめた。表現力調査の設問1,2でbecause節を断片文として使用していた参加者は44人,34人である。

  • ・「Q1. ここで使ったBecauseはどのように使っていますか?」

 Q1に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表7のようにまとめた。

表7 Q1の設問ごとの回答
回答類型 回答内容 設問1 設問2
1 「なぜなら~。」として使った 35 24
2 「だって~。」として使った 1 0
3 「~だから。」として使った 4 4
4 「~から。」として使った 0 1
5 「~なので。」として使った 1 0
6 理由を説明するのに使った。何でしたいのか。一応Becauseをつけておくというような感じ 1 1
7 理由を言う時に言える語彙が少なくて,becauseを使った。文頭に置くのはよくないのは知っているが,よくわからずに使った 1 1
8 「なんでかっていうと」という感じで日本語に訳している 1 1
9 Because of ~のつもりで書いた 0 1
10 書いていてわからなくなり大文字にした 0 1
合計 44 34

回答類型1~5及び8は日本語を英語に置き換える,母語の影響を示唆する回答である。その中でも,回答類型1をほとんどの参加者が回答し,際立っている。「because = なぜなら」という英語と日本語の一対一の関係が定着していることがうかがえる。回答類型3~5は,井上 (2022) の研究で示された「従属節+接続助詞」の終結文で終わる日本語の形式に該当する。数は少ないものの,井上 (2022) の指摘に対する1つの肯定証拠を提示したと考えらえる。

  • ・「Q2. Becauseはいつもこのように書いていますか?」

Q2に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表8のようにまとめた。

表8 Q2の設問ごとの回答
回答類型 回答内容 設問1 設問2
1 はい 36 28
2 いいえ 8 6
合計 44 34

それぞれの設問で「はい」と回答した参加者の数が8割を超えており,かなりの参加者がbecause節を断片文として使用していることが常習化していると言えるだろう。

  • ・「Q3. becauseの正しい使い方を知っていますか?」

Q3に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表9のようにまとめた。

表9 Q3の設問ごとの回答
回答類型 回答内容 設問1 設問2
1 はい 3 2
2 いいえ 41 32
合計 44 34

「いいえ」と回答している参加者がほとんどで,because節の正しい使い方を知らない実態が明らかになった。参加者が断片文を使用しているのも無理もない。

  • ・「Q4. (Becauseの後にコンマをつけている参加者のみ)なぜここでBecauseの後にコンマをつけましたか?」

この質問に対する表現力調査の設問1,2の対象者はそれぞれ10人,4人であった。Q4に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表10のようにまとめた。

表10 Q4の設問ごとの回答
回答類型 回答内容 設問1 設問2
1 無意識でつけた 3 2
2 日本語がそうなのでつけた 2 1
3 癖でつけた 2 1
4 なんとなくコンマをつけた 1 0
5 たまたまつけた 1 0
6 間違えました 1 0
合計 10 4

回答類型1,3から,この回答をした参加者はコンマをつけることが習慣化している可能性がある。回答類型2からは,日本語で接続詞の後にコンマをつける用法をそのまま英語に反映させていることが示唆される。

次に表現力調査の設問で becauseを正しく用いていた参加者の回答結果を示す。正しく用いることができたのは,2つの設問でそれぞれ8人であった。

  • ・「Q5. becauseはいつもここに書くように用いていますか?」

Q5に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表11のようにまとめた。

表11 Q5の設問ごとの回答
回答類型 回答内容 設問1 設問2
1 はい 7 7
2 いいえ 0 0
3 無意識で小文字にした 1 1
合計 8 8

「はい」と回答している参加者7人は,主節と従属節を結び付けて日頃から1文で書いている参加者がほとんどである。「無意識で小文字にした」と回答している参加者が設問1,2でそれぞれ1人いる。設問1を正用法で,設問2を正用法で書いておきながら,別の設問ではそれぞれ断片文を使用しており,無意識のうちに前文に続けてbecauseを小文字で書き表したようである。

  • ・「Q6. becauseを大文字から書き始めてBecause SV.のように書くことはありませんか?」

Q6に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表12のようにまとめた。

表12 Q6の設問ごとの回答
回答類型 回答内容 設問1 設問2
1 はい 2 2
2 いいえ 6 6
合計 8 8

この設問はbecause節を正しく用いても断片文として使用することがあるかたずねている。「はい」と答えている参加者がそれぞれ2人いるものの,残りの参加者は,正しい形で使用していることがわかる。肯定的な回答が2人で,Q5の回答とは矛盾する。表現力調査の1つの設問は正しい形で表現したものの,もう1つの設問で断片文を使用していることからこのような結果となっている。勘違いしているのかもしれないが,インタビューの中で深く追求しなかったので矛盾を正すことができていない。

  • ・「Q7. becauseの正しい使い方を知っていますか?」

Q7に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表13のようにまとめた。

表13 Q7の設問ごとの回答
回答類型 回答内容 設問1 設問2
1 はい 4 6
2 いいえ 4 2
合計 8 8

「いいえ」と回答した参加者が設問1で4人,設問2で2人おり,becauseを正しく使えても正しい使い方を必ずしも知っているとは限らないことがわかる。

次からは表現力調査の設問で becauseを用いずに解答していた参加者の回答結果を示す。

  • ・Q8. becauseを使うときにはどのように使っていますか?

Q8に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表14のようにまとめた。

表14 Q8の設問ごとの回答
回答類型 回答内容 設問1 設問2
1 Because SV.と書く 3 11
2 あまり考えたことがない 1 1
3 Because SV.と書くと中学の先生に注意されたのでSV because SV.と使う 1 1
4 Because SV.と書くこともあるがSV because SV.で書く 1 0
5 SV because SV.のように書く 2 3
6 Because of ~として使う 1 3
合計 9 19

回答類型1はbecause節を断片文として書き表すことを示し,それぞれの設問で一番多い。becauseを用いる場合は,断片文として書き表す可能性が示唆される。正しい使い方をする参加者も見られ,回答類型3のように中学の教員の指導効果を示す回答も興味深い。because of ~のように句としてとらえるという回答を行った参加者もおり,節と句を混同せずに使用できるかどうかも課題となってくる。

  • ・Q9. becauseを大文字から書き始めてBecause SV.のように書くことはありませんか?

Q9に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表15のようにまとめた。

表15 Q9の設問ごとの回答
回答類型 回答内容 設問1 設問2
1 はい 6 12
2 いいえ 3 7
合計 9 19

 

この設問は,because節を用いずに解答しても断片文を用いることがあるかたずねているが,「はい」が半数以上を占めていることから,断片文として使用することがわかる。

  • ・Q10. becauseの正しい使い方を知っていますか?

Q10に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表16のようにまとめた。

表16 Q10の設問ごとの回答
回答類型 回答内容 設問1 設問2
1 はい 2 3
2 いいえ 7 16
合計 9 19

because節の正しい使い方について,「いいえ」の回答が多数を占めており,用法を知らない実態が見える。

─最後は理解度調査に関するインタビューの結果である。

  • ・Q11. becauseの品詞は何だか知っていますか?

Q11に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表17のようにまとめた。

表17 Q11の回答
回答類型 回答内容 人数
1 接続詞 31
2 いいえ 30
合計 61

「接続詞」と答えたのは31人で,残りの30人は答えらえなかった。答えられなかった参加者は,品詞そのものの概念を教わっていないのかもしれない。あるいはbecauseが接続詞であることを教えられていないのかもしれない。神谷 (2020) は中学校及び高等学校で使用されている英語検定教科書から文法事項の特徴を考察した上で,英語の指導や学習を行う際に品詞の理解が必要不可欠であると述べている。また先行研究で触れた白畑 (2015) は,「接続詞」や「前置詞」といった用語を明示的指導の中で用い,品詞及び統語関係の理解が必要であることが示唆されている。現在6社から発行されている中学校英語検定教科書の巻末にある語彙一覧には品詞が付され,また教科書の文法のまとめには「接続詞」という用語も見られる。本研究の参加者は英語学習のどこかの段階で「接続詞」という用語に接した可能性があるが,すべての参加者が理解までには至っていないことがうかがえる。

  • ・Q12. (接続詞と答えた場合) その役割は何ですか?

Q12に対する回答を分類し,設問ごとの人数を表18のようにまとめた。

表18 Q12の回答
回答類型 回答内容 人数
1 文と文をつなぐ 26
2 前と後をつなぐ 1
3 文章と文章をつなげる。1文で書くもの 1
4 1文1文が違う文だけど2文を1文にするために必要なもの 1
5 コンマをつけずに文と文をつなげる役割 1
6 1文の途中に入るもの 1
合計 31

回答結果から接続詞には「文と文をつなぐ」機能が存在することを理解していることがわかるが,4.2で触れたように大多数の参加者はbecause節の断片文を正しい文であると容認していた。

5. 考察

本研究では,7つの研究課題を設定した。研究課題 (1) 「because 節を断片文として産出する学習者は,理解の上でも断片文を容認可能とするか」については,表現力調査の両問でbecause節を断片文として使用し,理解度調査の2つの設問で断片文を容認した参加者 (解答類型G) は27人 (44%) で,参加者のほぼ半数近くを占めていた。表現力調査の設問の1つまたは両方でbecause節を断片文として使用し,理解度調査でbecause節の断片文を容認していた参加者 (解答類型のC,E,G,I,M) は,合計45人 (74%) であった。解答類型Gだけで44%,解答類型C,E,I,Mを含めると74%となり,because 節を断片文として産出する学習者は,理解の上でも断片文を容認可能とすると言えるだろう。

研究課題 (2) 「習熟度が低い学習者ほど because 節を断片文として産出するか」について検討する。最終的な参加者61人の英検取得状況は2級6人,準2級19人,3級18人,4級1人,未取得者17人であった。表現力調査の設問1で,because節を断片文と産出していたのは,英検2級取得者4人,準2級15人,3級10人,4級1人,英検未取得者14人であった。設問2では英検2級4人,準2級11人,3級11人,4級1人,英検未取得者7人で,習熟度の相違に関わらず満遍なく断片文を産出しており,研究課題 (2) については習熟度が低いほど産出するわけではないということが判明した。

研究課題 (3) 「習熟度の低い学習者は,because の直後に不必要なコンマを打つか」については,表現力調査の中でコンマを用いていたすべての参加者の解答が becauseを大文字で始める断片文でbecauseの直後にコンマをつけていた。ただし表現力調査の設問1で10人,設問2で4人であった。習熟度別では,設問1で英検2級取得者が1人,準2級が5人,3級が1人,英検未取得者が3人,設問2では2級,準2級,3級,英検未取得者それぞれが1人であった。すべての級でコンマをつけており,習熟度の低い学習者に限ったことではないことがわかる。なお,立川 (2020) では日本語の接続詞の直後に読点を打つ用法が,becauseの直後にコンマを不必要に打つ傾向の原因になっていると述べている。本研究のインタビューの中で,「無意識でつけた」,「日本語がそうなのでつけた」,「癖でつけた」など様々な回答を引き出すことができた。立川 (2020) が指摘する日本語の影響の可能性も考えられるが,コンマをつけている人数が少ないので,断定するにはもう少しサンプルサイズが必要と思われる。

次に研究課題 (4) 「習熟度の高い学習者は,first, secondなど情報の序列を表す表現を用いて理由を産出するか」について検討したい。表現力調査の設問1で9人 (15%),設問2で19人 (31%)がbecauseを用いずに解答していた。because節を用いなかった参加者の中で First, ~. Second, ~. など序列の順序を表す表現を用いて理由を述べていた人数は,設問1で2人,設問2で5人であった。英検の取得状況ごとに見ると設問1は準2級,3級が1人ずつ,設問2では準2級が3人,3級が1人,英検未取得者が1人であった。英検2級取得者には見られなかった。英検2級のように習熟度が高い学習者で使用が見られず,必ずしも佐々木 (2022) の見解とは一致しなかった。

研究課題 (5) 「because節の断片文を用いなかった学習者は,because節の断片文を使用することはないか。また,because節の正しい使い方を知っているか」について検討する。表現力調査の設問1,2でbecause節を正しく用いた人数は,それぞれ8人であった。この8人に設問で正しい用法でいつも書いているかたずねた (インタビューQ5) ところ,肯定的に回答した参加者は7人であった。ほとんどの参加者が,主節と従属節を結び付けて日ごろから1文で書いていると答えたが,表現力調査の別の設問 (インタビューQ6) では断片文を使っている参加者が2人おり,言行一致していない。この8人にbecause節の正しい使い方を知っているかたずねた (インタビューQ7) ところ,否定的な回答をした参加者が設問1で4人,設問2で2人おり,becauseを正しく使えても正しい使い方を必ずしも知っているとは限らないことがわかる。

表現力調査の設問1,2でbecause節を用いずに解答した人数は,前者が9人,後者が19人であった。because節を断片文として使用することがあるかどうかたずねた (インタビューQ9) ところ,肯定的回答がそれぞれ半数以上を占めた。becauseを用いる場合の書き方についての質問 (インタビューQ8) では,because節を断片文として書き表すことを示唆する回答が一番多かったことから,多くの参加者は断片文を使用する可能性がある。一方,because節を正用法で書き表すと回答した参加者も見られた。中には「Because SV.と書くと中学の先生に注意されたのでSV because SV.と使う」と回答する参加者もいた。指導の効果が持続していることを示唆する証言であるが,丁寧な指導の必要性を暗示していると言えるだろう。なお,because節を用いずに解答した参加者にbecauseの正用法を知っているかたずねた (インタビューQ10) では肯定的回答よりも否定的回答をする参加者が多かった。正用法を知らない参加者が多いことがわかる。becauseを正しく用いられてもそうでなくても,またbecauseを使用しないで表現するとしても,いずれの学習者にも正しい使い方を指導する必要はあるだろう。実際にインタビューの最後ですべての参加者に正用法を指導した。指導の効果が表れるかどうかは,どこかの場面で確認してみる必要があるだろう。

研究課題 (6) 「because 節の断片文使用に関して,何が影響しているか」について検討する。表現力調査で,because節を断片文として使用した参加者への質問 (インタビューQ1) の回答結果から,母語である日本語の影響を示唆する回答が多数を占め,ほとんどの参加者が「なぜなら~。」と答えていた。「because = なぜなら」という英語と日本語の一対一の関係が定着していることがうかがえ,書く際に日本語では問題ない表現が英語では誤りとなることから,指導する際は,主節を伴う形で指導するのがよいだろう。先行研究では,「中学校英語教科書の影響」や「教員の指導の影響」が指摘されていたが,今回の調査では特に言及がなかった。インタビューの中で積極的に質問しなかったこともあり,今後の調査を行う上での課題としたい。

最後に研究課題 (7) 「because節に日本語の影響が見られる場合,『従属節+接続助詞』」で終結した文はあるか」について検討する。表現力調査で,because節を断片文として使用した参加者への質問 (インタビューQ1) の回答結果から,「~だから。」,「~から。」,「~なので。」として使用した参加者が少なからずいた。井上 (2022) の指摘に対する1つの肯定証拠を提示したと考えられる。日本語では文法的に容認される表現を英語に転移している可能性があり,because節を指導する際は,日本語訳にとらわれず主節を伴う形を丁寧に指導することが大切だろう。

6. おわりに

本研究は,高校3年生の早い段階で実施したが,参加者の多くがbecause節を断片文として産出し,because節を容認する参加者が多いことを示唆する結果を示した。また断片文を使用する場合,母語である日本語の影響が大きいことが改めて確かめられた。because節を正しく用いて産出した学習者やbecause節を用いずに産出した学習者に対して断片文使用や正用法の知識についても調査することができた点は先行研究との違いと言える。

becauseを正しく使える学習者の中には,正しい使い方を必ずしも知っているとは限らないことが判明した。becauseの品詞について参加者のほぼ半数が知らなかった。中学校英語教科書の中には,「becauseは接続詞の仲間で,2つの文をつないで『~なので…』と理由や原因を表します。becauseに続く文は,文の頭にも途中にも置くことができます。」 (太田他, 2021, p. 79) といった記述も見られる。肯定証拠だけでなく目標言語で何が間違っているかという否定証拠となるインプットを与えることが最終的に正しい文法習得につながると考えられる (JACET SLA研究会, 2013) ことから,上記の中学校教科書の説明に加えて,例えば,日本語と英語の断片文を両方提示し,英語の否定証拠も示すことでbecause節の理解や習得に資すると思われる。

本研究では学習者の産出,理解について,インタビューを通じてbecause節の使用に関して明らかにしようとした点で意義がある。ただし学習者のbecause節使用に関して,もっと深く追求することで実態が明らかになった可能性がある。インタビューの最後にbecause節の正しい使い方を指導しているが,その後の参加者の英作文にそれが反映されているか検証することで明示的指導の効果について吟味できた可能性がある。本研究のさらなる限界点として,習熟度の高い参加者が少ない点を挙げることができる。各習熟度の人数が一定程度そろっていることにより,比較検証が可能となる。今後はサンプルサイズを増やし,できるだけ同数の人数に対して調査を行う必要があるだろう。また,先行研究で指摘されていたbecause節の断片文使用に関する原因について,本研究では母語の影響以外は明らかにすることができなかった。アンケートを併用し,アンケートの回答内容に対して,インタビューを行うことでさらに学習者の実態に迫れるものと思われる。今後の研究課題としたい。

謝辞

本稿の完成にあたり,貴重なご意見をくださった 2 名の匿名査読者及び紀要編集委員会に,この場をお借りして厚く御礼申し上げる。

1. 文部科学省・国立教育政策研究所 (2109) は,「まとまりのある文章を書く」ことについて,「自分の考えに加えてその理由を述べているなど,文と文の順序や,相互の関連に注意を払い,全体として話題や文章構成に一貫性のある文章を書くことを意味する」 (p. 49) と述べている。

2. because節の断片文に係る設問2問を本論文では,便宜上設問1,設問2と呼ぶ。

引用文献
Appendices

付録

解答類型Gに属する英検2級取得者の表現力調査の解答及びインタビューの質問と回答

設問1

I want to learn Chinese. Because many Chinese people come to Japan every year. If they ask me the way, I want to teach them it. So I want to learn Chinese language.

設問2

I think B is better than A. Because A don’t have a car’s picture. If they see it, they may stop bicycles. But B has it. So they may be able to stop cars.

インタビュー

Q1. ここで使ったBecauseはどのように使っていますか?

「先にちゃんと自分の言いたいことを,ずばっと言ってから,なんでそれがいいのかを言うって感じ。『なぜなら』っていう感じです。」

Q2. Becauseはいつもこのように書いていますか?

「はい。」

Q3. becauseの正しい使い方を知っていますか?

「知りません。」

Q11. becauseの品詞は何だか知っていますか?

 「接続詞。」

Q12.その役割は何ですか?

「文章と文章をつなげる。1文で書くもの。」

 
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