JACET関東支部紀要
Online ISSN : 2436-1993
論文
英語学習者向け辞書検索行為に対する自己効力感尺度作成の試み
藤田 恵里子
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2024 年 11 巻 p. 5-25

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Abstract

The Jishobiki method, aimed at encouraging pupils to look up familiar words and read the dictionary in their native language, reportedly enhances learners’ self-efficacy—an influential factor affecting motivation, perseverance, and behaviors. However, there is no quantitative data substantiating its efficacy, which is attributed to the absence of a scale to measure self-efficacy for dictionary use. With the application of the Jishobiki method to college-level English learners in mind, this study attempts to construct and validate a scale measuring English learners’ self-efficacy for dictionary use. In accordance with Bandura’s guideline (2006), two question sets were formulated: one assessing confidence levels in pursuing dictionary consultation under challenging situations and another gauging confidence in the requisite skills for dictionary use. Evaluation encompassing test-retest analysis, correlation with external benchmarks, factor analysis, and internal consistency validated the latter question set. Future research should explore the correlation between this scale and the accuracy and speed of dictionary consultation to enhance its comprehensiveness. If effective dictionary instruction methods are elucidated using this measure, it would lead to the promotion of motivation and self-regulated learning in English learning, ultimately contributing to the cultivation of English learners’ autonomy.

1. はじめに

辞書は英語の自律学習において不可欠なツールである。しかしながら,学習中に未知語に遭遇しても語彙を検索しない,そもそも辞書を所有していないという学生もいるように,昨今大学生英語学習者の辞書離れが顕著である。また,語彙検索をしたとしても,多くの学習者は検索エンジンに直接英単語を入力して検索しており,この方法で提示されるのは最も一般的な語義1つのみで,例文や用法は提示されておらず,品詞が正しくない場合も散見される。その結果,せっかく語義を調べても,その単語を含む文を適切に理解できないこともある。さらに,インターネット検索の場合,検索作業の手軽さから調べた語彙を暗記する必要性も感じない。紙辞書であれば,語彙に関する例文や用法といった情報は否応なしに目に入り,単語や英語そのものに対する理解が深まるといった効果も望める。また,辞書検索に手間がかかるため,暗記の必要性も感じるだろう。紙の国語辞典を読む「辞書引き学習」が情意面に好影響を与えることを示す事例もある。しかし,効率を重視する現代の英語学習者に辞書で語義検索をしよう,ましてや紙辞書を引こうと思わせるのはそもそも難しい。

Bandura (1977) によれば,人が何らかの行為を遂行するためには,その行動を効果的に遂行できるという十分な確信,つまり,自己効力感が必要である。辞書検索行為も同様に,効果的に活用できるという確信なしには辞書を引こうという気にならないだろう。英語教育分野において自己効力感の検証及び尺度作成に関する先行研究は多く見られるものの,いずれも英語学習あるいは4技能を対象としており,辞書検索行為を対象とした研究は管見の限り存在しない。それは,そもそも尺度が存在しないからだろう。そこで,本稿は英語学習における辞書検索行為に対する自己効力感尺度の作成を試みる。

2. 大学生の辞書使用状況と紙辞書の効果

パソコンやスマートフォンといったデジタルツールが普及する前は,紙の英和辞典は英語学習において必須であった。しかし,最近では電子辞書すら使わず,スマートフォンを使用してインターネット検索をする学習者が多い。Collins (2016) によると,辞書検索に大学生が使用する媒体はスマートフォン (34%),電子辞書 (33%) がほぼ同数であるが,紙辞書は3%と最も少ない。藤田 (2019) は,習熟度が高い学習者はオンライン辞書 (49.38%),電子辞書 (25.93%),オンライン翻訳 (14.81%),紙辞書 (9.88%) の順に,習熟度の低い学習者はオンライン辞書 (55.22%),電子辞書とオンライン翻訳 (各17.91%),紙辞書 (8.96%) の順に利用者が多いことを示した。習熟度にかかわらず,紙辞書使用者は10%に満たず最も少ないのに対し,オンライン辞書は両群において半数程度と最も多い。しかしながら,特に習熟度が低い学習者は,スマートフォンを媒体としてオンライン辞書で語義検索するよりも紙辞書を使用した方が適切な語義を選出できることが先行研究で示されている (大薗・藤田, 2021; 藤田・大薗, 2020)。

紙辞書の利点を活かし,主に小学生の国語学習において辞書を「引く」のではなく,「読む」ことを促す「辞書引き学習」が提唱されている (深谷, 1998, 2006, 2008, 2013, 2015, 2020)。この学習方法の基本的な手順は,1) 辞書内で知っていることばを見つけ,2) 周囲の説明も含めて読み,3) 付箋を貼る,というものである。紙辞書の使用を前提とする根拠として,1) 一覧性が高い,2) (調べている単語だけでなく) 周辺に書かれている情報も目に入る,3) 書き込むことができるという点を挙げている (深谷, 2020)。深谷はこれまでイギリス及び日本の小学校において国語の辞書引き学習を実施し,荻野他 (2022) 及び深谷・吉川 (2020) では日本人中国語学習者を対象とした検証も行っている。一連の研究で報告された辞書引き学習の効果を以下にまとめる (荻野他, 2022; 深谷, 2018; 深谷・吉川, 2020; 深谷他, 2020, 2022)。

  • 1. 付箋が増えていく喜びがある
  • 2. 辞書を「読む」ことで新たな発見が得られる
  • 3. 知っていることばの周りのことばを知る
  • 4. 語彙を増やすことができる
  • 5. 辞書を引く習慣が身につく
  • 6. 効果的な学習方略の習得ができる
  • 7. 自己効力感の向上につながる
  • 8. 学習に対する主体性が育成される
  • 9. 探求心が育つ

以上のように,日英ともに小学生に母語辞書を読ませる辞書引き学習は,即時的な情意面への好影響 (1, 2),知識の習得 (3, 4),学習方略及び習慣の定着 (5, 6),学習に対する姿勢の育成 (7~9) といった観点において効果が見られるようである。中でも自己効力感は学習の開始・継続・粘り強さを決定づけ,自己調整学習や動機付けとも強い関わりがある。辞書引き学習では知っている単語に付箋を貼るので,自分の知識が可視化され,自己効力感の向上につながるというのは想像に難くない。しかし,深谷は自己効力感の向上を指摘しているものの,いずれも児童や教員を対象としたインタビューや観察に基づいた質的検証にとどまり,定量的に検証した研究は管見の限りない。それはひとえに,辞書検索行為に対する自己効力感を測定する尺度が存在しないからであろう。

現状辞書引き学習の外国語学習への応用例は限られている。また,これまでの英語教育分野における辞書指導に関する先行研究は,検索速度,語彙の定着度,選出語義の正確さといった実用面に焦点を当てたものが大半であった。しかし,自己効力感の測定が可能になることで情意面への効果も検証可能になる。自己効力感が向上すれば,昨今の英語学習者の辞書離れの解消,動機付け及び自己調整学習の向上,さらには自律的学習態度を育成するきっかけとなることが期待できる。以上の理由から,本稿では英語学習者向けの辞書検索行為に対する自己効力感尺度の作成を試みる。

3. 自己効力感

3.1 自己効力感

自己効力感はそもそも心理療法の効果を予測するためにBandura (1977) によって提唱された概念である。自己効力感は,行動の開始,継続,さらに努力の程度,課題の選択,障害に直面したときの粘り強さをも決定づけ,人の行動決定において中心的な役割を果たしている。人は成果を期待できないとき行動に移すことができず,行動しないので当然ながら成果も出ない。多くの場合,その失敗体験はさらに自己効力感を下げ,負の連鎖を断ち切るのが困難になる。自己効力感の影響の検証は心理療法の成果にとどまらず,学業成績 (松沼, 2004; Caprara et al., 2011; Multon et al., 1991; Pajares & Miller, 1994; Pintrich & De Groot, 1990; Siegel et al., 1985),職業選択 (Betz & Hackett, 1983; Hactkett, 1985; Lent & Hackett, 1987) との関連も示されている。

Caprara et al. (2011) は長期的な検証に基づき,個人の性格よりも自己効力感の方が学業成績への影響が強く,中学の学業成績が自己効力感に,さらにその自己効力感が高校の成績に影響することを示した。Pajares and Miller (1994) は,数学成績の予測要因,影響要因として自己効力感の重要性を示している。Multon et al. (1991) は,先行研究のメタ分析を通じて,特に習熟度が低い学習者及び小学生において学業成績に対する自己効力感の影響が強く見られることを示した。Siegel et al. (1985) は,数学適性よりも自己効力感の方が数学成績を予測すると結論づけた。

さらに自己効力感は個人が人生において下す決断にも影響することを示す研究結果もある。例えば,数学に対する自己効力感が高い学生は,大学において理系を専攻する傾向 (Betz & Hackett, 1983),ひいては理系の職業を選択する傾向 (Hactkett, 1985) が高い。Lent and Hackett (1987) は,複数の先行研究の結果を集約して,同様の結論を導き出している。このように,自己効力感は短期的には学業成績を,長期的には人生における決定をも左右する重要な要素である。

3.2 英語教育分野の自己効力感

英語学習には粘り強さと継続性が必要とされるため,自己効力感が不可欠であり,多くの研究が行われている。英語教育分野においては自己効力感と4技能ないしは英語力の相関に焦点を当てた研究や,何らかの介入を施して自己効力感の向上を試みた研究がある。

4技能別の自己効力感と当該能力の関連については,リスニング (渡・中島, 2020; Mills et al., 2006; Rahimi & Abedini, 2009),リーディング (Fitri E et al., 2019; Mills et al., 2006),スピーキング (Zhang & Ardasheva, 2019; Zhang et al., 2020),ライティング (Erkan & Saban, 2011; Öztürk & Saydam, 2014; Woodrow, 2011) の領域でそれぞれ検証が行われ,いずれも相関を示している。Rahimi and Abedini (2009) は,大学生を対象にリスニングに対する自己効力感とTOEFLテストで測定できるリスニング能力の間に相関があることを示した。渡・中島 (2020) は,習熟度の低い大学生を対象に,自己効力感,内発的価値,自己調整の3要素とテストパフォーマンス (TOEIC) の関係を検証し,3要素のうち自己効力感のみがリスニングテスト結果に有意な影響を与えるとした。リーディングの領域では,TOEFLテストで測定できるリーディング能力と当該技能の自己効力感の間に相関が見られた (Fitri E et al., 2019)。スピーキングの領域で,Zhang et al., (2020) は統計的な相関は認められなかったものの,スピーチ指導後に当該技能に対する自己効力感もパフォーマンスも向上し,多くの参加者が両者の関連を感じていると報告した。さらに,スピーキングの自己効力感には,特に成功体験の影響が強いことも示されている (Zhang & Ardasheva, 2019)。Erkan and Saban (2011) は,大学生英語学習者の自己効力感はライティングパフォーマンスを予測する要因となる一方で,不安はパフォーマンス及び自己効力感と負の相関を示したと報告している。Öztürk and Saydam (2014) も同様にライティング不安と自己効力感の負の相関を示し,特に言語知識,ライティング能力,教員が自己効力感を決定づける要因であることを示した。Woodrow (2011) は,英語ライティングのパフォーマンスとライティング不安は自己効力感を介して相関していることを示した。この結果は第二言語としてのフランス語学習者を対象にリーディング,リスニングパフォーマンスと不安,自己効力感の相関を検証したMills et al. (2006) と合致する。さらに,Kitikanan and Sasimonton (2017) によって,4技能に対する個別の自己効力感は英語成績と関連することも示されている。

習熟度の低い学習者は学習に向かうための自己効力感に問題を抱えている場合が多く,それを改善することを目的とした指導の検証が行われている (合田・奥田, 2009; 中山・松沼, 2013; 新本, 2020; 濱田, 2011; 牧野, 2013, 2016, 2021; Fukihara, 2019)。英語学習に対する自己効力感向上のための試みとして,自己調整学習の習得を促す授業 (合田・奥田, 2009),失敗の原因を努力不足に帰属させる再帰属訓練 (中山・松沼, 2013),高校までとは異なる参加型の授業 (牧野, 2013),スピーキング中心の授業 (牧野, 2016),比較的簡単なタスクを与えて達成感を得られるよう配慮した授業 (Fukihara, 2019) が実施され,いずれも効果が見られている。特に牧野 (2016) は,文法・リーディング中心の授業とスピーキング中心の授業を比較し,後者のほうが英語学習に対する自己効力感は向上しやすいとしている。特定技能に対する自己効力感の検証では,ディクテーション (新本, 2020) 及びシャドーウィング (濱田, 2011) の指導を行い,英語リスニング能力と自己効力感の両方が向上したという報告がある。さらに,牧野 (2021) は,リメディアル大学生にとって暗唱活動はライティングに対する自己効力感を向上させるのに役立つという結果を示した。

以上のように,英語教育の分野においても英語学習あるいは特定技能に対する自己効力感とその能力,英語成績の間には相関が見られ,適切な介入を行うことで自己効力感は向上させることができるということが先行研究によって示されている。

4. 自己効力感測定尺度

4.1 自己効力感測定尺度

Bandura (2006) はあらゆる行動に当てはまる general self-efficacy は存在せず,具体的な行動に対して特異的に抱くもの (task-specific self-efficacy) であるとしている。一方で,異なる領域の自己効力感には関連が見られる場合があるとも述べている。その後の研究結果からgeneral self-efficacy とtask-specific self-efficacyとの間に相関があることが示されている (三宅, 2000; Maddux, 2017)。

心理学の分野でこれまでに作成された6つのgeneral self-efficacy尺度で最も多く活用されているのがSherer et al. (1982)Schwarzer and Jerusalem (1995)Chen et al. (2001) の3つである (Maddux, 2017)。Schwarzer and Jerusalem (1995) 以外は当該論文内で妥当性,信頼性の検証を行っている。特にSherer et al. (1982) は200以上の論文で使用,引用されており,最も認知度が高く (Chen et al., 2001),後続の複数の論文でその妥当性・信頼性が再検証されている (成田他, 1995; Chen et al., 2001他)。Schwarzer and Jerusalem (1995) は複数の言語に翻訳され使用されており,日本語版 (Ito et al., 2005) は心理学の分野で広く活用されている。しかしながら,英語学習分野におけるこれらの尺度の利用は限られている。

4.2 英語教育分野における自己効力感尺度

英語教育分野で使用されている自己効力感尺度は,日本国内と国外で異なる傾向が見られる。日本国内で実施された英語学習における自己効力感の検証は,Pintrich and De Groot (1990) を使用したものが多い (松沼, 2006; 森, 2004他)。Pintrich and De Groot (1990) は,学業成績と自己調整学習及び動機づけの関連を検証し,潜在要因の一つとして自己効力感尺度9項目を抽出した。松沼 (2006) は,これらの質問項目を和訳し,日本の学校現場に則した形にして,8項目の英語学習に対する自己効力感尺度 (付録 セクションA) を作成し,その妥当性・信頼性を示した。松沼 (2006) の質問項目内の「英語」という文言を「リスニング」等個別技能に変更して特定技能の自己効力感尺度として使用している研究も散見される (新本, 2020; 濱田, 2011; 牧野, 2021)。このように後続の研究ではほぼすべてが松沼 (2006),本を正せば,Pintrich and De Groot (1990) を活用している (中山・松沼, 2013; 新本, 2020; 濱田, 2011; 牧野, 2013, 2016, 2021; Fukihara, 2019)。つまり,日本国内では,心理学に依拠した自己効力感尺度から作成された英語学習に対する尺度をもとに,個別技能尺度を作成,使用していると言えるだろう。

一方,日本国外の研究では,Bandura (1977) の自己効力感は課題特有であるという提言に基づき,4技能それぞれにおける具体的な行為,例えばリスニング領域では,「英語で映画を見ることができる」のような,いわゆるCan-doリストのような質問形式が多く見られる。このような,テストで測定可能な技能に対する自己認識を問う形式の自己効力感尺度は,Betz and Hackett (1983)Hackett (1985) が数学の文章題に基づいて作成した尺度 (ある地点から別の地点に行くのにかかる時間を算出できますか等) にも見られる。つまり,Can-doリストのような質問形式は,学習領域における自己効力感尺度としては珍しくない。理論的背景としては,Mills et al. (2006) がACTFL (American Council on the Teaching of Foreign Languages) に,Kutuk et al. (2022) がCEFR (Common European Framework of Reference for Languages) に準拠した尺度の作成を試みているが,これら以外は理論に関係なくインタビューや観察,先行研究を基に各研究者が独自に作成している (Kutuk et al., 2022)。

技能別尺度は,リスニング (Mills et al., 2006; Rahimi & Abedini, 2009),リーディング (Fitri E et al., 2019; Mills et al, 2006),スピーキング (Zhang & Ardasheva, 2019; Zhang et al., 2020),ライティング (Cheng, 2004; Erkan & Saban, 2011; Öztürk & Saydan, 2014; Woodrow, 2011) の4技能それぞれに対して存在する。インプット技能に関する尺度は,「新聞を理解できる」,「ラジオを理解できる」というように媒体を示して内容を想定することで難易度を分ける傾向にある。それに対して,アウトプット技能に関する尺度の多くは,「句読点が正しく打てる」,「流暢に話せる」のようにその技能の評価項目,あるいはその技能遂行に必要となる知識,スキルに倣う形で作成されている傾向がある。英語学習に対する自己効力感は,4技能別尺度を同時に実施し,それらの結果を統合することで測定している例が多い (Kutuk et al., 2022; Sağlam & Arslan, 2018; Wang, 2004; Wang & Bai, 2017)。

このように,英語学習に対する自己効力感を測定する際,日本国内では心理学に依拠した尺度を活用するのに対し,日本国外の研究の多くは技能別自己効力感を合算して算出する傾向が見られる。

5. 方法

5.1 調査対象者

本調査は日本国内の私立大学において,筆者が担当する必修教養科目としての英語4クラス (1年生,2年生各2クラス,1クラス約30名) を対象とした。当該科目はいずれもリスニング・スピーキングを中心とし (週1回),対象者は別の教員が担当するリーディング・ライティングのクラス (週1回) を平行して受講している。英語を主専攻とする対象者はいなかった。回答に先立って,調査協力は任意であり途中で参加を取りやめることができること,協力の可否は成績に影響しないことを説明し,同意を得た。再検査法を採用し,2回調査を実施したが,1回目への参加者は合計108名 (1年生53名,2年生55名),2回目への参加者は合計88名 (1年生42名,2年生46名) であり,両方の回に回答した参加者は80名 (各学年40名) だった。第1回調査参加者のGTECに基づく英語力は表1のとおりであり,1年生は入学前,2年生は1年生末に実施した結果をもとにした。1年生と2年生のGTECの平均値に見られる差が有意かを検証するために,技能別及び合計点に対して,対応なしt検定を行ったところ,全項目においてp < .001で2年生の方が有意に高いという結果になった。

表1 調査対象者の英語力

1年生
(n = 44)
2年生
(n = 55)
全体
(N = 99)
M SD M SD M SD
GTEC (L) 66.48 28.25 111.07 9.96 91.25 30.02
GTEC (S) 59.80 38.41 121.70 9.87 93.95 40.54
GTEC (R) 58.43 30.21 104.96 18.73 84.28 33.67
GTEC (W) 72.80 34.63 115.05 20.58 96.27 34.71
GTEC (TOTAL) 257.50 83.44 452.36 31.08 365.76 114.27

各技能250点満点で合計1000点満点。1年生にはGTEC未受験者が9名いた。

5.2 手続き

質問紙調査は授業内で実施し,協力者自身のスマートフォンを使用してGoogleフォームから回答させた。なお,すべてに回答するよう自由記述以外の質問項目には必須条件を設定した。回答には約15分を要した。再現性を検証するために,1か月程度の期間を空けて同じ学習者を対象に2回調査を実施した。

5.3 質問紙

本稿で使用した質問紙は,フェイスシート (5項目),セクションA. 英語学習に対する自己肯定感 (松沼, 2006,8項目,以下「A. 英語学習」),セクションB. 阻害要因下における辞書検索行為に対する自己効力感 (15項目及び自由記述1項目,以下「B. 阻害要因下」),セクションC. 辞書検索スキルに関する自己効力感 (16項目,以下「C. スキル」),の合計44項目で構成されていた (付録)。A. 英語学習は,「1. まったく当てはまらない」~「6. とても当てはまる」の6件法とし,B. 阻害要因下及びC. スキルは自信度を問う形式だったため,「1. まったくない」~ 「6. とてもある」の6件法で回答させた。

本稿で作成を試みた辞書検索行為に対する自己効力感を測定する質問項目は,B. 阻害要因下及びC. スキルであり,A. 英語学習は外部基準として利用した。辞書検索行為に対する自己効力感尺度は前例がないため,深谷の辞書引き学習に関する一連の報告及び学習者の行動を念頭に筆者が作成した。その際,Bandura (2006) に示されたガイドラインの以下の観点 1) ~ 7) に従った。特に,B. 阻害要因下は,Bandura (2006) の巻末に複数例が示されている,以下 4) に示すガイドラインに従って,阻害要因下でその行動を遂行することができる自信がどの程度あるかを問う形式で作成した。しかし,阻害要因下において特定の行為を行う自信を問うという形式は調査対象者に馴染みがなく,適切な回答が得にくい可能性が考えられた。そのため,以下 2) に示すガイドラインに従って辞書検索に必要なスキルに焦点を当て,「~ことができる」という形式で,その自信の程度を問うC. スキルを作成した。

  • 1) 自己効力感尺度は機能領域特有のものである (Bandura, 2006, p. 308)。

     →辞書検索行為に特化した尺度を作成した。

  • 2) will do ではなく,can do で表現されるべきである (p. 308)。

     →質問項目は「~ことができる」の形で表現した。

  • 3) 測定したい機能領域の概念分析を十分に行う必要がある (p. 310)。

     →辞書検索行為に関わる行動を学習者の行動及び深谷の一連の報告を参考に作成した。

  • 4) 様々な障害がある中で特定の行為を遂行できるかどうかを測定する (p. 311)。

     →B. 阻害要因下の質問群は,辞書検索行為の阻害要因として考えられる状況を列挙した。

  • 5) 天井効果を避け,より感度を高めるために質問項目は段階的になるように示す (p. 311)。

    →状況,条件を細分化して示した。

  • 6) 回答方法は段階的に示す (p. 312)。

     →Bandura (2006) では自信の度合いをパーセンテージで回答させる方法を推奨していた。しかし,リッカートスケールはパーセンテージによる回答との間に差はなく,必要なサンプル数も少ないという検証結果 (Maurer & Andrews, 2000) に基づき,回答しやすく,定量的な処理がしやすいリッカートスケールを採用した。また,安易に真ん中を選ばないように6件法とした。

  • 7) 質問紙にタイトルを記載する場合は「自己効力感」という表現は使わず,「評価」のような一般的な表現を使う (p. 314)。

     →質問紙のタイトルは「英語学習に対する意識調査」とした。

5.4 妥当性と信頼性の検証

測定道具作成の際に必要な妥当性と信頼性の検証は,自己効力感尺度の作成を試みた先行研究を参考に行った。特に妥当性は,内容的妥当性 (質問項目が測ろうとしている構成概念に対して適切か),基準関連妥当性 (同じような構成概念を測定している外的基準との相関),構成概念妥当性 (理論的に仮定される構成概念に沿うものであり,それが測定できているか) に分けられる (竹内・水本, 2014, p. 19)。

内容的妥当性の検証として,自己効力感尺度の検証研究の多くは,大学院生や専門家の意見を仰いでいる (Chen et al., 2001; Sağlam & Arslan, 2018; Wang & Bai, 2017)。本稿では筆者が質問項目を作成し,英語学習における辞書検索行為に視座のある研究者1名に内容的妥当性の確認を依頼し,追加修正を加えた。さらに,本調査に先立って,調査対象外の大学生10名の協力を得て,回答のしやすさを確認し,修正を加えた。B. 阻害要因下質問群は,当初はBandura (2006) に倣い,指示文に「以下の状況下で,英文中で遭遇した意味がわからない単語の語義を調べられる自信がどの程度ありますか。」と記載し,各質問項目は「…とき」と表記していた。しかし,予備調査において,多くの学生が指示文を読み飛ばす傾向があるために,質問の意図の理解に苦労すると指摘された。そのため,各質問項目に指示文を付け加えたが,冗長になり注意力を削ぐことが懸念された。そこで,当初の質問項目だった部分に下線を引き,「…とき,英文中で遭遇した意味がわからない単語の語義を調べられる自信がどの程度ありますか。」とすることで特に注目させたい部分を強調した。C. スキルにおいても同様の対応を行った。また,予備調査において,英単語の語義を調べることをためらうときについて自由記述欄を用いて尋ねたが,その時に出された「その単語の意味はわからなくても,文を理解できる (意味を予測できる) と思うとき」もセクションBの7番として追加した。

本稿では,基準関連妥当性を検証するための外部基準として1) 学業成績,2) 学習の継続性,3) 英語学習に対する自己効力感 (general self-efficacy) を採用した。1) 学業成績は自己効力感と相関があることが示されており (松沼, 2004; Caprara et al., 2011; Multon et al., 1991; Pajares & Miller, 1994; Pintrich & De Groot, 1990; Siegel et al., 1985),英語教育分野の自己効力感尺度作成の外部基準として英語標準テスト (Wang & Bai, 2017),英語授業内で実施された試験 (松沼, 2006; Kutuk et al., 2022; Wang & Bai, 2017) を利用している例が見られた。しかしながら,標準テストを学業成績の指標としていた事例には自己効力感との相関が認められなかった場合もある (和田, 2019; Tseng, 2013; Xu et al., 2022) ため,本稿では授業内で実施されたUnitテストの平均を学業成績の外部基準とした。2) 学習の継続性は,内発的動機付けを介して間接的に自己効力感と相関があることが示されている (田中, 2021)。松沼 (2006) では,週当たりの学習時間 (分) を学習の継続性の外部基準として利用しており,本稿もこれに倣った。さらに, 3) general self-efficacy はtask-specific self-efficacy との相関が示されており (三宅, 2000; Maddux, 2017),task-specific self-efficacy 尺度を外部基準としてgeneral self-efficacy尺度を作成した例もある (坂野・東條, 1986)。本稿で対象とする辞書検索行為という task-specific self-efficacy も英語学習に対するgeneral self-efficacy と相関が見られることが期待できる。しかし,辞書検索行為の自己効力感は,4技能の具体的な行動と直接関連があるわけではないため,3.2 で例示した数ある英語学習に対する自己効力感尺度の中でも,4技能を統合して作成された尺度とは相関が見られない可能性がある。したがって,外部基準とする英語学習に対するgeneral self-efficacyとして,技能別尺度に基づかず,日本語での妥当性,信頼性が担保されている松沼 (2006) を採用した。以上を踏まえて,本研究では,1) 授業内で実施されたUnitテストの取得点数割合 ( = 学業成績),2) 週当たりの学習時間 ( = 学習の継続性),3) 松沼 (2006) ( = 英語学習に対する自己効力感,質問紙セクションA) を外部基準とした。

構成概念妥当性については,主成分分析 (Chen et al., 2001) や探索的因子分析 (坂野・東條, 1986; 松沼, 2006) を用いて関連の低い質問項目を削除して統一感のある尺度作成を目指しているものがある。例えば,松沼 (2006) は,因子分析において抽出された因子が一つであったことを根拠にすべての質問項目が一次元的に自己効力感を測定していることを示した。探索的因子分析の後,検証的因子分析 (Kutuk et al., 2022; Sağlam & Arslan, 2018; Wang & Bai, 2017) やSEM (Kutuk et al., 2022),ラッシュモデルによる分析 (Wang et al., 2013) を行った例も見られる。先行研究に基づけば検証的因子分析等を行うことが理想的ではあるが,辞書検索行為については拠り所とする先行理論も先行研究もないため,本研究では実施せず,探索的因子分析によって一次元性の高い質問群の作成を試みた。

信頼性に関しては,再検査法によって再現性の検証 (坂野・東條, 1986; 松沼, 2006; Wang & Bai, 2017) 及びクロンバックαによって内的整合性の検証 (松沼, 2006; Chen et al., 2001; Kutuk et al., 2022; Sağlam & Arslan, 2018; Sherer et al., 1982; Wang & Bai, 2017) を実行している事例が多い。本研究でも再現性を検証するために,再検査法を採用した。検査間隔は結果に影響がないこと (小塩, 2016) から,多くの先行研究に倣い,約1か月後に同じ質問紙調査を同じ集団に対して実施し,スピアマンの相関係数を用いた。さらに,クロンバックαによって内的整合性を検証した。以下,すべての統計的分析において,JASP バージョン0.17.1を使用した。

6. 結果

以下に調査及び検証の結果を示す。再検査法による検証においては第1回,第2回の両方の調査に回答した80名を,それ以外の検証においては第1回の調査に回答した108名を対象とした。

6.1 記述統計

6.1.1 外部基準とした項目

外部基準として使用した項目の平均値を表2に示す。なお,調査を実施した2023年度前期において,両学年ともUnitテストは5回実施された。表1に示したGTECで示される英語力には学年による有意差が見られたことを受け,表2に示す外部基準とした全項目について対応なしt検定を行ったところ,学年間で有意な差は見られなかった。

表2 外部基準とした項目の平均値

1年生
(n = 53)
2年生
(n = 55)
全体
(N = 108)
Unitテスト取得点数割合 0.56 0.53 0.54
週当たりの学習時間 (分) 46.23 40.82 43.47
A. 英語学習に対する自己効力感 2.98 2.89 2.94

6.1.2 B. 阻害要因下及びC. スキル

次に辞書検索行為の自己効力感に関する各質問項目及び各セクションの平均を表3に示す。なお,個々の回答を確認したところ,すべての質問に同じ選択肢を選んでいるというようないい加減な回答は見られず,また天井効果,床効果が見られる質問項目もなかった。GTECの点数において学年間で有意差が見られたことを受け,B. 阻害要因下及びC. スキルの各質問項目及び各質問群の学年別の平均を対応なしt検定を用いて検証したところ,有意差が見られる項目はなかった。外部基準だけでなく,B. 阻害要因下,C. スキルの全質問項目において,学年間の差が見られなかったため,以降の統計的分析は学年を分けずに実施する。

表3 B. 阻害要因下及びC. スキル平均値

1年生 2年生 全体
B1) 3.53 3.45 3.49
B2) 3.40 2.91 3.15
B3) 3.30 3.25 3.28
B4) 2.49 2.31 2.40
B5) 3.08 3.27 3.18
B6) 3.83 4.56 4.20
B7) 3.26 3.33 3.30
B8) 3.28 3.35 3.31
B9) 2.94 2.98 2.96
B10) 3.19 2.93 3.06
B11) 3.11 2.89 3.00
B12) 3.28 2.93 3.10
B13) 3.02 3.45 3.24
B14) 3.00 3.15 3.07
B15) 3.04 2.85 2.94
平均 3.18 3.17 3.18
1年生 2年生 全体
C1) 3.45 3.60 3.53
C2) 3.91 4.25 4.08
C3) 3.30 3.18 3.24
C4) 2.79 2.51 2.65
C5) 3.19 3.18 3.19
C6) 3.06 3.09 3.07
C7) 3.09 2.91 3.00
C8) 3.09 3.45 3.28
C9) 3.00 3.09 3.05
C10) 3.13 3.02 3.07
C11) 2.83 2.95 2.89
C12) 2.94 3.29 3.12
C13) 3.08 3.29 3.19
C14) 3.02 3.38 3.20
C15) 3.25 3.71 3.48
C16) 3.32 3.24 3.28
平均 3.15 3.26 3.21

6.2 再現性の検証(再検査法)

質問項目の再現性を検証するために,再検査法を採用し,同じ調査対象者に対して1か月ほどの期間を空けて2度調査を実施した。なお,A. 英語学習は,松沼 (2006) においてすでに再現性が担保されているため,回答者への負担も考慮し,2回目は実施しなかった。再現性の検証は,1回目及び2回目の両方に回答した学生80名を対象とした。B. 阻害要因下とC. スキルの各質問群に関して,1回目と2回目の回答の一致度を検証するために,スピアマンの相関係数を算出した。B. 阻害要因下は,r = .56 (p < .001),C. スキルは,r = .69 (p < .001),BC統合は,r = .67 (p < .001) となり,C. スキル質問群が最も再現性が高い結果となった。再検査法において相関係数は .70を超えることが一つの基準となっていることから (小塩, 2016),本調査においてはC. スキルの質問群はほぼ十分な相関を示していると言えるだろう。さらに,特に再現性が低い質問項目を抽出すべく,項目ごとの相関係数も算出し,高い順に示した (表4)。全体的にC. スキルの質問項目の方が相関係数が高く,B. 阻害要因下の質問項目は低い傾向が見られた。

表4 第1回と第2回のスピアマン相関係数(高い順)

質問項目 r
C15 0.65***
C4 0.64***
C8 0.58***
B9 0.57***
C2 0.57***
C5 0.56***
C12 0.56***
C16 0.56***
C1 0.54***
C14 0.51***
C9 0.49***
C3 0.48***
C6 0.48***
C7 0.47***
B6 0.46***
C11 0.45***
B12 0.44***
B5 0.42***
C10 0.42***
B13 0.41***
B2 0.41***
C13 0.40***
B11 0.39***
B8 0.38***
B4 0.36**
B3 0.35**
B1 0.31**
B14 0.27*
B15 0.27*
B7 0.27*
B10 0.23*

* p < .05, ** p < .01, *** p < .001

6.3 因子分析

質問群BCを統合した場合の潜在的な共通因子を探るために,探索的因子分析を行った。因子の抽出には最尤法,回転法にはプロマックス法を用い,因子数の決定には固有値1以上を基準として,スクリープロットの検証も合わせて3因子を仮定した。この分析の結果,因子1にはC. スキルのみ12項目,因子2にはB. 阻害要因下のみ11項目,因子3には質問群Bから4項目,Cから3項目が分類された (表5)。

表5 BC統合因子分析

因子1 因子2 因子3 独自性
C9) 0.93 0.24
C11) 0.84 0.46
C6) 0.72 0.33
C5) 0.67 0.38
C10) 0.67 0.57
C13) 0.65 0.39
C14) 0.64 0.26
C12) 0.64 0.38
C4) 0.59 0.57
C3) 0.54 0.64
C15) 0.46 0.52 0.35
C8) 0.46 0.57
B8) 0.88 0.3
B10) 0.82 0.35
B9) 0.79 0.40
B11) 0.78 0.39
B14) 0.72 0.47
B15) 0.63 0.60
B7) 0.52 0.62
B5) 0.52 0.61
B12) 0.48 0.54
B4) 0.43 0.77
B13) 0.43 0.69
B1) 0.77 0.45
B2) 0.75 0.46
B3) 0.59 0.58
C1) 0.55 0.47
C2) 0.51 0.54
C16) 0.46 0.55
B6) 0.41 0.55
C7) 0.65

6.4 項目削除の試み

本稿において辞書検索行為に対する自己効力感を測定するために作成した心理尺度は,B. 阻害要因下 (15項目) 及びC. スキル (16項目) の合計31項目であった。一般的な心理尺度としては多すぎるわけではないと考えられるが,調査対象者の負担を最小限にし,精度を高めるために,以下の3つの方法で質問項目の削除を試みた。

方法1) 再現性を高めるための試み (削除後10項目)

6.2に示したとおり,第1回と第2回のスピアマン相関係数は,B. 阻害要因下 (r = .56, p < .001),C. スキル (r = .69, p < .001),BC統合 (r = .67, p < .001) であり,C. スキルはすでに十分な相関係数を示していると言える。しかしながら,より再現性を高めるために,第1回と第2回の相関係数が低い項目から順に削除し,相関係数が最も高くなる質問群を探った。その結果,表4の下位から21項目を削除するとr = .73, p < .001となり,相関係数が最も高くなることから,残り10項目 (C15,C4,C8,B9,C2,C5,C12,C16,C1,C14) を一つの質問群とした。

方法2) 因子分析による削除1 (削除後28項目)

因子分析 (表5) に基づき,複数の因子において0.4以上の負荷量を示した項目 (C15),独自性が0.7以上であった項目 (B4),いずれの因子にも属さなかった項目 (C7) を削除した。その結果,因子 1 (①) 11項目,因子2 (②) 10項目,因子3 (③) 7項目の合計28項目となった。

方法3) 因子分析による削除2 (削除後16項目)

方法2) による操作の後,さらにSağlam and Arslam (2018) を参考とし,竹本・水本 (2014) によると大きい負荷を示す基準である,負荷量が0.6未満であった項目 (C4, C3, C8, B7, B5, B12, B13, B3, C1, C2, C16, B6) を削除した。その結果,因子1 (④) 8項目,因子2 (⑤) 6項目,因子3 (⑥) 2項目の合計16項目となった。

質問項目を削除していない当初の質問群B. 阻害要因下,C. スキル,BC統合及び上記方法1) ~3) によって質問を削除した質問群それぞれに関して,各外部基準とのスピアマン相関係数及び内的整合性 (クロンバックα) を算出し,表6に示した。外部基準は,1) 授業内で実施されたUnitテストの取得点数割合 ( = 学業成績),2) 週当たりの学習時間 ( = 学習の継続性),3) 松沼 (2006) ( = 英語学習に対する自己効力感,質問紙セクションA) であった。

各質問群と各外部基準の相関係数を比較すると,C. スキル (16項目) がすべての外部基準において最も高い相関係数を示した。Unitテスト及び学習時間との相関はいずれも弱かったものの,特に最も関連性が高いことが期待されたA. 英語学習との相関係数は r = .63 (p < .001) と,かなり相関があるという結果になった。

次に内的整合性を検証するために,クロンバックαを比較すると,僅差ではあるが,BC統合 (31項目,α = .95) が最も高く,①~③統合 (28項目,α = .94),C. スキル (16項目,α = .93) が続いた。なお,すでに妥当性,信頼性が検証されているA. 英語学習の本調査における内的整合性はα = .94であったことから,いずれの質問群も遜色ない結果であったと言える。C. スキルよりも内的整合性が高い質問群があったものの,クロンバックαは項目が増えると自然と高くなること (竹内・水本, 2014),それぞれの差が .01と大きくないことから,C. スキルが必ずしも他2つの質問群よりも劣るというわけではないと言えるだろう。

以上の検証結果に基づいて,今回検証した質問群の中では,C. スキル質問群 (16項目) が最も適切に辞書検索行為に対する自己効力感を測れると言えるだろう。

表6 各質問群と外部基準との相関及びクロンバックα

Unit
テスト
学習
時間
A. 英語学習 クロンバックα
B阻害要因下 (15項目) 0.12 0.18 0.46*** 0.90
Cスキル (16項目) 0.27** 0.20* 0.63*** 0.93
BC統合 (31項目) 0.23* 0.20* 0.61*** 0.95
方法1) 再現性最大 (10項目) 0.26** 0.18 0.59*** 0.87
方法2) ① (11項目) 0.22* 0.20* 0.61*** 0.92
方法2) ② (10項目) 0.06 0.14 0.41*** 0.89
方法2) ③ (7項目) 0.23* 0.16 0.51*** 0.85
方法2) ①~③統合 (28項目) 0.22* 0.20* 0.60*** 0.94
方法3) ④ (8項目) 0.21* 0.19* 0.62*** 0.92
方法3) ⑤ (6項目) 0.07 0.10 0.38*** 0.88
方法3) ⑥ (2項目) 0.07 0.11 0.40*** 0.86
方法3) ④~⑥統合 (16項目) 0.17 0.15 0.59*** 0.91

* p < .05, ** p < .01, *** p < .001

各外部基準内で最も高い数値を太字で示している。

6.5 C. スキル質問群の一次元性及び内的整合性の検証

6.4 において,C. スキルの質問群 (16項目) が最も適切に辞書検索行為の自己効力感を測定できるという結果になった。C. スキル質問群の一次元性を検証すべく,最尤法,プロマックス回転を用いて探索的因子分析を行った。なお,因子数の決定には固有値1以上を基準として,スクリープロットの検証も合わせて因子数1を仮定した (表7)。各質問項目を比較すると,C7のみが負荷量が低め (.47) であったため,C. スキル質問群からC7を削除し,6.4 と同様に各外部基準との相関係数を算出したが,いずれの項目にも変化は見られなかった。内的整合性に関しては,各質問項目を削除した場合のクロンバックαを産出したが,C14を削除した場合のみ α = .92に下がるが,それ以外の項目を削除した場合はすべて α = .93と変わらなかった。

これらの検証に基づき,いずれの項目も削除せず,16項目すべてがそろっている場合が最も妥当性及び信頼性が高いと判断した。

表7 C. スキル質問群の因子分析

負荷量 独自性
C14) 0.87 0.25
C9) 0.83 0.32
C6) 0.82 0.33
C13) 0.79 0.38
C5) 0.78 0.39
C15) 0.77 0.40
C12) 0.77 0.40
C11) 0.68 0.54
C1) 0.66 0.57
C8) 0.64 0.59
C10) 0.63 0.60
C16) 0.62 0.61
C3) 0.59 0.65
C4) 0.56 0.69
C2) 0.54 0.71
C7) 0.47 0.78

7. 考察

大学生英語学習者を対象として辞書引き学習を含む辞書指導の自己効力感への影響を検証することを念頭に,本稿では英語学習における辞書検索行為に対する自己効力感を測定する尺度の作成を試みた。Bandura (2006) に倣って,阻害要因下でその行為を行う自信がどの程度あるかを問う質問群と辞書検索に必要なスキル習得に関する自己認識を問う質問群を作成した。回答者の負担を軽減し,より精度の高い質問群にするために,再検査法及び因子分析に基づいて質問項目を削除し,外部基準との相関係数及び内的整合性を比較した。その結果,辞書検索に必要なスキルを問う質問群 (C. スキル,16項目) がすべての外部基準と最大相関係数を示し,一次元的で内的整合性も十分であったため,最も妥当かつ信頼できる尺度であると確認された。

Bandura (2006) のガイドラインに反して,阻害要因下においてその行為を遂行することに対する自信の程度を答えさせるという形式は本調査の参加者には適さなかったようだ。否定的な印象を与える阻害要因の後に「自信がある」という肯定的な文言が続くことでねじれが生じたことが再現性の低さ,回答のしづらさにつながった可能性がある。本来,常に一定であることが期待される概念については再検査法で高い相関を望めるが,一定ではない概念の測定の場合はむしろ相関が低い方が正しい (小塩, 2016)。辞書検索を躊躇する場面を問うた自由記述欄への回答は,質問項目で既に問うた内容を繰り返したものが多く,回答者は最も阻害要因となるものを意図したものと推察される。特に目立った記述は,面倒くさい,時間がない,辞書がない,わからない単語が多すぎる,であった。これは辞書検索を行うかの決定は,環境やその時の気分のような一定ではないものに左右されるということを示しているだろう。そもそもB. 阻害要因下内の質問項目は感情に関連する項目が多かったため,再現性が低くなったのは当然であり,ある意味意図した概念を正しく測定していたと言えるかもしれない。C. スキル質問群の中で,C7のみ負荷量が低めであった理由として考えられるのは,「英単語に対して辞書内で一番上に提示された語義だけでなく,下方の語義にも目を向けることができる」という文中の「下方の語義」の意図するところが,紙辞書に馴染みのない学習者にとって理解しづらかったことが考えられる。紙辞書に慣れていないことが影響したとすれば,因子分析を見る限り特段逸脱していたわけではないが, C4「紙の英和辞典内で調べたい英単語をすぐに見つけることができる」 についても再検討が必要かもしれない。当初は紙辞書使用の効果を念頭に尺度を作成したが,藤田 (2019) にも示されているように,近年の大学生英語学習者の大半はオンライン辞書,電子辞書を使用しており,これらの辞書形態には音声を聞ける,携行しやすいといった利点もある。このことから,C4,C7の文言を再考し,あらゆる形態の辞書に適用できる汎用性の高い,普遍的教育価値のある尺度を目指す必要があるだろう。また,全質問項目に指示文を記載したため,冗長でかつ分量が多い印象を与え,この心理的負担が回答に影響を与えた可能性も考えられる。各質問項目から指示文を削除することで,精度のさらなる向上が望めるかもしれない。

本研究では,作成した複数の質問群の中から外部基準と最も高い相関を示した,C. スキル質問群を最も妥当性が高いと結論付けた。しかしながら,A. 学習時間以外の外部基準2項目 (Unitテスト及び学習時間) との相関は弱かった。そのため,自己効力感と当該技能の実際の能力の間に高い相関が認められているという先行研究の結果に基づき,今後の調査で辞書検索能力 (語義選択の正確さ,検索速度) との相関を検証し,尺度の精度をさらに高める必要があるだろう。さらに,本調査では基準関連妥当性,構成概念妥当性及び信頼性の検証は詳細に行ったものの,内容的妥当性の検証は不十分であった。今後は,内容的妥当性を向上させるべく,より詳細な質的分析を実施したい。その際は,今回は妥当性・信頼性が低い結果となった,B. 阻害要因下についても文言を修正し,改めて検証を行いたい。

本稿で作成した尺度によって,辞書指導の自己効力感への影響を可視化できるようになる。今後本尺度を活用して,自己効力感の向上に役立つ辞書指導法が提案できれば,自己調整学習の促進,動機付けの向上,ひいては自律的学習者の育成に寄与することが期待できる。

謝辞

本研究の遂行にあたり,前任校の教員,筆者のゼミ生及び英語科目受講生にご協力いただきました。また,査読委員の先生方からも大変親身かつ丁寧なご指摘を賜りました。この場を借りて御礼申し上げます。

引用文献
付録

英語学習に対する意識調査

  • 1) 学籍番号
  • 2) 名前 (漢字フルネームで)
  • 3) 学科 (商業学科,経営学科,会計学科)
  • 4) 学年 (1年生,2年生)
  • 5) 1週間に平均何分くらい英語を学習しますか (授業時間は除く)。「分」で回答してください。 

セクションA. 以下はあなたにどの程度当てはまりますか。

  • 1) 私は英語が得意だと思う。
  • 2) 私は英語の授業で教えられたことを理解することができると思う。
  • 3) 私は英語で良い成績をとることができると思う。
  • 4) 私は英語の授業で与えられた課題に適切に答えることができると思う。
  • 5) 私の英語の学力はすぐれていると思う。
  • 6) 私は英語の学習内容についてたくさんのことを知っていると思う。
  • 7) 私は英語の学習内容を習得できると思う。
  • 8) 私は英語の勉強方法を知っていると思う。

セクションB. 以下の状況下で,英文中で遭遇した意味がわからない単語の語義を調べられる自信がどの程度ありますか。

※実際の質問紙内では,以下「…」部分は「英文中で遭遇した意味がわからない単語の語義を調べられる自信がどの程度ありますか」と記載。

  • 1) 面倒くさいと感じるとき,…。
  • 2) 文字をたくさん読みたくないと感じるとき,…。
  • 3) 辞書が手元にないとき,…。
  • 4) 時間がないとき,…。
  • 5) 調べたい単語が辞書内ですぐに見つからないだろうと思うとき,…。
  • 6) 意味は思い出せなくても,以前見たことがある単語だと思うとき,…。
  • 7) その単語の意味はわからなくても,文を理解できる (意味を予測できる) と思うとき,…。
  • 8) 語義を調べてもすぐ忘れるだろうと思うとき,…。
  • 9) 語義を調べてもその単語を今後使うことはないだろうと思うとき,…。
  • 10) 辞書内に提示される語義が多すぎるだろうと思うとき,…。
  • 11) 辞書内の複数の語義の中から正しいものを選ぶのが難しいだろうと思うとき,…。
  • 12) 選んだ語義を当てはめても英文を理解できないだろうと思うとき,…。
  • 13) 当該英単語の文中での品詞がわからないとき,…。
  • 14) 辞書内に提示された用法などの詳細情報を理解できないだろうと思うとき,…。
  • 15) 辞書内に提示された例文を見ても着眼点がわからないだろうと思うとき,…。
  • 16) (自由記述) どんな時に英単語の語義を調べることをためらいますか。

セクションC. 以下のそれぞれの行動にどの程度自信がありますか。

※実際の質問紙内では,以下「…」部分は「自信はどの程度ありますか」と記載。

  • 1) 英文内において辞書で調べる必要がある単語を適切に判断することができる…。
  • 2) 英文内に意味のわからない単語があったら,ためらわずに辞書で検索することができる…。
  • 3) スペリングが類似している英単語のアルファベットの並びの違いに気づくことができる…。(quietとquiteなど)
  • 4) 紙の英和辞典内で調べたい英単語をすぐに見つけることができる (素早く紙の英和辞典を引くことができる) …。
  • 5) 辞書内に提示された英単語の用法 (単語の使い方) の説明や情報を正しく理解することができる…。
  • 6) 辞書内に提示された例文を正しく分析し,英単語の用法を理解することができる…。
  • 7) 英単語に対して辞書内で一番上に提示された語義だけでなく,下方の語義にも目を向けることができる…。
  • 8) 辞書検索の際,当該英単語を構成する要素 (接尾辞・接頭辞) を見分けることができる…。(接尾辞・接頭辞:例えば,uncomfortableの接頭辞un-は「反対」を,接尾辞-ableは「可能」をそれぞれ意味する,というように特定の意味を持った単語構成要素)
  • 9) 辞書内に提示された当該英単語を使うべき適切な場面に関する情報に気づくことができる…。
  • 10) 英単語に対して辞書内に提示された類義語との意味や用法の違いに関する情報に気づくことができる… (類義語:例えば,see, watch, lookのように意味が似通っている単語)。
  • 11) 英単語を辞書検索する際,当該の文脈に適切な品詞の語義を選ぶことができる…。
  • 12) 英単語を辞書検索する際,当該の文脈に適切な意味の語義を選ぶことができる…。
  • 13) 英単語を辞書検索する際,例文も見て適切な語義を選ぶことができる…。
  • 14) 英単語を辞書検索する際,用法 (単語の使い方) も見て適切な語義を選ぶことができる…。
  • 15) 英単語の語義を辞書で調べながら,その単語を含む文の意味を正しく理解できる…。
  • 16) 英単語の語義を辞書で調べながら,まとまりのある長さの英文の意味を正しく理解できる…。

 
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