JACET関東支部紀要
Online ISSN : 2436-1993
「話すこと」の技能向上につながる高校英語授業の在り方-高校英語授業に関する大学生対象の質問紙調査結果から-
杉田 由仁
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2022 年 9 巻 p. 5-25

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Abstract

The primary purpose of this research is to examine how to improve high school students’ speaking skills in English classes. A questionnaire about learning activities was developed and administered to 794 Japanese university students to examine their perceptions of factors which limited their ability to improve speaking skills in high school classes. The collected data was analyzed by using a decision tree. The results indicated that 1) the most influential limiting factor reported by all the students was reading activities, 2) instructional goals in English classes, listening and writing activities were also recognized as related factors, 3) grammar learning was the most influential factor as reported by freshmen who had studied in English-taught high school classes. Informed by Goh and Burns’s model (2012) of second language speaking competence, the research presents the tentative summary of effective English classes for improving high school students’ speaking skills.

1. はじめに

令和4 (2022) 年度入学生より年次進行で実施予定の『高等学校学習指導要領』 (文部科学省, 2018) においては,「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の4技能を総合的に活用した言語活動及び2つ以上の技能を組み合わせた統合的な言語活動を通して「情報や考えなどを的確に理解したり適切に表現したり伝えあったりするコミュニケーションを図る資質・能力」の育成が重視されている。前回の改訂 (平成21年3月) と同様に「授業は英語で行うことを基本とする」ことが明記され,生徒が英語に触れる機会を充実させ,授業を実際のコミュニケーション場面とすることが求められている。統合的な言語活動をより一層充実させるとともに「話すこと」「書くこと」による発信力育成を強化する内容が示され,特に「話すこと」に関しては [やり取り] と [発表] の2領域に分けて重点化された。

今回の改訂に至るまでに,平成25 (2013) 年度の入学生からは「英語の文法や語彙の知識を教える」ことを中心とした高校の英語授業から,「生徒が英語に触れ,英語を使いながら,思考・判断・表現力を高めるための言語活動」を中心にした授業への転換が強く打ち出された学習指導要領に基づく授業を受けてきた。しかし,「第2期教育振興基本計画」(平成25~29年度) に沿って実施された「平成29年度英語力調査結果 (高校3年生) 」によると,成果指標として設定された英語力 (CEFR A2レベル以上) を達成できている割合は「聞くこと」 (33.6%) 「話すこと」 (12.9%)「読むこと」 (33.5%) 「書くこと」 (19.7%) で,目標として設定されている「50%」には4技能すべて到達していない。中でも発信力の達成率は,平成27 (2015) 年度に実施された調査結果 (「話すこと」12.8%,「書くこと」19.5%) とほとんど変わっておらず,授業改善1の効果は認められない。むしろ,達成率が最も低い「話すこと」においては,無得点者の割合が14.9%から18.8%に増加しており,高校生の「話すこと」の能力不足はより深刻化している実態がある。発信力向上という成果になかなかつなげることのできない高校英語授業の課題解決にむけての授業改善は急務であり,強力に推し進める必要がある。

文部科学省は上記の英語力調査と合わせて,英語学習に対する意識等に関する質問紙調査 (以後,意識調査と呼ぶ) も実施しており,今後の学校での指導や生徒の学習状況の改善に向けて参考資料を提供している。その中で,特に「話すこと」については,「英語でスピーチやプレゼンテーションをしていた」と回答した生徒は36.9% (平成27年度は31.0%),「英語でディベイトやディスカッションをしていた」と回答した生徒は28.7% (平成27年度は24.0%) で,いずれも得点が高い方がこれらの言語活動をしていたと回答した生徒の割合が高い,という分析結果を報告している。しかし,英語を外国語として学ぶ日本の言語環境や日本語と英語との言語的距離などの条件を考慮すると,日本人英語学習者が「話すこと」の技能を習得することは決して容易ではない。まして「話すこと」において,CEFR A2レベル以上を達成できている生徒の割合が12.9%という話す能力の実態を考えたとき,上記の報告に基づいてスピーチやプレゼンテーション,ディベイトやディスカッションを高校英語授業に導入して実践すれば,生徒たちの話す能力が向上するとは考えにくい。

2020年度には,より高次の英語運用能力育成を目標として推し進められてきた「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画スケジュール」 (文部科学省, 2013) の完成年度を迎えた。しかし,前述の英語力調査結果からはむしろ,発信力向上という成果よりも「話すこと」の技能不足の深刻化という高校英語授業の課題が明らかになっている。そこで本研究では,実際に3年間の高校英語授業を受けてきた大学生英語学習者を対象として「高校時代の英語授業に関するアンケート」を実施し,英語授業における日常的な授業活動を調査して「話すこと」の技能不足に関連する要因を明らかにしたいと考えた。さらに,分析結果に基づいて,「話すこと」の技能向上という成果につながる高校英語授業の在り方について検討を行うことにした。

2. 「話すこと」の指導

2.1 技能不足の原因と指導改善の実態

これまでの日本の中学校や高校における「話すこと」の指導により成果が見られなかった原因について,岡 (1996) は「中・高レベルで学んだ文法事項が断片的な知識としてとどまるのみで,口頭発表という運用力に結びついて定着していない」 (p. 61) と述べている。また,金子 (2004) は,1) 授業における発話の機会不足,2) 話すことへの自信欠如,3) 誤りに対する意識過剰の3点を原因として指摘し,泉 (2016) は「日本のようなEFL の環境では,授業以外で日常的に,英語に接したり話したりする機会も少なく,知識と技能に隔たりがあることが多い」 (p. 8) と述べている。三者の見解を総合すると,英語によるインプットが少ない日本の言語環境において,「話すこと」に必要な言語知識の指導は行われてきたが,その知識を運用力に高めるための練習や活動が必ずしも十分ではなかった。また,その練習・活動も英語によるコミュニケーションよりもアウトプットの「正確さ」を重視する傾向にあり,話すことに対する意欲や自信を高める効果には乏しかった。これが今日までの日本の学校における「話すこと」の指導実態であり,「話すこと」の技能向上という成果を見るまでに至らなかった主因と考えられる。

このような「話すこと」の指導実態の改善に向けて,高校では平成21 (2009) 年の,中学校では平成29 (2017) 年の学習指導要領改訂において「授業は英語で行うことを基本とする」ことが原則として示された。つまりこれは,英語で授業を行うことにより,生徒が授業の中で英語に触れる機会を充実させ,英語によるインプット量を増大させることや授業全体を「実際のコミュニケーションの場面」とし,英語を使って考えや気持ちを伝え合う言語活動を行いアウトプットの機会を増やすことを目的としている。しかし,ベネッセ教育総合研究所が2015年に実施した「中高の英語指導に関する実態調査」によると,調査対象となった中学校教員1,801名,高校教員2,134名の内,授業で英語を半分以上使っている割合は,中学校6割,高校5割弱であった。またその使用場面も「生徒への指示」「褒め・励まし」「生徒とのQ&A」などが7割を超えており,英語に触れる機会の増加にはつながる可能性はあるが,まとまりのある英語を聞く活動等によるインプット量増大の効果は限定的であると言わざるを得ない。さらに,同調査によると中高ともに教員が受けたい研修の筆頭は「『話す力』の指導方法」であり,「話すこと」の技能向上という成果につながる指導内容・方法改善の手立てを持つ教員は限られているのが実情である。

2.2 指導効果に対する大学生学習者の意識

上述の「話すこと」の指導実態のもとで,実際に3年間の高校英語授業を受けてきた大学生英語学習者は,その指導効果として自分の「話すこと」の技能についてどのような意識を持っているのであろうか。平成27 (2015) 年4月に,首都圏の私立大学英文学科生48名を対象として実施した「高校時代の英語授業に関するアンケート」 (杉田, 2016) の結果においては,「話すこと」の技能不足を感じる大学生学習者の割合が非常に高かった。この調査 (以後,予備調査と呼ぶ) の対象となった2・3年次生 (平成25・26年度入学生) は,平成10・11年度版指導要領に基づく中・高6年間の英語教育を受けてきた学生たちであり,中学校時代には「聞くこと」「話すこと」に重点化された授業で,高校時代には「聞くこと」「話すこと」を多く取り入れた授業で英語を学ぶ機会が与えられてきた。しかし,「あなた自身の,現在の英語力について,どの技能が最も不足していると感じますか」という質問に対する回答は,37名 (77.1%) が「話すこと」という結果であった。これに「聞くこと」と回答した5名を加えると,実に全体の87.5%を占める学生たちが,中学校・高校時代には指導重点とされていた技能の不足を感じている実態が明らかになった。

同時期に実施された他の調査例として,古家・櫻井 (2014) は1,153人の大学1年生を対象としてアンケート調査を実施し,「得意な分野」「不得意な分野」「身につけたい分野」をそれぞれ1つずつ選択させた。その結果,得意な分野では「リーディング」が33%,「リスニング」が24%,不得意な分野では「リーディング」が7%であったのに対し,「リスニング」が23%,「スピーキング」が20%であった。また「身につけたい分野」に関しては「スピーキング」が60%で過半数を占める結果となった。この調査結果においても,「聞くこと」「話すこと」に対して苦手意識を持つ学生の割合が高く,特に「話すこと」の能力には自信がないため,大学における英語学習で身につけたい技能と考えている学生が多いという実態が浮き彫りになっている。

両調査の結果を見ても,これまでの高校3年間の英語授業を受けてきた大学生英語学習者は,「聞くこと」「話すこと」を重視した授業で英語を学んできたはずであるにも関わらず,自分の「話すこと」については苦手意識を持ち,技能不足を感じている学習者が多いことが明らかである。その原因を究明するために,前述の予備調査では「話すこと」に対して「最も不足している技能と思う」学生と「最も不足している技能とは思わない」学生それぞれの意識形成に関連する要因を決定木分析によって抽出した。決定木分析とは,近年マーケティングなどの分野で注目されている「データマイニング」という分析手法の1つである (野津田・高橋, 2011)。決定木は「膨大なデータからモデルを帰納的に構築し,樹木のように枝を分岐させて表現する方法」 (古田, 2007, p. 212) で,これを利用することにより,調査データから従属変数 (目的変数) とさまざまな独立変数 (説明変数) との関係性を意味のあるパターンとして抽出することができる。予備調査の分析を行った結果,目的変数として設定した「話すこと」の技能不足という意識形成を説明する変数は,高校時代の「リスニング」「ライティング」「文法」の授業内容・方法であることがわかった。

本研究では調査規模を拡大し,「話すこと」の技能不足に関連するさまざまな授業活動や授業内容・方法をより正確に捉え直し,「話すこと」の能力・技能向上につながる英語授業の在り方について検討したいと考えた。そこで,大学生英語学習者の「話すこと」の技能不足という意識形成に関連する要因を探索することを目的として,以下の調査を実施することにした。

3. 調査

3.1 目的

高等学校の教室における指導内容・方法の具体的改善に向けて,3年間の高校英語授業を受けてきた大学生英語学習者を対象として,1) 高校時代の日常的な授業活動を調査して「話すこと」の技能不足という意識形成に関連する要因を明らかにする,2) 分析結果に基づいて,「話すこと」の技能向上につながる高校英語授業の在り方を検討する。

3.2 方法

調査に際しては,決定木分析の精度を高めるために調査対象となる学生数の確保および属性の共通性に留意して調査協力校を選定した。首都圏の10大学に調査協力を依頼し,各大学に在籍する1年生302名および2年生以上492名の参加協力を得た。全794名は文系学部の学生で,内訳は文学部405名,外国語学部78名,教育学部311名であった。アンケートは平成28 (2016) 年4~5月の授業時に各大学で,個別記入式の質問紙を配付しその場で回答する集合調査形式によって行われた。質問紙への回答は,データ収集の客観性を確保するために,マークシートによる多肢選択方式で依頼した。実施時間は依頼・説明と回答を含めて15分程度であった。

3.3 内容と分析方法

本調査の質問紙を付録1に示す。質問1から質問16で構成されており,質問内容は「高校の英語授業全般に関する質問 (1~3)」「4技能および語彙・文法に関わる授業活動に関する質問 (4~15)」「現在の英語力に関する質問 (16)」である。授業内容・方法に関する調査項目 (質問4~15) に関しては,予備調査の回答状況を参考にして多肢選択法 (単一) に改訂し,データ収集の客観性・信頼性向上を図った。

調査データの分析方法として,まず高校の英語授業全般に関わる質問1~3および現在の英語力 (最も不足していると感じる技能) に関する質問16の回答については,度数を単純集計してグラフ化を行い回答傾向の特徴を探る。また,「授業は英語で行うことを基本とする」ことが明記された平成25 (2013) 年度版学習指導要領に基づく3年間の教育を受けてきた1年生と従前の学習指導要領による2年生以上の学生の回答状況についてχ2検定を試みる。

次に,決定木を用いて高校時代の英語授業における活動内容という多くの変数を同時に分析し,「最も不足している技能」の意識化に関係する変数間の関連をパターンとして抽出する。具体的には,調査の主目的である質問16「最も不足している技能」を目的変数として,4技能および語彙・文法に関わる授業活動に関する質問4~15を説明変数とする決定木分析を行う。ただし,質問5, 7, 9, 11, 13, 15 は4技能および語彙・文法に関わる「最も経験の多い活動内容」を回答者から引き出すための「ダミー設問2」であるため集計・分析の対象とせず,授業全般に関する質問の内,指導内容・方法の改善により,対応可能と考えられる質問2 (指導重点) および質問3 (英語使用) に関しては決定木分析の対象に加えることにした。

4. 結果

4.1 授業全般に関する回答結果

高校英語授業に対する「好き嫌い」に関する質問項目 (質問1) に対する回答結果は図1に示す通りである。「最初から好きだった」,つまり高校入学時から好きだったと回答した学生が794名の内384名 (48%) であった。「最初は好きだったが途中から嫌いになった」学生は86名 (11%),「最初は嫌いだったが途中から好きになった」学生は123名 (15%),「最初から嫌いだった」学生は84名 (11%),「好きでも嫌いでもなかった」学生は117名 (15%) という結果であった。

図1. 高校時代の英語「好き」「嫌い」。

表1 質問1の学年別回答状況 (N = 794)
観測度数 a b c d e p
1年生 153 31 46 30 42 302 0.89
2年生以上 231 55 77 54 75 492
384 86 123 84 117 794

注1. a: 最初から好きだった, b: 最初は好きだったが途中から嫌いになった, c: 最初は嫌いだったが途中から好きになった, d: 最初から嫌いだった, e: 好きでも嫌いでもなかった。

注2 . 「p値」はχ2検定の結果を表す。

質問1に対する回答状況を,平成25 (2013) 年度版学習指導要領に基づく3年間の教育を受けてきた1年生と従前の学習指導要領による2年生以上の学生に分けて示したものが表1である。回答の偏りは有意ではなく (χ2(4) = 1.12, p = 0.89, Cramer’s V = .04),学習指導要領の違いは「高校時代の英語の好き嫌い」に影響はないと考えられる。

次に,高校英語授業ではどのような学習内容に重点が置かれていたかを尋ねた結果を図2に示す。実践的コミュニケーション能力を構成する要素として位置づけられた「概要・要点の把握」にあたる大意把握を授業の重点と受け止めていた学生は78名 (10%) であった。これに対して「日本語訳」については161名 (20%) が授業の重点と回答した。指導要領に明記された「4領域の言語活動を総合的,有機的に関連させて行う指導」にあたる総合的学習を重点と感じていた学生は156名 (20%) であった。約半数の389名 (49%) の学生は文法・構文・語法といった「言語知識」の学習が高校英語の授業重点であったと回答した。

図2. 高校英語授業の重点。

質問2に対する回答状況を,1年生と2年生以上の学生に分けて示したものが表2である。回答の偏りは有意ではなく (χ2(4) = 8.62, p = .07, Cramer’s V = .10),学習指導要領の違いは「高校英語授業の指導重点」に対する学生の認識に影響ないと考えられる。

表2 質問2の学年別回答状況 (N = 794)
観測度数 a b c d e p
1年生 28 52 145 74 3 302 0.07
2年生以上 50 109 244 82 7 492
78 161 389 156 10 794

注. a: 大意把握, b: 日本語訳, c: 文法・構文・語法, d: 総合的学習, e: その他。

授業中の教師の英語使用については,図3に示される状況となった。「全部英語」で進められる授業を受けたと回答した学生が11名 (2%),「ほとんど英語」の授業を受けた学生は57名 (7%),「半分くらい英語」の授業を受けた学生は229名 (29%) であった。「ほとんど日本語」という回答が421名 (53%) で最も多く,「全部日本語」という回答も74名 (9%) の学生からあった。

図3. 授業における教師の英語使用状況。

表3 質問3の学年別回答状況 (N = 792, 無回答2)
観測度数 a b c d e p
1年生 4 31 110 140 15 300 0.00
2年生以上 7 26 119 281 59 492
11 57 229 421 74 792

注 a: 全部英語, b: ほとんど英語, c: 半分くらい英語, d: ほとんど日本語, e: 全部日本語。

質問3に対する回答状況を,1年生と2年生以上の学生に分けて示したものが表3である。人数の偏りは有意であった (χ2(4) = 30.27, p = .00, Cramer’s V = .20 効果量小) 。そこで,残差分析を行った結果,表4に見られるように,現行の学習指導要領に基づく3年間の教育を受けてきた1年生は「ほとんど英語」「半分くらい英語」で行われる授業を受けてきた学生が多く,「ほとんど日本語」「全部日本語」の学生が少ない。これに対して,従前の学習指導要領による2年生以上には「半分くらい英語」で行われる授業を受けてきた学生が少なく,「全部日本語」で行われる授業を受けてきた学生が多いことが確認された。

表4 表3の調整済み標準化残差
a b c d e
1年生 -0.091 2.291* 2.999** -1.998* -2.800**
2年生以上 0.077 -1.940 -2.539* 1.692 2.371*

* p < .05, ** p < .01

現在の英語力について「最も不足する技能」を回答する質問項目 (質問16) に対する結果は図4に示す通りである。「話すこと」と回答した学生が最も多く,794名の内458名 (58%) であった。次に多かったのが「書くこと」で134名 (17%),「聞くこと」は116名 (14%),「読むこと」が86名 (11%) という結果であった。

図4 現在の英語力で「最も不足する技能」。

質問16に対する回答状況を,1年生と2年生以上の学生に分けて示したものが表5である。回答の偏りは有意ではなく (χ2(3) = 2.72, p = 0.44, Cramer’s V = .06),異なる学習指導要領に基づく授業は「現在の英語力における不足技能」に影響はないと考えられる。

表5 質問16の学年別回答状況 (N = 794)
観測度数 聞くこと 話すこと 読むこと 書くこと p
1年生 43 173 28 58 302 0.44
2年生以上 73 285 58 76 492
116 458 86 134 794

4.2 4技能および語彙・文法の授業活動に関する決定木分析の結果

図4にあるように,今回の調査目的である「話すこと」を最も不足する技能と回答した学生は58%で,他技能に比べ突出して多かった。分析手法は予備調査を参考に,「話すこと」を「最も不足している技能と思う (=思う) 」と「最も不足している技能とは思わない (=思わない) 」という2値を目的変数とする決定木分析を行った。分析に際してはCRAN (http://cran.r-project.org/) よりフリーソフトR-2.7.0 for Windowsをダウンロードして活用した。また,現行の学習指導要領に基づく3年間の教育を受けてきた1年生は「ほとんど英語」「半分くらい英語」で行われる授業を受けてきた学生が有意に多いことが明らかになったので,1年生のみを対象とする決定木分析も行うことにした。

図5. 決定木分析の結果 (剪定後)。数値は「思う/思わない」の内訳を表す。

まず,全体の決定木分析の結果を,付録2の図に示す。楕円で囲まれている変数はノード (node) と呼ばれ,その中でも一番上に現れるノードを根 (root) と呼ぶ。決定木の分類は,この根から始まり,各ノードがとる値にしたがって,枝 (branch) に分かれ (分枝と呼ぶ),ターミナルノードとなる葉 (leaf) を最終的な識別領域として得る。こうして全サンプルを繰り返しサブグループに分割し,目的変数に大きな影響を与える説明変数が無くなると決定木はそれ以上生成されなくなる。図によると「話すこと」に対して「最も不足している技能と思う (=思う) 」と「最も不足している技能とは思わない (=思わない) 」を決定づけた根ノード は「リーディング」であることがわかる。付録2の図では,分枝が多く解釈が難しいので,複雑度 (Complexity: cp) を操作してモデルのチューニング (剪定3) を行った結果が,図5である。

剪定後のモデルにおいても,「話すこと」の技能不足について「思う」と「思わない」を決定づけた根ノード は「リーディング」であった。「(a) 教科書本文を日本語に訳す」「(d) 入試過去問による問題演習」や「(e) 段落や意味のまとまりごとに読む活動」に取り組んでいた学生560名の内337名 (60.2%) が「思う」と回答した。また,「リーディング」で「(b) 教科書本文の概要・要点を読み取る」「(c) 速読練習」に取り組んでいた学生たちの第2の分枝は「指導重点」であり,「(b) 日本語に訳す」や「(e) その他」の授業活動に取り組んでいた学生31名の内9名 (29.0%) が「思う」と回答した。「(a) 大意把握」「(c) 文法・構文・語法」「(d) 総合的学習」と回答した学生たちの第3の分枝は「リスニング」で,「(a) リスニング試験等の問題演習」「(e) シャドウイング」を行っていた学生78名の内47名 (60.3%) が「思う」と回答した。「(b) ディクテーション」「(c) 教科書本文をCDで聞く活動」「(d) ALTが話す英語の内容を聞く活動」と回答した学生たちの第4の分枝は「ライティング」で,「(c) 文法説明を聞き,その文法項目を含む英文を書く」「(d) 入試過去問による問題演習」を行っていた学生46名の内28名 (60.9%) が「思う」と回答した。これに対して「(a) 与えられた日本語を英語に訳す」「(b) まとまりのある文章を英語で書く」「(e) 意見文,エッセイ,スピーチ原稿の作成」に取り組んでいた79名については,「思う」と回答した学生は32名 (40.5%) であった。

図6. 1年生の決定木分析の結果 (初期値:cp = 0.01) 。数値は「思う/思わない」の内訳を表す。

現行の学習指導要領に基づき「ほとんど英語」「半分くらい英語」で行われる授業を受けてきた学生が有意に多い1年生のみを対象とする決定木分析において,「話すこと」の技能不足について「思う」と「思わない」を決定づけた根ノードは「文法」であった (図6)。「(a) 文法項目の説明と例文解説」「(b) 文法項目の説明とドリル練習」や「(e) 新出文法項目によるペア活動やアクティビティー」に取り組んでいた学生たちの第2の分枝は「リスニング」であり,「(a) リスニング試験等の問題演習」「(c) 教科書本文をCDで聞く活動」「(d) ALTが話す英語の内容を聞く活動」「(e) シャドウイング」に取り組んでいた学生235名の内146名 (62.1%) が「思う」と回答した。「(b) ディクテーション」と回答した学生たちの第3の分枝は「英語使用」で,「(b) ほとんど英語」「(c) 半分くらい英語」と回答した学生16名の内9名 (56.3%) が「思う」と回答した。これに対し,「(d) ほとんど日本語だった」「(e) 全部日本語だった」と回答した17名については「思う」と回答した学生は4名 (23.5%)であった。また,「文法」で「(c) 複数の例文から文法規則を見つけ出す活動」「(d) 新出文法項目を用いた自己表現活動」に取り組んでいた学生たちの第2の分枝は「スピーキング」であり,「(a) 教科書本文の音読練習」や「(d) 英語のスピーチやプレゼンテーション」「(e) ディベイトやディスカッション」に取り組んでいた学生18名の内10名 (55.6%) が「思う」と回答した。一方「(b) ペアになり英語を使って行う活動」「(c) 教科書本文の暗記」と回答した学生16名については,「思う」と回答した学生は3名 (18.8%) であった。

5. 考察

本調査研究では,大学生を対象として,高校時代の「英語授業全般」と「4技能および語彙・文法の授業活動」について回答を依頼し,データ収集を行った。質問16「最も不足している技能」を目的変数に設定し,授業全般に関する質問2 (指導重点) と質問3 (英語使用),4技能および語彙・文法に関わる授業活動に関する質問 (4,6,8,10,12,14) を説明変数として決定木分析を行った。以下では,分析結果に基づき,1) 高校時代の日常的な授業活動と「話すこと」の技能不足という意識形成に関連する要因を明らかにする,2) 分析結果に基づいて,「話すこと」の技能向上につながる高校英語授業の在り方を検討する。

5.1 「話すこと」の技能不足との関連要因

全体の調査データから,目的変数 (質問16) とさまざまな説明変数 (質問2,3,4,6,8,10, 12,14) との関係性について,意味のある5つのパターンが抽出された。その内,葉 (leaf) と呼ばれる最終的な識別領域において,「話すことを最も不足している技能と思う (=思う) 」という自己評価が「話すことを最も不足している技能とは思わない (=思わない) 」を上回るパターンは3つであった。目的変数に大きな影響を与える説明変数が無くなると決定木はそれ以上生成されなくなるので,「思う」「思わない」を最終的に分けるノード (node) は「話すこと」の技能不足という意識形成に関わりの深い要因と解釈することができる。それらは具体的に,下記1) ~ 3) となる。

  • 1) 「教科書を日本語に訳す」「入試過去問による問題演習」「段落や意味のまとまりごとに読む活動」によるリーディング活動を行う授業
  • 2)「リスニング試験等の問題演習」「シャドウイング」によるリスニング活動を行う授業
  • 3)「文法説明を聞き,その文法項目を含む英文を書く」「入試過去問による問題演習」によるライティング活動を行う授業

1年生のみを対象とする決定木分析においても,5つのパターンが抽出された。その内,「話すこと」の技能不足と関連する要因と考えられるのは,下記4) ~ 6) である。

  • 4) 「リスニング試験等の問題演習」「教科書本文をCDで聞く活動」「ALTが話す英語の内容を聞く活動」「シャドウイング」によるリスニング活動を行う授業
  • 5) 「ほとんど英語」「半分くらい英語」で行われる授業
  • 6) 「教科書本文の音読練習」や「英語のスピーチやプレゼンテーション」「ディベイトやディスカッション」によるスピーキング活動を行う授業

まず,調査結果から導出された6つの関連要因を見ると,「話すこと」の技能不足の意識形成にはスピーキングのみならず,さまざまな知識・技能の習得を目的とした授業活動の経験が関連することがわかる。これらの内1) および 3) のような,文法を教え,英語を日本語に訳すことによって文法知識を定着させたり,1文単位で文法的正確さを重視して書かせるなどの文法訳読式指導法では「話すこと」の技能向上は目的とされないので,当然の結果と言える。また,2),4),5) に関しては,いずれも英語の音声によるインプットであり,第2言語習得の観点からは「話すこと」の技能向上に貢献すると考えられる。しかし「リスニング試験等の問題演習」「教科書本文をCDで聞く活動」「ALTが話す英語の内容を聞く活動」では,聞いているだけでアウトプットにつながらない可能性があり,また「シャドウイング」についてはリスニング力養成のみならず,表現力を高める効果もある (新崎・高橋, 2004) と言われるが,今回の調査では,その効果を認識している学習者は少数派という結果になった。

さらに6) に関して,文部科学省の英語力調査と意識調査のクロス集計では,「話すこと」の得点が高い方が「英語でスピーチやプレゼンテーション,ディベイトやディスカッションをしていたと」回答した生徒の割合が高いという結果であった。しかし,今回の調査結果によるとこれらの言語活動に取り組む生徒の英語力や活動内容のレベルによっては,むしろ「話すこと = 最も不足する技能」という意識形成につながってしまう可能性があることが示唆された。現行の学習指導要領に基づき「ほとんど英語」「半分くらい英語」で行われる授業を受けてきた学生が有意に多い1年生のみを対象とする決定木分析から導出された関連要因であることを考慮すると,教室における「話すこと」の指導内容・方法を検討する際に十分に留意する必要がある。その検討資料を提供するために,大学生が高校の教室で受けてきたスピーチやプレゼンテーション,ディベイトやディスカッションによるスピーキング授業の具体的内容やレベル等についての追調査を行い「話すこと」の技能不足という意識形成との因果関係をより明らかにする研究が求められる。

5.2 「話すこと」の技能向上につながる高校英語授業の在り方

全体の調査データから抽出された5パターンの内,「話すこと」に対して「最も不足している技能とは思わない (=思わない) 」という自己評価が「最も不足している技能と思う (=思う) 」を上回るパターンは,下記1) ~ 2) であり,これらが「話すこと」の技能向上につながる高校英語授業の在り方を考える上で参考になると思われる。

  • 1) 「日本語に訳す」ことが指導重点ではあるが,「教科書本文の要点・概要などを読み取る」「速読練習」が授業活動の中心となるリーディングの授業
  • 2) 「教科書本文の要点・概要などを読み取る」「速読練習」のリーディング活動があり,「大意把握」「文法・構文・語法」「総合的学習」を指導重点として,「ディクテーション」「教科書本文をCDで聞く活動」「ALTが話す英語の内容を聞く」リスニング活動や「与えられた日本語を英語に訳す」「まとまりのある文章を英語で書く」「意見文,エッセイ,スピーチ原稿を作成する」ライティング活動がある授業

上記1) には,日本語訳を重視する授業であっても「速読練習」や「教科書本文の要点・概要などを読み取る」トップ・ダウン処理 (top-down processing) を伴う包括的な読解活動 (Hedge, 2014; Nuttall, 2005) がリーディング活動の中心となる授業は,「話すこと」の技能不足という意識形成にはつながりにくいことが示唆されている。ただし,「教科書本文の要点・概要などを読み取る」活動を行ってきた学生の内,日本語訳を指導重点とはしない「その他」の授業を受けてきた学生6名は全員が「思わない」と回答しているのに対し,日本語訳を指導重点とする授業を受けてきた17名については8名が「思う」と回答している。「その他」の重点を特定することはできないが,英語力調査と意識調査のクロス集計によると「聞いたり読んだりしたことについて,生徒同士で英語で話し合ったり意見交換をしていた」と回答した生徒の方が「話すこと」の得点が高い。この結果を参考にすると「速読練習」や「教科書本文の要点・概要などを読み取る」活動と読み取った内容について英語でアウトプットする活動を組み合わせるような統合的指導を重点とする授業は「話すこと」の技能向上につながる授業の在り方の1つになるのではないかと考えられる。

また2) には,予備調査の結果における「1) リスニングによる十分なインプットがあり,ディクテーションやシャドウイングのような文字や音声によるアウトプットを伴う活動によりインテイクを促す授業」および「2) 言語形式の練習のためだけではなく,自分の意見や考えなどをライティングにより表現する言語活動がある授業」とのオーバーラップが認められる。具体的な授業展開の1つとして,「教科書本文の要点・概要などを読み取る」「速読練習」のリーディング活動により「大意把握」を行ってから「教科書本文をCDで聞く活動」「ALTが話す英語の内容を聞く」リスニング活動を行い,教科書の内容に対する「まとまりのある文章を英語で書く」「意見文,エッセイ,スピーチ原稿を作成する」ライティング活動を行うリーディング中心の技能統合型の授業展開 (図7) が考えられる4

図7. リーディング中心の技能統合型授業展開。

もう1つは,図8のようにプレ・リーディング活動として「教科書本文をCDで聞く活動」「ALTが話す英語の内容を聞く」活動を行い,「教科書本文の要点・概要などを読み取る」リーディング活動により「大意把握」を行い,ポスト・リーディング活動として本文中の「文法・構文・語法」の解説に基づいて「与えられた日本語を英語に訳す」ライティング活動に取り組む3段階のリーディング活動による授業展開 (例えば Wallace, 1992) が考えられる。

図8. 3段階リーディング活動による授業展開。

「ほとんど英語」「半分くらい英語」で行われる授業を受けてきた学生が有意に多い1年生の調査データからは,「話すこと」の技能向上につながる文法指導の内容・方法を考える手がかりが得られた。下記1) および 2) が参考になると思われる。

  • 1) 教師は「ほとんど日本語」「全部日本語」を使用するが,文法に関わる授業活動として「文法項目の説明と例文解説」「文法項目の説明とドリル練習」「新出文法項目によるペア活動やアクティビティー」,リスニング活動として「ディクテーション」を行う授業
  • 2) 文法に関わる授業活動として「複数の例文から文法規則を見つけ出す活動」や「新出文法項目を用いた自己表現活動」を行い,「ペアになり英語を使って行う活動」「教科書本文の暗記」をスピーキング活動として行う授業

1) には,「文法項目の説明と例文解説」「文法項目の説明とドリル練習」「新出文法項目によるペア活動やアクティビティー」などによる文法指導に加えて,リスニング活動として「ディクテーション」を行う授業は「話すこと」の技能不足という意識形成にはつながりにくいことが示唆されている。これに対して「リスニング試験等の問題演習」「教科書本文をCDで聞く活動」「ALTが話す英語の内容を聞く活動」を行う授業は,62.1%の学生に「話すこと」の技能不足を意識化させる結果となっている。ディクテーションは聞いているだけでアウトプットにつながらないリスニング活動とは異なり,ライティングも動員して行われる総合活動 (Brown, 2007) であることが関係すると考えられないこともないが,この結果のみからディクテーションと意識形成との関連を解明することは難しい。文法項目の指導に,アウトプットを伴うリスニング活動としてディクテーションを組み合わせて行う授業が「話すこと」の技能不足に対する意識の変容や技能そのものの向上につながるか,今後の実践研究による検証が必要である。

また,教師の英語使用に関しては,「ほとんど英語」「半分くらい英語」によって行われる英語授業を受けてきた学生は16名の内9名 (56.3%) が話すことを「最も不足する技能」と回答したのに対し,「ほとんど日本語」「全部日本語」による授業を受けてきた学生は17名の内4名 (23.5%) であった。この結果については「授業は英語で行うことを基本とする」という原則が,教師の英語使用による英語のインプット量増加や生徒が授業の中で英語を使用する機会の拡充に十分に活かされない状況では,むしろ日本語による解説や指示による方が生徒には取り組みやすい授業になる可能性があると解釈するのが妥当であろう。

2) には,「スピーチやプレゼンテーション」「ディベイトやディスカッション」による高度なスピーキング活動よりも,複数の例文から文法規則を見つけ出す「帰納的文法指導」や自己表現などのコミュニケーションを支える文法指導を行い,「ペア活動」や「教科書本文の暗記」をスピーキング活動の中心とする授業の方が「話すこと」の技能不足という意識形成にはつながりにくいことが示唆されている。今後の授業改善に向けては,予備調査の結果における「3) 目標となる文法項目について理解するだけではなく,それを活用して習熟するための言語活動がある授業」をより具体化し,「文法項目の説明と例文解説」「文法項目の説明とドリル練習」を行った後で「新出文法項目によるペア活動やアクティビティー」「ディクテーション」によるリスニング活動を行うことが効果的な手立ての1つになりそうである。また,複数の例文から文法規則を見つけ出す「帰納的文法指導」や自己表現などのコミュニケーションを支える文法指導が行われる場合には,「スピーチやプレゼンテーション」「ディベイトやディスカッション」による高度な言語活動よりはむしろ「ペア活動」や「教科書本文の暗記」等によりインテイクを促す授業展開の方が日本人高校生英語学習者の実態には適しているのではないかと推察される。

Goh and Burns (2012) は,第2言語によるスピーキング能力 (Second language speaking competence) は,発音を始めとする核となる技能 (Core speaking skills) に加え,文法・語彙や音韻,談話に関する知識 (Knowledge of language and discourse) およびやり取り等に関わるコミュニケーション方略 (Communication strategies) によって構成されるというモデルを提案している。このモデルは,「話すことに必要な言語知識の指導は行われてきたが,その知識を運用力に高めるための練習や活動が必ずしも十分ではなく,話すことに対する意欲や自信を高める効果には乏しかった」と言われる,これまでの日本の教室における指導実態を補完し,「話すこと」の技能向上という成果につながる高校英語授業の在り方を検討する上で非常に参考になる。そこで,今回の分析結果をこのモデルに適合させ,「話すこと」の技能向上につながると考えられる高校英語授業の在り方を総括して,今後の指導改善に向けての検討材料としたい。

  • 1) リーディングやリスニングによる十分なインプットがあり,「ディクテーション」「ペア活動」「教科書本文の暗記」などのアウトプットを伴う活動によりインテイクを促して「話すこと」の核となる技能を高める授業
  • 2) 言語形式の練習のためだけではなく,自分の意見や考えなどをライティングにより表現する言語活動により「話すこと」に必要な文法・語彙や音韻,談話に関する知識を身につける授業
  • 3) 目標となる文法項目について理解するだけではなく,それを活用して習熟するための言語活動により「話すこと」に関わるコミュニケーション方略を身につける授業

6. 結論

日本人大学生学習者が,高校時代の英語授業で実際に経験した授業活動を調査し,その結果を分析して,「話すこと」の技能不足という意識形成に関連する要因を明らかにすることを試みた。また,分析結果に基づいて「話すこと」の技能向上という成果につながる高校英語授業の在り方について検討を行った。全体の分析結果からは,リーディング中心の技能統合型の授業展開の有効性が,また「ほとんど英語」「半分くらい英語」で行われる授業を受けてきた学生が有意に多い1年生の分析結果からは,文法指導の内容をリスニング・スピーキング活動と組み合わせて行う指導方法の有効性がそれぞれ示唆された。なお,学習指導要領に示された「授業は英語で行うことを基本とする」という原則に関しては,教師の英語使用による英語のインプット量増加や生徒が授業の中で英語を使用する機会の拡充等に活かされていないことが示唆され,授業における教師の英語使用の目的と方法については今後,引き続き検討していく必要性があることが確認された。

最後に,本研究の限界と課題について述べる。本研究では,「話すこと」の技能向上という成果につながる高校英語授業の在り方を検討したが,これは決定木分析の結果から探索的に見出された有意味な情報であり,学習者の実感であると断言することはできない。「話すこと」が「最も不足している技能とは思わない」という学習者の自己評価を説明する,さまざまな変数の関係性として抽出されたパターンからの推定によるものである。したがって,研究の総括として提示した「話すこと」の技能向上につながる英語授業の在り方は,あくまでも高等学校の教室における「話すこと」の指導改善を考える材料に留まるが,改善への足掛かりとして活かすことは可能であろう。学習者が「話すこと」に対する意欲や自信を高め,実際に「話すこと」の技能向上という成果が見られる授業となり得るか,より実証的な研究を進めていくことが今後の課題となる。

謝辞

本調査の実施においては,首都圏10大学の先生方,及び学生から多大なご協力をいただきました。また,2名の査読者からは,貴重なコメントをいただきました。この場を借りて,深くお礼を申し上げます。

1. 「スピーチやプレゼンテーションを行っている」と回答した教員が4.5%,「ディベイトやディスカッションを行っている」と回答した教員が2.4%,「聞いたり読んだりしたことに基づき,情報や考えなどについて話し合ったり意見の交換をしたりする活動」を行っている教員が8.0%,「聞いたり読んだりしたことに基づき,情報や考えなどについて書く活動」行っている教員が2.7%,それぞれ前回 (平成27年度) 調査より増加している。

2. 本調査では授業中における「最も経験の多い活動内容」を,調査テーマとしているが,あえて「2番目に経験の多い活動」というダミー設問を設けることにより,調査テーマが明らかになることによる回答バイアスを軽減した。

3. 複雑度 (Complexity: cp) の値によって決定木の分岐をチューニングする手続きを指す。rpart関数のデフォルトではcp = 0.01に設定されている。cpの設定値に決まりはないが,cpを小さくして分岐を増やした場合には,解釈が難しくなる。

4. 本授業展開には「話すこと」の言語活動が含まれていないが,【ライティング】で作成した原稿に基づき,授業内あるいは次時に発表活動を設定することが望まれる。

引用文献
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  • 新崎隆子・高橋百合子. (2004). 眠った英語を呼び覚ます―DLS英語学習法のすすめ. 東京:はまの出版.
  • 杉田由仁. (2016). 『使える英語』が身につく英語授業のイメージ―高校英語授業に関する予備調査結果から―. JACET 関東支部紀要, 第3号, 34–45.
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  • 文部科学省. (2010). 高等学校学習指導要領 (平成22年5月) 解説 外国語編・英語編. 開隆堂
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  • Goh, C. C. M., & Burns, A. (2012). Teaching speaking: A holistic approach. New York: Cambridge University Press.
  • Hedge, T. (2014). Teaching and learning in the language classroom. Oxford: Oxford University Press.
  • Nuttall, C. (2005). Teaching reading skills in a foreign language (3rd ed.). Oxford: Macmillan Education.
  • Wallace, C. (1992). Reading. Oxford University Press.
付録

付録1  高校時代の英語授業に関するアンケート

高等学校における英語授業改善のための調査研究資料にさせていただきますので,あなたが高校時代に受けた英語授業に関して,下記の質問に答えてください。この授業の成績評価等には無関係ですので,自分の経験に基づいて回答してください。

付録2  決定木分析の結果 (初期値:cp = 0.01)
 
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