2024 Volume 40 Issue 2 Pages 107-
環境にやさしく,健康と余暇の充実をもたらす交通手段として,自転車活用の取り組みが進んでいる.特に,地域資源を活用する体験型観光としてサイクルツーリズムが関心を集め,自転車による地域活性化の取り組みが各地で見られる.一方で,多様な課題も見えてきている.
自転車に対しては,我が国では安全,駐輪などの問題への“対策”が長らく施策の中心となっていた.諸外国で環境・経済・健康への自転車活用の戦略的計画が策定されている中,我が国でも2016年に自転車を“活用”する基本戦略を示した自転車活用推進法が成立し,国土交通省に自転車活用推進本部設置,国の自転車活用推進計画2019年策定,2021年2次計画の発出となる.この計画では,以下の4つの目標を掲げ,22の措置が実行されている.
1 自転車交通の役割拡大による良好な都市環境の形成
2 サイクルスポーツの振興等による活力ある健康長寿社会の実現
3 サイクルツーリズムの推進による観光立国の実現
4 自転車事故のない安全で安心な社会の実現
国の計画に併せて,地方版の自転車活用推進計画が47都道府県206市町村で策定されており,有志首長の呼びかけで始まった「自転車を活用したまちづくりを推奨する市町村長の会」には414市町が加入している.市町村の会には自転車観光などで地域再生を目指す地方部の参加が目立っている.サイクリストは既存の観光コンテンツとは異なる志向をもっていることや,インバウンド観光の体験型コンテンツとしても期待されるなど,従来にない“新たな観光資源”となる可能性が,着目が集まる一つの理由だといえる.
国では「日本を代表し,世界に誇りうるサイクリングルート」としてナショナルサイクルルート(NCR)として,「しまなみ海道」「つくば霞ケ浦りんりんロード」「ビワイチ」「太平洋自転車道」「トカブチ400」「富山湾岸」を指定している.「しまなみ海道」では,レンタサイクル利用者の1/4が海外客となり,移住者がサイクリスト向けの宿やスモールビジネスを島嶼部などで立ち上げるなど,地域へのインパクトも現れつつある.NCR指定を目指す地方もみられ,福井県の若狭湾サイクリングルート,鳥取県うみなみロードなどで官民を挙げた取り組みが見られる.
一方で,課題も見えてきている.多くの地域再生や環境共生活動に共通することであるが,基本的な課題は“官民”の連携のあり方である.NCRの取り組みでみると,国の指定基準に沿った道路インフラ整備と併せて,運輸・観光業界などと協力した受け入れ環境整備,広報などの需要創出など,公共と民間が役割をもって協働する取り組みが求められる.しかし,取り組みが多肢で広域にわたることが多く,主導する組織のありかたは手探りの状況である.また,本来,“自転車観光事業”の民間事業としての持続的成長が求められるが,もともと需要の少ない地域で新たなコンテンツ育成を進めるという取り組みが必須となるが,これに対する官の役割,支援の在り方も手探り状態と言える.多様な地域の経験を多様な関係者で共有して,WinWinとなる官民連携を積み重ねることが,環境共生の実践に肝要なことと感じる.