Journal of Human and Environmental Symbiosis
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2024 Volume 40 Issue 2 Pages 184-189

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1.はじめに

 愛知県の取組内容を中心に,農政の立場からの取組についてお話をさせていただきたいと思います.

 私どもの,この「食育消費流通課」は,長いのですが,食育と農水産物の消費流通を担当しております.簡単に言いますと,農作物を栽培する以外を担当する課でございまして,今回の地域の食文化の継承を担当しております.

2.食育基本法

 まず初めに,なぜ食文化の継承を農政が,つまり,国や私ども県がやっているのかということです.平成17年6月に食育基本法が成立しております.その第24条に,「食文化の継承のための活動への支援等」と規定されておりまして,さらに国や地方公共団体,つまり,私どもの県のことですが,「食文化の継承を推進するための必要なことをしなさい」ということが規定されております.やはりこのことが,私どもが担ううえで,一番の大きな理由となっております.

 ちょっと話は変わるのですが,この法律ができました平成17年,2005年がどのような年だったかと言いますと,ちょうど愛知万博が開催されております.皆さんもご記憶があるのではないでしょうか.この年は,バブル崩壊後の東証株価が最高を記録するなど,景気が上向いた時期となり,活気や開発が戻った一方,2000年代初頭からの核家族化や外食産業の巨大化,ファーストフードの増加などによりまして,その結果,栄養バランスの偏りや脂質の取りすぎが問題視されるようになりました.また,そうした風潮により,地域の伝統的な食文化がちょっと軽んぜられる状況など,食をめぐる状況が悪化したことが,この食育基本法ができた背景と聞いております.

 法律で決められたことを実施するには,この法律の趣旨を踏まえた具体的な行動計画が作って行われるのが一般的でございます.食育基本法につきましても,このパターンでございまして,国が,第1次・第2次などといった計画を作成し,具体的な対応を行っております.

 ちなみに,皆さんご存じだとは思いますが,「食育とは何か」ということを,今,こちらの下の方に記載しております.「知育,徳育,体育の基礎」であって,「『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得」することとされております.本当に,人が生きるうえでの食に関することすべてでございますので,非常に幅広い概念となっております.

 こうした幅広い食育推進の中に食文化の継承が位置づけられてきたのですが,基本法ができた当時は,「失われる危機にある」ということだったのですが,第3次に至るまでに,「失われつつある」とされ,それまで取り組んできたのですが,十分な効果が得られていない状況が続いてきました.その中で,先ほどの話もありましたが,中段にございますように,平成25年に和食がユネスコの無形文化財に登録されております.これを契機に,第3次の計画が策定されるときに重点課題に位置づけられまして,より積極的に推進することとされております.現在でも有効な第4次についても同様でございます.

 建て付けといたしまして,なぜ行政が食文化の継承を進めるのかという根拠についてお話をさせていただきましたが,ここで,食文化の継承の必要性には,一体どのような価値があるのか,何のために進めるのかについて,若干,お話をさせていただきます.

 この資料は,文部科学省のワーキンググループの報告書より引用しております.本文には,本当に文化的なものや歴史的なものも含めて,非常に多くの価値観・効果が示されておりますが,私どもは農業振興の部局でございます.こうした部局といたしましては,この太字の下線で今,引っ張っているところですが,「地域に根付いた食習俗・技術を理解することは,地域の文化への関心を高めるなど地域へのアイデンティティを育てるきっかけになる」と記載されています.私どもとしては,この部分が非常に重要と考えております.こういうことが,農山村での地域づくり,または,まちづくりへの関心につながりまして,ひいては地域の食文化に密接に関係する農林水産業への理解につながるという考えが一番にあると考えております.

3.愛知県の取組

 ここからは,私ども愛知県の位置づけと取組についてちょっとお話をさせていただきます.私どもの県でも,食文化継承の取組に当たりましては,法律の中に,県も具体的な計画を作って進めなさいと規定されております.今,資料が同じ白でちょっと見にくいのですが,「あいち食育いきいきプラン」を作っております.現在は第4次の計画でございまして,国と同様に,第3次から,伝統料理などの食文化の継承につきまして取組の重点化をさせていただいています.

 一番下にありますのが,これが掲載されておりますウェブページのアドレスでございます.長いアドレスになって大変申し訳ございません.「食育ネットあいち」で検索いただければヒットもしますので,私どもがどのように考え,どのように進めているかが記載されておりますので,関心のある方は,ぜひごらんいただければ幸いでございます.

 では,ここからは,愛知県の計画における具体的な取組についてお話をさせていただきます.第1次から第2次の食育推進計画では,まず,この食育の活動を自主的に行っていただく,県登録の食育推進ボランティアといったボランティア制度がございまして,このようなボランティアを育成し,あわせて県内の伝統料理の事例を収集いたしまして,そして,先ほどの食育推進ボランティアが,この収集した伝統料理を題材に料理教室を開催し,広く周知・啓発をしております.また,集めたデータにつきましては,レシピ等をインターネット等で広く情報提供するなどといった取組を続けてきております.第3次からは,国の重点化に合わせまして,これまでの取組に加え,「あいちの郷土レシピ50選」を作り,関係機関に配布しております.

 細かくて見にくくて申し訳ないのですが,これが例でございます.このレシピは,単に写真と食材のデータを載せるだけではなく,専門家の先生にも手伝っていただきながら,料理にまつわる歴史,いわれ,伝承活動も取りまとめたもので,ちょっと手前味噌になりますが,作った当時は非常に評判がよく,「追加で欲しい」との要望を受けております.皆様の年代は幅広いとは思うのですが,やはり身近なものから,「そういえば,ちょっと最近,見ていないな」「食べていないな」といった料理が掲載されております.こちらも,この前の資料になるのですが,「あいちの郷土料理レシピ50選」という形でウェブページのアドレスを掲載しております.こちらも1度,ぜひごらんいただければと思っております.

 続きでございます.次に,より積極的に食文化の継承を働きかけるために,シンポジウムを2017年度から開催してきております.それから,ちょうどこちらの写真でございますが,昨年度,私どもの県で食育の全国大会を開催させていただきました.Sky Expoで開催させていただいて,会期中に2万3,000人ほどの方にご来場いただきました.そこで,先ほどの郷土料理レシピにも入ってございますが,「おにまんじゅう」や,「五菜三根のみそ汁」を会場でふるまって,愛知の伝統的な食文化をPRさせていただきました.

 この,「五菜三根のみそ汁」は,徳川家康が好んで食べたとされておりまして,発酵食品のみそや具だくさんの野菜が,家康が長生きをした理由とも言われているそうでございます.ちょうど大河ドラマの,「どうする家康」の放送を控えたタイミングでもございまして好評を博したと聞いてございます.こうした取組によりまして,より多くの県民の方に地域の食文化やそのよさを継続して,普及・啓発しているところでございます.

 こちらには,過去のシンポジウムの開催テーマを載せております.今日,特にお願いしたいことは,右側の部分でございます.今日,お手元にも,このチラシを付けさせていただきましたが,今回は10月20日に名古屋市の吹上ホールで,「~次世代へ繋げる~愛知の伝統野菜と食文化」をテーマに,「あいちの伝統野菜から学ぶ」「伝えたい,あいちの食文化」を演題に講演を行うこととしております.まだ席にだいぶ余裕がございますので,今日こちらに来られて興味をお持ちになった方がいらっしゃれば,ぜひともご参加いただければ幸いと考えております.よろしくお願いします.

4.愛知県の農業生産と農林水産の役割

 ここからは,ちょっと視点を変えまして,「食文化の継承・継続を支援するために必要な取組」ということで話をさせていただきます.

 仏教用語に,「身土不二」という言葉がございます.これは,人間の体と人間が暮らす土地は一体であって切っても切れない関係にあるという意味で,現在では,食の思想として,「地元の旬の食品や伝統食が体によい」といった意味で使われております.ただし,農業の技術や流通が発展した現代では,若干,意味合いが異なるとは思いますが,やはり地域の食文化と農業には密接な関係があると考えております.

そこでここからは,愛知県の農業について,ちょっとPRも兼ねたお話をさせていただきたいと思います.

 愛知県は,トヨタ自動車を代表とする日本一の工業県であることは結構よく知られているのですが,残念ながら,実は農業が全国有数であることはあまり知られておりません.こちらの表は,見ていただけば分かるのですが,農業産出額の全国順位の推移を整理したものでございます.農業産出額は生産額ととらえていただければ結構です.この表にはまだ反映していないのですが,2021年の最新のデータにつきましても8位で,2018年から4年連続の8位となっており,中部地域では常に最大で,全国の10位以内をキープしております.

 こちらは,愛知県のどの地域で何が作られているかを示した表でございます.見ていただくと分かるとおり,私どもの県の農業の特徴として,山から平地,都市近郊など,本当に条件の違う様々な地域で農業が行われております.また,野菜,花,米,麦,大豆,果物,畜産も牛・豚・鶏など,非常に多くの品目が栽培されております.全国順位も,野菜は5位,花はもう五十数年,全国1位となっておりますし,乳用牛や卵も全国7位で,品目も規模もそろった産地となっております.

 こちらは,農林水産業が持つ役割を整理したものでございます.単に農林水産物を生産するだけではなく,今,いろいろな効果が書いてございますが,例を挙げますと,田んぼの貯水機能で,水をためることで洪水を防ぐ機能があるといわれておりますし,やはり暑さを和らげたりする機能を持っております.こういうものを,私どもは,作るだけではない様々な機能を持つということで,「多面的機能」と名付けております.

 ちょっとごらんいただきたいところは,赤丸の部分でございます.この「ケ」ですが,やはり文化を伝承する機能が位置づけられております.私どもといたしましては,この文化に,地域の伝統的な食文化が含まれており,本県の豊かな地域の食文化は,農林水産業の持つ機能に支えられていると理解しております.このことが,県内における地域の食文化の継承は本県農林水産業の維持・発展と密接に関係があると考えているゆえんでございます.

5.農業水産業を応援する取組

食料は,私どもの生活に欠かせない,非常に大切なものですが,単に経済性だけで見ますと,やはり商工業の方が効率的でございまして,優先順位が低く見られがちでございます.このために私どもの県では,農林水産業が持つ様々な機能や,県産農林水産物のおいしさといった価値を知っていただき,愛知県農林水産業と,農家の方も含め,それを担う関係者の応援団になっていただき,県産の農林水産物を食べていただくことで応援してほしいという取組を,「いいともあいち運動」という形で1998年から始めておりまして,今年で25年目になります.

 細かくて申し訳ないのですが,これは,この運動のイメージでございます.愛知の生産者を愛知の消費者とつなぐために,シンボルマーク,ネットワーク,県産のものを積極的に扱っていただく推進店,ホームページやフェイスブック,サポーター制度など,様々な手法・手段でつなぐ取組を行ってきております.

 こちらがシンボルマークで,私どもは,「あいまる」と呼んでおります.皆さんの中で,もしごらんいただいた方がいらっしゃれば,本当に幸いなのですが,なかなか認知度が上がりませんので,今,県を挙げてPRをしているところでございます.ぐっと力を入れています右腕が,愛知県の知多半島です.左腕が渥美半島で,帽子をかぶっているところは元気な農家の方をイメージしたと聞いております.現在,イオンさんやマックスバリューさんなど,協力いただいているスーパーの地産地消コーナーで,このマークを表示して,PRをしていただいております.また,少し前になりますが,7月の下旬に,愛知県内のセブンイレブン全店舗で,県産の農産物を使ったオリジナル商品を開発・販売していただきまして,この,「いいともあいち」の応援フェアを開催していただき,店舗や商品にこちらのマークを飾っていただきました.こうした形で流通関係者の方にもご協力を得ながら進めているところでございます.皆様も,このマークのついた商品や売り場をごらんになられましたら,ぜひともお手に取っていただいて購入いただいて,地域の食文化を育む本県の農林水産業の応援団になっていただきたいと思っております.

 最後になりますが,ちょっとPRをさせていただきます.ちょうど今日から,「いいともあいち」の地産地消デジタルスタンプラリーを開催させていただきます.地産地消の趣旨に賛同いただいた県内の430店舗,これには飲食店,スーパー,あと直売所も入っておりますが,そちらのお店でデジタルスタンプを2個集めていただいてご応募いただくと,私どもが自信を持ってお薦めしております県産農林水産物のセットをプレゼントさせていただきます.ぜひご参加いただければと思います.

 もう一つは,先ほども言いましたが,「食育いきいきシンポジウム」でございます.まだ席に余白がございますので,ぜひご参加をいただきたいと思っております.ちょうど今,お手元にチラシも配らせていただきました.ぜひ皆様だけでなくお知り合いの方にもお教えいただけると幸いでございます.

 私からは以上でございます.ご清聴,ありがとうございました.

 
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