2024 Volume 40 Issue 2 Pages 198-205
1.はじめに
皆様,こんにちは.ただいまご紹介にあずかりました,株式会社扶桑守口食品の代表を務めております曾我と申します.よろしくお願いいたします.
弊社は守口漬の会社ですが,皆さん,守口漬と聞きますと,「ああ,あの長いやつね」「ぐるぐる回っているやつね」と,多分この中の半分くらいの方はご存じではないでしょうか.年配の方ですね.半分くらいの人は若いので,「何やそれ.聞いたことないな」という感じかもしれません.
本社の工房は,愛知県の扶桑町にあります.もう本当に岐阜県との県境になります.犬山市の左隣です.そこが,守口大根が生産される場所になるのですが,そこに唯一ある製造工場になります.
2.守口大根
守口漬の説明に入る前に,まず,守口大根についてちょっとお話しさせていただこうかと思っております.守口大根は,扶桑町で約70%,あと木曽川の中州になります岐阜県の川島町で30%が収穫されていきます.100%すべてが漬物業者との契約になりますので,市場に出回ることはないと思います.ですから皆さんは,守口大根自体は見たことがないのではないかと思います.
見ていただくように,直径が大体2センチから3センチ,長さは大体1メートルから1メートル10センチくらいにそろえてあります.
これはギネス記録に以前登録されたのですが,ギネス記録は191.7センチです.まさに世界最長の大根になります.なぜこれほど細長い大根が取れるのかでしょうか.
産地の扶桑町は,先ほど,「岐阜県との県境」と言ったのですが,皆さんご存じだと思うのですが,その県境には木曽川が流れております.
昔は暴れ川でしたので上流からの堆積土がありまして,砂が約60パーセント,土が40パーセントという,非常に粒子の細かい土でできているのです.
ですから,根菜類に非常に適しています.これを見ていただくと分かるのです.これはスーパーマシーン,「トレンチャー」と言うのですが,象の鼻のようなこれで1mくらい深く耕すのです.これが長い守口大根を作るポイントにはなります.
3.守口漬
それでは,守口漬の話に参りましょう.
守口大根の種まきは9月半ばに行われます.
そして,3か月の時を経て,12月半ばから1月半ばに収穫がされていきます.普通の大根は約2か月ですが,守口大根は,もう1か月多い3か月かかります.長さや太さなど厳しい規格を通過した大根は,すぐにその日のうちに塩漬にされていきます.
1回目の塩漬です.この工程は,まず守口大根に含まれる水とアクを抜く工程になります.
そして,3か月後,この1回目の塩漬にされた守口大根を取り出して,さらにまた塩漬をするのです.これで飽和状態の塩分24パーセントまで持っていきます.これで長期保存ができるようになるのですが,なぜそのようにしなければいけないかと言いますと,年に1回しか守口大根が取れないからです.
そして,その塩漬の飽和状態で,6か月以上寝かせていきます.その後,約1年から1年半後に売る守口漬の量を加味しまして,そこから必要な数,ロットだけ取り出しまして粕漬をしていきます.1回目の漬け込みは,1回使った酒粕を使っていくのです.先人の方々は,使った酒粕は,まだ何度も使えるものですから,それを再利用,再利用という形で,最後の最後まで使っていきます.昔から,もうこの守口漬はSDGsができていたのだと感じます.
そして,その1回目の味付けが終わり,最低4か月の熟成後,蔵から1回目の収穫された守口漬を取り出して,また新しい粕で漬け替えていきます.2回目の味付けになるのですが,粕床には熟成された酒粕と砂糖を用います.また漬け込んだ後は,再度,蔵で寝かせていきます.
さらに,またまた4か月後の熟成後,蔵からその2回目の味付けをされたものを取り出してきて,そして,弊社独自の仕上粕を使いまして仕上漬を行っていきます.厳選された酒粕は最後の酒粕になりますので,本当に良い酒粕と,あと,味醂の粕を愛知県では使っていきます.そして,砂糖です.漬け込まれたものは,最後の眠りについていきます.
そして,3か月後,このように琥珀色に輝く守口漬が漬け上がっていきます.漬け上げる期間は約2年になりますが,播種から数えますと,「あしかけ」という言葉を使うのです.12月をまたぎますので,「あしかけ3年」という言葉を使っているのですが,実質の漬け込み期間は約2年になります.
私どもの作る守口漬の原材料は,守口大根,そして,酒粕,味醂粕,塩,砂糖のみでございます.化学調味料その他の合成的な添加物は,いっさい使っておりません.先人たちが作りえた本物のスローフードです.複雑で繊細な味を持つ酒粕と,風味豊かな優しい甘みの味醂粕,自然の甘みの砂糖に,身をぐっと引き締める塩があれば,もう化学調味料は要らないのです.特に酒粕,味醂粕のあの微妙な発酵の味がこの中に入ることによって,非常に深みが増してくるのです.そして,優しい味わいを引き出してくれるのです.
4.守口漬に対する理念
そして,私どもの理念は,この素晴らしい,「日本文化『守口漬」を通じておいしいから幸せになる」ということです.
要は,自ら食して幸せになってもらいたいということです.ただ,幸せになってもらうのは,食べた方だけではありません.
多くの幸せがあります.やはり地元にいらっしゃいます守口大根の生産者が潤ってきます.そして,酒粕は酒蔵で作られるのですが,酒がメインで副産物が酒粕になります.その副産物を活用したSDGsにも貢献できます.そして,もちろん,「おいしいですね」と言われるわれわれ守口漬の製造スタッフも幸せになります.そして,守口漬が売れていけば,会社も潤ってきますので,税金をお支払いすることももちろん,地域貢献をしながら,皆様に喜んでいただけます.そういうものが多くの幸せとしてあります.ですから,安心・安全だけではなく,多くの幸せをもたらすことが地産地消につながっていくのではないかと思います.
弊社が地産地消を行っていることとしては,この6項目があります.まず,「大人の漬物と言う概念からの脱却」です.守口漬,奈良漬と言いますと,イメージ的に,「アルコール臭いな」「ちょっと苦いな」「えぐいな」ということがあるかもしれません.私どもでは,アルコール臭くない,お子様から女性の方まで,誰でもおいしく食べられる守口漬の製造をしております.2番は,もちろん先ほど言いましたように,「無添加,無化学調味料で,安心・安全」であることです.3番は,「消費しやすい内容量」を考えております.「気軽に買える価格設定の小袋パッケージ」を地元のスーパーや生協で販売させていただいています.そして,4番は,「犬山城下町アンテナショップでの食べ方の提案」をさせていただいています.5番は,「6次産業を活用して若年女子にアピール」しております.6番は,「地元小学校で出張漬込み体験授業&工房見学」をしています.
ここで特筆することが,4番,5番,6番です.まず4番です.守口漬を使った料理は,レシピを渡しても,結果的にめんどくさいものですから,なかなかできないのです.ですから私どもでは,視覚と舌に訴えることにしまして,「見て,食べて,喜んでもらいたい」ということで,犬山の城下町では,守口漬を使った創作料理を出しております.特に若い女性に受けているものが,「醤油おこげ串」でありまして,団子状にした焼きおにぎりと守口漬・奈良漬を交互に串で刺して食べ歩きをしていただいております.その一番上の焼きおにぎりをハートの形にするだけで,もうこれが大受けで,今の若い方々はすぐにSNSでいろいろなところに飛ばしていただけますので,そのようなつながりから,またまた来ていただいている形になります.
5.守口漬の6次産業化
これが6次産業です.守口ケーキや守口ソフトクリーム,守口キャラメル,守口バターサンドクッキーなどを開発しております.要は,このようなスイーツにすることによって,多くの若い女性にアピールして,若い女性から,このスイーツから守口漬本体を知っていただくということをしております.実際こういうものを買って,すぐに店で食べて,そのままこれを買うのではなく,「おばあちゃんに買っていこうかな」「お母さんに買っていこうかな」「お父さんに買っていこうかな」と,守口漬を買っていただくことに非常に貢献しているのです.お父さんはあまりないのです,大体おばあちゃんかお母さんばかりです.なかなか男の人,お父さんとおじいちゃんは買ってもらえないという現実があるのです.つまらない話でした.すみません.
これは結構ポイントですが,6番の出張漬込み体験授業と工房見学を,地元扶桑町の4小学校で行っております.先ほど言いましたように,守口漬は約2年かかっておりますので,その2年の工程を使います.小学校3年生で掘り取り体験を行います.そして,4年生のときに,1回目の味付けの工程を,このように出張していって,ここで1人ずつ,1本ずつ漬けてもらって酒粕を塗ってもらいます.そして,2回目が5年生で,仕上漬もやりまして,そして,5年生の3学期の2月に,自分たちの作ったものが漬け上がってきますので,それを持って帰っていただいて,お父さん,お母さんたちと一緒に食べていただきます.要は,体験をするということは記憶に残すのです.子どのたちの頭の中に残っていくのです.記憶に残ることで,その子どもたちが今度,大人になったとき,そして,日本全国に散らばり世界に散らばっていったときに,自分の町の話ができ,町の特産の話ができます.そして,最終的には,守口漬を一生,食べていただけるところにつながっていくのではないかと思います.
要は,「地産地消は多くの幸せをもたらしてくれる」ということを実感しております.
6.守口漬の課題
最後に,実は,課題があるのです.いいことばかりではありません.守口大根をはじめとして,奈良漬の原料というのは,瓜,きゅうり,その他,西瓜や茄子などの野菜になります.今年の夏に代表されるように,俗に言う,地球温暖化による暑い夏は,農業に対して非常に大きな打撃を与えるのです.もちろん気温のことで作物ができなくなることもそうですが,やはり農業従事者の方々は高齢の方が多いのです.この暑い夏に外で作業をするというのは,非常に厳しい仕事になります.ですから,なかなか夏の作物を作っていただける人がいません.あとは,夏の作物が非常に不順だということです.やはり安心・安全を考えますと,国内で作る野菜というのは必須になります.
今後これを解決して次をやっていくには,結果的には,自社農業で,自分のところで農業をしていくしかないのではないかと考えております.ただ,そこにも大きな問題があります.書いてありますように,「雇用」です.本当に今,人がいないことが非常に難になってきます.このコロナが一つの転機になったのですが,「コロナ前にあれだけいた従事者の方は一体どこに行ってしまったのだろう」というくらい,今は人が少ない状況です.今後はますますそれに拍車がかかっていくと思います.ですから,自社農業をするにしても,雇用する人がいないことで非常に厳しい状態になるのではないかと思います.
このままでは非常に厳しく,守口漬が幾ら認知され売れていっても,内部から崩壊していくのではないかということが,一つの大きな課題になります.
守口漬は,本当に世界に誇る,「日本文化」だと思っております.そして,その文化を後世に継承していくことが,私どもの務め,使命だと思っております.そのためには,今まで培ってきたことはもちろん,「伝統食品だから,どうだこうだ」ではなく,やはり時代の変革に合わせた形で少しずつ変化していき,あとは若年の人,特に女性の方に,「おいしいね」と言っていただけるような作り,そして,6次産業とのコラボレーションなど,様々な形で私どもが変革しながら継承していきたいと考えております.以上でございます.