Journal of Human and Environmental Symbiosis
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2024 Volume 40 Issue 2 Pages 212-227

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1.はじめに

2024年6月15日(土),横浜市青葉区において,日本環境共生学会第27回(2024年度)地域シンポジウムが「住み続けられる郊外まちの共創」をテーマに開催された.本シンポジウムは,急速に変化する社会情勢の中で,持続可能な郊外まちのあり方を探る貴重な機会となった.

まちづくりの共創とは,政府,企業,市民,研究機関が協力して問題解決方法を模索するアプローチである.例えばFuture Earth計画では,Co-Design,Co-Produce,Co-Deliveryという3つのステップを提唱している.また,国際的な環境研究推進機構であるBelmont Forumはアーバンリビングラボ(ULL)を設置し,分野を超えたソリューションの創出を推奨している.

このような理念を体現する先駆的な取り組みとして,横浜市と東急株式会社が2012年4月に締結した「次世代郊外まちづくり」の推進に関する協定が挙げられる.この協定を基盤に,産・学・公・民の連携によって次世代郊外まちづくりのプロジェクトが始動した.住民参加型のワークショップや専門部会での綿密な検討を経て,2013年には「次世代郊外まちづくり基本構想2013―東急田園都市線沿線モデル地区におけるまちづくりビジョン-」が策定された.

この構想を受けて,2017年,東急株式会社はたまプラーザに「WISE Living Lab」(通称: さんかくベース)を開設した.この施設は,東急株式会社が所有する三角形の敷地にある3棟の建物を活用し,次世代郊外まちづくりの活動拠点として機能している.ここでは,住民,行政,企業,大学が地域課題を共有し,解決策を協働で考案・実践する場となっている.

本シンポジウムは,慶應義塾大学教授厳網林,同特任助教中山俊,株式会社東急総合研究所主任研究員奥村令子で構成される実行委員会によって企画された.慶應義塾大学厳網林研究室はJST/Belmont Forum国際共同研究事業「持続可能な都市化に向けてのグローバルイニシアチブ―食料・エネルギー・水のネクサス」(SUGI)/「可動型ネクサス:デザイン先導型都市の食料・エネルギー・水管理のイノベーション(M-NEX)」プロジェクト(2018-2022)の一環でWISE Living Labに参加し,食料・エネルギー・水のネクサスを通して郊外まちの脱炭素化・持続可能性を共同で研究してきた.

この国際共同研究プロジェクトでの経験を元に,産・公・学・民の連携による共創の仕組みと効果を広く共有することを目指した.企業と行政が連携してまちづくりのプラットフォームを提供し,研究者,企業,市民らが参画して構想からプロジェクト実践まで共創する仕組みは全国に注目を集めており,次世代郊外まちづくりの事業展開へと発展している.日本環境共生学会員の皆様にもこのような先進的な取り組みから学べる点が多いと考え,本シンポジウムの企画に至った.シンポジウムを開催にあたって,株式会社東急総合研究所から共催の快諾を得るとともに,横浜市・東急株式会社による「次世代郊外まちづくり」プロジェクトから全面的な協力を得ることができた.

シンポジウムでは午前に学会員向けのエクスカーションを行い,「次世代郊外まちづくり」のモデル地区であるたまプラーザ駅北側エリアや東急株式会社が田園都市線沿線に展開する郊外まちづくりの取組を視察した.午後にシンポジウムを開き,「次世代郊外まちづくりプロジェクト」に初期から関わり「住民創発プロジェクト」を含む多くの活動の指導・支援をされた東京大学まちづくり大学院小泉秀樹教授より基調講演をいただいた後,横浜市,東急総合研究所,市民,研究者から話題を提供して総合討論を行った.

シンポジウムには学会員24名,地域住民46名,関係者10名の計80名が参加し,総合討論で会場から活発な議論が展開された.参加者の熱心な姿勢により,イベントは大いに盛り上がりを見せた.シンポジウム終了後の交流会では,学会関係者24名に加え,多くの地元市民も参加し,シンポジウムの内容やまちづくりに関する意見交換を通じて親睦を深めた.以下に当日の様子を取りまとめた.

図1 地域シンポジウムプログラム

2.エクスカーション

2-1 ネクサスチャレンジパーク早野(Nexus Challenge Park)

東急株式会社が推進する生活者起点としたネクサス構想の第一号拠点として,2022年4月にオープンした「ネクサスチャレンジパーク早野」は,参加者の関心を集めた.川崎市麻生区早野に位置するこの施設は,約8,000㎡の緑豊かな敷地を有し,「子どもから大人まで,誰でも自由に過ごし,使い,試す(チャレンジする)ことができる」空間として設計されている.パークの運営は,遊びやお祭りを通してアイディアを創発する「nexus lab」,みんなで野菜を育ててコミュニティをつくる「Niji Farm」,焚き火を囲いながら話しできる「Fireplace」という3つの機能を提供する.利用者には近隣団地の住民が多いという.

2-2 地域利便施設「CO-NIWAたまプラーザ」

「次世代郊外まちづくり」が目指すまちの姿「コミュニティ・リビング」を具現化した施設として,「CO-NIWAたまプラーザ」を視察した.東急電鉄株式会社(現東急株式会社)を含む民間4社が,たまプラーザ駅北口から徒歩4分の場所に開発した分譲マンションの低層部に,この地域利便施設を開設している.施設内には,コミュニティ・カフェ,コワーキングスペース,コミュニティ・コア,広場,テラスのほか,学童保育や認可保育園等の機能が備わっている.これらの多様な機能が一体となり,地域コミュニティの活性化と世代を超えた交流の促進を図っている.

2-3 FORT MARKET たまプラーザ

東急田園都市線たまプラーザ駅から徒歩5分,中央商店街に位置する複合施設「ROOF125」の1階に,「FORT MARKET たまプラーザ」がある.この施設は,東急株式会社のオフィスとシェアキッチンが併設された「grow up commons」の一部であり,青葉区初のシェアキッチンとしても注目を集めている.特筆すべき点は,その柔軟な運用方法にある.東急社員のテレワークの拠点としながら,平日は18時以降,土日祝日はオフィス区画もシェアキッチンのイートインスペースとして利用することができる.「grow up commons」は,「人と人」,「人とまち」,そして「働くと遊ぶ」が交錯する場所として設計され,商店街さらにはたまプラーザ周辺地域の賑わい創出を目指している.

2-4 100段階段プロジェクト

美しが丘小学校下の「100段階段」とそれに続く遊歩道は,この地域の地形的特徴を象徴する場所として注目されている.最低標高49mから最高標高83mまでを包含するこの道は,”丘の町・美しが丘”の魅力を凝縮して体感できる場所となっている.この地域資産を活かすべく,美しが丘地区自治会・アセス委員会が主導する「100段階段プロジェクト」が進行中である.このプロジェクトは,起伏の富んだ街の特徴を逆手に取り,持続可能な郊外住宅地のあり方を提示することを目指している.具体的には地域資産である遊歩道の歩行者専用道路への指定替えを行い,その修景に力を注いだ.2018年2回のコンテストを経て「ヨコハマ市民まち普請」 事業に選ばれ,100段階段および遊歩道の修景を進めている.

2-5 「WISEリビングラボ」

たまプラーザ駅北口から徒歩約10分の場所に位置する「WISEリビングラボ」は,次世代郊外まち作りの核心を担う施設として注目を集めている.この施設は,元々東急電鉄(当時)のモデル住宅併設の営業拠点であったが,2017年5月に共創スペースやコミュニティ・カフェを備えた活動拠点や情報発信の場として生まれ変わった.リビングラボは,住民・行政・企業・大学が課題を共有し,解決のためのアイデアを一緒に考え,具体化していくための共創の場である.単なる実験の場ではなく,地域に根ざした持続可能なまちづくりの実践の場として機能している.住民や行政にとっては地域の課題解決につながること,企業や大学にとっては生活者と一緒に生活に近い場で課題を探索・解決し,事業化に向けたシーズにつなげられるというメリットがある.このようなメリットを求めて参加したステークホルダーそれぞれの強みを活かしながら,実際の生活環境に即した課題解決を目指す取り組みは,次世代郊外まちづくりの理想形を体現するものとして高く評価されている.

3.基調講演

東京大学まちづくり大学院の小泉秀樹教授による基調講演は,「超高齢社会における持続可能な住宅地マネジメント」をテーマに展開された.小泉教授は2000年代初頭から,上郷ネオポリス(横浜市),新百合ヶ丘(川崎市),こま武蔵台(日高市),めじろ台(八王子市)などの地域におけるまちづくりの共創方法について実践的研究を重ねてきた.長年研究された共創の仕組みを初めて適応したのが次世代郊外まちづくりであり,その後の各地の取り組みの基盤となっている.講演では,この仕組みを図示しながら,共創まちづくりを成功させるための四つの重要なポイントが提示された.

以下3章および4章では,なるべく当日の講演がそのまま伝わるよう,文字起こしし,一部を抜粋したものをまとめた.

共創まちづくりを成功させるために4つのポイントがあります.その一つは,ワークショップ.住民,行政,企業がみんな参加して,一緒に議論するような場をまず作ります.また,ビジョンに基づいた具体的な戦略をどう作れるかについても討議します.

次に大事なのはアウトリーチ.ワークショップの参加者が数えても110人程度.そこに参加できない人たちにもきちんと情報を届けて意見を引き出すこと.アウトリーチすることによって新しく参加したい人も後から出てくれます.

三つ目は学びの場.さまざまな専門的な知見をそこに投入しながら,得た知見をまたこの討議の場に反映させる,学んでいくというプロセスと討議の場をくっつけておくこと.

以上の3つでビジョンは概ねできたので,具体的にどんな戦略を持ってどんなプロジェクトをやったらいいのかといったことを考えます.そこに四つ目のポイントがあります.実際にプロジェクトをみんなで提案します.企業,横浜市にも協力してもらいながら,住民主導でプロジェクトを提案します.本気でやりたい人はもう一回手を挙げて応援します.100段階段プロジェクトはその一例にあたる.

住民創発プロジェクトは登録から選定までPeer to Peerのレビューとフォローアップを繰り返しながら,実施できるように伴走します.50万円の補助はとても少額だが,たくさんのアイディアが提案され,それらを講評,精査することを通して,共創のムードが高まり,ネットワークも形成されます.最後にLiving Labという,生活の中から新しい企業との連携,企業と地域の方が連携しながら,場合によっては行政も巻き込みながらやるような共創型の取り組みをやるというもので,「さんかくBASE」になりました.東急が相当頑張ってくれました.行政と地域の皆さん,それから地域外の皆さんも協力してくれて,初めて成立しているプロジェクトではないかと思っています.

2014年に,まちづくり大学院の学生たちに地域に来て,この次世代郊外まちづくりというものがどんなふうに地域で受け止められているのか,調査していただいた上で提案をしてもらいました.各々課題もいろいろあって見えてきました.自治会は自治会であるし,住民創発の皆さんは各々活動があるし,地域の住民の皆さんが考えている課題も別にあります.この辺も,地域のコアのメンバーたちに話を聞くと,住民創発の活動をやっているのは分かるけれども,本当にそれは地域に必要なのか.もっと地域に本当に必要なのは,自治会の活動をちゃんと支えることではないかといったご意見が,この頃ありました.

本来の再生はいろいろなテーマがありますが,コミュニティの活性化から子育てや買い物環境などいろいろなことをもう一度あらためて手を入れ直さなければいけないということが,住民創発をやったり,それ以外の郊外の再生に関わらせていただいて分かってきたことです.

そこは,自治体も必要だし,地域の住民のパワーももちろん必要だけれども,やはりそれだけでは足りなくて,福祉事業者の力が必要だったり,地元の商店街の力が必要だったり,それから,場合によっては東急さんや大和ハウスさんみたいな民間企業の力も必要だったりする.そうやってさまざまな主体な力を発揮しながら,多分野にわたるような課題にチャレンジしていくようなことが本当に求められていて,共創のまちづくりとか再生は,仮説としては提示していて,進行中で進めてきてはいるのですが,本格的にはまだこれからなのかなと思っています.

この共創のまちづくりというのは,まだ皆さんと一緒にテーマにして考えさせていただきながら,ちゃんとした意味ある郊外の再生につながるような取り組みを私自身もしていきたいと思っています.

厳 小泉先生,ありがとうございました.非常に素晴らしいご講演で,この共創のまちづくりの経緯を体系的に振り返っていただく,勉強させていただきました.今朝,私たちはエクスカーションで,当時打ち上げたビジョンが実際にプロジェクトになって,しかもボランティア,市民主導のプロジェクトなのか企業主導の事業化されているプロジェクトなのかをさまざまありました.これが永続的に10年以上,もっと前,最初から作られて,もう何十年と継続されている取り組みがあることが本当に勉強になりました.全国各地のまちづくりに非常に参考になると思います.

4.パネルディスカッション

4-1 「次世代郊外まちづくりプロジェクトの発展」横浜市建築局住宅再生課 担当課長 粕谷弘幸氏

先ほど基調講演をいただいた小泉先生のお話と少し重なる部分はありますが,行政側の視点も踏まえて次世代郊外まちづくりの取り組みについてご紹介させていただきます.

横浜市は人口が今約377万人,世帯数が約181万世帯となっております.環状2号線が通っていて,ちょうど西側,左側の部分に緑色の部分が多いですが,住宅地となっています.郊外部において,全体の65%の世帯が集中しています.横浜市は緩やかに人口が減少していくこと,高齢化が徐々に高まってくるということ,高齢者の人口が増えてくるという現状があります.それにおける郊外部の問題として居住者の少子高齢化,大規模な住宅地の建物の高経年化,空き家の増加,それに伴うコミュニティの希薄化といったものが進展する懸念があます.

横浜市の中期計画では,「子育てしたいまち,次世代をともに育むまちヨコハマ」を掲げております.その中で郊外部においては,新たな価値を創造し続ける郊外部のまちづくりがあります.そこに,政策,各施策が紐付いてくるという位置付けです.

横浜市では,2022から2031の10年間の住宅地や住環境の基本的な方針をまとめていて,5年おきに更新しております.この中で,これからの郊外部の住宅地像として,住む,働く,楽しむ,交流するといったキーワードを掲げて,新たなライフスタイルに対応して多様なまちの魅力を生かした豊かな住宅地を継承していくという目標を掲げています.

その中で,横浜市は持続可能な住宅地推進プロジェクトを大きく四つの地域で進めています.東急田園都市線沿線地域,緑区十日市場町周辺地域,相鉄いずみ野線沿線地域,磯子区洋光台周辺地区という四つの郊外住宅地でプロジェクトを進めております.今日は,この東急田園都市線沿線地域についてご説明させていただきます.

図2 横浜市持続可能な住宅地推進プロジェクトの概要(粕谷氏資料より)

横浜市と東急が次世代郊外まちづくりの推進に関する基本協定を締結して進めてきています.平成24年4月からたまプラーザ駅の北側をモデル地区に,取り組みをスタートさせました.先ほどの小泉先生のお話にもありました基本構想を平成25年に策定し,加えて,暮らしと住まいのグランドデザインとして,今後の空間形成などのビジョンを策定したという経緯です.

基本構想の中ではコミュニティ・リビングという構想を打ち出しています.住まいから歩いて暮らせる範囲に買い物,福祉,医療,子育て,コミュニティ活動など,地域に必要な機能を適切に配置し,それらを密接に結合させていくという考え方です.

次世代郊外まちづくりのソフトの取り組み事例として,先ほどもあった住民創発プロジェクトや,まちぐるみの保育・子育てネットワークづくりの取り組み,また,学校さんとも授業連携としてさまざまな活動でこれまでも連携しています.加えて,ICTサービスやIoT技術を活用した社会実験等にも取り組んできました.

また,ソフトの取り組みとしては,近年は「田園都市で暮らす,働く,楽しむ」の実現に向けた公共空間の活用にも力を入れて取り組んでおります.令和4年には,パークフェスタとして美しが丘公園を舞台に,公共空間を活用した取り組みをしています.今年度はこの活動をさらに展開していこうということで,これまで活動を担ってきていただいた方に加えて,新しくこういった活動に参加したい方にも呼びかけをして,今企画等をいろいろ練っている最中です.

これに加えて,脱炭素社会に向けた取り組みも力を入れているところです.ハードとしては,地域交流拠点に象徴的なものとしてEV充電スタンドを設置したり,市民や地域の方々への普及啓発としてゼロカーボンフェスタ等も取り組んでおります.今日,この学会を取り仕切っていただいている厳先生にも体験型のワークショップをやっていただいたり,ゼロカーボンセミナーで脱炭素のまちづくりをテーマにして地域の方を対象とした勉強会等も開いていただいている,そんな活動を展開しております.

東急がいろいろビジョン等に基づいてこれまで作っていただいたハードの事例をまとめています.WISE Living Lab,SANKAKU BASEや,CO-NIWAたまプラーザなど,エリアマネジメントを沿線に展開しています.青葉台の郵便局の空き区画等を活用して働く場等を創出したSPRAS青葉台といった施設も作っていただいております.

CO-NIWAたまプラーザは東急と協定を結んで計画等を作ってやっております.実際の活動拠点となっている施設は,都市計画,地区計画を定めて誘導してきているという形です.これは四つの方針を踏まえた地区計画を策定し,社宅等の廃止や土地利用転換を踏まえてこのような施設を誘導して地域の方とのエリアマネジメントの取り組みを誘導してきています.

今後の次世代郊外まちづくりの展開ですが,地域課題や地域の活性化に向けて地域の方と情報交換や意見交換をする場として,平成29年11月から美しが丘地域連絡準備会を設立し,その後平成31年1月には美しが丘次世代ネットワーク連絡会というしっかりとした会議体を設けて,広域のエリアマネジメントの取り組みを展開しています.それに加えて,地域活動の支援など,たまプラーザ駅の北側地区で得た成果を踏まえ,取り組みを田園都市線沿線他の地域へ広げていくことにも取り組んでおります.

さらに,横浜市は家庭部門のCO2排出量が全体の中でも非常に高い割合を占めています.家庭部門,郊外住宅地における脱炭素の取り組みを地域の皆さんとどういった行動をやっていくことがいいのかというところにもう少し力を入れて,このたまプラーザでこれまでやってきたものを生かしながらやっていきたいと考えているところです.

厳 横浜市の協力がなければここまでできなかったと思いますので,皆さん,また後ほど質問してください.ありがとうございます.

4-2 「郊外住宅地の持続可能性の研究」 株式会社東急総合研究所 主任研究員 奥村令子

今日は「郊外住宅地の持続可能性の研究」と題して,10分ほど話題提供させていただきます.

多摩田園都市を題材にして東急のまちづくりの歴史を簡単に振り返った後で,弊社東急総合研究所でさせていただいている持続可能性の研究について,その一端をご紹介したいと思っています.

まず,多摩田園都市のおさらいです.地理的には,真ん中に田園都市線が通っていて,梶が谷駅から中央林間駅まで,自治体でいうと高津区から川崎市,横浜市,町田市,大和市にまたがるバーチャルな都市,地図上では載っていない都市です.四つのブロックから構成されています.皆さまが今いらっしゃるたまプラーザは第2ブロックです.都心部からの距離は15kmから35kmぐらい.

特徴は,もともと社会課題の解決を目指して作られた都市であったということ,公共交通主体のまちであるということ,発展段階に応じた取り組みを東急はしてきたことです.根底にあるのは,公共性と事業性の両立,これを目指して取り組んでまいりました.

多摩田園都市の始まりは,東急の事実上の創業者である五島慶太翁が昭和28年に発表した城西南地区開発趣意書にさかのぼります.当時は第二次世界大戦後で,東京が急激な人口流入で社会インフラが逼迫していました.そうした中で,第2の東京を作って人々に健康的な生活を送っていただきたいという思いがありました.

当初の想定エリアは,東横線,南武線,小田急線,横浜線に囲まれて,大山街道沿いのエリアです.当初主要交通は車専用道路,高速道路を考えておりましたが,ほぼ同じルートに第三京浜が通ることになり,白紙撤回されました.

当時は農地4割,山林6割,全体でも1.5万人のみが居住されているエリアだったのですが,今では全体で60万人を超える方々にお住まいいただいている地域になっております.

山林や農地を開発するに当たり,東急は地域の地主さんと一緒に区画整理組合を作っていきました.準備ができたところ,まとまったところから進めていって解散していきましたので,まちづくりがバラバラの時期に同時並行的に進んでいきました.

交通については,鉄道は60年代から順次開業してまいりました.バスは鉄道の開業に合わせて路線の開設,再編成も行っていきました.まちの開発は,1960年代に不動産の販売から始まり,生活支援施設などを誘致していきました.1970年代はアミニティプラン,快適性をテーマに商業施設の充実やスポーツ施設の展開などを行っていきました.76年に人口20万人を数えるところまで発展しています.

続く1980年代はケーブルテレビが開業しました.多くの方に住んでいただくために必要な基盤整備を行っていくのは1980年代までです.1990年代からは,二次開発と呼び,より豊かな生活が十分に楽しめる質の高いまちづくりを目指して開発を進めていきました.2010年代になると次世代郊外まちづくり,そして2020年代はnexus構想が始まります.

ここまでが簡単な歴史です.こうして発展してきた多摩田園都市を題材に2010年から弊社では一貫して,自主研究を続けてまいりました.東急グループの環境経営やスマートシティの在り方を考えるうちに,多摩田園都市にとっての持続可能性は,「お住まいいただいている方々に住み続けていただくこと」だと考えるようになり,2014年には,沿線にお住まいの方を対象に居住実態の調査を,宮本和明先生との共同研究で行いました.その後もSDGsやエネルギーといったことをテーマに多摩田園都市を考え続けてまい.

残りの時間で,2014年の調査と直近の研究の概要をご紹介したいと思います.2014年当時は,既に地方の郊外住宅地では崩壊が始まっていました.多摩田園都市は当面安泰であるとはいえ,将来は例外ではないのではないかと考えました.そこで,たまプラーザ周辺では次世代郊外まちづくりが進んでいましたので,藤が丘,青葉台などの青葉区の西側のエリアを対象に,実態調査を行いました.1万4500世帯にアンケート調査票を配布し,1割以上の方から回答をいただきました.世帯主またはその配偶者にお答えいただいたのですが,紙の調査でしたので80代の方も1割ご回答いただき,最高齢が95歳でした.

調査結果を二つほどご紹介したいと思います.住み替え意向と買い物についての将来の不安等を見たものです.現在の家に住み続けたい人は,回答者全体の6割ですが,買い物についての将来の不安が高くなるに従い,住み続けたいという意向が減ってきます.やはり買い物難民が大きなテーマだなと実感した次第です.

もう一つの結果をご紹介します.別居する子どもがいるかどうかを尋ね,647人の方からお子さん1050人分の郵便番号を教えていただきました.日本各地および海外にもお住まいでしたが,10人以上居住しているという市区は18市区でした.この18市区は,ほぼ東急線沿線です.中でも青葉区が突出して220人と多く,次いで世田谷区,宮前区と,近隣の市区が並びました.予想以上に近居の方が多いと思った次第です.当時は,都心回帰と言われていて,東京23区でも人口の流入増になっていましたので驚きの結果となりました.

最後に直近の研究をご紹介します.こちらは,厳先生と共同研究をさせていただいておりました.鉄道業を含む企業グループがよく使う沿線価値向上というのは,事業から生まれる環境価値と社会価値と等しいのではないかと考え,次のようなにしております.共同研究は学びが大きいもので,また別の機会に成果を公表したいと思っています.

図3 鉄道沿線地域の持続可能な価値創造を目指して(奥村令子氏資料より)

厳 ありがとうございました.時間をだいぶ短縮していただき申し訳ありませんでした.後ほどこの取り組みの中身とかグループ全体の考え方について,ぜひ皆さん,ご質問ください.

4-3 「住民によるまちづくりの共創」 100段階段プロジェクト 代表 藤井本子

私たちのまちづくり活動について少しお話しします.この写真は美しが丘.名前のとおり美しい,美しが丘の並木道の写真です.安心で住み続けられる,いつか住みたいまち,戻ってきたいまち,ここが幸せのまちならいいなと思っています.

少子化・高齢化,よく言われますが,幸せのまちであるために私たちに一体何ができるんでしょうか.世代間のギャップを埋めるためには,大人も子どもも高齢者も自分がコミュニティの一員だという自覚を持ってお互いをリスペクトし合うことが大事だと考えています.

AOBA-ARTという活動は2008年から,住宅街を舞台に開催してきたアートイベントです.このまちには5kmにも及ぶ遊歩道があります.建築家やアーティストが制作した作品を巡って歩きながら,こんな遊歩道があったら歩きたくなるねという参加者の意見から遊歩道の可能性を探るというワークショップを行いました.

青葉区の健康づくり歩行者ネットワークの検討会議で,通学路のこの階段は100段階段と子どもたちに呼ばれているというお話をしましたら,参加者の方から,98段しかないよとか,私が行ったときは102段あったわよ,というので結構盛り上がりまして,100段階段というネーミングの魅力に気が付いたわけです.名前の付いている道はとても気になります.

この看板,めちゃめちゃかっこいいのですが,新潟県の公道に立っている道路標識です.健康づくり歩行者ネットワークに,このくらいおしゃれなコース案内を立ててくださいと区役所にお願いに行きましたら,行政の仕事は安心・安全が前提で,おしゃれというのはあり得ないですね,と.どうしてもそれがやりたいんだったら,「ヨコハマ市民まち普請」というのがありますよ,それにエントリーしてみたらどうですかと言われたのが,100段階段プロジェクトの出発点でした.

見慣れた風景の中に,ある日突然「え!」というのを発見すると,何だこれと興味を持ってくれるかなと思いました.前例がないからできないのではなくて前例を作ってしまおう,そして,柔らかい脳みその子どもたちにそういうことを刷り込んでしまおうかなと思いました.

というわけで,美しが丘小学校の創立50周年記念の朝,登校してきた子どもたちにサプライズ.前日の夕方,カラー?バンテープを貼りました.「祝50」と書いてありまして,これは子どもたちにものすごく受けました.

ここからしばらく動画をご覧になっていただきます.100段階段は2018年ヨコハマ市民まち普請で整備されました.私たちのメンバーは,先ほど小泉先生もご紹介してくださいましたが,まちに住んでいる人だけではなくて,荒川区から自転車をこいで毎月通ってきてくれる人もいます.2017年から,準備段階から始めると8年間,毎月みんなで集まって何だかんだ,次のこと何をやろうかというようなことを考えているというようなグループです.

 小学校の卒業式の朝,100段階段には花の道が出現します.この活動は2017年から8年間ずっと続いています.これは,ヨコハマ市民まち普請にエントリーする前の年でしたので,それのための仕込みということで,一回こういう派手なことをやってみようといって始めたのですが,下級生も卒業式に参加するので登校してきますよね.「わー! 階段がレインボーだ.私たちのときもあるのかな」と低学年の子が言うわけですね.そうするとやめるにやめられなくなって,いまだに続けています.

美しが丘は1969年の開発当時から歩くためのまちとして設計されて,人が歩く道と車の走る道が分離されています.最近はやりのウォークアップタウンです.みんなにどんどん歩いてどんどん健康になってもらうための仕掛けをいろいろ考えています.お手元に階段マップというのがありますが,まちには60カ所の階段があります.空欄,白抜きの部分は自分で歩いて数えに行ってねというマップです.

こちらが一緒に活動している仲間です.まちづくりにはキーパーソンが必要と言われますが,全員が自分がキーパーソンだと思いこんでいる節があります.みんなでわいわいやって,非常に楽しそうです.

これは「街のはなし」.街のはなしは青葉区から始まったプロジェクトです.毎年,幼稚園児から80代までの住民の方11人を選んで,たまプラーザの好きな場所はどこですかというインタビューをしてきました.その場所の緯度・経度の座標,風景写真と聞き取ったお話を掲載したこういう冊子を8年間にわたって作ってきました.

図4 まちの記憶を記録し,「街のはなし」を刊行

(藤井本子氏資料より)

聞き取った101人の話を2023年にこういう1冊の冊子にまとめることができました.まちの三世代にわたる,このまちで生きる人たちの言葉はまちの記憶です.昭和のニュータウンの記憶を住民の言葉で記録して未来に残すという取り組みをやっております.インタビューのテープ起こしや写真の選定,校正を兼ねた朗読会もずっと続けてきております.

音声が入っていたのですが,ここでは音声が流れないということで朗読の音声が聞こえないのですが,この緑色のマップのQRコードを読み込んでいただくと朗読の音声を聞くことができます.

このかっこいい看板なのですが,越後妻有「大地の芸術祭」,新潟県の魚沼の近くでやっているのですが,そのサイクリングコースに国交省が建ててくれたものです.100段階段プロジェクトのデザインではワークショップを担当している建築家が毎年主催しているツール・ド・妻有(TOUR DE TSUMARI)という参加型のアート作品のために,国交省が建ててくれました.山道を120km自転車で走ります.それも,15人くらいから始まったイベントが,今では毎年1000人を超える参加者数に成長して,映画も作られました.たまプラーザでも映画の上映会を行いました.

コロナ禍で,家やまちは寝に帰る場所だけではなくなって生活の場になりました.住まいは人が生活する上でとても大事な場所だということ,まちに興味を持ったり環境を気にする人がどんどん増えてきてとてもよかったと思っています.2023年からまちの変遷を記録する「どこコレ? in たまプラーザ」という活動も始めました.

高齢の方にとっては,昔の写真を見返すと,たまプラーザあるある,子どもたちや新しく引っ越して来られた方にとっては,たまプラーザのトリビアですね.駅にいてタバコがあって,みんなで長靴をはき替えて電車に乗って都内に通っていたというような都市伝説がたくさんあるのですが,それを写真としてみんなが見れるというような催しです.

横浜市と東急さんがタッグを組んで展開している次世代郊外まちづくりで,このまちにはたくさんの地域活動をやるグループが生まれました.私たちの活動にもずいぶんご指導をいただいています.

これまで,まちづくりに努力してこられた先輩方はみんなプロボノで,美しが丘では,まちができた50年ぐらい前からそういう文化が当たり前にありました.このまちづくりスピリットを次につなげていかないわけにはいかない.住環境は,デベロッパーや行政に与えられるだけのものではないということを感じています.

私たちが当たり前に毎日享受し消費している今というのは,過去の蓄積ということをあまり考えないと思うのですが,美しが丘の良好な住環境は先人の努力の積み重ねによるギフトだと思っております.私たち,今,20年後,30年後,50年後を生きる人たちにどういうギフトが用意できるかなということをいつも思っております.

私たちは,緯度・経度,標高,時間をテーマにいろいろな活動を続けてきましたが,過去がレイヤーのように積み重なって現在を形作っているように,今ここで私たちがやっていることが歴史になっていくんだということを若い人たち,子どもたちに伝え続けていきたいと思います.

コミュニティの物語を積み重ねる日々はこれからも続いていくと思います.

厳 藤井さん,ありがとうございます.大変素晴らしいご講演をいただきました.

50年,60年のまち,あまり歴史はないと言われますが,生活されている方々の日々の日常の中で積み重なっていって,これが歴史になっていく.記録して次の世代に伝えていくのは,この取り組みがあるからこそできていると思います.

それでは,最後の話題提供者,私の研究室の中山助教になります.ここ数年,私もこのプロジェクトに関わり,情報提供のスタンスが強いのですが,どのような形で住み続けられるまちの中に生かしていけるのか,住民の皆さんに役立つものが何かあるのかといつも自問しながら進めてまいりました.

4-4 田園都市脱炭素まちづくりの可能性 慶應義塾大学政策・メディア研究科 中山俊 特任助教

私も学部時代からたまプラーザを研究対象にしてきました.今日ご講演いただいた小泉先生も学生時代からこの地域をとおっしゃっていましたし,この学会の昔の学会長である林先生もここを対象地域にしていたと伺いました.

そのきっかけは,この国際共同研究です.これは,巌先生が2018年に獲得してきた共同研究の研究費ですが,私が大学院に進学することを少し迷っていた時期に巌先生の研究室に相談しに行ったら,こんな研究費があるから学費のことは心配しなくてもいいのではないかと言われました.学費のこともあって国立大学のほうかな,就職しようかなとも思っていたのですが,無事慶應にそのまま進学することができました.

この共同研究の一つキーワードはNEXUSです.NEXUSは日本語では「つながり」です.今日のお話もこの「つながり」を一つのキーワードにお話ししたいと思います.

私は学部時代,2017,18年ぐらいからこのたまプラーザをずっと研究対象地域にしていますので,もはや8年目といったところですが,ずっと観察していると意外とバラバラ,多様だなと思います.例えば三つの地域をA,B,Cと挙げました.この三つは全く人口ピラミッドの形が違うことをお分かりいただけるかなと思います.Aの地域は50代とそのお子さん世代が住んでいる様子が分かりますし,Bの地域は少し長い世代住まれている方が多く,Cはまだ50代の方が多く住まれているということです.

このまちの一番の特徴は,居住を始めた世代がまだ依然として住んでいるところかなと思います.そういった意味で,開発した時期がB,Cの特徴的な違いを生み出していると考えています.

このような違いをどのように捉えていくのか,いろいろ試行錯誤しているのですが,普段,こうした鉄道中心の郊外住宅地をまち歩きしてみると,一般的には駅前に商業エリアがあり,その少し先に集合住宅,さらに奥に進むと戸建て住宅があって,その奥には農や自然が残っているというような景観がどこも残っているのかなと思います.例えば,駅前は商業施設しかないので基本的にあまり人が住んでいないといったこともありますが,このような違いによってこのまちもいろいろ違います.

次は私の学部の卒業論文ですが,買い物にアクセスするためのお店が徒歩圏内に何店舗あるのかをマッピングしています.赤色だとアクセスできる買い物店が少ない,青色だと買い物できるお店の数が多いというのをこの地図上で表しています.2003年,2008年,2013年,2016年,五つの時期を比べてみたところ,食料品店の選択肢はどんどん少なくなっていることが分かります.特に,駅前はあまり減っていないことが分かるのですが,駅からかなり離れた3000mぐらいのところだと,昔は買い物に行ける食料品店が10店舗以上あったのが今や3店舗ほど.1500mほどのところでは1店舗あるかないかといったエリアも多くなってきています.

また,コロナ禍がここ数年で起きた大きなイベント,社会現象だったと思いますが,例えば駅前のスーパー,駅から遠くのスーパー,スーパーの立地はそれぞれいろいろありますが,この影響が全然違います.駅前だとスーパーの来店客数がガクっと減ったことが分かります.一方で,駅から遠くだと逆に増えたということです.

また,下のグラフは,皆さんが何曜日によく買い物に行っているのかを表しています.2019年コロナ前は平日によく行って土曜日などには絶対行かないといった様子が,駅前でも駅奥でも見られますが,2020年になると華金が自宅で楽しむものになりましたので,金曜日にビールを買いに出かけるのではないかと僕は勝手に想像しているのですが,金曜日が跳ね上がるというような形です.

その後,2021年,22年と進むに従ってライフスタイル,買い物に行く曜日が変わってきたのですが,その結果も駅前と駅から遠くではずいぶん違うことが見て取れます.

このように,バラバラ,多様な郊外住宅地ですが,それぞれにまちの特徴がありますので,それをつなげば脱炭素になるのではないかと考えています.この脱炭素を実際に考えていく上で非常に重要になっていくのが,エネルギーだけではなく,食料だと考えています.

これは,このたまプラーザ駅前,先ほどのいくつかのお話で出てきた地域ですが,ここを対象に,食料,エネルギー,水という三つの消費活動に伴ってどれぐらいのCO2排出なのかを分析してみたところ,この右側に示したような意味になります.同じような方法で分析したのが東京都ですが,東京だと食料が占めている割合が8%ぐらいしかないのですが,たまプラーザだと25%,エネルギー部門の半分ぐらいが食料からCO2が出ている,こういったところも重要なセクターとして見ていかないといけないと考えています.

このような,エネルギーや水について,いろいろな資源がこのまちにはいます.左側は,田園都市の近くにどんな農地があるのかを示していますが,多摩田園都市自体は非常によく開発されていますのであまり農地は多くはないのですが,そのすぐ外にはたくさんの農地が残っています.

また太陽光パネルが設置されているおうちについて,Google Earthでの目視で一個一個調べてみたのですが,戸建て住宅には今たくさんあるのですが,団地や駅前の商店街などには一個も置かれていません.

駅から遠いところに農地があったり,戸建て住宅に太陽光パネルと,それぞれの土地や建物に特徴的な資源を持っていますので,それを活用できないかなと考えています.

次の事例は既にあるものですが,たまプラーザ駅前には,JA横浜が経営している「ハマッ子」たまプラーザ店があります.「ハマッ子」たまプラーザ店は直売所ですので,この地域で生産されたものを売るのですが,さすがにすぐ近くにはないので駅遠からたくさん仕入れてきているわけです.基本的には横浜の野菜ですが,そういった駅から遠くのところから仕入れている,こういったのも一つの事例です.

次の例はもう少し脱炭素寄りですが,皆さんの地域の足となっている東急バスのルートを二つ取り上げました.先ほど申し上げたように,戸建て住宅には太陽光パネルがたくさん導入されていますし,それは売電できるぐらい結構余っています.もしそれを買い取ってしまえば電気自動車のタイプのバス,EVバスを走らせることができるのではないかと思って計算してみたものです.実は,これはバスの路線から25mの範囲内の66%ぐらいの家が協力してくれれば,1日中EVバスを走らせることができるといったこともあります.このようなさまざまな資源をつなぐことで脱炭素は近いところにあるのかなと思います.

最後に,脱炭素の実践のために必要な,一番重要なことについてお話しします.

結局,このような資源がどれぐらいあるのかを丁寧に調べていくことが欠かせません.2017年からずっと,地域の皆さまのご協力や東急さん,横浜市さんのご協力の下,たくさんの人や資源,場所を丁寧に調べさせていただきました.ここで生まれた二つの話があります.

一つ目が,シェアキッチン,そういった活動がほしいですねというお話です.そこで次世代郊外まちづくりにコミュニティカフェ,PEOPLEWISE CAFEが併設されていて,そこと協力してシェアキッチンプロジェクトを開催しました.実際に,皆さまに一品ずつ食事を作りお持ち寄りいただいて,それで1個ずつ取っていけばお弁当が完成するという感じです.実際にシェアキッチンをするとなるといろいろな法律上の制約があるため難しかったのですが,こういった形でやったりしました.その前には,皆さまにこのまちの情報を聞いたりヒアリングしたりというようなこともしました.

そこで分かってきたのは,脱炭素は副産物だということです.僕たちが脱炭素の研究をしたいと言っても,皆さん脱炭素は別に生活の中心ではないです.おいしい,楽しいといったことのほうが重要ですので,そういったものと合わせてやっていけたらということをこのとき学びました.

図5 たまプラ弁当部の活動(厳研究室提供)

次が最後のケースです.先ほどの横浜市さんの資料にもありましたが,次世代郊外まちづくりを横浜市さん,東急さんとご一緒させていただいて,模型の重さでCO2排出量が分かる,そういった食育のツールを作りました.一個一個,かわいらしいデザイン,ブタやウシがありますけれども,例えばカレーライス,ビーフカレーを作る時に,CO2が結構出ています.ウシのげっぷはすごいとよく聞く話ですが,それを実際におもりで測れるというようなものを作りました.そういったものを使ってやっていく.

こういったところでは,どういうところにリーチをしていくのかというところですが,大人だけではなく,未就学児でも分かるような,小さい頃からそういうことを学べるようなことも大切だと思って進めています.

最後になります.田園都市は非常に多様で,人々,資源,場所,いろいろな人がいらっしゃいます.そういった人々はお互いにつなげてあげれば脱炭素の機会が生まれそうだということが,これまでの活動,研究で分かってきました.特に,このたまプラーザでは,人や場所などのつながりを全てデータを集めて,それを可視化すると非常によく,ぐちゃぐちゃにつながっていることがお分かりいただけると思います.ほかのまちではこんなにぐちゃぐちゃにはつながらないです.これはすごくいいことで,このLiving Labの存在も,一つ大きい存在なのかなと考えています.

また,最後にも申し上げましたが,脱炭素ということばかり言っていてもなかなかできませんので,健康,楽しい,おいしいなど,そういったことと一緒に進めていくことが大切だということを実感しています.

厳 ありがとうございました.かいつまんで私たちの活動を簡単に紹介させていただきました.一口に「まち」といっても,あるいは「郊外のまち」といっても,駅前ばかりが注目されますが,実はこの歩ける範囲の駅前と,歩けなくてバスに乗らないといけないとか,さらに車を使わなければいけないとか,そういう距離に応じて一つの圏域が作られているのではないかと思います.小泉先生がおっしゃっていたように,駅前ほどにぎやかではないけれども,近隣商店があるからこそそこに人が増えている.あるいは東急さんが,今まで駅前は開発してきたけれど,駅の遠いところにも眠っている資源があるかもしれないし,それを利活用することで全体の活性化につながるのではないかというような取り組みが既に始まっているというわけで,紹介してきました.

5.総合討論

私たちが用意したネタはこれ以上ありません.50年の歴史を今日1日,皆さんに提供したつもりではあります.全国各地から今日はお見えになっている先生方がいっぱいいらっしゃいますので,ぜひ見たこと,聞いたこと,感じたことをコメントも含めて,質問含めて,ぜひいただきたいと思います.

残り30分ちょっと時間があります.先生方,パネラーの皆さん,前のほうに出ていただいて,もしそのような質問がされたらお答えいただきたいと思います.会場のほうから上げてください.

福田 大変貴重なお話,ありがとうございました.今朝,歩きながらずっと思っていたのですが,ここもそうですが,東急さんがいらっしゃるとか,あるいは柏の葉だと三井さんがいらっしゃるとか,そこの資産価値を維持していきたいということで非常に大きい企業さんがいるところでは何かできるかなと思ったのですが,そうではないところでもこういうまちは成り立つのかなと思いながら.やはり東急さんは金もあるし力もあるからすごいなと思いながら,そのあたりを小泉先生,お願いします.

厳 では,小泉先生からご意見いただきます.

小泉 柏の葉はまだ新しいので別かもしれないですが,美しが丘が特殊なのは間違いないと思います.特殊というのは,たぶん東急さんが素晴らしいのはもちろんですし,横浜市が素晴らしいというのもそうですが,何よりも住んでいる方が素晴らしい.そこがちょっと違うというのはあると思います.ほかの地域で同じような取り組みが本当に簡単に横展開できるかといったら,それは相当難易度が高いと思います.

私が次世代郊外まちづくりの取り組みが始まる前,東急さんと横浜市さんが協定を結ぶ前から実はいろいろご相談させていただいて一緒に考えを練り上げたりしていたのですが,そのとき,自分にとってこのプロジェクトに関わる意義は何なのかと自問したことがあります.

われわれがそれまでお付き合いしてきたまちは,どちらかといえば平均よりもいろいろな意味でマイナスのところを引き上げる.さきの佐倉市などもそうなのですが,都市を作るお金がない,0円だと言うんですよ.でも作らなければいけないけれど,コンサルタントも雇えませんと言って私たちのところに連絡があったので,ボランタリーをやりましょうといってやるとか.それが密集市街地みたいなところですよね.

あと,人口が減り過ぎた都心の住宅地とか,そういうところとお付き合いをしてきていたのですが,ここはすごくうまく,だいたいその時点でもそんなに悪くはなかったですから,うまくいっているわけです.

でも,ここで再生に向けた取り組み,もしくは再生とはいわなくても持続可能に維持するような取り組みが踏み出せなかったら,おそらく首都圏のどこの住宅地でやってもできないのではないかと逆に思いました.私たちは横から応援しているだけですが,実際に主導されるのは地域の方だし,東急さんが相当頑張っているし,横浜市も相当力を入れて熱心になさってきている中でうまくいかなかったら,ほかのところは全くうまくいかないだろう,と.まずここを成功させれば,少なくともほかのところにアプライできるような可能性は高まってくるのでやる価値があるのではないかと思いました.

また,後で粕谷さんにお話ししていただけると思いますが,横浜市さんは,東急さんだけではなく横展開されていろいろな鉄道事業者さんやURさん,公社などと協定を結んで,同じような取り組みを進めていらっしゃいます.そういう逃げない事業者さんがいるところはある意味,うまくいくようなところができていると思いますが,私がいつも話しているのは,そういう形で,企業や企業に近いような価値共同体(自治体)の皆さんと地域の皆さんの力で引き上げることができるようなエリアができてくれば,逆にそこから漏れてしまうところが当然あるわけです.漏れてしまうところにもっと行政がリソースを割けるのではないですかということで,そちらのほうにうまく行政のリソースをむしろ配分するような全体のデザインが大事なのではないかという話をしています.

厳 ありがとうございます.では,奥村さんから.

奥村 弊社は東急㈱の子会社ですので,親会社である東急が頑張って来たと言いたいところではあります.それとともに,小泉先生からも「逃げない事業者」という話がありましたが,鉄道を走らせていろいろな施設も運営し,住んでいただいてという中で,「私たちはこの土地で事業をしていく」という覚悟を持っていると思います.

SDGsにはゴール11「住み続けられるまちづくりを」がありますが,ゴール12の「使う責任・作る責任」の視点,郊外のまち,ニュータウンを作ったからには,そこでちゃんと責任を持って事業をすることが重要かなと思っています.一般的なデベロッパーさんは,どこか開発してまた次に移っていくというところもあるかもしれないですが,大和ハウスは過去に開発した郊外住宅地にまた関わられています.今後全体的にそうなっていくのかなと思っています.

このように企業の存在はもちろんありますが,やはり住んでいらっしゃる方がいてくださるのでまちがあると思っています.60万人も住み続けていただいている理由をもっと知りたいところではありますが,私の知人にもずっと田園都市線の方が何人かいて,安心して住める,沿線以外だと住みたくないとおっしゃいます.

私の実家は東海道線沿線で,鉄道路線にあまりロイヤリティーはないのですが,知人たちは,本当に田園都市線沿線が大好きで,ある第2世代の方は,先ほど東急線というまちづくりの歴史をご説明しましたが,東急とともに成長してきた実感があるとおっしゃいました.世代によっては,沿線についての気持ちはだいぶ違ってくるのかもしれないのですが,皆さん総じてすごく愛していただいています.

また,宮前区もそうですし青葉区もそうですし,区役所の方ともお話しすると,それぞれ市民活動がほかのまちと比べてとても盛んだという話もあります.やはり住んでいる方がいらっしゃるからこそだと思っております.お答えにはなっていないのですが,以上です.

厳 ありがとうございました.時間が限られていますので,ほかの質問を伺いながら5名の方に答えていただきたいと思います.

どなたか,お願いします.

会場からAさん 私は昭和48年に青葉台に越してきまして,まだ本当に林にコジュケイがいた頃で,青葉台の駅前には釣り堀がありました.そこで子どもを産んで育ててきて,縁あって住んで5,6年で脱炭素推進のプロジェクトという団体を立ち上げました.

私は全然そういうものに関心がなくて,電気を消して会議をやっている,生活クラブでやっている人って変な人と思っていたのですが,それが今は,自分は事務所の電気も15本あったら半分以上は抜いてというような活動をしております.

脱炭素をどうやって進めるかというのが今,私もここで,青葉気候市民会議を多様な人と立ち上げて,一般市民の方が50名ぐらいいて意見を出してもらって,その報告書ができました.

それはそれとして,うちもマンションですが,高齢化してしまって,このマンションにどうやって住み続けるのか.さらにその頃は耐震診断も旧なんですよね.去年,理事長で,どうするんだという議論.新しい人が住んでくるのと,早く開発したので建物自体も高齢化している,人も高齢化している.その辺の,今後に向けてどうしていくかというのが大きな課題かと思いますが,どなたか.建築局さんがいますね,何かご意見等いただけたらありがたいです.

厳 ありがとうございます.では,粕谷さん,お答えいただけますか.

粕谷 いくつか視点があったかと思います.横浜市は郊外部が非常に広い範囲になっておりますので,それをどういうふうに再生していくかという観点の中で,地域に密着した企業さんと組んで四つの地域でモデル的にやってきたというのが,一つあります.

本来,一番課題が大きいのは駅から離れたところの団地や,今お話があった昭和40年代のマンションということで旧耐震のマンションだと思いますが,そういったマンション,団地というものをどのように再生していくのがいいのか,脱炭素もからめてどうやっていくのがいいのかというところになってくるのですが,そこに,これまでたまプラーザがやってきたいろいろなまちづくりなどをしっかり検証して,取り組みなども生かすものは生かしながら.

ただ,団地・マンションの再生については,団地の方々,マンションの方々が将来に向けて建て替えありきではなくて,建て替え,長寿命化のほか,敷地などの不動産をどう活用していくかなどいろいろな観点があるかと思いますが,そういったものを中立的におしなべて比較検討していくことが必要で,横浜市としてはそこに向けて,専門家の派遣や財政的な支援などをどのようにやっていったらいいのかを今試行錯誤しながら,そういった制度もあるのですが,やってきているところです.

そういったご意見をいただきながら,直接ご相談いただくこともあると思うのですが,しっかり取り組んでいきたいと思っています.

厳 ありがとうございました.せっかくの質問で,会場からの質問をお願いしたいと思います.

会場からBさん 今日はありがとうございました.私は80年代からここにずっと,もう30年ぐらい住んでいて,子どももいるので三世代たまプラーザに住んでいます.私自身もまちづくりの研究をしていて,ほかのまちに比べるとたまプラーザは突出してすごく成功している郊外だと思うのですが,一方で,高齢化の問題はとても大きいと思っています.

 うちの父もずっとたまプラーザに住んでいたのですが,父はよく,このまちは私みたいな30代女性とかに対してはすごくよくできているし,お母さんになってここに住みたいという人もたくさんいるんですが,男の人の行く場がないというのはすごく言っていました.

有隣堂しか行く場所がないと言っていて,それは実際,亡くなってみて本当にそうだったんだなと分かるようになったのですが,高齢化社会で一番問題なのは女性ではなくて,リタイアした後の男性だと思います.

なぜなら,リタイアするまでは一生懸命職場で働いていて都心でつながりがあった人が,急に住む場所に残されてしまう.女性たちはおしゃべりも好きですし,もともとの地域のつながりも多少はあったり買い物によく行くので何とかやっていけるのですが,認知症の問題で一番大事なのが会話だと言われますが,突然その会話がなくなってしまって,体力もちょっと落ちてくると,都心に行くのに最低20分とかかかるので行けないということが増えてくると,友達に会えないとか,会話のできる相手が家族以外にいないということになると思います.

そのときに,私も父を何とかするためにどうしたらいいんだろうと思って一生懸命いろいろ調べ始めたのですが,実際,いろいろ活動があるようで,あまりないということが分かりました.看板とかを見ても,「何だ,この開催は月に1回もやっていないじゃないか」など,そういうのが多くて,そうすると残りの28日はどうすればいいんだろうという感じがすることが非常に多かったんですけれども,高齢化していく中で特に男の人たちがまちの外に出て,かつ人と出会えたりとか,少し気分転換ができるような取り組みが今あるのか,これからどうしていったらいいのかということをぜひ教えていただければと思います.

厳 ありがとうございます.この質問はたぶん藤井さんしか答えられないと思います.女性の方々が主役でいろいろな活動をされていて,お父さんたち,どうされているのか,ぜひ聞きたいです.

藤井 男性の方が外に出るのがすごく難しいというのは分かります.だいたい今,割と年齢的に遅くまで働くようになりましたので,会社を辞めてからちょっとゴルフでもしようかと思って遊んでいるうちに,気が付いたらまちには誰も友達がいないという人は結構たくさんいます.

私は自治会に40年ぐらい関わっております.美しが丘の第一世代の方,その頃私もまだだいぶ若かったので,ずいぶんおじいちゃんたちにかわいがっていただきました.まちづくりというのはこういうことなんだよというのをすごく厳しく仕込まれました.

こういうことをやりたいなと言っても,遊び半分でやるんだったら駄目だとずいぶん.100段階段をやるというときも,おまえは一体何を言い出すんだというのは相当言われたんですが,一緒に活動している若い方が高齢者の方と一緒にお話をする機会を,100段階段を始めた段階で何回か持ちました.おじいちゃんたちがたくさん来られる,来てくださいと言ってお呼びする.そして若い方に,たまプラーザのまちづくりについてお話ししてあげてくださいということをお願いしました.

そうすると,「あんたたちに言っても分からないと思うけど,われわれはすごく苦労してこの町並みを守ってきたんだ」というお話をなさるわけです.そうすると,若い世代の女の子,男の子が,「へえー,すごいですね」「それだけ努力されたから,この町並みってすごいんですね」ということを割と素直に言ってくれたんです.そういうふうに言われて気分の悪い方ってまずいませんし,例えば100段階段を地域の標高スケールにするのはどうだとか,たまプラ遺産を作るのはどうだというのは,全部,高齢の方から出てきたアイデアです.それを若い人たちが形にしていった.

そしたら,どこから来たか分からない馬の骨たちがこんなに素敵なものを作ったというので,若いやつって信用できないと思っていたけどなかなかやるじゃないか,という関係ができました.お互いをリスペクトするということができたんだろうなと思います.

今日も何人か知った方がいらしていますが,自分が寂しい年寄りにならないために自分からいろいろなところに出ていって,あれもやりたい,これもやりたいと言っていらっしゃる方が何人もいらっしゃいます.私は若いうちからそういうことをおっしゃるのはすごくいいことだなと.

定年する前から何かやってしまう.できる範囲のことでいいと思いますし,私は先輩から,できる人ができるときにできることをやる,それが自治会活動だと教えていただきました.自分が楽しいこと,カラオケばかりやっているとかディズニーランドに遊びに行こうだけではなく,そうではなくて,自分も人にサービスしてあげるということを何かやっていると必ずつながりはできるのではないかなと.

サービスは,受ける側と思っている方が多過ぎると思います.ただ,サービスする立場になってみて,自分がしたことで人が喜んでくれるとこんなうれしいことはないんですよね.やってみないと分からないことなので,ちょっと動いてみることを若いうちに始めていただくといいかなと思います.

厳 お父さんたち,先生たち,定年退職の前から活動を始めると.残り,まだ数分ありますので,ぜひ会場から質問してください.

会場からCさん 中部自治会会員のショウと申します.居住歴は30年ぐらいになるのですが,班長になって今年初めて自治会の細々とした,横断的ないろいろな役割のことを分かるようになり,くじ引きの運がよすぎて理事にまでなってしまい,いろいろと皆さんとお話しする機会やら,自治会では本当にいろいろな方が活動されていることがよく分かりました.

今,若い世代の中で,お母さま方は働いていらっしゃる方が本当に多くて,班長になっても理事は無理ですとか,班長になってしまったけれどどうしようみたいな形ですが,これだけ,ネットで会議にも参加できたりとか,お子さまがこんなに小さい方とか乳飲み子を抱えていらしてという方もたくさんいらっしゃるのですが,参加の機会を.いろいろな媒体がありますので,そういったものでも関われる.多様性とおっしゃいましたが,まさにそういう方々のご意見も本当に必要だなと思いました.

私の住んでいる近隣,両隣の方も,坂が多いので平坦なところに引っ越してしまった方とかも多いのですが,今,ずっと振り返って,モビリティーのこととかいろいろなことをまちづくりで話し合い,私もずっと働いていたので参画することは全然できなかったのですが,都度,いろいろな情報がポストインで入っていて,今こんなことをやっているんだなとか,地域の住宅地の中にいろいろな輸送手段,社会実験みたいなこともされていて,そういうのも必要だなと思います.

皆さん,だいたい車を持っていらっしゃったりするので,シェアライドなどの形でももしかしたら,ご近所の方が駅前まで歩いているところ,「あら,◯◯さん」みたいな形で誘って「駅まで行きましょうか」みたいな感じでももしかしたらいいのかなとか思ったり,いろいろな多様性というか,ご高齢の方から子育ての世代まで住みやすいまちづくりを,多様な人のご意見とか参画の在り方とかも考えながらやっていくのがいいのかなとすごく思いました.

藤井さんの学ぶ会とか参加はできませんでしたが,すごくいい活動をされている方がたくさんいらっしゃって,班長になって,今も仕事は続けているのでなかなか全部はできないのですが支え合いながら,できる人がやってくだったりとか,すごく皆さん温かい中で活動ができていていいなと思うので,住民としてももっと地域に関わらなければいけないなと思っています.これからもこういった機会を,自治会の中でも広報していきたいなと思いました.

厳 ありがとうございました.ほかにどなたかご質問がありますか.

会場からDさん 本日はありがとうございました.私は,ここの近くにある美しが丘小学校で今年から勤めることになりましたので,皆さんのまちづくりに対する今までの取り組みを教えていただいて本当に勉強になりました.まずはありがとうございます.

今までと少し違う視点で教えていただきたいのですが,中山先生がこれからNEXUS構想の中でもIoT分野でどのようにこのまちづくりに関与されていくのかを教えていただきたい.

というのは,虹が丘団地団地のほうでは,空中の配送の実証実験とかもやっていらっしゃるのでしょうか.そういったこともNEXUS構想を見てみると書いてあったので,このたまプラーザという場において,それこそ美しが丘のほうは高いところに高齢者が住んでいらっしゃるためまちに出にくいという話も聞いていたので,そういった分野においてどういった実証実験であったり構想をされているのか,現状の段階でいいのですが教えていただいたら幸いです.

中山 ご質問ありがとうございます.まず,東急さんのNEXUS構想があるのですが,実はうちの研究室のNEXUSとは関係のないところからスタートし,たまたま同じキーワードがこのまちに,聞き慣れない言葉なのですが二つ同時に出現したということです.

私の研究室ではセンサーを使った研究もたまプラーザでやっていて,藤井さんにご協力いただいています.こんな2cm×2cm×2cmぐらいのとても小さいセンサー.これは電池でずっと動くのですが,これで温度も湿度も測れて,何でもだいたい測りたいことがあれば測れるんですが,そのときは,まちでどこが暑いのかを知りたくなって,そういうものを置かせていただきました.

そういうことが分かると何がいいかというと,今日もエクスカーションで非常に暑かったのですが,涼しい道というのが必ずまちの中にあるはずです.例えば日陰が多いとか,そういった道.この時間だとここが暑くなるからここは通りたくないよといったことがあります.そういった道を探索するとか,そういったことに使えていくというのはあると思います.

IoTを入れていくとかそういったときに,一番重要になるのは電源と通信の問題です.電源というのは,電池だと誰かが交換しないといけないわけです.僕たちも電池式にしたので,藤井さんに何度もご協力いただいてまちの中を全部連れていっていただいて,電池を一個一個交換していくのですが,これは結構大変です.大変なので,最終的には住民の方に電池を送って,電池交換してくださいと.でも,「そんな精密機器,触ったら壊れそうです」「やってください.絶対壊れないんで」とかありましたが,それが一つの問題です.

もう一つは通信の問題です.取ったデータをどこかにためて分析して,まちの中に返してあげるのが一番大切です.そのときに,例えばご自宅のWi-Fiを経由して送らせてもらうのが一つあるのですが,電柱とかにぶら下げようとすると,そこにWi-Fiは通っていないのでどうするんだろうという話になるわけです.なので,例えばau,ドコモなどLTEの回線を契約してそのままセンサーにぶち込むといったこともできるのですが,それだとお金がかかることもあって,そういったものをどうしていくか.

それらが解決されていくと,IoTが実際にこのまちの中で使われていくような時代が来るのかなと思います.

厳 ありがとうございます.だいぶ時間が経過しました.こういう形でさまざまな話題がこのまちに飛び交っていて,このような議論から新しい可能性もますますたくさん生まれると思います.予定の時間になっていますが,当学会前会長の林義嗣先生がこのまちで学生のときに研究されたわけですから,コメントをいただきたいと思います.

林 名古屋から来ました,前会長の林と申します.私が博士論文で対象にしたのは,田園都市線のこの辺りです.もう忘れてしまいましたが,1976,7,8年ぐらいにこの辺で,ここを対象に研究していました.それは,田園都市線が伸びていったときに,住宅が一体どのように張り付いていくかという予測を兼ねた研究です.私がやっていたのは,時間というものがまずあって,どれぐらいの時間で職場に行けるかとか,どのぐらいの時間で駅に行けるかなどをベースにした単純なモデルです.

ところが現在の社会,時間がとても速い.これはずっと前から言われていたのですが,ますますそうなってきていて,実は私自身も時間をベースにした計画では成り立たなくなるのではないかと思って,20年ほど前からQOL(Quality of Life)を測るみたいなことをやってきて,QOLおじさんみたいになってしまいました.

ところが,私が研究してきたQOLはアクセシビリティというか,そういうものをベースにしたものであって,今日お聞きしていると,まちとかコミュニティの活動そのものがQOLの要素になっているなということを非常に強く感じたわけです.

私のモデルもこれからかなり改良しなくてはいけなくて,実は日本だけではなくシンガポールとか,特にバンコクはずっと40年ぐらい前から鉄道とモビリティをやっていて,つい3月までも,福田先生はバンコクのプロですが,私はそういうプロジェクトもやってきました.

今日は本当に感心して,QOLと同時に,私が今考えている用語が継承可能都市,そういう言葉を使おうではないかというのを最近言っています.今日お聞きしていると,継承可能にするには,私はちょっと前まで,今日までと言ったほうがいいのですが,物理的なことを考えていました.日本のまちは,この沿線は特に違うのですが,駅前に行くと,駅に近ければ近いほどガタガタになってきました.都市計画のコントロールが日本は非常に緩くて,せっかくお父さんが頑張って戸建て住宅を買ったら,次の年に南側に20階のマンションが建ったといったことが横行しています.

 しかし,東急さんや横浜市さんを褒めるわけではないのですが,この沿線は,50年ぶりと言ったら大げさですが,久しぶりに来たところ,今のところ,非常にそれは整っていますね.そういう意味でも非常に感心しましたし,物理的なストックとしてきちっとやれている.だけど,これがこれからもできるかどうかは別問題なので,ここはやはりきちっとやらなくてはいけない.

 それから,コンパクトシティとよく言われていますが,コンパクトシティには誰も反対しないのだけれども,どうやってコンパクトにしていくかというプロセスがまだ全然できていないので,やはりそれをやる必要があるのではないかと思っています.まちの真ん中に集まってくれといっても,まちの真ん中に来ると,そこに立地すると税金が高いですよね.それをどうやって逆転させるかとか,そんなことも考えなくてはいけないということがあって,そういうストックと.ストックというのは物理的なストックだけではなく,ますます重要になってくるのは,僕は活動と言いましたが,先ほどからの藤井さんの話とか東急さんの伝統ですね.

 元へ戻ると,小林一三さんという阪急,箕面電鉄を作った人がこの元祖みたいな人で,その後,五島慶太さんが非常に仲良くなったのかどうか,そのへんは知りませんが,ここでやろうということになったのですが,小林一三さんは,われわれ鉄道業は鉄道を作って走らせることはもちろんやるのだけども,われわれの目的はそうではなくて,沿線文化を作ることである,そんなことをおっしゃっています.そういうことを実現してきたなという実感です.

今日はそういうことに感心して,そしてコロナの頃のデータなども捉えて,平常時だけではなく,何か起こったときのレジリエンス,そんなことも考えておられるし,素晴らしい方がここに,小泉先生からずらっと集まっておられる,これ自体がすごいことだと思いました.

 話が長くなりましたが,お礼を兼ねて申し上げました.ありがとうございました.

厳 ありがとうございます.林先生,高遠な立場・観点から非常によくまとめていただきました.世界の観点からこのような郊外のまちづくり,どんな意味があるのか,あるいは横展開にも.田園都市線沿線の展開,横浜市内全体,首都圏,世界的に同じような問題を抱えているまちはたくさんあります.高齢化といっても,僕の出身の中国はこんなガタ落ちの人口の減少・高齢化でありますので,どうなっていくのか今,予想がつきませんから,日本の経験が本当にたくさん生かせると思います.

時間が押しています.約束の5時は回っていますが,最後に東急総合研究所の奥村さんから一言閉会のご挨拶をお願いします.

奥村 僭越ですが閉会のご挨拶をさせていただきます.弊社の共催とさせていただいていますが,実は何もしていませんで,厳先生からお声をかけていただいて,こういうお話の機会をいただいてとてもありがたいと思っておりました.

今日参加してみて,予想外に多くの方が来られていてかなり緊張したりしましたが,共創という名にふさわしく,アカデミアの方,市民の方,自治体の方,そして最後のトークのところでもいろいろな視点から,市民の方から,そして先生からもお話しいただけて,とても私としても学びになりましたし,これからの皆さまの活動がさらに発展するのではないかと思っております.

これで閉会とさせていただきたいと思います.どうもありがとうございました.

6.交流会

シンポジウム閉会後,共創まちづくりプロジェクト(住民創発プロジェクト)の提案から生まれて,事業化になった「3丁目カフェ」で交流会を開きました.学会員,講演者,関係者の他,地域まちづくりリーダーたちも集まり,久々の再会に喜び,近況を報告し合いました.学会員と地域住民が一緒に飲んで話して,シンポジウムの余韻を楽しみながら,ここの共創まちづくりがますます発展していくものと期待できると思いました.

(写真撮影 厳網林)

著者連絡先

厳網林

〒252-0886 神奈川県藤沢市遠藤5322

慶應義塾大学環境情報学部

Email: w_yan@keio.jp

2024年8月19日受付

 
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