2025 Volume 41 Issue 1 Pages 36-45
Abstract: Stable treatment with cementitious solidifier is carried out as a countermeasure against soft ground, but the use of cementitious solidifier for ground improvement leads to a large amount of carbon dioxide emission during the firing of the limestone. In the future, the use of returned concrete will contribute to the reduction of carbon dioxide. In addition, effective use of by-products as auxiliary materials will lead to carbon dioxide reduction. In road construction, it is expected that technology will be applied to add value to the generated soil at the site, and consideration of effective use will be considered.
1.はじめに
地球環境問題のひとつに地球温暖化が挙げられ,対策として二酸化炭素(CO2)の排出量削減が喫緊の課題として求められている.
産業部門においてCO2排出量が多い種別はセメント製造業と鉄鋼業であり,これらの業種ではCO2削減に取り組んでいる.さらにセメントを用いるコンクリート工場では,余剰の生コンが使用されずに廃棄物として処理されるため,有効利用が求められている.セメントの製造では,石灰石類,粘土類が所定の化学組成となるように調合する.その後,ミルで回転窯(キルン)に入れ,約1,450℃の温度で焼成し,セメント鉱物が合成される.この間にすべての炭酸カルシウムは酸化カルシウムと二酸化炭素に分解し,大量の二酸化炭素を発生する.セメントの用途としては,コンクリート以外にも地盤改良材として用いられている.地盤改良材はセメントの代替として高炉スラグ微粉末をベースとしたアルカリ刺激による固化に関する研究が行われているが,アルカリ刺激材としてセメントや石灰を用いる必要がある.
高炉スラグを地盤改良材に用いる研究では,山田ら1)は酸化マグネシウム改良土が持つ暴露条件下での長期安定性に着目し,酸化マグネシウムと高炉スラグ微粉末からなる混合固化材を用いて室内試験を行っている.稲積ら2)は,高炉スラグ微粉末に廃ガラス微粉末等のシリカを多量に含む無機系廃棄物とアルカリ助剤を混合した添加材を加えることで硬化が発現する固化材を開発した.猪ら3)は,構造の異なる2種類の粘土鉱物に対し,高炉スラグ微粉末を含有する高炉セメントスラリーに無水セッコウおよび石灰石微粉末を添加し,初期強度発現への影響について検討した.これらの研究はいずれもアルカリ刺激材としてセメントや石灰などのCO2が発生した材料を用いている.
一方,コンクリート製造工場では生コンクリート(以下,生コンと呼称)を工場で製造し,現場に納入したものの,余ったものは使用されず,工場に戻されるいわゆる戻りコンクリート(以下,戻りコンと呼称)の対応にかねてより苦慮し続けている4).戻りコンに関する研究では,大川ら5),6)の研究によると生コン工場で発生する戻りコンから骨材を回収し,残余のスラッジ水を脱水後,破砕乾燥処理した乾燥スラッジ微粉末についての研究がある.また,橋本ら7)は戻りコンから製造した乾燥スラッジ微粉末を生コンやプレキャストコンクリートに有効利用するための取り組みを行っている.さらに,生コン工場と建設会社が共同で戻りコン由来のスラッジについてこれまでに実打設等の検討を行ってきた.しかしそのほとんどが実装まで至っていないのが現状である8).
これらの研究のように,高炉スラグ微粉末を地盤改良材として有効活用するための研究は見られるものの,それを戻りコンと組み合わせた研究がほとんどない.そこで著者らは,廃棄物である戻りコンと副産物である高炉スラグ微粉末を有効利用することは,CO2を削減し,さらに廃棄物や副産物を資源として有効活用することになり循環型社会に貢献できると考えた.現場で使用されずに余った戻りコンは廃棄することを前提に考えているため,新たにCO2が排出されない.また,高炉スラグは製鉄時に高炉から発生してしまう副産物であるため,こちらも新たにCO2が排出されないことに着目した.そこで,これらを地盤改良材として利用することでCO2削減に寄与することを目的に検討した.
2.試験概要
2-1.使用材料
(1)高炉スラグ微粉末
高炉スラグは高炉で銑鉄を製造する際に発生する副産物である.その原料は主として赤鉄鉱や褐鉄鉱,磁鉄鉱などの鉄鉱石,燃料および還元剤としてのコークス,鉄以外の成分を除去するための石灰石である.鉄は還元されて炭素分を含む銑鉄となり,その他の成分は石灰石中の酸化カルシウムと化合して高炉スラグとなり,これらは密度の差により上下に分離した状態で,高炉下部の出銑口から約1,500℃の溶融状態で炉外に排出される.溶融高炉スラグは,その冷却方法により徐冷処理と急冷処理に大別される.このうち高炉スラグ微粉末の原材料となるのは水で急冷された高炉水砕スラグであり,これを微粉砕することで高炉スラグ微粉末が製造される7).
図1に示す2021年度高炉スラグ使用内訳より,高炉スラグの地盤改良材としての利用は全体の0.0%に留まり,地盤工学分野において将来的に利用できる余地が十分ある.セメント用販売量(国内・輸出)の推移を表1に示す.これより高炉スラグの81%は高炉セメント用として利用されているものの,そのうち6割が輸出されている8).さらに,輸出するために利用する船舶からの排出CO2も膨大になり,これを削減するべきである. 本実験では,千葉県君津市産の高炉スラグ微粉末4,000(石膏無し)を使用した.
図1 2021年度高炉スラグ使用内訳8),9)
表1 セメント用販売量(国内・輸出)の推移8)
(2)戻りコンクリート
生コン工場において,生コンを製造し建設現場に出荷したものの,使用されずにそのまま生コン工場に戻される戻りコンが一定量発生する.現状では生コン工場において再利用する手段がないため,戻りコンを工場内のヤードに仮置きし,ヤードが溜まると生コン工場側の負担で運賃および産廃処分費をかけて中間処理施設に排出している.戻りコンを図2に,戻りコンの中間処理施設への排出状況を図3に示す.中間処理施設では戻りコンを破砕し,粒度調整後に再生路盤材として現場に出荷しているものの,都市部を中心に需給バランスの崩れから再生路盤材を大量に余らせており,中間処理施設でも対応に苦慮している.そのため,中間処理施設から地方の現場に船で運搬しているが,運搬によるコスト増およびCO2の排出増に繋がっている.
図4に示す現状における年度別残コン・戻りコンの発生比率の推移より,湘南生コンクリート協同組合管内では出荷した生コンのうち毎年2.5%前後が戻りコンとして現場から生コン工場に戻されていることがわかる10).また,全国的にみても全体の残コンの排出状況・戻りコン発生率は約1.6%となっている11).これは,現場が生コンを発注する際の計画量と実績量の較差,施工中の天候の急変,機械のトラブルによる打設の中止,打設当日に生コン量が不足し翌日以降に施工を続けることで発生する施工不良(コールドジョイント等)への不安から多めに発注すること,工場と現場が離れているため終了間際のアジテータ車の細かな数量調整
図2 戻りコン 図3 戻りコンの中間処理
施設への排出状況
図4 年度別残コン・戻りコンの発生比率の推移
(湘南生コンクリート協同組合) 10)
が難しい等の問題がある.このため,かねてから戻りコンの問題は生コン工場のみならず建設会社も抑制を行う必要性を感じているものの,現場管理の運用上,戻りコンの発生率はなかなか改善されていない11).本実験では,神奈川県藤沢市内製造の戻りコン乾燥微粉末を使用した.
(3)改良対象土
本実験では,鹿児島県東部から宮崎県の一部(約4,000km2)を覆うシラス土を用いた.これは,姶良カルデラから噴出した約3万年前の入戸火砕流を中心とした堆積物で,粒径が幅広く軽石も含まれる.地震や強雨の際に斜面崩壊を起こしやすいほか,選別コストや性能面に課題がある12).本実験で使用したシラス土は鹿児島県志布志市産である.これを図5に示す.シラス土を採取後,乾燥炉で絶乾
図5 シラス土
状態にし,9.5mmふるいでふるい,最適含水比になるよう加水法により調整して使用した.
土粒子の密度試験(JIS A 1202)13⁾より土粒子密度の平均
図6 シラス土の粒形加積曲線
表2 シラス土の粒度分布
値は2.243kg/cm³であった.また,土の粒度は図6,表2に示すように土の粒度試験(JIS A 1204)14⁾に基づき試験を行った.土粒子の粒径が広がっているため,9.5mm~0.075mmはふるい分析を行い,0.075mm未満は沈降分析を行った.均等係数Ucと曲率係数Uc'の値から土の粒度の広がりや形状をみるとUc≥10を満たすため,粒径幅が広くなっていることが確認できた.シラスの最適含水比を把握するため,突固めによる土のの締固め試験(JIS A 1210)15⁾に準じ,A-a法にて試験を実施し,表3,図7に示すように最大乾燥密度ρdmax=1.321mg/m3,最適含水比wopt=27.5%となった.
表3 シラス土の最適含水比と最大乾燥密度
図7 シラス土の締固め曲線
(4)化学成分
本研究に用いた材料の高炉スラグ微粉末,戻りコン微粉末,改良対象土のシラス土の化学成分を表4に示す.
表4 材料および改良対象土の化学成分
高炉スラグ微粉末の製造工程で石膏を添加しないため,三酸化硫黄(SO3)の含有量は2.1%である.
戻りコン微粉末を図8に示す.成分は酸化カルシウム(CaO),二酸化ケイ素
図8 戻りコン微粉末
(SiO2),酸化アルミニウム
(Al2O3)酸化鉄(Fe2O3),三酸化硫黄(SO3)等を含有する.
③ シラス土
シラス土の化学成分は二酸化ケイ素(SiO2)と酸化アルミニウム(Al2O3)からなることが確認できた.
(5)鉱物組成
本研究に用いた材料の高炉スラグ微粉末,戻りコン粉末,シラス土のXRDパターンを図9に示す.
① 高炉スラグ微粉末
高炉スラグ微粉末は,結晶質の存在がほとんどなく,ガラス質であることが確認された.
② シラス土
シラス土は,ガラス質の部分が多く含まれると考えられるが,アルバイトのピークが優勢にみられ,その他にはクリストラバイトや石英を含有している.
図9 XRDパターン
2-2.材料配合
材料配合を表5に示す.各材料配合比のものを乾燥質量換算のシラス土に添加し,その特性を検討した.
表5 材料配合
2-3.試験項目および試験方法
(1) 一軸圧縮強度
供試体の作製は,安定処理土の締固めをしない供試体作製(JGS-0821)16)に準拠した.供試体は作製時に高
さ100mm,直径50mmの円柱状のプラスチック製モールドで作製した.養生は,混合した処理土を充填した
モールドを常温(20±3℃)で所定の期間静置した.供試体の養生日数は7日,28日で設定した.作製手順は,最適含水比のシラス土に戻りコンおよび高炉スラグ微粉末を加え,均一な安定処理土になるように10分混合し,安定処理を施した.さらに,作製した安定処理土をモールドに3層に分けて入れ,気泡を除去するためにモールド本体を揺すり細かい衝撃を与えることで空隙を埋め,Φ6mm鋼棒を用いて締固めた.供試体作製後,乾燥防止のためラップに包んで密封し,所定の養生日数経過後に供試体を脱型した.脱型後,一軸圧縮強度を測定するために,一軸圧縮試験機を用いて一軸圧縮試験(JIS A 1216) 17)を行い,安定処理土の力学特性を把握した.
(2) 示差熱分析(TG-DTA)
TG-DTA試験は,試料を一定速度で連続的に加熱した際の質量変化を測定する熱質量分析(TG)と発熱や吸熱などの熱的挙動を計測する示差熱分析(DTA)を同時に行う分析である.TG曲線とDTA曲線における曲線と温度を組み合わせることで試料に含まれる物質を定量した.測定には日立製STA7300を使用し,室温から1,000℃まで10℃/分で昇温し,その過程における質量減少率を測定した.400℃付近のDTA曲線の吸熱反応のピークに相当する温度範囲の質量減少率から試料中の水酸化カルシウム量を計算した.また,700~800℃付近の急熱ピークを炭酸カルシウムからの脱炭酸とみなし,試料の炭酸化による影響を検討した.
(3) X線回折(XRD)
各試料の鉱物組成を調べるため,XRD分析装置を用いて微粉砕した試料のX線回折(XRD)を実施した.測定にはRigaku製UltimaⅣを使用した.測定条件は,走査範囲 5-80°(2θ・CuKα),走査速度0.03°・sec-1,管電圧40kV,管電流40mAの条件で測定を行った.
3.試験結果および考察
(1) 一軸圧縮強度結果
戻りコンと高炉スラグ微粉末を混合した材料を用い,シラス土の一軸圧縮試験を行った.その結果を図10~17に示す.
① 添加量2.5%における7日養生の一軸圧縮試験結果を図10に,28日養生の結果を図14に示す.これより,戻りコンと高炉スラグ微粉末の配合比率による影響はなく,いずれも低強度である.これより,シラス土に対し添加量2.5%では,改良効果が得られないことがわかる.
② 添加量5.0%における7日養生の一軸圧縮試験結果を図11に,28日養生の一軸圧縮試験結果を図15に示す.これらの結果より,一軸圧縮強度が最も高かった配合は,戻りコン75%-高炉スラグ微粉末25%のものである.
添加量7.5%における7日養生の一軸圧縮試験結果を図12に,28日養生の一軸圧縮試験結果を図16に示す.これらの結果より一軸圧縮強度が最も高かった配合は,戻りコン50%-高炉スラグ微粉末50%のものである.
添加量10.0%における7日養生の一軸圧縮試験結果を図13に,28日養生の一軸圧縮試験結果を図17に示す.これらの結果より,一軸圧縮強度が最も高かった配合は,戻りコン25%-高炉スラグ微粉末75%のものである.
全体を通してみると,一軸圧縮強度が最も高かった配合は,7日養生では,図13に示すように戻りコン25%-高炉スラグ微粉末75%(添加量10.0%)の配合,28日養生では図16に示すように戻りコン50%-高炉スラグ微粉末50%(添加量7.5%)のものとなった.
③ 図10~図17は,いずれも,高炉スラグ微粉末100%の図中の青色で示す配合では,一軸圧縮強度(以下,強度と呼称)のピークが明らかではない.これは,いずれの添加率においても7日,28日養生ともに高炉スラグ微粉末がほぼ水和していないことが考えられる.すなわち,高炉スラグ微粉末は単体ではアルカリ刺激がないと水和しにくいことから強度が得られていないと考えられる.
図10 一軸圧縮試験結果(添加量2.5%,7日養生)
図11 一軸圧縮試験結果(添加量5.0%,7日養生)
図12 一軸圧縮試験結果(添加量7.5%,7日養生)
図13 一軸圧縮試験結果(添加量10.0%,7日養生)
図14 一軸圧縮試験結果(添加量2.5%,28日養生)
図15 一軸圧縮試験結果(添加量5.0%,28日養生)
図16 一軸圧縮試験結果(添加量7.5%,28日養生)
図17 一軸圧縮試験結果(添加量10.0%,28日養生)
④ 図10~図17は,いずれも,戻りコン100%-高炉
スラグ微粉末0%の図中の紫色で示す配合では,添加
量の増加とともに強度発現が認められるが,いずれの
添加量においても7日から28日養生にかけて強度の増
加が認められない.これは,戻りコンに水和活性が残
っていると推察される.また,戻りコンの水和が7日
以内に終了したと考えられる.
⑤ 図10~図17は,いずれも,戻りコン25%-高炉スラグ微粉末75%の図中の黄色の配合では強度増加がみられた.戻りコン25%-高炉スラグ微粉末75%の配合と戻りコン50%-高炉スラグ微粉末50%の配合は,7日から28日養生にかけ,いずれも強度が大きく増加した.一方,戻りコン75%-高炉スラグ微粉末25%の配合では,強度の伸びが小さくなった.これより強度発現には高炉スラグ微粉末の配合量が大きく寄与していることがわかった.いずれの配合でも戻りコン100%(紫色),高炉スラグ微粉末100%(青色)より両者を混合した配合のほうが強度の増加が認められたため,シラス土の地盤改良材としては戻りコンと高炉スラグ微粉末の混合系で効果が得られることがわかった.
⑥ 戻りコンの割合が少ない配合でもこれを配分することで,強度の増加が認められていることから,戻りコンの効果は残存水和活性にあるのではなく,これに含まれるCa(OH)2による高炉スラグ微粉末のアルカリ刺激材としての役割が大きいと考えられる.水和活性が残っていない戻りコンでも,生成したCa(OH)2によりアルカリ刺激材としての機能を発揮できることが考えられ,戻りコンの課題である品質のばらつきを考慮せずに使用することができると考えられる.将来的には,戻りコンを有効利用できる範囲を拡大することができると考えられる.
(2) TG-DTA分析結果
一軸圧縮試験結果から現象に関する考察を行ったが,メカニズムを詳細に検討するため,各配合のTG-DTA分析を行った.戻りコン100%以外の試料では,400℃付近でCa(OH)2の脱水に伴う吸熱ピークが認められなかった.その例として図18および図19に示す.これは,7日までに戻りコンに含まれるCa(OH)2
図18 TG-DTA分析結果
(戻りコン50%:高炉スラグ微粉末50%)(7日養生)
図19 TG-DTA分析結果
(戻りコン50%:スラグ50%)(28日養生)
図20 戻りコン100%・添加量5%の供試体の7日
および28日養生におけるTG-DTA分析結果
が高炉スラグ微粉末のアルカリ刺激材として消費されたことに起因すると考えられる.一方,戻りコン100%で添加量5.0%の供試体の7日および28日養生におけるTG-DTA分析の結果を図20に示す.図中の紫色の円に示すように,橙色の線で示す7日養生では400℃付近でCa(OH)2の脱水に伴う吸熱ピークが確認できるが,水色の線で示す28日養生では同箇所におけるピーク値が7日養生と比較して小さくなっている.この結果は,7日から28日養生にかけて,Ca(OH)2が消費されていることを示す.高炉スラグ微粉末が混合されていないにも関わらず28日養生までにCa(OH)2が消費されていることは,28日養生までに残存Ca(OH)2がシラス土のガラス質(SiO2)成分とのポゾラン反応により消費されたと考えられる.シラス土のポゾラン反応が,強度発現の増加に寄与していると考えられる.
(3) XRD試験結果
各供試体のXRD分析を行った結果を図21に示す.
戻りコン単体のXRDパターンには,2θ=18°のところにCa(OH)2のピークが確認できるが,図20のX線回折パターンにはそのピークがいずれも認められない. この結果でも,7日以内にCa(OH)2が消費されていることが確認された.
4. CO2排出削減効果
一軸圧縮試験結果よりCO2排出削減効果を試算した. 路線長1,000m,幅員5m,路床深さ1mの道路工事と仮定したシラス土の路床に残コン50%と高炉スラグ微
図21 XRD分析結果
粉末50%を混合し,試製した地盤改良材を7.5%添加し,普通ポルトランドセメントで改良したケースと比較する.改良するシラス土の量は,路線区間のシラス土量5,000m3,最大乾燥密度は1.32t/m3,最適含水比は27.5%
で質量は8,415tとなる.
実験に用いた原材料のCO2排出原単位は,戻りコンが95.8kg-CO2/t18),高炉スラグ微粉末が26.5kg-CO2/t19)とし,またその比較材として普通ポルトランドセメントが764.3kg-CO2/t20)とする.
① 試製地盤改良材のCO2排出量
(戻りコン50%-高炉スラグ微粉末50%)
(0.0958t+0.0265t)×8,415t-CO2/t=1,029.2t-CO2/t
路線1km当たりの路床建設の排出量 約1,029t
② セメントのCO2排出量
0.7643×8,415=6,431.6t-CO2/t
路線1km当たりの路床建設の排出量 約6,432t
したがって,試製した地盤改良材のCO2排出量は,材料配合として普通ポルトランドセメント100%を用いた場合に比べ,約16%に抑えられると考えられる.すなわち,本地盤改良材を用いることで材料としてCO2を約84%の削減が期待できる.
5.まとめ
① 一軸圧縮試験結果より,戻りコンおよび高炉スラグ微粉末は,どちらも単体では水和反応が起こりにくく,強度増加が期待できない.一方,戻りコンと高炉スラグ微粉末の両方を混合した配合はいずれも強度の増加を確認できた.これより,戻りコンと高炉スラグ微粉末を組み合わせることでシラス土の地盤改良材として適用できると考えられる.
② TG-DTA分析結果より,戻りコン100%では7日養生では戻りコン中にまだ残存Ca(OH)2が残っている.しかし,高炉スラグ微粉末が混合されていない配合にも関わらず,28日養生までにCa(OH)2が消費されている.28日養生になると,Ca(OH)2がシラス土のガラス質(SiO2)分とポゾラン反応し,強度の発現には寄与していると考えられる.
③ XRD分析より高炉スラグ微粉末を用いた配合は,7日以内にCa(OH)2がアルカリ刺激材として消費されていることが確認された.
④ 産業廃棄物として扱われる戻りコンと産業副産物である高炉スラグ微粉末を混合することで,シラス土を対象とした地盤改良材を得ることができた.今回設定した条件のなかで強度が最も高かったのは7日養生では戻りコン25%-高炉スラグ微粉末75%(添加量10.0%)の配合,28日養生では戻りコン50%-高炉スラグ微粉末50%(添加量7.5%)の配合となった.
⑤ 試製したCO2排出量は,材料配合として普通ポルトランドセメント100%を用いた場合に比べ16%に抑えられる.すなわち,本地盤改良材を用いることでCO2を約84%低減することが期待できることが分かった.
著者連絡先
吉澤 拓人
〒274-0063 千葉県船橋市習志野台7丁目24-1
日本大学大学院理工学研究科交通システム工学専攻 地盤工学研究室(717)
E-mail:cstk21002@g.nihon-u.ac.jp
2024年8月20日受付 2025年3月18日受理
©日本環境共生学会(JAHES) 2025
本研究を行うにあたり,本学学生の小澤陸,伊藤凛太朗,門脇健太各君の協力を得ました.ここに記し,厚く感謝致します.