2025 Volume 41 Issue 1 Pages 81-90
Abstract: Invasive alien species pose major threats to the biodiversity conservation. Limited awareness has prevented thorough studies of domestic alien species. This study aims to highlight the importance of domestic alien species within invasion science by reviewing existing research in this area. We examined the characteristics of domestic alien species studies and compiled research conducted in Japan since 2002 from three databases, Google Scholar, CiNii Articles, and J-Stage. Our analysis, which included 82 articles published between 2010 and 2024, uncovered regional biases, taxonomic biases, and the importance of citizen science. Our findings indicate that studies on domestic alien species are not only crucial for fundamental biodiversity conservation research, but also have significant applications in environmental education. We also revealed that various English expressions are used to refer to domestic alien species in Japan. These insights are valuable for advancing research on domestic alien species.
1.はじめに
外来種は,過去または現在の自然分布域(補1)もしくは自然分散可能な範囲外,すなわち人為的な影響,人間活動を受けて他地域に生息するようになった種や亜種,あるいはそれ以下の分類群を指す1), 2), 3).生物多様性基本法において外来種は,人間が行う開発等による生物種の絶滅や生態系の破壊,人間の活動の縮小による里山等の劣化と合わせて,人類の生存基盤である生物多様性の損失に対する脅威のひとつとして認識されている.特に侵略的外来種は,生態系サービスの損失や生物多様性に不可逆的な影響を及ぼすため,その影響を抑えるためには,侵略的外来種となりうる外来種の生物学的侵入を防ぐこと,侵入後の外来種の早期発見や防除など,様々な対策が必須である.
また,外来種は,その起源・由来によって「国外外来種」と「国内外来種」に分類される4), 5).「国外外来種」は国外に起源を持つ外来種で,「国内外来種」は国内に起源を持つ外来種である.Roy et al.(2023)3)は,起源や由来によって外来種を分類していないが,国内外両方の起源の外来種が存在していることを認識している.国外外来種に関して,日本国内では,「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(以下,外来生物法)」によって甚大な被害を引き起こす海外起源(補2)の一部の外来種を特定外来生物として指定し,その取扱いに対して厳しい規制を設けている.
環境省と農林水産省は「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(以下,生態系被害防止外来種リスト)」を2015年に作成し(補3, 4),地方自治体や事業者,国民をはじめとする様々な主体に対し,外来種への関心と理解を高め,適切な行動を呼びかけることで,外来種対策の進展を図っている6).生態系被害防止外来種リストの掲載種は,各主体による対策の検討・実施の参考になるように区分されるだけでなく,その由来によっても分類されている.生態系被害防止外来種リストでは,外来種の中で日本国内に自然分布域を有していない生物種を「国外由来の外来種」とし,日本国内に自然分布域を有しているがその自然分布域を越えて国内の他地域に導入された生物種を「国内由来の外来種」(補5)として分類している6).これは,前述した「国外外来種」と「国内外来種」とほぼ同義であることから,本研究では以降,生態系被害防止外来種リスト上の「国外由来の外来種」を「国外外来種」,「国内由来の外来種」を「国内外来種」と定義して議論する.
2.国内外来種に関する諸問題
国内外来種は,侵略的外来種として存在する場合,国外外来種同様に不可逆的な影響を及ぼすことが生態系被害防止外来種リストで明文化されているものの,国内外来種自体の認知度は高くない7)ことからその存在や影響そのものを知られていないと考えられる.そのため,国内外来種として他地域に侵入し定着したとしても,その存在自体が顕在化しない,あるいは認識されない可能性が高く対策が遅れる懸念がある.このことは,侵略的な国外外来種と異なる点であり,国内外来種対策における大きな課題と考えられる.
瀬野(2013)8)は,国内外来種の特徴を2点あげている.1点目は国外外来種と比べて国内外来種は導入先で定着しやすいことである.これは,国内であることから地理的要因が導入元と類似している可能性が高く,海外から導入された種よりも定着しやすいことを指摘している8).2点目は,国内外来種は見分けにくいことである.国外外来種であれば外観的に日本産の種と大きく異なることもあるため,導入時に発見されやすい.一方で国内外来種の場合は,導入先に同種の亜種や別地域個体群が存在する場合,形態的に判断することが困難である8).加えて,国内外来種の場合,比較的に広範囲で認知度のある在来種が新たな場所に導入された場合,その種が元から在来種だったか新たに国内外来種となったか判断することは困難といえる.
Vitule et al.(2019)9)は,外来種の生息地に関するホットスポット分析について,国外外来種のみ10),国外外来種と国内外来種を組み合わせた場合の結果を比較し,国内外来種を考慮しないことで誤った結論に繋がる可能性を指摘している.Vitule et al.(2019)9)とDawson et al.(2017)10)の分析結果を比較すると,外来種のホットスポットが異なる場所で強調されたことから,外来種の分布評価や保全対象地の選定などに影響を及ぼすことが懸念される.また,国内外来種は,同じ種であったとしても国内の生息地によって在来種と国内外来種として分類される.このような場合,Nelufule et al.(2022)は,同種であったとしても,在来種の生息・生育域と国内外来種の生息・生育域と同一の管理手法や政策が有効でないことを指摘している11).
日本国内における国内外来種の基礎情報は,日本生態学会(2002)4)や生態系被害防止外来種リスト6)を中心に詳しく整理されている.また,日本魚類学会自然保護委員会(2013)12)は,国内外来魚について生態系への影響や拡散対策,関連法規などを包括的に議論し,日本国内の国内外来魚に関する研究事例も整理しているが,国内外来種に関する研究を概観した総説論文は,一部の分類群を除き,管見の限り存在しない.しかし,他の分類群で体系的な議論が不足していることや,国内外来種は認知度が高くないために影響が顕著な種のみが情報整理されている可能性がある.このことは国内外来種の影響が適切に評価されていない,または,把握されていないとも指摘できる.
ここまでに示された国内外来種に関する諸問題は,国内外来種自体に起因する問題や,在来種や国外外来種と比較されることで生じる問題であることが分かる.特に日本における国内外来種の基礎情報は整理されているものの,管理や対策に関する具体的な研究事例は魚類を除いて不足している状況と考えられる.そのため,本研究では日本国内における国内外来種研究に焦点を当て,包括的な情報整理を行う.
3.本研究の目的
本研究は,日本における国内外来種研究を包括的に整理し,国内外来種研究の特徴を考察し,国内外来種研究の意義を示すことを目的とする.
4.研究方法
4-1 文献収集
日本国内の国内外来種研究を整理するためにGoogle Scholar, CiNii ArticlesとJ-Stageを用いて文献収集を行った.日本国内における国内外来種の研究事例は,日本国内向けに公開されることが主として想定されるため,本研究においては日本語文献のみを対象とした.Google Scholar,CiNii Articles及びJ-Stageでの検索方法は,「『国内』AND『外来』」を検索キーワードとして設定し,引用文献も含む形でタイトル検索を行い,検索結果に表示された文献を収集した.文献収集を行った期間は,2024年4月から7月の4カ月間とした.また,web上で閲覧できなかった文献は,国立国会図書館にて閲覧もしくは収集した.「国内外来種」という用語は,2002年に一般的になったと考えられる4)ため,いずれの検索エンジンにおいても,2002年以降の文献を対象に検索した.キーワード設定の根拠は,外来生物法が示すように,「外来『種』」を意味する場合の「外来」の接尾語は必ずしも「種」だけではない.また,タイトルが生態系被害防止外来種リストに準拠する形で「国内由来の外来種」として表現している可能性もある.そのため,「国内外来『生物』」や「国内由来の外来種」などの表現が抽出できるように「『国内』AND『外来』」としてキーワードを設定した.ただし,外来種を意味する用語は現在までに様々な変遷を得ており,現時点でも多様な用語が存在している13).
4-2 文献抽出及び整理方法
Google Scholarから156件,CiNii Articlesから192件,J-Stageから58件の検索結果が得られた.書評やエッセイ,書籍,一般雑誌,重複する文献,国内外来種に関連しない文献などを除外し,学術誌に掲載された文献もしくは修士論文・博士論文のみを抽出し,計82件が抽出された.抽出された全ての文献は,要旨と必要に応じて本文を精読し,論文種類,研究対象,研究分野,研究地域,「国内外来」を意味する英語表現,に関してそれぞれ分類した.
論文種類は,抽出された文献の掲載誌が多岐に渡り,例えば,産地報告に類する内容であっても原著論文とされる文献が存在していたため,本研究の目的に合わせて論文種類を次の5種類,①研究:学術的に新たな知見や価値を含む文献,②記録・資料:遺伝子解析を含む産地報告を主とした文献,③報告:産地報告を除く事例報告,④総説:特定テーマに対して包括的に論じている文献,⑤その他:博士論文,修士論文など投稿論文ではない学術文献および①から④に当てはまらない文献,として可能な限り主観を排除して分類した.
研究対象は,国内外来種を分類群ごとに整理した.分類群は生態系被害防止外来種リスト6)の9分類群,「植物」・「哺乳類」・「鳥類」・「爬虫類」・「両生類」・「魚類」・「昆虫類」・「陸生節足動物」・「その他無脊椎動物」に準拠し,国内外来種以外の種を含む場合も国内外来種のみで分類した.また,1種のみを扱っている場合の文献は1分類群とし,複数の国内外来種を扱っている場合はそれぞれの分類群ごとに集計した.
研究分野は,総説を除いた文献について,「産地記録」,「生息/生育環境」,「生息/生育状況・分布」,「起源」,「生態・行動」,「影響」,「管理」,「技術開発」,「繁殖」,「寄生虫」,「教育」,「その他」に分類した.複数の研究分野にまたがる場合は,1つの文献内で主な研究分野を3つまで分類した.そのため,文献数と研究分野の合計数は一致しない.
研究地域は,地域間比較を行うために,サンプリン
図1 文献数の年次変動(n=82)
表1 論文種類ごとの文献数(n=82)
表2 研究対象の分類群ごとの文献数(n=82)
表3 研究分野ごとの文献数(n=79)
グ等の現地調査を実施した都道府県をその研究地域として集計した.そのため,国内外来種を活用した授業開発14)や国内外来種の視点から教育現場におけるメダカの扱いを検証した15)「教育」分野の文献,5都道府県以上にまたがる広域的な研究を除外した.
「国内外来」を意味する英語表現は,英語でタイトルが記載されている文献から,英語タイトルの表記で「生物」・「種」に相当する用語の接頭語として用いられている「国内外来」を意味する英語表現を集計した.「外来」種を意味する英語表現は,様々な表現が存在し,適切な用語を検討する議論が続いている13).「国内外来」種についても,外来種同様に多様な表現が想定されるが,どのような英語表現が存在するか網羅的に整理されていないことから,英語表現について整理を試みた.
5.結果
5-1 年次変動
文献数の年次変動を図1に示す.2002年から2009年までは文献を抽出できず,2010年より文献を抽出することができた.その後,2017年に2件まで減少しており,2023年に文献数が13件で最も多かった.また,2024年は収集時点では2件だった.
5-2 論文種類
論文種類について,表1に示す.論文種類は,「報告」が最も多く41件で,次に「記録・資料」が23件で多かった.「その他」には,博士論文が2件16), 17),修士論文が1件18)含まれた.
5-3 研究対象
研究対象について,表2に示す.研究対象は,いず
れの文献も国内外来種に関して1つの分類群を研究対象としており,複数の分類群を扱った研究は無かった.最も多い研究対象の分類は,40件の「魚類」で,次いで「両生類」は22件だった.
5-4 研究分野
研究分野について,表3に示す.総説を除いた79件の文献を整理した.複数の文献は分野をまたいだ研究を行っているため,文献数と総数は一致しない.最も多い研究分野は,「生息/生育状況・分布」で24件,
図2 都道府県ごとの文献数(n=73)
表4 英語タイトル内で接頭語として「国内外来」を意味する英語表現ごとの文献数(n=71)
次いで「産地記録」で23件だった.また,「生態・行動」や「影響」,「起源」について論じている文献も比較的多かった.その他には,国内外来化のリスク19)や,遺伝的集団構造16)について論じている文献が含まれた.
5-5 研究地域
研究地域について,図2に示す.研究地域は,いずれの文献も1つの都道府県のみで,文献数と合計の都道府県数は一致した(n=73).北海道が19件で最も多く,次いで神奈川県が7件,鹿児島県が6件,東京都・滋賀県が5件だった.文献が確認できなかった県は24県だった.また,5都道府県以上で行なわれた広域的な研究は4件だった.
5-6 「国内外来」を意味する英語表現
英語タイトル内で接頭語として「国内外来」を意味する英語表現について,表4に示す.英語タイトルは71件の文献で確認できた.その内,接頭語として「国内外来」を意味する英語表現は59件の文献で確認できた.英語表現は14パターンあり,「Domestic Alien」が17件で最も多く,次いで「Introduced」が7件,「Invasive」が6件だった.
6.考察
本結果より,日本国内の国内外来種に関する研究の現状について考察する.
6-1 近年の国内外来種研究の現状
現在までに国内外来種研究は明らかな増加傾向には無いが,環境省や農林水産省は,2015年に生態系被害防止外来種リスト6)を作成し,「国内外来種」について周知していることから,今後,国内外来種に関する研究事例は増加する可能性がある.
論文種類から検討すると,「報告」や「記録・資料」が合わせて全体の8割程度占めている.また,鬼倉・向井(2013)20)のように,国内外来種問題の解決に向けて知見を集積することの重要性を指摘している文献も存在し,三井・佐野(2023)21)のように国内外来種の分布拡大の懸念について警鐘を鳴らすことを目的とする文献も存在する.そのため,学術的な新規性は少ないとしても,知見を蓄積することで国内外来種の影響の深刻さを訴え続けること自体が重要といえるかもしれない.昆虫のリュウキュウツヤハナムグリの産地報告22)が示すようにペットや鑑賞目的の販売や飼育に起因する逸出も懸念されている23),24).また,昆虫だけでなく魚類においても,ペットや観賞魚による国内外来種化は懸念されており25),特定の分類群に関わらず飼育個体による国内外来種化の現状把握を目的とした研究が必要といえる.
国内外来種の研究対象は,「魚類」が5割程度を占めている.国内外来種における「魚類」研究の多さは,その関心度の高さを示していると考えられる.「魚類」における国内外来種問題は,他の分野と比しても国内外来魚に絞った書籍12)が出版されていることからもその関心度の高さが分かる.日本魚類学会自然保護委員会(2013)12)は,日本国内の水産業の発展が国内外来種問題の一因であることを指摘しており,水産資源の増加を目的とした種苗放流が肯定的に捉えられてきた社会情勢が背後にあることを論じている.
「両生類」は「魚類」に次いで文献数が多く,特に北海道における「両生類」の文献数が多い(15/22件)ことが特徴的である.北海道では,技術開発26), 27), 28)や管理29), 30)に関する文献が多数あるため,その関心の高さが伺える.特に国内外来種アズマヒキガエルに関する事例が中心であり,アズマヒキガエルに関する活動や研究事例を整理した総説31)もある.このような研究事例の増加とフィードバックの関係は,亘(2019)32)が指摘するような外来種対策を推進するサイクルに類似する事例といえる.亘(2019)は,このサイクルを「外来種対策を推進させる行政,研究者・市民団体,住民によるガバナンスのあり方.様々な主体の取り組みのサイクルが回ることで連携が強化され,状況の変化に応じた継続的な対策につながる」とし32),アズマヒキガエルの事例31)においても,地域住民の理解を得ながら,市民団体,研究者,行政が連携して対策に取り組んでいると言える.このような地域独自の国内外来種研究は,従来の生息分布以外での対策手法の検討が重要11)なことを考慮すると注目すべき取り組みといえる.
研究分野は,「生息/生育状況・分布」や「産地記録」が中心だった.このことは研究事例の蓄積が重要である20)ことを,研究者らが認識していることを反映している可能性がある.また,「生態」や「影響」に関する研究も比較的多くある.生息の有無だけでなく,定着先の生態系に対してどのような影響があるか評価することは,外来種対策を検討する上で必要であることから,今後更に研究事例を増やすことが重要である.
研究地域は,北海道が19件と最も多かった.北海道は「北海道外来種データベース」33)を作成しているが,都道府県ごとの外来種に関するリストの作成や条例の制定状況34)は,2021年時点でリストを28道府県が作成,条例を26都道府県が制定(補6)しているため,北海道行政が外来種対策に積極的なわけではなく,特定の研究者の問題意識や研究対象の顕著な影響により研究事例が多い可能性がある.このことは,北海道における研究者らの関心度の高さや,アズマヒキガエルの個体数の増加が懸念されていること31)を反映しているかもしれない. また,関東や関西に研究事例が集中しているのは,研究者の数に比例している可能性が高い.研究事例の蓄積は重要であることから,特に地方では,市民科学35)や市民参加型調査36)のような形で研究者と市民が協働することも重要と考える.森井(2021)37)は,外来種問題は市民科学が最も威力を発揮する分野と指摘している.特に国内外来種は,在来種と形態が類似することもあるため,地域の生物に詳しい在野研究者を巻き込む形の市民科学が望ましいと考えられる.
「国内外来」を意味する英語表現について,英語タイトル内で接頭語として「国内外来」を意味する英語表現が用いられた59件から14パターンの表現がみられた.これは,国際的な表現が統一されていないことを示している.例えば,Soto et al.(2024)13)は,「外来種」を意味する様々な表現について,歴史的に問題のある表現を避けた上で再考することを指摘している.このことは,表現が現在まで統一されていない現状を反映しており,本研究結果を反映しているといえる.今後,本研究から抽出された多様な英語表現を参考とし,日本国内における国内外来種の研究事例だけでなく,海外の研究事例も合わせて整理することで,国内外来種研究の国際的な研究状況を把握できるだろう.
6-2 国内外来種研究の意義
Nelufule et al.(2022)11)は,在来種と国内外来種が同じ種であったとしても同一の管理手法や政策が有効でないことを指摘しており,この観点は定着後に大きな影響をもたらす可能性の高い種で重要と考えられる.例えば,栄養段階の上位に位置する哺乳類の場合,生態系へのインパクトが大きくなることが懸念されるため38),早急に管理手法や政策案を検討する必要がある.そのため,特に哺乳類が国内外来種として定着した場合,管理手法を検討するために定着先における基礎的な生態情報を第一に収集すべきである.
また,国内外来種の研究事例を蓄積することは,環境教育の側面でも重要である.例えば,ホタル類の事例39)では,日本各地でホタル類の復活運動が環境教育や行政の町おこしの文脈で実施され.ホタル類が自然環境の保全や復元のシンボルとして扱われて来たことを指摘している.このような状況に対して,遺伝子解析のような研究事例は,ホタル類の持ち込みに対する国内外来種としてのリスクの説明材料として活用できる39).
加えて,特に日本のような島嶼国では,生物多様性保全のリスクは国内の在来種が島間における生物多様性保全に対するリスク,すなわち国内外来種となり得る可能性がある.そのため,国内外来種として意識的に区分して研究することは,国内外来種に対する危機意識を醸成することにもつながるといえる.
6-3 国内外来種と国外外来種の差異
国内外来種と国外外来種は,本研究の定義では国内由来か国外由来かどうかに差異があるのみである.本研究の結果や瀬野(2013)8)を踏まえて改めて特徴を検討すると,「国内外来種の問題は顕在化しない」ことこそが特徴であると指摘できるかもしれない.この理由として,研究対象の偏りから考察する.「魚類」と「両生類」は,国内外来種の観点から関心が高いために研究事例が比較的多かった.一方で,「鳥類」や「陸生節足動物」のように研究事例を抽出することができなかった分類群もある.荒谷(2015)24)は,昆虫類の国内外来種において自然分布か否かを判断することが難しいことを指摘しており,「鳥類」のように非人為的な場合でも移動範囲が広範囲な種に対しても同様の指摘が可能といえる.そのため,国内外来種か否か判定できないために,国内外来種が顕在化しない可能性がある.また,「『国外』外来種の問題は顕在化しない」か検討すると,国外外来種は在来種と比較して形態的に異なる可能性が高く,存在を認識されやすい.また,形態的に類似していたとしても,新たな地域に生息・生育するため,景観の変化や音声などにより存在を認識されやすいと考えられる.そのため,国外外来種の問題は国内外来種と比べると顕在化する,と言える.この特徴は国内外来種と国外外来種の差異と言え,国内外来種の特徴を端的に示すといえる.今後,こうした特徴を考慮した上で,顕在化していない影響を顕在化する前にいち早く発見する仕組みや手法を検討することが重要であり,国内外来種の研究事例を蓄積することで生物多様性保全に貢献しうると考える.
7.おわりに
本研究は,日本国内における国内外来種の研究状況を整理し,国内外来種研究の概観や研究の意義,国内外来種と国外外来種との差異を示した.「魚類」を中心に国内外来種研究は発展していた12)が,「両生類」や北海道に関する研究事例が多かったことが明らかとなったことは全体的なレビューを行なった1つの成果といえる.
最後に本研究の限界点について述べる.本研究は,Google Scholar,CiNii ArticlesとJ-Stageを用いて文献収集を行なったため,地域スケールの規模の小さい学術誌や研究事例は網羅できていない可能性が高い.例えば,鹿児島県口永良部島に生息する国内外来種ヤクシマザル40)のような地域内での発表事例は抽出できていない.また,リュウキュウマツ41)のように比較的古くから外来種として認知されている種の場合,国内外来種であることを強調しない可能性があるため,今回の文献収集では抽出できていない.一方で,アズマヒキガエルも同様に比較的古くから外来種として定着しているが国内外来種として強調されている.そのため,分類群や地域によって,国内外来種として呼称するか否かの慣例が存在するかもしれない.また,本研究では日本語文献のみを対象としたことから,英語文献による研究事例を把握できていない.上記のような課題に対して,今後議論することで,国内外来種に対する理解が更に深まると考える.
著者連絡先
平木 雅
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1番2号
大阪大学人間科学研究科
E-mail: u581243e@ecs.osaka-u.ac.jp
2024年7月16日受付 2024年11月21日受理
©日本環境共生学会(JAHES) 2025
(1) 自然分布域は,2015年に策定された「外来種被害防止行動計画」の「用語集」より,外来種の説明から「~中略~自然分布域(その生物が本来有する能力で移動できる範囲により定まる地域)~中略~」と定義されている.
(2) 原文では,「「特定外来生物」とは,海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物(その生物が交雑することにより生じた生物を含む。以下「外来生物」という。)であって,我が国にその本来の生息地又は生育地を有する生物(以下「在来生物」という。)とその性質が異なることにより生態系等に係る被害を及ぼし,又は及ぼすおそれがあるものとして政令で定めるものの個体(卵,種子その他政令で定めるものを含み,生きているものに限る。)及びその器官(飼養等に係る規制等のこの法律に基づく生態系等に係る被害を防止するための措置を講ずる必要があるものであって,政令で定めるもの(生きているものに限る。)に限る。)をいう。」
(3)生態系被害防止外来種リストは,有識者からなる愛知目標達成に向けた侵略的外来種リスト作成会議にて検討が行われた.
(4) 2023年より生態系被害防止外来種リストに関して,「生態系被害防止外来種リストの見直しに係る検討会」を設置し,2024年7月現在も見直し作業中である.
(5) 国内に自然分布域を持つ国外由来の外来種が含まれる.生態系被害防止外来種リストでは,サキグロタマツメタ,1種のみ含まれる.
(6) 一般財団法人地方自治研究機構 HP(http://www.rilg.or.jp/htdocs/, 参照 2024-07-12)内の「外来種対策に関する条例」より,2024年7月時点で26都道府県の条例が制定されていることが分かる.