環境共生
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地域シンポジウム特集
秋吉台・秋芳洞地域における自然環境と観光の共創
和田里 花
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2025 年 41 巻 2 号 p. 174-177

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〔地域シンポジウム特集:エクスカーション〕

1.はじめに

 6月14日㈯に日本環境共生学会第28回(2025年度)地域シンポジウム「地域における衛星データ利用とビジネスの創出」が行われ,それに先立ち午前中にエクスカーションが行われた.山口県美祢市の秋吉台国定公園と秋吉台科学博物館を見学し,自然環境と観光,里山文化との共存関係や,刻々と変化し続ける広大な自然環境に触れ,同日午後に山口大学工学部で開催される地域シンポジウムで議論される地域における衛星データ利用やリモートセンシング技術の有用性を理解する一助となることが目的である.

当日は,宇部新川駅に集合し,バスに乗り合わせて午前8時に出発した.今回の参加者は16名.当日の天気予報は大雨であったが,時折小雨が降る程度であり問題なくエクスカーションを敢行することができた.1時間ほど移動した後に,秋吉台国定公園内でも最大規模の鍾乳洞である秋芳洞入り口付近に到着し,洞内の見学が行われた.当日はここ数日の雨の影響により,洞窟に霧が立ち込め荘厳な雰囲気となっており,参加者からは感嘆の声があがった.

洞内では秋芳洞が形成されるまでにかかった歳月や,洞窟の特殊な環境に適応した生物の紹介等がされ,鍾乳石や侵食によって形成された名所が点在している.その名所の一つである百枚皿には,シコクヨコエビという目が退化し半透明の体を持つ洞窟生物が生息しているとの紹介があり,参加者の中にはそのシコクヨコエビを一目見ようと探す姿も見られた.他にも,洞窟内の各名所について現地に同行していた山口大学の和田里が折を見て参加者に紹介させていただいた.

写真1.秋芳洞見学の様子

1時間ほど洞内を参加者は自由に見学したのちに,再度バスにて山口大学アカデミックセンターが併設されている秋吉台科学博物館に移動した.

秋吉台科学博物館では学芸員の石田麻里氏(写真2右奥)の案内のもと,自然環境の保護と里山文化や伝統の継承,国定公園内の生態系,また化石発掘等の地質調査によって判明した秋吉台の特異性等の秋吉台の文化的・学術的価値に関して紹介を受けた.館内を一巡したのちに参加者は自由に館内を回り,各自石田氏に質問を投げかける姿も見受けられた.

写真2.秋吉台科学博物館での様子

1時間ほどの見学を終えた後,理事会メンバーによる会議が行われた.理事会に参加しない参加者は秋吉台を散策してカレンフェルトやドリーネ,侵食によって発生した急勾配等のカルスト台地特有の地形を実際に体感した.

秋吉台展望台付近にあるジオパークセンターにて昼食後,バスで大学に戻り予定していたエクスカーションの全行程は終了となった.

2.秋吉台国定公園

 山口県美祢市東部に位置する秋吉台は国内で最大のカルスト台地である.かつてサンゴ礁の広がる温暖な地域が地殻変動によって長い年月をかけて地上に隆起したことで現在の姿になっている.そのため秋吉台の地質の大部分は石灰石などの水に溶けやすい性質をもった岩石で構成されている.それらが雨水や地下水に侵食されることによって,秋吉台では典型的なカルスト台地特有の地形が形成されている.地上では無数のドリーネ(すり鉢状の窪地)に石灰岩が溶け切らずに地表に露出したカレンフェルトを見ることができ,地下には秋芳洞を含む約400もの鍾乳洞が存在している.現在の地形になるまでに約3億5000万年もの途方もない歳月がかかっていると言われている.そのため秋吉台は地質学・地形学の研究対象として古くから注目されており学術的価値が高く,また地元の人々による山焼きによって草原の維持が行われ,山口県内有数の観光名所の一つとなっている.

 そのため,秋吉台は自然の保護と利用のバランスを図るモデルケースとして1955年に国定公園に指定され,1964年には特別天然記念物にも指定されている.さらに,ラムサール条約の登録湿地でもある.美祢市全体がジオパークにも指定されており,国内でも類を見ない官民問わず様々な形で法的にも,学術的にも評価される地域である.

山口大学応用衛星リモートセンシング研究センターも秋吉台にて研究活動を行っている.ドローンによる秋吉台の植生モニタリングを継続して行い,気候変動や観光客等の影響によって変化していく自然環境を観測している.詳細な内容に関しては本シンポジウムにて江口助教が発表を行っている.

3.秋芳洞

 秋吉台の地下では毎年のように新しい洞窟が発見されている.秋芳洞はその中でも最大級の鍾乳洞であり,観光地としても著名である.全長は11㎞もある巨大な洞窟だが,観光ルートとして整備・公開されているのは約1㎞とごく一部のエリアのみとなっている.しかし,今年度3月より未公開エリアを探検することのできるケイビングツアーが実施されており,見えている部分や地上からは想像できないリアルな洞窟の世界を体験できるようになっている.

 また,洞窟内の温度は年間を通して17℃前後に保たれ,内部の空気が外に漏れ出ることによって秋吉台の気候も比較的冷涼になり,洞窟外の植生にも影響を与えている.洞窟内の生物も特有の環境に適応しており,形態的にも生態的にも地上の生物とは異なる進化を遂げている.秋芳洞ではアキヨシシロアヤトビムシやアキヨシチビゴミムシ等の洞窟性生物が確認されており,秋吉台の固有種として登録されている.

写真3 秋芳洞正面入り口

秋芳洞は地政学的にも興味深い場所となっており,長い年月をかけて雨水や地下水によって溶け出した様々な地形や鍾乳石を形作り,観光資源を創出するにいたっている.そのなかでも秋芳洞内最大級の鍾乳石である黄金柱は高さ15mにも及び,鍾乳石が1cmできるまでに約100年かかることを考えると黄金柱が現在の姿になるまで約15万年もの歳月がかかっている.純粋な石灰石で形成された鍾乳石は白いが,土壌由来の鉄イオンや不純物によって黄色がかった石灰華柱となっている.黄金柱は神殿の柱のように巨大で荘厳な雰囲気から思わず上を見上げてしまうが,もう一つの見どころはその根元にある.黄金柱の根元には横方向に大きな亀裂が生じている.秋吉台の地下には先述した通り,無数の鍾乳洞が存在している.秋芳洞ができ,黄金柱が形成された後に,その地下に新しく洞窟が出来上がったのである.そのため,根元の床部分が黄金柱の形成時よりも沈下し,亀裂が生じた.このように黄金柱は緩やかではあるが,確実に変化する自然をその目で確認することができる. 

 しかし,自然環境に観光という人間活動が介在するうえで発生する問題を内包している場所でもある.近年秋芳洞の鍾乳石の一部が緑色に変色する現象が起きている.洞窟内部では観光のため,また立ち入る人員の安全確保のためにいたるところで,照明の設置や名所のライトアップがされている.2010年ごろに照明を蛍光灯からLEDに変更したところ,LEDに使われている光の波長を好む藻類や細菌類が繁殖したのである.後の専門家を交えた対策委員会の調査によって,洞窟内ではコウモリの排泄物により栄養源も申し訳なく,光があればその波長を好む植物や細菌の生息が可能であることが明らかとなっている.人間が洞窟内に光を持ち込んだため,本来繁殖するはずのない場所で繁殖するはずのない生物が繁殖することとなり,それによる鍾乳石等の劣化や生態系への悪影響が懸念されているのである.現在,周辺環境や洞窟内の生態系に配慮した藻類の除去実験を実証中であり,観光と自然環境の共創を考えるうえで非常に重要な拠点であるといえる.

写真4 照明によって藻が繁殖した天井

4.秋吉台科学博物館

 秋吉台科学博物館は秋吉台展望台より徒歩10分ほどに位置しており,山口大学アカデミックセンターも併設されている.秋吉台カルスト地形や鍾乳洞の成り立ち,化石・鉱物・洞窟生物等を中心に展示を行っており,教育や研究の分野で大きく貢献している.

 秋吉台博物館の玄関口では秋吉台の草原を一望することができる.足元には秋吉台周辺の航空写真が広がっており,国定公園の広さや,周辺地域とのかかわりを感じられるつくりとなっている.秋吉台では毎年2月下旬ごろに景観の維持や「特別天然記念物秋吉台」としての環境保全のため,約1,138ヘクタールの広大なエリアで山焼きが行われる.これにより,秋吉台の草原の維持,貴重な動植物や昆虫の生息環境保全,倒木や樹木の根による石灰岩の棄損を防ぐことにつながっている.しかし,今年度は天候の影響のため大半が燃え残ってしまい,6月では珍しい背の高い草木が生い茂る風景が見られた.今回のエクスカーションでは濃霧であったため,遠くまで見渡すことができなかったが,青天の際には広大な草原の風景を楽しむことができる.

 1階エリアでは洞窟やその周辺に生息している動植物を中心とした展示となっている.洞窟に生息するコウモリはもちろん,ほかにも秋芳洞にしか生息していない昆虫やクモなどの生き物や秋吉台のウサギ等の小動物に関しての説明と標本が展示されている.また,鍾乳洞周辺では洞窟から漏れ出す冷気によって局所的な自然環境が生まれており,希少な動植物が生息している.それらに関して秋芳洞の構造や秋吉台委の地質的特徴をふまえた展示となっている.

写真5 博物館1階の様子

 

2階エリアでは秋吉台で暮らしてきた人々の歴史や化石,地質に関連する展示となっている.秋吉台はかつてサンゴ礁の海底であり,カルスト台地を構成する石灰石はサンゴ等の海の中の生物が長い時間をかけて堆積したものである.そのため,秋吉台ではサンゴやフズリナ,アンモナイトといった海洋生物や,ヤベオオツノジカやニッポンサイ等の陸上生物の多種多様な化石が発掘されている.こういった化石の発掘によって,新しい地層の上に古い地層が堆積している逆転構造が1923年に小澤儀明博士によって明らかにされた.逆説構造は発見されて以来,100年もの間研究され続け,現在でも様々な学説が唱えられており,学術的にも非常に注目度が高いトピックである.ここでは学説の成り立ちの紹介や根拠となる化石を実際に見て触ることができる.

著者連絡先

和田里 花(わたり はな)

〒755‐8611 山口県宇部市常盤台2‐16‐1

山口大学応用衛星リモートセンシング研究センター

E-mail: hwatari@yamaguchi-u.ac.jp

2025 年8 月22日受付

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