抄録
東北地方太平洋沖地震に伴い発生した大津波は,世界的にも経験のない原子力発電所事故を引き起こした。この事故に伴い発生した放射能汚染水は,ゼオライトによる放射性核種の吸着や逆浸透膜による塩分除去を施した後,燃料の冷却水として賦活し再循環冷却が行われている。しかし,これらの吸着分離による処理法は,ワンススルーによる吸着処理であるため,Cs や Sr 等の放射性核種が吸着した吸着材がそのまま放射性廃棄物として排出される。そこで本研究では吸着・溶離速度に優れる無機-有機複合型強酸性陽イオン交換体(SiSCR)を用いたイオン交換クロマトグラフィー法による核種の分離・回収に着目した。本研究では SiSCR の吸着・溶離特性の性能評価を行うと共に,汚染水に含まれることが想定されるアルカリ,アルカリ土類金属イオンの分離・回収性能について検討した。本研究の成果から,SiSCR のイオン選択性は,Sr(II)>Ca(II)>Mg(II)>Fe(II)>Ni(II)>Cs(I)>K(I)>Na(I) であることが明らかとなった。また,何れの原子価の金属イオンにおいても SiSCR への吸着平衡は,約 1 分以内であることが確認された。さらに,SiSCR は市販の強酸性陽イオン交換樹脂よりも動的吸着・溶離特性に優れ,特に Sr(II) と Ca(II) の分離に有効であることが示された。