抄録
東北日本の地質帯である阿武隈帯の南部域の阿武隈山地では,深成岩類が広く分布するのに対し,中部~北部域では,分布が限られており,岩石学的研究が進行していない地域が多い.蔵王火山は阿武隈帯中部域に位置し,その基盤岩は角閃石黒雲母花崗閃緑岩から構成されている.岩石記載,全岩化学分析の結果より,マグマの分化作用が考えられ,分化作用に伴うCaOの減少は, CaOを多く含む斜長石と角閃石が分別相であると説明できる.ジルコンU-Pb年代測定および全岩のSr同位体比測定の結果,97.8±1.3 MaのジルコンU-Pb年代,Sr同位体比初生値(SrI)=0.7070~0.7072が得られた.約0.707のSrIは阿武隈帯花崗岩類では非常に高い値であり,この要因としてSrIの高い物質と花崗岩質マグマの混染などが考えられる.本研究地域から見つかった泥質片麻岩はザクロ石黒雲母地質温度計より586~782℃の温度条件が得られ,より深部ならば部分溶融を起こすことが考えられる.蔵王基盤岩のSrIの特徴から,成因関係として泥質片麻岩の同化が考えられ,これは同化分別結晶作用で説明できる.