Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of invasive lobular carcinoma histiocytoid variant (histiocytoid breast carcinoma)
Aya ISEKISakae HATAKatsuyuki KATOHarumi KOBAYASHIToshiaki HARAYoshie SHIMOYAMAShigeo NAKAMURATadashi MATSUSHITA
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2017 Volume 66 Issue 3 Pages 289-296

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Abstract

浸潤性小葉癌組織球様細胞亜型(histiocytoid breast carcinoma; HBC)は,多形型浸潤性小葉癌に含まれるまれな組織型で,アポクリン分化が指摘される。今回われわれは,細胞診で組織球様腫瘍細胞が多量に出現したHBCの1例を経験した。症例は80歳代,女性で,左乳房腫瘤の穿刺吸引細胞診で,広い泡沫状細胞質を有する組織球様細胞や,好酸性顆粒に富むアポクリン様細胞を,散在性または疎な結合の重積性集塊で認めた。病理組織学的には,Alcian blue染色がびまん性陽性を呈した。ジアスターゼ抵抗性PAS反応は好酸性顆粒に富む細胞では強陽性,好酸性の弱い泡沫状細胞では陰性もしくは弱陽性を示した。GCDFP-15は陽性で,好酸性の弱い細胞により強染した。Adipophilin陰性,CD68陽性,ER,PgR,HER2陰性,androgen receptor陽性,Ki-67陽性率2%,p53はweakly 5–10%であった。E-cadherinは陰性,p120は細胞質内にびまん性陽性を示し,浸潤性小葉癌の組織球様細胞亜型(HBC)と診断した。HBCは,出現様式や粘液の染色態度が多形型浸潤性小葉癌と同様であったが,核異型,HER2,p53発現,Ki-67陽性率が異なり,それらは両者の鑑別点となると考えられた。またadipophilinが陰性を示し,アポクリン所見は不完全であった。

I  はじめに

乳腺の浸潤性小葉癌(invasive lobular carcinoma;以下,ILC)は,乳癌取り扱い規約第17版1)で「均一小型の癌細胞」とされるが,WHO分類2)では,その古典型を含め6つの亜型に分類される。亜型のひとつ多形型浸潤性小葉癌(pleomorphic invasive lobular carcinoma;以下,PILC)は,強い核異型の大型細胞を特徴とする。組織球に似た乳癌は,1973年Hoodら3)がhistiocytoid breast carcinoma(以下,HBC)として報告し,現在WHO分類2)でPILCの項に含まれる。その発生頻度はまれで,本邦乳癌症例の0.3%4)とされる。

今回われわれは,浸潤性小葉癌の組織球様細胞亜型(HBC)の症例を経験したので,細胞学的特徴ともに浸潤性小葉癌の中における位置づけについて文献的考察を加え報告する。

II  症例

患者:80歳代女性。

既往歴:子宮体癌(18年前子宮全摘,付属器切除),高脂血症,II型糖尿病,心房細動。

現病歴:数年前より左乳房腫瘤を自覚した。3か月前に当院を受診し,左乳房CE領域中心に,皮膚の発赤と乳頭部びらんを伴う70 × 50 mmの腫瘤を認めた。マンモグラフィでは,左乳房全体に濃度の上昇がみられたが,石灰化は認められなかった。乳腺超音波検査では,左乳房全体に不整形の低エコーを示し,不整な血流も認めた。右乳房に異常所見はなく,両側腋窩リンパ節の腫大はなかった。CTでは左乳房の腫大と深部大胸筋の肥厚がみられたが,縦隔リンパ節の腫大や遠隔転移は認められなかった。左CE領域の腫瘤は細胞診で悪性と判定され,T4cN0M0 Stage IIIBで左乳房全摘,大胸筋・小胸筋一部合併切除術を施行した。センチネルリンパ節生検は行わず,腋窩リンパ節は摘出しなかった。

III  穿刺吸引細胞診所見

Papanicolaou染色標本では,きれいな背景に,広い細胞質を有する20~30 μm大の大型細胞が,散在性あるいは疎な結合を呈した細胞集団として認められた(Figure 1a, b)。N/C比は低く平均30%であった。また,13 μm程度と比較的小型の異型細胞もみられた。細胞質は微細泡沫状を呈し,一部にライトグリーン好性の微細顆粒を充満するアポクリン様の細胞や(Figure 1b, 2),エオジン好性の大きめな顆粒を有する細胞も観察された。検索した範囲では,細胞質内小腺腔(intracytoplasmic lumina;以下,ICL)や連珠状配列はみられなかった。

Figure 1 

Cytological findings

The tumor cells were observed as cellular clusters or scattering single cells in the clean background. Their abundant vesicular cytoplasm was occasionally contained “apocrine-like” coarse granules (arrow). (a: Pap. staining, ×4, b: Pap. staining, ×20)

Figure 2 

Cytological findings

The N:C ratio was low, and the nuclei were round or oval with a single small but prominent nucleolus. (Pap. staining, ×40)

核は長径8~10 μm,短径6.5~7.5 μm大の類円形で,多くの細胞は単核であったが,ごく少数の2核細胞も認めた。しかし,多核細胞や巨細胞はみられなかった。核縁は薄く,クロマチンは微細で,核小体は円形で1.5~2 μm大,エオジンに好染し核中心性に1個みられた(Figure 2)。単調なパターンを呈する細胞が多量に採取されたため悪性と診断した。

IV  切除乳腺肉眼所見および組織所見

左乳房摘出材料全体に及ぶ境界不明瞭な腫瘤を認めた(Figure 3)。組織学的には,核小体の目立つ腫大した核と豊かな好酸性細胞質を有する腫瘍細胞が索状や孤立散在性に浸潤増殖する像(Figure 4)や,小葉腺房を拡張した大小の胞巣構造(Figure 5)として観察された。ICLや,単一空胞の印環型細胞が少数みられた。浸潤は皮膚真皮,表皮,胸筋,深部断端に及んだ。リンパ管侵襲,静脈侵襲が認められた。腫瘍細胞は,Alcian blue染色(以下Al-b染色)でびまん性に陽性を示した。ジアスターゼ抵抗性PAS反応(以下,d-PAS反応)では,好酸性の強い顆粒状細胞で強陽性,好酸性の弱い泡沫状細胞で陰性もしくはドット状の陽性を呈した(Figure 6)。GCDFP-15は,全ての細胞に陽性で,好酸性の弱い細胞により強染する傾向がみられた(Figure 7)。ER,PgR,HER2は陰性で,androgen receptor(以下,AR)はほぼ全ての核に陽性だったが,浸潤部で陰性の細胞も観察された。これに対しadipophilinは,全体的に陰性であったが,脂肪織浸潤部で一部陽性細胞を認めた。CD68は陽性を示した。Nuclear grade IIで,Ki-67陽性率2%,p53はweakly 5–10%であった。E-cadherinは陰性で,p120は細胞質全体にびまん性陽性を示し,一般的な小葉癌に比し大型で豊かな細胞質を有する形態から浸潤性小葉癌の組織球様細胞亜型と診断した。

Figure 3 

Macroscopic findings

The tumor was white and elastic with indistinct margins.

Figure 4 

Histological findings

a: A targetoid pattern of growth. (a-1: HE staining, ×4, a-2: p120 Immunostaining, ×4)

b: The tumor cells resembled reactive histiocytes, particularly in the portions of invasion of the adipose tissue. (b-1: HE staining, ×40, b-2: p120 Immunostaining, ×40)

Figure 5 

Histological findings

The tumor cells expanded the terminal duct lobular units. (HE staining, ×4)

Figure 6 

Histological findings

Alcian blue diffusely stained the tumor cells. The diastase resistant PAS (d-PAS) reaction was positive in the prominent eosinophilic granular cytoplasm, but was negative or partially positive in the slightly eosinophilic foamy cytoplasm (inset). (a: Alcian blue stain ×20, b: d-PAS reaction ×20)

Figure 7 

Histological findings

The tumor cells with slightly eosinophilic foamy cytoplasm were more strongly positive for GCDFP-15. (×4)

V  考察

HBCは,1973年Hoodら3)が眼瞼への転移性乳癌として初めて報告した。Walfordら5)は,Hoodら3)が報告したHBC症例は,ILCに一致する腫瘍であることを指摘した。HBCは,PILCやアポクリン癌の部分像としても認められ,GCDFP-15が陽性を示すことからアポクリン分化を有する腫瘍と考えられている6)~8)。WHO分類2)では「PILCは,時に組織球様形態分化やアポクリン分化を示し,印環細胞成分を含む」と記載され,HBCは表現型の異なるPILCと位置づけられている(Figure 8)。

Figure 8 

HBC is lobular carcinoma with incomplete apocrine differentiation and mucin production. HBC resembles PILC in its cytoplasmic features, but the nuclear findings resemble those of classic ILC.

PILCは,①cellularityの高い集塊,②大型細胞,③泡沫状や顆粒状の細胞質,④印環細胞や多核細胞を認め,⑤核は大小不同や切れ込みを有しnuclear grade III,⑥中心性大型核小体を特徴とする細胞からなり9),免疫組織学的にはE-cadherinが陰性,GCDFP-15,CD68は陽性で,Al-b染色は陽性を示す。HER2,p53の過剰発現がみられる。Ki-67陽性率は,古典型ILCが10%未満10)とされるが,PILCは10–20%以上11)と高く予後不良とされる。PILCと合併したHBCの報告は多く,両者を一連のものとする見解がある4),9),12)

一方,HBCは,①N/C比が低く,②泡沫状や顆粒状の細胞質,③ICLはまれに認め,④核異型が弱くnuclear grade I~II9)とされる。Hoodら3)の報告以来,特異な転移様式に注目され予後不良とされていたが,近年はPILCに比べ予後が良いとの報告が多い4),6),12)。Shimizuら4)は,Ki-67陽性率は純粋型のHBCで10%以下,PILCと合併したHBCでもHBCの特徴を持つ細胞の方が陽性率は低いと報告してい‍る。

本報告例は,HBCの特徴①~④に一致した。本報告例とPILCとは,細胞形質や出現様式が同様であったが,核の形態が異なる。PILCの多形性を有する核に対し,本報告例の核は単調で古典型ILCに類似していた。また,免疫組織染色でHER2,p53の過剰発現はみられず,Ki-67陽性率も2%と低い点がShimizuら4)の報告と一致した。したがって,PILCとHBCは,細胞学的特徴となる核異型に加え,HER2,p53発現,Ki-67陽性率が異なる点が重要な鑑別点と考えられる。

アポクリン分化を有する癌は,WHO分類2)ではcarcinoma with apocrine differentiationとされ,乳管癌に限らず,小葉癌など特殊型でも観察される。アポクリン分化の所見は,好酸性で顆粒状の豊富な細胞質,apocrine snout,PAS反応陽性,GCDFP-15陽性とされている。また,もう一つの特徴として,細胞質内小脂肪滴の形成に関与するadipophilinが陽性とされる13)。電子顕微鏡では,多数のミトコンドリアと303–727 nm大のアポクリン顆粒8)が観察され,アポクリン顆粒の細胞膜結合像や断頭分泌像を特徴所見とする。これに対し,HBCは電子顕微鏡では多数の空胞が観察される。ミトコンドリアは少なく,顆粒も166–320 nm7)と小さくまばらであり,HBCはアポクリン分化の形態所見に欠ける4),6),7)

一方,GCDFP-15遺伝子はER,PgR陰性,AR陽性を規定し,GCDFP-15はアポクリン分化のマーカーとなる。しかしアポクリン所見のない乳癌での陽性13)や,明確なアポクリン所見を有する癌での陰性8),14)がみられ,その発現は一過性とする報告14)がある。HBCの泡沫状細胞はアポクリン所見を欠くが,空胞に一致してGCDFP-15とGCDFP-15 mRNAが認められている6)。したがって,HBCのアポクリン分化は未熟で不完全なものとする見解6),8)がある。

本報告例は,好酸性の弱い泡沫状細胞はd-PAS反応で陰性もしくはまばらなドット状の陽性を示し,GCDFP-15では強染する傾向が認められた。ARは陽性であったが,adipophilinはほとんどの腫瘍細胞が陰性であった。これらの結果は,HBCは未熟で不完全なアポクリン分化を有する腫瘍とする見解に一致するものと考えられる。

泡沫状や顆粒状の細胞質を有する腫瘍で,本報告例と鑑別を要する疾患には,アポクリン分化を示す乳管癌(以下,アポクリン癌),脂質分泌癌(lipid-secreting(lipid-rich)carcinoma;以下,LRC),PILCが挙がる。アポクリン分化を示す癌は,顆粒状細胞であるtype A cellsと泡沫状細胞であるtype B cellsで構成される2)。Type A cellsからなるアポクリン癌は,壊死を伴い,細胞質は多稜形,好酸性顆粒が充満し厚く境界明瞭,核は中心性で大小不同や核縁不整を呈し,クロマチンは濃染,3~5 μmの不整形核小体を有する。一方,アポクリン癌の部分像とされたHBCは,細胞質が境界不明瞭な泡沫状を呈することからtype B cellsに相当する可能性がある。本報告例は,アポクリン癌とは異なり,壊死を認めず,細胞質は類円形,核は偏在性で均一,核縁は薄くクロマチンは微細で,1.5~2 μmの円形核小体を有する。またadipophilinは陰性となる。これらの点は両者を鑑別する鍵と考えられる。

LRCは,本報告例とは異なり,細胞質の空胞が辺縁明瞭な脂肪空胞で,90%以上の細胞がadipophilin陽性を示すが13),GCDFP-15,ARは陰性4)か,陽性細胞比率が低い13)。また,近年の研究でLRCとアポクリン癌は近似性が指摘される2),13)。LRCやアポクリン癌はAl-b染色が陰性となるが,PILCやHBCでは陽性となる4)。よってHBCの鑑別にはadipophilinが陰性でかつAl-b染色がびまん性に染色される点が重要と考えられる。

以上の所見をTable 1に示す。HBCは不完全なアポクリン分化を示すILCであり,PLICと共存することが多いが,その性格はPILCとはやや異なると考えられる。

Table 1  Differentiation of tumor cells with abundant foamy to granular cytoplasm
Cytological findings Immunohistochemical findings
Cytoplasm Nuclei Nucleoli Nuclear
glade
p53 Ki-67 Her2 E-cadherin adipophilin AR GCDFP-15 PAS Alcian blue
Lobular carcinoma Classic lobular carcinoma Monotonous Round Small, Round 1~2 20% <
Pleomorphic lobular carcinoma Vacuoles (“soft” edge), Foamy≒Granular, Eosinophilic Irregular pleomorphic Large, Round 3 + 20% ≥ ± (53%) ND + + ± ± (50%)
Histiocytoid breast carcinoma Vesicular > Eosinophilic > Granular Round Small, Round 1~2 −~± 10% < ND + + ± +
Our case Vesicular > Eosinophilic > Granular Round Small, Round 2 2% + ++ ± +
Apocrine carcinoma Granular, Eosinophilic > Foamy Irregular Large, Irregular 3~5 μm 2~3 + 15% HER2+EGFR−
HER2−EGFR+
+ ++ + + ++
Lipid-secreting (lipid-rich)
carcinoma
Vacuoles (“hard” edge) > Foamy Irregular Large, Round 3 + 30% ≥ + + +++
(or weak+)

本報告例は,ILCの特徴である強い浸潤傾向を示し切除断端は陽性であったが,術後約1年の経過は良好で,局所の再発や転移は認められていない。

 

本症例は,名古屋大学医学部附属病院の倫理委員会の承認を得て報告した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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