Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of a new chemiluminescent enzyme immunoassay kit for matrix metalloproteinase-3
Yuki WATANABEItsuko SATONobuhide HAYASHIJun SAEGUSA
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2018 Volume 67 Issue 1 Pages 37-43

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Abstract

マトリックスメタロプロテイナーゼ-3(MMP-3)の測定には主にラテックス凝集比濁法(LTIA法)が用いられているが,健常小児においては大半が測定感度以下となるなど,評価困難な場合がある。今回,LTIA法より高感度である化学発光酵素免疫法(CLEIA法)を原理とした試薬(本試薬)について基礎的検討を行い,非特異反応の頻度を2種類のLTIA法試薬と比較して有用性を評価した。基礎的検討では,併行精度はCV 1.1–1.6%,再現精度はCV 1.1–1.3%と良好な結果であった。検出限界は0.041 ng/mL,定量限界(10%CV)は0.092 ng/mLと,LTIA法と比べ,約100倍の感度が得られた。測定範囲は2,575 ng/mLまでの直線性が得られた。添加回収試験では,99–107%の回収率が得られ,共存物質の影響は特に認められなかった。2種類のLTIA法試薬との相関は,それぞれr = 0.995(n = 305),r = 0.989(n = 305)と良好な相関を示した。非特異反応を起こしやすいと考えられる検査値異常パネル(336件)を3試薬で測定すると,測定値が乖離した検体が10例認められたが,本試薬では希釈直線性不良のものは認められなかった。本試薬の基礎的検討は良好で,LTIA法試薬との相関も良好であり,非特異反応も軽減されていたことから,本試薬はMMP-3測定試薬として有用である。

I  背景

マトリックスメタロプロテイナーゼは炎症性サイトカインによって誘導される蛋白分解酵素の総称であり,軟骨細胞や滑膜細胞から分泌される。その中でもMMP-3は最も基質特異性が広く,関節軟骨破壊にかかわる重要な蛋白分解酵素である1),2)。関節リウマチ(RA)は持続性かつ進行性の滑膜炎により関節破壊が進行する原因不明の慢性炎症性疾患である。RAでは過剰に産生された炎症性サイトカインが増殖した滑膜細胞を刺激するためMMP-3の産生は亢進し,血清MMP-3の測定は,RAの早期診断の補助,関節破壊の予後予測,疾患活動性と治療効果の評価などに有用である3)~6)

MMP-3の測定には,ELISA法を用いた測定が行われていたが,検体希釈などの操作が煩雑で測定に時間を要するなどの問題点があった。近年,生化学汎用自動分析装置による迅速検査が可能なラテックス凝集比濁法(LTIA法)が普及しているが7),8),非特異反応を示す検体があることが問題となっている9),10)。また,小児では成人に比べ,基礎値が低く健常の小児では血清中のMMP-3は,12.5 ng/mLの測定感度をもつELISA法を原理とした試薬でも感度以下であることが報告されており11),12),LTIA法試薬の測定感度は同等なことから8),LTIA法試薬を用いても,感度以下であると考えられる。また若年性関節リウマチ(JRA)では血清中のMMP-3が疾患活動性や治療効果などにより成人と同様に変動するが,基礎値の低い年少の小児においては,JRAをコントロールしていくにつれ,血清MMP-3値も低下してくることが多く13),より高感度な方法で血清MMP-3を測定することが必要となる。

今回,LTIA法よりも高感度である化学発光酵素免疫法(CLEIA法)を原理とした本試薬について基礎的検討と非特異的反応の頻度の検討を行ったので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

神戸大学医学部附属病院に2015年5月から2016年5月までの間にMMP-3測定依頼のあった患者検体305例を対象とした。また,非特異反応を起こしやすいと考えられる,高IgG血症67例(2,501–7,412 mg/dL),高IgA血症65例(503–5,318 mg/dL),高IgM血症44例(302–1,596 mg/dL),RF高値87例(313–2,583 IU/mL),蛋白分画異常を認める患者血清24例および抗核抗体陽性患者血清49例(1:160以上)の計336例を検査値異常パネルとして用いた。本研究は神戸大学大学院医学研究科の倫理委員会において承認を得て行った(承認番号:1786)。

2. 測定試薬と測定装置

本検討は本試薬(協和ファーマケミカル社)を用い,HISCL-5000(シスメックス社)を用いて測定した。対照法として,LTIA法試薬の,パナクリアMMP-3「ラテックス」(製造:協和ファーマケミカル社,販売:積水メディカル:S社)とLZテスト‘栄研’MMP-3(栄研化学社:E社)を用い,日立7170S形自動分析装置(日立ハイテクノロジーズ社)を用いて測定した。

3. 測定原理

本試薬は,1ステップサンドイッチ法を用いたCLEIA法である。まず試料中のMMP-3とビオチン結合抗MMP-3モノクローナル抗体が結合する。次いで,ストレプトアビジン結合磁性粒子上に,ビオチン結合抗MMP-3モノクローナル抗体とMMP-3を介して,アルカリホスファターゼ(ALP)標識抗MMP-3モノクローナル抗体が結合する。未反応液を除去した後,発光基質であるCDP-StarがALPにより分解され,生じた発光強度を測定する。その発光強度から,既知濃度の試料により得られた検量線を用いて,試料中のMMP-3の濃度を求める。

4. 基礎的検討

併行精度,再現精度,希釈直線性,検出限界,定量限界,添加回収試験,共存物質の影響,LTIA法試薬との相関について検討した。

5. 検査値異常パネルを用いた検討

本試薬とLTIA法試薬(S社,E社)3試薬間における相関の直線回帰式(Passing-Bablok法)から標準化残差が−3以下または+3以上となった検体を試薬間で乖離しているとした。乖離した検体について,それぞれの試薬で生理食塩水を用いて8倍希釈までの希釈系列を作成し,希釈直線性試験を行った。原液の測定値から,±20%以上を示したものを直線性不良検体とし,非特異反応検体とした。

III  結果

1. 基礎的検討

1) 精度

2濃度のプール血清および2濃度のコントロール試料を用いて20回連続測定した併行精度は変動係数(CV)1.1~1.6%であり,1濃度のプール血清および2濃度のコントロール試料を用いて20日間測定した再現精度はCV 1.1~1.3%であった(Table 1)。

Table 1 

Precision of MMP-3 assay

Repeatability(n = 20)
pool serum 1 pool serum 2 control 1 control 2
Mean (ng/mL)115.4224.1103.2407.2
SD (ng/mL)1.23.71.65.1
CV (%)1.11.61.51.3
Intermediate precision(n = 60)
pool serum 1 control 1 control 2
Mean (ng/mL)105.0105.0403.2
SD (ng/mL)1.31.24.5
CV (%)1.31.21.1

2) 希釈直線性

MMP-3高濃度プール血清(114.0, 223.5, 399.0 ng/mL)およびMMP-3高濃度試料(2,575.4 ng/mL)を検体希釈液で10段階に希釈し,3重測定したところ,原点を通る良好な直線性が得られた(Figure 1)。

Figure 1 

Dilution linearity test

A) test of human serum

B) test of concentrated sample

3) 検出限界および定量限界

検出限界および定量限界の評価は,バリデーション算出用プログラムに従った14)。ブランク上限(LoB)および検出限界(LoD)の算出におけるブランク試料には,抗MMP-3抗体を用いたアフィニティカラムを通した血清検体を用いた。その結果,LoBは0.026 ng/mL,LoDは0.041 ng/mLであった。定量限界(LoQ)は10%CVで0.092 ng/mLとなった(Figure 2)。

Figure 2 

Functional sensitivity of MMP-3 assay

4) 添加回収試験

2濃度のプール血清に2濃度のキャリブレータ(1,000,2,000 ng/mL)を4:1の割合で添加し,添加回収試験を行ったところ,99–107%の回収率が得られた。

5) 共存物質の影響

干渉チェックAプラス(シスメックス社)および干渉チェックRF(シスメックス社)を用い,2種類のプール血清に1:9の割合で各物質を添加し,共存物質の影響を検討した。いずれにおいても,ビリルビンF(20.7 mg/dL),ビリルビンC(20.4 mg/dL),ヘモグロビン(500 mg/dL),乳び(1,400 FTU),RF(450 IU/mL)まで特に影響は認められなかった(Figure 3)。

Figure 3 

Effects of interfering substances for MMP-3 assay

6) LTIA法試薬との相関

LTIA法試薬(S社,E社)との相関(n = 305)は,それぞれ回帰式y = 0.98x − 3.5,相関係数r = 0.995,回帰式y = 0.96x + 1.9,相関係数r = 0.989であり,どちらも良好な相関を示した(Figure 4)。

Figure 4 

Correlation of MMP-3 values

A) measured by CLEIA method and LTIA kit S

B) measured by CLEIA method and LTIA kit E

2. 検査値異常パネルとして用いた検討

本試薬とLTIA法試薬(S社,E社)との,検査値異常パネルを用いた相関では,乖離した検体は336検体中,それぞれ10検体,6検体認められた(Figure 5)。それぞれの試薬で希釈試験を行うと,S社のLTIA法試薬で10検体中3検体が希釈直線性不良であった。本試薬およびE社のLTIA法試薬においては,希釈直線性が不良な例は認められなかった(Table 2)。

Figure 5 

Correlation of MMP-3 values and detection of divergence sample on panels with immunoserological abnormalities

●:diremption sample

A) measured by CLEIA method and LTIA kit S

B) measured by CLEIA method and LTIA kit E

Table 2  Dilution linearity test of divergence sample on panels with immunoserological abnormalities
No. LTIA KIT S (ng/mL) change ratio (%) LTIA KIT E (ng/mL) change ratio (%) CLEIA method (ng/mL) change ratio (%)
1 ×1 214.1 100.0 168 100.0 148.4 100.0
×2 338.6 158.2 162 96.4 155.3 104.7
×4 288.4 134.7 168 100.0 159.4 107.4
2 ×1 201.8 100.0 200 100.0 184.7 100.0
×2 358.2 177.5 196 98.0 190.8 103.3
×4 412.0 204.2 200 100.0 187.5 101.5
3 ×1 189.9 100.0 172 100.0 155.0 100.0
×2 359.2 189.2 172 100.0 169.1 109.1
×4 414.8 218.4 172 100.0 171.9 110.8

IV  考察

今回,我々は協和ファーマケミカルが開発したCLEIA法を測定原理とした本試薬について基礎的検討を行い,LTIA法を原理とした方法を対象とし比較した。

精度は併行精度がCV 1.1~1.6%,再現精度が1.1~1.3%と良好であり,添加回収試験では99~107%と高い回収率が得られ,精度・正確度においても良好な成績が得られた。希釈直線性においても2,575 ng/mLまで原点を通る良好な直線性が確認され,共存物質についても特に影響は認められなかった。LoQは10%CVで0.092 ng/mLであり,既報のLTIA法を用いた試薬の検出感度が約10 ng/mLであることと比較すると15),16),CLEIA法を用いた本試薬では大幅に感度が向上し,LTIA法では測定感度以下だった濃度も十分に測定可能となり,従来の方法ではMMP-3を用いた判定が困難であったJRAなどにおいても,本試薬を用いることでMMP-3を臨床応用できると考えられる。

本試薬の相関性はLTIA法2法ともに良好であったが,本試薬とE社のLTIA法試薬において,乖離の大きい検体が2例あり,希釈試験を行うと,E社のLTIA法試薬で直線性不良が確認された。乖離した2例のうち1例はRF高値検体であったが,もう1例については,検査値異常パネルに用いたような非特異反応の原因となるような異常はなかった。LTIA法を原理とした試薬では,非特異反応による測定値の乖離が報告されている10),15),17)。今回の検討において,非特異反応を起こす可能性のある336例を対象に本試薬と従来試薬で相関をとると,そのうち10例で試薬間での乖離が確認できた。その10例で希釈試験を行ったところ,本試薬では直線性は良好であったことから,従来試薬に比べてより非特異反応も少なく,より特異性も高い試薬であると考えられる。坂西ら18)はMMP-3測定依頼のあった1,495名の中から非特異反応を示したと思われる10名について原因を追究したところ,IgMやRFが原因であることを報告している。今回用いた検査値異常パネルにおいては,CLEIA法を原理とした本試薬では,非特異反応が確認できなかったが,免疫学的測定法である以上,非特異反応について理解したうえで使用することが重要であると考えられる。

V  結語

今回の本試薬は,基礎的検討において良好な成績が得られており,従来試薬と比較して,感度が大幅に向上した。また従来試薬で確認できた非特異反応についても本試薬の検討では確認できず,特異性も向上していることから,血清中のMMP-3測定試薬として日常検査に有用であると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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