Japanese Journal of Medical Technology
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Features and study on the use of DiaPack3000 and MAST III
Yoko FUKUSHIMAAkemi ONUKISachiko OYAYumiko MATSUDA
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 340-346

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Abstract

血中特異的IgE抗体の測定は,I型アレルギー疾患の診断や治療方針に重要な検査の一つである。一般的に原因アレルゲンのスクリーニングでは問診や症状,年齢により関連が疑われる複数の項目について検査されることが多い。今回,測定項目を選択できるDiaPack3000と,多項目同時測定スクリーニングが可能なMAST IIIの特徴や性能について検討した。また,小児検体では検体量の確保が難しく重要な課題となっているため,DiaPack3000の検体量について標準量法と少量法を評価した。結果,MAST IIIとDiaPack3000のクラス相関性については,スギ・コナヒョウヒダニ・ネコ皮屑では良好な相関性が認められた。ランパクとオボムコイドで弱陽性の一部に乖離が認められたが,臨床的に影響を与える可能性は低いと思われる。よってMAST IIIによるスクリーニング検査からDiaPack3000によるシングルアレルゲン測定での経過観察への移行は可能と考えられる。また,DiaPack3000の標準量法と少量法の相関性は良好であった。少量法での運用は可能であり,さらなる臨床支援が期待できると思われる。

はじめに

近年,I型アレルギー患者は増加の一途をたどっており,病態や治療法,検査への関心が高まっている1),2)。原因アレルゲンの検索はI型アレルギーの診断,治療の第一歩であり,特異的IgE抗体検査が活用されている3)が,診断の際はスクリーニング目的で疾患との関連が疑われる項目を,経過観察では原因アレルゲンを中心に検査することが一般的である。そのため,特異的IgE抗体検査では複数項目を測定する場合が多いが,乳幼児や小児の検体は採血量が少ないことが多く,測定項目が制限されることもあるため,検査での使用検体量は重要な課題となっている。

特異的IgE抗体検査は,アレルゲン項目を選択して検査できるシングルアレルゲン検査と多項目を同時スクリーニングする検査に大別できる4)。当研究所ではシングルアレルゲン検査としてDiaPack3000,スクリーニング検査としてマストイムノシステムズIII(MAST III)を導入し,検査を受託している。今回我々はMAST IIIにおける陽性率を調査するとともに,陽性率が高く小児科からの依頼が多い5項目に関してDiaPack3000との相関性を評価し,2法の特徴や性能,運用について検討を行った。

また,DiaPack3000の検体量について現在運用している標準量法(50 μL)に対して少量法(30 μL)についても検討したので報告する。

I  対象

当研究所に,2015年7月18日~12月15日に特異的IgE抗体検査の依頼があった血清検体714件を対象とした。

II  方法

1. MAST IIIの各アレルゲンに対する陽性率の算出

吸入系アレルゲンや食物系アレルゲンの陽性率の傾向について評価した。

2. DiaPck3000とMAST IIIの相関性試験

MAST IIIでの陽性率が高く,小児科からの依頼が多いスギ(n = 55)・コナヒョウヒダニ(n = 55)・ネコ皮屑(n = 50)・ランパク(n = 50)・オボムコイド(n = 50)の5項目・全260検体について,DiaPack3000とMAST IIIとの相関性を検討した。

3. DiaPack3000の標準量法と少量法の相関性試験

検体量について,現在運用している標準量法(50 μL)に対して少量法(30 μL)の相関性を検討した。

4. MAST IIIの受託割合

対象検体におけるMAST III診療科の受託割合を調査した。

III  測定機器及び試薬

2法の特徴や性能をTable 1に示した。DiaPack3000(日本ケミファ社製)は,専用試薬オリトンIgE「ケミファ」を用いて測定する酵素免疫測定法(EIA)法である5),6)。まず,血清検体中のアレルゲン特異IgE抗体と液状試薬であるビオチン化アレルゲンを混合,反応させる。次に,これを多孔性ガラスフィルターに抗ビオチン抗体を固相化した反応材に反応させ,ペルオキシダーゼ酵素標識抗体でIgE抗体を標識する。その後,テトラメチルベンジジン(TMB)で呈色させ,レーザー光の反射率から濃度を算出する。検体量は1項目50 μLでニーズに応じて測定項目が選択できる。測定は自動化されており,測定時間は12分(ファーストレポート12分),処理能力は90テスト/39分である。

Table 1  Comparison
Analyzer DiaPack3000 Luminometor
Reagent ORITON IgE [Chemiphar] MAST III
Principle of measurement EIA CLEIA
Scoring class 0–6 0–6
Allergen reagent property Liquid phase Solid phase
Sample quantity 50 μL/test 200 μL/sample (33 test)
Measurement time 12 minutes 6 hours
Measurement interval 18 seconds 6 hours
Capacity (test/min) 90 tests/39 minutes 5 samples/1 measurement
Utilization Inspection in accordance with needs Multi-item simultaneous screening

一方,MAST III(日立化成社製)は,プラスチック製のウェルを固相としたサンドイッチ法に基づく化学発光酵素免疫法(CLEIA)法である7)。200 μLの患者血清を2倍量の血清希釈液と混和し,固相化された各アレルゲンと反応させ(一次反応),得られた免疫複合体にペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgE抗体を反応させる(二次反応)。これにルミノールおよび過酸化水素水からなる反応液を加え,発光の強さを求めてクラス分類する。洗浄及び試薬の分注は用手法で行い,発光強度の測定には専用ルミノメーターMM-300(日立化成社製)を使用した。検体量は200 μL,33項目を同時測定するが項目は固定である。用手法のため処理能力は6時間である。

次に,2法の単位とクラス判定についてTable 2に示した。

Table 2  Unit and class determination
Class Judgment DiaPack3000 (unit: IU/mL) MAST III (unit: Lumi count)
6 Positive 100– 160–
5 50–99.99 120–159
4 17.5–49.99 58.1–119
3 3.50–17.49 13.5–58.0
2 0.7–3.49 2.78–13.4
1 False positive 0.35–0.69 1.40–2.77
0 Negative 0–0.34 0–1.39

原理の違いにより単位や濃度範囲は異なるが,どちらもクラス0が陰性,クラス1が偽陽性,クラス2~6が陽性である。

IV  結果

MAST III 33項目の各アレルゲンの陽性率をFigure 1に示した。全体として,吸入系アレルゲンが陽性率の上位を占めていた。最も高いのは,スギ58.1%,次にコナヒョウヒダニ41.5%,ハウスダスト37.0%,ヒノキ25.4%と続く一方,ネコ皮屑以下5項目は10~20%,ヨモギ以下8項目は5~10%,5%以下の項目は16項目であった。食物系では卵白14.7%,オボムコイド13.4%であった一方,果物・牛肉以外の肉類・魚介類は陽性率が低く,0.8~1.7%という結果であった。

Figure 1 

The Positive rate of MAST III

In MAST III, the positive rates were as follows; inhaled allergens: 1.4–58.1%, food allergens: 0.8–14.7%, fruit allergens: 0.8–1.7%.

次に,MAST IIIにおいて陽性率が高く小児科から依頼数の多い5項目について,DiaPack3000とのクラス相関性を評価した結果をFigure 2に示した。判定一致率は,スギ92.7%,コナヒョウヒダニ87.3%,ネコ皮屑82.0%,ランパク76.0%,オボムコイド58.0%という結果であった。オボムコイドについては陰性一致率が判定一致率に影響を与えたと考えられたため,MAST III陽性とDiaPack3000陰性となった7検体について,ランパクのデータと比較しTable 3に示した。7検体のうち,3検体はランパクでも同様のクラス乖離が見られ,他の4検体でも同様の傾向が見られた。

Figure 2 

Correlation of 2 methods

The correlations of the 5 allergens that have highly positive rate were 58.0–92.7%.

Table 3  Measurement results of 7 specimens that failed to be judged by egg white/ovomucoid
No. Egg white Ovomucoid
MAST III DiaPack3000 MAST III DiaPack3000
1 4.40 2 0.26 0 7.45 2 0.23 0
2 11.50 2 0.19 0 4.35 2 0.23 0
3 6.90 2 0.26 0 5.00 2 0.16 0
4 3.89 2 0.39 1 4.93 2 0.25 0
5 2.05 1 0.02 0 3.06 2 0.13 0
6 2.21 1 0.13 0 3.20 2 0.06 0
7 1.04 0 0.31 0 3.00 2 0.32 0

DiaPack3000の標準量法と少量法との濃度相関性をFigure 3に示した。相関係数rはスギ0.989,コナヒョウヒダニ0.993,ネコ皮屑0.999,ランパク0.999,オボムコイド1.000であり,5項目全体では,0.995と良好な相関性が認められた。

Figure 3 

Correlation of normal quantity and small quantity

We also evaluated serum quantity of DiaPack3000. The correlation coefficient between normal quantity and small quantity samples were r = 0.989–1.000.

MAST IIIとDiaPack3000標準量法及び少量法とのクラス相関性をFigure 4に示した。標準量法より少量法の方が陰性一致率が低い結果となったが,陽性一致率,判定一致率はほぼ同等の結果であった。

Figure 4 

Class correlation of DiaPack3000 normal quantity and small quantity and MAST III

The class correlation between DiaPack 3000 and MAST III in the 5 items was almost equal.

今回の検討におけるMAST III受託先の診療科の割合は,内科56.1%,小児科27.3%,皮膚科8.3%,耳鼻咽喉科5.8%,眼科2.4%,その他0.1%であった。

V  考察

本検討におけるMAST IIIの陽性率は,スギ・コナヒョウヒダニ・ハウスダスト・ヒノキなど吸入系アレルゲンが上位を占めていた。食物系アレルゲンでは,ランパク・オボムコイド以外のアレルゲン,特に果物や魚,肉は低い傾向がみられた。

DiaPack3000とMAST IIIの各項目のクラス相関性では,スギ・コナヒョウヒダニ・ネコ皮屑では陽性一致率は非常に高く,陰性一致率を考慮しても良好な相関性が認められた。一方,ランパク,オボムコイドでは,判定一致率はそれぞれ76%,58%であった。判定境界付近で一部クラス不一致が認められ,陽性一致率の低下に影響したと考えられる。

オボムコイドは鶏卵の卵白に含まれるタンパク質の一種であるが,1検体についてはランパク陰性でオボムコイド陽性となった。MAST IIIでは低濃度域でのクラス判定でばらつきが認められることが報告されており,検体によって試薬や測定系での反応性が異なることや測定のばらつきが影響した可能性を示唆している。この結果を含め,クラス乖離の理由として,標準品の有無,測定原理及び測定方法,アレルゲン試薬の原料の抽出方法や抗原量の違い等が挙げられる3),8),9)。DiaPack3000では検出限界が0.1 IU/mL以下であり10),クラス0の場合でも濃度で抗体価の存在を考慮することで診断・治療に活用でき,ランパクの判定一致率を考慮しても診断への影響は少ないと考えられる。

DiaPack3000の標準量法と少量法の濃度相関性は良好な結果が得られた。DiaPack3000の検体少量化については基礎的検討が報告されており,良好な結果が得られている10)

DiaPack3000とMAST IIIのクラス相関性について,5項目全体での相関性は,標準量法より少量法の方が陰性一致率が低くなったが,クラスが高くなる傾向が見られたためと考えられる。陽性及び判定一致率はほぼ同等で,少量法への移行は可能と考えられる。特に乳幼児や小児の検査では,必要検体量が少なくなる,あるいは,検査可能な項目数が増えることによるメリットが大きく,さらに臨床支援につながることが期待できる。

MAST III受託検体の診療科割合の調査では,内科・小児科が8割以上を占め,MAST IIIがスクリーニング検査として活用されていることがうかがえた。一方で,耳鼻科・眼科のように花粉症等の疾患に関与する抗原を中心に検査する場合は,多項目スクリーニング検査よりシングルアレルゲン検査の活用によるニーズに応じた検査が効率的であると考えられる。経過観察では,必要な項目のみを測定することが効率的であり,診療費の観点から,そして定量性の点からもシングルアレルゲン検査が有用であると考える。

VI  結語

今回の検討では,MAST IIIの陽性率は吸入系アレルゲンが上位を占め,食物系アレルゲンは低い傾向がみられた。陽性率が高く,小児科からの依頼が多い5項目についてDiaPack3000とMAST IIIの相関性試験では,一部乖離が認められたが臨床的に影響を与える可能性は低いと思われ,MAST IIIによるスクリーニング検査からDiaPack3000による経過観察への移行に対応できると考える。

DiaPack3000の少量法は,標準量法との相関性も良好であり,検体量の少量化が実現可能と考えられる。少量化によって特異的IgE抗体検査の幅が広がることで,さらなる臨床支援に繋がると考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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