Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Comparison of QIAGEN method and PURE method, which is a DNA extraction method by the LAMP method using Loopamp Mycoplasma Pneumoniae detection reagent kit
Hiroyuki MIYAZAKIMayumi SHIBAOTomoya NAKAOSatoki HAYAKAWATakayuki OKAMURATakako SAITOU
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2018 Volume 67 Issue 4 Pages 456-461

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LAMP法を用いたマイコプラズマ肺炎の遺伝子検査で使用するQIAamp DNA mini kit(Qiagen)(QIAGEN法)は手技が煩雑で時間を要する。より簡易でDNA抽出までの時間が短縮できるLoopamp PURE DNA抽出キット(栄研化学)(PURE法)を採用すれば作業効率の改善が望めると考え,この2法の比較検討を行った。本検討では,マイコプラズマ感染を強く疑う小児患者27名を対象に咽頭拭い液を材料とし,QIAGEN法,PURE法で抽出されたDNAを使用し,Loopamp®マイコプラズマP検出試薬キットで測定を行い,陽性一致率,陰性一致率,全体一致率を算出した。また,QIAGEN法,PURE法,それぞれのDNA抽出時間の比較を行った。その結果,QIAGEN法,PURE法,ともに14例が陽性,13例が陰性であり,100%一致し,PURE法はQIAGEN法に比べDNA抽出時間が大幅に短縮できた。新しいDNA抽出法であるPURE法を採用することにより,臨床側へ迅速な結果報告が可能となり,小児科における治療や治療効果判定に有意義と考えられた。

I  はじめに

近年マイコプラズマ感染症はマクロライド耐性株も増加しており,正確で迅速に検査を実施する必要性がある。当院では咽頭拭い液を材料にし,LAMP法の試薬であるLoopampマイコプラズマP検出試薬キット(MycP-LAMP)(栄研化学株式会社)を用いて,マイコプラズマ感染症の検査を行っている。

LAMP法はLoop-mediated Isothermal Amplificationの略で,栄研化学が開発した遺伝子増幅技術である1)。LAMP法は,標的遺伝子の6ヶ所の領域を認識する4種類のプライマーを設計し,鎖置換型DNA合成酵素を用いて一定温度で反応させ,増幅から検出までを1ステップの工程で行うことができる。増幅効率が高く,DNAを60分で109~1010倍に増幅でき,高い特異性から,増幅の有無で目的とする標的遺伝子配列の有無を判定することが可能である2)

従来,MycP-LAMPで検査を行う際の咽頭拭い液からのDNA抽出方法は,QIAamp DNA mini kit(QIAGEN法)(QIAGEN)であり,操作が煩雑で相当の時間を要する。Loopamp PURE DNA抽出キット(栄研化学)(PURE法)は,PURE法を用いた簡易DNA抽出法であり,操作も簡易で検査時間短縮が期待できる。

DNA抽出時間を短縮するにはSR DNA抽出キット(栄研化学)を使用する方法もあるが,この方法は,咽頭又は鼻腔拭い液が対象材料であり,喀痰検体での検査ができない。また,検討用試料を複数本採取する負担を考慮した上で,QIAGEN法,PURE法,この2者の特異性,感度を比較した報告はないことからPURE法のみの検討とした。

今回,LAMP法を用いて2つのDNA抽出方法について比較検討したので報告する。

II  方法

1. 対象

2015年7月から2016年1月までのマイコプラズマ感染が疑われた患者で,以下に示す2本のスワブの採取に同意した27名を対象とした。なお,本研究に際して,堺市立総合医療センター薬剤・技術局症例報告等審査委員会にて承認を得ている(審査番号17-007)。

2. 材料

1) 咽頭拭い液

QIAGEN法はカルポーターγスワブ(栄研化学),PURE法はフロックスワブ(COPAN社)を使用し,咽頭拭い液を各1本ずつ採取した。

また,今回採用したフロックスワブの綿球部分は植毛構造の為,従来のスワブに比べて採取菌量が多いとされている(Figure 1)。

Figure 1 

COPAN社製フロックスワブ

今回の検討において,使用しているスワブの種類が異なるのは,前述の通り採取菌量が多いという理由でPURE法ではフロックスワブを採用した。

2) 血液

血液検体でのマイコプラズマ抗体価検査(PA法)を実施した患者(スワブ採取日に採血した21名,スワブ採取後1週間以内に採血した3名(再検査含む))のみ比較検討した。

3. 評価内容

採取したスワブ検体より滅菌生理食塩水を用いて懸濁液を調製。カルポーターγスワブはQIAGEN法を用いて,フロックスワブは,PURE DNA 抽出キット(PURE法)を用いて,QIAGEN法,PURE法,それぞれ,添付文章に従いDNA抽出を実施した(Figure 2)。LAMP法によるMycoplasma PneumoniaeのDNA検出についてはリアルタイム濁度測定装置Loopamp EXIA(栄研化学)を用いた。

Figure 2 

PURE法によるDNA抽出方法

フロックスワブにて採取した咽頭拭い液をLoopamp®結核菌群検出試薬キット内のPURE法専用である検体処理チューブを使用し,マイコプラズマのDNAを抽出する。

結果について陽性一致率,陰性一致率,全体一致率,DNA抽出時間の検討を行った。

また,咽頭拭い液を採取した対象患者27名中,スワブ採取日,或いはスワブ採取後1週間以内に血液によるマイコプラズマ抗体価検査の依頼があった症例について,LAMP法とマイコプラズマ抗体価との比較,検討を行った。マイコプラズマ抗体価検査(PA法)は外注業者に委託した。PA法の陽性判定基準は単一血清で320倍以上の抗体価とする3)

III  結果

対象患者27名において,QIAGEN法にて得られた結果は陽性14例・陰性13例,PURE法にて得られた結果は陽性14例・陰性13例であり,陽性一致率,陰性一致率,全体一致率はすべて100%となった。

また,DNA抽出に要する時間はQIAGEN法では120分以上要したが,PURE法では40分に短縮された(Figure 3)。

Figure 3 

QIAGEN法・PURE法の抽出方法

QIAGEN法とPURE法によるマイコプラズマのDNA抽出法であり,両方法を比較すると従来の方法であるQIAGEN法はPURE法の3倍の時間を要し,PURE法が簡易であることがわかる。

スワブ採取日に血液によるマイコプラズマ抗体価検査を実施していたのは21名であり,結果は陽性4名,陰性17名,未検査6名であった。また,スワブ採取後1週間以内に3名(未検査であった患者1名と再検査2名)が検査実施しており,すべて陽性であった。これよりLAMP陽性患者において,スワブ採取日のマイコプラズマ抗体価検査陽性は14名中3名であり,1週間後の再評価では6名と増加した。

IV  考察

QIAGEN法とPURE法で抽出されたDNAをLAMP法で測定した結果,陽性一致率,陰性一致率,共に100%であり,良好な相関が得られた。この結果からPURE法の信頼性は高く,PURE法LAMP法におけるDNA抽出法として有用であると考えられる。

また,QIAGEN法よりPURE法の方がDNA抽出作業は簡易となり,大幅に時間短縮できた。その結果,臨床側への迅速な報告が可能となった。

QIAGEN法とPURE法では抽出原理が異なり,QIAGEN法ではフィルターにDNAを吸着させることから,抽出過程においてDNAが濃縮される。PURE法は吸着剤チューブ内の吸着剤にDNA以外の物質が吸着される為,濃縮されることはない。ある量の微生物を,それが生育する固体培地上にまいた時に生じるコロニーの数をコロニー形成単位(colony forming unit; cfu)と言うが,例えば,100 cfu持ち込んだとした場合,最終的にLAMP法に使用される抽出量はQIAGEN法では3.3 cfu,PURE法では0.5 cfuとなり,理論上QIAGEN法はPURE法に比べ約6倍高くなると推測される。QIAGEN法とPURE法の抽出原理の違いを考慮しても,陽性,陰性一致率は100%であること,さらに迅速に結果が得られることからも臨床的に非常に有用であると考える。

今回の検討の中で,LAMP法と同時にマイコプラズマ抗体検査(PA法)を提出されている症例が多く,PA法との比較も行った。Table 1より,LAMP法が陰性で,PA法が陽性である症例が1件あるが,検体採取不良,菌量不足が原因と考えられる。また,LAMP法陽性で,PA法が陰性である症例が10件あるが,スワブ検体と血液検体はすべて同一日に採取しており,マイコプラズマ感染早期でPA法がまだ陰性の為,LAMP法の方が感染早期に検出可能であると考えられる。さらに,LAMP法陽性患者で,PA法が陰性,或いは未検査であった症例を一週間後,再評価したところ,陰性であった2件と未検査であった1件でPA法の検査が提出されており,3件すべてが陽性となった。このことから,血液中の抗体価が上昇しPA法が陽性になるまでには数日を要し,LAMP法はマイコプラズマ感染早期より検出できると言える。

Table 1  PA法とLAMP法(PURE法)の比較

LAMP法とPA法の比較検討の報告において,LAMP法陽性であった19症例のうち31.6%の6症例がシングル血清のPA法で陽性,ペア血清では14症例が陽性との報告がある3)。また,シングル血清での検査症例は発症より1週間程度経過した後の受診であり,当施設でのPA法との比較で,スワブ採取日である発症日より抗体価が上昇した1週間後で陽性率は高くなった報告と同じである。これより,血清学的検査法よりもLAMP法は非常に有用性の高い検査法と言える。

LAMP法が陰性であった13例については臨床診断との比較も行った。

Table 2よりLAMP法陰性であった症例の内,実際の診断はRSウイルス肺炎やクラミジア肺炎,インフルエンザなど,13例中8例がマイコプラズマ感染以外の診断であった。これはLAMP法が陰性という結果と診断が一致する。LAMP陰性でPA法が陽性であった④番の症例では,検体採取不良,菌量不足が考えられる。⑪の症例は,今回の検討約10日前にLAMP法陽性であり,マイコプラズマ感染の診断で抗生剤投与後の患者であった。⑤⑥⑦の症例は,咽頭拭い液採取後,再診されず,診察後の状態が不明であり,マイコプラズマ感染の可能性ありと診断されている。

Table 2  LAMP法陰性患者における診断結果との比較
LAMP陰性患者 PA法 抗生剤① 抗生剤② 年齢 性別 診断
未検査 ジスロマック 3 F 喘息性気管支炎
(−) なし 1 M RSウイルス肺炎
(−) ジスロマック 2 M クラミジア肺炎
(+) ジスロマック 2 F マイコプラズマ感染
未検査 ジスロマック 4 F マイコプラズマ感染の可能性あり
未検査 ジスロマック 0 F マイコプラズマ,クラミジア感染症の可能性あり
未検査 ジスロマック 9 M マイコプラズマ,クラミジア感染症の可能性あり
(−) クラリス ジスロマック 11 F 気管支喘息
(−) シタフロキサシン 13 F 気管支喘息
(−) なし 2 M インフルエンザA
未検査 クラリス ジスロマック 2 M マイコプラズマ感染
(−) オゼックス 4 F インフルエンザB
(−) なし 3 F インフルエンザA

LAMP法が陰性であった13例中8例はマイコプラズマ肺炎以外の診断である。また,マイコプラズマ肺炎と診断された2例のうち④は検体採取不良,⑪は検体採取時期の問題と考えられる。

V  結語

今回の検討では,カルポーターγとフロックスワブとの比較,検討は行っていない。症例数は少ないものの,QIAGEN法とPURE法で100%の相関が得られた。現在,臨床の現場でPURE法を使用しているが,最終臨床診断との乖離は見られず,臨床側へ迅速な結果報告が可能となった。操作簡便性を優先する観点から日常検査として問題なく,小児科における治療や治療効果判定に有意義と考えられた。

今後,LAMP法の試薬調製時間が短縮されれば更なる作業効率の改善につながると思われる。

 

本研究は基礎的検討を目的としているもので,掲載の測定法が診療報酬の対象となるものとは限りません。

本論文は第65回日本医学検査学会で発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)   髙野  弘:「LAMP法の原理・特徴と遺伝子検査簡易化への取り組み」,都臨技会誌,2011; 39: 221–228.
  • 2)   髙野  弘,他:「LAMP(Loop-mediated isothermal amplication)法の原理と応用」,モダンメディア,2014; 60: 211–231.
  • 3)   杵渕  貴洋,他:「Mycoplasma感染症診断におけるLAMP法を用いたMycoplasma pneumonia DNA検出の有用と従来法(培養法・血清学的検査法)の比較検討」,日臨微生物誌,2013; 23: 9–16.
 
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