Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Basic study of the reagent ‘Elia calprotectin 2’ for fecal calprotectin measurement: Fecal calprotectin measurement
Kazuto NAKAMURAAkiko YAMANAYuka AKITATakumi MIURAKunimitsu MACHIDAAkihiko HASHIGUCHIIsami TSUBOI
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2019 Volume 68 Issue 2 Pages 287-290

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Abstract

我々は,蛍光酵素免疫測定法を測定原理としたカルプロテクチン測定試薬「エリアカルプロテクチン2」を用いて,便中カルプロテクチン測定法の基礎的検討を行った。再現性(同時再現性および日差再現性)はCV 7.0%以内と良好な結果であった。希釈直線性も良好な結果であった。本試薬は,比較対照品(カルプロテクチン モチダ)に対して良好な相関性を示し(y = 1.071x + 38.3, r = 0.789, n = 86),判定一致率は87.2%と良好な結果であった。「エリアカルプロテクチン2」は,日常の臨床検査に十分適応可能な試薬性能を有していた。

Translated Abstract

We performed basic evaluation studies of the reagent ‘Elia calprotectin’ based on the principle of sandwich fluorescence enzyme-linked immunoassay for the measurement of fecal calprotectin. Results showed that the CVs of within-run precision and between-day precision were less than 7.0% and dilution linearity was also good. In addition, the correlation with ‘Calprotectin Mochida’ used for comparison was good (y = 1.071x + 38.3, r = 0.789, n = 66). Positive and negative concordance rates were also good (87.2%). ‘Elia calprotectin’ showed sufficiently good basic performance for routine use.

I  緒言

カルプロテクチンはS100蛋白質に属するカルシウム・亜鉛結合蛋白質で好中球の顆粒中に含まれている1)

近年,潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; IBD)と,機能性腸疾患などのその他の疾患の鑑別に,便中カルプロテクチン(fecal calprotectin; FC)測定の有用性が報告されている2)。また,IBDが臨床的に寛解状態であるにもかかわらず,FC値の上昇が認められた場合,臨床的再燃につながることが報告されている2),3)。さらに,IBDの年間発症患者数は年々増加傾向にあり,FCが内視鏡検査前のスクリーニング検査として注目されている。

そこで,スクリーニング検査として,多量の検体を迅速に測定可能な蛍光酵素免疫測定法を測定原理とした「エリアカルプロテクチン2」の基礎的検討を実施したところ,良好な結果を得たので報告する。

II  測定試薬,測定機器および測定原理

1. 測定試薬

1)エリアカルプロテクチン2(サーモフィッシャーダイアグノスティックス社)(以下,本試薬と略す。)

カットオフ値:50 mg/kg,測定上限値:6,000 mg/kg

2)カルプロテクチンモチダ(持田製薬社)(以下,比較対照品と略す。)

カットオフ値:240 μg/g,測定上限値:600 μg/g

2. 測定機器

全自動蛍光免疫測定装置phadia2500E

(サーモフィッシャーダイアグノスティックス社)

3. 測定原理

本試薬は,モノクローナル抗体を用いたサンドイッチ法による蛍光酵素免疫測定法を測定原理とし,基質は4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシドを用いている。

比較対照品は2種類のモノクローナル抗体を用いた酵素免疫測定法を測定原理とし,基質は3,3',5,5'-テトラメチルベンジジンを用いている。

III  検討項目

1. 同時再現性

本試薬の管理検体(L, H)を使用した。中濃度の管理検体Mは管理検体Lと管理検体Hを同量混合して調製した。

管理検体(L, M, H)をそれぞれ10重測定して変動係数(CV%)を算出した。

2. 日差再現性

本試薬の管理検体(L, H)を使用した。中濃度の管理検体Mは管理検体Lと管理検体Hを同量混合して調製した。

管理検体(L, M, H)はそれぞれ1日1回10日間連続測定して変動係数(CV%)を算出した。

3. 感度試験

管理検体Lを検体希釈液を用いて,2n倍希釈して試料を調整して,各10重測定した。ブランクの平均測定値+2SDより試料中の平均値−2SDが大きい最小濃度を検出限界とした。

4. 希釈直線性試験

対象として当社で依頼された測定済み検体で連結不可能な便4検体を検体希釈液で2n倍希釈して希釈直線性を確認した。

5. 相関性試験

対象として当社で依頼された測定済み検体で連結不可能な便86検体を判定一致率の算出に,便66検体を相関性試験に使用した(但し,比較対照品の測定上限値600 μg/gを超える20検体は削除した)。

IV  結果

1. 同時再現性

管理検体L,M,HともにCV 5.0%未満と良好な結果であった(Table 1)。

Table 1  Within-run precision
No L M H
1 20.6 111.6 214.1
2 20.8 116.6 214.6
3 19.9 111.2 216.3
4 22.5 116.3 213.7
5 19.6 115.8 208.3
6 21.9 124.1 228.9
7 21.9 118.7 219.9
8 21.8 119.1 224.5
9 20.5 122.2 224.1
10 21.8 114.6 211.8
平均値(mg/kg) 21.1 117.0 217.6
SD(mg/kg) 1.0 4.1 6.5
CV(%) 4.6% 3.5% 3.0%

2. 日差再現性

管理検体L,M,HともにCV 7.0%未満と良好な結果であった(Table 2)。

Table 2  Between-day precision
No L M H
1 25.1 103.4 203.1
2 23.9 108.0 206.2
3 21.8 105.7 205.7
4 22.0 104.6 200.6
5 21.5 106.5 206.9
6 21.3 106.6 206.4
7 24.3 110.9 218.4
8 21.2 100.5 200.2
9 24.4 117.6 235.2
10 24.2 110.4 216.4
平均値(mg/kg) 23.0 107.4 209.9
SD(mg/kg) 1.5 4.7 10.7
CV(%) 6.7% 4.4% 5.1%

3. 感度試験

ブランクの平均値+2SDが1.2 mg/kgに対して,8倍希釈値の平均値−2SDが2.1 mg/kgであったことより,検出限界は試料濃度2.1 mg/kgであった(Figure 1)。

Figure 1 Minimum detectable sensitivity

4. 希釈直線性試験

検体の希釈直線性は6,627.0 mg/kgまで良好な結果であった(Figure 2)。

Figure 2 Dilution linearity test

The linearity test of 3 samples by two fold dilution

5. 相関性試験

従来法との相関性は,相関係数r = 0.789,回帰式y = 1.071x + 38.3と良好な結果が得られた(Figure 3)。本試薬のカットオフ300 mg/kgによる陰性一致率は81.4%(44/54検体),比較対照品の上限値の600 μg/g以上の陽性を含む陽性一致率は96.8%(31/32検体),判定一致率は87.2%(75/86検体)であった。

Figure 3 Correlation

The correlation with ‘Calprotectin mochida’ of the comparison product

V  考察

本試薬の基礎的検討を行ったところ,同時再現性はCV 5.0%以下,日差再現性はCV 7.0%以下と良好であった。感度試験は2.1 mg/kgまで検出できた。測定範囲に関しては,比較対照品が10~600 μg/gに対して本試薬が3.8~6,000.0 mg/kgと大幅に拡大した。本試薬と比較対照品との相関係数は0.789で,判定一致率は87.2%と良好な結果であった。また,傾きは1.071でほぼ同等の測定値であった。本試薬の基本性能は良好であった。

FCの保存安定性は,室温保存で3日間安定であることが報告されている4)。また,Røsethら5)は,室温保存48時間に対初日17.5%まで低下し,その後は7日目まで有意な測定値の減少は認められなかったことを報告している。現在,冷凍,冷蔵,室温の保存条件で便検体の安定性を検証中である。

また,本試薬と比較対照品は一定量の便検体を採取できるそれぞれの専用容器を使用した。液状の便は添付文書に従いマイクロピペットで一定量を採取し検査を実施したが,取扱上特に大きな問題はなかった。一方で,便中カルプロテクチンは抽出緩衝液中で室温下4日間安定であり6),抽出緩衝液を含んだ一定量の便を採取できる容器に改良することが必要と思われた。

本試薬は,IBDの診断と潰瘍性大腸炎の内視鏡的活動性評価のカットオフ値としてそれぞれ50 mg/kg,300 mg/kgを推奨している。また,比較対照品の内視鏡的活動性評価のカットオフ値が240 μg/g(mg/kg)で,本試薬の保険適用の範囲と内視鏡的活動性評価のカットオフ値が異なっている。FCは個体内変動や日内変動があることが報告されており7),今後の課題として保存温度と臨床的なカットオフ値の再検証が必要であろう。

本試薬は日常のルーチン検査に関しては,性能上問題はないものの,検体採取後の保存条件や臨床的なカットオフ値の再検証などの課題はあるものと思われた。

VI  結語

本試薬の基礎的検討結果は良好で,日常の臨床検査に十分適応可能である。しかし,検体採取後の保存条件と臨床的なカットオフ値の検証が必要であろう。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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