2019 Volume 68 Issue 2 Pages 247-253
当院で過去9年間に超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration; EUS-FNA)を用いて細胞診断を行った膵臓の充実性腫瘤35例を対象とし,EUS-FNAにおける迅速細胞診(rapid on-site cytologic evaluation; ROSE)の有用性を検討した。穿刺回数は平均2.2回,検体採取率は100%,良悪性の鑑別については正診率97.1%,感度96.3%,特異度100%といずれも良好な成績であった。我々はEUS-FNA導入当初よりROSEを施行し,病理部門と消化器内科医の連携強化や検体採取の質的向上に貢献してきた。EUS-FNAにおけるROSEは,検体を確実に採取でき,必要最小限の穿刺で検査を終了できる有用な方法と考えられる。
The efficacy and usefulness of rapid on-site cytologic evaluation (ROSE) with endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration (EUS-FNA) biopsy in our hospital over the past 9 years in 35 patients with pancreatic solid tumors were reported. The centesis of the biopsy specimens was 2.2 times on average and the sampling rate was 100%. The most important diagnostic report was malignancy confirmation; the diagnostic accuracy was 97.1%, sensitivity was 96.3%, and specificity was 100%. The sampling rate, specificity, sensitivity, positive predictive value, and diagnostic accuracy were high. Since the introduction of EUS-FNA, ROSE has contributed to enhancing the collaboration of staff members between the pathological and gastroenterological departments. EUS-FNA with ROSE in this field is now considered to be a useful method of obtaining samples reliably and completing the test with minimal puncture.
超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration; EUS-FNA)を用いた診断は,1992年にVilmannら1)により膵病変に対する生検法として初めて報告され,本邦では2010年4月より保険収載されたことを契機に多くの施設で実施されている。超音波内視鏡で病変をリアルタイムに観察しながら消化管を介して穿刺を行い,膵臓の腫瘤性病変や消化管粘膜下腫瘍,縦隔腫瘤などの組織採取法として有用であり,高い診断能と安全な検査として注目され急速に普及した。しかし,EUS-FNAの検体は微小で凝血塊と混在していることが多く,肉眼のみでは十分な検体量が採取できているか判断が難しいことがあり,十分な組織量や細胞数が得られていない場合には,診断に難渋することも少なくない。一般的に,白色検体は対象病変由来のものを多く含み,赤色検体は血液成分中心と考えられているが,白色調に見える検体には,フィブリン,線維性成分,壊死,粘液なども含まれている場合がある2)。
EUS-FNAにおける迅速細胞診(rapid on-site cytologic evaluation; ROSE)は,必要最小限の穿刺で確実な検体採取に有用であることは以前より報告されている3)~6)。当院では2009年7月よりEUS-FNAを導入し,当初からROSEを行っている。本稿では,当院における臨床検査技師の内視鏡検査への関わりとROSEの実際を紹介し,ROSE導入後2009年7月から2018年7月までに実施した膵臓の充実性腫瘤におけるEUS-FNAの診断成績を検討したので,報告する。
以前は当院の内視鏡センター業務は医師,看護師が中心であったが,病棟看護師配置基準を満たすため外来看護師の一部が病棟へ転属,さらに放射線科看護師数減少により,2007年から臨床検査技師の内視鏡検査への参画が開始された。2018年7月現在,内視鏡センターは消化器内科医16名(内,専門医7名),臨床検査技師24名(内,消化器内視鏡技師15名),放射線科看護師21名,アテンダント3名,クラーク2名で構成され,年間約6,500件の内視鏡検査・治療を行っている。
臨床検査技師24名は病理検査,細菌検査,腹部エコー検査,生理検査などの他業務との兼任で,週のうち1,2回ローテーション方式で内視鏡業務を担当し,上部・下部消化管内視鏡検査,上部・下部止血術,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection; EMR),内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection; ESD),内視鏡的逆行性膵管胆管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography; ERCP),小腸内視鏡検査,超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasound; EUS),気管支鏡検査(bronchoscopy; BF)などの準備,介助および検体処理を行い,緊急内視鏡検査にも当直または宅直体制で24時間対応している。また,EUS-FNAとBFでは,採取された生検組織の質的評価を目的に消化器内視鏡技師の資格を持った細胞検査士がROSEを行っている。
EUS-FNAで必要な器材は,病変の抽出に必要なコンベックス型超音波内視鏡と超音波観測装置,組織採取に必要な生検針である。当院では,内視鏡はOlympus社製GF-UCT260(観測装置は同社製EU-ME1)を使用している。生検針はBoston Scientific社製Acquire,Expect およびCook Medical社製Echo Tip ProCoreを使用し,19-gauge,22-gauge,25-gaugeを目的や状況に応じて選択している。手技を行う際には消化器内科医が2名以上,細胞検査士が2名,看護師が1名のチーム構成で行い,細胞検査士はスコープ準備,検体処理,標本作製,ROSEの一連の業務に携わっている。
以下に当院で行っているROSEを併用したEUS-FNAの実際を記す。超音波画像で病変部位を抽出し(Figure 1a),リアルタイムに観察しながら標的部位に向けて穿刺する(Figure 1b)。病巣穿刺後,スタイレットを抜去し,減圧をかけた注射筒を取り付け,病変内で約20回ストロークさせ組織を吸引採取する。組織採取後,減圧を解除し生検針を抜去する。スタイレットを再挿入し,生理食塩水の入ったシャーレへ検体を押し出した後,LED光上のCYTO RICH RED(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)の入ったシャーレへ検体を浸漬する(Figure 2a)。溶血作用のあるCYTO RICH REDにより組織に付着している血液を取り除き,LED光で照射することにより,検体性状を詳細に観察し,適切な検体選別を行うことが可能となる(Figure 2b)。採取検体から白色組織成分をサンプリングし,圧挫法にて標本作製する。1枚は冷風乾燥固定し,ただちに超迅速パパニコロウ染色(Ultrafast Papanicolaou;UFP染色)を行い(Figure 3a),もう1枚は95%アルコール固定をする。生検針内に残った検体は,スライドガラス上へ10 mLシリンジを用いて空気で押し出し,95%アルコール固定をする。さらに生検針内の残った検体を,生理食塩水で洗浄回収する。CYTO RICH REDに浸漬させたROSE後の組織片は,10%中性緩衝ホルマリン液で固定し,型の如く組織標本を作製する。ピンセットで摘めない極小検体は,生理食塩水で洗浄回収した検体と合わせ,セルブロックを作製する。作製方法は,沈渣に10%中性緩衝ホルマリン液を加え一晩固定後,上澄み液を捨て,沈渣にアレイジェル(株式会社ユーケンサイエンス)を滴下し,遠心機にかける。遠心後,アレイジェル凝固剤(株式会社ユーケンサイエンス)を滴下し,10回程度スピッツを振る。アレイジェルで包んだ沈渣を組織標本同様,包埋ブロック作製を行う。これは十分な組織検体が採取できなかった場合に,セルブロックの検体から免疫組織化学的検索を行うためである。95%アルコール固定を行った標本は,EUS-FNA検査終了後,病理検査室に持ち帰り,翌日パパニコロウ染色(Papanicolaou;Pap染色)を行う(Figure 3b)。UFP染色を行った標本は,内視鏡室に常備している顕微鏡で直ちに鏡検を行い,消化器内科医に診断可能な量の検体が採取されたか否かの報告にあわせ,臨床上,悪性が疑われている場合には,異型細胞の有無についても報告する。検体適正の場合は検査終了となるが,細胞量が少ないまたは異型が弱い場合は再度穿刺を依頼し,必要であれば生検針や穿刺部位の変更も検討してもらう。
a: A slightly non-uniform low-echoic tumor (arrowheads) of 24 × 20 mm in size, with clear margin in the pancreatic head. b: The puncture is enforced (arrow).
a: Sampling of cell component. CYTO RICH RED is added for hemolysis of the blood attached to the tissue, and irradiated with LED light from the bottom. b: After short gentle washing, whitish tissue component (arrows) easily recognized in blood core.
a: Ultrafast Papanicolaou is stained for 2 minutes. When the diagnostic sample volume can be collected, the examination is terminated. b: Papanicolaou stain clearly diffrentiate both squamous cell carcinoma with keratinization and adenocarcinoma with abundant mucus. It can be diagnosed as adenosquamous carcinoma.
2009年7月から2018年7月までの9年間に当院でEUS-FNAを施行し細胞診断を行った67例のうち,EUSで膵臓の充実性腫瘤と診断され,確定診断を目的にEUS-FNAが施行された35例(男性:22例,女性:13例)を対象とした。疾患別内訳は,腺癌26例,腺扁平上皮癌1例,自己免疫性膵炎6例,慢性膵炎2例(Table 1)で,組織診断または1年以上の経過観察をもって確定診断とした。これらの症例に対し,ROSE併用のEUS-FNA施行後,作製した全ての標本を病理検査室でPap染色,細胞診断を行った。穿刺回数,検体採取率および診断成績を検討し,診断成績については感度,特異度および正診率を求めた。
adenocarcinoma | adenosquamous carcinoma | autoimmune pancreatitis | chronic pancreatitis | |
---|---|---|---|---|
cases | 26 | 1 | 6 | 2 |
今回検討を行った膵臓の充実性腫瘤35例の穿刺回数は,1回が10例,2回が12例,3回以上が13例(平均2.2回,範囲1~5回)(Figure 4),検体採取率は100%(35/35)であった。組織診断で腺癌または腺扁平上皮癌と診断された27例は,細胞診で1例を良性,1例を異型,1例を悪性の疑い,24例を悪性と判定し7),感度は96.3%(26/27)。臨床診断を含め,自己免疫性膵炎または慢性膵炎と診断された8例は,細胞診で全て良性と判定し,特異度は100%(8/8)。正診率は97.1%(34/35)であった(Table 2)。
final diagnosis | total | |||
---|---|---|---|---|
malignant | benign | |||
cytological diagnosis6) |
malignant | 24 | 24 | |
suspicious for malignancy | 1 | 1 | ||
atypical | 1 | 1 | ||
benign | 1 | 8 | 9 | |
total | 27 | 8 | 35 |
Sensitivity 96.3%, Specificity 100%, Accuracy 97.1%
膵臓の充実性腫瘤におけるEUS-FNAの検体採取率は92~100%,良悪性の鑑別については正診率76~95%,感度64~94%,特異度93~100%と報告されており8),今回検討を行った当院での膵臓の充実性腫瘤35例の検体採取率は100%,正診率は97.1%,感度は96.3%,特異度は100%といずれも良好な成績が得られた。
1回の穿刺のみでEUS-FNAを終了することができた10例は,必要最小限の穿刺で診断が行え,患者負担の軽減に貢献できた。また,2回および3回以上の複数回穿刺を行った25例は,診断するに足る細胞が採取できておらず再度穿刺を依頼した症例である。いずれも最終の穿刺では,診断に十分な細胞が採取できたと判断し検査を終了,組織診断でも同様の結果が得られている。穿刺回数に関して,膵臓では7回で感度83%,特異度100%であり,それ以上行っても診断精度は向上しないとの報告があり9),ROSEを行ったことで不必要な穿刺回数の減少ができ,ROSEは有用であったと考える。
また,組織診断で腺癌と診断されたが,細胞診で良性と判定した1例は,外科的切除標本で浸潤性膵管癌,中分化型腺癌と診断された。この症例は,超音波内視鏡で自己免疫性膵炎を疑い,ROSEでは正常細胞が豊富に採取できたため2回の穿刺で検査を終了したが,病変部の的確な検体選別ができていなかったと考えられる。
診断成績の向上や穿刺回数を減少させるためには病理医もしくは細胞検査士がEUS-FNAの際に同席し,ROSEを行うことが望ましいとされている3)~6)。ROSEの目的は,診断可能な量の検体が採取されたか否かを調べることであり,採取された検体量に応じて,少ない場合は追加穿刺を,十分な場合は検査終了の判断が可能である。また,消化管粘膜下腫瘍,神経内分泌腫瘍や悪性リンパ腫などの診断においては細胞診のみでは不十分であり,確定診断には免疫組織化学的検索が必須である。このような疾患を疑う細胞像が検出された場合には,穿刺回数を増やすか,より太い生検針を選択し組織学的検索を施行するための十分な組織検体採取が重要となる。消化器内科医に採取検体の情報を正確に伝えることで,再検査率の低下や不適正標本の減少などにより,診断精度の向上が期待できる。
しかし,本邦では病理業務の拡大や病理医不足などの理由により,病理医もしくは細胞検査士がEUS-FNAの際に同席が可能な施設は限られており,十分量の検体が採取できたか否かの判断は消化器内科医自らが肉眼的に確認している施設が多い。また,消化器内科医自身がROSEを併用したEUS-FNAを施行した場合,病理医もしくは細胞検査士が不在のROSEでも診断成績に差はないとの報告もあり10),11),各々の施設に合った工夫をすることで検体採取率や正診率が上がり,必要な検査を実施することができる。
筆者らは,CYTO RICH REDにより組織に付着した血液を溶血させ,LED光で照射することにより,ROSEの診断に有用な検体選別を行うことを容易に可能としている。ROSEで用いる染色法としては,UFP染色を選択しているが,この染色は全操作が2分程度で即座に鏡検可能,乾燥固定であるため細胞の損失が少ないことが特徴である。Diff-Quick染色などと比べると染色工程は複雑であるが,再水和処理により赤血球が除去されるため,凝血塊と混在していることが多いEUS-FNAの検体に最適な染色方法と考えている。
EUS-FNAは診断機器の進歩に伴い,消化器内科医の技術の改善や病理医,細胞検査士の経験により診断精度はますます向上し,重要な検体採取や治療として用途も広がり,その必要性は高まると考えられる。近年,組織検体は病理診断のみならず,免疫組織化学染色や遺伝子検査による検査結果をもとに治療の選択も行われている。当院では,細胞検査士が内視鏡検査を兼任することで,病理側からの適切な検体採取や検体処理の提言が臨床の現場でより可能となっている。実際に凝血塊ばかりの組織が採取されたと思ってもその中に腫瘍細胞が含まれていた症例や,白色組織が採取されたと思っても壊死組織のみで細胞成分に乏しい症例を経験すると,ROSEの有用性は高いと考える。ROSEで適切な検体が採取されれば,良悪性の確定診断は十分可能であるが,その場で良悪性の確定診断にまで至らなくとも,検体を確実に採取できたことが分かれば,消化器内科医は安心して検査を終えることができる。我々,細胞検査士も検査の現場に出ることで,消化器内科医とディスカッションし臨床情報を得ることができるため,診断する上で有用な情報を得ることができる。また,ROSE実施の有無で成績を比較した場合,ROSE未実施では10~15%程度の診断率の低下,偶発症発生頻度の増加,検査時間の延長がみられたとの報告もあり12),13),EUS-FNAにおけるROSEは,検体を確実に採取でき必要最小限で検査を終了できる有用な方法と考える。
病理部門専従でなければ専門性が低下するという批判的な意見もあるが,兼任により各部門横断的な視野が養え,各個人のスキルアップが期待できる。各々が専門性を発揮し,消化器内視鏡チームの医療に参画することで,効率的な人員配置が可能となり,労働生産性の向上に繋がると考える。
病理部門では,ゲノム医療やコンパニオン診断の進展に伴い,検査結果に大きな影響を与えるプレアナリシス段階の成否,特に検体採取,固定条件に依存しており,その段階で病理検査技師の関与が重要である。
本論文の一部は第76回日本消化器内視鏡技師学会(2016年),第14回四国消化器内視鏡技師学会(2017年)および第59回日本臨床細胞学会総会春期大会(2018年)において口頭発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。