Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of ACTH assay based on chemiluminescence enzyme immunoassay and comparison of its reactivity with high-molecular-weight ACTH
Yukari MIYAZAWATakashi HERAIRiichi KAWASAKIShigeyuki ENDOYukako KOIKEAkiko YONEYAMA
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Keywords: AIA-CL2400, ACTH, Pro-ACTH, CLEIA
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2019 Volume 68 Issue 3 Pages 507-513

Details
Abstract

東ソー(株)よりAIA-CLシリーズ用として新たに開発された化学発光酵素免疫測定法を原理とする副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone; ACTH)測定試薬AIA-パックCL ACTHの基礎的検討を行った。同時再現性は1.1~2.3%,日差再現性は3.2~4.4%と良好であった。希釈直線性は約1,790 pg/mLまで,定量限界は1.650 pg/mLまで認められ,基礎特性は良好であった。またACTH産生腫瘍により血中に高分子型ACTHが認められることが報告されており,本法は高分子型ACTHを感度よく測り込むことで,ACTH産生腫瘍の検出に有用である可能性が示唆された。本法の測定時間は15分と既存の方法に比べ短く,日常検査における有用性は高いと考えられた。

Translated Abstract

Tosoh Corporation developed a novel reagent to be used with AIA-CL automated immunoassay analyzers to quantify adrenocorticotropic hormone (ACTH) on the basis of the principles of chemiluminescence enzyme immunoassay. The coefficients of variation (CVs) for within-run and between-run reproducibilities ranged from 1.1 to 4.4%. They showed good linearity from 0 to 1,790 pg/mL, and the limit of quantitation was 1.650 pg/mL. With its high sensitivity, the assay may be useful for detecting the presence of ACTH-producing tumors that secrete high-molecular-weight ACTH. The measurement time of this method is shorter than that of the existing method, and it is considered highly useful for routine examinations.

I  はじめに

今回,東ソー(株)のAIA-CLシステムにて測定可能であるACTH測定試薬AIA-パックCL ACTHが新たに開発され,基礎的検討および高分子型ACTHに対する反応性の評価を行った。

副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone; ACTH)はアミノ酸39個からなるペプチドホルモンで,下垂体前葉から分泌される。副腎皮質に作用し,主にコルチゾールの合成や分泌を促進する。ACTHは,下垂体内で前駆体であるPro-opiomelanocortin(POMC)が酵素によって切断されることにより産生・分泌される(Figure 11)。ACTHの分泌は,視床下部から分泌されるACTH放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone; CRH)により促進し,コルチゾールによって抑制されるため,視床下部-下垂体-副腎皮質系の病態診断にはACTH測定が重要である。

Figure 1 Production process of ACTH

β, γ-LP; β, γ-Lipotropin

β-EP; β-Endorphin

一方,クッシング病や異所性ACTH産生腫瘍では,この酵素活性が低下するためACTHへのプロセッシングが十分に行われず,高分子型ACTHが血中に増加する。測定法によって高分子型ACTHに対する反応性が異なるため,測定値が乖離する原因となる2)

II  対象および方法

1. 対象

検査終了後の残余検体を調査研究に使用することに同意し,当検査部にACTH測定依頼があった患者血漿を用いた。なお,本検討は当院研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1351)。

2. 試薬および分析装置

検討試薬は東ソー(株)のAIA-パックCL ACTHで,分析装置には同社のAIA-CL2400を使用した。対照法①として同社のEテスト「TOSOH」II(ACTH)(以下AIA)を用い,分析装置にはAIA-1800を使用した。さらに,対照法②としてロシュ・ダイアグノスティックス(株)のエクルーシス試薬ACTH(以下Eclusys)を用い,分析装置はcobas6000を使用した(Table 1)。

Table 1  Protocol for ACTH assay
検討法 対照法① 対照法②
試薬名 AIA-パックCL ACTH(AIA-CL) Eテスト「TOSOH」II(ACTH)(AIA) エクルーシス試薬ACTH(Eclusys)
測定機器 AIA-CL2400 AIA-1800 cobas6000
測定原理 化学発光酵素免疫測定法(CLEIA) 蛍光酵素免疫測定法(FEIA) 電気化学発光免疫測定法(ECLIA)
使用抗体 ヤギポリクローナル抗体 ヤギポリクローナル抗体 マウスモノクローナル抗体
測定時間 15分 18分 18分
検体量 20 μL 50 μL 50 μL
測定範囲 1.0~2,000 pg/mL 2.0~2,000 pg/mL 1.0~2,000 pg/mL

3. 測定原理

本法の測定原理は2ステップサンドイッチ法による化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)である。本法の反応試薬には2つのセルがあり,セル(1)には磁性微粒子に固定化された抗ACTHヤギポリクローナル抗体を含む凍結乾燥体,セル(2)にはアルカリ性ホスファターゼ標識抗ACTHヤギポリクローナル抗体を含む凍結乾燥体が封入されている。セル(1)には分注水と検体を,セル(2)には分注水を加え凍結乾燥体を溶解し,セル(1)では第一反応が開始される。一定時間,一定温度でインキュベーション後,洗浄水で洗浄して未反応の検体成分を除去し(B/F分離),セル(2)の内容物を一定量セル(1)に移すことにより第二反応が開始される。B/F分離後,磁性微粒子に結合した酵素活性を測定するため基質を添加し,酵素による分解で得られる発光強度からACTH濃度を算出する(Figure 2)。

Figure 2 Principles for ACTH assay

4. 精密度

東ソーマルチコントロール3濃度を20日間3重測定し,一元配置分散分析にて同時再現性および日差再現性の変動係数(coefficient of variation; C.V.)を算出した。

5. 希釈直線性

高濃度の患者血漿を専用希釈液で10段階希釈した後,3重測定を行った。

6. 検出感度

臨床化学会の定量分析法における検出限界および定量限界の評価法3)に従い,ブランク上限(limit of blank; LoB),検出限界(limit of detection; LoD),定量限界(limit of quantitation; LoQ)をそれぞれ求めた。LoBはブランクキャリブレータを5日間12回測定,LoQは低値試料14検体を5日間2重測定した。

7. 共存物質の影響

干渉チェックAプラスおよび干渉チェックRFプラス(Sysmex社)の添付文書に従って添加調製し,ヘモグロビン,乳び,抱合型ビリルビン,遊離型ビリルビン,リウマトイド因子の各共存物質を5系列作製し2重測定した。

8. 相関

クッシング病などのACTH産生腫瘍患者以外の患者検体164例を用いて対照法との相関を求めた。

9. 高分子型ACTHに対する反応性

クッシング病などのACTH産生腫瘍の患者検体を用いて,測定値に乖離の認められた症例を対象にゲル濾過クロマトグラフィー(gel filtration chromatography; GFC)による分子量分析を行った。カラムはBioAssist G2SWxl PEEK(東ソー)を2本連結し,溶離液は0.05% TFA,50 mM KCl,流速は0.5 mL/分とした。

III  結果

1. 精密度

同時再現性のC.V.は1.1~2.3%,日差再現性のC.V.は3.2~4.4%であった(Table 2)。

Table 2  Reproducibility
A unit Within-run Between-run
Mean (pg/mL) S.D. (pg/mL) C.V. (%) S.D. (pg/mL) C.V. (%)
Low 53.31 1.227 2.3 1.933 3.6
High 321.66 3.668 1.1 10.719 3.3
B unit Within-run Between-run
Mean (pg/mL) S.D. (pg/mL) C.V. (%) S.D. (pg/mL) C.V. (%)
Low 53.31 1.133 2.1 2.337 4.4
High 321.74 4.412 1.4 10.282 3.2

2. 希釈直線性

約1,790 pg/mLまで直線性が認められた(Figure 3)。

Figure 3 Dilution linearity

3. 検出感度

LoBは0.186 pg/mL,LoDは0.293 pg/mLであった。また,LoQ(C.V. 10%)は1.650 pg/mLであった(Figure 4)。

Figure 4 Limit of quantitation

4. 共存物質の影響

乳びは1,480ホルマジン濁度,抱合型ビリルビンは20.9 mg/dL,遊離型ビリルビンは19.5 mg/dL,リウマトイド因子は550 IU/mLまで影響は認められなかった。一方,ヘモグロビンは添加濃度に比例して低下し,無添加から最終濃度(520 mg/dL)までで約15%の低下が認められた(Figure 5)。

Figure 5 Effects of interfering substances

5. 相関

AIA-CL(y)とAIA(x)の相関は,y = 0.98x − 1.97,r = 0.981,n = 164であった。また,Eclusys(x)との相関は,y = 1.07x − 3.92,r = 0.973,n = 164であった(Figure 6)。

Figure 6 Correlation test

6. 高分子型ACTHに対する反応性

高分子型ACTHに対する反応性の比較のため,以下の2症例においてGFCによる分子量分析の比較検討を行った。

1)対照:66歳男性,非機能性下垂体腺腫,CRH負荷による高ACTH,コルチゾール濃度:17.6 μg/dL,ACTH濃度はAIA-CL:223 pg/mL,AIA:215 pg/mL,Eclusys:244 pg/mL,三法共に低分子領域に単一ピークが認められた(Figure 7A)。

Figure 7 Molecular weight analysis of patients’ plasma by GFC

A) 66-year-old man, Non-functioning pituitary adenoma, after stimulation by CRH, AIA-CL: 223 pg/mL, AIA: 215 pg/mL, Eclusys: 244 pg/mL, Three assays showed one peak in the low-molecular weight region of ACTH 1-39.

B) Case 1, 46-year-old woman, Cushing’s disease, AIA-CL: 25,973 pg/mL, AIA: 25,708 pg/mL, Eclusys: 15,590 pg/mL, AIA-CL and AIA showed three peaks (#1, #2, #3) in the high-molecular weight region eluted earlier than ACTH 1-39. Eclusys showed one peak (#3) in the high-molecular weight region.

C) Case 2, 53-year-old woman, Pituitary cancer, AIA-CL: 1,398 pg/mL, AIA: 1,315 pg/mL, Eclusys: 599 pg/mL, Similar peaks were noted in case 1.

2)症例1:46歳女性,下垂体腺腫によるクッシング病,コルチゾール濃度:16.3 μg/dL,ACTH濃度はAIA-CL:25,973 pg/mL,AIA:25,708 pg/mL,Eclusys:15,590 pg/mL,対照で認められたピークの他に,高分子領域にAIA-CLとAIAでは3つ(高分子側から#1,#2,#3),Eclusysでは#3に1つピークが認められた(Figure 7B)。

3)症例2:53歳女性,下垂体癌,コルチゾール濃度:22.2 μg/dL,ACTH濃度はAIA-CL:1,398 pg/mL,AIA:1,315 pg/mL,Eclusys:599 pg/mL,症例1と同様,高分子領域にAIA-CLとAIAでは#1~#3,Eclusysでは#3にピークが認められた(Figure 7C)。

IV  考察

検討の結果,本法の基礎特性(精密度,希釈直線性,検出感度)は良好であり,日常検査に十分有用であると考えられた。一方,共存物質の影響については,今回使用したヘモグロビンで約15%測定値の低下が認められた。ACTHは血球中のプロテアーゼにより分解され,溶血検体では値が低下することが報告されており4),注意を要する。今回の結果は,干渉チェック中のヘモグロビン溶液に微量含まれていた蛋白分解酵素の影響によりACTHが分解されたと推測される。

クッシング病などのACTH産生腫瘍では生物活性のない高分子型ACTHが血中に存在していることが知られている5),6)。各測定キットで使用されている抗体の抗原認識部位(Figure 87),8)の違いが高分子型ACTHに対する反応性の差に繋がると考えられ,高分子型ACTH陽性症例では測定キット間で測定値の乖離が生じると報告されている2)。そこで本検討では,クッシング病などの患者血漿を用いて高分子型ACTHに対する反応性についてGFCによる分子量分析を行い比較した。

Figure 8 Antigen recognition sites of ACTH antibodies in the three ACTH kits

対照の非機能性下垂体腺腫の場合,三法共に低分子領域に1つのピークが認められ,高分子領域にはピークは出現しなかった。対照はACTH産生腫瘍ではないため,この単一ピークは通常のACTH(ACTH 1-39)であると考えられた。一方,症例1はクッシング病でコルチゾール濃度が正常であるのに対し,ACTH濃度は高値を示している。本法およびAIAは25,000 pg/mL以上,Eclusysは15,000 pg/mLと乖離が認められた。GFCではACTH 1-39のピーク以外に高分子側に3つのピーク(高分子側から#1,#2,#3)が出現した。本法およびAIAは#1~#3のピークすべて,Eclusysは#3のみをACTHとして測り込んでおり,メーカーによって異なる結果となった。症例2(下垂体癌)も症例1と同様の結果であった。

以上の結果より,ACTH産生腫瘍では高分子型ACTHが認められ,それをACTHとして測り込んでいるために測定値が高くなったと考えられた。また,本法はEclusysより多くの高分子型ACTHを測り込むことで高値となり,ACTH産生腫瘍を検出するのに有用であると考えられたが,一方で,各測定キットに使用されている抗体によって抗原認識部位が異なることで高分子型ACTHに対する反応性に差が生じ,相関不良の原因となる可能性が示唆された。今後ACTH測定試薬の相関検討の際には,高分子型ACTHの有無に注意が必要である。

また,クッシング病などのACTH産生腫瘍では腫瘍内におけるPOMCからACTHまでのプロセッシングに必要な切断酵素活性が,下垂体ACTH細胞と異なり不十分になることで7),生物活性のない高分子型ACTHが血中に増加する。そのため,見かけ上のACTHが高くてもクッシング徴候を示さないなど測定値と臨床症状が矛盾する可能性にも注意が必要である。

V  結語

今回,AIA-パックCL ACTHを検討した結果,基礎特性は良好であることが確認された。

従来から,ACTH測定試薬ではACTH産生腫瘍で出現する高分子型ACTHによる測定値の乖離が認められており,高分子型ACTHに対する反応性が異なるため他キット間で相関不良の原因となる可能性が報告されている。本法はACTH測定値に高分子型ACTHを測り込むことが示唆されたが,一方でACTH産生腫瘍を検出するのにより有用であると考えられた。測定時間も15分と負荷試験の結果報告や外来における迅速結果報告にも対応できることから,本法は日常検査に大いに貢献するものと考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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