2019 Volume 68 Issue 3 Pages 501-506
近年,血小板凝集能検査は従来の目的である先天性出血性疾患の診断や血栓傾向の確認だけでなく,抗血小板薬の効果確認を目的として実施する施設も多く存在する。当院でも血小板凝集能検査半自動装置であるPRP313Mに搭載されている4濃度法の解析指標であるグレードタイプ(Grade Type; G-Type)を用いて,抗血小板薬の効果確認を行っている。このたび全自動血液凝固測定装置CS-5100に血小板凝集能検査の新規解析指標である血小板凝集レベル(Platelet Aggregation Level; PAL)が搭載された。そこで筆者らはCS-5100のアデノシン2リン酸(Adenosine diphosphate; ADP)試薬によるPAL(ADP induced PAL; APAL)とコラーゲン試薬によるPAL(Collagen induced PAL; CPAL)に対して,各試薬によるG-Typeを比較することで,PALの有用性を評価した。APALとG-Typeの相関性結果は相関係数r = 0.72,CPALとG-Typeの相関性結果はr = 0.71であった。さらに当院のカットオフであるG-Type −1相当のPALはAPAL 7.1およびCPAL 8.0であり,それらをカットオフとした際の判定一致率はAPAL 92.6%,CPAL 86.0%となった。以上の結果から,CS-5100の新たな解析指標PALを用いた場合にも,G-Typeと同等の評価が可能であると考えられた。また,CS-5100は血小板凝集能検査の標準化および普及への貢献が期待される。
Recently, hospitals have not only been diagnosing congenital diseases by analyzing platelets, but also evaluating the therapeutic effect of anti-platelet drugs through the platelet aggregation test. In our hospital, we evaluate the effect of anti-platelet drugs on the basis of Grade Type (G-Type) through four concentration analysis indexes installed in the semi-automated platelet aggregation analyzer PRP313M. At this time, the new analysis index of platelet aggregation (platelet aggregation level; PAL) was developed and installed in the automated blood coagulation analyzer CS-5100. We evaluated the usefulness of adenosine diphosphate (ADP)-induced PAL (APAL) and collagen-induced PAL (CPAL) by comparing them with the G-Type of each reagent. The correlation coefficients were r = 0.72 for APAL with G-Type and r = 0.71 for CPAL with G-Type. We separated the samples into two groups by our usual cutoff G-Type of −1. The distribution results of APAL and CPAL showed significant differences between groups. Moreover, an APAL of 7.1 and a CPAL of 8.0 were equivalent to a G-Type of −1 and the concordance rates of evaluation based on APAL and CPAL were 92.6% and 86.0%, respectively. From these results, we consider that we can evaluate the effect of anti-platelet drugs on the basis of PAL as well as G-Type. Furthermore, because CS-5100 is an automated blood coagulation analyzer for general coagulation tests, it enables hospitals that do not have a special analyzer for the platelet aggregation test to evaluate the effect of anti-platelet drugs.
血小板凝集能検査は透過度(LTA)法が1962年に考案され1),ゴールドスタンダードとして知られている。従来の検査の目的は先天性出血性疾患の診断や血栓傾向の確認であるが,近年は抗血小板薬療法の普及と,抗血小板薬によって十分な血小板凝集能抑制効果が得られない患者が存在することが報告されていることもあり2),抗血小板薬の効果確認を目的として検査を実施する施設も多く存在する3)。しかしながら,血小板凝集能検査によって抗血小板薬の確認を行う際には,得られた凝集波形や最大凝集率,最終凝集率等を含めた指標を確認するだけでなく,試薬を複数濃度使用して得られたそれらの結果を総合的に解釈するなど複雑であるため,結果の解釈には血小板凝集能検査に習熟している必要があった。そこで結果の判断をサポートすることを目的とし,4濃度の試薬による測定結果から得られる,血小板の凝集に対する感受性の指標が開発された(4濃度法)4)。4濃度法によって得られる解析指標であるグレードタイプ(Grade Type; G-Type)は−2~3の6段階で表され5),G-Type −2は過剰の抑制を示し,G-Type 3は強度の亢進を表す。当院で本指標を使用している臨床医はG-Type −1を抗血小板薬の薬効評価におけるカットオフとして運用している。
これまでG-Typeのような結果の解釈をサポートする指標は,血小板凝集能検査専用装置に搭載されていたが,試薬や検体の分注を人が行う必要がある半自動の装置であったため,いまだに検査自体の煩雑さや手技の熟練度の影響が課題であった。そのため血小板凝集能検査は専用装置を所有している限られた施設でのみ実施可能であった。そういった中で2015年からルーチンの血液凝固検査項目測定用の全自動血液凝固測定装置CS-5100(CS-5100,シスメックス株式会社)において血小板凝集能の測定が可能となった6)。さらには新規解析指標として血小板凝集レベル(Platelet Aggregation Level; PAL)が開発された。PALは2濃度の試薬によって得られた2つの凝集波形全体を統合し解析することによって算出される指標であり,0.0~10.0の100段階で表される7)。使用する試薬毎に,アデノシン2リン酸(Adenosine diphosphate; ADP)試薬によって得られるPAL(ADP induced PAL; APAL),コラーゲン試薬によって得られるPAL(Collagen induced PAL; CPAL)が存在する。
そこで今回,筆者らは新たに開発されたPALとG-Typeの相関性を確認し,筆者らのG-Typeにおけるカットオフに対しての判定一致率を算出することで,PALの有用性を評価した。
当院にて,血小板凝集能の測定オーダーがありインフォームドコンセントが得られた136検体を対象とした。3.2%クエン酸ナトリウム加採血管を使用して採血し,117 gで10分間遠心した際の上清を分取して多血小板血漿(Platelet Rich Plasma; PRP)とした。さらに,残りの血液を1,650 gで10分間遠心した際の上清を分取して乏血小板血漿(Platelet Poor Plasma; PPP)とした。なお,本研究は総合病院 聖隷三方原病院倫理委員会(臨床研究)の承認(研究番号 第17-38)を受けて行った。
2. 使用装置と使用試薬(Table 1)Evaluated method | Reference method | |
---|---|---|
Analyzer | CS-5100 | PRP313M |
Reagent and Final concentration | Revohem ADP | 「MCM」ADP |
10, 1 μmol/L | 8, 4, 2, 1 μmol/L | |
Revohem Collagen | Collagen Reagents “HORM” | |
5, 1 μg/mL | 2, 1, 0.5, 0.25 μg/mL | |
Analysis index | PAL (APAL, CPAL) | G-Type |
本研究の評価法の装置としてCS-5100を使用し,対照法の装置として血小板凝集能測定装置PRP313M(PRP313M,株式会社タイヨウ)を使用した。
評価法の試薬としてレボヘムADP,レボヘムコラーゲン(共にシスメックス株式会社),対照法の試薬として「MCM」ADP(エム・シー・メディカル株式会社),コラーゲンリエージェント“ホルム”(モリヤ産業株式会社)を使用した。試薬終濃度は評価法でADPが1,10 μmol/L,コラーゲンが1,5 μg/mLとなるように調製した。また対照法でADPが1,2,4,8 μmol/L,コラーゲンが0.25,0.5,1,2 μg/mLとなるように調製した。
3. データの取得方法相関性試験は,対照法によって測定した後に残余検体を用いて評価法により測定を行った。ADP試薬およびコラーゲン試薬に関して共に136件のデータを取得した。
同時再現性試験は,相関性試験の測定後に複数の残余検体をプールして検体量を確保し,5回連続測定を実施した。
4. データの解析方法相関性試験の評価対象はADP 1 μmol/Lとコラーゲン1 μg/mLによって得られる最大凝集率,および複数濃度の測定結果により得られる解析指標であるPAL(評価法)とG-Type(対照法)とした。また当院ではG-Type −1を薬効評価のカットオフとしているため,検体群をG-Type 3,2,1,0群とG-Type −1,−2群に分け,PALの2群間比較をWilcoxon検定にて有意差検定を行った。さらにROC解析によりG-Type −1相当のPALを算出し,その値を用いて各指標の薬効評価における判定一致率を算出した。
PALやG-Typeの複数の測定結果を統合した指標ではなく,血小板凝集測定装置および試薬の組合せのシステムとして比較するために,評価法および対照法ともに使用したADP 1 μmol/Lとコラーゲン1 μg/mLの最大凝集率を比較した。ADP 1 μmol/Lの最大凝集率の相関性結果は近似式y = 1.02x + 3.95であり,相関係数r = 0.84であった(Figure 1A)。コラーゲン1 μg/mLの最大凝集率の相関性結果は近似式y = 0.79x + 33.7であり,相関係数r = 0.88であった(Figure 1B)。
Correlation plots of maximal aggregation resulted from common reagent concentration between methods
次に異なる試薬濃度および濃度数の測定結果より,異なるアルゴリズムによって得られる解析指標であるPALとG-Typeの比較を行った。ADPに関して,APALとG-Typeの相関性結果は近似式y = 0.64x + 8.14であり,相関係数r = 0.72であった(Figure 2A)。コラーゲンに関して,CPALとG-Typeの最大凝集率の相関性結果は近似式y = 0.71x + 8.31であり,相関係数r = 0.71であった(Figure 2B)。
A: Correlation plots of analysis index APAL and G-Type obtained by ADP reagent
B: Correlation plots of analysis index CPAL and G-Type obtained by collagen reagent
APALの結果が6.0の試料を用いた際の同時再現性はSD:0.55,CV:9.3%であった(Table 2)。CPALの結果が8.1の試料を用いた際の同時再現性はSD:0.34,CV:4.2%であった(Table 2)。APAL,CPAL共に同時再現性の結果はG-Typeと同程度のSDであった。
CS-5100 | ADP 1 μmol/L Max (%) | ADP 10 μmol/L Max (%) | APAL | Collagen 1 μg/mL Max (%) | Collagen 5 μg/mL Max (%) | CPAL | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Repeat No. | 1 | 19.2 | 79.3 | 5.9 | 53.5 | 85.5 | 8.3 |
2 | 21.2 | 69.4 | 5.5 | 55.6 | 87.4 | 8.3 | |
3 | 17.7 | 72.4 | 5.6 | 54.7 | 83.6 | 7.8 | |
4 | 20.2 | 71.8 | 6.0 | 50.7 | 84.9 | 7.6 | |
5 | 23.3 | 81.9 | 6.9 | 54.0 | 87.3 | 8.3 | |
Average | 20.3 | 75.0 | 6.0 | 53.7 | 85.7 | 8.1 | |
SD | 2.11 | 5.35 | 0.55 | 1.85 | 1.62 | 0.34 | |
CV% | 10.38 | 7.14 | 9.27 | 3.45 | 1.89 | 4.17 |
当院のカットオフであるG-Type −1によって検体群を2つに分け,PALの分布を箱ひげ図にプロットした(Figure 3)。ADPによるG-Type 3,2,1群のAPALの中央値は10.0であり,G-Type −1,−2群のAPALの中央値は6.9であった。コラーゲンによるG-Type 3,2,1群のCPALの中央値は10.0であり,G-Type −1,−2群のCPALの中央値は7.1であった。またAPAL,CPAL共に2群間の差は有意であった。
The result were shown by box-and-whisker plot and evaluated by Wilcoxon two-sample test
ROC解析によって当院カットオフであるG-Type −1に相当するPALを算出すると,APAL:7.1,CPAL:8.0であった。また,そのPALを用いた際のG-Typeとの判定一致率はAPALでは92.6%,CPALでは86.0%となった(Table 3)。
A. ADP | G-Type | ||
---|---|---|---|
≥ 0 | −1 ≥ | ||
APAL | ≥ 7.2 | 113 | 8 |
7.1 ≥ | 2 | 13 | |
Concordance rate | 92.6% |
B. Collagen | G-Type | ||
---|---|---|---|
≥ 0 | −1 ≥ | ||
CPAL | ≥ 8.1 | 85 | 13 |
8.0 ≥ | 6 | 32 | |
Concordance rate | 86.0% |
PAL values reffered to G-Type −1 were calculated by ROC analysis
今回,我々はCS-5100と既存装置であるPRP313Mの血小板凝集測定装置および試薬の組合せのシステムの比較および,使用する試薬濃度および濃度数が異なる解析指標の比較評価を行った。同一試薬濃度の最大凝集率を比較すると,ADP,コラーゲン共に相関結果は良好であった(Figure 1)。これまでのCSシリーズとヘマトレーサーシリーズの比較検討の結果8)と同等の結果が得られたと考えられる。
APAL,CPALの同時再現性におけるCVは共に10%以下であった(Table 2)。このことから,PALの測定結果の再現性によるバラつきは0.0~10.0の内の1以下であると考えられる。
当院カットオフとROC解析によって算出したPALによる判定一致率では,APALが92.6%,CPALが86.0%と高い一致率となっており(Table 3),G-Typeで行っていた薬効評価と同等の評価が可能であると考えられる。ただし本研究では,G-Type 0以上となる検体が多かったこともあり,G-Type −1以下となる検体を増やすことでより正確なカットオフを算出する必要があると考えられる。
我々はG-Type −1をカットオフとして薬効評価を行っているが,ガイドラインなどが存在するわけではなく独自のカットオフである。また抗血小板薬による抑制効果のターゲットレベルは投薬の目的等によって異なる場合もあり,カットオフは施設や診療科によって異なると考えられる。そこで,参考としてG-Type 1以下に対してのPALの目安値を,ROC解析によって同様に算出した(Table 4)。解析指標の相関結果(Figure 2)や2群間の分布(Figure 3),また各G-Typeに対するPALの目安値(Table 4)からもわかるように,凝集能活性が高いとされるG-Type 1,2付近では,PALの多くの結果は最大値である10.0付近となる。一方で凝集能活性が弱いとされるG-Typeの最小値である−2の検体に対しては,APALでは0~5.6,CPALでは0~5.7程度の幅を持っている。PALを得るために必要な試薬2濃度のうち,高濃度のものはADP,コラーゲン共にG-Typeに使用する試薬濃度よりも高い(Table 1)ことから,これらの結果は使用している試薬濃度に起因していると考えられた。そのために凝集能活性が低い検体に対しては,PALはG-Typeに比べてより詳細に評価可能であると考えられる。
G-Type | −2 | −1 | 0 | 1~ |
---|---|---|---|---|
APAL | ~5.6 | 5.7~7.1 | 7.2~9.0 | 9.1~ |
CPAL | ~5.7 | 5.6~8.0 | 8.1~9.5 | 9.6~ |
CS-5100に搭載された血小板凝集能の解析指標であるPALは,当院において抗血小板薬の薬効評価を目的として使用していた専用装置のG-Typeと同等の評価が可能であった。
またCS-5100は全自動装置であることから手技の煩雑さが軽減され,さらに凝固検査汎用装置であることから,これまで専用機を所有していないために血小板凝集能検査を実施していなかった施設でも測定が可能となり,血小板凝集能検査の標準化および普及への貢献が期待される。
本稿は第67回日本医学検査学会(2018年5月,浜松)で発表した内容をまとめたものです。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。