2020 Volume 69 Issue 3 Pages 340-345
可溶性インターロイキン-2レセプター(soluble interleukin-2 receptor; sIL-2R)は生体の免疫防御機構の活性化に伴い上昇するため,成人T細胞白血病や非ホジキンリンパ腫など様々な疾患の病勢を反映する指標となることが知られている。免疫発光測定装置ルミパルスL2400(富士レビオ株式会社)を用いて,新たに開発された化学発光酵素免疫測定法を原理とする可溶性インターロイキン-2レセプター測定試薬「ルミパルスプレストIL-2R」(富士レビオ株式会社)の基礎的性能評価を行った.再現性,感度,希釈直線性は良好であり,既存試薬との相関性も良好であった。本法は測定範囲が30–150,000 IU/mLと広く,短時間測定法(反応時間約14分)での測定も可能なことから,特に高値症例においてより迅速な結果報告が可能であると考えられた。
A soluble IL-2 receptor (sIL-2R), the circulating form of the IL-2 receptor, localizes on lymphoid and some cancer cells and is used widely as a biomarker for adult T-cell leukemia and non-Hodgkin lymphoma. In this study, we evaluated the performance of a chemical luminescence test reagent LUMIPULSE Presto IL-2R for the measurement of serum soluble IL-2 receptor using an automated immune chemiluminescent system LUMIPULSE L2400. The coefficients of variation for within-run and between-day reproducibilities ranged from 0.7% to 3.3%. Linearity was observed up to about 80,000 U/mL and the lower limit of detection was 2.79 U/mL. A good correlation was observed between Immulyze IL-2R and LUMIPULSE Presto IL-2R. In conclusion, the analytical performance of LUMIPULSE Presto IL-2R seemed acceptable for routine clinical laboratory tests.
インターロイキン2レセプター(interleukin-2 receptor; IL-2R)は,α,β,γ鎖から構成されており,T細胞,B細胞の活性化に伴いα鎖が細胞上から遊離したものが可溶性インターロイキン-2レセプター(soluble interleukin-2 receptor; sIL-2R)である。sIL-2Rは生体の免疫防御機構の活性化・T細胞系およびB細胞系の活性化に伴い上昇することから成人T細胞性白血病や非ホジキンリンパ腫1),自己免疫性疾患2),3)や感染症4)など,さまざまな疾患の病勢を反映する指標となることが報告されている5)。
新たに富士レビオ株式会社よりsIL-2R測定用試薬「ルミパルスプレストIL-2R」が開発された。本試薬は,免疫発光測定装置ルミパルスL2400を用いた場合,通常測定法と短時間測定法の2法で測定が可能である。短時間測定法は反応時間が14分となり,通常測定法での20分に比して反応時間が約6分短縮される。今回,我々は「ルミパルスプレストIL-2R」の基礎的性能評価を行ったので報告する。
東京大学医学部附属病院検査部に提出された患者検体の残余血清169例および管理試料を用いた。本検討については,東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会の承認を得て実施した(審査番号:3333-124-(1),3683)。なお,本検討は富士レビオ株式会社との共同研究により行った。
2. 方法 1) 測定機器および測定試薬測定試薬は,化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)を原理とする「ルミパルスプレストIL-2R」(富士レビオ株式会社)を使用し,免疫発光測定装置ルミパルスL2400(富士レビオ株式会社)の通常測定法を用いて測定した(以下,本法とする)。
対照法は,CLEIA法を測定原理とする「シーメンス・イムライズIL-2R II」(シーメンスヘルスケアダイアグノスティクス株式会社)を使用し,全自動免疫化学発光システム イムライト2000XPi(シーメンスヘルスケアダイアグノスティクス株式会社)を用いて測定した(以下,対照法とする)。
加えて以下の測定方法および機種間の検討を行った。(i)本法と同一試薬を使用し,同一機器の短時間測定法を用いて測定した(以下,短時間法とする)。(ii)本法と同一試薬を使用し,免疫発光測定装置ルミパルスPresto II(富士レビオ株式会社)を用いて測定した(以下,Presto IIとする)。
2) 測定原理第1反応は,抗IL-2Rモノクローナル抗体50 μLに検体10 μLを加え攪拌後,37°Cで8分間(短時間測定法の場合は5分間)インキュベートされ,抗IL-2Rモノクローナル抗体と検体中に含まれるsIL-2Rによる免疫複合体が形成される。B/F分離ののち,第2反応は,アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase; ALP)標識抗IL-2Rモノクローナル抗体(マウス)50 μLが混合され攪拌後,37°Cで8分間(短時間測定法の場合は5分間)インキュベートされ,酵素標識抗体と検体中のsIL-2Rによる免疫複合体が形成される。再度のB/F分離ののち,基質液200 μLを粒子に加え攪拌後,37°Cで4分間反応させる。測光では波長463 nmに発光極大を持つ光の発光量が測定される。
3) 併行精度管理試料2濃度およびプール血清2濃度を同一ロット試薬にてそれぞれ連続10回測定し,変動係数(coefficient of variation; CV)を算出した。
4) 室内中間精度管理試料2濃度およびプール血清2濃度を同一ロット試薬にて10日間測定し,CVを算出した。
5) 希釈直線性低濃度域(n = 3)および高濃度域(n = 2)の患者血清を専用希釈液で希釈したのち,それぞれ2重測定した。なお,低濃度域検体は0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9倍の段階希釈にて,高濃度域検体は倍々希釈にて希釈を行った。
6) 最小検出感度低濃度患者試料および専用希釈液を用いて希釈系列を調製した。各試料につきn = 10で測定を行い,0濃度における発光強度の平均値 +2.6SDと各低濃度試料の発光強度の平均値 −2.6SDが重ならない濃度を最小検出感度とした。
7) 相関性試験136例の患者試料を対照法・短時間法・Presto IIで測定し,相関係数rと回帰式を算出した。
8) 測定依頼オーダーおよび結果の解析過去3年間の測定依頼オーダー数・オーダー依頼科および検査結果を抽出し,sIL-2R報告値および依頼科の分布を解析した。
9) 統計解析統計解析には,JMP(SAS institute, Inc.)を用いた。相関性試験においてはAnalyse-it(Analyse-it Software, Ltd.)によるPassing and Bablok法により評価した。
本法のCVは管理試料2濃度およびプール血清2濃度において0.7~1.2%であった(Table 1)。
Control | Pooled serum | |||
---|---|---|---|---|
Low | High | Low | High | |
Mean (U/mL) | 434.5 | 5,353.0 | 932.3 | 3,518.0 |
SD (U/mL) | 4.4 | 39.8 | 8.7 | 42.6 |
CV (%) | 1.0 | 0.7 | 0.9 | 1.2 |
本法のCVは管理試料2濃度およびプール血清2濃度において1.9~3.3%であった(Table 2)。
Control | Pooled serum | |||
---|---|---|---|---|
Low | High | Low | High | |
Mean (U/mL) | 403.8 | 4,989.9 | 883.9 | 3,367.1 |
SD (U/mL) | 8.4 | 164.9 | 16.4 | 74.3 |
CV (%) | 2.1 | 3.3 | 1.9 | 2.2 |
5濃度の患者血清はいずれの濃度域においても理論値とほぼ一致した直線性が得られた(Figure 1)。
2.6SD法にて最小検出感度を求めたところ,2.79 U/mLであった(Figure 2)。
本法(y)と対照法(x)の相関は,回帰式y = 0.932x + 26.142,相関係数r = 0.996(n = 136)であった(Passing Bablok fit,以下全て同様)。5,000 U/mL以下の検体においては,y = 0.858x + 58.98,r = 0.989(n = 89)であった(Figure 3)。
本法(y)と短時間法(x)の相関は,回帰式y = 1.014x − 0.696,相関係数r = 1.000(n = 136)であった(Figure 4)。本法(y)とPresto II(x)の相関は,回帰式y = 1.026x − 2.429,相関係数r = 0.999(n = 136)であった(Figure 5)。
過去3年間の測定依頼オーダー数・オーダー依頼科および検査結果を抽出したところ,sIL-2R検査依頼があった検体は26,317件であった。依頼科の内訳は血液内科(11,846件),アレルギーリウマチ内科(4,243件),皮膚科(3,542件),小児科(940件),眼科(874件)となった(Figure 6)。
報告値の分布は,150 U/mL以上450 U/mL未満を示した検体が13,748件(52.2%),続いて450 U/mL以上750 U/mL未満を示した検体が6,349件(24.1%),750 U/mL以上1,500 U/mL未満を示した検体が3,604件(24.1%)の順に多かった(Figure 7)。
ルミパルスプレストIL-2Rは,併行精度・室内中間精度いずれも問題がないと考えられた。希釈直線性については,約80,000 U/mLまで原点を通る直線性を確認した。本法の最小検出感度は2.79 U/mLであり,十分な感度を有すると思われた。相関性試験では,対照法との比較において相関係数r = 0.990と極めて良好な結果が得られ,臨床検査試薬として有用であると考えられた。
本試薬は,ルミパルスL2400(通常測定法・短時間測定法)およびルミパルスPresto IIの2機種3パラメータで測定可能であるが,いずれも相関は極めて良好(r = 0.990~1.000)であることから,機器変更が想定される場合もスムーズな移行が可能であると考えられた。特に,ルミパルスL2400は通常測定法・短時間測定法の2つのパラメータが搭載可能である。例えば初回測定を通常測定法,再検測定を短時間測定法にするなど,パラメータ設定の工夫次第で,再検を要する検体においてもより迅速な報告が可能となることが示唆された。
従来,当院ではsIL-2R単項目に対して1台の機器をスタンドアローン式で稼働していたが,本試薬に切り替えたため搬送ライン接続された機器への集約が可能となった。このことにより,試薬管理や機器メンテナンスの一括化・血清分離から測定機器までの検体搬送動線が統一化されることにより,業務の効率化が可能となった。さらに,本試薬は,検体希釈をせずに30~150,000 U/mLまで測定が可能である。当院において,過去3年間で血清sIL-2R測定オーダーは,26,317件あったが,基準範囲とほぼ一致する濃度域(150~450 U/mL)の検体が約半数を占め,測定範囲150,000 U/mLを超える検体はわずか4件であった。本検討試薬を用いた場合,99.9%の検体は測定範囲内となり,希釈測定が必要な検体は僅かであると考えられた。従来採用していた試薬では6,000 U/mL以上を示した検体(全オーダーの1.3%)は一律再検を行っていたが,測定範囲上限が伸び再検が不要となったことで高値検体のturn around timeが短縮し,また,高値検体での希釈再検数が減少したことにより全体のturn around timeが短縮した。
sIL-2Rを依頼する診療科ごとの件数は血液内科が11,846件と約半数を占め,次いでアレルギーリウマチ内科・皮膚科が多かった。当院では,リンパ節腫脹・不明熱精査の患者における自己免疫疾患・感染症と血液疾患との鑑別に広く用いられていることが明らかとなった。加えて,当院は菌状息肉症をはじめとする皮膚リンパ腫専門外来があることや,眼内リンパ腫が疑われた紹介患者の受診が多いことも,多岐にわたる診療科から検査依頼があったことの要因と思われた。
免疫発光測定装置ルミパルスL2400による「ルミパルスプレストIL-2R」を用いたsIL-2R測定は,基礎的性能について十分良好な結果が得られた。従来試薬との相関が良好であることに加え,測定範囲が広く,ほぼすべての症例で検体前希釈をせずに測定結果報告が可能と想定されること,また短時間法での測定も可能であることから,本試薬の導入は迅速な結果報告を可能とし,臨床への貢献が期待された。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。