2020 Volume 69 Issue 4 Pages 623-630
原発性アルドステロン症(primary aldosteronism,以下PA)は,二次性高血圧症の中でも最も頻度が高く,放置した場合,臓器障害をきたす可能性が高い臨床的に重要な疾患である。PAのスクリーニングとしてアルドステロン/レニン比が広く用いられているが,放射免疫測定法(radioimmunoassay; RIA)が主流であったため,医療機関での診察前検査としてはこれまで普及していなかった。本検討では化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)を測定原理とする自動化学発光酵素免疫分析装置Accuraseed(富士フイルム和光純薬株式会社,以下Accuraseed)のアルドステロン及びARC(active renin concentration)の基礎的検討を行い,その有用性について評価した。再現性・希釈直線性・共存物質の影響について良好な結果が得られ,他法[ARC:酵素免疫測定法(enzyme immnoassay; EIA),アルドステロン:RIA法]との相関も概ね良好であった。
Primary aldosteronism (PA) is the most frequent cause of secondary hypertension, and PA could result in organ injuries. Therefore, it is necessary to diagnose PA in individuals with hypertension. The ratio of aldosterone to renin is used for the screening for PA. However, since the measurements of aldosterone and renin levels are usually performed by an RIA method, they are not commonly performed in hospital laboratories. In this study, we evaluated the basic performances and the possible usefulness of Accuraseed, which is a fully automated chemiluminescent enzyme immunoassay machine (from FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation), for ARC and aldosterone measurements. We obtained favorable results of within-run and between-day precision tests, linearity tests, and interference tests. We also observed good correlations between measurements using Accuraseed and other methods (an EIA method for ARC and an RIA method for aldosterone). However, we should carefully interpret the results for renin because measurement tools are different between ARC and plasma renin activity (PRA).
日本人の高血圧患者は推定約4,300万人であり,世界の成人の25%を占めている1)。大部分を占めるのは本態性高血圧であるが,高血圧の中には特定の疾患に続発する二次性高血圧もあり,後者に関しては検査により原因を特定することが必要である。二次性高血圧の中でも最も頻度が高い疾患は原発性アルドステロン症(primary aldosteronism,以下PA)であり,1)適切な診断と治療により治癒可能であること,2)高血圧における頻度がその3~10%と高頻度であること,3)臓器障害の合併頻度が高いことから,その診断は重要な臨床的意義を有する2)。PAのスクリーニングとして,アルドステロンとレニンの値からその比を算出したアルドステロン/レニン比(aldosterone to renin ratio,以下ARR)が広く用いられているが,これまでの測定法の多くは放射免疫測定法(radioimmunoassay; RIA)であり医療機関での測定は容易ではなかった。
化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)を測定原理とした自動化学発光酵素免疫分析装置Accuraseed(富士フイルム和光純薬株式会社,以下Accuraseed)は,集磁・分散性に優れた磁性粒子「マグラピッド」を固相として用いることで,RIA法を用いず,さらには,10分という短時間での測定を可能にし,発光物質「L-012」を用いた試薬の開発により高感度の測定を実現している。今回,Accuraseedを用いて,アルドステロンとレニン[ARC(active renin concentration)]測定試薬の基礎的性能評価を行ったので報告する。
対象として,2017年3月~2019年3月の期間で本院検査部に提出された検体の残血清及び残血漿56件を用いた。うち26件は原発性アルドステロン症患者である。本検討は東京大学医学部附属病院検査部と富士フイルム和光純薬(株)との共同研究にて行い,東京大学大学院医学系研究科医学部倫理委員会の承認を得て行った(承認番号3333-121)。
2. 測定試薬と測定装置検討試薬は,「アキュラシード レニン(ARC)」,「アキュラシード アルドステロン」(富士フイルム和光純薬株式会社)を使用し,「自動化学発光酵素免疫分析装置Accuraseed」を用いて測定した。
測定原理は,化学発光基質(L-012: 8-amino-5-chloro-7-phenylpyrido[3,4-d]pyridazine-1,4-(2H,3H) dione sodium salt)を用いた化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)である。
レニンの測定は,抗レニンモノクローナル抗体(マウス)結合粒子,ペルオキシダーゼ標識抗レニンモノクローナル抗体(マウス)を用いた2ステップサンドイッチ法である。第一反応で抗レニンモノクローナル抗体結合粒子と検体中のレニンを反応させ,B/F分離及び洗浄後にペルオキシダーゼ標識抗レニンモノクローナル抗体と反応させることで「抗体結合粒子-レニン-酵素標識抗体」の複合体が形成される。2回目のB/F分離及び洗浄後,基質液と過酸化水素液を添加すると,抗体結合粒子に結合する酵素の量はレニン濃度に比例するため,発光量を測定することでレニン濃度を求める。
アルドステロンの測定は,抗マウスIgGポリクローナル抗体(ヤギ)結合粒子,抗アルドステロンモノクローナル抗体(マウス),ペルオキシダーゼ標識アルドステロンを用いた1ステップ競合法である。第一反応で抗マウスIgGポリクローナル抗体結合粒子に検体中のアルドステロンを反応させ,第二反応としてペルオキシダーゼ標識アルドステロンを競合的に反応させる。B/F分離及び洗浄後,基質液と過酸化水素液を添加すると,抗体結合粒子に結合した酵素の量は検体中のアルドステロン量と反比例するため,発光量を測定することでアルドステロン濃度を求める。
3. 対照方法それぞれの対照方法として,レニンは「レニン活性キット ヤマサ」[酵素免疫測定法(enzyme immnoassay; EIA),ヤマサ醤油株式会社]を,アルドステロンは「スパック―S アルドステロン キット」(RIA法,富士レビオ株式会社)とした。
4. 再現性(ARC,アルドステロン)2濃度の専用管理試料をそれぞれ10回連続測定して,同時再現性を評価した。日差再現性は,同様の試料を用いて朝・夕1回ずつ10日間測定して評価した。
5. 希釈直線性(ARC,アルドステロン)希釈直線性は,それぞれの高濃度検体と低濃度検体を用いて,専用検体希釈液で5段階に希釈し,2重測定して評価した。
6. 最小検出感度(ARC,アルドステロン)濃度既知(ARC;0,0.025,0.05,0.1,0.2 pg/mL,アルドステロン;0,25,50,100,200 pg/mL)の試料を10重測定して2SD法で最小検出感度を求めた。
7. 共存物質の影響(ARC,アルドステロン)干渉チェックAプラス(シスメックス社)及び干渉チェックRF(シスメックス社)を用いて,ビリルビンF,ビリルビンC,乳糜,溶血,リウマトイド因子(rheumatoid factor; RF)の影響を検討した。
8. 保存安定性(ARC)採血当日の血清(n = 4;健常者1名,妊婦1名,糖尿病患者2名)を用いて,室温,4℃,−20℃,−80℃で保存し,温度によるARCの経時的な値の変化を測定した。測定は0,1,3,6,24時間後に2重測定を実施した。
9. 相関性(ARC,アルドステロン)患者検体50例を用いて,対照方法との相関性を評価した。対照方法で用いている検体種別に合わせて,レニンでは血漿を,アルドステロンでは血清を用いて比較した。更に,アルドステロン及びARCについて血漿検体と血清検体の比較も実施した。
同時再現性は,ARCはCV 1.7~2.4%,アルドステロンはCV 2.3~5.9%であった。日差再現性は,ARCはCV 4.2~7.4%,アルドステロンはCV 3.9~7.3%であった(Table 1)。
ARC | Aldosterone | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
mean (pg/mL) | SD (pg/mL) | CV (%) | mean (pg/mL) | SD (pg/mL) | CV (%) | ||
Conrol | Low | 3.37 | 0.08 | 2.4 | 184.23 | 10.89 | 5.9 |
High | 47.60 | 0.80 | 1.7 | 479.54 | 11.20 | 2.3 |
ARC | Aldosterone | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
mean (pg/mL) | SD (pg/mL) | CV (%) | mean (pg/mL) | SD (pg/mL) | CV (%) | ||
Conrol | Low | 3.31 | 0.24 | 7.4 | 188.23 | 13.67 | 7.3 |
High | 47.96 | 2.00 | 4.2 | 461.13 | 17.78 | 3.9 |
ARCの高濃度検体と低濃度検体,アルドステロンの高濃度検体と低濃度検体のいずれにおいても,原点を通る良好な直線性が得られた(Figure 1)。
A) ARC, B) Aldosterone
最小検出感度は,ARCは0.05 pg/mL,アルドステロンは50 pg/mLであった(Figure 2)。
A) ARC, B) Aldosterone
Dotted line: zero concentration value +2SD.
ARCについては,ビリルビンF(19 mg/dL),ビリルビンC(21 mg/dL),ヘモグロビン(500 mg/dL),乳び(1,840 FTU),RF(450 IU/mL)まで10%以内の誤差に収まっており,影響は認められなかった。一方アルドステロンにおいては,ヘモグロビンF(18.7 mg/dL),ヘモグロビン(500 mg/dL),乳び(1,760 FTU)までは誤差10%以内に収まり影響が認められなかったが,ヘモグロビンCは8.4 mg/dL以上で,RFでは360 IU/mL以上で10%以上の正誤差が認められた(Figure 3)。
A) Bilirubin F, B) Bilirubin C, C) Chyle, D) Hemoglobin, E) RF
保存安定性を評価するにあたって,健常者だけではなく,既報でレニン濃度が高いと報告されている妊婦と糖尿病患者の検体を用いた。その結果,検体室温放置では,ARCの値は低下する傾向が認められたが,妊婦検体では僅かに上昇傾向が認められた。4℃保存では,全検体で上昇が認められたが,妊婦検体では24時間後以降から著しい上昇が確認された。−20℃保存では一定の傾向を示したわけではなかったが,糖尿病患者の1検体を除いて値が終始安定しなかった。−80℃保存では72時間まで値が大幅に変わることなく安定していた(Figure 4)。
A) Room temperature, B) −4°C, C) −20°C, D) −80°C
レニンにおいて対照方法と本法との相関で著しい乖離が認められた検体[Table 2;検体①(肝硬変患者)]を除いたn = 49で相関性の評価を行った。その結果,レニンはy = 7.12x + 1.88(r = 0.882),アルドステロンはy = 1.10x − 44.97(r = 0.963)であり,いずれも相関係数rが0.8以上と良好な相関性を示した(Figure 5)。しかしながらレニンにおいては相関を評価した49例中3件に乖離が認められた(Table 2)。保存安定性を検討した結果,−20℃保管では測定値に影響が生じる可能性が示唆され,今回の乖離が保存温度の影響によるものであるかどうかを検討するために,再度レニン活性(plasma renin activity; PRA)の測定を実施した。検体④(副腎腫瘍,PA患者)は検体量の不足により再検することが出来なかったが,再検を実施した検体②(高血圧症患者)及び③(副腎腫瘍患者)については初回値とほぼ同等の値を示した(Table 2)。また,検体①に関しては新たにレニン濃度(plasma renin concentration; PRC)[免疫放射定量法(immuno radio metric assay; IRMA)]の測定を実施した。その結果,PRC:4,850 pg/mLとなり本法の測定結果と同等の測定結果を示した。
No. | PRA (ng/mL/hr) |
ARC (pg/mL) |
PRA [retest] (ng/mL/hr) |
PRC (pg/mL) |
---|---|---|---|---|
1 | 21.7 | 5,657 | 4,850 | |
2 | 22.7 | 100.29 | 20.7 | |
3 | 30.7 | 248.71 | 34.7 | |
4 | 5.6 | 159.07 | deficiency |
A) ARC, B) Aldosterone
また,本法では血漿と血清のいずれでも測定可能である為,血漿-血清間の相関性を確認した。ARCはy = 1.01x + 1.74(r = 0.992),アルドステロンはy = 0.92x + 11.45(r = 0.983)であり,ARCにおいて大きく乖離した1検体を除き両項目とも相関係数rが0.9以上となり良好な相関性を認めた(Figure 6)。なお,乖離した1検体は他法との相関で乖離を認めた検体④であった。
A) ARC, B) Aldosterone
Accuraseedを用いたアルドステロン及びARC測定について,基礎的性能を評価した。アルドステロン及びレニンの測定はRIA法が主流である為,院内検査として行うことが困難とされていた。しかしながら本法はCLEIA法を測定原理としている為,比較的容易に院内検査へ導入することができると考えられる。再現性と希釈直線性の結果は良好であり,日常検査に用いるに十分な性能を有すると考えられる。留意すべき点としては,検体中のRFの存在が挙げられる。今回RFが360 IU/mL以上の場合には最大で13.5%の正誤差が認められた。RFが多い場合に正誤差を受ける理由としては,RFが粒子に固定化した抗マウスIgGポリクローナル抗体(ヤギ)とこれに捕捉された抗アルドステロンマウスモノクローナル抗体に結合することにより,抗アルドステロン抗体へのアルドステロンやペルオキシダーゼ標識アルドステロンの反応が阻害され,その結果ペルオキシダーゼ標識アルドステロンが本来粒子に捕捉される数よりも少なくなるため,見かけ上検体中のアルドステロンが多い場合と同じ状態になるために起こると考えられる。また,アルドステロンの測定系はBF分離が1回であることも,影響が大きかった原因の1つと考える。
また,レニン測定についてもいくつか留意すべき点がある。1つはPRAとARCでは測定対象が異なることを念頭に置く必要がある。PRAはレニンが基質であるアンギオテンシノーゲンに作用した結果として産生されるアンギオテンシンIを測定対象とする一方,ARCはレニンそのものを測定対象としている。その為,PRAでは検体中のアンギオテンシノーゲンやアンギオテンシンIの影響を受けるが,ARCは影響を受けずに測定することができる。解釈をする際にも,PRA測定値はアンギオテンシノーゲン濃度に影響する因子を考慮する必要がある。代表的なものとしては妊娠,グルココルチコイド過剰投与及びエストロゲン投与によって増加し,肝疾患においてアンギオテンシノーゲン産生が低下することが知られている。当初の予想ではそれらに該当する患者でPRAとARCの乖離が生じると考えたが,実際に乖離が認められた検体は副腎腺腫やPA患者であり,乖離の理由は前述の他にも存在することが示唆された。
レニンの保存安定性試験において,妊婦検体を除いて室温では値がわずかに低下し,4℃保存では値が上昇する傾向がみられた。PRAの4℃保存による活性化(cryoactivation)3)~5)はすでに報告されているが,ARCでも同様の傾向が確認されたと言える。PRAのcryoactivationを簡潔にまとめると,低温下ではレニンの前駆体であるプロレニンが活性部位をマスクした状態からオープンの状態へと変化し,酵素活性を持つようになるために起こる変化とされている。PRAとARCはアンギオテンシノーゲンによる測定値への影響の有無という点では異なるが,レニンの状態(レニン及び不活性型プロレニン,オープンレニン)の測り込みという点ではどちらもレニンとオープンレニンを測定するため,これまでに言われているPRAのcryoactivationと同様の機序で値が上昇したと考えられる。妊婦検体については他の検体と異なる挙動を見せたが,この現象は妊婦のプロレニン濃度の比率が高いこと6)が原因ではないかと考える。先に述べたプロレニンの活性化は,活性部位をマスクしている保護蛋白の構造変化により生じるが7),妊婦のようにプロレニン濃度の比率が高い場合には活性化されたことにより測りこまれるようになったオープンレニンの割合が大きくなり,今回の結果のように他検体よりもARCの上昇率が大きくなったのではないかと推察する。また,−20℃での保存で変動が大きかった理由としては,4℃よりもレニンがcryoactivationを起こしやすい温度が存在するとすれば,−20℃に到達する前にその温度にさらされた時間の程度で差が生じたのではないかと考える。−80℃保存では,いずれの検体においても安定しており,すぐに測定が行えない場合には−80℃で保存することが望ましいと考えられた。
対照方法との相関については概ね良好な結果が得られたが,レニンにおいてはPRAとARCで乖離が認められた。前述の通り,乖離検体ではアンギオテンシノーゲン濃度が著しく異なるような背景疾患等は認められず,別の原因があると考えられた。次に保存条件に問題があった可能性を検討するため,乖離が認められた検体②,③については再度PRAを測定したが,初回値とほとんど変わらない値であり,coldactivationによる変化で生じた乖離ではないことが確認された。非特異反応であった可能性も考えられたが,検体量が十分ではなかったため原因を特定するには至らなかった。また,著しい乖離を認めた検体①については,レニン濃度(PRC)もARCの値と同様に高値であったため,Accuraseedの測定において非特異反応を起こして高値になった訳ではなく,レニン自体の濃度は高かったのではないかと考えられる。この患者の背景疾患として慢性肝不全があることから,アンギオテンシノーゲンの産生量が著しく低下していた可能性が高いが,PRAとARCの測りこみの差異にはレニンの状態だけではなくアンギオテンシノーゲンの量も影響する可能性が示唆された。また,今回大きな乖離が見られた検体(検体①,④)において,両者ともARCの測定値がPRAよりも高値に出たことから,著しい乖離についてはARCが高値に出る傾向があるのではないかと考えられるが,この点に関してはさらに症例数を重ねて検証していく必要がある。これまでにもAccuraseedの有用性は証明されているが8),本検討では対象を高血圧患者に限定していないことから新たな可能性が導き出されたと考えられる。
今回検討したAccuraseedによるアルドステロン及びARCの測定は,基礎的性能について良好な結果が得られた。また,従来法に比べ,必要検体量の少量化や測定時間の短縮化が実現され,non-RIA化されたことで検査室での測定が容易になった。以上の点から,原発性アルドステロン症のスクリーニングとして,診察前検査を含めた日常検査に有用性が高いと考えられた。しかし,PRAとの乖離も一部認められることから,PRAを測定対象とする方法との比較の際には背景疾患等も考慮してデータを見る必要があると考えられる。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。