Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Fundamental study of the reagent “Fungitec G test ES Nissui” for (1→3)β-D glucan assay
Ryo KOBAYASHIShinya NIRASAWAYuki SATOKouichi ASANUMANozomi YANAGIHARASatoshi TAKAHASHI
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2021 Volume 70 Issue 1 Pages 93-98

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Abstract

(1→3)β-Dグルカン(BG)は深在性真菌症の血清学的診断補助マーカーとして汎用されている。その測定において,従来用いられてきた比濁法は測定時間が長く,比色法はバッチ測定のため検体の追加測定が困難であることから,1日の測定回数に制限があった。近年,比色法のリアルタイム処理試薬である「ファンギテック® GテストES「ニッスイ」」(ニッスイBG)が開発されたことから,その有用性を評価した。併行精度,希釈直線性はともに良好な結果であった。患者血漿116例を用い,比濁法を測定原理とした「β-グルカン テスト ワコー」(ワコーBG)との相関性を解析したところ,ニッスイBGで測定値が約3倍となる結果が得られた。両試薬のカットオフ値から,陰陽性の判定一致率を検証したところ,ニッスイBGのみ陽性の判定不一致が8例認められた。このうち3例は真菌が検出されており,ニッスイBGが体内の真菌を鋭敏に反映していることが示唆されたが,偽高値を疑う症例も認められたことから,ニッスイBGが陽性となった場合は,臨床症状や偽高値を呈する患者背景の確認に加え,BGの経時的測定による経過観察および培養検査を実施する必要性が示唆された。ニッスイBGはBGへの反応性が高く,リアルタイム処理が可能で測定時間も短いことから,日常検査に有用と考えられた。

Translated Abstract

(1→3)β-D glucan (BG) is widely used as a biomarker for auxiliary serological diagnosis of deep mycosis. The number of measurements per day is limited because conventional BG reagents are processed by batch. We evaluated the utility of “Fungitec G test ES “NISSUI”” (NISSUI BG), which is a real-time processing reagent based on the colorimetric method. The within-run precision and the dilution linearity were satisfactory. In 116 patients, the measurement value of NISSUI BG was approximately three times higher than that of the “β-glucan test Wako (Wako BG)”, which is based on the turbidimetric method. We evaluated the concordance rates of the judgment using the cutoff values of each reagent. The results showed that eight samples are mismatched, such that all “NISSUI BG” results were positive. However, some of the results were suspected as having false high values, and three of the samples indicated the presence of fungi. It was suggested that “NISSUI BG” sensitively reflected the presence of fungi in the body. Therefore, when the result of “NISSUI BG” was positive, it was suggested that a follow-up by measuring BG and performing culture tests and confirming both the clinical symptoms and the background of patients presenting false high values were needed. It was considered that “NISSUI BG” was useful for routine laboratory tests because of the high reactivity for BG and the short time to obtain results owing to the real-time processing.

I  はじめに

深在性真菌症は,血液疾患や悪性腫瘍に対する化学療法などを契機とする日和見感染症で,医療技術の進展や超高齢化社会に伴い増加傾向にある。重症の場合,早期の抗真菌薬投与が患者の予後に重要なため1),原因微生物としての真菌の迅速な検出が必要である。しかし,深在性真菌症を発症する患者は全身状態の悪化により,確定診断のため病巣部分の培養検査を実施することが困難,もしくは,培養同定までに時間を要する場合も多い。そのため,血中の真菌由来成分を検出する血清学的検査が補助診断に用いられており,その一つとして,(1→3)β-Dグルカン(以下BG)が広く測定されている。BGは,接合菌を除く真菌全般の細胞壁を構成する主要な多糖体であり,ヒト細胞および細菌には存在しない成分であることから,侵襲性深在性真菌症のスクリーニング,および経過観察に有用とされている2)。BGの測定法として,主に希釈過熱-比濁法(以下比濁法)とアルカリ処理-カイネティック法(以下比色法)の2種が用いられており,両法ともにカブトガニ血液中に凝固因子として存在するG因子を利用した測定系である。比色法はアルカリ処理により3重螺旋構造をもつβ-Dグルカンを1本鎖することで,比濁法と比較し,G因子に対する反応性が高い。また,試薬メーカー独自の標準品を使用するため,比濁法とはカットオフ値が異なっている。

現在,BGの測定には比濁法または比色法を原理とした測定法が汎用されている。前者は,測定から結果報告までに最大90分を要し,後者はバッチ処理測定のため,1日当たりの測定回数に制限があるなどの問題があった。近年,この問題を克服するため,比色法によるリアルタイム測定を原理とし,30分で結果が得られる試薬「ファンギテック® GテストES「ニッスイ」」が開発された。そこで,その基礎的性能の評価,比濁法との比較検討,および,各測定法によるBG測定値と培養法での真菌検出状況の検証を行った。

II  対象および方法

1. 対象

当院でBGを測定した患者残余検体を対象に検討を行った。BG測定用採血管に採取された血液を1,700 gで1分間遠心分離して血漿を作製し,測定まで−80℃で凍結保存した。また,本研究は札幌医科大学臨床研究審査委員会の承認を得て行った(承認番号302-86)。

2. 方法

1) 測定機器および試薬

BG測定用専用採血管は,「EG Tube II EG Tube(P)」(生化学工業株式会社)を使用した。検討試薬には「ファンギテック® GテストES「ニッスイ」」(以下ニッスイBG)を用い,「ES Analyzer」(いずれも日水製薬株式会社)で測定した。比較対照試薬には,「β-グルカン テストワコー」(以下ワコーBG),および「Toxinometer MT5500」(いずれも富士フイルム和光純薬株式会社)を用いた。

2) 測定原理

検討試薬は比色法を測定原理とし,BGを検出する。カブトガニ血球抽出液中に含まれるG因子が,血漿中の(1→3)β-Dグルカンと特異的に反応し,活性化する。この活性化G因子が,試薬中の凝固酵素前駆体へ作用することで,発色合成基質から遊離した黄色のp-ニトロアニリンを比色定量し,血漿中のBG濃度を算出する。

対照試薬は同様の反応過程を用いており,活性化したG因子の凝固作用による,経過時間当たりの濁度変化をBG濃度として算出する。

3) 操作方法

ニッスイBG,およびワコーBGの操作工程をFigure 1に示す。ニッスイBGは,まず遠心分離して得られた血漿試料50 μLを前処理液に添加する。添加後の前処理液をESアナライザーへ架設し,37℃で10分間加温する。この間に,緩衝液300 μLを主剤へ添加して溶解させ十分に混和する。加温終了後,前処理済検体50 μLを溶解済みの主剤に添加し,再度ESアナライザーへ架設する。架設後最大30分間主波長405 nm,対照波長492 nmで吸光度を測定し,その変化率よりBG濃度を算出する。ワコーBGは,血漿試料100 μLを検体前処理液に添加し,70℃で10分間加温する。加温後の前処理液は直ちに氷冷後,前処理液200 μLをリムルス試薬に添加し,十分に攪拌する。トキシノメーターへ架設後,最大90分まで波長660 nmにて吸光度を測定し,検量線から求めたゲル化時間よりBG濃度を算出する。

Figure 1 Operating procedures of “NISSUI BG” and “Wako BG”

4) 併行精度

2濃度の患者プール血漿を,それぞれ20回連続測定を行い,併行精度を調べた。

5) 希釈直線性

高濃度の患者血漿を10段階希釈後,各希釈系列を3重測定した。得られた測定値から,日本臨床化学会のバリデーションサポートプログラムを用い,直線性の評価を行った。

6) 対照試薬との相関

患者血漿116例を対象に,ニッスイBGとワコーBGにおける測定値の相関性を解析した。

7) 対照試薬との判定一致率

相関解析を行った症例について,両試薬のカットオフ値を用いて陰陽性の一致率を検証した。判定不一致となった症例は,検体提出前後3日間の培養検査結果,アルブミン製剤,グロブリン製剤,β-Dグルカン製剤の投与,輸血歴,透析および手術歴より,不一致の原因解析を行った。

III  結果

1. 併行精度

2濃度のプール血漿の平均値は,それぞれ53.26 pg/mLおよび190.78 pg/mL,CVはそれぞれ5.56%および5.87%だった(Table 1)。

Table 1  Within-run precision
Low High
Mean (pg/mL)53.26190.78
SD (pg/mL)2.9611.19
CV (%)5.565.87

(n = 20)

2. 希釈直線性

ニッスイBGの測定上限500 pg/mLを超える,理論値666 pg/mLまでの良好な直線性が確認された(Figure 2)。

Figure 2 Dilution linearity

3. 対照試薬との相関

ワコーBGとの相関性を解析した結果,相関係数(r)は0.98,回帰式はy = 3.34x − 10.306と,ニッスイBGで高値となる傾向が認められた(Figure 3)。

Figure 3 Correlation of the β-D glucan concentration between “NISSUI BG” and “Wako BG”

4. 対照試薬との判定一致率

相関性を解析した116例について,両試薬のカットオフ値を用いた陰陽性の判定一致率は,93%(108例)であった(Table 2)。また,不一致例は8例(7%)認められ,その全例がニッスイBG陽性,ワコーBG陰性であった。

Table 2  Comparison of the concordance rate for the judgement of the measurement value between “NISSUI BG” and “Wako BG”
n = 116 NISSUI BG
+
Wako BG + 14 (12%) 0
8 (7%) 94 (81%)

Reference value

NISSUI BG: 20 pg/mL

Wako BG: 11 pg/mL

不一致例のニッスイBGとワコーBG測定値およびBG偽陽性を引き起こすとされる輸血製剤および血漿分画製剤の投与,透析,手術歴の有無をTable 3に示した。不一致例のうち,No. 1およびNo. 5は,検体提出前後3日以内に真菌が検出されており,輸血および血漿分画製剤の投与のあった術後症例であった。No. 2,No. 6は,真菌非検出かつBGの偽陽性となる投薬歴等も認められなかった。真菌非検出例のうち,No. 3は輸血および血漿分画製剤投与後の症例であった。真菌が検出された症例のうち,No. 4,No. 7およびNo. 8については,偽陽性の要因は認められなかった。全症例において,透析実施例は認められなかった。

Table 3  Status of the mismatched sample
No. NISSUI BG (pg/mL) Wako BG (pg/mL) Detection of fungus Administration of
Albumin, grobrin, BG
Blood transfusion Dialysis Operation
1 45.5 8.7 urine: C. albicans one day before blood collection: Albumin 25%; 12.5 g × 2/day one day before blood collection: RBCs 30 bags, FFP 25 bags,
PC 2 bags
two days before blood collection: RBCs 5 bags, FFP 7 bags,
PC 2 bags
+
2 26.3 < 2.5
3 39.2 10.3 one day before blood collection: Albumin 5%; 12.5 g × 1/day one day before blood collection: RBCs 5 bags, FFP 10 bags, PC 1 bag two days before blood collection:
PC 1 bag
three days before blood collection: FFP 2 bags
4 55.7 9.4 sputum:
C. albicans
5 33.6 10.9 sputum:
C. albicans
one day before blood collection: Albumin 10%; 5 g × 1/day
two days before blood collection: Globrin 5,000 mg × 1/day
three days before blood collection: Globrin 5,000 mg × 1/day
one day before blood collection: RBCs 10 bags, FFP 7 bags,
PC 1 bag
+
6 25.7 3.0
7 20.4 4.4 sputum:
C. albicans
8 40.9 5.5 sputum:
C. dublinensis

RBCs are red blood cells per 400 milliliters of whole blood of one donor and have a total volume of 280 milliliters.

FFP is plasma per 400 milliliters of whole blood of one donor and have a total volume of 240 milliliters.

PC is platelets suspended in plasma of one donor and contains more than 4.0 × 1011 platelets.

IV  考察

近年増加している深在性真菌症の補助診断検査として,臨床検査におけるBGの測定意義は高まっている。これまでのBG測定は,比濁法は測定時間が長く,比色法はバッチ処理測定であるため,結果の即時報告や緊急対応が困難な場合があった。今回我々は,この問題点を克服した試薬「ファンギテック® GテストES「ニッスイ」」の基礎的検討を行った。ニッスイBGの操作工程は,緩衝液を主剤に添加する操作がワコーBGより多いものの,最大30分で測定結果を得られることが特長である。併行精度および希釈直線性は,比色法既存試薬である「ファンギテック®GテストMK II」の既報と同等であり3),日常検査において十分な性能を有していると考えられた。ワコーBGとの相関性解析の結果,良好な相関係数が得られたものの,これまでの報告4)~6)と同様に比色法を測定原理とするニッスイBGの高値傾向を認めた。番場らの報告では6),ニッスイBGとワコーBGの相関性はやや低い結果であったが,本検討においては良好な相関性が得られた。両方法間の測定値の差異は,比濁法と比較し,比色法がBGへの反応性が高いことに起因する7)。そのため,それぞれ20 pg/mL,あるいは11 pg/mLと,異なるカットオフ値が用いられている。そこで,相関解析を行った症例について,それぞれのカットオフ値を用いた陰陽性判定の一致率を検証した。判定不一致となった症例はすべてニッスイBG陽性,ワコーBG陰性であり,ニッスイBGの反応性の高さを支持する結果であると考えられる。比色法は高感度であるが,様々な要因により偽高値を引き起こすことが問題視されている4),8)。これまでに,血液製剤に含有するBGに起因する偽高値のほか,透析の実施や,手術におけるガーゼの使用など,体外からのBG混入による偽高値が報告されている9)~11)Table 3に示す不一致例中,No. 1,No. 5の症例は真菌検出例であり,かつ偽高値の要因となりうる投薬や治療後の症例であった。これらの症例は,製剤に含有されるBGを直接測定することができず,判定不一致の原因が真菌由来の高値であるか,あるいは偽陽性であるかの判断が困難な例であった。また,培養による真菌検出を認めなかったNo. 3は,検体採取前の輸血およびアルブミン製剤投与に起因するニッスイBGの偽高値を強く疑う症例であった。これらの症例のように,偽陽性となる要因が患者背景にある場合は,臨床症状およびBGの経過観察に加え,可能であれば培養検査を実施し,BG高値の原因を特定する必要があると考えられる。No. 2およびNo. 6の症例については,判定不一致の原因を特定することはできなかった。培養検査で真菌が検出されており,かつ偽陽性の要因が認められなかったNo. 4,No. 7,No. 8の3症例については,ニッスイBGがワコーBGと比較し,体内の真菌由来BGに対し,鋭敏に反応している可能性が考えられた。BG測定において,体内の真菌を鋭敏に捉えることは,培養検査の早期実施,さらには真菌症の早期治療へ寄与する可能性があるため,BGへの反応性が高いニッスイBGはその補助診断として有用であると考えられる。一方,血液製剤投与,透析や手術の影響により偽高値となるため,投薬などの患者背景,臨床症状を考慮した上,培養検査の結果と併せた判断が必要と考えられた。

V  結語

「ファンギテック®GテストES「ニッスイ」」の基礎性能は良好で,リアルタイム処理が可能であることから,日常検査に有用と考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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