Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of IFCC-based reagent kit L-type Wako ALP·IFCC and reactivity of samples under on-board state
Manabu OKUBOSatoko HURUKAWAChihiro KIMURAHitomi MAEDASatoe UESUGIYutaka KOHGUCHIKaoru TOHYAMA
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2021 Volume 70 Issue 2 Pages 273-278

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Abstract

アルカリフォスファターゼ(alkaline phosphatase; ALP)活性測定は肝臓,骨,腎臓,胎盤,小腸の損傷を網羅的に評価することができる。今回我々はIFCC標準化に対応した試薬LタイプワコーALP・IFCCの性能および試薬のオンボード状態における試料の反応性の評価を行った。併行精度は0.6%(平均値78,180 U/L),希釈直線性は990 U/Lまで原点を通る直線性を認め,定量限界は5.4 U/Lであり高感度かつ精度も良好であった。試薬のオンボード安定性は試薬開封後30日目において,試薬開封直後に比べて精度管理試料のQAPトロール1X,2X,酵素キャリブレーター,および血清検体(肝臓型アイソザイムと小腸型アイソザイム)は,それぞれ3.8%,2.7%,8.5%,7.9%,8.2%の低下が認められ,精度管理試料と酵素キャリブレーターおよび血清検体では低下の挙動に違いが認められた。二酸化炭素を試薬に注入してpHを低下させたがALP活性値は ±1.3%以内であった。日本臨床化学会標準化に対応した試薬との相関性は,相関係数は0.997,線形関係式はy = 0.37x − 9.04であった。LタイプワコーALP・IFCCの性能は良好であったが,長期間オンボード状態で使用する場合は,血清検体のALP活性は偽低値となるため注意が必要である。

Translated Abstract

We evaluated the IFCC-based reagent kit L-type Wako ALP·IFCC and the reactivity of samples under the on-board state. The within-run precision obtained was 0.6%. The dilution linearity and the lower limit of detection were 990 and 5.4 U/L, respectively. The reagent stability in the analysis laboratory and the serum (liver and intestine) ALP activities decreased by 7.9–8.2% after 30 days, but QAP troll IX and IIX were stable (< 3.2%). The correlation coefficient (r) between the IFCC-based reagent and the JSCC-based reagent was 0.997, and the ALP activities determined using the IFCC-based reagent were 37% of the ALP activities determined using the JSCC-based reagent. The basal performance of the IFCC-based reagent is satisfactory and it could be used for measurement with high sensitivity.

I  はじめに

アルカリフォスファターゼ(alkaline phosphatase; ALP)はリン酸モノエステルを基質とするアルカリ側に至適pHをもつ加水分解酵素である。ALPは肝臓,骨,腎臓,胎盤,小腸に存在し,それらの臓器の損傷に伴い,血中に逸脱することから,ALP活性測定はそれらの臓器の損傷を網羅的に評価することができる1)

ALP活性の測定は,日本の多くの施設が日本臨床化学会(JSCC)標準化に対応した試薬を使用しているが,国際的には国際臨床化学連合(IFCC)標準化に対応した試薬が主流であった。緩衝液の違いによってJSCC法の測定値はIFCC法に比べて約3倍になることから国際的な治験や国際的な診断・治療プロトコールおよび研究にはIFCC法の測定値が必要であった2)。更にJSCC法の試薬ではB型とO型のLewis血液型が分泌型では病気と関係なく高脂肪食の摂取後にALP活性値が高値となる問題点があった3)。よって,臨床医や研究者からもIFCC法への変更が求められていた。そこで,JSCCは基準測定操作法をIFCC法に変更することを決定した2)。我々もJSCC標準化に対応した試薬を使用していたが,IFCC標準化に対応した試薬に切り替えるためにLタイプワコーALP・IFCCの性能および試薬のオンボード状態における試料の反応性について評価を行ったので報告する。

II  対象および試薬・機器

1. 対象

対象は2020年1月~3月の間,当院中央検査部にALP測定の依頼があった外来および入院患者の採血後3,000 rpm・5分間遠心した上清の血清検体(51例)を用いた。なお,本研究は川崎医科大学・同附属病院倫理委員会の承認(受付番号:3901)を得て行った。

2. 測定試薬および機器

検討試薬はLタイプワコーALP・IFCC,対照試薬はLタイプワコーALP・J2(共に富士フイルム和光純薬(株))を用いて自動分析装置LABOSPECT008(日立ハイテク(株))で測定した。キャリブレーションには両試薬共に酵素キャリブレーター(富士フイルム和光純薬(株))を用いた。pHは,pHメーターD-51((株)堀場製作所)で測定した。二酸化炭素注入はエアダスター((株)エム・エス・シー)を用いた。

3. 測定原理

LタイプワコーALP・IFCCは,IFCC対応法である。2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)緩衝液中で4-ニトロフェニルリン酸に試料を作用させると,試料中のALPにより4-ニトロフェノールが遊離する。この4-ニトロフェノールの生成速度を波長405 nm(主波長)と505 nm(副波長)で測定し,既知濃度の検量線より試料中のALP活性値を求める。

III  方法

1. 併行精度

2濃度のQAPトロール1X,2X(シスメックス(株))をそれぞれ20回連続測定した。

2. 試薬のオンボード安定性

初日にキャリブレーションを実施後,試薬はLABOSPECT008に架橋して平日は8時間以上,土曜は約4時間以上 LABOSPECT008を稼働し試薬庫を動かした。日常業務で使用する試薬の交換のため,1日1回約5分間は,試薬庫の蓋を開けた。また待機状態時も試薬は開封した状態でLABOSPECT008に架橋した状態にした。その状態で2濃度のQAPトロール1X,2X,酵素キャリブレーター,および患者血清検体(肝臓型アイソザイム含有患者血清(ALP2: 56%)と小腸型アイソザイム含有患者血清(ALP5: 75%))を30日間で5回測定(試薬架橋後0日目,7日目,13日目,21日目,および30日目)した。QAPトロール1X,2Xは各測定日に融解して測定した。試薬を架橋した当日に溶解した酵素キャリブレーターおよび血清検体は,小分け後 −80℃で保存し,各測定日に融解した後に測定した。対照として日常業務で使用している試薬(2日に1回は新しい試薬と交換)を用いた。またpHはR1,R2,およびR1とR2をメーカー指定のパラメーターと同じ比率で混ぜた試料を30日間で4回測定(試薬架橋後0日目,13日目,21日目,および30日目)した。

3. 二酸化炭素注入試験

未開封の試薬のR1とR2にエアダスター(成分:二酸化炭素)で2分,4分,および6分間二酸化炭素を注入した。その後にR1とR2をメーカー指定のパラメーターと同じ比率で混ぜた試料のpHと2濃度のQAPトロール1X,2XのALP活性値を測定した。

4. 希釈直線性

患者プール血清を精製水で10段階希釈し,各試料を1回測定した。

5. 定量限界

患者血清を精製水で希釈したものを試料とし,多重測定(N = 5)した。測定平均値およびCVを算出し,その測定平均値(U/L)を横軸に,CV(%)を縦軸にプロットしてprecision profileを作成した。CV 10%の活性値を定量限界とした。

6. 相関

当院中央検査部にALP測定の依頼があった外来および入院患者の採血後3,000 rpm・5分間遠心した上清の血清検体51例を対象に,IFCC法(y)とJSCC(x)との相関性を検討した。線形関係式の傾きから±0.05外れたものを乖離と定義した。乖離原因を探求するために,希釈系列を作成し,JSCC法,IFCC法で測定値を比較した。

IV  結果

1. 併行精度

変動係数(CV)はQAPトロール1X,2X共に0.6%(平均値78,180 U/L)であった(Table 1)。

Table 1  Within-run precision of the measurement of ALP activity
QAP1 QAP2
Mean (U/L) 78 180
SD (U/L) 0.5 1.1
CV (%) 0.6 0.6
Max (U/L) 79 181
Min (U/L) 78 178

2. 試薬のオンボード安定性

試薬開封後13日目において,試薬開封直後に比べてQAPトロール1X,2X,酵素キャリブレーターおよび血清検体(肝臓型アイソザイムと小腸型アイソザイム)は,それぞれ0%,0.5%,3.7%,2.0%,5.9%の低下,30日目は,それぞれ3.8%,2.7%,8.5%,7.9%,8.2%の低下が認められた(Table 2, Figure 1)。それに対して対照試薬(日常業務で使用している試薬)では30日目まで全ての試料で2%以内の変動であった。また,試薬開封直後,13日後,21日後および30日後のR1とR2をALP活性測定のパラメーターと同じ比率で混ぜた試料のpH(最終pH)は,それぞれ10.64,10.55,10.40,10.40と低下した(Table 2)。

Table 2  Onboard stability of the reagent after unsealing the bottle on the LABOSPECT008
Days 0 7 13 21 30
R1 pH 10.65 10.56 10.42 10.4
R2 pH 10.47 8.87 8.76 8.73
Final pH 10.64 10.55 10.40 10.40
QAP-Trol 1X (bovine intestine)(U/L) 79 79 79 77 76
 Ratio (day 0) 100 100 100 97.5 96.2
QAP-Trol 2X (bovine intestine)(U/L) 185 184 184 182 180
 Ratio (day 0) 100 99.5 99.5 98.4 97.3
Enzyme calibulator (recombinant human liver)(U/L) 164 164 158 155 150
 Ratio (day 0) 100 100 96.3 94.5 91.5
Serum (human liver) (U/L) 101 103 99 96 93
 Ratio (day 0) 100 102 98.0 95.0 92.1
Serum (human intestine) (U/L) 85 83 80 79 78
 Ratio (day 0) 100 97.6 94.1 92.9 91.8
Figure 1 Onboard stability of the reagents for ALP measurements

〇 QAP-Trol 1X (bovine intestine), ● QAP-Trol 2X (bovine intestine), ◇ Enzyme Caliblator (recombinant human liver), △ Serum (human Intestine), ▲ Serum (human Iiver)

3. 二酸化炭素注入試験

二酸化炭素注入前(0分),2分,4分,および6分間注入した後の最終pHは,それぞれ10.64,10.53,10.46,10.44と低下したが,ALP活性値は二酸化炭素注入前(0分)に比べて全て ±1.3%以内であった(Figure 2)。

Figure 2 Carbon dioxide injection test

〇 QAP-Trol 1X , ● QAP-Trol 2X, × Final pH

4. 希釈直線性

990 U/Lまで原点を通る直線性を認めた。

5. 定量限界

CV 10%を定量限界とした場合,5.4 U/Lであった。

6. 相関

IFCC法(y)とJSCC法(x)との相関性は,相関係数は0.997,線形関係式はy = 0.37x − 9.04であった(Figure 3)。1例の乖離検体が認められ,1例を除くと相関係数は0.999,線形関係式はy = 0.37x − 6.70であった。乖離検体はIFCC法,JSCC法でそれぞれ53 U/L,335 U/Lであり,IFCC法/JSCC法比は0.16であった。乖離検体の希釈直線性はIFCC法,JSCC法共に直線性を示した(Figure 4)。

Figure 3 Relationship of ALP activity with 51 samples from patients

A: The discrepancy sample

Figure 4 Serum dilution test of the discrepancy between the IFCC and JSCC based methods

○ JSCC, ● IFCC

V  考察

IFCC標準化に対応したLタイプワコーALP・IFCCの分析性能は,併行精度,定量限界,希釈直線性においていずれも良好であった。

試薬開封後の安定性は,試薬開封後30日目において精度管理試料のQAPトロール1X,2Xは約3%の低下であった。森田ら4)は,臨床化学自動分析装置TBA-2000FRを用いたLタイプワコーALP・IFCCの検討では,開封後に試薬のpHが低下し,開封後35日目のQAPトロール1X,2Xの活性値は開封直後に比べて約20%低下することを報告した。同じ試薬メーカーであるにも関わらず,ALP活性値の低下率に違いが認められた。本検討の開封直後と開封後30日目のpHの差は0.24(開封直後のpH 10.64,開封後30日目のpH 10.40)であったのに対して,TBA-2000FRでは開封直後と開封後35日目のpHの差は0.5(開封直後のpH 10.5,開封後35日目のpH 10)とpHの低下幅の違いに起因している可能性が考えられた。そこで,二酸化炭素を試薬に注入して試薬のpHを低下させたがALP活性値に変化は認められなかった。既に試薬メーカーは違うがIFCC標準化試薬では試薬開封5週間後の試薬を未開封と同程度にpHを調整してもALP活性値は元に戻らなかったことが報告されている5)。従って,試薬中のpH低下以外の試薬成分の劣化等が要因として考えられるが原因を断定できなかった。TBA-2000FRで用いられる試薬はボトル内に何も入っていないのに対して,本検討で使用したLABOSPECT008専用試薬は試薬ボトルの口から挿入された筒状のファンネル(本来は試薬吸引部分の液面の波立ちを防止する役割)が入っており試薬が直接空気と触れる面積を小さくしていることが試薬成分の劣化等を軽減しているのではないかと推測した。同じメーカーの試薬だとしても試薬ボトルの形状の違い,試薬庫の開閉回数や時間,稼働時間等によって試薬の安定性の違いが生じると予想されるため,日常業務への導入前には自施設での試薬安定性の検証が必要であると考えられた。

また,検体に対しては試薬開封後,徐々にALP活性値は低下したが,日常業務で使用していた試薬(2日に1回は新しい試薬に交換)ではALP活性値は低下しなかったことからALP活性化の低下は検体の安定性ではなく試薬の安定性に起因するものと考えられた。また,ALP活性値の低下は,ALPのアイソザイム由来によって程度が異なっていた。試薬を1週間以上使用する場合は,小腸型アイソザイムの検体では特に低下率が大きかったため,日常の精度管理だけでなく患者の測定値に対する前回値チェック,項目間チェックを行い,結果報告する必要がある。また,酵素キャリブレーター(肝臓由来)でキャリブレーションしても肝臓型アイソザイムは補正できるが他のアイソザイム由来では本来の値が得られないため,注意が必要である。

JSCC法との相関性では,良好な相関関係を示したが,線形関係式の傾きは0.37であった。これはALP活性測定試薬に用いられる緩衝液によって各アイソザイムの反応性が異なることが要因であり,日本臨床化学会からアナウンスされているJSCC法測定値からIFCC法測定値への換算係数0.35倍とほぼ一致する2)

JSCC法からIFCC法に変更すると測定値が約1/3になることからも基準値の変更等,臨床への周知が大切である。本検討において1検体のみ乖離検体(IFCC法:53 U/L,JSCC法:335 U/L,IFCC法/JSCC法:0.16)が認められた。この検体について希釈直線性試験を行ったところIFCC法,JSCC法共に直線性が認められたため,何らかの非特異反応および妨害物質による測定値の乖離は否定した。JSCC法の緩衝液に用いられる2-エチルアミノエタノール(2-ethylaminothanol; EAE)はIFCC法のAMPに比べて,小腸型アイソザイムに対する反応性が高く,胎盤型アイソザイムに対して反応性が低いため,小腸型や胎盤型アイソザイムが存在する検体では,IFCC法とJSCC法の測定値の乖離が認められる6)。JSCC法の試薬ではB型とO型のLewis血液型が分泌型では高脂肪食の摂取後にノーマル分子サイズ小腸型アイソザイムの増加によるALP活性が高値となることが既に報告されている3)。本症例はLewis血液型が分泌型か非分泌型や食事の有無は確認できなかったが,B型の患者であり,1ヵ月前の検査において小腸型ALPアイソザイムを認めていた。残念ながら,本検体でALPアイソザイム解析は実施されていなかったが,小腸型アイソザイムによるJSCC法の偽高値ではないかと推測した。IFCC法を用いることによって小腸型アイソザイムによる偽高値の問題が解消されると考えられた。

VI  結語

IFCC標準化に対応したLタイプワコーALP・IFCCの分析性能は,併行精度,定量限界,希釈直線性,試薬の安定性においていずれも良好であった。本試薬を使用することによって,ALP活性値の国際的ハーモナイゼーションの実現化に繋がることが期待される。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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