2021 Volume 70 Issue 2 Pages 325-329
血液培養陽性液から作製した菌濃縮液を試料とする直接迅速Methicillin resistant Staphylococcus aureus(MRSA)検出法を検討した。対象は,当院の血液培養検査にてS. aureusが検出された37ボトルとした。対象ボトルについて,サブカルチャーで得られたコロニーによる薬剤感受性試験(標準法),血液培養陽性液から作製した菌濃縮液を試料とするMRSA-LA(本法)および血液培養液を試料とするリアルタイムPCR法(直接PCR法)によりそれぞれMRSAか否か判定を行い,結果の一致率を比較した。標準法では,対象37ボトル中11ボトルがMRSA,26ボトルがMethicillin susceptible S. aureus(MSSA)と判定された。一方,本法および直接PCR法では12ボトルがMRSA,25ボトルがMSSAと判定された。標準法を基準にした時,本法および直接PCR法のMRSA検出感度は100%,特異度は96.2%であり,1ボトルが標準法と不一致であった。不一致ボトルは,MSSAとMethicillin resistant Staphylococcus epidermidisが混在していた。Coagulase negative staphylococciの混在で注意を要するものの,本法の直接迅速MRSA検出能は良好であった。
The rapid detection of methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) is important. In this study, a rapid detection method using MRSA-LA with culture fluid from positive blood culture bottles (direct method) was compared with an antimicrobial susceptibility test and real-time PCR assay. Thirty-seven blood culture isolates that were identified as S. aureus were used. Results showed that 11 isolates were determined to be MRSA and 26 were found to be methicillin-susceptible S. aureus (MSSA) by the antimicrobial susceptibility test. On the other hand, twelve isolates were determined to be MRSA by the direct method and PCR assay. In other words, one bottle with a mixture of MSSA and methicillin-resistant Staphylococcus epidermidis (MRSE) was determined to have MRSA. In conclusion, the detectability of MRSA from blood culture by this method was satisfactory.
Staphylococcus aureusはしばしば臨床検体から分離され,特にS. aureus bacteremiaでは高い死亡率を呈する1)。そのため,特に血液培養にてS. aureus検出時には迅速な同定と適切な抗菌薬治療が求められる2)。Kumarら3)の敗血症性ショック患者を対象とした大規模後ろ向きコホート研究によると,敗血症性ショックにおいて初期に不適切な抗菌薬治療が行われた群は,対照群と比較して生存率が約5倍低下する。また,β-ラクタム系抗菌薬耐性を支配するmecA遺伝子の保有によりpenicillin binding protein (PBP)2’を発現するようになったMethicillin resistant S. aureus(MRSA)は,多くの抗菌薬に耐性を示すことから治療に難渋する。そこで,通常,血液培養にてS. aureusが検出され薬剤感受性試験の結果が判明するまでは,MRSAであることを考慮しvancomycin(VCM)が投与されることが多い。一方,Methicillin susceptible S. aureus(MSSA)菌血症における第一選択はcefazolin(CEZ)であり,VCMによる治療ではCEZによるそれと比較し予後不良となる4),5)。さらに,MRSAは医療関連感染の主要な原因菌でもあり,その迅速検出は治療および医療関連感染対策上重要である。
血液培養ボトルからの直接S. aureus迅速検出は,近年普及している質量分析装置や血液培養液を用いたDirect tube coagulase test(DTCT)6)により実施できる。しかし,MRSAの直接迅速検出については未だ遺伝子検査に依存し,実施できる施設は限られる。すなわち,多くの施設で血液培養からMRSAを検出するまで一定の時間を要している。一方,血液培養のサブカルチャーで得られたコロニーからPBP2’を検出するMRSA-LA(デンカ生研株式会社)がMRSAの同定キットとして市販されており,その有用性が報告されている7)~9)。また,イムノクロマト法によるPBP2’検出キットを血液培養に転用した方法が報告されている10)が,ラテックス凝集法であるMRSA-LAにおける報告はない。そこで本研究では,MRSA-LAによる直接MRSA迅速検出能を,リアルタイムPCR法およびClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)に準拠した薬剤感受性試験と比較した。
札幌医科大学附属病院において,2016年5月から2018年4月までに,質量分析装置MALDI Biotyper(ブルカージャパン株式会社)によりS. aureusが直接同定された血液培養37ボトル(1患者1ボトル)を対象とした。血液培養自動分析装置は「BDバクテックFXシステム」,血液培養ボトルは,好気用の「BDバクテック23F好気用レズンボトルP」,嫌気用の「BDバクテック22F嫌気用レズンボトルP」,あるいは小児用の「BDバクテック20F小児用レズンボトルP」(いずれも日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用いた。対象はすべて,直接同定後,サブカルチャーで得られたコロニーをMALDI Biotyperによって再度同定し,S. aureusの存在を確認した。対象について,以下の3法によりMRSAか否か判定し結果の一致率を比較した。
2. 薬剤感受性試験によるMRSA検出(以下,標準法とも表記)対象のサブカルチャーで得られたコロニーから薬剤感受性試験を実施した。薬剤感受性試験は,CLSI11)に準拠した微量液体希釈法によるMIC測定を行った。測定には,微生物同定感受性分析装置「マイクロスキャンWalkAway 96 plus」および測定パネル「マイクロスキャンPos MIC 1J」(いずれもベックマン・コールター株式会社)を使用した。MRSAの判定はCLSI11)の基準に従い,oxacillin(MPIPC)MIC値 ≥ 4 μg/mL,cefoxitin(CFX)MIC値 ≥ 8 μg/mLをresistant(R)とし,両者あるいは一方でもRであったものをMRSA,それ以外をMSSAとした。
3. MRSA-LAによる血液培養陽性ボトルからの直接MRSA迅速検出(以下,本法とも表記)まず,10 mL容量の滅菌スピッツに血液培養陽性液を2 mL採取し,3,000 rpm,10分間遠心した。遠心上清を除去後,溶血剤としてsodium hydroxide(NaOH: 0.1 mol/L)を1.5 mL加え混和し,さらに3,000 rpm,10分間遠心した。遠心上清をきれいに取り除き,得られた沈渣を菌濃縮液としてMRSA-LAを実施した。ただし,菌濃縮液に明らかな血液成分の混入(赤色)を認めた場合は,NaOH添加・遠心を再度実施し,血液成分を除去した。
MRSA-LAの操作は,添付文書に従って行った。すなわち,菌濃縮液の得られた滅菌スピッツに,抽出試薬1を4滴加え混和し,100℃ 3分間加熱処理した。次に,室温下で1~2分放冷後,抽出試薬2を1滴添加し,3,000 rpm,10分間遠心した。その遠心上清50 μLを感作ラテックス液1滴と混合し,3分間反応させ,凝集を肉眼で観察した。凝集ありをMRSA,凝集なしはMSSAと判定した。
4. リアルタイムPCR法による血液培養陽性ボトルからの直接迅速MRSA検出(以下,直接PCR法とも表記)Francoisら12)の報告を参考にmecA遺伝子検出Primerを設計した。Forward primerは5'-CATTGATCGCAACGTTCAATTT-3',Reverse primerには5'-TGGTCTTTCTGCATTCCTGGA-3'を用いた。対象の培養液を用いて,リアルタイムPCR装置「LightCycler Nano」およびNano専用SYBR Greenマスターミックス「FastStart Essential DNA Green Master」(いずれもロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)によるリアルタイムPCR法にてmecAを検出した。mecAが検出された場合をMRSAと判定した。
血液培養ボトルからの鋳型DNAの抽出は,まず,1.5 mLチューブに血液培養液を1 mL採取し,そこに血液培養液の前処理キットMALDI Sepsityper kit(ブルカージャパン株式会社)のLysis Bufferを加え混和した後,13,000 rpmで2分間遠心した。遠心後の上清を除去し,キットのWash Bufferを1 mL加えてペレットを懸濁し,再度遠心およびその上清を除去した。次に蒸留水を300 μL加えてペレットを完全に懸濁し菌液とし,そのうち任意の量を蒸留水で100倍希釈した。95℃ 5分間加熱後,13,000 rpmで5分間遠心し,得られた上清を鋳型DNAとして使用した。PCR反応は,鋳型DNA 5 μLとForwardおよびReverse primerをそれぞれ1 μL,2x FastStart Essential DNA Green Masterを10 μL,蒸留水を3 μL混和し,反応条件は熱変性を95℃,10分間,サイクリングは熱変性を95℃,10秒間,アニーリングを60℃,10秒間,伸長反応を72℃,15秒間で,45サイクルとした。
5. 当院5年間における血液培養ボトルからのS. aureus分離数とMRSAの分離数・率の推移2013年4月から2017年3月の5年間における,血液培養ボトルからのS. aureus分離数とMRSAの分離数・率の年次推移を集計した。MRSAは同一患者由来分離株を極力避けるため,同一月内に同一患者から複数回分離された場合は1株として集計した。
Direct MRSA-LA method | Direct PCR method | ||||
---|---|---|---|---|---|
MRSA | MSSA** | MRSA | MSSA** | ||
Standard method* | MRSA | 11 | 0 | 11 | 0 |
MSSA** | 1 | 25 | 1 | 25 |
* Broth microdilution method.
** Methicillin susceptible Staphylococcus aureus
標準法では,対象37ボトルのうち11ボトルがMRSA,26ボトルがMSSAと判定された。一方,本法および直接PCR法では12ボトルがMRSA,25ボトルがMSSAと判定され直接法2法間の結果一致率は100%であったものの,直接法2法と標準法間での結果一致率は97.3%であった。標準法を基準にした時,本法および直接PCR法のMRSA検出感度は100%,特異度は96.2%であり,1ボトルが標準法と不一致であった。不一致ボトルには,MSSAとMethicillin resistant Staphylococcus epidermidis(MRSE)が混在していた。
2. 当院5年間における血液培養からのS. aureus分離数とMRSAの分離数・率5年間における血液培養からのS. aureus分離数は合計170株,年次ごとでは,2013年から2017年までそれぞれ34,33,32,34,37株で,分離数は概ね横ばいで推移していた。そのうち,MRSAの分離数・率は,2013年から2017年までそれぞれ16株(47.1%),14株(42.4%),20株(62.5%),16株(47.1%),11株(29.7%)で,5年間の平均は15.4株:45.8%であった。また,S. aureusが分離された170ボトルのうち10例にあたる5.9%でCoagulase negative staphylococci(CNS)が混在していた。
従来,血液培養陽転後,S. aureusの同定およびその薬剤感受性試験の結果が判明するまでは一定の時間を要していた。血液培養ボトルからの直接S. aureus同定については,質量分析装置の普及やDTCTにより迅速に実施可能となった。また,MRSAの直接検出は,MRSAスクリーニング培地の使用や遺伝子検査によるmecAの検出により実施可能であるが,前者は血液培養陽転から時間を要すること,後者は実施できる施設が制限されることが欠点である。また,発育コロニーを用いたMRSA-LAによるMRSA検出は先行研究によりその有用性が報告されている7)~9)が,それを血液培養に転用した方法はこれまで検討されていなかった。そこで本研究では,MRSA-LAによる直接迅速MRSA検出能について標準法を基準とし評価した。また,直接PCR法の結果との比較も行った。その結果,本法のMRSA検出感度は100%で直接PCR法の結果とも一致していた。すなわち,本法による直接迅速MRSA検出能は良好であると示唆された。
MRSA-LAは,ラテックス凝集反応によりPBP2’を捕捉しMRSAを検出するキットとして開発されたが,CNSなどのPBP2’発現菌種も陽性となる9)。本研究においても,MSSAとMRSEが混在していた1ボトルが陽性となった。また,PBP2’を発現する菌種はmecAを保有していることから直接PCR法の結果も同様に陽性となった。CNSの多くはMethicillin resistant CNS(MRCNS)であることから,その存在下では本法および直接PCR法の陽性判定は避けられない。そのため,対象ボトル内の被験菌がS. aureusであるか否か確認することが重要であり,さらにMRCNSが混在していた場合は本法および直接PCR法によるMRSA検出は困難となる。
Japan Nosocomial Infections Surveillance(JANIS)の統計によると,血液培養から分離される菌種のなかで依然としてS. aureusの割合が高い一方,MRSAの分離率は年々低下傾向にある13)。当院においてもS. aureusの中に占めるMRSAの割合は,2013年~2016年まで約4~6割で推移していたが,2017年度は約3割に低下した。これは,相対的に検出割合が増加しているMSSAに対して不適切な抗MRSA薬治療が実施される可能性が高まっていることを意味している。さらに,MRSAは主要な医療関連感染の原因菌で,患者間はもちろん,医療従事者や医療器具などを介して伝播する。MRSAによる医療関連感染が平均在院日数の延長をきたす報告14)もあり,本法による直接迅速MRSA検出は患者・医療機関双方に寄与できる可能性がある。
血液培養陽性時の菌量は2 × 107~7 × 109 CFU/mLと幅広い15)。そのため,血液培養液をそのまま試験に供した場合の菌量不足による偽陰性を考慮し,本法は菌濃縮液を試料とした。本法の工夫に対する学術的根拠を裏付けるため,今後,対象を追加し,血液培養液および菌濃縮液における感度比較を行う必要がある。さらに,PBP2’の発現量が低いLow-level MRSA株16)に対する本法の反応性も検証すべきであるが,本研究では対象からLow-level MRSA株が検出されなかったため今後の課題である。なにより,本研究における最大の問題点は対象の少なさである。MRSA-LAを血液培養に転用した方法はこれまで報告がなく,その有用性を論じるにはより多くのデータを蓄積する必要がある。
MRSA-LAを用いた血液培養からの直接迅速MRSA検出法は,MRCNSの混在で注意を要するものの,PCR法や薬剤感受性試験の結果と良好な一致率を示した。
本研究は札幌医科大学附属病院臨床研究審査委員会の承認を得て施行した(整理番号;302-30)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。