Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Fundamental study of method of measurement of Presepsin, “HISCL Presepsin”
Natsuki NARUMITakashi KONDORyosuke MORIAIAkemi ENDOHKoichi ASANUMASatoshi TAKAHASHI
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2021 Volume 70 Issue 3 Pages 482-488

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Abstract

今回我々は,新たに開発された「HISCLプレセプシン試薬」の基本性能評価を行った。プレセプシンは,「HISCLEプレセプシン試薬」を用い,「HISCLE-5000」で測定した。対照試薬として,「ステイシアCLEIA Presepsin」を使用した。対象は,当院の既存試料を用いた。再現性,試薬安定性,希釈直線性,検出限界,共存物質の影響,相関性および攪拌の影響を検討した。再現性と希釈直線性は良好であった。また,測定機器に搭載後,9週目まで測定値は安定していた。2SD法による検出限界は9.4 pg/mLと十分な感度を有していた。乳び,溶血ヘモグロビン,遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビンおよびリウマトイド因子は,測定値に影響を及ぼさなかった。対照試薬との相関係数は,r = 0.997と高く,標準主軸回帰式もy = 0.91x − 89.21と良好な相関性が得られた。さらに,プレセプシン濃度が異なる5例を用いて,3つの条件下で撹拌による測定値への影響を調べた。本試薬と対照試薬を比較すると,全ての条件において対照試薬の方が上昇率はやや大きかった。過度な攪拌により偽高値となる可能性があるため,測定前の検体の取り扱いには注意する必要があると考えられた。また,本試薬は基本性能が良好で,日常検査に有用と考えられた。

Translated Abstract

In this study, we evaluated the performance of a new method of measuring Presepsin, the “HISCL Presepsin”. Presepsin was measured with the HISCL Presepsin reagent using HISCL-5000. The control reagent was STACIA CLEIA Presepsin. Existing samples were measured. We evaluated whether HISCL Presepsin is satisfactory in terms of precision, long-term stability, linearity, detection limit, interference from substances, correlations, and method of mixing. Satisfactory results in terms of precision and linearity were obtained.There was good long-term stability for nine weeks.The detection limit when using the 2SD method was 9.4 pg/mL. There was no interference from substances such as hemoglobin, unconjugated bilirubin, conjugated bilirubin, and rheumatoid factor.A strong correlation was observed between the HISCL Presepsin and STACIA CLEIA Presepsin (r = 0.997, y = 0.91x − 89.21). In addition, we examined three effects of agitation on the measurement of Presepsin. The STACIA CLEIA Presepsin showed a larger increase in percentage of rate of increase test value. However, we need to pay attention to the handling of premeasurement samples because of the possibility of an abnormally high Presepsin concentration caused by excessive agitation. In summary, our results suggest that HISCL Presepsin may be useful for the early diagnosis of sepsis.

I  はじめに

敗血症は,感染によって臓器障害を引き起こしている状態であり,急激に重症化する。敗血症性ショックにおいては,抗菌薬の投与が1時間遅れるごとに生存率が7.6%低下するとされており1),早期の治療介入が不可欠である。検査法として血液培養検査があるが,陽性率は30%から40%に過ぎない2)。また,結果が出るまでに時間がかかってしまうことが問題とされている。

そのため,感染から数時間で血中濃度の上昇がみられるプレセプシン(P-SEP),プロカルシトニンやCRP等のバイオマーカーが診断補助として測定されている。P-SEPは顆粒球膜状に存在するCD14が切断されてできた分子量約13 kDaの蛋白で,細菌感染に特異的に反応して産生されると考えられている3),4)

全自動免疫測定装置HISCLプレセプシン試薬(シスメックス株式会社)は,ディレイド・1ステップサンドイッチ法を用いた化学発光酵素免疫測定法を原理とし,約17分で測定可能なP-SEP測定試薬である。

また,EDTA加血漿に加え,ヘパリンリチウム(He-Li)加血漿,血清でも測定することができる。さらに測定範囲は20 pg/mLから30,000 pg/mLとワイドレンジ定量測定を実現している。

今回,新たに開発された「HISCLプレセプシン試薬」の基本性能評価を行ったので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

当院の既存試料(He-Li加血漿,EDTA加血漿,血清)を用いた。本研究は,札幌医科大学附属病院臨床研究審査委員会の承認を得た。(整理番号:312-1064)

2. 方法

1) 測定試薬および機器

「HISCLプレセプシン試薬」(シスメックス株式会社)を用い,「HISCL-5000」(シスメックス株式会社)で測定した。対照試薬として,ステイシアCLEIA Presepsin(株式会社LSIメディエンス)を使用した。

2) 再現性

3濃度のプール血漿(He-Li加血漿)を20回連続測定し,併行精度を検討した。また,同じ試料を−40℃に凍結保存し,初回のみキャリブレーション後,20日間2重測定して室内再現精度を調べた。

3) 試薬安定性

3濃度のプール血漿(He-Li加血漿)を子分注して−40℃に凍結保存し,試薬安定性を検討した。試薬搭載後初回のみキャリブレーションし,1週間に1回,9週目まで2重測定した。その間,試薬は機器内に搭載したまま24時間試薬冷却状態を維持した。検体測定期間の装置の環境条件は,室温23℃~26℃とした。

4) 希釈直線性

2濃度のプール血漿(He-Li加血漿)を,生理食塩水で10段階希釈後,3重測定した。

5) 検出限界

44.6 pg/mLのプール血漿(He-Li加血漿)を生理食塩水で10段階希釈後,10重測定し,2SD法で算出した。

6) 共存物質の影響

プール血漿(He-Li加血漿)に5段階希釈した乳び,溶血ヘモグロビン,遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビンおよびリウマトイド因子を添加後,それぞれ3重測定した。

7) 対照試薬との相関性

100例の患者血漿(He-Li加血漿)を本試薬と対照試薬で測定し,相関係数(r)と回帰式を算出した。

8) EDTA血漿,血清との相関性

50例の患者由来のHe-Li加血漿とEDTA加血漿,50例の患者由来のHe-Li加血漿と血清を本試薬で測定し,相関係数(r)と回帰式を算出した。

9) 攪拌の影響

P-SEPは激しい撹拌によって測定値が上昇することが報告されているため4),撹拌による測定値への影響を調べた。P-SEP濃度が異なる5例(sample 1: 66.7 pg/mL, sample 2: 74.7 pg/mL, sample 3: 170.3 pg/mL, sample 4: 1,256.0 pg/mL, sample 5: 5,969.3 pg/mL)のEDTA加血漿を各攪拌条件に従って操作後,本試薬と対照試薬で3重測定し,攪拌による値の変化を調べた。攪拌の条件は以下の3通りとし,未攪拌のサンプルに対する上昇率を調べた。

①多項目自動血球計数装置XN-3000(シスメックス株式会社)でCBC測定(8回転倒混和)

②50回ゆっくり泡立てないように転倒混和

③1分間ボルテックスミキサーで強く攪拌

III  結果

1. 再現性

併行精度の変動係数(CV)は1.7%から2.6%であった(Table 1)。また,日間変動CVは2.0%から2.7%で,日内変動CVは1.4%から3.7%であった。室内再現精度(総合変動係数CV)は2.5%から4.6%であった(Table 2)。

Table 1  Within-run precision (n = 20)
Low Medium High
Mean (pg/mL) 205 5,310 20,767
SD (pg/mL) 4.1 92.4 538.6
CV (%) 2.0 1.7 2.6
Table 2  Between-day precision (n = 20)
Low Medium High
Mean (pg/mL) 226 5,683 21,171
SD (pg/mL) 10.6 142.5 542.5
CV (%) 4.6 2.5 2.6

2. 試薬安定性

初日の値 ± 室内再現精度の5%(図中破線)を連続的に超えた場合を問題ありとすると,検討範囲内で変動はみられなかった(Figure 1)。初日の値からの最大変化率は,3濃度でそれぞれ4.4%(3週目),3.7%(2週目),3.8%(8週目)であった。

Figure 1 On board stability test

Dotted line: mean value ±5%.

3. 希釈直線性

日本臨床化学会で公表されているValidation-Support処理プログラムにて確認した。直線性の評価は分散分析法を利用して,残差分散と純誤差分散比からF検定を行い判断した。2濃度の残差変動の分散と級内変動の分散比の有意確率は0.11,0.08であり,有意差は認めず,直線性が認められた(Figure 2)。

Figure 2 Dilution linearity test

Left: low value samples.

Right: high value samples.

4. 検出限界

2SD法で求めた検出限界は,9.4 pg/mLであった(Figure 3)。

Figure 3 Detection limit analysis

Dotted line: valus of sample diluent +2SD.

5. 共存物質の影響

未添加時における測定値 ±5%(図中破線)を超えた場合を影響ありとすると,検討範囲内で測定値に変動はなかった(Figure 4)。

Figure 4 Effects of interfering substances on measurement of P-SEP

Dotted line: untreated value ±5%

6. 対照試薬との相関性

rは0.997,標準主軸回帰式はy = 0.91x − 89.21であった。測定値は,やや本試薬の方が対照試薬と比較して,低い傾向がみられた(Figure 5)。

Figure 5 Correlation of measured values between STACIA P-SEP and HISCL P-SEP

7. EDTA加血漿,血清との相関性

相関係数は両者ともに0.998であり,標準主軸回帰式は それぞれy = 1.03x − 100.94,y = 0.99x − 17.75であった(Figure 6)。

Figure 6 Correlation of P-SEP using HISCL

a: Correlation of measured values between He-Li add plasma and EDTA-2K add plasma.

b: Correlation of measured values between He-Li add plasma and serum.

8. 攪拌の影響

未攪拌のサンプルに対する上昇率は,条件①で本試薬が1.0倍から1.3倍,対照試薬が0.9倍から1.4倍であり,条件②では,本試薬が1.0倍から1.8倍,対照試薬が1.0倍から2.5倍であった。また,条件③では,本試薬1.4倍から6.9倍,対照試薬1.5倍から11.9倍であった。いずれの条件においても,本試薬の上昇率は,対照試薬に比べて小さかった(Table 3, Figure 7)。

Table 3  Effects of agitation on measurement of P-SEP
Conditions Sample 1 Sample 2 Sample 3 Sample 4 Sample 5
HISCL STACIA HISCL STACIA HISCL STACIA HISCL STACIA HISCL STACIA
1.3 1.4 1.2 1.3 1.1 1.1 1.0 1.0 1.0 0.9
1.7 2.2 1.8 2.5 1.5 1.6 1.0 1.0 1.0 1.0
5.4 9.0 6.9 11.9 4.1 6.1 2.1 2.0 1.4 1.5

Numbers are Presepsin concentration rise rate.

Condition ①: After measured by XN-3000.

Condition ②: After mixed slowly 50 times.

Condition ③: After mixed strongly by vortex mixer.

Figure 7 Effects of agitation on measurement of P-SEP

Condition ①: After measured by XN-3000.

Condition ②: After mixed slowly 50 times.

Condition ③: After mixed strongly by vortex mixer.

IV  考察

今回我々は,「HISCLプレセプシン試薬」の基本性能について評価を行った。

再現性の検討ではCV%は最大でも4.6%と良好であった。本試薬は自動分析装置に搭載後9週目まで安定しており,添付文書に記載されている30日よりも長かった。今回は,室温23℃~26℃で,試薬は機器内に搭載したまま24時間試薬冷却状態を維持した。この条件下であれば,本試薬は自動分析装置に搭載後9週目まで安定しており,添付文書に記載されている30日よりも長く使用でき,使用頻度が少ない施設でも無駄がなく測定できると考えられた。ただし,自施設での検討を行い,値を注意深く観察して試薬搭載初日から5%を連続的に超えた場合は,試薬を新調する必要があると考えられる。希釈直線性は,今回検討できた最大濃度の21,785 pg/mL付近まで良好で,検出限界は測定範囲下限20 pg/mLより低値であった。対照試薬との相関性では,rは0.997良好な相関性が得られたものの,測定値はやや本試薬の方が対照試薬と比較して,低い傾向がみられた。原因は不明であるが,ステイシアCLEIA Presepsinから本試薬に移行する際には,注意が必要である。

現在流通している他社のP-SEP測定試薬は測定範囲上限が20,000 pg/mLであるのに対して,本試薬は30,000 pg/mLである。今回測定した検体で30,000 pg/mLを超えたものはなかったが,2018年1月から2020年1月までに間に,当院でP-SEPを測定した患者560例のうち,20,000 pg/mLを超えた検体が2例(0.35%)あり,本試薬は実臨床の検査において,十分な測定範囲を有していると思われた。

攪拌の影響に関しては,攪拌条件①,②では,健常人の参考基準値314 pg/mL5)をまたいで上昇した検体はなかったものの,条件①の最大上昇率は,本試薬で1.3倍,対照試薬で1.4倍であり,血算測定時の攪拌による影響を受けることがわかった。測定値がカットオフ値に近い場合には,血算測定時の影響により,カットオフ値をまたぐ可能性があるため,特に値の評価には注意が必要である。条件②では対照試薬で最大上昇率が2.5倍であり,過度な攪拌により偽高値となる可能性があるため,測定前の検体の取り扱いには注意する必要があると考えられた。軍場ら4)はボルテックスミキサーによる試料攪拌の影響を6種類の時間の長さで検討しており,30秒間攪拌後からP-SEP測定値が上昇したと報告している。我々の検討では,ボルテックスミキサーによる攪拌は,1分間のみであるが,いずれの濃度でも測定値は上昇し,同様の結果を得られた。本試薬と対照試薬を比較すると,全ての条件において対照試薬の方が上昇率はやや大きかった。抗体や試薬組成の違いが,この原因として挙げられるが,詳細は不明であり,症例数を増やして今後の更なる検討が必要である。P-SEP値を正確に測定するためには,採血時に激しく転倒混和しない,検体搬送時に強い衝撃を与えない等の注意を払う必要がある。

P-SEPは外傷や熱傷等の感染を伴わない高サイトカイン血症の病態において従来の炎症マーカーに対し影響を受けにくい6)。また,感染症発症後 プロカルシトニンは2~3時間,CRPは6時間で産生放出が始まるのに対し,P-SEPは2時間以内と感染発症早期に上昇するため,より感染特異的なマーカーといえる7)

敗血症の治療では,感染症によって生命を脅かす臓器障害の進展を診断し,臓器不全に対する早期の治療介入を行うことが目標である8)。本試薬は基本性能が良好で,約17分で迅速に結果を得られることからも,敗血症早期診断の一助となり得ると思われる。

V  結語

本試薬の基本性能は良好で短時間での測定が可能なため,日常検査に有用と考えられた。ただし,P-SEPは,検体の過度な攪拌により偽高値となる可能性があるため,採血時や検体搬送時には,取り扱いに注意する必要がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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