2022 Volume 71 Issue 1 Pages 143-147
2014年9月から2020年12月までの間に,新潟県内(新潟市除く)においてカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(CRE感染症)として届出された136件のうち,医療機関から菌株の提供のあった127株について薬剤耐性遺伝子保有状況を調査した。カルバペネマーゼ遺伝子は5株から検出され検出率は3.9%(5/127)であった。検出された遺伝子型はIMP-1が4株及びIMI-1が1株であった。IMP-1は,全国的に多くの地域から報告される型であり,新潟県内においても検出が確認された。1株検出されたIMI型は全国的にも希な遺伝子である。全国では2019年までに3例の報告があるのみである。このIMI型カルバペネマーゼ遺伝子は,2020年に70代男性患者の創浸出液から分離されたEnterobacter cloacae complexより検出された。CRE感染症は感染症法における5類全数把握疾患に定められており感染症対策に重要な菌であるが,カルバペネマーゼ遺伝子の検出状況は地域によって検出率や種類が異なるため,地域の状況・特性を把握することは重要である。
A total of 136 cases were reported as carbapenem-resistant Enterobacteriaceae bacterial infections (CRE infections) in Niigata Prefecture (excluding Niigata City) between September 2014 and December 2020. For these cases, we investigated 127 strains provided by medical institutions for drug resistance gene possession. Of the 127 strains we investigated, the carbapenemase gene was detected in five strains (3.9%). The genotype of four strains was IMP-1 and that of the remaining strain was IMI-1. Strains with the IMP-1 genotype have been reported from many areas nationwide, whereas those with the IMI-1 genotype are rare, which were detected in three cases nationwide as of 2019. The IMI-1-genotype strain carrying the carbapenemase gene was detected in the Enterobacter cloacae complex isolated from the exudate of a male patient in his 70s. CRE infections are defined in the Infectious Diseases Control Law and are important for infectious disease control. The detection rate and type of carbapenemase gene differ depending on the region, so it is important to determine the situation and characteristics of a certain region.
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は,メロペネムなどのカルバペネム系薬剤及び広域β-ラクタム剤に対して耐性を示す腸内細菌目細菌による感染症であり,2014年9月19日より感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)の5類全数把握疾患に追加された。近年,CRE感染症の増加が世界的に問題となっており,2017年3月28日付厚生労働省健康局結核感染症課長通知により,地域における薬剤耐性菌の蔓延などの流行状況を把握するため,地方衛生研究所で当該耐性菌に係る詳細な解析を行うこととなった。
新潟県内(新潟市を除く)においてもCRE感染症届出菌株を収集し,詳細な解析を行い,県内の検出状況を調査したので結果を報告する。
なお,本稿ではCRE感染症は感染症法で規定されている疾患名のため,「腸内細菌目」ではなく「腸内細菌科」と記載した。
2014年9月から2020年12月までの間に,新潟県内(新潟市除く)でCRE感染症として届出された136件のうち,医療機関より提供のあった127株について解析した。残り9株については,医療機関においてすでに廃棄され,提供を受けることができなかった。
なお,本研究は新潟県保健環境科学研究所倫理委員会で法令の定める基準の範囲に含まれる研究であることを確認しており,倫理審査適用対象外となっている。
2. 菌種同定及び患者情報菌種の同定はCRE感染症発生届の情報を参考に性状確認培地(TSI,LIA,VP培地)及びAPI 20E(ビオメリュー・ジャパン株式会社)により確認した。Escherichia coliについては,Iguchiら1)のプライマーを用いてPCR法にてO遺伝子型別及びBanjoら2)のプライマーを用いてH遺伝子型別を行った。届出時期,由来等の患者情報は届出に基づいて集計した。
3. 薬剤耐性遺伝子の検出カルバペネマーゼ遺伝子6種(IMP型,NDM型,KPC型,OXA-48型,VIM型,GES型)3)をマルチプレックスPCR法により遺伝子検査を実施した。
また,カルバペネマーゼ遺伝子6種が全て陰性でカルバペネマーゼ産生性確認試験が陽性の場合は,国立感染症研究所の病原体検出マニュアル「薬剤耐性菌」4)に基づき,国内で報告例のあるIMI型5),KHM型及びSMB型の遺伝子を追加しPCR検査を実施した。
4. 薬剤耐性遺伝子の確認IMP型遺伝子が検出された菌株は,病原体検出マニュアル「薬剤耐性菌」4)に記載のIMP-1型シークエンス用プライマーを使用してBig Dye terminator ver3.1(Applid Biosystems)Genetic Analyzer 3500(Applid Biosystems)を用いてダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し,BLAST解析により薬剤耐性遺伝子を確認し型別を行った。その他の薬剤耐性遺伝子が検出された場合においてもPCR法にて使用したプライマーを用いて,同様にダイレクトシークエンスを実施し耐性遺伝子を確認した。
5. β-ラクタマーゼ及びカルバペネマーゼ産生性の確認β-ラクタマーゼ産生性の確認は,病原体検出マニュアル「薬剤耐性菌」4)に記載されているメルカプト酢酸ナトリウム(SMA)とボロン酸(BA)の2つの阻害剤を用いた方法で行った。
カルバペネマーゼ産生性の確認は,Clinical and Laboratory Standards InstituteのM100-S286)に記載されているmCIM(modified Carbapenem Inactivation Method)を実施した。mCIMは,MEPMディスクを被検菌懸濁液と反応させ,MEPM感受性菌を塗布した培地上に置き形成される阻止円の大きさで判定する方法である。
新潟県のCRE感染症届出数と収集した菌株の推移をFigure 1に示す。感染症法に新たに追加された2014年は届出は無かったが,2015年の8件から2020年の40件まで合計136件であった。このうち医療機関から提供された菌株は127株で菌株収集率93.4%であった。収集した127株の菌種割合をFigure 2に示す。Klebsiella aerogenesが73株(57.4%)と最も多く,次いでEnterobacter cloacae complexが36株(28.3%),E. coliとSerratia marcescensが各6株(4.7%)とその他6株であった。その他6株は,K. aerogenes以外のKlebsiella属菌3株,Citrobacter braakii 2株及びHafnia alvei 1株であった。
CRE: Number of CRE by the Infections law in Niigata prefecture
Test number: Number of CRE that we collected
CPE: carbapenemase-producing Enterobacterales
This figure shows that number of CRE is increasing by year.
The number on the bar graph is the number of strains. Test No.: Number of strains that we collected and tested in a year
This figure shows that K. aerogenes account for higher rate than others in CRE reported in Niigata prefecture every year.
CRE感染症の届出基準7)は,感染症法に定められており,メロペネム(MEPM)のMIC値2 μg/mL以上,又はイムペネム(IPM)のMIC値2 μg/mL以上かつセフメタゾール(CMZ)のMIC値64 μg/mL以上である。
収集した菌株127株のうち99株(78.0%)がIPM及びCMZによる基準での届出であり,28株(22.0%)がMEPMの基準による届出であった。菌種別による届出状況は,K. aerogenesは73株中64株(87.7%),E. cloacae complexは35株中28株(80.0%)がIPM及びCMZでの届出であった。一方,E. coliは6株中6株(100%),S. marcescensは6株中4株(66.7%)がMEPMでの届出であった。
2. 薬剤耐性遺伝子検出状況カルバペネマーゼ遺伝子の検出状況をTable 1に示す。S. marcescens 3株,E. coli 1株及びE. cloacae complex 1株の計5株から検出され,検出率は3.9%(5/127)であった。検出された遺伝子はIMP型4株及びIMI型1株であった。IMP型は2017年3株,2019年1株検出され,IMI型は2020年に検出された。IMP型の型別は4株とも全てIMP-1であり,IMI型の型別はIMI-1であった。
No. | Date | Organism | Genotype | Carbapenemase | SMA | BA | mCIM | Notification by MEPM or IPM/CMZ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2017.5 | S. marcescens | — | IMP-1 | + | − | + | MEPM |
2 | 2017.6 | E. coli | Og177:Hg51 | IMP-1 | + | − | + | MEPM |
3 | 2017.9 | S. marcescens | — | IMP-1 | + | − | + | MEPM |
4 | 2019.3 | S. marcescens | — | IMP-1 | + | − | + | MEPM |
5 | 2020.10 | E. cloacae complex | — | IMI-1 | − | + | + | MEPM |
SMA: β-lactamase-producing confirmation test using sodium mercaptoacetate, BA: β-lactamase-producing confirmation test using 3-amino phenylboronic acid, mCIM: modified carbapenem inactivation method, MEPM: meropenem, IPM: imipenem, CMZ: cefmetazole.
カルバペネマーゼ遺伝子が検出された5株について,阻害剤を用いたβ-ラクタマーゼ産生性確認試験及びカルバペネマーゼ産生性確認試験を実施した結果を示す(Table 1)。IMP-1が検出された4株はSMAによる阻害が確認され陽性であったが,BAは陰性であった。IMI型が検出された1株はSMAによる阻害はなく,BAによる阻害が認められた。mCIMによるカルバペネマーゼ産生性は5株全て確認され,検出遺伝子型と産生性試験の結果に矛盾はなかった。
CRE報告数は,新潟県内では感染症法に追加された当初から2016年までは年間10件程度であったが,2017年,2018年は20件程度となり,2019年は34件,2020年は40件と増加した。病原微生物情報(IASR)8)によると,全国では2015年から2017年は1,600件前後で推移したが,2018年は2,289件と増加傾向を示した。
届出された菌種内訳は,新潟県ではK. aerogenesが73株(57.4%)と届出全体の過半数を超え,次いでE. cloacae complexの36株(28.3%)と2菌種で届出全体の85.8%を占めた。K. aerogenesは,毎年最も多く検出され,2017年を除いて50%以上を占めた。全国の検出状況8),9)は,2017年からE. cloacae complexに代わりK. aerogenesが最も多く検出されるようになり,2018年はK. aerogenes 38.4%,E. cloacae complex 27.8%と2菌種で66.2%と過半数を超えた。検出菌種の内訳において,新潟県は全国と同様であるが,K. aerogenesの検出割合が全国より高かった。
薬剤耐性遺伝子の検出状況では,カルバペネマーゼ遺伝子は5株検出され,検出遺伝子型の内訳はIMP-1が4株とIMI-1が1株であった。この5株は,全てMEPMの基準での届出であった。CREの中には,カルバペネマーゼを産生するCPEとカルバペネマーゼ非産生菌(non-CPE)がある。新潟県内のCREに占めるCPE検出率は3.9%であり,2018年全国平均17.6%9)及び他の報告10)~13)より低かった。最も届出数が多いK. aerogenesは,全国においても2株のみがCPEであり9),届出菌においてK. aerogenesが多いことがCPE検出率の低さの要因と考えられた。
一方,新潟県内ではMEPMの基準で届出された菌におけるCPE検出率は17.8%(5/28)であり,IPM及びCMZの基準で届出された菌のCPE検出率0%(0/99)と比較すると検出率が高いため,MEPMの基準で届出された菌についてはCPEの可能性に注意が必要である。
新潟県内のCRE検出状況は,届出数は増加傾向にあるが,全国と比較すると少なく,さらにCPE検出率も3.9%と低かった。全国では,CRE届出数は東京都,神奈川県,愛知県,大阪府,福岡県の上位5都府県で全体の43%を占め9),14),15),新潟県や東北で少ない傾向があり地域差が大きい。CPE検出も同様であり,新潟県が含まれる北海道・東北・新潟ブロックでは全国と比較しても少なく,今回の結果はこれまでの傾向を裏付ける結果となった。また,検出されたIMP-1は東日本で多いとされ,全国的に検出される型であるが,県内もこの型が検出されたことから流行型を把握することができた。一方,海外で広がっているNDM型,KPC型,OXA-48型は検出されなかった。
IMI型は全国でも報告数は少なく,IASR9),15),16)によると2018年1例,2019年2例の報告がある。この3例の詳細は不明であるが,海外ではEnterobacter属から検出されたと報告5),17)があり,今回遺伝子が検出された株もE. cloacae complexであった。この株は,70歳代男性患者の創浸出液から分離され,この患者は3ヶ月以内の海外渡航歴は無く推定感染地域は国内であった。近年,海外型カルバペネマーゼ遺伝子のNDM型,KPC型,OXA-48型においても海外渡航歴無しもしくは不明の患者からの検出が50%以上との報告16)があり,CREを含む薬剤耐性問題は国際的な状況把握や取り組みが必要な問題である。
新潟県内は,カルバペネマーゼの検出率が少ない地域であるが,希な遺伝子型も検出されることから,今後もPCR検査等詳細な検査及び検出状況の把握は重要である。
新潟県におけるCRE届出菌株127株について,薬剤耐性遺伝子保有状況を調査した。カルバペネマーゼ産生株は5株で検出率は3.9%であった。遺伝子型は,全国的に多く検出されるIMP-1が4株と全国的にも希なIMI-1が1株であった。カルバペネマーゼの検出状況は地域によって異なるため,今後も菌株を精査し,地域の状況及び特性を把握することは重要である。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
今回,カルバペネマーゼ検出に関してご指導いただいた国立感染症研究所薬剤耐性研究センター第一室 松井真理先生に深謝いたします。また,菌株収集にご協力いただいた県内医療機関及び保健所に感謝いたします。