2022 Volume 71 Issue 4 Pages 657-666
近年,自動血球分析装置において,処理能力や性能,ユーザビリティの向上が図られた装置が開発されている。今回,我々はシスメックス社より新たに開発された多項目自動血球分析装置XRシリーズを評価する機会を得たため,基礎的性能評価に加え,XRシリーズより測定項目となった幼若顆粒球(IG),幼若血小板比率(IPF)の性能評価,ならびに異常細胞検出能の評価を行った。CBC(complete blood count)の併行精度(同時再現性),従来機であるXN-9000(シスメックス社)との相関性,およびDIFF項目における目視鏡検値との相関性はいずれも良好であった。IGについては,目視鏡検値ならびに血液像自動分析装置DI-60(シスメックス社)の幼若顆粒球比率との相関性,目視鏡検結果との一致率共に良好な結果を示した。IPFについても,併行精度,XN-9000との相関性はいずれも良好であり,溶血性尿毒症症候群症例においてはPLT増加に先んじたIPF上昇がみられ,IPFの血小板造血マーカーとしての有用性が示唆された。また,XRシリーズより出力される異常フラグと芽球,異常リンパ球,異型リンパ球の目視鏡検結果との一致率も良好であった。さらに,XRシリーズで新たに表示可能となった3次元スキャッタグラムにより細胞集団の出現位置の視認性の向上が確認できた。以上より,XRシリーズは臨床に有用な情報の迅速報告が可能であり,業務効率化においても有用性が高いと考えられた。
Recently, the throughput, performance, and usability of automated hematology analyzers have been improved. This time, we had an opportunity to evaluate XR-1000 of the XR-Series Automated Hematology Analyzer newly developed by Sysmex. We evaluated its performance in the detection of immature granulocytes (IGs) and immature platelet fractions (IPFs) as new reportable parameters and the detectability of abnormal cells, in addition to its basic performance evaluation. It showed good performance in terms of repeatability for CBC and good correlation with Sysmex XN-9000, our current analyzer. For DIFF parameters, correlation with microscopy count was also good. Correlation of the IG% with the microscopy count and the Sysmex DI-60 automated digital imaging analyzer and the concordance rate with the microscopy count were also good. Regarding IPF, repeatability and correlation with the XN-9000 were good. In a hemolytic uremic syndrome case, there was an IPF increase that preceded the PLT increase, and the usefulness of IPF as a platelet hemopoiesis marker was indicated. The concordance rate between abnormal flags and microscopy results for blasts, abnormal lymphocytes, and atypical lymphocytes was good. Finally, the visibility of the appearance position of the cell population was improved by the three-dimensional scattergram, which is a new feature displayable in the XR-Series. In conclusion, the XR-Series can rapidly provide clinically useful information and improve operational efficiency.
近年,医療技術の進歩に伴い,診断や治療に関わる臨床検査の分野では,多彩な情報を迅速かつ正確に提供できるスクリーニング検査の役割が重要視されている。そのような状況において,自動血球分析装置についても処理能力や性能,ユーザビリティの向上が図られた装置が開発されている。
今回,我々は,シスメックス社より新たに開発された多項目自動血球分析装置XRシリーズ(以下,XRシリーズ)の基礎的性能を評価する機会を得た。XRシリーズは従来製品に備わっている測定チャンネルや測定モード,異常細胞検知などの高い性能を維持しながら,新たな機能向上が図られた。
本邦においては,幼若顆粒球(immature granulocyte; IG)と幼若血小板比率(immature platelet fraction; IPF)が研究用項目から測定項目となった。末梢血への幼若顆粒球の出現は骨髄の腫瘍性病変や重症炎症を示唆する重要な所見である。そのため,血球分析装置から出力されるIGの計数値やフラグなどを参照し,目視鏡検することで,見逃しなくこれらを検知することが重要である1),2)。一方,IPFは一般的に核酸を多く含む未成熟な血小板であると考えられており,骨髄の血小板産生能を反映し,化学療法や造血幹細胞移植後の血小板回復時期の予測,また免疫性血小板減少性紫斑病(immune thrombocytopenic purpura; ITP)のような血小板減少性疾患の鑑別に有用であることが報告されている3),4)。
また,XRシリーズでは,従来の2次元スキャッタグラムに加え,3種の信号情報を立体的に同時表示できる3次元スキャッタグラム,細胞集団の密度を立体方向(Z軸)に表示したサーフェスプロットの表示が可能となった。
今回我々は,XRシリーズの基礎的性能評価に加え,IG,IPFの性能評価,および異常細胞検知能の評価を行った。
当院検査部に検査を依頼されたEDTA-2K加血液の残余検体を用いた。研究の実施に際しては当院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:B200173)。
2. 使用装置基礎的検討で使用した装置は,XRシリーズ(XR-1000),対照装置は当院で日常検査に使用している多項目自動血球分析装置XNシリーズ(シスメックス社,以下,XNシリーズ)のXN-9000である。また,IGの相関性評価を目的として,血液像自動分析装置DI-60(シスメックス社,以下,DI-60)を用いた。
3. 原理概要XRシリーズ,XNシリーズ共に,大きく3種類の測定原理が用いられている。1つ目は電気抵抗方式を応用したシースフローDC検出法で,赤血球および血小板の測定に用いられている。2つ目はヘモグロビンの測定原理であるSLS-ヘモグロビン法,そして3つ目は半導体レーザーを用いたフローサイトメトリー法で,白血球や網赤血球等の計数,分画に用いられている。核酸染色をした細胞にレーザー光を照射し,得られた前方散乱光強度(forward scattered light; FSC),側方散乱光強度(side scattered light; SSC),側方蛍光強度(side fluorescent light; SFL)の情報を組み合わせることによりスキャッタグラムを作成し,分画,細胞計数を行っている。白血球と有核赤血球を測定するWNRチャンネル,白血球分画を行うWDFチャンネル,白血球系異常細胞を検出するWPCチャンネル,網赤血球を測定するRETチャンネル,血小板を蛍光染色し高精度に測定するPLT-Fチャンネルの合計5つのチャンネルがある。WDFチャンネルにおいて,好中球の集団のうち,側方蛍光強度の高い領域をIGとして計数し(Figure 1A),PLT-Fチャンネルにおいて,血小板の集団のうち,側方蛍光強度の高い領域をIPFとして計数する(Figure 1B)。
IGはWDFスキャッタグラムの好中球上方エリア,IPFはPLT-Fスキャッタグラムの血小板のうち蛍光強度の高いエリアに出現する。
検体測定はすべて全血モードにて測定した。
1) 併行精度(同時再現性)白血球数(WBC),赤血球数(RBC),ヘモグロビン濃度(HGB),ヘマトクリット値(HCT),血小板数(PLT)について,低値,正常値,高値を含む検体,各項目n = 52を用い,各々10回連続測定し,併行精度を評価した。それぞれ,平均値と変動係数CV%を算出した。PLTについては,n = 56を用い,XR-1000に搭載されるシースフローDC検出法で測定されるPLT-I,RETチャンネルで測定される光学法PLT-O,PLT-Fチャンネルで測定される蛍光法PLT-Fの3種類の測定方法の結果を比較した(PLT-I,PLT-O,PLT-Fは研究用項目名であるが,これらのうちいずれかがPLTとして報告される。)。
2) 相関性CBC:n = 294,DIFF:n = 243,RET:n = 48を用い,XR-1000とXN-9000の相関性を評価した。相関性における回帰式,および相関係数は最小二乗法で求めた。また,DIFF項目については,CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)ガイドラインH20-A25)の目視鏡検手順に則り,技師2名で実施した目視平均値との相関性についても評価した。
3) 新規測定項目IG,IPFの性能評価 ① IG値の相関性XR-1000の測定値でIG% > 2%かつIG# ≥ 100/μLをIG陽性検体としてスクリーニングし,IG陽性・陰性標本各50枚を対象として,当院の認定血液検査技師2名により200カウントの目視鏡検を実施し,各々の目視平均値とXR-1000のIG値との相関性を評価した。また,塗抹標本作製時の塗抹による幼若顆粒球の崩壊の影響を加味するため,同一標本をDI-60にて撮像・分類し,崩壊像を含めた幼若顆粒球との相関性についても評価した。なお,XR-1000で算出されるIG値は,前骨髄球,骨髄球,後骨髄球を総和した項目であるため,目視鏡検値およびDI-60の測定結果はこれら細胞の総和数を用いた。
② IGの目視一致率XR-1000にてIG% > 2%かつIG# ≥ 100/μLを陽性としてスクリーニングされた群(相関性評価と同一群)の100検体を対象に目視鏡検値とXR-1000のIG値について,IG% > 2%かつIG# ≥ 100/μLを陽性基準とした場合(CLSI H20-A2),あるいは,目視鏡検200カウント中に1個以上出現する比率であるIG% ≥ 0.5%を陽性基準とした場合(JAMT勧告法6))における一致率を評価した。
③ IPFの併行精度血小板低値検体を含むn = 55を用い,XR-1000にてIPFを各々10回連続測定し,併行精度を評価した。10回測定における血小板数の平均値が ≥ 50 × 103/μLの検体と< 50 × 103/μLの検体の2群に分けてCV%を評価した。
④ IPFの相関性n = 50を用い,XR-1000およびXN-9000で測定したIPFの相関性を評価した。
⑤ IPFの臨床有用性評価血小板減少症として代表的な疾患である溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome; HUS)と診断された症例について,検体の経日測定を行い,IPFと血小板数の挙動の関係性を評価した。
4) 異常細胞検知性能日常検査で目視鏡検が実施され,かつXR-1000で測定されたn = 719を用い,芽球,異常リンパ球,異型リンパ球の目視鏡検結果とXR-1000から出力される異常フラグである芽球:Blasts?,異常リンパ球:Abn Lympho?,異型リンパ球:Atypical Lympho?との一致率を評価した。Blasts?とAbn Lympho?の2種のフラグは,それぞれWDFスキャッタグラム,WPCスキャッタグラムから総合的に判定されるため,全測定件数719件中,WPCチャンネルが測定された592件を対象とした。目視陽性基準は,芽球・異常リンパ球についてはCLSI H20-A2を参考に,> 2%かつ ≥ 100/μLとし(芽球陽性検体:21件/592件,異常リンパ球陽性検体:11件/592件),異型リンパ球については本邦での一般的な運用を鑑みて > 1%かつ ≥ 100/μLとした(異型リンパ球陽性検体:13件/719件)。
5) 異常検体における3次元スキャッタグラム,サーフェスプロットの観察WDFスキャッタグラム,WPCスキャッタグラムにおいて異常プロットが確認された2症例(芽球出現例:芽球増加を伴う骨髄異形成症候群,形質細胞様の異型リンパ球出現例:新型コロナウイルス感染症)について,3次元スキャッタグラムを確認し,異常細胞の出現位置とその性状の関係性について考察した。また,異常リンパ球出現例:慢性リンパ性白血病については,サーフェスプロットを確認した。
各測定項目の低値~高値を含む検体の併行精度の結果について,10回連続測定による平均値とCV%の関係をそれぞれ示した(Figure 2)。白血球については,低値域を含めCV 10%以下であった。赤血球系項目についても,低値域を含めいずれの項目もCV 2%以下であった。また,血小板について,前述の3法間の併行精度を比較した結果,PLT-I,PLT-Oと比較して,PLT-Fの精度が最も高く,血小板数100 × 103/μL以下においてもCV 10%以下であった。
CBC項目の併行精度はいずれも良好であった。また,PLT-I,PLT-Oと比較して,PLT-Fの測定精度が最も高く,血小板低値(100 × 103/μL以下)においてもCV 10%以下であった。
各測定項目のXR-1000とXN-9000の相関性について回帰式,相関係数(r)を示した(Table 1)。相関係数(r)は,CBC項目0.889–0.999,DIFF項目0.825–0.996,RET関連項目0.976–0.987であった。また,DIFF項目における目視鏡検値との相関性の結果をTable 2に示した。相関係数(r)は,0.709–0.978であった。
項目名 | 単位 | N数 | 平均値 | 回帰式 | 相関係数 | |
---|---|---|---|---|---|---|
XN-9000 | XR-1000 | |||||
WBC | 103/μL | 294 | 6.427 | 6.444 | y = 0.995x + 0.053 | r = 0.999 |
RBC | 106/μL | 294 | 4.251 | 4.208 | y = 0.986x + 0.016 | r = 0.997 |
HGB | g/dL | 294 | 13.04 | 12.91 | y = 1.001x − 0.152 | r = 0.997 |
HCT | % | 294 | 39.39 | 39.23 | y = 0.997x − 0.051 | r = 0.996 |
MCV | fL | 294 | 93.17 | 93.73 | y = 0.979x + 2.543 | r = 0.991 |
MCH | pg | 294 | 30.85 | 30.83 | y = 0.988x + 0.370 | r = 0.986 |
MCHC | g/dL | 294 | 33.08 | 32.87 | y = 0.879x + 3.808 | r = 0.907 |
PLT | 103/μL | 294 | 231.2 | 239.2 | y = 1.037x − 0.583 | r = 0.992 |
RDW-SD | fL | 293 | 46.82 | 47.37 | y = 0.977x + 1.633 | r = 0.992 |
RDW-CV | % | 293 | 13.78 | 13.89 | y = 1.001x + 0.096 | r = 0.996 |
PDW | fL | 290 | 10.54 | 11.95 | y = 1.019x + 1.213 | r = 0.889 |
MPV | fL | 290 | 9.67 | 10.43 | y = 0.946x + 1.273 | r = 0.909 |
P-LCR | % | 290 | 22.18 | 28.01 | y = 1.006x + 5.688 | r = 0.925 |
PCT | % | 290 | 0.222 | 0.247 | y = 1.081x + 0.008 | r = 0.977 |
NEUT% | % | 243 | 62.35 | 62.37 | y = 0.988x + 0.749 | r = 0.996 |
LYMPH% | % | 243 | 25.39 | 25.39 | y = 0.983x + 0.429 | r = 0.994 |
MONO% | % | 243 | 8.98 | 8.97 | y = 0.978x + 0.193 | r = 0.973 |
EO% | % | 243 | 2.62 | 2.67 | y = 0.960x + 0.153 | r = 0.987 |
BASO% | % | 243 | 0.66 | 0.60 | y = 0.781x + 0.085 | r = 0.825 |
RET% | % | 48 | 1.87 | 1.76 | y = 0.952x − 0.016 | r = 0.987 |
RET-He | pg | 48 | 33.50 | 35.63 | y = 1.070x − 0.208 | r = 0.976 |
MCV:平均赤血球容積,MCH:平均赤血球血色素量,MCHC:平均赤血球血色素濃度,RDW-SD:赤血球分布幅,RDW-CV:赤血球分布幅,PDW:血小板分布幅,MPV:平均血小板容積,P-LCR:大型血小板比率,PCT:血小板クリット値,NEUT%:好中球比率,LYMPH%:リンパ球比率,MONO%:単球比率,EO%:好酸球比率,BASO%:好塩基球比率,RET%:網赤血球比率,RET-He:網赤血球ヘモグロビン等量
項目名 | 単位 | N数 | 平均値 | 回帰式 | 相関係数 | |
---|---|---|---|---|---|---|
目視法 | XR-1000 | |||||
NEUT% | % | 100 | 69.16 | 66.31 | y = 0.966x − 0.478 | r = 0.977 |
LYMPH% | % | 100 | 19.23 | 20.47 | y = 0.927x + 2.927 | r = 0.975 |
MONO% | % | 100 | 8.29 | 9.77 | y = 0.977x + 1.678 | r = 0.957 |
EO% | % | 100 | 2.56 | 2.53 | y = 0.943x + 0.118 | r = 0.978 |
BASO% | % | 100 | 0.75 | 0.65 | y = 0.418x + 0.337 | r = 0.709 |
XR-1000のIG値と技師2名による目視鏡検の平均値との相関性の結果をFigure 3Aに示した。回帰式および相関係数はそれぞれ,IG%:y = 1.274x + 0.325,r = 0.975となり,高値域においてXR-1000のIG値が目視鏡検値に比較してやや高値を示した。次に,DI-60にて撮像した画像を用いて,幼若顆粒球の崩壊像と判断された細胞を加算した値とXR-1000との相関性を評価した結果,回帰式および相関係数はそれぞれ,IG%:y = 1.073x + 0.744,r = 0.975となり,その傾向は改善した(Figure 3B)。
B:XR-1000とDI-60(幼若顆粒球の崩壊像を含む)におけるIG%の相関
目視鏡検法と比較してXR-1000のIG%が高値傾向を示したが,DI-60にて細胞を撮像し,幼若顆粒球の崩壊像も加算した結果,XR-1000のIG%と良好な相関が得られた。
XR-1000および目視鏡検でIG% > 2%かつIG# ≥ 100/μLを陽性とした場合,全体の一致率は84.0%,陽性一致率97.2%,陰性一致率76.6%であった。また,XR-1000および目視鏡検でIG% ≥ 0.5%を陽性とした場合,全体の一致率は93.0%,陽性一致率100.0%,陰性一致率72.0%であった(Table 3)。
陽性基準 | N数 | TP | TN | FP | FN | 一致率(%) | 陽性一致率(%) | 陰性一致率(%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
IG > 2%かつ ≥ 100/μL(CLSI H20-A2) | 100 | 35 | 49 | 15 | 1 | 84.0 | 97.2 | 76.6 |
IG ≥ 0.5%(JAMT勧告法) | 100 | 75 | 18 | 7 | 0 | 93.0 | 100.0 | 72.0 |
* TP: True Positive, TN: True Negative, FP; False Positive, FN; False Negative
PLT ≥ 50 × 103/μLとPLT < 50 × 103/μLの2群に分けてIPFの併行精度を評価した結果,IPFの平均値およびCV%の範囲はそれぞれ,PLT ≥ 50 × 103/μL群で(平均値)0.7–17.3%,(CV%)1.1–8.4%,PLT < 50 × 103/μL群で(平均値)1.1–35.9%,(CV%)2.6–49.0%であった(Figure 4)。
IPFの併行精度は,血小板数50 × 103/μL未満の低値域においても,概ねCV 15%以内と良好であった。
XR-1000とXN-9000のIPFの相関性の結果を示した(Figure 5)。回帰式および相関係数(r)は,y = 1.078x − 0.732,r = 0.981であった。
XR-1000とXN-9000のIPFは良好な相関を認めた。
HUS症例におけるIPFおよび血小板数の経日変化をグラフに示した(Figure 6)。Day 4にIPFの一過性の上昇が見られた後,Day 8には血小板数の増加が認められた。
転院後4日目にIPFの一過性の上昇が見られた後,8日目には血小板数の増加が認められた。
前述の陽性閾値での当該装置による各異常細胞フラグの目視鏡検結果に対する一致率ならびに感度・特異度はそれぞれ,芽球:95.6%,95.2%,95.6%,異常リンパ球:94.3%,54.5%,95.0%,異型リンパ球:92.2%,92.3%,92.2%であった(Table 4)。
異常細胞 | フラグ | N数 | TP | TN | FP | FN | 一致率(%) | 感度(%) | 特異度(%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
芽球 | Blasts? | 592 | 20 | 546 | 25 | 1 | 95.6 | 95.2 | 95.6 |
異常リンパ球 | Abn Lympho? | 592 | 6 | 552 | 29 | 5 | 94.3 | 54.5 | 95.0 |
異型リンパ球 | Atypical Lympho? | 719 | 12 | 651 | 55 | 1 | 92.2 | 92.3 | 92.2 |
3症例の3次元スキャッタグラムまたはサーフェスプロットをFigure 7に示した。
Aは芽球出現例のWPCチャンネルの3次元スキャッタグラム,Bは形質細胞様の異型リンパ球出現例のWDFチャンネルの3次元スキャッタグラムである。それぞれ赤丸で示した部分に異常細胞が出現していると考えられた。Cは異常リンパ球出現例のWDFチャンネルのサーフェスプロットであり,リンパ球集団に高いピークが認められた。
芽球出現例(Figure 7A)では,WPCチャンネルの3次元スキャッタグラムにおいて,前方散乱光強度(FSC)の高値,側方散乱光強度(SSC)かつ側方蛍光強度(SFL)の低値領域に異常細胞集団(赤丸)を認めた。本検体は,目視鏡検において芽球が24%認められた。
形質細胞様の異型リンパ球出現例(Figure 7B)では,WDFチャンネルの3次元スキャッタグラムにおいて,特に側方蛍光強度(SFL)の極めて高い位置にリンパ球が集団(赤丸)を形成していた。本検体は,目視鏡検において異型リンパ球が3%認められた。
異常リンパ球出現例(Figure 7C)では,WDFチャンネルのサーフェスプロットにおいて,リンパ球の集団のピークが高くなっていた。本検体は目視鏡検において異常リンパ球が78%認められた。
XR-1000の併行精度は,PLT-Iでは100 × 103/μL以下の検体においてCV 20%を超える変動係数の検体が認められたことを除き,いずれの項目においても低値検体を含め良好な結果であった。PLT-Iでは,血小板低値の粒度分布図は,粒度分布の形状が乱れやすく,弁別位置が不安定になることが原因であると考えられる。一方,PLT-Fは100 × 103/μL以下の低値領域においてもCV 10%未満であり,他の2法(PLT-I, PLT-O)と比較して測定精度が高いことが確認された。その理由は,PLT-Fは原理上,血小板に特異的な染色を施し,フローサイトメトリー法にてPLT-Iより多くの粒子数を装置内でカウントしているため,高い併行精度が得られたと考えられる7)。
次に,従来製品であるXN-9000との相関性については,CBC項目,赤血球および血小板の解析項目,DIFF項目,RET関連項目すべてにおいて相関係数は非常に良好であった。BASO%については,回帰式の傾きが0.781,相関係数r = 0.825と他の項目と比較してやや低く,既報の結果と同程度であった8),9)。その理由として,本評価にて取得されたBASO%のデータにおいて,低値から高値までの十分な分布を得られなかったことが考えられた。また,DIFF項目の目視鏡検値との相関性についても同様に,BASO%においてのみ回帰式の傾きと相関係数が低値であったが,これに関しても前述の要因と同様であると考えられた。
2. 新規測定項目IG,IPFの性能評価XR-1000のIG値と目視鏡検値との相関において,特に高値域でXR-1000が目視鏡検法に対して高値となる現象は,Wedge標本において標本作製時の物理的外力により,幼若細胞の一部が崩壊しており,それらの細胞を目視鏡検では除外している一方,XRシリーズの測定反応系では細胞の形態が保持されるため,それらの細胞も計数できることが要因であると推測される10)。よって,自動血球分析装置で計数する意義は大きいと考えられる。また,XR-1000と目視鏡検法とのIGの陽性一致率も非常に優れていた。特に,JAMT勧告法であるIG% ≥ 0.5%を陽性基準とした場合の陽性一致率は非常に高く,IGの見逃しの低減にも大きく貢献すると考えられる。
IPFの併行精度は,血小板数50 × 103/μL未満の低値域においても,概ねCV 15%以内と良好であった。なお,CV 49.0%となった1件については,PLT 6.2 × 103/μL,IPF 1.1%と両項目共に極低値の検体であった。また,今回提示したHUS症例では,発症後,血小板数が低値を示していたが,IPFの一過性の増加の数日後に血小板数の増加が見られ,IPFは血小板数回復のマーカーとなり得ることが確認された。本現象は,Takamiらの報告11)とも一致している。幼若な血小板が末梢血に出現していることは,骨髄での血小板造血が盛んに行われている状態を反映している。つまり,IPFを測定し血小板数回復を予測することで,不必要な血小板輸血などの治療を回避できる可能性がある。幼若な血小板を測定する方法として,従来から汎用フローサイトメーターによる網血小板数測定の報告があるが12),測定精度は低く,費用や時間,高度な専門技術を要するうえに,十分な精度管理も確立されておらず施設間差も大きいため,健常者の基準範囲も明確に定義されていない。一方,自動血球分析装置でのIPF測定は簡便・迅速かつ低コストであり,精度管理により正確性も保証されているため,化学療法後や移植後の血小板数のモニタリング等にも有効に活用できると考えられる13)。
IG,IPF共にXRシリーズでは測定項目として報告が可能であり,自動化による精度の高い計数結果は臨床的有用性が高いと考えられる。
3. 異常細胞検知性能XR-1000における異常細胞の検出性能は感度・特異度共に概ね良好であった。
芽球については,感度・特異度共に95%を超える良好な結果が得られた。25件の偽陽性(false positive; FP)が認められたが,うち大半の17件は目視精査の必要な異常細胞が出現している検体であった。その内訳は,閾値未満の芽球の出現5件,異常リンパ球出現2件,異型リンパ球出現8件,有核赤血球出現8件であった(重複あり)。一方,偽陰性(false negative; FN)は1件認められ,スキャッタグラムを確認したところ,芽球エリアに若干の異常プロットは認められたものの,閾値未満でフラグ陽性には至らなかった。しかしながら本検体はIG高値であり,目視再検対象であった。
異常リンパ球については,他の異常フラグと比較して検出感度が低い結果となった。従来より自動分析装置全般において成熟リンパ腫検体の感度は課題である14)。偽陰性の5件について,うち4件においてAtypical Lympho?,Blast?,IG Present等の他の異常フラグが表示されており,目視再検対象であった。1件は形態異常のフラグが立っておらず,今後のフラグ性能向上の課題であると考えられる。また,29件の偽陽性が認められたが,うち約半数の13件は目視精査の必要な異常細胞が出現している検体であった。その内訳は,閾値未満の異常リンパ球の出現1件,芽球出現3件,異型リンパ球出現8件,有核赤血球出現3件であった(重複あり)。
異型リンパ球については,感度・特異度共に90%を超える良好な結果が得られた。偽陽性は55件認められたが,うち大半の39件は目視精査の必要な異常細胞が出現している検体であった。その内訳は,閾値未満の異型リンパ球の出現27件,芽球出現5件,異常リンパ球出現5件,有核赤血球出現7件であった(重複あり)。一方,偽陰性は1件のみであった。
各異常フラグ単独で一致率を評価した場合,それぞれ偽陽性や偽陰性が一定数認められたが,他の異常フラグと合わせて総合的に異常検体を検知することで,スクリーニング装置として高い性能を有していると言える。
さらに,XRシリーズより新たに表示が可能となった3次元スキャッタグラムを用いることで,各細胞集団の出現位置の視認性が向上した。特にWPCチャンネルでは,芽球や異常リンパ球など赤色にプロットされる異常細胞の出現位置が理解しやすくなった。芽球出現例では,前方散乱光強度(FSC)が高く,側方蛍光強度(SFL)の低いエリアに赤色のプロット集団が出現していた。これらは細胞容積が大きく,染色性に乏しいことから,WPCチャンネルの反応原理上,溶血剤に対し抵抗性のある幼若な細胞膜を有する芽球集団であると推察され,目視所見とも一致していた15)。次に,形質細胞様の異型リンパ球出現例では,WDFチャンネルの3次元スキャッタグラムにおいて,側方蛍光強度(SFL)の極めて高い位置にリンパ球のプロットが集団を形成していた。これらは細胞質に核酸を多く含む細胞と推察され,目視鏡検で認められた,細胞質の塩基性が極めて強い形質細胞様の異型リンパ球の所見と一致していた。また,細胞集団の密集度合いを表すサーフェスプロットは,慢性リンパ性白血病などのリンパ性腫瘍において,そのモノクローナリティを確認する方法として有用であると考えられた。異常リンパ球出現例においても,WDFチャンネルのサーフェスプロットのリンパ球集団に高いピークがみられたことから,単一なリンパ球系細胞が多数出現していることが推察される。
異常細胞や腫瘍細胞の種類,および疾患によりスキャッタグラム上でのプロット出現位置や程度は異なるが,一般的に目視での異常細胞比率が高くなるに従い,スキャッタグラム上においても明瞭に異常プロットの集団を確認できる傾向にある。今後は3次元スキャッタグラム上での腫瘍細胞集団の出現位置と腫瘍の種類との関連性の知見を蓄積することが重要な課題であると考えられる。
今回評価したXRシリーズの基礎的性能,IG,IPFの性能,異常細胞検知性能を検討した結果,併行精度や従来装置との相関性,目視鏡検法との一致率などにおいて良好な結果が得られた。XRシリーズでは,IG,IPFが国内において測定項目となり,ますます臨床においての活用が期待できる。
以上の結果より,XRシリーズは日常検査において臨床に有用な情報を迅速に報告可能であることに加え,業務効率化においても有用性が高いと考えられた。
本論文の要旨は第70回日本医学検査学会(2021年5月,福岡市)で発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。