Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of bilateral breast cancer with metastasis of thyroid gland
Mayumi MORISHITAYumiko SASAIKatsumi IKEDAMarina HAYASHIYuri KAMEINaotetsu KANAMOTOYoshinari OGAWATakeshi INOUE
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2024 Volume 73 Issue 1 Pages 180-187

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Abstract

50代の女性。1年前より右乳腺C区域にひきつれとくぼみ,3ヵ月前より左乳腺AC区域に皮膚発赤と疼痛が出現した。乳腺超音波検査で右C区域に大きさ18 × 15 × 14 mmの低エコー腫瘤を認め,浸潤性乳管癌(invasive ductal carcinoma; IDC)硬性型を疑った。左AC区域には大きさ41 × 39 × 31 mmの低エコー腫瘤を認め,IDC充実型および左腋窩リンパ節転移を疑った。超音波ガイド下針生検で右腫瘤はLuminal乳癌,左腫瘤はトリプルネガティブ乳癌と診断された。造影CT検査で肺に転移が認められ,両側乳癌・肺転移の診断で化学療法が開始された。乳癌診断から17ヵ月後に意識障害で搬送され,転移性脳腫瘍の診断で開頭腫瘍摘出術が施行された。また2年後に施行した造影CT検査で甲状腺右葉の低濃度結節に増大を認めた。甲状腺超音波検査で右葉に大きさ19 × 19 × 23 mm,不整形,内部低エコーの混合性結節を認めた。12年前の甲状腺超音波画像と比較すると,今回の結節は甲状腺外方へやや突出するように描出され,穿刺吸引細胞診にて乳癌の転移と診断された。乳癌の終末像では複数の臓器に転移することはあるが,甲状腺に転移することは比較的稀であり報告例が少ないため,文献的考察を加えて報告する。

Translated Abstract

A 50-year-old woman presented with a dimple in C area of the right breast since 1 year ago, also redness and pain in AC area of the left breast since three months ago. Breast ultrasonography detected the hypoechoic mass measuring 18 × 15 × 14 mm and 41 × 39 × 31 mm, respectively. Histopathological examination by US-guided core needle biopsy diagnosed invasive ductal carcinoma (IDC) (luminal A) and IDC (triple negative), respectively. Contrast-enhanced computed tomography (CT) revealed metastasis of the lung. Chemotherapy was started based on the diagnosis of bilateral breast cancer with metastasis of lung. Seventeen months after the diagnosis of breast cancer, the patient was taken to the hospital due to unconsciousness. Then craniotomy lumpectomy was performed for metastasis of the brain. Two years later, contrast-enhanced CT detected an enlarged low density nodule in the right lobe of the thyroid gland. Thyroid ultrasonography detected the internal hypoechoic mixed nodule in the right lobe of the thyroid gland, that was 19 × 19 × 23 mm in size and irregularly shaped. Compared with the thyroid ultrasonographic image of 12 years ago, the present ultrasonography showed the nodule in the right lobe, protruding slightly outward. Histopathological examination by US-guided fine needle aspiration cytology revealed metastasis of breast cancer. Breast cancer can metastasize to multiple organs in the terminal stage, but metastasis to the thyroid gland is relatively rare and has been reported in a few cases. We have reported this case with a review of the literature.

I  はじめに

転移性甲状腺腫瘍は全甲状腺腫瘍の1.4%と稀である1)。原発部位は腎が最も多く,乳癌の甲状腺転移の報告例は少ない。今回,両側乳癌の診断後,肺,脳,甲状腺に転移が認められた症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

II  症例

症例:50代,女性。

主訴:両側乳腺腫瘍の治療。

現病歴:11年前,乳腺超音波検査で両側乳腺C区域に腫瘤を指摘され,右腫瘤に対して施行された針生検は良性であった。近医で経過観察の予定であったが,以後受診しなかった。1年前に右乳腺C区域に皮膚のひきつれとくぼみ,3ヵ月前より左乳腺AC区域に皮膚発赤と疼痛が出現したため近医を受診し,両側乳癌疑いで当院に紹介受診した(Figure 1)。右C区域に皮膚潰瘍を伴う2 cm大の腫瘤,左AC区域に皮膚浮腫を伴う6 cm大の腫瘤と左腋窩リンパ節を触知した。

Figure 1  患者乳房画像

右乳腺C区域に皮膚のひきつれとくぼみ,左乳腺AC区域に皮膚発赤を認める(白矢頭)。

既往歴:子宮筋腫。

家族歴:母親 乳癌・卵巣癌。

月経:閉経後。

血液検査所見:CEA 2.2 ng/mL,CA15-3 13.9 U/mL,FT4 0.9 ng/dL,TSH 7.040 μIU/mLで,TSHが軽度高値以外,異常は認められなかった。

乳腺超音波検査所見:右C区域,11:00方向に,不整形,大きさ18 × 15 × 14 mm,境界不明瞭,内部低エコー・不均質な腫瘤を認めた。前方境界線断裂(+),halo(+),後方エコーは減弱していた。皮膚の肥厚および索引を認め,カテゴリー5の判定で浸潤性乳管癌(invasive ductal carcinoma; IDC)硬性型を疑った(Figure 2A)。左AC区域,12:00方向に,不整形,大きさ41 × 39 × 31 mm,境界明瞭粗ぞう,内部低エコー・不均質な腫瘤を認めた。前方境界線断裂(+),halo(−),後方エコーは不変であった。皮膚の肥厚および一部皮膚への連続性を認め,カテゴリー5の判定でIDC充実型を疑った(Figure 2B)。左腋窩に皮質肥厚あるいはリンパ門が消失したリンパ節を認め,リンパ節転移を疑った(Figure 2C)。両側乳腺腫瘤に対して超音波ガイド下針生検(core needle biopsy; CNB),左腋窩リンパ節に対して穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology; FNAC)が施行された。

Figure 2  乳腺超音波検査画像

A)右C区域に,不整形,境界不明瞭,内部低エコー・不均質,縦横比の大きい腫瘤を認める。前方境界線断裂(+),halo(+),後方エコーは減弱している。皮膚の肥厚および索引を認める。B)左AC区域に,不整形,境界明瞭粗ぞう,内部低エコー・不均質,縦横比の大きい腫瘤を認める。前方境界線断裂(+),halo(−),後方エコーは不変である。皮膚の肥厚および一部皮膚への連続性を認める。C)左腋窩に皮質肥厚したリンパ節を認める。

乳腺病理組織学的所見:右腫瘤はN/C比の増加した異型細胞が腺管状,索状となり増生している所見を認め,IDC硬性型と診断された。免疫組織学的にER陽性,PgR陽性,HER2陰性,Ki-67 4.3%より臨床的サブタイプはluminal Aであった。左腫瘤は腫大した核をもつ異型細胞が索状,胞巣状となり増生し,間質に浸潤している所見を認め,IDC硬性型と診断された。免疫組織学的にER陰性,PgR陰性,HER2陰性より臨床的サブタイプはトリプルネガティブ(triple negative; TN)であった(Figure 3)。左腋窩リンパ節からは核の腫大した異型細胞集塊を認め,乳癌の転移を疑う所見を認めた。

Figure 3  両側乳腺腫瘍の病理組織像

A:右乳腺腫瘍 HE染色(×200) B:左乳腺腫瘍 HE染色(×200)

C:右乳腺腫瘍 ER染色(×200) D:左乳腺腫瘍 ER染色(×400)

A)N/C比の増大した異型細胞が腺管状,索状となって増生している。B)腫大した核をもつ異型細胞が索状,胞巣状となって増生し,間質に浸潤している。C, D)右乳腺腫瘍のERは陽性,左乳腺腫瘍のERは陰性である。

造影CT検査所見:右乳房C区域に濃染腫瘤と左乳房AC区域に腫瘤辺縁に濃染を示す腫瘤を認め,いずれも皮膚浸潤を疑う両側乳癌病変を認めた。左腋窩に転移を疑う腫大リンパ節を認めた。また右肺および左肺下葉に転移を疑う結節を多数認めた(Figure 4)。

Figure 4  造影CT検査画像

A, B)右乳房C区域に濃染腫瘤と左乳房AC区域に腫瘤辺縁に濃染を示す腫瘤を認め(白矢印),いずれも皮膚浸潤を疑う両側乳癌病変を認める。C)左腋窩には転移を疑う腫大リンパ節を認める(橙矢印)。D, E)肺には転移を疑う多発結節を認める(黄矢印)。

治療経過:両側乳癌,stage IVの診断で薬物療法が開始された。パクリタキセルとベバシズマブを開始し,4コース目からパクリタキセルは20%減量とした。4コース終了後,進行と判断され,AC(ドキソルビシン/シクロフォスファミド)療法を20%減量で6コース行った。AC終了後にBRCA陰性であることが判明した。AC終了から3か月後に意識障害で搬送され,頭部CT検査で左前頭頭頂葉に約4 cmの転移を疑うリング状腫瘍を認め,内部に出血と周囲の浮腫,脳室の右方への圧排を認めた。脳神経外科で転移性脳腫瘍と診断され開頭腫瘍摘出術が施行された。病理組織検査でGATA3弱陽性,ER陰性で既往の乳癌転移で矛盾しない像を呈していた(Figure 5)。術後テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム内服に変更し経過良好であった。効果判定の造影CT検査で両側乳房腫瘤はわずかに縮小を認めたが,右肺の腫瘤は増大を認めた。また3ヵ月前の造影CT画像と比較して甲状腺右葉の低濃度結節に増大を認めた(Figure 6A, B)。

Figure 5  大脳腫瘍の病理組織像

A:HE染色(×200) B:GATA3染色(×200) C:ER染色(×200)

A)腫大した核をもつN/C比の増大した異型細胞が充実性に増生している。B)GATA3は弱陽性である。C)ERは陰性である。

Figure 6  造影CT検査画像および甲状腺超音波検査画像

A:造影CT検査画像 B:3ヵ月前の造影CT検査画像

C, D, E:今回の甲状腺超音波検査画像 F, G, H:12年前の甲状腺超音波検査画像

造影CT検査で甲状腺右葉に3ヵ月前より増大する低濃度結節を認める(黄矢印)。甲状腺超音波検査では,エコーレベルのやや低下した不均質な実質を背景に,右葉に不整形,境界不明瞭,内部低エコー・不均質な混合性結節を認める(白矢印)。ドプラ法で結節辺縁および内部に血流を認める。12年前の甲状腺超音波検査ではびまん性甲状腺腫大は認めないが両葉に低エコー域を認める。以前より一部結節様変化を認めるが,右葉の結節は12年前の画像と比較して甲状腺外方へやや突出しているように認める(赤矢頭)。

甲状腺超音波検査所見:表面は不整,実質エコーレベルは低下し,不均質・一部高エコー結節状であった。右葉には大きさ19 × 19 × 23 mm,不整形,境界不明瞭,内部低エコー・不均質な混合性結節を認めた(Figure 6C, D)。カラードプラ法で結節辺縁および内部に豊富な血流シグナルを認めた(Figure 6E)。12年前の甲状腺超音波検査では,びまん性腫大はなく,実質エコーレベルは正常,不均質,両葉に低エコー域と一部結節様変化を認め,左葉に対するFNACで慢性甲状腺炎と診断された(Figure 6F–H)。このときの甲状腺超音波画像と比較すると,今回の結節は甲状腺外方へやや突出するように描出された。造影CT検査で指摘の結節と一致していると判断し,右葉結節に対してFNACが施行された。

甲状腺細胞学的所見:核小体は明瞭,核は腫大し,核クロマチンが増量した異型細胞の集塊を認めた。免疫組織学的にGATA3弱陽性,ER陰性で脳転移をきたしたものと同じ免疫形質を示していた(Figure 7)。

Figure 7  甲状腺穿刺吸引細胞像

A:パパニコロウ染色(×600) B:GATA3染色(×600) C:ER染色(×600)

A)核小体は明瞭,核は腫大し,核クロマチン増量した異型細胞の集塊を認める。B)GATA3は弱陽性である。C)ERは陰性である。

病状経過:髄膜播種も認められ,次第に生活の質(quality of life; QOL)も低下しbest supportive care(最善の支持療法)となった。乳癌診断から2年2ヵ月で永眠した。

III  考察

転移性甲状腺腫瘍の頻度は全甲状腺腫瘍の1.4%との報告があり1),原発部位は腎が最も多く,ついで肺,乳房,食道,子宮となっている2)。本症例は,脳および甲状腺の腫瘍がGATA3弱陽性かつER陰性であることより左乳癌からの転移と診断された。乳癌の甲状腺転移症例では,硬癌が最も多かったという報告がある3)。しかし,本症例に関しては針生検の組織診断のみであったため最終の組織診断ができておらず不明である。また乳癌の臨床的サブタイプ別には,HER2陽性患者では脳転移の頻度が高く,転移性脳腫瘍を発症した後の生存中央値においてHER2陽性群はTN群と比較して有意に長かったとの報告があるが4),転移性甲状腺腫瘍では不明である。

転移性甲状腺腫瘍が少ない原因は,甲状腺内の高いヨード濃度と酸素分圧が腫瘍細胞の進展を妨げること,甲状腺内の豊富な動脈血供給が腫瘍細胞の生着を妨げること,転移性甲状腺腫瘍による症状が明らかになる前に原発巣や他病変が進行して全身状態が悪化することなどが挙げられる5)。一方で,甲状腺腫,甲状腺炎では,酸素およびヨウ素含有量の減少に伴う代謝変化によって転移性増殖に対してより脆弱になるとされている6)。腫瘍や腺腫様結節で変性が起こると血液供給が途絶えて転移性腫瘍が容易に沈着すると考えられ,腎癌の転移性甲状腺腫瘍では約半数の症例で甲状腺に異常を認めたとの報告がある7)

転移性甲状腺腫瘍の超音波画像では結節を形成するタイプとびまん性のタイプが報告されており2),3),8),9),多彩で特徴的な所見に欠くと言える。乳癌の転移としては,いずれのタイプも報告されているが10),腎癌の転移では結節を形成するタイプの報告が散見され7),不整な低エコー結節を示し,原発性の甲状腺悪性腫瘍の特徴に類似していると言える。また末梢血流が観察され,高い血液供給量を示したとの報告もあるが11),非特異的な所見であることが分かっている。一方,びまん性のタイプは比較的稀であり,その原発部位は様々で,肺,乳房,大腸,胃,胆管,陰茎などであったと報告されている12)。びまん性のタイプの超音波所見は,網状に低エコー線条を伴うびまん性甲状腺腫大であると報告されており12),本症例は結節を形成するタイプと考えたが,甲状腺全体の病理診断が行われておらず,びまん性のタイプであった可能性は否定できない。またRosenら13)は一般的にFNACで悪性と診断できる転移性甲状腺腫瘍の診断的中率は50%と報告している。本症例では造影CT検査で増大結節を指摘されたことに加えて,比較するエコー画像があったことで病変を的確に穿刺できたため診断が可能であったと考える。また,本症例は12年前に甲状腺左葉に対するFNACで慢性甲状腺炎と診断されており,慢性甲状腺炎を背景に転移が生じた可能性が示唆された。

乳癌の甲状腺転移例は比較的稀であり,発見契機として頸部腫脹や嚥下障害,嗄声などの症状や頸部リンパ節転移が報告されているが,無症状であることも多く,血液検査で異常所見を認めないことも多い14)。また悪性腫瘍の既往歴のある患者における剖検例での甲状腺転移の発見率は1.25–24%で15),16),そもそも末期的な事象であるとも考えられているが,一部に積極的治療が有効な例もあるとされる。本症例では明らかな症状はみられず,造影CT検査で偶然に甲状腺への転移が疑われた。甲状腺の病変によるQOL低下の懸念はなく,病状進行のため積極的な治療はされなかった。転移性甲状腺腫瘍の切除は予後の改善にはつながらないとの報告がある一方17),QOLが損なわれる可能性があれば,原発巣にかかわらず外科的治療がQOL向上に寄与すると考えられており18),総合的な判断を必要とする。腎癌の甲状腺転移は術後平均約7.8年と比較的長期間後の再発が多く19),乳癌の甲状腺転移は原発巣治療開始から平均6年程度と大差ないものの3),進行が早く全身の転移に対する治療が問題となる。しかし,甲状腺転移による病状は急速に進行することもあり,局所コントロール目的で手術を施行したとの報告もある3)。他臓器への転移を認め,甲状腺疾患の既往のある場合には甲状腺転移も念頭に置くことが早期診断につながり,QOLを低下させない観点で重要であると思われる。

IV  結語

乳癌の終末像では複数の臓器に転移することはあるが,甲状腺に転移することは比較的稀であり報告例が少ないため報告した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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