Japanese Journal of Medical Technology
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Accelerating and visualizing the results of outsourced testing via the Solution/K system
Yoshihiko UENOHidekazu ISHIDAAki OKAMariko ISHIDAJun YONETAMARIIchiro KATOTakuya FUJIWARARyosuke KIKUCHI
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2024 Volume 73 Issue 2 Pages 366-372

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Abstract

検体検査項目は多岐にわたりすべての項目を院内で対応することは不可能である。外部委託臨床検査会社による検査(外注検査)は,医療施設が任意に外部委託臨床検査会社と契約し,院外へ検体検査をはじめ臨床検査を外部委託する検査である。多岐にわたる臨床検査項目に対応できるメリットがある一方,検査結果報告までの日数や進捗確認方法にデメリットがある。2020年に株式会社エスアールエルは検査結果の自動取得,至急FAX報告のオンライン化および検査仕上がり日の見える化を目的としたSolution/Kシステムを構築した。しかし,医療機関はそれぞれの医療情報システム管理のポリシーがあり,ネットワーク回線の敷設に対応する必要がある上,煩雑化するネットワーク回線管理やセキュリティーの確保が課題となっていた。当院ではSolution/Kシステム導入による診療科支援サービス向上に向けて,医療情報部とネットワーク回線管理とセキュリティーの確保について度重なる協議を行い,2023年10月より院内でのSolution/Kシステムを介した外部委託検査結果の迅速化および見える化を開始した。そこで今回,Solution/Kシステムを院内導入する過程について紹介する。

Translated Abstract

In medical facilities, it is challenging to handle all types of specimen tests in-house due to their extensive range. Outsourced clinical testing through external service providers allows medical institutions to contract with these companies for various clinical tests. While this approach offers a broad range of test capabilities, drawbacks exist in the time required for reporting results and methods for tracking progress. In 2020, SRL Inc. developed the Solution K system aimed at automating test result retrieval, digitizing urgent fax reports, and enhancing visibility of test completion dates. However, each medical institution has its own policy for managing medical information systems. Challenges also arise in the establishment of network infrastructure, coupled with the increasing complexity of network management and security measures. To improve our clinical department’s support services, our hospital engaged in repeated discussions with the medical information department to secure network management and security. As of September 2023, we have commenced the rapid and transparent reporting of outsourced clinical test results via the in-house implementation of the Solution K system. This paper aims to detail the process of integrating the Solution K system within our facility.

I  はじめに

臨床検査は現代医療に必要不可欠なツールであり,臨床判断における客観的データの大部分を占める。しかしながら,臨床検査の項目は多岐にわたるため,すべての項目を院内で実施することは不可能である1),2)。そのため,院内検査項目以外は外部委託臨床検査会社による検査(外注検査)として実施している。外注検査は一般的に医療施設が任意に外部委託臨床検査会社と契約し,院外へ検体検査をはじめとする臨床検査を外部委託することを意味する。多くの医療機関と同様に当院でも院内検査で対応しきれない項目を外部委託しており,現在2社と契約を結んでいる。依頼数の多い検査項目や診療前検査としての有用性が高い検査項目は院内検査として実施しているが,それ以外の依頼数の少ない検査項目は外注検査としている。外注検査の主なメリットは多種多様な臨床検査項目に対応可能であることに加え,ランニングコストが見合わない検査項目を外注化することで無駄な経費が抑えられることである1),2)。一方デメリットとして,結果報告までに日数を要することや患者情報を含むデータを外部と何らかの手段でやり取りする必要があるため,情報漏洩のリスクが伴うことが挙げられる3)。当院ではこれまで外付け記憶装置(USB-SSD)による検査依頼及び結果授受を行っていた。しかし,医療情報に対するセキュリティポリシーは年々厳格化しており,当検査部におけるUSB外部記憶装置の使用は例外的に認可された暫定処置であった。そのため,外部委託臨床検査会社とのUSB-SSDを介した情報授受に代わる新たな通信技術による運用を模索していた。

Solution/Kは外部委託臨床検査会社である株式会社エスアールエル(SRL)が開発した臨床検査情報を授受するためのシステムであり,SRL社のラボを1つの分析装置に見立てた連携を目指した構想の下に開発された。院内の臨床検査情報システム(laboratory information system; LIS)とSRL社のシステムをオンライン化することで,結果報告の迅速化や検査進捗状況を「見える化」することができる。本システムは,SRL社ラボのシステムと院内SRL専用端末をインターネット仮想プライベートネットワーク(virtual private network; VPN)を介した通信で構築されるが,院内SRL専用端末とLISとの情報授受にはオンライン化する必要がある。そのため,院内のセキュリティポリシーやLISの仕様によっては適用できない可能性がある。当院でもSolution/K導入に向け,セキュリティー面での課題を解決する方法について医療情報部を交えた検討を行った。その中で,NTTテクノクロス株式会社が提供するデータブリッジを用いたネットワーク構築案が提案され,安全性に関する協議と精査を重ね,導入を決定した。本稿ではデータブリッジを介したSolution/Kシステムの概要とその利便性について紹介する。

II  導入したシステムの概要

1. Solution/Kシステム

Solution/KはSRL社が提供するオンラインサービスであり,SRLラボと院内SRL端末はインターネットVPNを介し,院内SRL専用端末とLIS端末は共有フォルダ連携によるネットワーク接続により構築される。検査結果報告の自動取得,画像ファイル(PDF,JPEG等)による至急FAX報告,結果仕上がり日の見える化が主な機能である。現在は検体検査が主な対象となっている。

2. データブリッジ

データブリッジはNTTテクノクロス株式会社が提供するデータ通信用セキュリティー機器であり,データブリッジを介したUSBケーブルで端末間を接続することで,ネットワーク分離環境により高いセキュリティー性能を保ちながらオンラインでデータの受け渡しが可能なシステムである。データブリッジ内部は自動消去機能や一方向通信,受け渡しログの記録,拡張子制限による流通ファイル制御などの機能を有しており,ネットワーク分離環境下で安全(セキュア)なデータ授受を可能とする。

3. データブリッジを介したネットワーク回線によるSolution/Kシステム

通常のSolution/KシステムはLISと院内SRL専用端末を共有フォルダの連携からネットワーク接続を行う必要があるが,当院ではデータブリッジを介した共有フォルダ連携方式の接続に置換した(Figure 1)。データブリッジによる共有フォルダ連携方式はOSI参照モデルで表現されるプロトコル層中のアプリケーション層のみを使用した情報交換を行っており,下位層の汎用プロトコルを用いた不正侵入を阻止できる。そのため,物理的に接続されていても論理的には切断されたネットワークとして構築でき,情報セキュリティー上の安全性が高い仕組みとなっている。本システムの導入は,SRLラボ端末と院内SRL端末間のインターネットVPN接続用回線の引き込み工事と通信関連機器の設置を行い,その後院内SRL専用端末とLIS端末間でデータブリッジを用いた検査結果および画像報告書の受信テストを数回にわたり実施した。試用期間を1週間程度設け運用に問題ないことを確認後,本稼働に至った。

Figure 1  Configuration of system linkage using the Data-Bridge system

外注検査結果報告及び検査結果仕上がり日の可視化のために外部システムとの連携はデータブリッジを活用し,外部ネットワーク分離環境を構築している。

III  導入による効果

1. 検査結果の取得方法について

これまで当院では,担当者が一日一回結果取り込み作業を行っていた。SRL社外注分は院内SRL専用端末にて専用サイトにログイン,USB-SSDに検査結果のダウンロードを行う。その後,ダウンロードファイルのウイルスチェックを別端末で行い,LIS端末へUSB-SSDを接続し,結果を取り込む一連の作業を人手により行っていた。Solution/Kシステム導入後は,LISが設定した時間(30分毎)に共有フォルダを確認し,自動的に結果が取り込まれる仕組みとなった。そのため,検査報告の迅速化に加え,オペレーションミス防止,作業効率化が可能となった(Figure 2)。

Figure 2  Comparison of test result importing methods before and after adoption of the Data-Bridge and Solution/K system

従来人手によるデータ連携を行っていたが,データブリッジによる共有フォルダ連携を導入し,検査結果取り込みの自動化を実現した。

2. 至急FAX報告のオンライン化について

従来はSRL社システムにて至急FAX対象に登録した依頼のみ,各診療科のFAX受信機にデータ送信され紙媒体で報告する運用であった。Solution/Kシステム導入後は従来の至急FAX報告に併せ,画像ファイルとしてもLISを介して電子カルテに取り込まれるため,至急FAXの紙報告書が手元に無くとも,電子カルテから画像結果の閲覧が可能となった。特にフローサイトメトリー法による白血病・リンパ腫解析検査の画像報告はこれまでのFAXの低画質白黒報告書からカラー画像による鮮明な仮報告書がいち早く手元に届くようになった(Figure 3)。

Figure 3  Solution/K system for emergency fax reporting flow

Solution/Kシステムにより至急FAXとほぼ同時に高画質な報告書を自動取り込みすることが可能となった。

3. 検査仕上がり日の見える化について

これまで検査結果報告予定日の問い合わせが依頼医よりあった場合,SRL営業所へ電話連絡し報告予定日を確認後,再度依頼医へ折り返し報告予定日を伝えていた。Solution/Kシステム導入によりLISのコメント欄に項目ごとの検査仕上がり日が取り込まれるため,LISから直接確認し依頼医へそのまま報告予定日を伝えることが可能となった(Figure 4)。

Figure 4  Comparison of the query and response process on the date of the test result report

従来検査結果報告予定日の問い合わせのために臨床医に折り返し回答を行っていたが,Solution/K導入により即座に回答を行うことが可能となった。

4. 導入による外注検査業務の改善効果について

当院では従来結果取り込みを基本的に平日の一日一回に限定しており,休日は行っていなかった。Solution/K導入後は30分に1回の自動取り込みが行われるため,検査結果報告の迅速化が可能となった。また,休日については翌営業日に一括して報告していたため,休日を含む検査結果報告の迅速化において数日単位の大きな変化があった(Table 1)。Solution/K導入前後の任意の1週間の検体到着から結果報告までの日数を比較した。その結果,導入前(中央値;25–75%値:3.1;2.1–4.6日)に比較し導入後(1.9;1.8–3.7日)において中央値にて1.2日の有意な短縮を認めた(Wilcoxon検定:p < 0.001)(Figure 5)。

Table 1 Reduction of test result reporting time with the introduction of the Data-Bridge and Solution/K System at our hospital

依頼日
(至急FAX報告を除く)
Solution/K導入後
検査結果報告短縮時間(概算)
休日前日を除く平日 数時間~24時間
休日前平日 24~72時間
休日 24~48時間
Figure 5  Comparison of reporting days for main outsourced request items in serum before and after the implementation of the Solution/K system

Solution/Kシステム導入前後のそれぞれ任意の1週間における検体到着から検査結果報告までの日数を比較したところ,中央値で1.2日の短縮を認めた。

IV  考察

USB-SSDによる外注検査の結果取り込み方法に代わる,新たなデータ連携方法として当院に導入したデータブリッジを活用したSolution/Kシステムの概要と導入効果について概説した。本システム導入により業務効率改善だけでなく,検査結果報告の迅速化が高いセキュリティーレベルで可能となった。

情報通信技術(information and communication technology; ICT)の発展は日常生活利便性向上だけでなく,医療業界においても業務効率化などの面で多大なメリットをもたらしている。その一方,企業が保有する知的財産や顧客情報を狙ったサイバー攻撃が深刻化しており,情報通信研究機構の報告では,サイバー攻撃関連通信数は2018年では約2,169億パケットであったのに対し2021年では約5,180億パケットと,3年間で2.4倍に増加していることが報告されている4)。病院をはじめとする医療機関も例外ではなく,HISサーバーダウンなどのシステム障害に陥れば長期の診療サービス停止を余儀なくされる危険性がある。近年ではネットワーク接続を前提とするクラウド型の電子カルテも普及し始めているが,大規模病院では自施設内で運用・管理を行うオンプレミス型が主流である。オンプレミス型のHISは外部ネットワークとの接続をしないことが基本となるが,サイバー攻撃の危険性は外部ネットワーク以外にも存在する。特にUSBフラッシュドライブ(USBメモリ)は悪意のあるソフトウェア(マルウェア)感染リスクが高く,2011年のサイバーセキュリティー会社の報告では,オーストラリアの鉄道で遺失物としてオークションに出品されたUSBメモリ50個のうち33個(66%)からマルウェアが検出されたことが明らかにされており5),マルウェアの蔓延は深刻化していることが推察される。

このような社会的背景も考慮し,医療施設におけるセキュリティポリシーも厳格化している。当院では管理されていない外部記憶装置の使用禁止だけでなく,基本的に外部記憶装置の使用自体を禁止している。しかしながら,外注検査では委託会社との検査依頼や検査結果情報の授受が必要となるため,外部ネットワークに接続するか,ネットワーク分断環境であればUSBメモリやUSB-SSDなどの外部記憶装置の使用を避けられない。そのため,従来の通信技術に代替される新しいデータ授受手段が必要とされていた。そこで当院ではネットワーク分離環境下でデータ受け渡しを可能とするデータブリッジ6)を活用したSolution/Kシステムを導入した。データブリッジは臨床検査分野での採用事例がないが,官公庁や金融機関での機密情報の授受として既に実績があり,USBメモリに代わる新たな方法として注目されている。データブリッジの機能として,データの一方向性,自動消去,ログの記録,流通ファイル制御,利用者制御などを有している。Solution/Kシステム導入にあたり,データブリッジという新しい通信技術を用いることで,ネットワーク環境から分離され,高いセキュリティー性を有したオンライン接続を実現できた。また,データブリッジによる共有フォルダ連携によりLISが定期的に結果を取得できるため,従来は手動で行っていた外注検査結果取り込みが自動化され業務負担が大きく低減された。さらに,結果取り込み作業の自動化は手動時に発生していたUSBドライブの選択間違いや保存場所間違いに起因するオペレーションミスの解消にも繋がった。外注検査の定期的な自動取り込みにより,至急FAX報告もFAX送信とほぼ同時に受信しHISへの反映が可能なため,結果報告の迅速化だけでなくFAXの受信場所に縛られずに検査結果確認が可能となった。また,一般的にFAXによる報告書は低画質であることが多く,文字潰れや不鮮明な白黒画像であった報告書が高画質なカラー画像の報告書で確認可能となった。特に,フローサイトメトリー法のような細かなプロットの確認が必要となる検査には有用性が高いことが考えられる。検査結果報告の自動化だけでなく,検査仕上がり日の見える化により個々の検査結果報告予定日がLISで確認可能となった。そのため,外注検査の報告予定日の問い合わせに対し,外部委託臨床検査会社への電話問い合わせを行う手間が省略され迅速な回答が可能となった。当院で導入したデータブリッジを活用したSolution/Kシステムにより,セキュアな環境で外注検査結果の定期的な自動取り込みが可能となり,外注検査に関わる業務負担の軽減に加え,検査結果報告の迅速化が可能となった。なお,本システムは外部委託業者ならびにLIS業者,医療情報部の協力があれば構築可能なシステムである。

今回,第一段階として検査結果報告の自動化と見える化を行った。現在,データブリッジを介した検査依頼の自動化及び微生物検査,病理検査については検討中である。今後,外注検査においてこのような仕組みが普及することで,自動分析装置の取り扱いと同様に,検査依頼を自動で識別し,検査結果出力目安の確認ができ,即座に検査結果が反映されるというシームレスな運用が可能となることが期待される。

V  結語

データブリッジを用いたSolution/Kシステムの導入により,セキュアな環境下で定期的な検査結果の取り込み,検査結果仕上がり日の見える化が可能となり,外注検査結果報告の迅速化と外注検査業務の効率化を実現した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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