Japanese Journal of Medical Technology
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Case Report
Common background features of fibrin casts positive patients without persistent proteinuria of 2+ or higher
Tokuya OGUROMeia NOGAMITakeshi KAWANO
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2024 Volume 73 Issue 3 Pages 595-602

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Abstract

フィブリン円柱は高度蛋白尿に伴う腎局所の凝固亢進状態を示唆する可能性が高いと言われるが,高度蛋白尿を伴わない患者尿中にも認めることがある。今回我々は尿蛋白定性(2+)以上を持続的に認めない6症例をもとに共通背景を探るべく検討を行った。検討の結果,全ての症例において血栓形成傾向が背景にあることが分かった。その内訳としては糸球体性出血,疾患,医薬品の副作用の3パターンであった。背景に血栓形成傾向がある患者尿沈渣検査においてフィブリン円柱を検出することで,疾患等の推定に応用できる可能性が示唆された。同時に血栓形成素因となる蛋白成分の尿中への漏出とフィブリン円柱出現が関連する可能性も示唆された。

Translated Abstract

Fibrin casts, which are highly suggestive of local renal hypercoagulability associated with high proteinuria, can also be observed in the absence of high proteinuria. In this study, the shared background characteristics of six patients without persistent proteinuria of 2+ or higher were investigated. All six patients showed a tendency of thrombogenesis and exhibited one of three patterns: glomerular hemorrhage, disease, and adverse drug reactions. The results suggested that the detection of fibrin casts in urine sediments of patients having a tendency of thrombogenesis might aid in the prediction of diseases and other conditions. Furthermore, the appearance of fibrin casts in urine might be associated with the leakage of protein components that predispose the urine to thrombosis.

 はじめに

フィブリン円柱は高度蛋白尿に伴う腎局所の凝固亢進状態を示唆する可能性が高い1)と言われている。しかしながら実際には,高度な蛋白尿を伴わない患者や糖尿病以外の患者尿中にもフィブリン円柱を認めることがある。今回我々は,持続的な尿蛋白定性(2+)以上を認めない6症例から,実症例ベースでの共通背景を探るべく検討を行ったので,文献的考察を加えて報告する。

I  方法

フィブリン円柱(+)前後の検査も含めて持続的に尿蛋白2+(100 mg/dL)以上を認めない患者尿中に,1/whole field(WF)でもフィブリン円柱を認め,かつ過去の時系列で1度もフィブリン円柱(1+)以上を認めない患者を症例検討の対象とした。判定は尿沈渣検査法2010(JCCLS GP1-P4)に準拠し,円柱の全体的にフィブリン線維がつまった形状のものを陽性とした。尿蛋白の評価としては,CKD診療ガイドライン2018に準拠し,尿定性検査にてP/C比0.15 g/g·Cre未満を正常,0.15~0.49 g/g·Creを軽度,0.5 g/g·Cre以上を高度とした。

II  症例

症例1:20代,男性。

既往歴:慢性副鼻腔炎。

現病歴:発熱と血尿を認め近医受診,抗菌薬処方されるも改善なく泌尿器科受診。蛋白尿と糸球体性血尿を認めたが泌尿器科疾患否定的で腎臓内科を受診。その後糸球体性血尿のみが続いたが,血清IgA/C3比高値と感染契機の肉眼的血尿にて精査目的で腎生検を施行された。生検後血腫ができた際の尿検査結果をTable 1に,赤血球円柱かつフィブリン円柱をFigure 1に示す。腎生検の結果はIgA腎症であった。

Table 1 フィブリン円柱陽性時の尿検査結果一覧表

症例No. 1 2 3 4 5 6
尿定性 比重 1.021 1.021 1.016 1.015 1.011 1.007
PH 5.5 6.5 6.0 6.0 5.0 6.5
蛋白(mg/dL) 30(1+) 100(2+) 30(1+) 30(1+) 30(1+) (−)
潜血 (3+) (2+) (1+) (−) (±) (2+)
白血球 (2+) (−) (±) (±) (−) (−)
亜硝酸 (−) (−) (−) (−) (−) (−)
(−) (−) (−) (−) (−) 500(3+)
ケトン体 (±) (4+) (−) (±) (−) (−)
A/C比(mg/g·Cre) Normal ≥ 300 ≥ 300 150 ≥ 300 ≥ 300
P/C比(mg/g·Cre) Normal ≥ 1,500 500 300 500 500
尿沈渣(目視) 赤血球(/HPF) 30–49 20–29 10–19 1↓ 1–4 20–29
赤血球形態 糸球体型 糸球体型 糸球体型 非糸球体型
白血球(/HPF) 50–99 10–19 5–9 1↓ 1–4 1–4
扁平上皮(/HPF) 1–4 1–4 1–4
尿路上皮(/HPF)
尿細管上皮(/HPF) 1–4 1–4 1–4 20–29 1–4 1–4
硝子円柱 (1+) (1+) (2+) (4+) (2+) (4+)
上皮円柱 (1+) (1+) (1+) (1+) (1+) (1+)
顆粒円柱 (1+) (1+) (1+) (2+) (2+) (1+)
ロウ様円柱 (1+) (1+) (1+)
脂肪円柱 (1+)
赤血球円柱 (1+) (1+) (1+)
白血球円柱 (1+)
結晶円柱 (1+)
フィブリン円柱 (1+) (1+) (1+) (1+) (1+) (1+)
糸球体型赤血球分類 中等度 大部分 中等度
Figure 1  赤血球円柱かつフィブリン円柱

Sternheimer染色,×400

症例2:幼児,女性。

既往歴:特になし。

現病歴:発熱,咳,鼻水の主訴にて近医受診し処方後も38~39度台の発熱を継続,会話も出来ない程であったため当院へ救急搬送された。その後の検査で,WBC 6,800/μL,CRP 4.51 mg/dL,RSV(+),脱水も認めRSV気管支炎の診断にて入院加療となった際の尿検査結果をTable 1に示す。その後症状の軽快に伴い,尿蛋白は(2+)→(±)→(−),尿潜血は(2+)→(−)→(±),尿ケトン体は(4+)→(3+)→(−)と変化した。

症例3:80代,女性。

既往歴:高血圧症,陳旧性脳梗塞。

現病歴:神経内科受診時に検尿異常を認め,泌尿器科紹介受診後の尿検査でも腎炎を疑う所見を認めCre 1.15 mg/dL,eGFR 35 mL/min/1.73 m2と腎機能低下を認めた際の尿沈渣結果をTable 1に,赤血球円柱かつフィブリン円柱をFigure 2に示す。以前の検尿は正常で推移しており,薬剤性の障害等も考慮し腎臓内科へ紹介後,血液検査にて抗好中球細胞質MPO抗体(P-ANCA)2,840.0 IU/mL,クリオグロブリン(+)→(−)の結果となり,ANCA関連血管炎疑いの精査目的で腎生検施行。半月体形成性腎炎の診断。

Figure 2  赤血球円柱かつフィブリン円柱

Sternheimer染色,×400

症例4:70代,女性。

既往歴:下肢閉塞性動脈硬化症,高血圧症,高脂血症,SLE,シェーグレン症候群,慢性腎臓病。

現病歴:胸部レントゲンで異常を指摘され精査をした結果,肺癌と多発肝転移が判明。同年8月2日より4剤併用の免疫化学療法を開始。eGFRは40~60 mL/min/1.73 m2台,上皮円柱や顆粒円柱の(+)が2回あったに留まり尿検査は概ね正常で推移していた中で,9月6日の尿検査結果をTable 1に,フィブリン円柱をFigure 3に示す。同日CTで病変縮小を確認するも,化学療法の有害事象が強く出たため13日の免疫化学療法中止。体力回復を待って免疫療法だけ継続の方針となった。

Figure 3  フィブリン円柱

Sternheimer染色,×400

症例5:70代,男性。

既往歴:高血圧症,糖尿病,永続性心房細動,血栓塞栓症,下肢閉塞性動脈硬化症,CKDステージ5

現病歴:腎硬化症にてeGFR 30 mL/min/1.73 m2台で推移していたが急激な腎機能低下を認め,Acute on CKDの疑いにて依頼された腎炎マーカー(抗核抗体,P-ANCA,細胞質性抗好中球細胞質抗体,抗糸球体基底膜抗体,IgG,IgA,IgM,血清補体価,クリオグロブリン,ASO)はIgE 351 IU/mL以外全て陰性だった。血管内治療歴はないが,Blue toeや好酸球上昇(尿中好酸球18%)を認めていることからコレステロール結晶塞栓症(cholesterol crystal embolization; CCE)や,直近より新規薬剤が開始されており間質性腎炎なども鑑別に挙げられた。被疑薬として考えられる薬を全て中止するも,eGFRは一桁まで低下しメチルプレドニゾロン(methyl prednisolone; mPSL)ハーフパルスを施行。左足趾より皮膚生検を行った際の尿検査結果をTable 1に,白血球円柱かつフィブリン円柱をFigure 4に示す。生検の結果コレステロール塞栓を検出,また被疑薬に対する薬剤リンパ球刺激試験も陰性であり急激な腎機能低下はCCEの可能性が高いと考えられた。その後腎機能は戻ることなく透析導入となった。

Figure 4  白血球円柱かつフィブリン円柱

Sternheimer染色,×200

症例6:80代,男性。

既往歴:うっ血性心不全,陳旧性心筋梗塞,低脂血症,CKDステージG3b,2型糖尿病(合併症なし),高血圧症,慢性心不全。

現病歴:就寝中の呼吸困難から救急搬送。レントゲンにて右胸水増加と心電図にて非持続性心室頻拍を認めた。加療中の8病日目に呼吸苦と日中尿量170 mLの利尿減少に対して胸部レントゲン施行,両肺うっ血による胸水貯留を認めMICUへ転棟した際の尿検査結果をTable 1に示す。翌日には利尿4,810 mL/dayと回復し一般病棟へ転棟した。

III  考察

糸球体基底膜の障害による高度な血尿を呈することによって血液中の線維素が流出し,フィブリン円柱が生成される可能性が示唆されている2)。症例1ではフィブリン円柱とは別にフィブリン塊(約80 μm × 90 μm)を認めFigure 5に示す。円柱状でない点,60 μmを超えかなり大型であるが,本患者は末期腎不全でも重篤な腎障害もなく全ての時系列で幅広円柱を認めていない点から,尿細管腔内で形成されたとは考えづらい。腎生検後にのみ認めており,血腫が形成された際の血栓がフィブリン塊として生検時の断裂糸球体から漏れ出たものと考えられる。尿蛋白は基本正常,あっても軽度であった。

Figure 5  フィブリン塊

Sternheimer染色,×400

症例2は幼児で既往歴は特になく疾患の関与は除外的で,持続する高熱と高度脱水による一過性の糸球体性血尿が見られ,その際のみフィブリン円柱を認めている。尿蛋白はフィブリン円柱陽性の4月18日が高度→4月20日も高度→4月23日が軽度と推移している。

症例3のeGFRは3年前の47 mL/min/1.73 m2をピークに,1年前で43 mL/min/1.73 m2,検尿異常の時で42~35 mL/min/1.73 m2,その後約2か月で33 mL/min/1.73 m2と漸減,尿蛋白は正常→軽度→高度と漸増している。血液検査で1回陽性となったクリオグロブリンには3つの型が存在し3),そのうちI型では血液粘度亢進による血栓形成を主体とするが,2回目の検査で陰性化し病理組織上クリオグロブリン腎症を疑う所見はなく,関与は除外される。本例のフィブリン円柱を観察すると赤血球が封入されており,同様の円柱を他にも認めFigure 6に示す。症例の集積は必要であるが,赤血球円柱かつフィブリン円柱を認めた際,糸球体性出血を起源とするフィブリン円柱形成を疑う理由の一つとなりえるかもしれない。症例1~3より通常の糸球体性血尿でも血栓は形成されるが,生成量が少なく,フィブリン円柱は見かけ上陰性となりやすいのではないかと考える。当院での実例ではあるが,腎生検にて糸球体21個中2個に細胞性半月体を認めた症例で標本7枚作製し鏡検したところ,幅広円柱を1/WFで2標本のみに認める見かけ上陰性となる実例を経験している。そう考えると症例1で血腫以外の糸球体性血尿では1度もフィブリン円柱を認めていない点も合致する。この他に糸球体性血尿由来と考えられるフィブリン円柱(+)の例を3例認めており,これらの結果もふまえ糸球体性血尿に伴うフィブリン円柱の出現は,作られる血栓の量や円柱形成亢進に依存するものと考えられる。

Figure 6  赤血球円柱かつフィブリン円柱

Sternheimer染色,×400,赤矢印の先に小型で淡い赤血球を認める。

症例4では腎機能低下は軽度で免疫化学療法前の尿蛋白は正常→軽度(後は軽度)で推移,潜血は全て陰性のため出血の関与は除外できる。既往のSLEについては,多彩な症状の一つに血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy; TMA)がある。TMAは臨床的に,血小板減少,微小血管症性溶血性貧血,臓器障害の3徴候を呈する疾患群である4)。当症例のLDHは正常値で血小板減少も認めないことからTMAの発症はなかったと考えられ,SLE関与も除外できる。そして多数の尿細管上皮細胞や円柱と共にフィブリン円柱を認めたため薬剤の副作用を疑い,投与薬剤及び内服薬を全て調べたところ,クロピドグレル,カルボプラチン,アブラキサンの3薬剤で血栓に関する副作用があることがわかった。このうち既往の下肢閉塞性動脈硬化症に対して処方されているクロピドグレルの副作用は,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura; TTP)であるが,血小板減少を認めず除外される。化学療法剤のアブラキサンの副作用には血栓性静脈炎,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation; DIC)がある。血栓性静脈炎は静脈内血栓のため除外的である。DICでのフィブリン血栓は肺と腎臓で高率に作られることが示唆されている5)が,DIC診断に必要な検査を行っておらず関与は不明である。同じく化学療法剤のカルボプラチンの副作用には血栓症があり,本薬剤の使用による血栓形成素因の増加が関与している可能性が高い。その翌週の化学療法前に有害事象が強く表れたことも時系列上合致する。既往の高脂血症は凝固亢進状態で血栓形成傾向である6)が,化学療法前後での脂質検査未施行にて関与は不明である。

症例5は目視法で1~4/HPFまでの赤血球数を認めたが赤血球円柱は見られず出血の関与は除外的である。フィブリン円柱(+)の日より前に処方された薬剤のうち,ヘパリンとPSLで副作用に血栓症を認める。ヘパリンは著明な血小板減少を伴う血栓症を発症するが,本例は血小板減少を認めず関与は除外される。しかしPSLの関与は不明である。腎機能低下後D-ダイマー(D-dimer; D-D)が2.7~4.0 μg/mLの間で推移し血栓形成傾向を示し,現病歴のCCE由来が疑われる。ただ既往の永続性心房細動を由来とする血栓塞栓症7)もD-Dに影響しうる。CCEでは塞栓後24時間以内に多核白血球の浸潤が起こり24~48時間後にはコレステロール結晶の周囲に好中球,マクロファージ,好酸球,血小板などが集まる。2~7日後には血栓形成を生じる7)ため,この血栓形成素因増加が関与した可能性が高い。CCEはカテーテル操作後や自然発生的に生じ,高頻度で好酸球増多が見られ,急性腎不全ではこの所見からCCEが疑われることがある。尿所見は乏しいが血尿,顆粒円柱,好酸球を含む白血球尿などが見られることもある8)。尿細管間質性腎炎では尿細管間腔組織が破壊されて好酸球等が尿中に出現する9)ことを考慮すれば,尿中好酸球が高値であったことは,CCEに伴う糸球体基底膜等の破綻を来した箇所があり,そこから尿中に漏れ出た可能性がある。急激な腎機能低下前の尿蛋白は軽度,低下後は高度で推移した点も合致する。しかし潜血が強くない点は不明である。また本症例でのフィブリン円柱は一部が糸状の形状を呈していたため,粘液糸を否定する目的でアザン染色を行ったものをFigure 7に示す。薄いながら赤く染色され粘液糸は否定される。さらによく観察すると本円柱内に小型の結晶が封入されておりFigure 8に示す。結晶の大きさは約10 μmと小型ながら色調は淡黄色で平行四辺形の形状をしている。円柱周囲の成分にも結晶を封入している箇所があり,Figure 9に示す。ベースが平行四辺形で4つある角のうち右上隅が段々状に欠けているのが分かる。Figure 4の円柱湾曲部位にも同様の結晶付着(Figure 10に拡大画像を示す)を認め,コレステロール結晶の可能性がある。今後カテーテル治療後等にAKIや好酸球増多と共にフィブリン円柱を認めた際にはCCEを疑うきっかけとなるかもしれない。

Figure 7  フィブリン円柱

アザン染色,×100,一部が糸状を呈するが赤色調でフィブリン由来である。

Figure 8  結晶

アザン染色,×400,矢印の先に淡黄色平行四辺形の結晶を認める。

Figure 9  結晶

アザン染色,×400,矢印の先に角の一部が段々状の結晶を認める。

Figure 10  Figure 4湾曲部拡大

Sternheimer染色,×200

症例6では入院期間中,糸球体性血尿を認めておらず,出血由来は除外的である。入院時のD-Dは19.4 μg/mLと高値で,入院時から8病日までの血小板数は7.8~10.2 × 104/μLと低値で推移(入院前~退院後の期間で最低値)しており,血栓形成傾向にあったことが分かる。利尿減少時のeGFRは23 mL/min/1.73 m2と時系列上最低値で,一時的な腎機能増悪による円柱形成亢進に伴いフィブリン円柱が顕性化したものと考える。由来は高度な心機能低下に伴う血栓形成傾向の可能性が高いと考えるが,定性自体は(−)~(+)ながら尿蛋白は高度で推移し糖尿病性腎症由来の可能性も除外できない。

全6症例におけるフィブリン円柱出現の背景には必ず何かしらの血栓形成傾向が存在し,その原因分類をTable 2に示す。原因分類としては糸球体性出血,疾患,医薬品の副作用,の3パターンに分けられる。これら3パターンにおける血栓素因の蛋白増加が背景にあり,出血以外での尿蛋白は軽度~高度のため,糸球体から漏れ出た血栓素因蛋白がフィブリン円柱形成に関与したものと考えられた。田中らの検討1)でもフィブリン円柱陽性群での尿蛋白定量において,3例は200 mg/dL以下と蛋白量が軽度でもフィブリン円柱形成の結果が得られている。高度蛋白尿を伴う糖尿病性腎症でフィブリン円柱を認めることが多いのは,ネフローゼ状態での血栓形成傾向10)と,糖尿病における血栓形成傾向11),慢性腎臓病での血栓形成傾向12),これら3つの血栓形成傾向が重複し,かつ腎機能低下による円柱形成亢進も重なり出現頻度が高くなっているからで,血栓形成素因の増加とそれら一定量の尿中への漏出があればフィブリン円柱は出現しうると考えられる。

Table 2 血栓の由来別一覧表

糸球体性出血 疾患 医薬品の副作用
症例1
症例2
症例3
症例4
症例5
症例6

〇:可能性が高い △:可能性は低い ―:除外的

また症例6に円柱の一部にのみフィブリン塊を認めたものがありFigure 11に示す。現行の指針提案には掲載されてないが日常遭遇するものでもあり,フィブリン円柱に含めるかどうか今後の課題である。さらに粗なフィブリン線維が円柱状を呈したものも認めFigure 12に示す。症例4でも認めているが,粗な円柱状フィブリン線維をフィブリン円柱に含めるかどうかも今後の課題である。

Figure 11  上皮円柱

Sternheimer染色,×400,一部にのみフィブリンを認める。

Figure 12  粗なフィブリン線維

無染色,×200,円柱状の粗なフィブリン線維を認める。

IV  結語

本症例において認めたフィブリン円柱の数は,症例4の30~39/WF,症例1,6の1~4/WF,他1/WFと少ないことが多く,硝子円柱と誤認されている可能性がある。フィブリン円柱は高度蛋白尿を伴う糖尿病性腎症などで認めることが多い13)と記載されていることから,それ以外では注意を向けられていない可能性もある。本症例で挙げたフィブリン円柱に関する3つの原因分類は,少なくともこれまで本邦での報告はないが,応用範囲は多岐にわたることが推測される。糸球体性血尿は日常的に遭遇し,厚生労働省の傷病別年次推移14)によると動脈の塞栓症及び血栓症だけでも令和2年における総患者数は1,000人あたり12人と多い。また血栓症を引き起こす疾患や状態が多様な点は本文や引用文献で述べた通りである。さらには独立行政法人医薬品医療機器総合機構のサイト15)によると,医療用医薬品の添付文書にて副作用・血栓で項目内検索を行うと,928件もの医薬品が該当する。フィブリン円柱検出から背景に潜む医薬品の副作用発生の推測に応用できる可能性もある。今後様々な血栓形成傾向を背景とする症例報告によるフィブリン円柱のさらなる意義明確化が望まれる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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