2025 Volume 74 Issue 2 Pages 422-427
血小板製剤中には少量の赤血球も含まれているが,不規則抗体陽性患者に対して抗原陰性血を選択するといった考慮を現在は行われていない。今回我々は,二次免疫応答により抗Eが検出されたと考えられる症例を経験した。70代男性,20XX − 2年3月よりMDSに対してAZA治療開始。定期的に赤血球輸血が行われ,同年9月に抗Eを検出。4ヶ月後に抗Eは消失したが,抗Eが同定されて以降はDCCeeで赤血球輸血を継続中。20XX年1月に不規則抗体検査が陽性になり,同定検査を行ったところ抗Eが同定された。直近の赤血球製剤の抗原は全てDCCeeであった。血小板製剤のドナー抗原を確認すると,DCcEeであり,血小板製剤中に含まれるE抗原陽性赤血球によって二次免疫応答が起こり,抗Eが産生されたことが疑われた。不規則抗体検査はフィシン法のみ陽性。患者赤血球の解離試験の結果は陰性。DTT処理の結果より,IgG型の抗Eであることが判明した。mimicking抗体の鑑別検査を行い,mimicking抗体は否定できた。抗E検出後,E抗原陽性の血小板製剤が輸血されているが,溶血所見は認められなかった。血小板製剤によって抗体を再活性化させるには,複数回の抗原感作が必要になる可能性が示唆された。今回の症例より,血小板輸血が二次免疫応答を惹起し,不規則抗体産生を誘導する可能性も考慮して検査を実施していくように努めていきたい。
Platelet products also contain small amounts of red blood cells, but considerations such as the selection of antigen-negative blood for irregular antibody-positive patients are not currently made. In the present case, we experienced a case detected anti-E by secondary immune response. A man in his 70s was started on AZA therapy for MDS in March 20XX − 2. In January 20XX, an irregular antibody test was positive and the identification test was identified anti-E. All of Recent erythrocyte products contained DCCee, but the donor antigen of the platelet product was DCcEe. Irregular antibody tests were only positive for the ficin method. DTT treatment revealed anti-E of IgG type. Differential tests for mimicking antibodies were performed and mimicking antibodies were excluded. After the detection of anti-E, E-antigen-positive platelet products were transfused, but no haemolytic findings were observed. The results suggest that multiple rounds of immunosensitisation may be required to reactivate antibodies by platelet products. On the basis of this case, we will seek to investigate the possibility that platelet transfusion induces a secondary immune response and the production of irregular antibodies.
日本赤十字社が血小板製剤を製造する際の製品標準規格として,①生物学的製剤基準:過度の赤血球を認めないこと。②製品企画:赤血球数は100,000個/μL以下と示されている。1994年頃までは全血採血由来血液から血小板製剤を製造していたが,調整手技により,しばしば過度の赤血球の混入を認めるケースもあった。血小板製剤が成分採血由来へと移行したことにより,従来に比べて混入赤血球数は10 μL(0.01 mL)以下に減少している1),2)。減少はしているものの,前述のように血小板製剤には,極少量の赤血球が含まれている。しかし,血小板輸血を行う際に,不規則抗体陽性患者に対して抗原陰性血を選択するといった考慮を現在は行われていない。これまでにも,血小板輸血によってRh,Duffy,Kiddなどの赤血球抗原に対する抗体を産生したという報告はされている3)~6)。しかし,これら国内での報告は,初期抗体によるものか二次免疫応答によって検出されたものかは不明であった。また,日本人ではE抗原の陽性頻度,陰性頻度に差がないE抗原の型不適合の機会が高く,抗Eが比較的多く検出される(E抗原陰性:約50%)。E抗原などのRh抗原は,赤血球に限局した糖蛋白であり,血小板上には存在していない3)。今回我々は,二次免疫応答によって抗Eが検出されたと考えられる症例を経験したので報告する。
症例:70代男性,輸血歴あり。20XX − 3年9月に前医で胸腔鏡下右上葉切除,下葉部分を切除。術後経過観察中に貧血進行,血小板減少を認めた。また,元々脾腫があり,経過で緩徐に増大傾向を認めた。汎血球減少の精査加療目的で当院紹介受診となり,精査の結果,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes; MDS)と診断された。20XX − 2年3月よりMDSに対してAZA治療(アザシチジン:皮下注射)を開始した。定期的に赤血球輸血が行われ(6ヶ月で48単位),同年9月に不規則抗体検査が陽性となり,同定検査の結果,抗Eが同定された。4ヶ月後に抗Eは消失したが,抗Eが産生されて以降は,R1R1(DCCee)で赤血球輸血を継続していた(その後16ヶ月で204単位)。20XX年1月に再度不規則抗体検査が陽性になり,同定検査を行ったところ抗Eが再同定された。直近の赤血球製剤の抗原は全てR1R1(DCCee)であり,直近に輸血していた血小板製剤のドナー抗原を日本赤十字社の抗原情報検索システムにて確認したところ,R1R2(DCcEe)であることが判明した。
IgGカセットとニュートラルカセットを用い,Ortho Vision® Max(QuidelOrtho社,以下オーソ社とする)を使用し,LISS-IAT(low ionic strength solution-indirect antiglobulin test)とフィシン法で判定した。赤血球試薬はバイオビュースクリーンJ(オーソ社)を用いた。
2. フィッシャーの正確確率検定による統計学的評価不規則抗体スクリーニングと不規則抗体同定検査の結果をもとに表を完成させ,表中の各項目をフィッシャーの正確確率検定の計算式に代入して,同定した特異性となる確率を算出した7)。フィッシャーの正確確率検定は,偽陽性,偽陰性がない場合でも,少なくとも対応抗原陽性赤血球3種が陽性かつ対応抗原陰性赤血球3種が陰性を呈する結果を必要とする。フィッシャーの正確確率検定では,本来不規則同定検査結果に対して採用されるのが一般的であるが,不規則同定検査の結果だけでは上記条件を満たさないため,今回は不規則抗体スクリーニングの結果も採用した。A = E抗原陽性赤血球に認められた陽性反応の数,B = E抗原陰性赤血球に認められた陽性反応の数,C = E抗原陽性赤血球に認められた陰性反応の数,D = E抗原陰性赤血球に認められた陰性反応の数,N=試薬赤血球の総数とし,確率(p)= {(A + B)! × (C + D)! × (A + C)! × (B + D)!} ÷ (N! × A! × B! × C! × D!)で算出した。
3. 直接抗グロブリン試験グリーンクームス血清バイオクローン®,抗ヒトIgG血清(ウサギ),バイオクローン®抗C3b,C3d(全てオーソ社)を用いて,試験管法で実施した。
4. 酸解離試験で得られた解離液を用いてLISS-IAT患者赤血球とDiaCideal(バイオラッド社)を用いて酸解離試験を行い,解離液を作製した。その解離液を用いて,カラム凝集法にてLISS-IATとフィシン法を実施した。
5. DTT処理した血漿を用いた不規則抗体検査患者血漿9容に対し,0.05MDTT(dithiothreitol)を1容加え30分処理を行った。陰性対照にはDTTの代わりにphosphate-buffered saline(PBS)を加えた。DTT処理した血漿とPBSで希釈した血漿をそれぞれ用いてカラム凝集法にてフィシン法を行った。
6. 抗E抗体価測定用手法にて抗体価測定(スコア値の測定)を行った。抗体価測定は基本的に反応増強剤無添加のIATにて実施する検査であるが,今回は反応を増強させるためにpolyethylene glycol-indirect antiglobulin test(PEG-IAT)を採用した。赤血球試薬はEE未処理赤血球を用いて,検査は試験管法にてPEG-IATを実施した。
7. 抗E特異性の確認試験(mimicking抗体の否定)患者血漿と患者血清,フィシン処理したA型R1R1(DCCee)赤血球,A型R2R2(DccEE)赤血球,O型R1R1(DCCee)赤血球,O型R2R2(DccEE)赤血球を用いて吸着操作を行った8)(Figure 1)。吸着後の上清を用いて,フィシン処理したE抗原陽性および陰性の赤血球との反応性を確認した。
赤血球沈層は1 mL使用した。
LISS-IATは陰性,フィシン法で陽性(w+~1+)となった。精査の結果,抗Eが同定された(Table 1)。S1のフィシン法w+は再検査でも同様の結果となった。この原因としては,何らかの非特異反応,低頻度抗原に対する抗体,力価の弱い抗E以外の不規則抗体の存在などが考えられる。抗体同定後,反応強度に変化はなく57日後まで,LISS-IATは陰性,フィシン法のみ陽性であった。
Cell | Rh-Hr Phenotype | Ficin | LISS-IAT | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
D | C | c | E | e | |||
S1※1 | + | + | 0 | 0 | + | w+ | 0 |
S2※1 | + | 0 | + | + | 0 | 1+ | 0 |
S3※1 | 0 | 0 | + | 0 | + | 0 | 0 |
S1※2 | + | + | 0 | 0 | + | 0 | 0 |
S2※2 | + | 0 | + | + | 0 | w+ | 0 |
S3※2 | 0 | 0 | + | 0 | + | 0 | 0 |
P1 | + | + | 0 | 0 | + | 0 | 0 |
P2 | + | + | 0 | 0 | + | 0 | 0 |
P3 | + | 0 | + | + | 0 | 1+ | 0 |
P4 | + | 0 | + | 0 | + | 0 | 0 |
P5 | 0 | + | + | 0 | + | 0 | 0 |
P6 | 0 | 0 | + | + | + | w+ | 0 |
P7 | 0 | 0 | + | 0 | + | 0 | 0 |
P8 | 0 | 0 | + | 0 | + | 0 | 0 |
P9 | 0 | 0 | + | 0 | + | 0 | 0 |
P10 | 0 | 0 | + | 0 | + | 0 | 0 |
P11 | + | + | 0 | 0 | + | 0 | 0 |
Auto | + | + | 0 | 0 | + | NT | 0 |
Sはスクリーニング赤血球,Pはパネル赤血球との反応を表している。※1と※2のLot番号は異なる。
不規則抗体検査の結果より,A = 4,B = 1,C = 0,D = 12,N = 17となった。これらの数値をフィッシャー確率計算式に当てはめると,p = {(4 + 1)! × (0 + 12)! × (4 + 0)! × (1 + 12)!} ÷ (17! × 4! × 1! × 0! × 12!) ≒ 0.0021となった(Table 2)。p ≒ 0.0021 < 0.05であり,本症例では抗Eを保有する可能性が極めて高いことを証明できた。
反応結果 | 試薬赤血球 | ||
---|---|---|---|
E抗原陽性 | E抗原陰性 | Total | |
陽性 | 4(A) | 1(B) | 5(A + B) |
陰性 | 0(C) | 12(D) | 12(C + D) |
Total | 4(A + C) | 13(B + D) | 17(N) |
バイオビュースクリーンJ・2種類(6本),リゾルブパネルC(11本)(全てオーソ社)を用いて算出した。
グリーンクームス血清バイオクローン®,抗ヒトIgG血清(ウサギ),バイオクローン®抗C3b,C3dとの反応は全て陰性であった。
4. 酸解離試験で得られた解離液を用いてLISS-IAT解離液を用いたLISS-IATの結果は陰性であった。
5. DTT処理した血漿を用いた不規則抗体検査DTT処理した血漿とPBSで希釈した血漿をそれぞれ用いて行ったフィシン法は,それぞれ弱陽性(w+)を示し凝集差を認めなかった。DTT処理した血漿を用いた不規則抗体検査の結果より,本症例の抗EはIgG型であることが判明した。
6. 抗E抗体価測定PEG-IATの結果より,抗E抗体価は全て1倍未満,スコア値は0~2を示した(Figure 2)。
抗Eが再度陽性になった日をXとしている。Xの横の数値は不規則抗体検査を行った日を示している。
吸着後の上清でフィシン法を行った結果,A型とO型のR1R1赤血球と吸着操作を行った上清との反応は陽性で,A型とO型のR2R2赤血球と吸着操作を行った上清との反応は陰性となった(Table 3)。
No. | Rh表現型 | 吸着前 | A型R1R1 赤血球吸着上清 |
O型R1R1 赤血球吸着上清 |
A型R2R2 赤血球吸着上清 |
O型R2R2 赤血球吸着上清 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | DCCee | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
2 | DccEE | 1+ | w+ | w+ | 0 | 0 |
3 | dccee | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
不規則抗体スクリーニングで使用した赤血球試薬とLotは異なる。
血液データとして,Hb,LD/AST比,T-Bil,I-Bil,リンパ球数の推移をFigure 2に示す。抗体検出直後,2度目のE抗原陽性血小板製剤輸血後にも,特に目立った溶血所見も認められなかった。また,本症例の抗Eは,フィシン法のみ陽性のIgG抗体で,スコア値(抗体価)が上昇することもなかった。酵素法はRh抗原に対する抗体を感度よく検出できる利点があり,IATが陽性化する前にこれらの初期抗体(IgM型)や低力価の抗体(IgG型)をしばしば検出すると言われている9)。本症例の抗Eは,抗体価1倍未満(スコア値0~2)の低力価のIgG抗体であったため,LISS-IATでは捉えることができず,フィシン法のみ陽性になったと考えられる。また,スコア値(抗体価)も抗体検出直後,2度目のE抗原陽性血小板製剤輸血後にも,0~2と大きく変化することはなかった。一次免疫応答では,IgM抗体が産生されてから,IgG抗体が遅れて産生され,この情報はメモリーB細胞に記憶される。そのため,二次免疫応答による再活性化は,一次免疫応答に比べて,IgG抗体がIgM抗体よりも急速かつ大量に産生される。本症例はIgG抗体のみを捉えることができたが,その力価はかなり低かった。この原因として考えられるのが,MDSによる汎血球減少とAZA治療における骨髄抑制が挙げられる。一般的にリンパ球数が成人で1,500/μL以下の場合を絶対的リンパ球減少症という10)。本症例のリンパ球数の推移を確認してみると,70~425/μLで推移しており,絶対的リンパ球減少症の診断に当てはまる。MDSによる汎血球減少とAZA治療における骨髄抑制により絶対的リンパ球減少症になり,免疫機能が正常に働いておらず,IgG抗体産生が低く抗体価も低かったと考えられる。岩原ら5)は,抗Fybが血小板輸血によって産生された以降も,Fy(b+)ドナーの血小板製剤を輸血しているが,抗体価が上昇することはなかったと述べている。AZA治療は,15サイクル目がX − 43~X − 37,16サイクル目がX + 24~X + 30に実施されている(Figure 2)。2度目のE抗原陽性の血小板輸血がX + 30に実施されている。これはAZA治療のサイクル中であり,骨髄抑制も強かったと考えられる。そのため,2度目のE抗原の感作が起きても抗体価の上昇は起きなかったと考えられる。本症例は赤血球輸血や血小板輸血に依存している状態であった。汎血球減少と骨髄不全が,患者の免疫状態に影響を与え,抗E抗体価が上昇しなかったと考えているが,明確な因果関係は不明である。
mimicking抗体は,Rh抗体だけでなく,ABO,Kell,Duffy,Kidd,MNなど様々な報告がある11)。mimicking抗体は,血清学的な反応のみで臨床的意義は低いとされており,吸着試験によりmimicking抗体の証明をすることができる8)。mimicking抗体の鑑別検査より,本症例の抗体は,mimicking抗体ではなく,抗Eであることを証明した。
患者赤血球を用いた直接抗グロブリン試験,解離検査の結果がともに陰性であったのは,血小板にはごくわずかな赤血球しか含まれておらず,輸血されたR1R2(DCcEe)の赤血球は全て破壊された,又は,残存していても検出感度以下であったためと考えられる。抗体の種類や経過した期間は違うが,石丸ら12)は初回赤血球輸血の22日後までの短期間で,輸血した赤血球製剤(約1,000 mL)は,抗Jka抗体によって全て破壊されたという見解を示している。本症例は,血小板輸血後7日目であるが,含まれている赤血球の量が最大50 μL程度であった予測され(Table 4),赤血球が全て破壊されるまでの時間も短かったと考えられる。
輸血日 | X − 111 | X − 69 | X − 34 | X − 24 | X − 20 | X − 18 | X − 17 | X − 14 | X − 7 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
血液型 | A型 | A型 | A型 | A型 | A型 | A型 | A型 | A型 | A型 |
E抗原 | 陰性 | 陰性 | 陽性 | 陽性 | 陰性 | 陽性 | 陰性 | 陽性 | 陽性 |
赤血球の影響が考えられる120日以内の血小板輸血歴を示している。輸血された製剤は全て10単位製剤である。
赤血球抗原のうち免疫原性が最も強いのはD抗原とされている。そのD抗原においても一次免疫に必要な赤血球量は30~50 μL必要5)であるため,血小板製剤中に含まれる赤血球量(10 μL以下)で免疫される可能性は極めて低い。Table 4より,抗Eが再検出された4ヶ月以内の血小板輸血は,90単位であり,そのうちE抗原陽性の血小板製剤は50単位であった。骨髄抑制中であることも考慮する必要があるが,血小板製剤によって抗体を再活性化させるには,複数回の抗原感作が必要になる可能性が示唆された。
今回,我々は血小板輸血によって一度陰性化していた抗Eが再度陽転化したと考えられる症例を経験した。今後は血小板輸血により,陰性化していた不規則抗体が再活性化される可能性も考慮していく必要がある。安全な輸血を行うには,直近の輸血歴が血小板製剤のみであっても,定期的な不規則抗体スクリーニングを行っていけるように輸血部から臨床側にアナウンスを行い,早期に不規則抗体を検出していくことが望ましいと考える。
本論文の要旨は第69回日本輸血・細胞治療学会中国四国支部例会(2024年9月14日)において発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。