アンデス・アマゾン研究
Online ISSN : 2434-0634
アンデス牧民共同体における制度と慣習
共同体の土地区分に着目して
鳥塚 あゆち
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2020 年 4 巻 p. 1-21

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抄録

 ペルー共和国の行政・領域単位のひとつであるコムニダ・カンペシーナ(Comunidad Campesina)は、1960 年代後半に実施された農地改革により制定された。これにより、共同体には自治が認められ、不可侵の領域を所有し、成員は用益権をもつことが規定された。この制度を変えたのは、フジモリ大統領の政権下で1995 年に公布された「土地法」である。その目的は、新自由主義経済政策の一環として、コムニダ・カンペシーナの土地を自由市場に開放することにあった。しかしながら、実際には私有地化は進まず、政府が目指した理想と実態とのあいだには溝があるのが現実である。
 私有地化が進まない要因のひとつは、コムニダ・カンペシーナにおける土地運営のあり方が一様ではないことにあると考えられる。しかし、土地の保有権や用益権、使用方法については詳細な報告が少ない。とくに牧草地利用については部分的な記述が多く、制度との関わりについても不明な点が多い。そこで本稿では、牧畜を専業とする牧民共同体において実施された牧草地の区分・再区分の問題を取り上げ、牧草地利用の実態を例示し、コムニダ・カンペシーナにおける土地制度と慣習とのあいだのダイナミズムについて議論した。
 土地区分後に表面化していた問題は、区画面積や区分方法の不平等性、区画間の境界をめぐるものであった。本稿では、これらの問題が解決しない要因について考察し、背景にある成員間の根本的な人間関係や意見の異なる相手への見方、生業や生活形態に対する世代間の考えの相違、区分記録の正当性における二重規範が関係していると指摘した。また、問題の表面化によって、人びとが場所性や慣習・経験を重視していることも明らかとなった。当該共同体では、問題が付議された総会は成員が参与する交渉の場となっており、そこでの決定や合意を共有することが共同体を維持するための共同性としてはたらいていると考えられる。

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© 2020 アンデス・アマゾン学会, 鳥塚あゆち

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