アンデス・アマゾン研究
Online ISSN : 2434-0634
論文
ブラジル日本移民をめぐる「先住民と日本人の近縁性」言説に関する一考察
第二次世界大戦後のブラジル邦字新聞記事を中心に
長尾 直洋
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 6 巻 p. 1-20

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抄録

 本研究では、第二次世界大戦後のブラジル日本移民によるブラジルへの適応の一形態としての「先住民と日本人の近縁性」言説に注目し、日系コロニアにおけるその発信と受容、意味づけと機能について論じた。日本移民知識人の香山六郎は、勝ち負け抗争の余波が残っていた1951年、『ツピ単語集』の出版及び邦字新聞での関連報道を通して「日本語・トゥピ語同祖論」を唱える事で、ブラジル人種民主主義における白人、黒人、先住民の混交による国民モデルへの日本移民の接近を試みた。本研究では、日系コロニアにおける同言説の社会的影響力を再検討するため、香山論を含めた同言説の存在について、当時のブラジル日本移民の主要言説空間と考えられる邦字新聞、特に負け組側の新聞を主な資料として検討した。具体的には、1947年から1953年にかけての各邦字新聞の記事から同言説を含む先住民描写を抽出し、中庸、肯定的、否定的、肯定的否定的、先住民との近縁性と属性別に分類した後、各属性の先住民描写への分析を行った。分析を通して、当時の日系コロニアにおいて、中庸を含めて先住民への関心が一定程度見られたこと、全体的には否定的属性が肯定的属性を上回るが、香山論と直接関係しないものを含めて日本人との近縁性が複数示唆されていたこと、香山論と同様、そして1950年代前半に日系コロニアで大きな関心事となっていた日本からブラジルへの戦後移住との関連で同言説が機能していたことが明らかとなった。

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© 2022 アンデス・アマゾン学会、長尾直洋

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